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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第一章 入学! 士道誠心学院高等部!

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第七話

 



 授業終わりに教室に戻って、またしてもみんなが教室から出ようとするので呼び止めた。


「次は私がトイレで着替えます! 交代制がいいな! 不公平なのはよくないと思うの!」


 胸を張っていったらみんなして顔を見合わせて、それから頷いてくれた。

 よしよし。千里の道も一歩から。

 青澄春灯(あおすみはるひ)、踏み出すは未来ばかりなり!

 なんて意気込んだのはいいけど、トイレの中で早速問題発生。

 脱ぎ方はわかる。だから脱いだし、制服も着たよ。

 でも……どう畳むんだ、これ。

 着る前にもっとよく見ておけばよかった。あああ……もう!

 とりあえず丸めて持っていくしかないか。

 おうちに帰ってから調べよう。どうせ一回洗濯するだろうし。

 そんな軽い気持ちで教室に戻ったのがいけなかったみたい。


「なんだ青澄。そのたたみ方……君は小学生か?」


 扉が開いた教室に入るなり、シロくんが私の胴着を見てあきれ顔で言ったの。


「……その、たたみ方がわからなくて」

「まったく。貸してみろ」


 そう言うなりシロくんが手を差し伸べた。

 何人かの男の子がシロくんを見る中、私は「畳んでくれるのかな? やば、超ラッキー」くらいの軽い気持ちで渡す。


「見ていろ、いいか……」


 そう言って説明しながら私の胴着を丁寧に畳むシロくんを、男の子達がざわつきながら見守っている。

 ……ん? なにかな?


「な、なあ。青澄さん、だっけ」


 きょとんとしていたら、クラスメイトの八重歯が目立つ男の子が声を掛けてきた。


「うん。なあに?」

「いやあの……いいのか? 自分が脱いだ服、男に触られて」

「何か問題あるの? ……あ、私如きの服を触ったら手が汚れる的な? ま、まあ、どうせ小中ぼっちでしたからね」


 闇落ちしそうな私に「ちがくて!」と首を振る八重歯くん。


「えっと……自己紹介もなしにいきなし授業だったから名前わかんねえ。お前も! 清々しい顔して畳んだ胴着眺めてるんじゃねえよ!」


 顔が赤い。なんでだろ? と思って周囲を見渡したら、他の男の子たちももじもじしながら私とシロくん……の手元にある胴着を見ていた。

 ……うん?

 ……あっ。


「ご、ごめん。思春期の男子のいわゆるそういうあれ? ならごめん、そういう気まるでなかったから思いつかなかったよ!」


 笑顔で言ったら何人かの男の子達が膝を折った。

 あ、あれ?


「か、勘違いされていたら困るから一応言うと。弟がいて、面倒見てくれるんだよね。弟なのに。だからあんまり気にならなかったっていうか……あれ? もしかして」


 どんどん男の子達の顔が暗くなっていく。やばい。


「言えば言うほど、ひどくなっている……ような?」

「気のせいじゃないから。俺ら弟みたいなもんかよ。っていうか、そういう気まるでないって」


 ちょっと涙目で言われると、さすがに失言のまずさに気づいた。

 ああでも、ここからどうリカバリすればいいのか見当もつきません。


「え、ええと、だから、つまり……」


 一人満足げなシロくんを見て、それから周囲の男の子達の求めるような視線に怯み。


「わ……私なんかが、恐れ多いといいますか」


 告白された経験はない。

 むしろ男子に「青澄だけはないわ」と笑われるし、女子からも「春灯はどっちかっていうと、弄ってみんなが笑うポジだよね」と言われるレベルです。

 容姿の美醜の問題に足すところの、あかんやつですよね、それ。

 まあマントつけて付け歯つけて登校していた私に主張する権利はないですけれども。

 うっ。過去の傷口が痛む。闇が吹き出してきそうです。


「なあ」「……ああ」「先生が斬るまでもないな」「俺でもわかったぞ、何を考えているか」


 男の子達がうなずき合って、それから口を開こうとした時だった。


「青澄、キミは特別な女子だ。僕にとってさえそうなんだから、クラスのみんなもすぐに気づく。あまり自分を過小評価するな」


 シロくんがさらりとそんなことを言ったのだ。


「あ、てめ! いいとこ持っていく気かよ! っていうか、声を大にして言いたいね!」


 八重歯くんがすかさず割って入って、私の顔をぐっと覗き込んできた。


八葉(やつば)カゲロウ、青澄さんは可愛いと思う男子一号だ!」

「ど、どうも」


 そんなことをストレートに言われるの、困る。

 リアクションの答えがわからないし、みんな見ているから余計恥ずかしいし。


「いいか、青澄さん!」

「はっ、はひ!?」


 がっと両手を取られて、優しく包まれたかと思いきや、


「女子はね、みんな可愛いんだよ!」

「えっ」

「一人一人違う可愛さがあって、けどそれは全部特別なんだよ! 俺はね! 声を大にして言いたい!」


 すぐに手を離されて、


「なぜ!!!! 男女比が9:1なのかと!!!!」


 まるで血の涙を流しそうな勢いでの魂の叫びでした。


「……つまり。色んな可愛さを楽しみめでたいから女子増員求む、と」

「そうさ!!!!」

「なんだ。私だけに気持ち向けてくれたのかと思って損した」

「あ、やべ」


 この世の終わりみたいな顔をして言われても今更だ。

 よしよし、覚えておこう。

 八葉(やつば)カゲロウくんだから……カゲくんかな。

 八重歯が特徴的の彼は、女好き、と。

 あとつけ加えるのなら……そうだな。

 残念野郎、としておこう。言ってくれたこと自体は嬉しいからありがたくいただきます。私の元気出す時用語録にしっかり保存しておきます。


「まあでもそうだよね。私は女子一人で寂しいし、みんなも女の子たくさんいた方が嬉しいよね」


 そう言うと、男の子達が視線を右往左往させている。「俺は別に」「勉学に勤しみ、刀を手に入れるまでは!」「……好きなやつと同じクラスになれなきゃな」

 一人一人掘り下げたい気持ち満々だけど、なんだか笑えてきちゃった。


「ふふ」

「どうした、上機嫌そうだな」


 シロくんに笑顔で頷いた。


「うんっ。みんなも私と同じで、今にドキドキしたりしょんぼりしているんだなーって思ったら……親近感わいてきた」

「それは何よりだ。それよりもたたみ方をしっかり覚えるために、一度自分でやってみせろ」

「えー。わざわざ広げなくても」

「だめだ。こういうのは思いついたときにしっかりやるべきなんだ」

「シロくん真面目かよ」


 なんて言い合いながら、シロくんが広げた胴着を折りたたむ。

 今度はシロくんだけじゃなく、他の男の子達も声援を送ってくれた。

 そのおかげもあって……というか、プレッシャーもあって無事覚えることに成功しました。

 ちゃんと畳めた喜びのあまり、シロくんやカゲくんたちとハイタッチ。

 その時だった。


「……あれ?」


 視線を感じた気がして扉を見ると、廊下に立っていた女の子が私を見つめていたの。

 高等部の制服じゃない……幼い顔してたし、私くらい小柄な体格だし、中等部の子かも。

 声を掛けようとしたらすぐに踵を返して行ってしまう。

 ……ううん。波乱の予感。

 これはあれか? ベタにクラスの男の子に惚れてる女の子が登場してからの、嫉妬イベント突入ですか?

 だったら手を考えておかなきゃ。

 例えば……中学時代の写真見せて「こんな私とまともに恋愛しないでしょ。だから嫉妬は不要ですよ」って伝えて安心させるとか?

 簡単に済むかもしれないけど、それで手に入るのは友情とは真逆のものかもしれない。

 なにせ、今の私は別にマントも付け歯もつけてないのだから。

 ないない。

 ははは。そんな、ねえ?




 つづく。

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