第五百九十七話
やっべ、いろいろありすぎて心が麻痺しているけど、立沢理華ってば初めての寮部屋生活スタートじゃね? 本当だったら、うきうきしながら部屋を確認して、入学式で仲良くなった子たちと一緒に回ってみたりとかして超絶はしゃぐ場面じゃね?
そんな元気ねえし! ばかじゃないの!
「ま、いいけど」
異次元の地球から、おそらく同じ次元の異世界へ召喚された元勇者現死神、あくまでメイドなコハナちゃんと仲良くなれた。クルルちゃんから呪文も教えてもらったし、わからなかった聞いていいよってユニス先輩が言ってくれた。クルルちゃんとユニス先輩は互いの魔法を確かめ合っていたっけ。ふたりとも手を重ねただけで、にこっと笑って「よろしく」って言うだけだった。
やばい。魔法使い同士の交流、意味わかんない!
緋迎先輩が恐る恐る話しかけたら、ふたりはもう話は済んだとばかりにお別れしていたよ。そんで、ユニス先輩が私に気を遣ってくれたってわけだ。
手を重ねただけで情報伝達完了? それってめちゃめちゃ便利じゃない? 揉めている人同士が握手したらお互いの立場を一瞬にして理解しあえるんなら、もっとはやく人と仲良くなれそう。まあそれくらいでケンカや戦争がなくなるわけじゃないと思うけど。むしろ浮気とかが増えそうだけど。君の旦那さんはひどいね、あなたの奥さんもね? よし、じゃあ火遊びしちまうか、みたいな。
そんな簡単じゃねえか。ねえな。どうでもいいな。
「さてと……」
一年生は総出で宇治先生と寮母さんのありがたぁいお話……といいつつ、公序良俗に反する行為に積極的にならないようお説教を受けた。特に春灯ちゃんたちの代はそのへん暴れまくりみたいで、宇治先生は名指しで春灯ちゃんを例にして言ったよ。
「いいですか? 恋人ができたり、年齢相応に興味が湧く時期でもあるでしょうけれど。かといって奔放になれというわけではありません。青澄春灯さんのように恋に恋するなとは申しませんが、彼女のように奔放になれと言う気もございません!」
「翻訳すると、節度をもったパートナーとの交流を推奨します、ですね」
「樹林さん!? 寮母のあなたがそんなことを言うようでは――……」
「あー話がながくなるなら引き取ります。というわけでぇええ! 不埒な真似は許しませんし、暴行、妙な圧迫その他もろもろも、また日常の些細な悩みもスタッフに気軽に相談してください。確実に対処しますので……宇治先生、ほかにありますか?」
「あなたはいつもそうやって私の話を……こほん。いいですか! 私の目の黒い内は、望まぬ妊娠や性病の蔓延だなんてことは絶対に許しませんからね!」
「それ遠回しに性交渉を認めているのでは?」
「なにか言いまして!?」
「いいえ、別に。じゃあひとりずつ、鍵を取りに来てください。それぞれの部屋に部屋の規則などをまとめたファイルを置いておきましたので、ようく確認してくださいね!」
寮母の樹林さんがいてくれなかったら、もっとげんなりする話をされそうだった。まじで助かる。江戸時代から戻ってきて、急な戦闘とかタカユキさんたちの来訪とか、もう目まぐるしすぎて正直、タフなほうだと自負している理華も限界ってやつです。
「開けますよ……どや?」
五階の通路を歩いて鍵を回して扉を開ける。
期待と不安と共に、そばにある電源をつけてみた。ぱっと明かりが照らされる。
「わお!」
両親が手配してくれた家具一式が理想通りに設置されていた。私立でお高い学費に見合った規定の家具もあるんだけどね。春灯ちゃんはわりと自由に選んでたから、私もそれに習っちゃった。って言っても、いちいちブランドだなんだっていう高い品物だらけじゃないけど。
大学部に進学するなら、大学部の寮に持っていけるし。ひとり暮らしをするんでも、家具は流用できる。逆に言えば、そういうのがまかり通っちゃうくらいの世帯収入を持ったご家庭が士道誠心には多いということでもある。沢城先輩みたいな苦学生も中にはもちろんいるんだけどね。奨学金とか、いろんな制度があるし。
案外、どうとでもなるもんだ。かといって、楽かどうかっていうとさすがに違いは出ちゃうけど。善悪だなんだという概念はさておいて、自分で学費を稼ぐっていう考え自体は別におかしなものでもないというのが個人的な感覚かなあ。まあ、自分で稼いでいる人には言えないですけどね。そこまで空気よめないわけじゃないんで。
ただねー。逆に言うと、自分で学費だしている勢に学校へ本気で通っている感覚が強い人が多いのは当然かなあとも思う。親が出してくれる人よりもさ、一日一日の重さが違うんだよね。専門学校でも大学でも、各種教育機関や養成所でも一緒。そのへん、お金のありがたみっていうのは重たいねえ。
なんて考えてる場合でもねえな。
「箪笥はどうかな? ――……よしよし」
お母さんが荷ほどきに来てくれたみたい。学校用に用意した衣服、下着、全部はいってる。
ベッドも申し分なし。寝台だけは実家と同じメーカーのもの。布団もマットレスも理想通り。デスクもテレビもプレーヤーもだし、寮はそもそもネット環境だってばっちり! タブレットも実家から持ってきてあるし、言うことねえな。週五でいる居場所なだけに、やっぱいい場所にしておきたいしな。だから両親に大感謝だな。
無線充電器にのせてほどなく、復活するスマホにメッセージ通知あり。鮫塚さんだ。
『入学おめでとう、理華ちゃん。足りないものがあったら言ってくれ』
もー。パトロンか! 黒いクレカでもうお腹いっぱいだっての。私が甘える脛は現状親だけですよ! ただし、おいしいご飯処の紹介だけは別腹な!
「じゃあ入学祝いにおいしいご飯が食べれる場所に連れてってください、と。送信!」
さっと返事を打って、倒れ込むようにベッドへ。期待通りの沈み込む感覚に長いため息を吐いてから、思考が巡りはじめる。
なにかしたい。繋がった絆の確認はもちろん、これまでの情報もすべて分析したいし、理華たちの力に変えたい。スバルとふたりで話しあいたいし、美華にもちっとましになる歌い方を教えてもらいたいし、詩保とコスメ談義とか、姫ちゃんの現状どうなってんのか……そうだ!
「姫ちゃん!」
立ち上がってあわてて部屋を出ようと扉を開けたら、ぎょっとした顔の姫ちゃんがそこに立っていた。
「あ、の……」
驚きすぎておおきな声すら出なかったようだ。私も地味にびびってる。
「ど、どうしました?」
「電話、くるって……その」
「ああ……黒澄ちゃんが言ってましたね」
今夜連絡があるから、それをもって姫ちゃんの家族の無事を確かめろ、みたいなの。
「七原くんは?」
「みんな、もう、私の部屋にいて……それで、その」
「ああ、呼びに来てくれたんですか」
やべえ。頭まわってねー。間抜けな会話してるよ。
「いきます。どこでしたっけ?」
「隣、だけど……気づかなかった?」
「あー……」
やべえ、その二。どれだけ気が回ってないんだか。
姫ちゃんも姫ちゃんでわりと限界きてるなあ。
春灯ちゃんをはじめ、二年生以上の先輩たちはみんな、めっちゃはしゃいでいたのに。大浴場に向かう先輩たちもいたし、みんな元気だった。
このへんは経験値の差かなー。私までダメージ食らっているのは、正直信じられないけど。これから慣れるのかな。慣れるためにはどれほど習熟すればいいのか。
考えている場合じゃねえな。それはあとでいくらでもできることだ。
姫ちゃんの背中に手を当てて促す。右隣の扉を開けて中へと入ると、なるほど。確かに一年九組が勢揃い。
全体的にピンクと白に整えられたあまあまな家具とぬいぐるみたち。コルクボードにアメリカ生活時代の写真がたくさん飾られていた。おおきなソファには女子が並んで座っていて、男子は一様にフローリングの上に胡座を掻いて座っている。
「ベッドが空いてる」
「どうも」
おとなしく示されたベッドに腰掛けて、姫ちゃんは小さな冷蔵庫の中からペットボトルを出す。詩保はテーブルに置いてある紙コップの束から人数分を出した。七原くんが姫ちゃんからペットボトルをそっと取って注ぎ始める間に、足を伸ばすポーズだけでモデル顔負けっていうくらいかっこいいワトソンくんが口を開く。
「僕の組織に確認したけれど、当局に新しい情報は入ってないみたいだ。ただ……気になることが」
こんこんと二回、フローリングに握り拳の中指の第二関節を当てて音を鳴らす。
彼の呼び出しの合図なのか、彼の影から三人の小さな精霊が顔を覗かせる。もはや見慣れた彼の剣の精霊だ。三人そろって手をかざすと、まるでプロジェクターのように天井に映像が投射された。
思わず顔を顰める。なにせ映し出されたのは、肉が溶けて骨が露出した遺体だからだ。検死をまさに受けている状態の死体。ひとつ言えるのは、それが女性のものだということ。乳房の名残がある。トップは既に朽ちて落ちているけれど。
――……凝視してみると、しかし、どこか違和感を覚える。
「苦手な人は無理しないでね。そうでない人の中で、なにか気づくことは?」
「骨が継ぎ接ぎだな」
スバルがさらっと答えた。
それだけじゃない。ルイも遺体を迷わず睨みつけて言うのだ。
「肉の状態もおかしいっすね。部位によって肉の腐る速度に露骨に差が出ている……蛆に食われたようにも見えない。こういう状態は――……」
「無理矢理くっつけた」
「まさしく」
スバルの言葉に頷く。
なんだこいつら。私は自分の経験値が普通だとは思わないけれど、それは忍者であるルイだけじゃなくスバルにも言えることみたいだ。
「それで、その……無気味なのって、なんなわけ?」
「詩保、すみません。これは――……今日、アメリカの仲間が確認した姫の母親の亡骸だったものです」
「え? ま、まって、それって――……」
「落ちついて、詩保。ねえワトソン、だったものっていうことは?」
動揺する詩保を片手で押さえて尋ねる美華に、ワトソンが頷いた。
「ええ。DNA鑑定も最初にしたはずなんですけどね……時間が経過して埋葬した墓から出してみたら、これだ。姫の母親に一致するDNAは、おそらく検知されないだろうとのことです」
教授の魔法によるもの?
『だろうな』
久々に出てきたな。
『理華が主役を奪わなければ、我に出番もない』
なんだそれ。まあいいや。
仕組みわかる?
『死体を操り魔力を留まらせる術だ。検知とやらの際に、そこな時を超える少女の母親の組織を恣意的に取らせることくらいわけはない』
えー。あのさー。そういう乗りこえ方を許容しちゃうわけ?
『それができるのが魔法だ。我にも使えるぞ?』
歯形とかはどうするんですか? 骨格は? これまでの怪我の蓄積の際限は?
『血の一滴もあればすべてをいっときごまかせるほど形を変えられるがゆえに、死者を操る王の書たり得るのだ』
逆に言えば、その書物が失われたいま、再現できる人はいない?
『術も解けた。先日、我らが持ち込んだ書物が焼かれて消失した時点で術は完全に解除され、亡骸も元の姿に戻ったのではないか』
となると、もう同じ手は使えないわけね。だとしてもそれがありかどうかはべつだけど。
逆に言えば、これまで他にも偽装された死者がいるかもしれないわけで。
根が深いな。教授め。聖歌にも手を出していやがったしな。
ひとまずわかった。さて、いまの声がみんなにも聞こえて――……。
「光明が見えたと断定するには早いかと思いますが」
「でも可能性は見えた、か」
……なさそうですね。
あれ? 前は通じたのに。心の重なり具合が足りないのか。
共感度合いみたいなものがあるのかも。指輪の持ち主が増えたのに、まだまだ足りない。
とはいえ、言ってもどうこうなるもんでもねえな。
この場で肝心なテーマは姫ちゃんの両親が生きているのかどうかに過ぎないし、私の得た知識がその可能性を操作するわけじゃない。時を超えて助けるみたいな展開になったらべつだけどね。
「電話を待つしかないか……歯がゆいな」
「いまは、待とう」
ツバキちゃんの言葉に姫ちゃんが頷こうとしたときだった。
スマホが着信を告げる音を鳴らしたのだ。
ぎょっとした顔をする姫ちゃんが、自分のスマホの画面をみんなに向けてくれた。
英語表記だけど、それはたしかに母親の携帯を示す表示だった。
「で、でるよ」
姫ちゃんの青ざめた顔に、みんなで頷く。
操作して、スピーカーをタップした。直後だ。
『も、もしもし?』
不安げだけれどおとなびた女性の声だった。
『姫ちゃん……? 私のお姫さま、いる?』
「おかあさん……なの?」
『ああ! よかった! あなた!』
『あ、ああ! もしもし!? もしもし!』
「おとうさん……!」
感極まった姫ちゃんが膝から崩れ落ちそうになって、あわてて七原くんが抱き留めた。
けれど、驚くべきはそこからだった。
『失礼、感動の再会を邪魔する趣味はないんだ。本当にね?』
女性の涼しくけれど固い声に驚くし、誰よりも露骨にワトソンくんが身構えた。
『自己紹介してなかったね。エリザと呼んでくれ。教授の仲間だ。クロリンネは残念ながら、もはやひとりきりになってしまったけれど……ともあれ、きみたちに伝えておきたくてね』
聞こえた単語に姫ちゃんの身体が震えた。恐怖に歪んでいく顔を見ていられない。
「両親を渡して。話はそれからです」
『ああ、心配しないで? それに関してだけは忠実にかつ確実に遂行するよ。無事に、こちらの隠れ家のひとつからアメリカの時任家に送り届ける』
「信用できるとでも?」
『するしかないんだ。退屈な話をするべきではないよ……もちろん、こちらの隠れ家がどこかはわからないようにするさ。とはいえ我らが神と崇める彼女から命じられたことだからね。丁重に、無傷で送り届けるよ』
「きみたちはこれからどうするつもりだ!」
『ああ、久しぶりに聞いたね? ワトソン、元気かい?』
「問いに答えろ!」
『んー。そうだね。彼女が戻ってくるまで、せいぜい暇つぶしをさせてもらうさ。じゃ……十分後、彼らが到着した旨の連絡を待ちたまえ』
通話が切れた。戸惑う姫ちゃんをよそにワトソンくんが急いでスマホを出した。英語でまくしたてるようにいまの状況を報告する。横で聞いている限りじゃ、姫ちゃんのお母さんの携帯番号の位置情報を探ってもらおうとしているっぽい。
たぶん、それ無駄。エリザないしクロリンネはそこまで露骨に迂闊な手を打たないだろう。おおかた移動中か、ないしもはやアメリカの姫ちゃんの家のそばにいるんじゃないだろうか。
十分って言葉がそのまま距離を示すとも思えない。それすらブラフだとして不思議はない。
大事なのは――……すべて、十分後。
憂鬱な顔をして頭を振るワトソンくんは想像通り。むしろ、今度はアメリカの家からかかってきた映像通話に姫ちゃんが涙を流して喜ぶほうが大事かな。
エリザさんね。いろいろと情報を回して調べてみないと。ラビ先輩とユリア先輩に似た銀色の髪をしていた。毛先が金色がかったメッシュ状態だった。組織の性質上、髪を染めているのかもしれないが、いちおう双子の先輩に当たってみるかな。
「アメリカじゃ大ニュースになりそうですね。七原くんを置いて出ましょうか」
「そうね」
美華が頷いて、みんなで姫ちゃんにおめでとうを伝えて部屋を出る。
意気消沈したワトソンくんが「今日は早めに休みます。おやすみ」と言って離れていった。岡田くんが「元気づけてくるよ」と明るい笑顔で言ってくれたから、彼に任せよう。放っておく勇気があるのなら、放っておかない勇気があってもいい。
ツバキちゃんは「ごめん、お部屋でお仕事したいから行くね」と言って、早々に離れていった。さすがだなあ。春灯ちゃんと一緒に仕事してるっていうのも伊達じゃない。
聖歌は欠伸をして、美華と私の腕に抱きつく。まるで一緒に寝ると言わんばかりのアピールだし、
「寝るよ……」
「「 決定事項か…… 」」
奇しくも美華とハモってしまった。
「ならその前に大浴場いってみない?」
「ああ、いいですね。聖歌も、さすがに風呂なしはいやでしょ?」
「……まあ、半々」
詩保の言葉に乗っかるけど、聖歌の答えは微妙だ。半々って。まあいいや。今日は正直もう限界だからなあ。とっととリラックスしていい気持ちで寝たい。
「それじゃあ風呂といきますか。ルイとスバルとキサブロウはどうします?」
「俺らは……そうっすねえ」
「大浴場に行きたいって顔に書いてるぞ、すけべ」
「ああ、たしかにそう顔に書いてある」
ルイ……スバルとキサブロウにも、私たちにも見抜かれてるぞ。
「下心を持っていようとも、大浴場は完璧に壁で遮られてますからね」
「わ、わかってますから!」
赤面する彼氏を眺めて、半目になる。
なるほど、こりゃあ……宇治先生がぴりぴりするわけだ。
私が歩みよるなり、ルイがその気になったら……なるほど。春灯ちゃんの名前が出るわけだ。
緋迎先輩はかっこつけてるけど、春灯ちゃん大好き勢のトップに位置する人だし、春灯ちゃんだって甘い時間が大好きだ。となればふたりの間に壁なんてない。
盛り上がりまくって、どこまでも甘い時間を過ごしているに違いない。
江戸時代でふたりが人前で露骨にいちゃついているところは見なかったけどさ。だからこそニナ先生たちは春灯ちゃんをはじめ、学校のカップルたちを擁護してくれてるんだろうし、寮母の樹林さんだってお目こぼししてくれてるんだろうけど。
宇治先生はそういうの許してくれそうにないもんなあ。
私は……そうだなあ。
ルイと素敵な時間を過ごすのもやぶさかじゃないんだけどね。正直さ。
でもねえ。
「今日はだめですよ。先約が入りましたから」
「な、なにがっすか!?」
「それ、ここで聞きたい?」
呆れた顔して伝えると、ルイはスバルとキサブロウに両サイドから肘で突かれてた。
緋迎先輩ほどかっこつけられる日はこなさそうだ。
残念な奴でしょ? でもそこが可愛いの。
ルイが私の彼氏なんですよ。
「あは!」
「どしたの?」
「いいえ。入学して初日だと思うと最高だなって」
聖歌に笑って答える。
「素敵な友達たくさん、彼氏もいて。面白い男友達もたくさんいて? 憧れる先輩だらけ。これから楽しい時間が待っていると思ったら、最高じゃね? って思って」
「……まあね」
呆れたように美華が肩を竦めるけれど、いいの。
「それじゃあパジャマと着替えをもって、ここで集合しましょ。姫ちゃんと七原くんが行けそうなら誘って、ワトソンくんたちの様子もみてね? さすがにツバキちゃんは無理そうですが、いけそうならみんなで……仲良くしていきましょう」
みんなが思い思いの顔をしてくれるの、とっても嬉しいよ。
せめてさ? もっと明るい顔をしてくれてもいいのに。悪くない入学式だったって実感してくれてるのわかるのにさ?
「もっと笑いません?」
「小学生じゃねえんだ。ガキみたいに笑えるかよ」
「スバルは聖歌にモーションかけといて、素直になるのは生徒会長の前だけですね」
「んだと!?」
露骨に慌てた顔して、あーあー、そういう態度をみせると聖歌が反応しちゃいますよー。
「……そうなの?」
「え、と」
「どうなの?」
「……うんと」
「そうなの……」
「ち、ちがっ」
計画通り、ラブコメが始まった。
「それじゃあ一度、解散ってことで」
ぞろぞろと離れる私たちの後ろで、膨れた聖歌にスバルが一生懸命説明してる。
ざまあみろ。決して、亡骸に対して私よりも一歩先に出てたのが悔しかったからじゃないからね? たださ。聖歌がいいなって思うんなら、もっと集中してほしいだけ。
だって、聖歌に必死になってるスバルは結構かわいいからさ。見ていたくならね?
つづく!




