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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第五十二章 青く澄んだ春の灯りのように

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第五百九十四話

 



 御霊を委ねているんだから、もうひとりの彼女に私の動揺が正確に伝わっていたとして不思議はない。彼女は本来、私と同じで御霊の声が聞こえる人なのだから。

 私の気持ちを受け止めて優しくしてくれるの。さっきまでのお返しだとばかりに。

 返ってくる気持ちがあたたかいの、心の底からほっとする。すごく尊くて、だから、なによりも大事にしたいもの。そんなのわかっていたはずなのに、心にしみるんだ。


「だいじょうぶ……?」

「……わけのわからないどこかの私にあれこれ言われたの」

「ああ……それなら、私は慣れてる」


 座って、と私の肩に手を置いて、道ばたに置かれたベンチに腰掛けさせるんだ。


「たくさんの世界があって、遠すぎて繋がらない場所もあるし……決してわかりあえない私も大勢いる。むしろ、あなたと私のこれはとびきりレアなケース」

「でも……」

「気にしなくていい。私のやり方は……人的災害レベルで最悪なものだけど、あなたは乗りこえた。逆に言えば、あなたが行けない場所で起きている悲劇までは、手が届かない」

「――……」

「なんとかしたいって思っているんだろうけど。自分の世界をほっぽりだしてまですること? あなたがいない間に大事な仲間が死んだら? 悔やんでも悔やみきれないでしょ」

「……うん」

「私はさ。みんなが殺されて、だからやり直したくて……世界を渡りながらどんどんおかしくなっていっちゃった。隣の芝生を歩く別の自分を見るって、思ったよりもおかしなことだよ」


 ふたりで並んで座る。

 話題が話題だからトモたちが気にしてくれるけど、だいじょうぶって伝えて断った。

 星蘭のテンションはあがるばかり。士道誠心と違って切れ目なく、学年を切りかえて変化を加える演出の流れを見守りながら、そばにいる私は私へと語りかけてくる。


「私はさ? 今夜中にやらかした順から世界を渡っていく。あなたの御霊を宿して、これまでのケジメをつけて……そして、私たちの世界を変えるよ。そのときには絶対に、あなたの真打ちを掴んでみせる。だからさ……あなたも、あなたの世界を大事にしてよ。これは世界から逃げちゃった私の精一杯のお願い」

「――……わかった」

「じゃあ約束しよう。でも、その前に聞かせて?」

「なにを?」

「聞こえてくるんだよ、あなたから。私を救ってみせたばかりのあなたからね? 私のしたことは間違いだったのか。私にはなにもできないんじゃないかって」


 図星だった。まさしく、厳しく強いに違いないどこかの私に露わにされてしまったばかりだ。

 私の存在意義ってなに? 私にできることって? わからない。それの繰り返し。どこまでもいっても。

 ため息を吐こうとしたらほっぺたをきゅって指先で摘ままれた。


「そんな風にふさぎ込んでいたら、私みたいに皺だらけになるよ? よしたほうがいいよ」

「――……ん」

「仲間がいるんでしょ? ひとりぼっちじゃないんでしょ? 好きになってよかったっていうのなら……胸を張ってよ。あなたを宿した私は、誇らしいと思ってるんだからさ」


 頬をぺちぺちとはたいてから、肩を抱き締めてくれるんだ。


「青く澄んだいい刀。握っているとあったかい気持ちになるし、進みたい道が見える。それって、最高じゃない?」

「――……そんなことない。刀は所詮、斬るもの。私はそのときがきたら、あなたほど振り切れない。誰かを見殺しにしちゃうかもしれない」

「ちょっと! 私を助けた直後にそこまで惑っちゃうの? どれだけ自信がないの!」


 まさかのまさか、彼女にそこまで言わせちゃうだなんて。

 捧げた御霊から怒りと呆れが痛いくらい伝わってくる。


「どれほど苦労してここまで持ってきたと思っているの? あなたがいるこの世界は、多くの奇跡を可能にするんだよ? だからこそ――……だからこそ、異世界の勇者まで呼び寄せることができた。これって、本当にすごいことなんだよ?」

「でも――……いいのかな。際限ないよ。どこまでも果てがない。そんなことに、意味はあるのかなあ。私にできることは限界があるのに」

「ばかだね、“私”って」


 あははは、と本当に気楽な笑い声をだすもんだからさ。

 皺が刻まれて尚、ああ彼女も私なんだとしみじみ思っちゃうような明るい笑顔だったから……気づいたら見つめていたの。目が離せなかった。


「したいことに際限がなかったら、しちゃいけないの? 違うよ。歌いたいから歌う。死ぬまで歌手であり続ける。それもいいし……傷つけてしまうけど、それでも人のそばにいたいから、そのように生きる。それも……人の生き方だし」


 彼女が引き入れた教授を真っ先に連想したし、それは間違いじゃないのだろう。

 けれど彼女は明言せずに続けるの。


「病院に運ばれてくる重症患者を治しても、どこかで人が死ぬ。じゃあ、救急救命室で働くお医者さんたちは仕事をやめるべき? ちがうよ。時間を渡れる女の子が、自分の人生を費やして人を救おうとするのだって一緒。できることがあって、やりたいと思ったらやればいい。その先のことはさ、その先で考えればいい。でも根本的なことまで変える必要ないの」


 制服姿なのに一切の羞恥なく片膝を立てて、見ていられなくて裾を横から直すけれど彼女は笑うだけ。


「平和なときも、戦時下でも、人が生きるためにはルールがいる。生まれた規則が人を生かすとは限らない。無慈悲に人種で生死を分けるときもある。それはたとえば……御霊を宿した化け物と、御霊に縁のない人であったりもする」


 彼女の目は遠くを見つめていた。

 蘇り、安穏とした世界に戸惑いながらも――……岡島くんや学食のスタッフさんたちが運んでくれる料理に歓喜する、自分たちの世界の仲間たちの幸せそうな笑顔を。


「壁がなければそれが正義? 弱者や違う存在に石を投げて殺すのが正義? そもそも正義ってなに? 必要なもの? 誰にとって必要なの? ――……どうでもいいよ、そんなのは」


 片膝をまるで子供のように愛しげに抱き締めて、長い長い息を吐く。


「笑ってたい。傷つけられたくないから、傷つけない。脅かされたくないから、脅かさない。それでも敵意と殺意を向けてくるのなら、守る。私の日常を。そのためなら――……私はいくらでも血を浴びる覚悟がある。けどさ」


 隣にいる彼女が身体を寄せてきた。四月頭とは思えないほど冷たい身体。


「そんなの、しないで済む方がいいんだよ。平和でいい、おおいに結構だよ! 戦わずに済むなら、それが一番。戦わずに勝つのがいい。お金の競争でもいいし、出世の競争でもいい。それにそっぽを向いてもどっこい生きていける世界なら、人はどうとでもやっていける」


 あなたはそっちにいる。それでいい、と彼女は囁くの。


「危ないのは――……文明が築いた武器を互いに向け合う社会。技術が発達すればするほど、私たちの命の価値はスイッチひとつでくだされる何千万分の一にすら落ちる。敵だと判定したら女子供も老いた人も、市民だろうと容赦なく命を奪われる。そんな社会が、いちばん怖い」


 深呼吸をしてから、肩に頭をのせてきた。


「あなたの歌にはそれに抗う力がある。あなたの意地には、敵意に抗うものがある。なにより……あなたの楽しみたい気持ちは、心の根っこをくすぐってくれるあたたかさがある。それでいいよ。戦士になる必要も、刀で斬る必要もない。だってあなたは確かに、私を助けてくれたんだから」


 そうっと刀を横向きにして、ドームを失った空から差す光に反射させた。

 刃が先にかけて青く澄んで輝いているように見えたの。


「神さまに捧げるためのご神刀。きっと――……あなたの刀は、人斬り刀じゃない。ご神刀なんだよ。私がやっとたどりついたこの世界の多くの刀も、きっとね」


 ほうっと息を吐いて、彼女は刃先に指先を伸ばし、這わせる。


「不思議な刀。あなたにとっての彼の、大典田光世のように……打ち払ってくれそう。私の弱い心も、私が挑む誰かの弱い心にも。あったかい熱をくれそう」

「――……そう、だといいなあ」

「刀とは、ただ肉を斬るのみにあらず。故に刀は持つ者の心根を表す。人を斬ることしか知らぬ者の刀は怖くない。まことに怖いのは、刀を通じて己の生き様を強く示せる者なり」

「え――……」

「さて、どれくらい昔か。あなたの世界のどこかの武士がいっていたの。不安や弱気に構うことないよ? むしろ、あなたはもちろん、私さえ……見失った生き様を探して、強める必要がある。先だっては、後ほどくるであろう緋迎シュウたちに私の組織の話を提供して終わり」


 彼女が最後に口にした単語にはっとした。クロリンネ。彼女は組織を率いて暗躍してきたという。ユラナスさんたちと敵対しながら。教授のような人たちと一緒になにかをしてきた。


「クロリンネ――……あの人たちは、あなたと一緒にいったいなにをしようとしてたの?」

「私が中心になって、あなたや……あなたに連なる人が、今日のような形になるように誘導していた。私があなたを手に入れたら、協力者の願いを叶えると約束してね。世界から流れ込んでくるアーティファクトや、私が狂ってしまっている間に散らばったアーティファクトを集めて、この日を狙っていた。なんて……そこまでの狙いがあるだなんて、彼らは知らないけどね」

「え、じゃ、じゃあ? 彼らをどうするつもりなんですか?」

「あなたが彼らを助けてくれたら私も助かるんだけど」

「ええええ……」

「虫がいいし、無理だよね。わかってるから……連れてくか待たせるよ。あなたの力が私にも身についたら願いを叶える。あとは彼らの自由。私についてくるもよし、この世界で居場所を探すもよし……恨まれるだろうけど、最初に私が外からきたことは伝えてあるから心配もしてない」


 正体は秘密だけどね、と彼女は悪戯っぽく笑う。

 不安は大きいけれど、でもシュウさんに頼る以外に道もないしなあと思うんだ。

 あれこれできたらいいんだけど。なかなか難しいなあ。ほんとに、私にはできることが限りあるんだなあ。

 でも、彼女の言うとおりだ。気にするまでもない。気にしてなにがどうにかなるわけでもなし。大事なのは……私がどうしたいのか。そのためになにをどこまで積み重ねられるかっていうところだろう。

 本当に、私は抜けてるなあ。何度だって思い返しているのに、行動が足りてないからかなあ。


『妙な感覚あれば、気がつくと心を曇らせて』

『さあて……妾も知らぬ奇術まみれの寄るであるがゆえ、仕方あるまい。それよりも』


 はーるーひー、とタマちゃんが怒った声を出すの。ぎょっとしちゃった。

 な、な、な、なんでしょうか。


『修行が足りぬぞ?』


 わ、わかってますよう……。


『実践あるのみ。気になるのなら、いくらでも話してみるがよかろ』

『あそこの男も、なかなか腹の据わった男だ。手合わせしてみるのもいいだろう』


 十兵衞がおススメするなんてよっぽどだ。


「それ、私も勧めるよ……じゃあね?」


 そっと離れてベンチを立ち上がる。彼女は刀を腰へと留めて、離れていくの。

 まるで最後の別れのように感じた瞬間、私の寂しさにぬくもりが広がっていくんだ。


『離さないんでしょ? 私も離さないから』


 笑顔で見つめられただけじゃなくて、刀を示される。

 繋がっているって確かに感じる。だから――……お別れなんかじゃない。そう素直に信じることができた。

 ありがとって伝えて立ち上がる。

 私も気になっていたの。彼のそばへと歩みよって尋ねるんだ。


「ねえ、タカユキくん。お話、いいかなあ」

「あ? おう。隣くるか?」


 ルナちゃんとレオくんを膝の上に抱いて、お父さんの顔をしているのに。彼のお嫁さんないし未来のお嫁さん候補の女の子たちが率先して言うの。


「隣はだめだよ」「気がついたら押し倒されているかもしれません」「子供がいようとお構いなし」「可愛い女子といけそうだと思ったらいっちゃう種馬狼……」「お兄ちゃんの浮気者……」


 え、ええと。


「どうぞ、お向かいに椅子をお持ちいたしましたので」


 メイド服のお姉さんがそっと用意してくれたの。どこか理華ちゃんに似て見える女の子にお辞儀して腰掛ける。タカユキくんが眩しそうな目つきで私を見たんだ。


「制服姿で、きみほど可愛い子に会うなんて。元の世界ってのも悪くないもんだ。いやまあ、俺の元の世界ってわけじゃないだろうけどな」

「「「 また息をするようにナンパして…… 」」」

「ルナ、やっちゃいなさい」

「はい、ママ」


 鼻の下がちょっと伸びているタカユキくんへのダメだしの温度、極寒だよ!

 娘さんのルナちゃんがお母さんのクルルちゃんの指示を受けて、タカユキくんのお鼻を容赦なく摘まんで引っぱり下ろす。


「いたたたたた! ルナ!? やめて! パパのお鼻もげちゃう!」

「おかあさま、いつも言うの。パパがうちの家族以外の女の人にでれでれしたら必殺だって」

「必ず殺されるの!?」

「……ぱぱのえっち」

「ぐふっ!」


 うーん。家庭というやつは難しいバランスで成り立っていそうだぞ!

 クルルちゃんが「もうよし」って言った瞬間に、ルナちゃんが手を離す。

 涙目で鼻を撫でながらも反省を示すタカユキくん、立派に調教されているのでは。


「わりい……で、なんだっけ?」


 それよりも、聞いておきたいな。


「もし、あなたが勇者なら……仲間を守るために、敵を殺せますか? あなたの手を汚せますか? その手で……大事な人を抱けますか?」

「ああ、そういうこと?」


 みんながきょとんとした顔をして私を見つめる中、タカユキくんは腕を組んで深い呼吸をした。


「俺はさ。女神の恩恵に授かって、国を治めてる。ぶっちゃけ理想じゃどうにもならない瞬間があるぞ? 殴り合いになったり、罰するために手を出さなきゃいけなかったり」


 見た目はカナタに似ているのに、浮かべる顔はむしろライオン先生ばりに渋くなる。転じて彼が背負う責任の重さが見えた気がする。


「けど、俺はやる。理想を夢見て、忘れないようにしながらな。そりゃあ俺が躊躇って仲間が死ぬのは御免だ。ぶっとばさなきゃ止まらないっていうなら、敵よりも仲間を選ぶ」

「そう――……ですよね」

「それが正解とも思わないけどな?」

「え」


 顔が曇った私に彼は晴れやかな顔をしてみせるの。


「ほんとはさ。境目なんかなくて、のれる連中でわいわいやって。そうじゃない連中にも居場所があって。それぞれに幸せにやれてりゃいいんだよ。ケンカになるなら関わらなきゃいい。関わる必要があるなら、ケンカしないようにすりゃあいい。だろ?」

「――……うん」

「けど、むかついたり、許せなかったり、もっと複雑に政治的な理由とか……お互いに相容れない正義のぶつかりあいで、意地を通すために戦をしなきゃならねえ瞬間もある」


 それはさ。


「悲しいことだ。口がついて耳があるんだ。想いを表現する言葉もある。誠意を示す文化も、それを受けとる感受性もある。なのに俺らは妥協できない条件をお互いに突きつけあって、最終的には戦っちまう。いつまで獣だった頃の習性を忘れられないんだかって思うよ」


 違う価値観との付きあい方を知らないだけじゃねえか、と彼はぽつりとこぼした。


「だからさ。究極の選択なんか、求められないに超したことはないんだ。その前に留める力があるなら、むしろそれを伸ばせとすら思う。あんたは好戦的なタイプにも見えないし……それでいいじゃんか」


 勇者で国王さま。そしておおくの女の子と愛しあって生きる男の子の、優しさ。


「理想ってのは忘れちゃいけない。自分の理想に人が集まるなら、余計に忘れちゃならない。なあ、あんたの意地ってのは、人を斬るところにあるのか?」

「――……戦わないで済むなら、私はそのほうがいい」

「じゃあそれでいいじゃん。やばいときは言ってくれりゃあ駆けつけるし、さっと事情を聞く限り……あんたは立派に助け出した。それは、俺のような選択をするタイプにはできないことだ。むしろ胸を張っていいとこだぜ?」


 なあ、とタカユキくんが声を上げると、彼の仲間がしみじみとした顔をして頷いてくれるの。


「俺らはさ。殺されたら教会に戻ることになるし、仲間を生き返らせるためにお金稼がなきゃいけないけど。逆にいえば、女神の駕籠があるから多少の無茶はきくから」

「え、と……生き返られるんですか?」

「女神のおかげでな。だから割り切れる。輪廻はまわる。雑だがちゃんとした良心を軸に女神が見てくれているから、俺らは気楽に自由に生きられる。迷わず進める。斬っても繋がっていくんだ」


 息子さんと娘さんの頭を両手で優しく撫でるお父さんの顔をしていた。私たちとたいして変わらない歳に見えるのに。


「無駄なことはない。そう信じる。信じられないときもあるが、どうするかわかるか?」


 カナタに似て見えるのに、カナタよりもよっぽどたくさんのことを吹っ切って、晴れ晴れとした顔をしていた。


「いえ……」

「単純だよ。信じられないときゃ、無駄にしなけりゃいい。そりゃあな? やらなきゃいけないことは変わるし、どこまでできるかどうかもわかんないけどな? 関係ねえのさ」


 ぎゅうって抱き締めて、くすぐって。笑う子供たちに誇らしげに笑う、お父さんの顔で。


「だって家族がいて、子供がいて。もっと増えそうだ。俺の国に集まる連中も家族だしな。面倒みるしかねえの。それが俺の選んだ生き様だし、居場所だからな? 自分らしく生きたいって思えるのが……個人的には一番だ」

「パパ、このお姉ちゃんのパンツだったらどんな武器がでるかなあ?」

「レオ、いつもいってるだろ? パンツの話は外でしちゃだめ」

「えーでもきになる。かわいいお姉ちゃんのパンツほど強いじゃん。ねーねー、ぱぱー」


 でれでれした顔をするレオくんの首がひょいっと持ち上げられた。


「げっ! ママ!」

「よそのお姉さんにパンツなんて言っちゃだめ。わかるわよね? レオ……」

「は、はひ!」


 びしっと敬礼するレオくんに微笑むママことクラリスさんの教育、推して知るべし。

 気になる。彼らは……不思議な私に選ばれていた。今夜にも彼らもまた帰るだろう。

 もう二度と会えないかもしれない。だとしても不思議はない。これは奇跡のような出会いに違いない。


「あんたの生き様が殺すんじゃなくて生かすっていうなら、あんたはそれに胸を張っていい。誇っていいんだ。殺されても、傷つけられても、だからこそむしろ意地を張っていい」

「――……なんで?」


 思わず聞かずにはいられなかった。


「あんたが助けた何かがきっと、あんたを助けてくれよ。だってさ。あんたが笑ってると、こういう場所が救いになる連中にとって、目印になるだろ? きっと灯台なんだよ、あんたの笑顔は」

「――……タカユキくん」

「へこまされたら、笑い飛ばしてやりゃあいいのさ。なんか、わっかんねえけど! 笑顔が可愛い女子とみたね、俺は」

「「「 やっぱりくどいてる…… 」」」

「そうじゃないから! さすがに子供の前でナンパするかよ!」

「「「 そこは嫁の前でじゃないの……? 」」」

「い、いわなくてもいいだろ! そこは! 当たり前だしぃ!?」

「「「 ふうん…… 」」」

「目が! みんな目が怖いよ!」


 仲良くしているタカユキくんたちを見ながら思ったの。

 確かめたい。この出会いがこの先も続くかどうかわからないからこそ、いま。彼と競って、自分の立ち位置を確かめてみたい。


「あの、タカユキくん。私と手合わせしてくれませんか?」

「お、なに。余興? 女子高生侍と手合わせとは、俺も出世したなあ。いいぜ、もちろんだ!」


 快諾! あまりの明るさに気持ちもよくなる。素敵な男の子だ。

 胸を張って彼がクルルちゃんに手を伸ばした。


「それじゃあ、クルル。パンツ貸して」

「あのさあ、タカユキ。たまにはパンツなしでなんとかしたら?」

「えー。できるとは思うけど、えげつないことになるぞ? 主に俺が。モザイク修正が必要な有様になる」

「お兄ちゃん! ペロリのパンツならいいよ?」

「助かるぞー! いやあ、ペロリさまさまだなあ!」

「むっ! またペロリはタカユキを甘やかして……!」

「いいの。お姉ちゃんたちのパンツだと、お兄ちゃん手加減できないし」


 いそいそとパンツを脱ぐ聖女さま。かなりの絵力だから、みんなの視線を集めちゃう。

 それでもペロリちゃんは見られないようにそっと脱いだパンツを渡して、タカユキくんが立ち上がるんだ。

 拳にナックルガードを装着するの。淡い赤の縞パンに重なるカラーデザイン。

 だが彼が拳を重ねたときの鈍い音といったら、かなりのものだった。


「胸を貸すよ。どこまであんたの悩みが晴れるかわかんねえけど。どんとこい!」


 指先でくいくいと手招きされて煽られていく。

 構わない。さっき燃え上がった怒りの感触を覚えている。

 確かめたい。私の刀の未来。

 勇者になって世界を救った男の子と力あわせをしてみられるものがあるのなら、どこまでも!




 つづく!

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