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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第七章 侍候補生、学年別トーナメント

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第五十八話

 



 ラビ先輩が刀を抜かずに相手を投げ飛ばして場外に追いやったり。かと思えば刀の一振りで相手を場外へ押し出すほどの風を起こすユリア先輩がいて。

 一年生の試合よりも迫力があるの。

 だから……三年生は? と思ってドキドキしながら視線を向けたんだけど。


「さっき凍らせられてたぞ」「俺は燃やされたのを見た」


 今は目にも止まらぬ切り合いを男の先輩が二人でしてる。お風呂でご挨拶したあの三人の先輩の出番は終わっちゃったのかや? 残念……!

 それにしても改めて一年生を見ると、不思議。


「うおおお!」「おああああ!」


 刀の名前もわからず、その振り方もわからない……そんな感じだ。

 二年生や三年生と露骨に違うの。

 私もタマちゃんや十兵衞と話せて力を借りることが出来ているから別だけど……でももし、そのアシストがなかったら?

 刀を手にしてもみんなと変わらなかったに違いない。だとしても……ううん。もっとやりようがあると思うんだけど。案外、戦い方がわからなかったりするのかな?


「ねえ、シロくん」


 隣で座って試合を真剣に眺めているシロくんが、意識をこっちに向けてくれた。


「なんだ?」

「刀の名前って、手にした時にわかるって前に言ってなかったっけ?」

「言ったかどうかは……どうだったかな。だが君の言うとおり、わかるはずだ」

「でもじゃあ……子犬Aとか、辻斬りにあったおじさんとか。名前じゃないよね?」

「そうだな……確かにそうだ」


 メガネのツルをくいっとやって、シロくんは頷く。


「だが……どうかな」

「え?」

「本当の名前を明かしてくれる刀ばかりではない、ということさ。見たまえ」


 指差す先で、うちのクラスの男の子が二人で今も戦っている。

 どちらの刀も名前も知らない、刃紋も長さも同じもの。


「見ろって言われても、同じ刀に見えるよ」

「君の刀はどうだ? 同じだろうか?」


 改めて聞かれたから……恐る恐る刀を抜いて確かめてみた。

 十兵衞のそれはカナタに助けられた時に目にしたそれと似ているようで、少しだけ違う。

 刃の紋は波打たず浅めで、ふつふつとした泡が微かについているように見えるの。

 対するタマちゃんは全然違う。

 波打ちまくりの刃、日を浴びて反射して煌めく色は鉄や鋼のそれよりもきらびやか。

 波目と刀の色がグラデーションがかったように違うの。

 それもいやらしいものじゃなくて、綺麗。

 きっとちゃんとお勉強すればどういう表現になるのかわかるんだろうけど、今の私じゃちんぷんかんぷんだ。

 だから今わかるのは、二振りが違うということ、そしてみんなのそれよりもはっきり個性が出ているということだけ。

 恐る恐るシロくんに違うけど、と言うと、彼は我が意を得たりを頷くの。


「名を偽る刀、本性を隠す刀……僕らの力が高まり、絆が深まれば必然、刀の本性も露わになる」

「……本当の、名前?」

「君の十兵衞くらいメジャーなら偽りようもないかもしれないが。僕のそれはどうかな。本当に吉宗なんだろうか……いや、すまない。君に言うべきことでも、刀のそばで言うべきことでもなかった」


 表情を曇らせて頭を振るシロくんに何も言えなかった。


「ほんとの、なまえ……」

『俺に偽りようもなし。この男の言うとおりだな』

『……ふん』


 タマちゃん……?


『化けた妾の化生としての名は、なんなんじゃろうなあ。調べればすぐにわかることじゃが、はたしてそれが妾の名じゃろうか』


 憂鬱そうな声にすぐ欠伸が続く。


『ふぁ。起きてしまったがまだ少し寝るぞ……試合になったら起こすのじゃ』


 不安が胸の内に広がっていく中で、盛大なつばぜり合いの音が聞こえたの。

 はっとしてふり返ると、試合していた二人がかわっていた。

 ギンだ。うちのクラスの男の子と戦っている。

 眼鏡をかけた天パの甘い顔をした男の子だ。

 名前は、えっと……確か。


「神居くん、だっけ」

「ああ。意外だな、彼がギンと打ち合うなんて」


 ギンの猛攻を受け続けている。

 傍目から見たらギンがただひたすらに圧倒しているだけなんだけど……違う。

 よくみなきゃだめだ。

 ギンの村正は特別だ。ノンちゃんが事実として胸を張るくらいに、あの刀は一年生の中でもトップクラス。

 でもじゃあ、なんで神居くんはその刀を受け続けることが出来ているの?

 十兵衞で受けたときに悲鳴をあげた。抜きん出た力の持ち主であるタマちゃんだから受けることが出来たのに。


「いいねいいねェ! 受けるばかりか? 立ち向かってこいよォ!」


 懐に潜り込んだギンにお腹を蹴られて、地面を転がった神居くんがなんとか場外に出る寸前で身体を止めた。そして闘志と共に顔をあげる。


「本気を出したなら……止まらないぞ」

「いいぜ、出せよ。舐められるのは趣味じゃねえ」


 神居くんの闘志が燃えている。

 それに伴い彼の刀が……みんなと同じ刀が、膨張して見えた。


「え――……」


 そばでシロくんがツバを飲み込んだ音がした。

 でも、しょうがない。到底鞘にはおさまらないだけ膨張したそれは大太刀と表現しても足りないくらいに巨大だ。


「抜けば止まらぬ!」


 笑った。神居くんが。

 振り下ろされた刀の重さにギンの足が曲がる。

 全身にびりびりと響いてくるの。あの神居くんの刀から、異様な力が。

 それはギンの村正やシュウさんのそれとはまがまがしさが違う。

 むしろ、それは――……


「私と、タマちゃんと同じ……?」


 妖。その一文字が頭に浮かんだ時、胸がざわついた。

 不安が広がっていく。

 覚醒。間違いなく神居くんに訪れた二文字はそれだ。

 怒りでも恐怖からくるものではない。

 妖刀と対峙し、人間の皮を切り裂かれ引きはがされた彼と刀の本性だ。

 その力は霊子の煌めきと共に風となって私を押してくる。

 だから、真実。


「なに楽しくなっちゃってるんですか! あなたの目的はそこで終わりですか!?」


 侍の背中を押す言葉を叫べるノンちゃんは、ギンの相棒で。


「へっ、違ぇねえ! 俺の目的は、悪いが目覚めたばっかのお前なんぞに負けてちゃあ届かねえんだ!」


 笑って巨大なそれを受け流し、懐に潜り込んで一太刀のもとに切り伏せたギンは真っ直ぐ私を見ていた。

 試合の行方を見守る私を、ぎらぎらとした……熱い目で、真っ直ぐ。




 つづく。

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