第五百七十七話
理華ちゃんたちがにわかににぎやかになって、やる気をみなぎらせているという話を聞いたのは夕方。私たち二年生の授業が一区切りついてからのことでした。
お姉ちゃんには何か考えがあるらしく、ふてくされた顔をしたミコさんをお迎えして、ついでに「ほら、お前もとっととこい。まだまだ鍛え方が足りない」と言ってカナタを引っぱって地獄に行っちゃうの。修行をするのかもしれないけど、それにしたって一年生とカナタとミコさんだけを連れていくだなんて、いったいなにを考えているのやら。
コナちゃん先輩たちには話が伝わっているみたいなので、一切おとがめなし。
いつの間にやら五日市までの間に連絡が可能な電話が設置されていたの。先生たちの知恵と技術の結晶なのだとしたら、お勉強の大事さを思い知るなあ。或いは趣味の範ちゅうかもしれないけど。凝り性な先生おおそうだし。電車を思えば男性教諭の悪ふざけの一環かもしれない。つくづく私たちの先生って感じです。
コナちゃん先輩は電話を通じて五日市のラビ先輩たちと協議して、三年生なりの作戦を練っている模様です。
となれば、
「一年生も三年生も、現代に戻るためにいろいろと準備をしているっていうのに、二年生がおんぶにだっこなんてあり得ないよね」
マドカが捨て置くわけがないのですよ。
たとえマドカが言わなくても私やカゲくんや誰かが声を上げていたと思う。
そもそも私の影というか、対になる存在が敵に回るというのなら、誰かにお願いするよりも私がどうにかしたいよ。
今日は先生たちが料理を作ってくれるというけれど、お任せする岡島くんじゃないのでここにはいない。逆に言えば彼とお姉ちゃん以外の江戸組二年生は勢揃いだ。
座布団に腰を下ろしてぽつりと呟く。
「黒い私って、たぶん対人戦闘というか……殺すことにステータス極振り状態だと思うの」
眉間に指を置く。
「左目の魅了、右目の死線。敵の攻撃はかわすし、相手の動きを止めるのも楽勝。きっと十兵衞やタマちゃんの力だって全部、生き物を傷つけるためにフル活用してると思う」
「いまさらだけど、あんたがそっちに進んでいたら……あたしたちはいま、こうしていなかったな」
しみじみとキラリに言われた内容に苦笑いしかでない。
「あはは……逆に言えば、普通の人が思い描く侍の道を行っていたら、私はたくさんの人を傷つけていたんだろうね」
「あり得ないでしょ」
ばっさりと斬ってくれたのは、トモだ。
「難しい話はよくわかんないけどさ。たくさん同じような世界があって、たくさんのあたしたちがいたとして。黒くなった春灯なんて、それこそレアケースでしょ」
「トモしゃま……!」
「俺もそう思う。青澄ってほら、バカだし」
「カゲくんに言われたくないよ!」
「あー俺もさんせー。青澄ってこう、どこか間抜けだし」
「茨ちゃんにも言われたくないよ!」
「でも、どんな窮地だって笑って乗りこえてくれる頼もしさがある」
「シロきゅん……」
「きゅんってなんだ。と、とにかくだな! きみはどんな世界でも優しくあると思うし……逆に言えば、優しいきみだからこそ、眠っている悪意や殺意がどこかひとつの世界にいる黒い青澄さんに凝縮されたのだとしたら」
シロくんが語り始める仮定に、ぞっとした。
私にだって悪意くらいある。こないだ考えた、不満を持っていたり悪く言う人に対するヘイトは正直かなりのレベル。
そういう私の中に眠っているいらいらの種がきっとまだたくさんあって、いろんな世界の私たちの悪意をひとりで背負って世界を真っ黒にしちゃえって願う私がいるんだとしたら。
心のすべては殺すためにできているに違いなくて、それ故にあらわれる力のすべてが殺すことに繋がっているに違いない。
最悪の場合……。
「聞いた人を殺す歌さえ、歌えるのかもしれない……」
私の呟きにキラリが鼻息を出した。
「ふん。じゃああれか? こっちの攻撃は当たらないし、左目で見られたら動きが止まるし、歌われたら全滅?」
「……逆に、青澄さんが、歌えば。対抗できるかも?」
コマチちゃんの問いかけにユニスさんは肩を竦めた。
「どうかしら。土壇場で試すしかないし、試すレベルでやるべきことでもない。なにせ失敗したときの代償が大きすぎるんじゃない?」
「だな……うちの魔女の言う通りだ。でも、ひとつ確認したい。死線って言うけど。叩いたら砕ける石や、魚や肉の切れ目がわかるという意味じゃあなくて。他人の殺意と攻撃の軌跡が見えるってことだろ?」
ミナトくんの問いかけに頷くと、彼は立てた膝を抱き締めながら口元を緩める。
「なら、殺意なき攻撃に相手は無防備ってことになる。こっちに殺意がなきゃ、相手は攻撃が読めない」
「机上の空論つうか、理屈の上じゃあな。だが実際に、そんな攻撃を出せるかってなるときついだろ。相手はこっちを殺す気でくるんだから、反撃するこっちも必死になるだろ」
「トラジはそういうけど……俺は、毎週欠かさず見ているヒーローやヒロインたちの攻撃に殺意は籠もってないと思うなあ」
そりゃあなあ、とミナトくんとトラジくんが呆れた顔をするけれど、キラリの背中に抱きついてくたくた状態のアリスちゃんはどや顔で言うのだ。
「言ってもわからないなら、スポーツだ! 肉体言語だ!」
乱暴だけど、でもわかりやすいとも言える。
「つまり……私たちがニチアサだ! って――……あうち!」
どや顔で宣言して説明しようとしたときにはもう、後頭部をべちっとはたかれていたの。
何事って顔をしてふり返ると、キラリが笑ってた。
「なるほど。ツッコミって感じでやると、春灯は気づかないわけだ。考えてみれば、よく生徒会長のハリセン食らってるな」
「ちょ、ちょっと、それを確かめるためにいちいちはたかなくても――……あうち!?」
尻尾がぎゅいって引っぱられて、見たらトモが握りしめていました。
「面白い……意外な弱点だね」
「ちょっと!?」
トモさん!? って言おうと思ったときにはもう、あちこちから見えたよ!
「ちょっとちょっと、みなさん狙いすぎなのでは!」
「「「 なるほど、これはわかるのか 」」」
いや納得されても! 殺意が見えるのですが! ツッコミ入れてやろうという敵意が!
思わず身構える私に、狛火野くんがそっと立ち上がる。
「このあたりが境界線なわけだね。もうひとつ試したい。青澄さん、いいかな」
手招きされて、とりあえず向かい合うように立ってみた。
「見えたら言って?」
そう言われた瞬間に、尻尾が思わず縮み上がった。生き延びる筋が一切見えない。
身が竦む私に気づいて、狛火野くんの殺意が瞬間的に消えた。遅れて全身に冷や汗がどっとにじむ。
「――……あ、の」
「ふむ。じゃあ、これは?」
深呼吸をしてから笑いかける狛火野くんからは、一切の死線が見えなくなった。
「えと。ちっとも?」
「じゃあ……一歩、前に踏み出してみて」
「う、うん」
素直に足をあげて、前に伸ばした瞬間に思わず硬直したの。
首筋に一筋、見えたから。
「――……反応速度も尋常じゃない。やっぱりキミは、うちの代でも屈指の感性の持ち主だ」
笑って「もうお終い」と言う狛火野くんに、どきどきしながら座布団に腰を下ろした。
「つまり……コマ。どういうこった?」
「ギンならわかっていそうだけど。彼女と仕合をして一撃を入れるのは至難の業だ」
「それは春灯と戦ったメンバーならみんな知っているでしょ」
狛火野くんの説明にトモが言及して、去年の十組メンバー以外の全員がしみじみと頷くの。
照れるやら、恥ずかしいやら。戸惑っている場合じゃなかった。
「なら、じゃあ……彼女が夢で見た青澄春灯は、いったいどうやって殺された?」
狛火野くんのなにげない問いかけに、みんなして思わず黙り込んだ。
たしかに変だ。
「そもそも、ひとつの世界に青澄春灯がふたりいたというのなら、黒い方は別の世界からやってきたってことになる。場合によってはひとりふたりじゃ済まないくらい、別の世界の自分を殺しているのかもしれない。としたら黒い青澄春灯は、金の青澄春灯の対処を心得ているとみたほうがよくないか?」
みんなが思い浮かべる。なぜ、どうやって私が死んだのか。
「私はわかるかな」
正座をすこし崩して、足の付け根に足首をあてるようにして膝に両手を置いたマドカが、憂鬱な顔をして俯く。
「入学当初から春灯と競ってきたみんなだって、一度は考えたことがあるはず。春灯を倒すなら、どうするべきか」
マドカの陰鬱な声にぞっとしなかったといったら、嘘になる。
けれど、理解もする。私だってトモと戦うとき、ギンと刀を重ねるとき、狛火野くんの死線に立ち向かっていくとき、何度も考えてきた。どうやったら勝てるのか。
「試合ではなく、殺し合いになるのなら……簡単。心を許したふりをして、殺すつもりもなく――……春灯がそばにきたら、刺せばいい」
マドカの出した答えは、きっとシンプルなものだ。
「或いは、黒くても春灯は春灯なら、春灯が気を許せる人に化ければいい。緋迎先輩でもいいし、綺羅ツバキちゃんとか、バンドのメンバーとか……私たちの誰かに」
今度は正直、ごまかしようもないくらいぞっとした。
「殺意さえごまかせれば、そして玉藻の前や柳生十兵衞をごまかせれば、春灯を刺すのは簡単。いや、わかるよ? それが一番ハードルたかいことくらい。でもね?」
マドカは鞘を抱き締めて、囁く。
「もし、死んでいった春灯、あるいは春灯たちが……私たちの春灯と同じくらい、素直で優しい子なら? 玉藻の前も十兵衞もきっと、その心根に寄っているのだと思う。早い話、春灯が信じるならふたりの御霊も信じると思う」
「――……敵はそこをついてくるってわけか」
「教授のときよりもっと、相性が悪い相手だってことだな」
カゲくんとミナトくんの呟きにマドカははっきりとそうだよって答えて頷いた。
「こっちが相手の正体に思いを馳せていることを、まだ相手は知らないと思う。強いて言えばそこがアドバンテージ。でも……振る舞い方をミスったら、どうなるのかわからない」
こつこつ、とマドカは畳を鞘で叩く。
「でも不意を突けるのなら、なんでもするべき。一年生が何を望んでいるのか、キラリも私と同じでわかっているはずだよね?」
「――……ネタバレしないほうがいい内容もあるぞ?」
身構えるキラリに笑いながらも、マドカは思考を語る。
「理華ちゃんたちは力を蓄えようとしている。先輩たちもね」
「なら、ノンたちも!」
「刀鍛冶だってやれるところを見せてやらないと!」
柊さんとふたりで拳をぎゅって握るノンちゃんに元気をもらうけれど、私はまだ笑えなかった。無理だ。
「――……抱き締めようとしても、刺されるかもしれない」
「まあね」
「ふう……結局、そこがネックになるよね」
私の呟きにマドカは頷いたし、トモは深くため息を吐いた。
けどキラリは笑い飛ばす。
「ふん! そんなもんだろ。だから覚悟があるし、決意がある。聖歌はどっちも固めた強い奴なんだろ?」
敢えてたくさん話したわけじゃないのに、キラリはちゃんと聖歌ちゃんのことを見抜いていた。そのうえで教えてくれたんだ。
「考えるのはむしろ、抱き締めてもし刺されたらどうするかだ。信じるのも、愛するのもいいよ。あんたらしくて似合ってて。あたしだって、ほかのみんなだって、あんたのそういうところに救われた。けどな」
刀を抱き締めて。
「その道を行くって決めたんなら、その先だって、もっと決めるべきだ。抱き締めればビーハッピー。そりゃあ最高にご機嫌だけど、きっと今度の相手はそうはいかない。なら?」
「……抱き締めてダメでも、貫き通す道を探る?」
「ああ。あたしはちゃんと知ってるけどな、春灯。あんたは別にお花畑な頭をしているわけじゃないだろ? むしろ、信念を固く持てるよう力を尽くす奴だ」
断言してくれる親友の言葉がなによりも力強かった。
「なら当然、失敗した先のことも成功に繋げられるように考えておくべきだし。あんたの心が何を願うのか見つけておくべきだ。敵意じゃ済まず、殺意をもってくる相手との付きあい方をな」
「うん……」
キラリの真剣さに心を惹かれる瞬間ばかりだ。今日だってそうだった。
「だめで諦める程度の覚悟ならやめとけ。みんなで殺す道を探ったほうがまだ確実だ」
「――……それはやなの」
「なら、当然、生かす道を突き詰めないとな?」
「ん!」
拳を向けられたから、私も拳を伸ばして当てる。
「こほん! いちゃつくのは結構ですけども。話を進めてもいいかな~?」
「「 い、いちゃついてないから! 」」
マドカの咳払いにあわてて我に返る。キラリが呆れた顔でマドカに言い返すよ。
「あのさ。輪に入りそびれたからってひがむなよ」
「ひがんでないし! ほっておかれてむすっとしただけだし?」
「さみしがりやか! ……いや、そうだったな。話を戻すぞ?」
咳払いをしてから、キラリは尻尾をゆらりと揺らす。
「名案はあるんだろうな? 結城の知恵や八葉やミナトの勘頼りとかいうなよ?」
「「 勘って! 」」
「僕の価値は知恵なのか……?」
「シロ、ちょっとずれてるよ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ私たちにはっきり聞こえるように「はいはい、静かに!」と声を上げてから、マドカが立ち上がる。柄頭に手のひらを置いて、江戸組二年生のみんなを見渡した。
「正直、黒い春灯のことをうちの春灯と後輩ちゃんたちが夢で見る形で知らなきゃ、春灯が誰かを生かす道をみんなで突き詰めるって形にはならなかったと思う。逆に言えば、それが敗れた世界と私たちの世界の違い――……だといいよね?」
希望的観測かよ! とミナトくんが突っ込むけど、しょうがない。他の世界と通信する手段がそもそも私たちにはないんだから。
「ひとまず――……“現状の私たち二年生では伝手がないので”このまま、春灯を中心の軸にして進むのが一番だと思う」
あれ? 妙に含みのある言い方じゃない? 気のせいかなあ。
カゲくんもミナトくんも、シロくんだって、みんなして「ははあ、なるほどな」って顔をしているの何故? ねえ、何故!?
『話を聞いておけ』
十兵衞まで! ううん。いつかわかるっていうことかなあ。早く知りたいよ!
「さて? どうかな。みんな、先輩や先生に鍛えられている真っ最中だけど、力になりそう? 沢城くんなんか、黒い春灯ばりに戦闘に全能力極振りだけどさ」
「山吹ぃ、うるせえぞ!」
「まあまあ! ユウだって同じだもん。いいっこなし」
「それはいったいどういう屁理屈なんだ……」
呆れる狛火野くんに構わず、
「いろんな考え方があると思うんだよね。昨今話題になるけれど、自衛のための力って視点を持つとふたりほど頼りになる侍もいないよね」
マドカは話の舵を切っていく。迷わず頷くよ!
「もちろんトモだってそうだし。岡島くん、茨ちゃん、トラジくんがいて。ミナトくんとユニスさん、コマチちゃんだって頼りになるけれど」
船の行く先はどんな大陸か。
「力の表現の仕方はきっとひとつきりじゃない。わかりやすいのはユニスさんやコマチちゃんかな? 魔法は人を苦しめ傷つけるものばかりじゃないし、大海を影に宿して恵みをもたらすコマチちゃんの力だって同じ」
「あたしの星、マドカの光――……もちろん春灯の金色は筆頭格。それに、仲間の閃光のような神速もな」
「最後に名前を挙げてもらってどうも」
「いいえ?」
トモとキラリが微妙に緊張感のある見つめあいをするの、どきどきする! なんでかな!
「となれば、私たちはもっと深く鋭く自分の心の示し方を突き詰められるはずだし、手を組めるはず。一年やって、まだまだずっと一緒にいるんだからね?」
「具体的な部分はてめえでなんとかしろってか?」
「そのとおりだよ、ミナトくん。それとも……手取り足取り教えてほしい?」
「えっ」
にこぉって色っぽく笑うマドカにミナトくんが思わず赤面して、
「いてててて!」
ユニスさんに背中を思いきりつねられている。
あーあ。もう。誘惑に弱いところが三枚目なんだよね。もったいない!
「さてと。お約束も済んだところで」
ぱん、ぱん、と手を叩くなり、
「春灯が出かける前に、私たちなりの――……」
企てを計画している、悪い顔をして、
「公演を作ってみない?」
そっと私たちをたぶらかしにくる。
そして、私たちはそういう瞬間がなによりも好物なのだった。
「本はできてる。実はルミナとだべっていて思いついたの。ずっと前から準備してきたんだ。よくいうでしょ?」
胸を張り、どや顔で。
「こういうこともあろうかと! ――……呆れないで話を聞いて」
すぐにいつものきりっとした顔に戻る。それだけじゃない。
「一年生が面白そうに歌って踊って、私たちは見ているだけ? ないない! あり得ない! 春灯が歌って芸事への道を切り開き、私たちは先陣を切っていたはず。なのに後輩たちが続いてきたら、戦いに逃げる? 断じて否! やっぱり絶対あり得ない!」
拳を掲げて叫ぶの。
「もっとどかんと目立ってやらねばどうする! いい!? 刀の美しさは青く澄んでいるところにあるという言葉もある!」
「え、えと。名刀は青く澄むとする解説をした本がありまして。鉄が地域によって差があるため、白や黒や青に見えるっていう話で」
ノンちゃんがツッコミを入れようかと戸惑って解説に留めたけれど、マドカのマシンガンに立ち向かうなら即座にもっとたくさん言わなきゃ無理!
「青澄春灯がいるんだから! 私たちの刀はもっともっと負けずに輝いてやらねば! 埋もれるために毎日がんばっているわけじゃないでしょ!?」
「そうだ!」
カゲくんが即座に乗っかった。
「だよね? 刀は神に連なる心の証。みんな違う輝きだからこそ、自分らしく強く輝かしていきたいじゃない?」
気をよくして何度も頷いて、マドカが掲げた拳から人差し指をぴっと伸ばす。
「なら、青く澄んでやろうじゃない! 輝いてみせようじゃない! なぜ士道誠心に入学した!? 私は光り輝くためだ!」
どうなんだとけしかけるように、刀を持ち上げてびっと指し示す。トモを。まるでマイクのように。呆れながらもトモだって、こういうノリが好きな人だからさ。
「強くなりたい。誰よりもとかっていうんじゃなくて、もっとずっと、自分らしくありたい」
「生きたい。助けたい。結局そこだな。俺の力で生きたいし、好き放題したいだけなのさ」
ギンも乗っかる。家の問題もあるだろうけれど、それ以上に、自分の見つけた力で生きたいだけ。シンさんたちの警備会社に勤めて、刀を振るって生きている彼の言葉の裏にある背景はとてもシンプルであるがゆえに強い。
「いいじゃない! 法律、仲間とやっていくための協調。いろいろ必要な瞬間はあるけれど、でも自分らしく生きてみせなきゃね。納得いかない人生に貴重な時間を注いでいる暇はない!」
断言していくマドカの言葉は強すぎて、いろいろと刺激しすぎちゃうだろうけれど。すくなくともこの場にいる二年生のみんなにとっちゃ、背中を押される言葉でしかなかった。
「刀を手にした。夢の塊のような霊子を操る術を手にした! 私たちは夢に人生を注ぐ時間しかない! だから滾る! 暴れ放題! 人生の苦境がなんだ! 自分より凄い奴がいるからなんだ? 知ったことか!」
「そうだ!」
「ああ! まさしく!」
ミナトくんもシロくんも、嬉しそうにはやしたてる。
みんなそれぞれ違う力を手にして、だからこそ輝くことを理解している。
突き詰めるのはただただ、自分の輝きとの付きあい方。
「胸の内に宿る光を、もっと! もっと強く輝かせたい! それだけだ! それこそが私たちの使命じゃないか!?」
「刀に輝きを!」
「「 この手に力を! 」」
狛火野くんも、ノンちゃんも柊さんも。
「貪欲にいくぞ! 諸君!」
「「「 応! 」」」
「生き抜いてやるぞ! 諸君!」
「「「 応! 」」」
「準備はいいか!? 青く澄む決意に曇りはないな!?」
「「「 応! 」」」
「しからばこれより、二年生は全員で目的達成のために心をひとつにするぞ! いいな!?」
「「「 おーっ! 」」」
拳を掲げて、それだけじゃ足りずにめいっぱい手を叩く。
うんうんと頷くマドカの演説はあまりにも力強くて勢いがあった。
マシンガンだけじゃなくなった。私たちの心を煽るようになってきた。
変化していく。進化していく。退化するときもある。けれどそれすら、もっと強く輝くための足踏みでしかない。
自分を思うなら、人はもっとポジティブに振り切れていい。人と接するとき、めげてるときくらいは注意するべきかもしれない。けれど、自分を育てたいのなら、ネガティブに付き合っている暇はないのだろう。
歌の仕事を終えるたびに呟きアプリをチェックする私にトシさんたちがよくいうの。
『しょうもねえ意見に耳は貸すな。意味がない』
『市場調査というか、反応を調べる意味でアンチの把握をしたいときくらいかな。でも基本的には褒めてくれる人を大事にしたほうがいいね』
『思いだして力になる言葉だけ、覚えておくといいな』
三人そろって、前向きな言葉を大事にしてた。
単純だ。何かをやろうとするとき、しんどい言葉は足を止める理由にしかならない。
ときに無謀なくらい勇気を振り絞らなきゃいけない瞬間がある。けど足を止めたら先には進めない。
だからこそ、褒めてくれる言葉を大事にする。
自分の心の輝きを、誰よりもまず自分が見失いやすいから。
褒めてくれる言葉は背中を押してくれる。その先にどんな結果が待っていようと、あくまでも責任は褒めてくれる言葉にはない。注意深くことを進めなきゃいけない瞬間なんてやまほどある。そればかりかもしれない。
けど、背中を押してくれる言葉は力になる。へこたれそうなとき、心が折れそうなとき、がんばれってエールを送ってくれる。
思いだしてみて。ひとつでもあるなら、どうか。
私はいっぱいあるよ?
ツバキちゃんが誰より最初に強くくれたもの。
おかげで私がカナタに贈れるようになったもの。
そして……カナタが私にくれて、元気になった私が贈れるようになって。
その輪はどんどん広がっていった。
みんなの大好きが私の力なんだ。それが私の金色の熱なんだ。
祈りをもっと力強く、どんなことさえ乗りこえられるように。
しゃんとしていこう。
だめなときすら、殺しにかかってくる相手すら乗りこえられるように。
私らしく。
幸い、仲間がいっぱい。友達もいっぱい。
誰かが見失っても、そばにいる誰かが教えられる距離感でいられるの。
ならもう、不安なんてちっともない。
乗り切れる確信ばかり広がっていくよ!
勢いつけていくからね?
ついてきてね!
つづく!




