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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第四十八章 大江戸化狐、片恋欠月帳

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第五百三十話

 



 うろうろと歩き回るように、本丸御殿の敷地へと移動するの。門をいくつも抜けて、案内されていく先には、華やかな昔ながらの宮大工さんが作ったような建物がずらりと並んでいた。

 入り口の手前で私を連れてきたお侍さんたちがみな左右に分かれて道を作り、跪き、頭を垂れる。宗矩さんが歩いていくからついていくんだけど、建物の前で止められちゃった。

 宗矩さんが大きな声を出す。


「恐れながら――……」

「待っておりましたよ」


 けれど途中で中断させられちゃうの。

 気の強そうな、けれど優しそうな年配の女性の声によって。

 きょとんとした。家光さんのお母さんにしては、年老いていすぎる気がする。

 直ちに宗矩さんがその場に膝を突く。

 どうしたらいいのか戸惑うけれど、こういうときは周囲に合わせておくのが吉って考えちゃうあたり、日本人だなあ……私。


「――……それで? 宗矩。どう呼び出したのです?」

「どう、と申されますと」

「阿呆の真似などなさらぬように。あなたのことだから、策を弄したのではありませんか?」

「――……お江さまの落命を、この狐殿はご存じないようです」

「そう――……いいわ。お下がりなさい」

「しかし」

「だいじょうぶ。見ればわかるはずですよ? そこな狐が、人の血を浴びたことなどないことなど」


 話の展開に必死に頭を働かせていたときの、不意の指摘にぞっとした。


「――……失礼、いたします」


 宗矩さんがすっと立ち上がり、私を一瞥すらせずに、お侍さんたちを連れて立ち去っていく。

 ここへきて理解した。誘い出された。あっさりと。なんの準備もできずに、敵地へ。

 だらだらと内心で汗を流しながら、迷う。顔をあげるべきか、それとも俯いたままでいるべきか。

 声の主は姿を現さない。ただ、屋敷の中から声を出すだけ。

 でも間違いなく見られていた。計られていた。私という器がどれほどのものか。

 獣耳を立てる。音を探る。衣擦れの音すらしない。涼やかな風と小鳥の鳴き声しか聞こえてこない――……。

 たまらない緊張感の中、静寂を解いたのは軽やかな足音だった。

 ふたり分、近づいてきて、私の前で止まる。


「顔をお上げくださいませ」

「大奥にご案内せよとの申しつけにございます」


 単語の力が半端ない!

 お母さんがたまに昔のドラマを見ていて、名前だけは聞いたことがあるよ。

 大奥。場所の名前で、将軍さまの私邸がある区画のことだったっけ?

 待って? 家光さんのお母さまが呼んでいたはずじゃなかった? なのに宗矩さんは死んでいるみたいに言っていた。私がそれを知らないことを確認した、とも。

 まずいことをやらかしてしまったのでは?

 けど、いまさら、逃げられない。

 そっと立ち上がる。けど顔はあげずに、ついていく。ふたりの女の子はとても若かった。十二、三才くらいに見える。すたすたと歩いていくふたりに連れられて、屋敷の中へ。

 廊下を進んで、広々とした広間にたどりついた。

 こちらへ、と言われた先には座布団なんか用意されてなかったよ。

 それでも従うしかない――……のかな。


「おや。天女殿は気位が高いのか、畳の上に座るのはお嫌いと見えますね」


 さっき宗矩さんと語らっていた、年老いた女性の声が厳しく響いて思わず身体がびくっと震えた。


「――……側室にするにはすこし年を取っているように見えるけれど」


 うそでしょ!? 側室ってつまり、えっちもするし、なんなら子供を生むのが目的みたいなところがあるのでは? なのに私の年齢で年を取っている判定とか、江戸時代はんぱなさすぎなのでは!?


「それに大奥でのお勤めも、将軍さまのお世話をするにも、気が回りそうにない……ずいぶんと間の抜けた顔ですこと」


 丸顔のこと!? ねえ、丸顔のことですか!?


「けれど、なるほど……器量はいい」


 足音が近づいてくる。とん、とん、とん。


「尻もいい。腰回りもしっかりしている……胸もある。ただ、将軍さまの好みの顔には見えませんね」


 値踏みされている……! 露骨に!

 サクラさんのありがたみを思い知るよ……。カナタのお母さんはとても優しかったのだなあと痛感する。


「それに家柄、血筋も不明。これならばよほど、遊郭の娘を引っぱってきたほうがたしかではないかしら」


 かなりあしざまに言われてる。

 けど、ここまで嫌われると、いっそすっきりするなあ。


「――……それに」


 背後で足を止められた。尻尾を踏まれたりするのかな。そんな露骨な嫌がらせしてくるかな?


「男を知っているでしょう」


 ――……小中時代のいやな思い出が一瞬で蘇ってきたよ。

 そうだ、そうだ。女子の嫌がらせって精神的にくるんだった。


「宗矩も男衆も頼りないし、将軍さまの女を見る目を養うことができなかったのは、この私の不徳の致すところ」


 背後に立たれて嫌味を言われるの、つらいです……。


「その可愛い顔でいったいいくつ、肌を重ねてきたの?」


 誰なのかもわからないけれど、初対面でこうまであれこれ言われるときついなあ。

 ううん。しょうがない。言われっぱなしなのもよくないよね。


「申し上げてもよろしいですか?」

「あら、人の言葉がわかるのね。ええ、答えられるのなら、どうぞ」


 うう、いちいち当たりきついよ。そんな風に生きていてしんどくないのかなあ。

 敵認定されてるんだろうなあ、きっと。しょうがない。


「将軍さまにも申し上げましたが、既に思い人がおります。心が揺れれば、と条件を出させていただきましたが」

「断る気なの? わたくしが育てた竹千代の求愛を? なんて無礼な」


 えええ……。

 これってどんなゴールが待っているのですか……。


「で、ですから、既に心が決まっているわたくしにとっては、たとえ天下人であろうと恋仲の男には敵わないと申しますか」

「やはり将軍さまでは足りぬと言うのね? 天女と自称する不埒な娘め、憎たらしい!」


 うわあ! 泣きたくなってきたぞ!


「いえその。待ってくれませんか? 心に決めた人がいたら、ほかの人は誰であろうと関係ないということくらい、おわかりいただけません?」

「天の理で話をしないことね。ここは人の世なのだから」


 めまいがするけど、まあでも一理あるかも。お互いの妥協点を探したほうがいいよね。問題なのは相手にその気がなさそうだってところ。


「人の世であれば、将軍さまのお誘いにはたとえどのようなことがあってもお応えするのが道理ですか?」

「もちろん」

「ですが、将軍さまは神ではなく人でございます」

「いいえ。徳川の将軍ともあれば神にも等しい存在でございます」


 ぴしゃりと言い返されて、いい加減げんなりしてきたよ……。

 呟きアプリで揉めている人の言い合いみたいになってきてない?

 あーもう。やれやれ! しょうがないなあ! こうなりゃ自棄だ!


「妾は天より来た者。そもそも、腹には既に子がおりますれば、九度の逢瀬で諦めていただこうと考えております」


 嘘です! でもこれくらい言わないとどうにもなりそうもないです!


「――……では、わたくしたちをたばかったというのですか?」


 どうしてそうなるの!? 被害妄想の塊すぎない? だいじょうぶ!? 疑心暗鬼の塊すぎるよ!?


「ちがいます。妾たちはそもそも幽霊騒ぎが起きているからお助けしに参っただけ。お見初めいただけるなどと、とても考えてはおりませんでした」


 必死に堪える。ネットテレビで無茶ぶりされまくってきた経験が、こんな形で役に立つとは思わなかった。

 我慢して言うよ。


「ですが天下の大将軍のお誘いを無碍に断ることはできません。普通の女子ならば一度で、吉原で働く女子ならば三度かかるところを、妾は九度さしあげました。それは天下の大将軍であればこそでございます」

「――……合格」


 え!?


「なるほど。見た目ほど愚かではなさそうね。知恵は回るし、とっさの発想もわるくはない。わたくしや宗矩をたばかるまでには至らないけれど」


 ……ええと。


「な、なんのことでしょうか」

「子などいないのでしょう? 最近、男に抱かれた女子の足取りではなかったもの」


 わかるの!? たしかに昨夜は未遂で終わりましたけど!


「それにゴミを漁らせ、忍びに探らせました。あなたたち妖怪たちは妙な布をつけて月のものに対処しているようですが。今朝方、たしかに――……」


 だいぶ聞いちゃったけど、核心に触れられる前にとっさに獣耳を伏せました。顔が真っ赤になるよ。怒りと恥ずかしさ、それにいたたまれなさで。ああもう。ああもう!

 そりゃあさ! ここには女子しかいないし! 天下の大将軍が言いよる相手の素性を調べる必要があるかもしれないけどさ! そりゃあいくらなんでも、あんまりなのでは!?

 ――……いや、タマちゃんの声が聞こえたら、それくらい必要とあればするじゃろうとか言いそうだし。私もそう思ってしまった。

 うんざりするけど、それくらい私が置かれた状況はガチなのだろう。


「ええ、そうです! 嘘をつきました! これで満足ですか?」

「ちなみに昨夜、なかなかの美男子と乳繰り合っていたとか」


 見られていたの!?


「むしろわたくしが心配しているのは、あなたの恋仲と思しきその美男子に将軍さまが懸想しないかということです」


 ――……そ、それはまた、なんとも言いかねるのですが。

 人に言えないよね。江戸時代に時間跳躍して彼氏を将軍さまに取られました、なんて。

 言いたくないし、想像したくもない。あとカナタのそういう相手はラビ先輩であってほしい。いや、渡さないけどさ!


「まあいいわ。あなたの考えと心が人に近しく、そういう見方をすれば……あなたはとても、民に近い性根でいるようね」


 足音が回り込んできて、前にある台の座布団にやっと彼女が腰を下ろした。

 気位の高そうな品のいい女性だった。最初に抱いた優しそうな印象を取り戻すには十分な顔だちだったけれど、もしさっきまでの問答が私を試すためのものなら……ひと目で判断しないほうがよさそうだ。


「それに……徳川を滅ぼす何かの刺客でもなさそう。そういう類いの者であれば、宗矩たちや、なによりこのわたくしが見抜きます」


 それは自分の力を過信しているかのようで、けれどもっと強い意志を感じる声だった。


「福と申します。名を伺えますか?」

「――……はるひ、と申します」

「ええ、存じておりますよ」


 にっこりと微笑んで頷き、私をぎらぎらと輝く瞳で見つめてきた。


「はるひ、あなたは徳川を去るのね?」

「ええ」

「ひとりでも子を儲けるつもりは?」


 いやもう、あのう。あれこれねじ曲がっていて、江戸時代さっぱりわからないよ!


「あの――……ないです」

「肌を重ねれば気持ちも変わるのではなくて?」

「あ、あの。私が側室になるの、いやだったんじゃないんですか?」

「やっぱり猫をかぶっていたのね。それとも狐が化かしていた? どちらでもいいわ。気楽に話して。あなたのこと、だんだん気に入ってきたの」


 やばい。敵に回っていたからこそうまく逃げられそうだったのに、味方になるにつれて自分の首が絞まってきてる!


「も、申し訳ないのですが。私、本当に心に決めた人がいまして」

「将軍が相手よ? このうえない名誉だし、将来は安泰よ? それこそあなたが子をなせば、それが男子であれば! あなたは大奥を取り仕切ることさえできるのよ?」


 人はこうして望まない見合いや縁談に頭を抱えるのかなあ。


「た、大変ありがたいのですが、そういうのに興味はないですから」

「なんで? ご飯は冷めているししきたりは多いけれど、間違いなく街で暮らすよりも優雅に生きられるのよ?」


 現代のほうが物質的には豊かだし、江戸時代の街の人たちだって活気に満ちていて素敵だし。なにを素敵と思うかは人それぞれだと思うのですが。

 うーん。なんて言えばいいのかなあ。


「本当にありがたいんですよ? でも、私は本当に、好きな人と寄り添って生きられればいいのです」

「なら彼も呼べばいいわ。将軍さまの手つきになるかもしれないけれど」


 頭の中でカナタが必死にノーって叫んでる。わかってるよ。受けたりしないってば。


「申し訳ございません。私の恋人は男色に興味がないので」


 ラビ先輩とはたびたび怪しい感じになってるときがあるので、士道誠心高等部のごく一部の女子はほんほんしてますけど。


「――……残念ねえ。でも側室に誘われているのなら将軍さまのお世話はしてもらわないと」


 ……なに!?


「い、いえ。私は素性不確かな身でございますから! お城で働かせていただくとなると、大勢に睨まれてしまいます」

「あなたが孕めば強い子になりそうなのに」


 いろいろとストレートすぎるよ!


「そ、そういうの、無理ですから」

「顔を赤らめるとあれば……子はまだなしたことがない?」


 ぐいぐいくるよ! 助けて!


「そ、それは、その。個人的な事情でございますから」

「ないの?」

「ですから」

「ないの?」

「……ないですけど」

「いつも避妊してるの?」


 誰かほんとに助けて!

 サクラさん、現代に戻ったらお礼に伺います! 何度も頭を下げますから!

 だからどうか、この場を収める術を私にお授けください!

 ――……。

 まあ、聞こえるわけないよね。知ってた。

 はあ……。


「してますけど」

「ならいいじゃない。気持ちいいわよ?」


 ちょっと!


「あの。避妊しなかったら子供ができちゃいます」

「わたくしは望むところですよ」


 逃げるしかないんじゃないかっていう気がしてきた。


「抱かれる気はないですし。お断りしますから」

「なにがあっても?」

「なにがあってもです」

「忍びの秘術で惑わせても?」

「自死します」

「そんなにいや?」

「恋仲の男性以外に触れてもらいたい願望はありません」

「天海さまの水で酔っても?」

「恋人以外、お断りです」

「……たしかに美男子だけど、ねえ。将軍さまも素敵ですよ?」

「それはわかっていますけど。そういう問題じゃないんです」

「そんなにいや?」


 ……はあ。


「くどいです」

「……心がわりの術もあるし、快楽がお望みなら手配するけれど?」

「そういう問題でもないんです!」

「富と権力と快楽でもだめ。なら、どうしたら受けてくれるの? あなたの仲間たちを危険に晒す?」

「そういう手法はオススメしません。私たちはけっこう強いですよ?」

「……そうねえ。できれば血は流したくのだけど。じゃあ、当初の予定通りで我慢するしかないわね」


 頬に手を当てて、ふうってため息を吐いて福さまは仰ったの。


「家光の男色を直せとはいわないわ。せめて女子に興味をもてるようにしてあげて」

「結局、そこにいきつくんですか」

「ええ、そうよ」

「……はあ」


 堂々巡りをされてうんざりするけれど、それくらい手強い相手だし、さらにいえば将軍さまの女性に対する興味のなさはそれくらいの大問題なんだろう。

 しょうがないなあ。まあ、そこはなんとかするつもりだったからさ。いいよ! 一度は自棄になったんだもの。


「それじゃあお尋ねしたいんですけど。側室ってことは正室の方がいらっしゃるんですよね? その方とは?」

「……仲が悪くて、早々に絶縁状態なの。政略的な結びつきで結ばれたのだけど、犬猿の仲というか。気位の高い方でね? 将軍さまをかなり蔑んでおいでだった」

「――……それで、男色に?」

「そういうわけではないと思いたいけれど。性を踏まえた女性に対する好奇心のなさは、恐らくは……」

「ああ……」


 最初の結婚でうんざりしちゃって、もう女はいいやーみたいな流れなのかなあ。

 だとしたら、そうとう仲が悪かったのかな。それか、ひどいことを言われたのか。あるいはひどいことを言っちゃったとか?

 理解できないから拒絶して、そこで関心が止まっているのかな。むしろ自分と同じ性別だから理解できる、みたいな?

 ルルコ先輩は垣根なんか飛び越えてメイ先輩を愛してるし、マドカも女子だからっていう理由で私やキラリにちょっかいだしているわけでもないけど。

 将軍さまが男性を好きな理由がわかれば、ちょっとは解決策も見えるのかな?

 思いつくアプローチはふたつ。

 男色か、それともひどい結婚か。

 んー。悩ましいけれど、情報がふたつあるのはありがたい。糸口があるのとないのとじゃ、全然ちがうもの。


「将軍さまも本気ではないと思うのだけど、あなたに興味を覚えたのはたしか。ですから、ひとつだけお願いしてもいいかしら?」

「あのう。女子に興味を持たせる以外になにか?」

「ええ、あるわ。あともうひとつでいいの」


 尋ねると、福さまは微笑んで無茶ぶりを仰るのだ。


「将軍さまを欲情させてちょうだい。応えるかどうかは任せるから」


 神さま……!


 ◆


 大奥を出されて、とぼとぼと滞在している屋敷に戻る。

 腕を組んだコナちゃん先輩が出迎えてくれたんだけど、笑顔のこめかみに浮かぶ血管に項垂れた。ああ、これは怒られる奴だ。今日はそんなのばかりなのか。とほほ。


「その顔を見ると、さらなる無茶ぶりをされてきたみたいね。いちおう聞くわ。無事?」

「……まあ、触られたり、神水を飲まされたりはしてないです。身体は無事」

「じゃあ精神的には?」

「欲情させてって言われました! 私はどうしたら!」


 思わず抱きつく私のおでこにチョップを当ててから、コナちゃん先輩は呆れてため息を吐きながら私を抱き締めてくれたの。


「本当に、城に乗り込んでから退屈しないわね。しょうがない……いちおう、中へ入って事情を聞くけれど。ほかになにか、いますぐ聞いておくべきことは?」

「トイレのゴミは焼却処分するべきです」

「――……本当に酷い目に遭ってきたみたいね」


 うんざり顔のコナちゃん先輩は私のお願いを聞いただけで事情を察してくれたみたいだった。

 ふたりで屋敷に入って、あったことをすべて伝えたの。

 話し終えたらすぐに生徒会メンバーや卒業生の主要メンバーを呼んでくれたんだ。お姉ちゃんやマドカたちもついてきたよ。

 手短にまとめて伝達してくれたコナちゃん先輩の話を受けて、カナタとお姉ちゃんが何とも言えない顔をしたの。


「いくら追い込まれたからって、子供ができたっていうのは……なあ」

「いや、この時代からしたらそうおかしなことではないだろうが。しかし、大変だな……」


 ふたりとも私をばかだなあって顔をしてみてくるのが痛い! でもしょうがなかったんです! だって、コナちゃん先輩に聞いた話じゃ、お母さまを飛び越えて、乳母さんがあれこれいってきたんだよ? そんな経験したことないもん! 無理だよ!


「しかし家光の側室といえば……いちおう、解決策はあるのよ」


 コナちゃん先輩が腕を組んで、それから私の顔をじーっと眺める。

 それに気づいて、マドカが手を叩いた。


「ああ! そっか! なるほどね! たしかに、ハルってうちの学年じゃ屈指の童顔だよね!」

「え?」

「――……やっとわかった、そういうことか。まあ、たしかにどちらかといえば幼い方だと思うけどな」

「え!?」


 キラリまで、私の顔を見て納得したように頷くの、なんで!?

 だいたい童顔って単語はなぜでてくるの?

 しみじみとユリア先輩が頷きながら呟く。


「闇が深い」

「ルルコからしてみたら……めちゃめちゃ納得だけどなあ。メイはどう?」

「この時代のできごとを踏まえて想像するに、それは病気か、はたまたたんなる嗜好の問題か。どちらにせよ、イエスとかノーとか言ってられないわけだ」


 ますますわけがわからないよ!

 きょとーんとする私に、北野先輩が肩を竦めて仰いました。


「将軍は男色の次にロリに目覚める」


 パワーワード感!!!!!!


「ええええ。え? えええ!?」


 思わず自分を指差す私に、みんなが頷いて言うの。


「「「 ロリになれば欲情させられるんじゃない? 」」」


 そんなのあり!?




 つづく!

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