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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第四十六章 進級で出会う後輩は暴れん坊です?

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第五百三話

 



 ツバキちゃんや理華ちゃん、それに聖歌ちゃんたちが入学してきた。

 それだけじゃない、お姉ちゃんも士道誠心にやってくるんだよ?

 コバトちゃんとトウヤも中等部に入るっていうし、やばくない? やばいよね!

 一年生の子たちと朝会ったときのテンションはかなりやばかったよ! 尻尾が九本ともぶわってなったよね。

 でも、なかなかお話できそうになかったよ。

 なんかねー。いろんな人が声を掛けてくれるの。それ自体はね? とっても嬉しいよ。すごくね。

 でも私はまだまだ、実力が足りてない。トシさんたちは誇れって言ってくれるときもあるし、だからこそちゃんとやれって怒ってくる。認めてくれるのは嬉しい。素直に、心から喜んでるよ?

 だけどね。戦いの場で、歌でやりきれることがきっともっとあるんじゃないかなあって思うから、私はまだまだなんです。

 身に余る光栄なお誘いをたくさんいただいて、まさにスター街道まっしぐら! カナタの地元の商店街の人たちに「お狐ちゃんはいつかやってくれると思っていたよ」なんて言ってもらえるようになるためには、もっともっとがんばりたいの。思いきり、暴れまくりたいの。

 そんな私を相手に、きゃっきゃとはしゃいで近づいてきてくれるのは……ありがたいけど、まだまだ早いよなあって思う。舞い上がるよりもっとずっと、落ちつかなきゃって思う。

 キラリもマドカも如才なく、いろんな子にお花を渡して声をあげていくの。

 そうして嵐が通り過ぎて、コナちゃん先輩たち生徒会の人たちが入ってくる。


「お助け部! あなたたちも早く教室へ行きなさい」


 それだけ行って、コナちゃん先輩はカナタたちを連れて颯爽と移動していった。

 いくぞってキラリに背中を叩かれて、急いで上にあがる。

 二年生になって、クラス編成が変わったの。

 零組の四人と十組は一組から九組の中に。単純な学力とか成績順から、もっとずっと戦闘の態勢を取る際にまとまれる編成に変わる。

 そしてそして、超絶期待のニューフェイス! お姉ちゃんがいる!

 あとはね? 私とキラリとマドカ、それにトモとノンちゃん。一年九組からはカゲくん、シロくん、岡島くん、茨ちゃん!

 十組の七人と零組の四人、それに姫宮さんとユリカちゃん。ルミナとフブキくんもいるし、日下部さんや泉くん、柊さんもいる。

 これが新生二年九組なの!

 羽村くんは木崎くん、井之頭くんと八組に。神居くんも残念3も犬6も、それぞれに散らばっていったよ。一年生の頃、いちばん戦闘経験がある一年九組の生徒はそれぞれのクラスで活躍することを期待されているのかも、っていうのはマドカの考えで、なるほどなって納得しちゃった。

 とはいえ、二年九組の戦力はやばいくらい充実してる。逆に言えば、今年はそれに応じたカリキュラムがやまほど組まれていくということなのかもしれない。それってちょっと、ううん。かなり不安だ。なにが私たちを待っているのかな?

 そんな不安も、入学式を経てあっという間に吹き飛んじゃったけどね!

 理華ちゃんの挨拶が特に記憶に残っているの。

 教室に戻って開口一番、キラリがうなる。


「あいつ甘えてないか?」


 マドカが楽しそうに笑いながら放つ。


「うーん。愛でてっていうのと、甘やかしてくださいっていうのは意味がちがうかな。まあ甘えてはいるんだろうけど、きびしくするなってことでもないと思うよ。ただ、愛をもって接してっていうだけでしょ」


 流れるような意見にキラリは渋い顔。


「……愛をもって、ね」

「ぷりぷりキラリは愛情表現が下手でやがりますね!」

「アリス、尻尾を掴もうとするな」

「掴めないですけどね! おかげで幼女のテンションはうなぎのぼりだぜ! いやっほう!」

「ふん……」


 つんと澄ました顔で窓の向こうを見るキラリの尻尾を、ぴょんぴょん飛んで掴もうとするアリスちゃん。自称幼女も頷けるくらいちっちゃくて童顔。

 暁という名前は私たちの学校で特別な意味を持つ。メイ先輩のひとつ上の代で生徒会長をやっていて、邪に心をやられてしまったけれどメイ先輩の愛情で復活した、暁カイト先輩。メイ先輩やラビ先輩たち上級生二代にとっての圧倒的カリスマだったという。私の個人的なイメージだけど、メイ先輩やラビ先輩たち全員を足し算したような人なのでは? と思ってます。

 その妹さんであるアリスちゃんは不思議な子。隔離世に私たちが行くためには御珠のレプリカを使って魂を飛ばす必要があるのに、その過程を経ずに、ないはずの道を見つけて隔離世に移動しちゃうの。カナタに話してみたことがあるけど、さっぱりわけがわからないみたい。

 ただね? カナタの妹のコバトちゃんみたいに、隔離世に愛された存在なのかも……みたいな謎めいたことを言っていたよ。それってつまり、どういうこと? やっぱりよくわからないのです。

 とりあえずアリスちゃんかわいい。それでいっかな、みたいなところあるよね。


『そういう理解で済ませていたら、いつか痛い目をみるんじゃないかの?』


 まあまあ、タマちゃん。同じクラスになったんだから、一緒に付き合っていけばいつかわかるよ! きっとね!

 笑おうと思ったときだったの。


「――……こんっ!」


 不意にこみあげてきた衝動のまま、咳き込む。


「こんっ! こんっ!」

「……中学時代とはまた打って変わって妙なくしゃみだな。だいじょうぶか?」


 そっとハンカチを差し出してくれるキラリにお礼を言って、ハンカチをそっと返す。

 お鼻は出てない。ただ、なんかなあ。なんでだろう。


「尻尾から喉にかけてむずむずします」

「今日は噂が止まらないでしょー。お助け部として生徒会の手伝いを買って出てみせて、積極的に三年生に絡んでいきつつ、三年生の休憩時間もとい空き時間に私たちで出し物をやる! 作戦どおりにやればやるほど、ハルのくしゃみは増えるとみたね」


 マドカはほんと、軽く言ってくれるよなあ。


「くしゃみしすぎて喉が腫れてしまうのでは」

「あっ……あの! のど飴、なめる?」


 後ろから掛けられたきょどきょどした声にふり返ると、中瀬古コマチちゃんがあめ玉を差し出してくれていたの。老舗の渋い、けど効く奴! ちなみに舐めすぎるとお腹がゆるくなるのが考え物。でも好きだから、


「ぜひぜひ! コマチちゃん、ありがとー!」


 素直にもらっちゃおう!


「う、うん」


 はにかんで笑ってほっとしてくれる顔を見ると、胸がきゅんってなるのは私だけ?

 ところですぐ後ろの席に座っているお姉ちゃんがずっと黙っているのはなにゆえ?


「ねえ、お姉ちゃん。どうしたの?」

「……いや、その。同世代の人間だらけって、落ちつかないな、と」

「いまさらなに言ってんの」

「うるさい! ほっとけ!」


 ふたりで話していたら、キラリやマドカだけじゃなく、ほかのみんながちらちら見てきた。

 私とお姉ちゃん、顔も身長も体型もそっくりだからね! 体毛の色と獣耳&尻尾の有無の違いで見分けるといいかも。って、そういうことじゃない?


「しかし、見れば見るほど」「似てるね……」「性格はちがうみたいだな」「緊張していらっしゃるのなら、どなたか声をおかけになっては」「賢そうな春灯ってどう接したらいいのかわかんない」


 あ、あれ? なんか微妙な言葉がありませんでした!?

 ざわざわしているクラスに先生が入ってくる。

 もちろん――……ライオン先生だ。


「傾聴せよ」


 ぴたっと静まりかえる私たちにライオン先生は笑ったりしない。


「昨年度はたいへんなことが立て続けに起きた。しかし、ひとりも欠けることなく進級できたことを心から誇りに思う。だが――……今日このときも、我々は危機に晒されているという自覚を持つ必要がある……などとは、言うまでもないことのようだ」


 私たちの覚悟と決意に満ちた顔を見て、やっと笑ったの。


「二年次のカリキュラムはより実践的なものとなる。それぞれの社会に出た活動との折り合いをつけながら、緩めるときも締めるときも全力で臨むように。遊べ。笑え。そうして戦い、学べ。それぞれに、自分らしくあれ」

「「「 はい! 」」」

「よし。それでは――……山吹、説明を」

「はい!」


 ライオン先生に促されて迷わず立ち上がり、マドカが黒板の前に行く。


「生徒会から提案された、縦割りチームの結成ですが――……三年生三名、二年生三名、一年生三名……合計、九名のユニットを組んでもらいます」


 九人かあ。


「原則として、基本的にはクラス内での調整をお願いします。これはクラス間、クラス内の色分けをより明確にするための施策です。基本的には一年を通じて、いろんな授業や成績のサポートをしあいながら、邪討伐で行動を共にする形になります。それを踏まえて、三名で固まってください」

「はいはい! 組みたい奴と自由に組んでいいの?」

「そうですね」


 迷わず挙手した茨ちゃんにマドカが頷く。


「背中を預けられる、あるいは預けられるようになりたい人を選んでもらいたいと思います。一年間、苦楽を共にする相手は誰がいいのか。そう考えたら、きっと選択肢は多くない。単純に仲がいいから、恋人だからというよりはもっとずっと、命を預け合えるかどうかで選んでください……っていっても、結果はたいして変わらないかな?」


 マドカの笑いながら放たれたマシンガンにみんながお互いにお互いを見た。瞼を伏せて腕を組んで寝ているギンと、ギンをほっとけないシロくんとノンちゃん以外はね!


「すぐに決められそうですか?」


 すっと立って、私の肩に手を置いたのはトモだった。


「あたしが守るって決めたからね。それとも、あたしじゃ役不足?」

「トモ……まさか! 嬉しいよ?」


 最初に声を掛けてくれたのがトモで、じんときちゃったよ。


「それじゃあ双子の姉だっけ? あなたも、どう?」


 トモは迷わずお姉ちゃんに手を差し伸べた。

 まばたきしてから、トモの手をじっと見て、仄かに赤面してお姉ちゃんが「……まあ、いいぞ」と呟いたの。なんだかほっこりしちゃったよ。それにやっぱり、じんときちゃった。青澄姉妹の最初の友達になってくれたの、やっぱりトモなんだなあって実感しちゃってさ。

 しみじみ考えていたらね? お姉ちゃんのふたつ後ろにいるキラリに声をかける人がいた。虹野くんだ。


「キラリ……そ、その。俺と、いいかな」

「まあ……ね」


 キラリが私たちをちらっと見てから、声を掛けてきた虹野くんに頷いて、すぐに前の席に声を掛ける。


「アリス、あんたはこっちにこい」

「待ってました! よっ!」

「どんな反応だ、それは」


 きゃっきゃとはしゃぐアリスちゃんを抱き留めている。

 ほかにもね?


「タツさま、もうおひとりはどうなさいますか?」

「ふむ……」

「柊! 柊レンカをお願いします! 柊、いい仕事しますから」

「よろしく頼む」

「さすがの即答! 月見島くん、痺れますね……(たちもり)ユリカさんも、どうぞよろしくお願いします。柊、がっつりサポートしますので」

「まあ……ふふ、お願いいたします」


 すぐにタツくんはユリカちゃんと柊さんと組んじゃった。

 レオくんは姫宮さんとふたりで、狛火野くんに声をかけていたの。


「ユウ、きみさえよければ我々と行動を共にしないか?」

「レオは遠慮しすぎだ。もちろん、いいよ!」

「よかった! よろしく頼む」


 そんな感じで、みんなスムーズに組んでいくの。マドカはマドカでルミナとフブキくんに絡みにいって、あっという間に三人結成。

 岡島くんと茨ちゃんがセットなのも納得だったし、泉くんが「よう、おふたりさん。混ぜてもらっていい?」と絡んでいってすぐに組んじゃうのも、なんだか納得。泉くん、男子みんなと仲いいし。九組の面子とも仲よかったもんなあ。

 そこいくとね?


「ギン、起きてください」

「こういうときまで寝ているのはどうなんだ! 起きろ!」

「ふあ……ん? んだよ……うるせーなあ、ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ」


 焦るノンちゃんとシロくんに事情を説明されたギンは迷わず「じゃあお前らふたりな。おやすみ」と言ってまた寝ちゃうの。

 相変わらずのマイペース!

 マイペースといえば。


「ミナト、さっさとユニスちゃんを誘えよ」

「いや、カゲ、そういうけどよう。なんかあいつ、俺のことにらんでるんだけど」

「機嫌が悪いあの子に構い過ぎたからじゃね? それともまたデートで失敗したとか?」

「してない! ――……はずだよ。すくなくとも俺がすべってあいつのお乳に触れるまでは」

「それじゃん」

「……謝りつつ誘ってくるわ」

「おう、がんばれー」


 カゲくんがミナトくんをけしかけて、ユニスさんを誘おうとしてる。

 かなり侮れない三人組が次々とできていくんだ。トラジくんとコマチちゃんには日下部さんが話しかけている。これでみんながチームを組めた。

 手を叩いてみんなの注目を集めたマドカが言うの。


「よっし、全員組めたね。それじゃあ一年九組に移動するよー! 三人えらんでね。私たちはスムーズにいったけど、もちろんこういうのが苦手な子もいるから、率先して声をかけてあげて」

「選ぶために行くのか?」

「シロくんナイス質問! さすがに一年生の特色はまだ掴めないから、一組から八組に関しては今週と来週の二週間を選考期間とします。けど九組に関しては、御霊を既に宿した生徒もいるため、できれば今週、もっといえば今日中に決めたいな。私たち、フィーリングには自信あるでしょ?」


 最後の煽りに笑っちゃった。マドカらしくてさ。


「それじゃあ移動しよっか。はい、きりきり動いて-!」


 ぱちぱち拍手をするマドカにみんな、ぞろぞろと移動を始める。寝続けようとするギンにノンちゃんとシロくんが苦労してるけどね。狛火野くんとタツくんがふたりでギンの肘を取って、捕まった宇宙人よろしくずりずり引きずりながら連行していくの。ふたりとも慣れすぎていて、去年の一年間の苦労がしのばれますね!

 一年生の教室がある上の階に移動して、九組の教室を開けようとしたときだった。けたたましい物音がしたの。

 マドカがあわてて扉を開けるとね?


「――……ケンカうってんのか、てめえ!」

「わかりやすく言うと、売られたから買ったまでだ」


 ツンツン頭の眼鏡のふくよかな男の子が金と茶のメッシュ髪の男の子とにらみ合っていた。机や椅子が転がっている。


「ふ、ふたりとも、落ちついてぇええ……!」


 涙目になっているのは、飯屋クウ先生だ。教卓に正座しているニナ先生は静観の構え。

 聖歌ちゃんも、それにツバキちゃんも戸惑っていた。

 理華ちゃんと、北海道のインストアライブで見かけたとびきり綺麗で一年生代表になった美華ちゃんはニナ先生と同じく、見守るだけ。

 扉のそばにいた金髪の優しい顔立ちの男の子が私たちに顔を向けて、口元に人差し指を立ててみせる。そばにぽやっとした顔の男の子がいて、はらはらしながらケンカしているふたりを見ていたの。

 教室内を見渡してみる。メイクがばっちり決まっている女の子や、豊かなポニテの女の子とか、かなりボリュームのあるツーテールの女の子とか。男の子もたくさんいて、けれどみんな戸惑っていた。


「でけえから前が見えないっつったんだ。お前みたいな野郎はお呼びじゃねえんだよ!」


 メッシュの子が眼鏡の子に、それこそ鼻がぶつかるくらい顔を近づけて睨みつける。あれは、なんだっけ。えっと。メンチビーム? な、なんかちょっと違う気がするね!


「それ、ハラスメントだから。きみには一般的な常識や優しさが見受けられない。とても残念な人生を送ってきたようだね……正直、同情するよ」

「あァ!?」


 にゅ、入学初日でめっちゃ揉めてる……!


「ニナ先生、止めてくださいぃいい!」

「止めようと思えばすぐ止められるのだけど……ふたりとも、どうしたいですか?」

「「 断固拒否だ! 」」

「生徒がこういうんですもの。怪我をしないように止める準備だけしておきましょう」

「そんなのんきなぁあ!」


 クウ先生、振り回されてるなあ……。


「ぶん殴られてぇのか? てめえ」

「悪いけど、そんな手段しか取れないならきみの負けだ。暴力に訴える時点で野蛮で下品だよ」

「上等だ!」


 迷わず、そして意外にも鋭くメッシュの男の子が拳を鳩尾に叩きつけた。

 ぽよんとしたお腹を厳しく打ち、眼鏡の男の子が倒れ――……なかった。笑ったの。


「それで?」

「――……んだ、めっちゃかてえぞ!」

「次は顔でくるか? それなら避けさせてもらうよ。入学初日に顔に打撃なんて、いやだからね。眼鏡が壊れたら困る。意外と高いんだよ、これ。きみには弁償できないと思うからね」

「てめえ!」


 メッシュの子が迷わず拳を引いて、顔へ。

 けれど眼鏡の子はふくよかな体躯でサイドステップ。機敏に避けた。しかもね? 避けざまにカウンターの拳を伸ばしていたの。

 きっと寸止めにしたつもりなんだろう。メッシュの子の眼前で。

 ぱす、と。とても軽い音がした。メッシュの子もまた、カウンターを読んで手のひらで受け止めていたの。


「――……やるじゃねえか」

「体型を弄るのはハラスメント行為だ。理解を示せないもの、浅い考えなどから批判することほど浅はかで愚かな行為もない。きみの暴力行為と同じで、醜さが露呈する。オススメはしない」

「……ちっ」

「みんな、すまない。騒がせた……机を片付ける。しばし時間をくれないだろうか」


 眼鏡の子はあちこちに倒れた机や椅子をひとりで直し始めた。見ていられないのか、それとも暴れた自覚があって反省しているのか、メッシュの子も舌打ちして彼に続く。金髪の子や七原くん、それに聖歌ちゃんやツバキちゃんもお片付けを手伝ってから、みんなが動き始めた。

 やっと教室に平穏が戻ってみんなが椅子に座ったころ、マドカが咳払いをしたの。すぐにニナ先生がにっこり微笑んだ。


「二年生のみなさんが来てくれました。すぐに三年生もくると――……ああ、来たみたいね」


 ニナ先生の言葉に耳を澄ませる。階下から階段をのぼってくる音が聞こえてきたの。

 すぐにコナちゃん先輩たちが来たんだ。私たちに入室を促してくるから、素直に従って教室へ。一年生のみんなを取り囲むように入る。


「上級生のみなさん。ちょうど、一年生は自己紹介が終わったところです。一年生のみなさん、先輩がたと――……」


 ニナ先生が一年生のみんなにチームの話をしたの。

 一年間を共にする制度。去年度の私たちが出会った厳しい事件の数々を、次はもっと円滑に乗りこえられるようになるために、一緒に行動するための取り決め。

 説明された一年九組のみんながざわつきながら私たちを見渡した。私を見てくれる子も多い。ありがたいなあと思いつつ、でもねー。実は心に決めてたりするんだよね。


「ちなみに先輩がた、既に心に決めた子はいたりするかしら?」

「はい!」


 迷わず手を挙げた私にみんなが視線を向けてきたの。

 胸を張って、なんならどや顔で見つめたよ。


「夏海聖歌ちゃん」

「――……え、わ、私、ですか?」


 戸惑う聖歌ちゃんに力一杯頷く。


「そうだよ! それから、綺羅ツバキちゃん!」

「……ん!」


 待ってました、とばかりに輝く笑顔を見せてくれるツバキちゃんにほっこりしつつ、満を持して伝えようとしたんだ。


「そして、立沢り――……」

「はい、ちょっと待った! はいはい! 立沢理華さんは私、山吹マドカが引き取ります!」


 な、なぬ!? まさかのマドカストップ!?


「新入生代表の挨拶は痺れたし、なんていうか絡まずにはいられない引力を感じるの! 退屈はさせないよ!」

「うちもおるし、おいで!」

「なんか知らないけど、かわいい女子は好物だ! いって! ルミナ、蹴るなって! と、とにかく、賑やかな職場なんでよければぜひ」


 挙げ句チームがかりで説得まで!?


「なら……聖美華、あんたはうちで引き取る。仕事先でアンタの仲間から頼まれてるんだ」


 キラリまで積極的!? しかも仕事絡みとか特別感はんぱない! っていうか美華ちゃんってミコさんとふたりで来てたよね。ってことは、明坂つながり? キラリってば、いつの間に!


「ちょ、ちょっとふたりとも!?」

「うるせえぞー、ハル。それよか、さっきケンカしてた野郎ふたりは俺んとこにこい。面倒みてやらあ。あとひとり、暴れたい奴。いたら挙手しろ」


 ギンまで!

 苦笑いを浮かべたレオくんが咳払いをした。


「部活勧誘などと同じで、急にあれこれ言っても混乱させてしまうだけだろう。並木コナ生徒会長、このあとは特別体育館に移動して宴の予定でしたか?」

「ええ、そのとおり」

「ならば我々が一年生をエスコートしましょう。先生がた、ほかに伝達事項はありますか?」


 レオくんの問いかけにニナ先生はまるでひなたぼっこをして微笑むわんちゃんみたいな極上の顔で「ないわよ」って答えたの。

 マドカがけしかけ、みんなに起立と移動を促す。

 こういうとき、本質的に話しかけるの苦手とか、そういうのだと困っちゃうよね。私もお姉ちゃんもおろおろするんだけど、トモに背中を押されてツバキちゃんたちの元へ。

 マドカに負けずに理華ちゃんにお誘いしようと思ったのに、


「ねえ、あなたの積み重ねが知りたいな。あなたにはハルやキラリみたいな、特別な何かを感じるの。なによりやばいくらい可愛いし!」

「それはどうも。えっと、何から話しますかね」


 マドカが先手を打っている! くそう! マドカってばかなり積極的だから、押し負けちゃう! 悔しい!

 もっともっと悔しいのは、マドカのマシンガンに同じテンポで理華ちゃんが言葉を返せちゃうところ。ふたりとも弾丸を撃ち合うような高速トークを、のんびりした顔でくりだすの。そしてお互いに「やるな」みたいな顔をしちゃってるの! 相性ばっちりだよ! いいなあ!

 ほかにもね? つんと澄ました美華ちゃんにキラリが並ぶ。ふたりとも話さない。ただたまに視線を交わしてみせるだけ。なのになんでかな。妙に馬があっているように見えるのは。

 くそう。うらやましいです……! すべてに濁点つけて、ハンカチの端を噛みながら言いたい。そんなばかなことを考えている私の裾をくいくいっと引っぱったのは、ツバキちゃんだった。


「エンジェぅ……お姉ちゃんと、大親友と、三人?」

「あ、うん。まあね! 仲良しチームだぜ! あ、もちろんクラスのみんなとも仲良しなんだけど」

「知ってるよ」


 微笑む顔の背景に花が咲いて見えるのは、出会ったばかりの頃から変わらない。

 女の子の身体になっているけれど、でも愛しさも可愛いらしさも出会った頃から輝きを増すばかり。そんなツバキちゃんのそばを、落ちつかない顔で歩いているのは聖歌ちゃんだった。

 私をちらちら見て、でもどう声をかけたらいいのかわからずにいるの。

 そんな聖歌ちゃんに「自信を持て。だいじょうぶ、受け止めてくれるさ」と笑って声を掛けたのは七原くんだった。

 手をぎゅっと握った聖歌ちゃんが、意を決して「あ、あの!」って言ってくるから、もちろん笑顔で「なあに?」って聞いたよ。そしたらね?


「あ、握手してもらえますか!」


 え。この間ぎゅってしたのに? もうとっくにお友達の勢いなのに? なにゆえ、いま握手? いいけども。


「握手でいいの?」

「そ、その……金色、御褒美……くれますか?」

「いいよ! それだけでいいの?」

「――……あの」


 もじもじしてる。可愛い。すごく可愛いんだけど。

 何を言いだすんだろう。ちょっと気になる。不思議なタイミングの握手からの、次はなんだろう?


「さ、最初に呼んでもらって……すごく、嬉しかったです」


 はにかんで、涙さえ浮かべてくれるの――……やばすぎる!

 愛しさが溢れて止まらなくなって、思わず立ち止まってぎゅうううって抱き締めちゃった。


「ああもう! かわいすぎ! 大好きだよ!」


 なんかもういいや! って思っちゃった。

 初めて会ったときから、なんだか気になっちゃってさ。理華ちゃんから聞いた過去とか、そういうことを思うと……聖歌ちゃんだからこそ、私はそばにいたいなあって思ったの。

 理華ちゃんも、ツバキちゃんも、それは同じ。できるならみんなと一緒にいたい。

 チームは分けるためにあるんじゃない。結束を深めてまとまり、よりわかりやすく全体で支え合うために存在してる――……マドカはコナちゃん先輩の話を受けて、そう分析してた。

 それなら、こだわるよりは手にした絆をまず深めよう。そう切りかえてから、じっと私を見ている男の子に声を掛けたの。


「七原くんも、もしよかったら一緒にがんばってみる? 二年生は女子だらけだけど、それでもよければ」

「これほどの歓喜に恵まれるのなら――……ええ、喜んで。心がなにより美しい少女たちと共に歩めるのなら、本望です……ああでも待って。あまりの尊さに気絶しそう」


 え、えっと。ちょっと変な子かも?

 まあいいや! 特別体育館に行くよって促して、聖歌ちゃんと腕を組んで進む。

 やれやれって顔をしたお姉ちゃんが、私の後ろを見て怪訝な顔をしたの。


「お姉ちゃん?」

「――……気のせいか? 我の勘もゲーム狂いでやられたのかな。妙な気を感じたと思ったんだが」

「ん?」


 妙な気ってなんだろうって思ってふり返る。

 かつて自分たちが一年を過ごした一年九組にきたとき、扉のそばにいた金髪の男の子とぽやっとした男の子と、メイクがばっちりの女の子しかいない。

 念のため右目に意識を集中してみたけれど、死線は見えなかった。


「気のせいじゃない?」

「……まあいい。それより春灯、ゲーム機。はよう。我もある意味、現世的には誕生日だったんだぞ? 妹からの十六年分の誕生日プレゼントが欲しい」

「お姉ちゃん……叶えるのはやぶさかでもないけどさ。それ、学校で言うことじゃないよ。あんまり何度も言うと、クウキさんやお母さんに伝えるよ?」

「うっ……そ、それは勘弁してくれ。合わせる顔がない」

「私はいいの?」

「双子の妹に隠すことなんて特にないし」


 なんだそりゃ!


「もう、しょうがないなあ。っていうか、お父さんたちからはもらわなかったの?」

「アニメや漫画のセットだらけで、ゲームはなかった。トウヤはがんばってお小遣いから課金カードを買ってくれたけど……肝心のゲーム機がないんだ」

「そ……それは悲しいね」


 やれやれ。スマホで注文しておくか。

 ロケの話もたくさん来ていて、あちこちに行くことも増えそう。となると、お土産希望のお母さんとしてはお仕事のお金からお小遣いを調整するのもやぶさかではないみたいです。

 おかげでちょっと余裕あるんだよね。全体的に稼いでいる金額からしたら微々たるものなんだけど。私の仕事でクレジットとか作れるのかなあ? まあいいや。代引きで頼めばいいよね。


「じゃあ……予算は、これくらいまでね?」


 指でぱっと数字を示してから、お姉ちゃんにネット通販サイトのページを表示させたスマホを手渡す。


「機種とか保護カバーとか、ソフトとか。予算の範囲内ならプレゼント! これでいい?」


 空いている腕にぎゅうって抱きついて、


「春灯! 今日ほどお前を妹にもってよかったと思ったことはないよ!」


 本当に幸せそうに、可愛さマシマシで言われてもなあ。

 聖歌ちゃんの尊さに比べると、お姉ちゃん……身内の素直すぎるそういう反応、ちょっと残念だよ!

 苦笑いする私の横で、お姉ちゃんが私そっくりの声で嬉々とした甘い声で「あれがいいよな、いや、まて」とか言ってスマホを夢中で操作してる。やれやれ。地獄のお姫さまが現世のゲームに夢中って、かなり残念なのでは?

 まあ、お姉ちゃんは職務に励みすぎていたみたいだから、緩めるときにはもっともっと緩めてもいいと思うんだ。張り詰めるだけの糸より、伸び縮みしても切れない糸のほうがいいし。切れてもすぐに結べる糸のほうがもっといい。

 でも「あははは!」とか無邪気に笑ってぴょんぴょん飛び始める姉の姿に妹は戸惑いを隠せません。なんていうか、カナタにあまあまなハグとかキスをしてもらった自分を見ているようで、たいへん複雑です。

 トモがなんともいえない顔で私たちを見て言ったよね。


「ハルの姉妹だね」

「似てるでしょー」


 胸を張ってから、すとんと落ちた。

 いいや。お姉ちゃんが喜んでくれるんなら。まあ無制限になんでも買ってあげられるわけじゃないけどね。

 一度は死に別れた双子の姉なので、これくらいはいっかなって思ったの!




 つづく!

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