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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第六章 侍と刀鍛冶

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第五十話

 



 ギンがぶち破った時に割れた窓はラビ先輩が手配してくれたのかな。

 直っていたから……私はカナタとベッドに腰掛けて手を繋いでのんびりしてた。

 身体を預けても優しく受け止めてくれるから、逆にカナタの話を私は聞いたよ。


「妹がいるんだ。病気の……ひどい子が」

「うん、覚えてるよ」

「……特別課外活動をしたなら知っているな。邪の存在を」

「何か名称はないの?」

「魔物だとか、闇よりいでしモノとか。色々と呼び名はあるが」

「シンプルなのはよこしま、か」

「そういうことだ」


 指先を絡めさせてくるカナタの頭が私の頭にこつんと当たる。


「人の欲、罪……弱い心から産まれた霊子の化け物。病気で先のないあいつからも」

「産まれた……の?」

「ああ」


 見上げるとカナタはつらそうな顔で壁を睨んでいた。


「あまりに強くなるか放置すれば、現世の人間に悪影響を及ぼす。あいつの場合は……夢遊病のように、どこかへ行ってしまうんだ。歩けないはずなのに」


 手に微かに力が入る。


「眠らない街に消えて。そこは邪の温床だ。現実でも、あちら側でも見つけられなかった」

「それを……シュウさんが?」

「見つけて、助けたんだろう。邪を斬って、その呪縛から解放しただけならよかったんだ」


 なぜ、とカナタが苦しそうに喘いだ。


「あちら側にいった時、現世の身体は眠った状態になる。けど、常に刀として魂を現世で固着されたら、そもそも肉体に戻ってこられない」

「戻る、って……え? どういうこと?」

「霊子として肉体から離れた魂が刀になっているのなら、その間……身体は寝たきりだよ。霊子と肉体が離れすぎたら、その繋がりは薄まり、やがては……切れてしまう」

「そ、それって、切れたらどうなるの?」

「霊子が消えるか、繋がりが切れたら肉体に魂は戻れない。そうなれば待つのは死だ。魂のない肉体が出来上がるのさ」


 あいつはそれでも構わないんだ、と歯ぎしりするカナタは本当につらそうだった。


「あいつは……シュウは、強い刀と自分の技の実験さえ出来れば、それでいいんだ。俺だけならまだいい! ……妹まで何度も利用され、苦しめられてきたんだ。だから、俺は」


 シュウさんを狙った、ということなのかな。


「父は名の知れた侍なんだ。その伝手を使って、なんとかアイツをおびき出した。アイツに認めさせれば、無茶な道でも繋げられて妹を助けに行けると。それだけの力にたどり着けると信じていたのに」


 結果は……全然だった。

 しかもカナタの目的そのものだった妹さんは助け出されていた。

 さらにはもっと危険な状態に……本当に?


「シュウさんにとっても自分の妹なんだし、身体が死ぬまであのまま刀にしてはおかないんじゃない?」

「確かに……そうだけど」


 カナタは腑に落ちない顔をしていた。


「気になるんだ……俺はあいつを知ってる。目的がなければ行動しない男だ。妹を刀にしている理由がきっとある」

「そう、なんだ」

「さすがにこうなってはもう、調べようもないけどな……」

「カナタ……」

「でも、いずれ決着はつける。あんな……邪を生み出す刀を持つヤツに任せてはおけない」

「そうだね」


 シュウさんのあの刀。邪なるものたちを生み出し、演舞の侍にけしかけたあの力。

 どう考えてもまともじゃない。

 カナタの説明が本当なら、人の罪や弱い心、欲の塊が邪だ。

 それを無尽蔵に作り出すんだよ。じゃあそんな刀の御霊って、なに? そんな御霊を引き当てるシュウさんは、どんな人?

 どっちも歪な存在に違いないよ。タマちゃんと一緒に感じたあの気持ち悪さは……正直、怖い。


「巻き込みたくなかった」


 微かな囁きに思わずカナタの顔を見た。


「けど……俺は君を利用した。巻き込むよりもっと、ひどい」


 カナタはいま、自分を傷つけたいターンなんだと思った。

 でもそんなターンはいらない。


「いいよ。私はあなたの侍だから。それに……悔しいの」

「え……」

「十兵衞の技も、カナタの刀も……私は全然いかせなかった。指先で止められたんだ」


 十兵衛が操る私の力がもっと強ければ、違う結末になったはずだった。


「……悔しいよ。負けて悔しかった一番の瞬間だったの」


 だから。


「絶対勝つんだ。勝てる私になるために、強くなるの。もっともっと、学校生活がんばるの」


 カナタを見て、決意と共に笑ったよ。


「もう同じ目的を持つ仲間なの。相棒だし……契約をかわした、大事な人」

「……あいつは権力と共にある。俺のそれはささやかな反逆に過ぎないんだぞ?」

「いいじゃん。反逆の共犯者……私そういうの大好きだよ?」

「こじらせているな」

「ふふー」

「どや顔になるところじゃない」

「じゃあどうすればいいの、」


 私は、と。

 言おうとした頬に……触れたの。

 カナタのくちびるが、微かに。


「君に誓おう。必ず勝利を掴むと。君は……俺に笑ってくれればいい」


 すぐに離れて微笑むカナタがひたすらに眩しかった。


「あ、う」


 ずるい、こんな不意打ち。


「……笑ってるだけじゃ、やだ」


 震える声になるのは、仕方ない。初めてだったから。頬に、そんな。


「私は侍だから……あなたの、侍だから」


 戦うの、と。呟くのが精一杯で。


「頼りないな」

「か、カナタが急にキスなんてするから! キス、なんて……するから」

「親愛の気持ちだ」

「そんな、の……ずるい」


 さらっと言うの、ずるいよ。

 顔が熱くて落ち着かない。

 そんな私だからかもしれない。


「このへんにしておこう。眠っていてくれ」

「え……」


 ここへきてのお預けなんて、ひどすぎる。


「俺は少し鍛錬をする。十兵衞を借りれるか」

「いいけど……寝ないの? もうだいぶ深夜だよ?」


 私の胸から優しく十兵衞の魂を引き出すと、肩に小さな居眠り十兵衞をのせたカナタは笑って言うの。


「日課なんだ。霊子の扱いを鍛えないと落ち着かない」

「……そっか」


 あんなことがあったのに、とは言わなかった。

 あんなことがあったからこそ、カナタは自分を鍛えようとしてるんだと思ったから。

 ここで終わり? とか残念がってる場合じゃない。

 ……って、残念ってなんでだろう。

 あ、だめだ。これ深く考えたらどうにかなっちゃうやつだ。ただでさえキスの後だから、余計。

 慌てて私も口を開いた。


「じゃ、じゃあ私も付き合う!」

「いいのか?」

「なんだか身体を動かしたい気分だもん」


 カナタが急にキスなんてするから、とはいえなかった。恥ずかしすぎて無理。


「いこ」

「……ああ」


 頷くカナタと一緒に寮の外へ出て、ふと見上げたの。

 風が強くて雲が流れていく。

 月明かりが妙に眩しい夜だ。


「……はじめてかもしれない」


 私の手を握って同じように空を見上げたカナタが呟いた。

 なにを? って聞いたよ。そうしたらね。


「こんなに月が綺麗に見えたのは」


 そう言って……儚げに笑うの。

 だから言ったよ。


「これからはいつでも見れるよ。そしてシュウさんに勝って、妹さんとみんなでもっと綺麗な月を見るの。約束だよ?」

「……ああ。そうだな」


 約束だ、と深く頷くと……カナタは優しく私の手を引いてくれました。




 つづく。

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