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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十九章 歌え、愛する先輩たちの卒業式!

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第四百六十四話

 



 ライブコンサートの企画、新曲のプロモーションのための番組出演、そして次のイベントに向けた計画。そういった諸々を話しながら、高城さんの目は泳いでいたよ。

 私の尻尾からでてきたぷち三人が私の頭の上に乗ったり、ナチュさんにいじられていたり、社長にずっと撫でられていたりするの。控えめに言ってもおかしな光景を目にして、高城さんだけじゃなくライブの統括責任者さんたちも動揺しているよね。

 でもどんなにがんばっても消せたの六人までで、残る三人は無理でした。捕まえようとしても避けるし、逆に尻尾で顔をはたいてきたりするし。ちゃっかり者、知恵者、そして元気の固まりの三人のぷちがきゃっきゃとはしゃいでいるの。

 山岡さんや女性の社員さんがかわいいって言ってくれたから、なんとか押しつけようとしたんだけどね。私にくっついて離れなかった。同室にいたいらしくて、引きはがそうとすると泣くからしょうがない。

 もちろん説明したよ? 渋谷のCDショップの活動で出したぷちだよってね。高城さんはそれでやっと正気に戻ってくれたし、分身だということを証明したら社長はむしろ受け入れてくれた。

 そして今に至るんだけど……。


「――……というわけで、ライブのラストで全国ツアーの発表をします。するんですが、シングルの売り上げ次第という面もあり、いよいよ発売まで一週間を切ったシングルにはかなり力を入れたいと考えて、おり……」


 高城さんの目は泳ぎっぱなし。

 ナチュさんの手から逃れたぷちが仏頂面のトシさんに飛び乗ってほっぺたをぺちぺち叩いて、だけど無視されたからライブスタッフさんたちの中に飛び込んだ。くりくりした目で顔をじーっと見つめているの。いたたまれない空気が流れ始めたから、そっと席を立って社長に撫でられている子以外のふたりを摘まんで膝上に抱いたよ。


「……春灯、それなんとかならない?」

「「 や! 」」

「……すみません、ほんと」


 お詫びしながら暴れるふたりを抱き締める。ちゃっかり者は社長の撫でテクがよほどすごいのか、ご満悦という表情。それをふたりが恨めしそうに眺めているの。やれやれ。


「あとでアイスあげるから、静かにできる?」

「「「 しょうがないなあ 」」」


 ため息を吐きたいけど我慢、我慢。あとちゃっかり者はしっかり私の提案に乗っかっているから、自分を省みたほうがいいかもしれません。

 切りかえていこう。お仕事しているんだから。


「ところで、あの。全国ツアーって?」


 高城さんに尋ねると、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりのどや顔をしたの。

 そしてすぐにホワイトスクリーンに映像をうつしてくれた。


「チケット販売開始して、現状ではキャパを大きく上回る注文が来ている。音楽専門チャンネルでの生放送などいろんな方向で配信を予定している。この勢いならば、ということで――」

「大々的に打って出るわよ」


 社長は涼しげな声でさらっと言うの。いつだってこの人はかっこいい。


「そのための告知、流れはセッティングしてもらうとして。過熱は一度冷めると下火になる……高城」

「ええ。金曜夜の帝都さんでのテレビでもライブの準備を映像でおさえる運びになる。春灯の卒業式にもカメラを入れるよ」

「……それって、そのう」

「並木さんから聞いたけど、一年生と二年生が三年生を送り出すためのサプライズをするのが毎年の恒例なんだって? 先方がどういうツテか調べ上げて打診してきたから、受けておいた。企画書に書いてあるよ」


 あわてて高城さんからもらった紙の束をめくると、たしかに書いてあったの。番組の内容をざっと見てみると、まあいろんなところでカメラが私を追いかけるスケジュールが記載されてます。


「ネット配信が始まった春灯の冠番組も視聴数は上々。安定した新規ファンの獲得および固定ファンの増加を目的に、これからも引き続き、くどくない範囲で仕事を続ける」

「それよりも……ライブだよ。士道誠心の学生さんを使う、という案を高城と、コンサートプロデューサーの平野ちゃんが出してる。それについて説明を」


 社長が振ると高城さんが統括責任者さんを見た。おじさんがすっと立ち上がる。


「今回、青澄春灯さんのコンサートプロデュースを務めます、平野カツミです。グラスタの担当としてナチュさんには特にお世話になっていますね」

「いえ、こちらこそ。平野さんいてこそですよ」


 すかさず如才なくナチュさんが答えるの。平野さんは微笑みながら頷いて、それから私を見た。


「コンセプトを青澄さんの活動映像を元に模索してきましたが、今回お出しするイメージは――……こちらです」


 平野さんが一瞥するとスライドが切りかわる。

 私の歌が流れ始めるの。


『光る金色の星。青澄春灯ならではの輝きを重視したライブ』


 文字が浮かび上がってすぐに消えた。続いて動画が流れる。

 渋谷の街の大歓声を浴びながら、私がアルバムの発売でやったプロモーションライブをしていた。あちこちでスマホの光が瞬いている。

 歌が終わって、私のライブを通知する大型液晶スクリーンにさらに爆発する、みんなの声援。

 動画がすっと消えて、再び文字が浮かんできた。


『すべては渋谷の街のゲリラライブから始まった』


 またすぐに動画へ。

 同じように渋谷のスクランブル交差点が映し出されるけれど、歓声はない。むしろざわついた声ばかり。

 歌う私の差し出した手から放たれる金色にみんなが思わず手を伸ばした。掴んで微笑む人がいる。その中に――……理華ちゃんがいた。とびきり可愛くて目立つあの子が、金色を掴んでたまらなく興奮した顔で私を見る。

 みんな、私の歌に応えてくれた。そうしてたった一曲だけの演奏は終わって、私たちを乗せた車が去っていく。


『なにあれ……なにあれ! やばくない? めっちゃやばい!』


 興奮してる理華ちゃんの声にみんながそれぞれに答えながら、スマホを弄る。

 動画は呟きアプリのスクショに。やまほどの目撃例呟きによって、瞬く間に拡散されていく。

 そして――……動画は締めくくるように、メッセージを浮かべた。


『あの日の奇跡をもう一度――……』


 メッセージが消えて、動画が終わる。

 思わず見入っちゃった。


「というわけで、こちらからお出しするテーマは最初のゲリラライブの、あの興奮の再現です。そのためのプランをいくつかご用意しましたので、ご覧ください」


 平野さんが指を鳴らすと、スライドが切りかわる。

 暗闇の中で照明のついた衣装で踊る集団の動画のすぐよこに、同じサイズの動画で流れているの。羽村くんと木崎くんが、その集団に混じってレッスンを受けている光景が。


「世界的なダンスグループに認められ、一時はアメリカ行きを提案された青年が青澄さんの同級生にいます。ほかにも――」


 またしても指鳴らしで次のスライドへ。

 下着姿のキラリの女性ファッション雑誌の撮影光景が流れてる。終わったキラリは明坂のメンバーと話しあったり、ふたりで写真を撮ったり。


「明坂グループさんと交流を深めながら、圧倒的なビジュアルで活躍しはじめている少女がいます。高城さんが面倒を見ていらっしゃるんですよね?」

「ええ」

「ほかにも――……こちら」


 次のスライドはマドカだ。呟きアプリで寄せられるリアルタイムの言葉を吸い上げて、険しい顔をした四人のアイドルの間に立って司会をしている。カックンさんのいるアイとちがって、揉めに揉めて解散するアイの先輩グループの最後の番組を、マドカは資料映像や持ち前の頭を使って乗りこえていくの。最後にはお酒を呑ませて腹を割ってお話させて、和解させちゃうんだ。

 大人のこじれたケンカだから、すべて大解決ってわけにはいかないだろうけど。でも、マドカはファンのみんなが望んだことを全力でやり遂げて、結果を出した。


「去年から醜聞が続いてファンがせめて仲直りをと願っていたグループの仲を取り持った少女さえいます。彼ら、青澄春灯さんに寄り添ってきた学生さんを、各分野のプロと一緒に登場させて華を添えるというのはいかがでしょうか?」


 社長がちゃっかり者ぷちのアゴを指先でくすぐりながら目を細めた。

 何かを考えているけど、まだ話してくれるタイミングじゃないみたい。


「――……つまりあれか。春灯だけじゃなく、借りれる力は借りようってわけか?」


 トシさんの不機嫌そうな声はいかにも反対って感じ。


「そもそも青澄春灯さんの力だけでは成立しない――……と見ているわけでは決してありません。ただ、使えるものはなんでも使うべきだと考えます」


 ますますトシさんの顔が険しくなる。

 反対にナチュさんは楽しそうな顔だ。


「ちなみに、明坂の力は借りれるんですか?」

「――……それは」


 平野さんが困った顔で社長を見た。けれどナチュさんはたたみかける。


「明坂のラブコールでこっちは一度力を貸したんだ。なら、向こうも貸してくれたっていいんじゃないかな」

「――……いくらかかるんですかね」


 カックンさんは乗り気じゃないみたいだけど、


「いっそダンスパートがあってもいいんじゃないかなって。明坂と一緒に踊るんだ。一夜限りのステージが再び……これって奇跡の演出になるでしょ?」


 ナチュさんはすっかりその気だ。それがたいそう不満なんだろうね、トシさんが舌打ちする。


「ちっ……だから受けたのかよ」

「当たり前だよ。なんだって自分たちの力に変えていく。それがプロってもんだ」


 微笑むお腹は真っ黒け……。


「春灯のステージって感じが弱まる。俺は反対だ」

「そんなこといわないで。ものは考えようだよ? 春灯ちゃんのステージであるのはもう大前提なんだ。彼女の歌を使って満足してもらう、さらに! そのうえをいくサプライズをして、忘れられない夜にしてもらう。その口コミが、全国ツアーの勢いにつながるんだよ」

「――……たまにてめえが憎くてたまらねえわ、俺は」

「ってことは、じゃあ認めてくれる? 春灯ちゃんの音楽プロデューサーの件」


 えと……なんのことだろ?


「名実ともに、とっくにそうなってるだろ」

「ふふー。よしよし。そういうわけで、社長。どうですか?」


 どや顔のナチュさんに、社長が深呼吸をした。


「下駄を履かせるなら、どこまでも……か。明坂には私が直接話すわ。ねえ、トシちゃん……わかる? お客さんに下駄だと見なされたら、全国なんてとても無理」

「わかってますよ。なんとかしろっていうんでしょ? 魂ならとっくに捧げているんだ。やりますよ」

「よろしい。ほかの子たちと出したいプロのリストは?」


 社長の一瞥に平野さんが笑顔で頷く。


「もちろんできています」

「よろしい……さて、春灯。確認だけど、なにかやりたいこととか異論は?」

「え、えと、えと」


 急にふられててんぱるけど。


「……意外と、私の意思なんて関係なしに決まるんですかね?」

「ビジネスだからね。ある程度の制約はある……そのなかで、いかにあなたのやりたいことを実現するか。平野やナチュたちプロの仕事に見あう、青澄春灯というアーティストのためになる意見なら取り入れるし、そうでないと判断したら使わない」


 きびしいけど、当たり前。そんな現実を前にすこし考えてから、平野さんを見たの。


「平野さんはなんで、私の友達や仲間をライブに引き入れるんです? 使えるものはなんでも使うっていうだけ?」


 複雑な気持ちになる原因を直接たずねちゃう。抱え込むより聞いちゃったほうがいい。

 尋ねた瞬間、平野さんは指を鳴らした。会議室の照明が落ちて、スクリーンに新しいスライドショーが映し出される。


『――……橋本さん、尻尾。ほんとにちぎれない?』

『だいじょぶだいじょぶ、いけるいける。一度、尻尾で釣りしたでしょ? そののりで』

『おっきなワニさんのエサやりを尻尾でやる必要がどこに! ……いやもうわかってます』


 それはいつかの撮影風景。

 すぐに映像が切りかわる。


『お魚さんいっぱいですね。普段教えててぎゃーってなる瞬間とかあります?』


 中目黒の魚屋さんでロケしたときの映像だ。


『たまに料理をまったくしたことのない方がいらっしゃって。そういう方の包丁の持ち方は見ていて怖いなあ、と。あ、これは流さないでくださいね?』

『だいじょぶですよー。まわってますけど、私がばっちりさばいていて歯がみしてるところですから』


 笑ってる。

 次々と切りかわっていくの。

 撮影先で、あるいは局で、いろんなプロの人たちと笑っていたり……明坂ミコさんと抱き合っていたり、ツバキちゃんとふたりで歌詞を必死に考えていたり。

 かと思えば、邪討伐でみんなと戦っていたり、戦い終わってみんなでほっとしているところとか。あとは――……ブースの中でオケなしで即興で歌った、いつかの夜とか。

 移動中の車内でマドカやキラリが高城さんに話しているの。私のこと。カナタたち生徒会メンバーが山岡さんに聞かれて答えたりしてる。私の話。

 そうして、映像が戻る。

 私のいないレコーディングルームでトシさんとカックンさんが楽しそうに楽器を鳴らしている。


『なんで春灯ちゃんのもとに?』


 ナチュさんの声だ。


『なんの真似だ。よせって……言わねーよ』


 カメラが寄るからうっとうしそうにするトシさんに、ナチュさんは自分にカメラを向けた。


『照れ屋だからなー。ここはアイドルにふってみましょー。カックンさん、どうっすか?』

『えーおれー? そりゃあほら。あの子と音楽やるの楽しいし、なんか惹きつけられるからで』


 そのままテレビで流れても憧れちゃうきらきらのアイドルオーラを纏ってさらっと答えるカックンさんはさすがの一言。


『でもまあぶっちゃけ、それ以上にあの子がいつも笑ってくれるから。なんかがんばろーってなるわけっすよ、男としては』

『おお!? まさかの男発言!?』

『あっ、そっか。今のはカットで。本音は……一緒にいたら、なんかどこまでもやれそうだって思えるからかな』

『ちなみに僕も-!』


 たたたたっと駆け寄って、ふたりで顔を寄せ合ってピースサインをする。

 楽しそうだし……その笑顔のふたりがトシさんにふるの。


『ほーら、トシさんも。なにか一言!』『言う場面っすよ、ここは』

『うっせえなあ、カックンと同じだ。それよりそろそろ来るぞ、なにも知らないバカが』

『ツンツンしてるねー』


 ナチュさんが笑っていたら、扉が開いて私が入ってくるの。

 すぐに映像が終わる。部屋が明るくなる――……心を揺らされた私を、みんなが見てる。


「社長にライブの話を提案されて、いろんな人にお願いして映像を撮ってもらったんです。気に入っていただけましたか?」

「――……それは、もう」


 やっとの思いで頷く。社長がいなかったら泣いてた。


「ナチュさんと打ち合わせをしていたら、中学時代のあだ名は青春女だと聞きました。青澄春灯、名字と名前の頭文字を取ったら、なるほどたしかに青春ですね」

「……ど、どうも」


 はずい。恥ずかしすぎるよ……!

 てれてれしながら、だけど答えを求めて平野さんを見つめる。


「青春ってやつは、狭義においては若い時代を人生の春にたとえたものですが……四季はめぐるものです」


 四季は……めぐるもの。


「つらい冬を乗りこえて……春を謳歌する。二度目の青春と胸を張って生きている人も、どれほどいるでしょうか。私は集まった動画を見ていて思ったんです」


 青澄さん、と呼ばれたの。


「あなたは冬に留まらざるを得ない誰かの手を引っぱって、青臭いくらいの夢や希望に満ちた春に引きよせる力を持った、そんなアーティストなのではないかと」


 たえていたはずの涙腺が一気にゆるんだの。


「もちろん、あなたはまだ若く、未熟なところが目立つ。けれど……あなたに寄り添う友人や仲間たちの絆すべてが、あなたにとってかけがえのないものだ。あなたの輝きは、みんなを照らす光じゃないかと思いました」


 心がどんどん揺さぶられる。


「だから、あなたの繋いだ絆をみせながら……その輪の中に入れる。あなたが起こす奇跡のなかに、自分もまた入れるのだと……あなたのライブに来た人に感じていただけるように、演出してみたいと考えました」


 結論は、そう。


「あなたの繋いだ縁のすべてが奇跡であり、ファンのみなさんと繋げる可能性なのと示したい。だから……私はあなたの縁を活用したいと考えます。いかがでしょうか?」


 目元を必死に手で拭ってから、深くお辞儀をしたよ。


「よろしくお願いします」


 頼む言葉はひとつだけでいい。


 ◆


 ライブに関する会議が終わってちゃっかり者ぷちを私に渡して、社長は笑ったの。


「平野ちゃんに頼めば間違いないから」


 頷くばかりだよね。私もお任せしようって思ったんだ。

 私を喜ばせるために……私のライブのために、私を調べるために、用意してくれた動画はすごく嬉しかったから。

 暴れたがるぷち三人を抱きかかえていたら、


「それじゃあ住まいの話をしようか」


 社長がきびしい視線を送ってきた。思わず身構える。

 学生寮には危険が付きまとうから、スキャンダルに備えるためにも会社が用意するお部屋に住むというお話だ。

 会社が契約したみんなと過ごせる場所を用意する、という話を高城さんにされたよね。

 でもこないだ、カナタと寮の話をしていて思ったの。

 やっぱり離れたくないなあって。

 刀と離れるのもいやだし、所持許可証を取れば解決だけど、でもそういうんじゃなくて。

 学校のそばにいたい。過ごした部屋から離れるのは、三年経ってからでもいいんじゃないかって思う。愛着ばかりが増した場所を手放したくはない。

 わがままでしかないのは百も承知だけど。

 顔がきゅっと強ばる私を見て、社長が笑う。


「カックンたちアイちゃんやほかのアイドルちゃんたちを住まわせていたときのように、合宿所を作ろうかと思ったの。最初はね」

「……じゃあ、学校の寮は?」

「話を聞きなさい」

「す、すみません」


 社長の一瞥はルルコ先輩ガチギレモードなみに冷たくて迫力あるよね……!


「士道誠心さんといろいろお話したんだけど、卒業間近の三年生ちゃんたちから春灯たち一年生ちゃんたちまで、三学年の子たちの中で一部、契約を交わしてる。そうね? 高城」

「ええ。私、山岡ふくめ数名のマネージメント体制を取って、活動中です」

「でも今後どうするか、全員の扱いをどうするのか、いろいろと調整中……そうよね、高城」

「はい」

「だからこそ、一緒くたにうつせないのよね。それに合宿所はいろいろと問題も起きちゃうから閉鎖したの。きびしい上下関係、閉鎖的な環境……どこまで管理できるかっていうと、とても繊細で難しい。特に年頃の子たちを集めるとなるとたいへん」


 なんと。


「その点、士道誠心さんの学生寮は、もともと警察の侍隊に入るための養成校だけあって規律はしっかりしてるし、学生さんを長く預かっているだけあって、ちゃんとしてる。むしろ問題は、パパラッチたちのほう」


 ――……あ、あれ? こ、この流れはもしかして!? もしかするのでは!?

 思わずつばを飲みこむ私に、社長は微笑む。


「山岡を通じてコナちゃんや学院長と話して警備の強化を依頼したわ。スマホの所持禁止ないし預かる制度も取り入れてくれれば言うことはないんだけど、それは難しそうね」

「高校の学生寮なら、場所によっては実施していますけどね」

「でも、すべてではない。まあそこは引き続き、学校側と調整するとして……ほら。春灯、いーい? 嬉しいときは笑うものよ」

「じゃ、じゃあ?」

「学生寮にいていい」

「やった!」


 思わず立ち上がって、ぷちを三人とも空に投げちゃった。

 私と同じくらい幸せな顔をした三人を抱き留めたら、ふっと消えたの。三本の尻尾の毛を残してね。まるで……私がずっと不安だったことが、三人の出てきたきっかけみたいに。


「だからって、ぬか喜びはだめ。いーい? 超望遠で撮られた写真がすっぱ抜かれた直後。くれぐれも部屋の戸締まりと、着替えや立ち振る舞いには注意しなさい」

「わ、わかってます」

「もちろん……交際をオープンにしているからこそ、親世代からのバッシングにあいやすいんだから。春灯、性生活についても気をつけなさいよ?」

「わ、わかってますってば!」


 高城さんだけじゃなくて、とうとう社長にまで言われちゃったよ。とほほ……。


「それじゃあ私は先に失礼するわね。高城、あとはよろしく」


 すっと立ち上がって颯爽と立ち去る社長に高城さんだけじゃなくみんなでお辞儀をして見送る。

 残されたのはバンドメンバーと高城さんと私だけ。


「それじゃあ春灯、ひとつ確認しておきたいんだけど……きみの音楽面のプロデュース、どうやってたと思う?」

「……さあ?」


 高城さんの問いかけにわりと本気で首を傾げると、集まっている四人がそろってため息を吐くの。

 な、なんかすみません……!


「これまで三名にご支援いただいてやってきたわけだけど、ここまでの活動を踏まえてナチュさんに一任しようと思うんだ」

「……なるほど?」

「わかってなさそうだから、一応つたえるとね? グラスタの音楽プロデュース業を担っているナチュさんに、春灯の音楽の制作を担ってもらう」


 思わずまばたきしちゃった。


「トシさんとカックンさんは?」

「カックンは僕の弟子になって、プロデュースの勉強しながらドラムサポートを継続。なので、トシさんか僕かで調整していたんだけど、平野さんの言い方を借りるなら狭義においての音楽プロデュースはトシさんと僕で継続。ライブやアルバムの制作、進行、企画・宣伝については僕が責任を持つことにした」


 ……ええと?


「要するに、いままでと一緒ってことさ」

「……じゃあ、特に報告の必要などないのでは?」

「ばぁか!」


 トシさんに椅子の滑車を蹴られた。すいーっと移動する私を高城さんが受け止めて、元の位置に戻してくれます。


「ちゃんと意識しろってことだ。勉強しろよ」

「……はあい」


 むすっとしながら頷く私にナチュさんが笑う。


「いずれはカックンも含めた三人体制を取る予定。ツバキに引き続き歌詞を書いてもらうけど、違うニュアンスを取り入れるために明坂がお世話になってる人とか、僕らのミュージシャン仲間とも積極的に交流していくよ」

「……ツバキちゃんも一緒に?」

「ああ。高校生になるから、もう少し仕事をする時間が増やせそうだ。でもひとまずは、シングル発売のインストアライブ行脚に気持ちを作っていこう」


 インストアライブ行脚かあ……。


「あと、春灯ちゃんの学校の卒業式。歌うんでしょ?」

「そ、それは、まあ」


 誰から伝わったんだろうと思う私にナチュさんは笑う。


「じゃあそのレッスンをして、今日は一区切りとしようか」

「えっ」

「プロのアーティストたる春灯ちゃんが歌うのに、まさかバックはカラオケを流す気じゃないだろうね? 本格派の歌姫で売る君が、カラオケなんて……冗談だよね?」

「そ、それはだって、私は学生なので……け、軽音楽部の先輩たちがいますし!」

「彼らは二年生だから二年生のサプライズ担当なんでしょ? 事務所に寄ったきみの先輩のコナちゃんから聞いたよ」


 うっぷす!


「トシさん、どう思います?」

「……いや、学生の卒業式に俺らが出張ってどうすんだよ。主役は学生だろ? それに学園祭でもねーし」

「だからこそですよ! 士道誠心の行事を僕らが関わって特別にすれば、引いてはライブに協力する生徒たちにも注目も集められる。なにより――……」


 ごごごご、と燃える炎を背にしているかのように、ナチュさんが吠える。


「たまには! 十代だらけの空気を浴びたい! そして彼らをファンに取り込みたい!」


 ど、どこまでも貪欲……っ!

 トシさんが呆れ、カックンさんは大爆笑。


「そういうわけだから! 僕らもかませてもらうよ! きみが歌うなら、バックは誰にも譲らないからね!」

「ナチュさん、あの。生徒に手は出さないでくださいね? あなたのマネージャーに私が怒られてしまいますから」

「もちろん! 淫行なんてしないよ! 人生まるごと失う火遊びなんてごめんだからね! むしろプロのオーラでファンにするのが至上の目的さ!」


 きらきら輝いている笑顔で、真っ黒なお腹を晒すナチュさん……楽しそう。

 でもなあ。困ったぞ。

 どうしよう。マドカたちに話さなきゃいけなくなっちゃった。

 まあ、マドカならいいよって言ってくれそうだし、カラオケ音源からプロの演奏になるならむしろありがたい……かな? かな。かな!

 それにしても、トシさんたちが一緒にやってくれるとなると、当日は気持ちの盛りあがりと事前の練習でいけると思っていたハードルがぐんとあがる。

 こりゃあ……卒業式に向けて、気合いが入るどころじゃないよ!

 でも、ちょうどいいかもしれない。

 メイ先輩たちと出会って、繋ぎ止めたくて生徒会長選挙に挑み、それはシュウさんたちの誘いで代々木体育館で歌うことにつながって――……めぐりめぐって、あの渋谷のゲリラライブにたどりついたんだ。

 すべてはメイ先輩たちとの絆がつくってくれた奇跡。なら……その奇跡がつないでくれた力を、全力で届けよう。

 お返ししたい。喜んでもらえるように――……私の全力を届けたい。

 大好きだから。最高の瞬間を、お届けしたいよ!


「ようし、やるぞう!」


 尻尾をたてろ! 私のステージの先にいる――……大好きな人たちのために!




 つづく!

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