第四百四十四話
残された一年生すべてを収容、移動させて一年生が教師に挑んでいる間に船へ。
教師との戦いを経て……今日の特別授業は、船で下の島へと戻り、上の島が消えるのを見届けて終了。一年生を旅館へと送り出し、明日は昼の帰宅時間まで自由時間を告げておく。
そうして私たち二年生は霊子船へと戻り、映像を確かめながら三年生と教師、それに警察関係者からの指導を受ける。
来ていないはずの緋迎シュウがとびきりの美人を連れて立っていたのには驚いたし、そうまでして何をしていたのかは大変気になるところだが、ともあれ……。
「いい感じに怒られたよね……」
「……ああ」
シオリと緋迎くんが揃って凹んでいた。
ラビは項垂れているし、ユリアも持ち込んだお菓子を食べる速度がいつもの半分くらいのペースに落ちている。
とはいえ、当然だ。
「意気込みに反して、映像を確認する限り三年生にいいところを持っていかれすぎ。ラビ?」
「――……今日はごめん」
意気消沈していたから、これ以上の追求は控えよう。
「まあ……山吹の行動は予想外だったわね」
呟きながら扉を開けた。甲板に出る。
もう既に空に浮かぶ島は消えているから、あかね色に染まる景色に幻想はない。
それでも雪化粧をされた離島は美しかった。
息を吐き出す。白い。
「たとえば……そうね。落ちた川の地形を変えるとか。おだやかなちょっとした湖にするくらいのことはできなかったのかしら」
「コナ、それは無茶ぶりじゃない? 島の霊子を変えるなんて……一年生の刀鍛冶の子たちがやった多脚戦車じゃあるまいし」
「でも、ミツハ先輩がいたら……一年生の無理を通せるように演出してみせたと思うのよね」
島の旅館がある方向を見つめている緋迎くんに呼びかける。
「緋迎くんはどう思う?」
「……まあ、できたかもしれないが。それよりもっとずっと、彼らの機動力を活かせるように追い込む方が自然だし適切だったな」
その言葉にラビがため息を吐く。
「ハルちゃんの金色、キラリちゃんの星。中瀬古コマチちゃんは魚介類を出して空に浮かべられるし、茨・岡島ペアは京都で暴れた時からずっとその身体能力はずば抜けて高かった。相馬くんもそれに追いつく勢いで頭角を現している」
「虹野、鷲頭……あと七星のふたりはまだまだ発展途上だけどね」
「ユリアの危惧はもっともだけど、魔女として空を飛べるユニスちゃんを含め、カバーできたはずだ。それを認識できないマドカちゃんじゃないはず」
ラビは項垂れる。
「だからこそ、マドカちゃんが思いつけるように誘導しなきゃいけなかったんだけど」
「完全に追い込みすぎたな……」
緋迎くんも浮かない。メイ先輩たちにこってり絞られていたし、映像を確認させてもらうと実際その通りだから。
「整理するターンと、お互いの能力の認識を共有する時間が必要なのよね、たぶん」
「それは一年生が経験を積んだら自然と獲得できるもの……と、甘えていたら繰り返すんだろうな」
私の呟きに緋迎くんはしみじみと言葉を重ねてくる。
「そして私たちもまた……何が必要か、こうやって学んでいくわけ。ならこの授業には意味があった。最終的にはけが人も出なかったし」
「けっこうきわどい瞬間は多かったし、エマはふたり斬っちゃったけど?」
「治療と鍛錬のため、相手も割り切っているから問題なし――……って言いたいな」
シオリのツッコミに項垂れる。
実は山吹たちの飛び込みとエマのふたりの剣士への指導で、私は個別に呼び出されてきついご指導を受けた。
エマは一年生における狛火野と沢城を足して二倍したような素質の持ち主だから、信用している。霊子の扱いも二年の侍候補生の中では上から数えた方が早い。
だとしても、御霊とリンクしすぎた古い血を捨てさせるそのやり方は過激だったことにかわりはなく、そしてエマの言動にも指摘を食らった。御霊を尊重するべきだという楠刀鍛冶の指導はなにより堪えた。
緋迎シュウのやんわりとしたフォローによって、なんとかその場でこき下ろされることにはならずに済んだのだが。
御霊との付き合い方は人それぞれ。緋迎シュウのその発言でやっと追求の手が緩んだ。まあしっかり「侍の手綱は握っておけ」と言われてしまいましたが。やれやれ――……。
「気持ちを切りかえよう……明日、一年生を送り出したら、三年生とみっちり戦う」
「そうね。今度は狙われる側に立つ。気持ちを切りかえていきましょう」
笑顔で言った瞬間、ラビがぽそっと呟いた。
「授業が終わったら、卒業式。あとは映画の撮影……目白押しだ」
「――……そうね」
日が暮れていく。二月の終わりが近づいている。
一つが終われば、また次の何かが始まる。憂鬱になっている暇はない。気張っていこう!
◆
目を開けると、旅館の寝室だった。マドカとキラリが私の腕を抱き枕がわりにして気持ちよさそうに寝ていた。獣耳には同じ部屋の仲間の寝息も聞こえてくる。
窓から夕日が差し込んでいた。
エアコンだけじゃなく、昨日はなかった加湿器まであって、部屋はとても快適だったの。刀鍛冶のみんなが残って修繕してくれた旅館の居心地は抜群だった。
だからかなあ。疲れたからお休み時間なのかも。
鼻をすんすん鳴らす。遠く……大勢の人の匂いがいろんなところから感じる。お肉の焼ける匂いが微かにするの。料理中なのかも。
手伝ったほうがいいよね。
倦怠感はそうでもない。寝て起きたらだいぶすっきりしていた。
でも両腕は痺れています。ふたりともわりと力強めにぎゅってしてるからなあ、もう。
「ねえ、起きて」
揺さぶってみたけど、だめ。
ふたりとも起きる気配なし。
身体に感じる熱の残滓とふたりのぬくもりにひたりたい気持ちはあるけど、このままだと両腕がつめたくなっちゃいそう。
なので、
「どろん!」
一回、狐に化けてみた。
ちっちゃくなってお布団から抜け出して、元の姿に戻る。
枕元に刀が二振り置いてあった。
キラリたちの刀も……じゃあ、カゲくんたちみんなが取り戻してくれたってことか。
あとで感謝しなきゃ。それよりも、浴衣に着替えて外へ。
獣耳を澄ませると寝息が部屋のあちこちから聞こえてくる。
それでも話し声も微かに聞こえるの。引き寄せられるように正面玄関へ。
「――……うっし。刀の調整、ぜんぶ済んだぜ」
「ごめん。泉が手伝ってくれると思わなかった」
「日下部ちゃん、言い方」
「なんか、あんたに気を遣うのもね」
「ひでえ」
ふたりの刀鍛冶がたくさんの刀を前にして、笑いあっていた。
とても気さくに楽しそうにしている。その手に握られていたのは、トモとシロくんの刀だったの。
「なにしてるの?」
恐る恐る呼びかけると、ふたりとも私に視線を向けて教えてくれた。
「取り返した刀のチェックだ。終わり次第、順次部屋に運んでる」
「みんな、今日一日で鍛えられたから。刀に変化がないか確かめてるの」
「ふうん……」
気にしてくれてるんだ、みんなのこと。
実はなにげにけっこう丁寧なお仕事なのでは?
「青澄のは日下部が見てたよな。なんかあったか?」
「緋迎先輩みたいにつきっきりで見てるわけじゃないから、印象でしかないけど。霊子の構造が少しだけ明確になったというか。あったかくなった?」
「なんだそりゃ」
「な、なんとなくの印象!」
きょとんする泉くんに日下部さんは照れくさそうに言うけど。私はなんとなくわかっちゃった。メイ先輩がくれた熱が宿っただけなんだと思う。
「ありがとね。刀鍛冶のみんなが気にしてくれるから、私たち素直に戦えるところあるよ」
「どういたしまして。それより青澄さん、誰かから聞いた? 泉ってば、女子が先生に攻撃されそうになって、身を挺して庇ったんだよ?」
「えっ」
「ちょ、いうなよ!」
本気でいやそうに言う泉くんを見たの。
「お腹、めくるとでっかい青あざができてるんだから」
けがをしているようには見えないけど……服で隠しているだけ。
「これで案外紳士なんですよねー?」
「柄じゃないって。刀、ぜんぶ返してくる。日下部ちゃん、それ持ってくよ」
ひょいっと日下部さんの刀を取って、刀の山を抱え込んで行っちゃった。
飄々として斜に構えて見せるけど、内側にある魂は士道誠心の生徒として仲間が誇りに思えるもの。それを隠す理由はよくわからないけれど。
「年頃男子だよね、泉って」
「にやにやしながら追っ払うの、意地悪じゃない?」
「いいの。男子の間じゃ女子のエロネタで遊んだり、二枚目気取りで女子を弄ったり。けど心の内を明かさない。素直になれない男子に命は預けられない。それよりも――……」
さばさば言う日下部さんに手招きされて、泉くんが座っていた椅子に座る。
「刀の霊子の話、しておきたくて。思ったより早く話せそうでよかった」
「――……私の二振りになにかあったの?」
「いい変化。それを先にいっておく。重ねて言うと、普段ケアしてる緋迎先輩じゃないから、正確なところはわからないの。でもね?」
日下部さんは腕を組んで、考え込みながら呟いた。
「青澄さん、天使さん、山吹さんは特に顕著に……ちょっと霊子の雰囲気が変わった気がする。それがなんでなのか、後学のために聞いておきたくて」
「なるほど……でも、霊子の雰囲気って?」
「あっ、そっか。侍候補生はまだそのあたり、しっかり授業になってないんだっけ。えっと……なんていうか。曖昧な気持ちに、方向性がついたというか……難しいなあ。勉強不足だ」
もどかしそうに唸る日下部さんに笑っていったよ。
「なんとなくわかった」
「ほんとに?」
「先輩たちに指導されたの。たぶんそのせい」
「……それだけ?」
「先輩の刀を借りたくらいかな。強いて言えば」
「――……他人の刀を借りて、それで変化が起きたの? ますます難しくなってきた」
「そんなことないよ。先輩たちに頑張れって応援されて、私たちはすっきりした。それだけなの」
じゃあ調理場にいってくるね、と伝えてその場を離れた。
岡島くんが刀鍛冶の女の子たちと一緒に料理をしていた。ぷんと漂う寸胴鍋のシチューの匂い。それに設置されたコンロから香るお肉やお魚の焼ける匂い――……。
ぐううううう!
「あっ」
あわててお腹をおさえるけど、もう遅い。
私のお腹はいつだって素直で、その音は誰かに届く仕様に違いないよ。
そばで果物を切っていた女の子が私に気づいて吹き出す。それだけじゃない。みんなに気づかれたよね。
「待ってて。あと十分もしないでご飯だから」
「すぐにできるよー」
「お腹すかしといてね……って、言うまでもないか」
うっぷす!
今日は休んでて、と優しく言ってくれるみんなに言われて食堂に顔を出す。
カゲくんたちが席に座って笑ってた。
「いやあ、今日は大活躍だったな!」
「おうよ。お前らもな」
「まじで刀鍛冶の子を助けたら、連絡先の交換あとでぜったいしようって言われたの神すぎた」
カゲくんに話す残念3だけじゃない。
食堂に集まっているみんな、はしゃいでる。
それだけ今日の成果が誇らしいのかもしれない。なんだかうれしくて、尻尾が膨らんじゃうね! ぶわってなるよ!
なんだかうきうきしてきた。キラリたちを起こしてこよ! ご飯を食べてのんびりするの!
◆
コナちゃんたちがこってり絞られた光景は、私たち三年生にとっては課題でしかなかった。
船に用意された屋上風呂に全員でつかりながら、夕日の海を眺めて呟く。
「暁先輩頼りで――……思えば二年生にどれだけのことをしてあげられたんだろうね」
「メイは真面目だね。二年生の自己責任で終わりにしないんだ?」
「……ラビもコナちゃんも、二年生の誰もが一生懸命もりたててくれた。私たちはそれに甘えるばかりだった」
ルルコの指摘に呟く。
水面に手を当てたルルコが湯気ののぼるそこから雪の結晶を取りだした。
溶けない氷の欠片を手のひらに転がして微笑む。
「ならさ。明日……一年生を送り出したら、思いきり構おう。今日、ハルちゃんたちにしてみせたように」
「そうだね……」
ルルコが差し出してくる結晶に人差し指を置いて、霊子を注ぐ。
欠片が弾けて花火に変わる。小さな線香花火が空に落ちていく――……。
「サユまでマドカちゃんを構ったのは、意外だった」
横目に見たら、サユは浴槽の縁に腰掛けて夕日を眺めていた。
冷たい二月の潮風を浴びて、気持ちよさそうに目を細めていたの。
「何かを残したくなるの、去年はちっとも理解できなかったけど。メイとルルコを見ていたら、なんだかうらやましくなってた」
うれしくてたまらない、という声だった。
「誰かの心に私の風が残って、曇りを晴らす力になるなら……それも悪くないかと思っただけ」
「それは七星くんたちじゃなくて……マドカちゃんなの、なんで?」
「だって、あの子の闇が一番深いから」
さらりと返すサユに思わず口を閉じた。
その通りだ。ハルちゃんだって、キラリちゃんだって闇を抱えている。みんなそれぞれに、相応に抱え込んでいる。
闇は光を生むし、光は願いや夢へと変わる。闇から必死に伸ばした心の欠片が御霊に届いて、私たちは刀を引き抜くの。
最近やっとわかってきた。私たちは強くなるために――……明日を生きるために、昨日のつらいことや嬉しかったことを力に変えていくんだ。
失敗する子ほど……ひたむきに未来へ進み続ける子ほど、強くなるし……危うくなる。
サユの言うとおり、マドカちゃんが一番苦労するだろう。望外の力を手にしたのは、それだけあの子が挑む壁が高く、分厚いことを示している。
だって、ハルちゃんに憧れて、愛して、思いを寄せながら……どこかそれに無自覚で。ハルちゃんの本能的な行動を無意識に真似てみては失敗したりして。あの子がいちばん危なっかしい。
――……だからこそ、あの子は特にかわいいんだけど。
「強くなるよ。あの子はきっともっと、強くなる……私の風を、来年の闇を晴らす力に変えてくれる」
「信じてるんだ?」
「刀と力のありようを見れば、そんなに絡んでなくてもわかるから」
「ふうん……としたら、あれかなあ」
上半身を起こす。お湯を纏うルルコの身体があかね色に染まる。
「ルルコの思いはキラリちゃんが。サユの思いはマドカちゃんが継いでくれるのかな」
目を奪われた。初めてルルコを教室で目にした時のように。
変わらずこの子を愛しいと思うように――……人を照らす輝きを迷わず掴んだあの子に託した。私の熱、思いすべて――……。
「私の気持ちはハルちゃんに届けた。あとはもう……後輩たち次第かな」
笑って立ち上がる。
男子も女子も、一緒くた。当然、水着は着用で。
今回のような特別授業なんて何度も乗り越えてきたから、こういう機会は多い。
いい加減、お互いに変に意識したりもしない。一年生は昨日、たいそう盛り上がったらしいが……懐かしいばかりだ。
あんな時もあったよね、と。そう思いながら笑いあえる私たちの今を愛しいと思う。
来年も、その来年も――……ずっとずっと、続いていく。
無理につなげることはない。私は私。
二年生は二年生だし、一年生は一年生。
好きなように生きていい。
気持ちを継いでくれたら、そりゃあうれしいけど。
私たちの思いにとらわれてほしいわけじゃない。
まあ、心配はいらないだろうけどね。
太陽に手を伸ばす。
消えてもまたのぼる。私の思いはぬくもりと共にある。
ハルちゃんの金色も――……その熱は優しさに満ちている。
だから――……キラリちゃんの氷を溶かせるハルちゃんなら、乗り切れるだろう。
「明日から学校に戻るまで、苦労するだろうけど」
ふっと笑って呟く。それにふたりが肩を竦めた。
「まさかのオチだもんねー」
「一昨年はほんと、泣きそうだったっけ」
「いいのいいの。それより、せっかく広いお風呂なんだから泳がない?」
「「 いいね! 」」
はしゃぐ私たちにミツハたちがまざってきて、みんなで大いに盛り上がった。
明日に向けて、私たちも私たちらしく気持ちを作っていこうか。
◆
今日も今日とて、ご飯を済ませた私たちは昨日と同じ屋外の温泉に向かう。
昨日はめっっっっちゃ! はしゃいだけど、二度目となるとそうでもない――……なんて人もいるし、昨日と同じくらいテンションあがってる人もいるよ。男女ともにね。
「あれ? ……今日はおとなしいですね」
「ノンちゃん?」
「あ、なんでもないです」
脱衣所の平和を守ってくれていたのかな?
特に心配はいらないようだ。気兼ねなく私たちは水着姿で温泉へ。
昨日はさんざん盛り上がった私たちだけど、今日はなによりみんな飛び込むように温泉へダイブ! もちろんちゃんと身体を流す人たちもいたけども、そういう人たちさえそわそわしながら温泉に入ったよ。
「「「 ふう…… 」」」
至福に蕩ける。そして呟くよね。
「温泉大事」「温泉とうとい」「温泉かかせない」
みんな気持ちはひとつだった。
なにげなく呟いたの。
「こういう授業って、来月からは増えるのかなあ」
って。そしたらね? 泉くんが言うの。
「二年の先輩に聞いた話だけど、二年生になったら隔離世滞在訓練とか、月一の邪討伐に加えて泊まりの授業もあるみたいだぜ? 生徒の希望次第らしいけど」
「……ふうん」
カナタが泊まりで授業を受けていた覚えがないってことは、カナタは希望してないっていうことかあ。
「それ、俺も聞いたよ」
「羽村くん?」
「情勢が変わったとかなんとかで、警察もわりと本格始動にのりだすって怪しい噂もあって。来年度からは方針が変わるかもしれないってよ」
すかさず木崎くんがぼやく。
「うざってえなあ。要は全員参加かもしれないっつうんだろ? 自由意思を求めるね、俺は」
「そう言うなって。俺らの過ごした一年、何度もやばい瞬間があった。乗り切るためにもっと強く鍛えようってのは、むしろ自然な発想だろ」
笑って答える羽村くんに、木崎くんは肩を竦めたの。
「脳筋まるだし結構だけどな。テレビの仕事も始まってんのに、これじゃあ忙しいばかりだぞ?」
「上等じゃねえか。充実してて」
「充実しすぎだろ。たまには……こういう瞬間が欲しいね、俺としては」
その言葉にみんなで笑っちゃった。
それくらい温泉が気持ちよすぎた。
「地面の温泉を探り当てて引き出す、か。やってみる手はあるかもしれないわね」
「だとしたら、地面の霊子を探る必要性もあるのでしょうかね。柊、やったことないです」
「ノンもです」
刀鍛冶の三人が顔を見合わせて、頷きあう。
そして次の瞬間――……。
「わ――……」
島の中心にあるお山から発射されて、夜空に大輪の華が咲いた。
次いで山ほどの花火が打ち上がる。光を浴びて島の姿が変わっていく。
雪をかぶった温泉に向けて、雪が次々と光に変わって花火をあげていくの。
暴力的な音と光の雨に歓声があがる。
「――……霊子、繋いだだけなのに」
ノンちゃんが囁いた。すぐにマドカが呟く。
「綺麗――……」
温泉で見上げる打ち上げ花火――……みあげながら、季節の終わりを感じた。
星に変わって溶けていく光の雨に手をかざす。
内からあふれてくる熱が叫んでる。でたい。続きたいっていう内なる叫びに従って願ったの。
噴き出てきたよ。金色が花火の雨に重なっていく。
「――……星が」
「煌めいていく」
キラリの全身からは星が。それに手を触れたマドカが光に繋げて星座になっていく。
いつしか声はとぎれて、花火の音に消えていく。
泣けちゃうくらい綺麗で、散っていくからこそ終わりを感じる。
花火の星屑が流れて消えていく。消えたらもう……思い出にしか残らない。
胸の中に宿る、大好きな先輩がくれた熱が溶けていく。とびきりおおきな花火があがって静寂が広がっていく――……こんなのやだなって、思った瞬間だった。
「たまやー! たりてねえぞーっ!」
カゲくんが楽しそうに言うの。
「おい、青澄! もっともっとあげてくれよ!」
「え――……」
「なに泣きそうな顔してんだ。終わりそうならあげりゃあいいだろ? さみしかったら続けりゃいい。満足するまで、なにかすりゃあいいだけだ!」
だってさ。
「星がこんなに綺麗なんだ! なのにこれで終わりなんて、もったいねーだろ!」
「――……そうかも」
「歌ってくれよ。なんでもいいからさ」
あげてくれよ、と言われて目を必死にこすってから、立ち上がった。
光が消えていく温泉の中で、星空を浴びながら唇を開いた。
お父さんが好きなアニメからで恐縮だけど。
「――……」
金色を小さな人型にして水面を駆けさせていく。
手を伸ばす。夕暮れが通り過ぎて太陽が落ちた水平線に。
駆けていく。置いていかれそうな人の手を取って、夜空に向かっていくの。
明かりの少ない島で見上げる星空は暴力的。ナガレボシが見えるよ。さっきもたくさん流れていった。
終わりだと嘆くよりもっとずっと、消えない私の強い願い……熱はね。
いつだってこの胸の中にあるんだ。メイ先輩がくれた熱は――……今日まで過ごしてきた日々は。
見失ったら見上げよう。いつだって思い出せるに違いないよ。今日の星空は。
空へと上がった金色がまたたいた。キラリが指さして星を飛ばして流してくれる。
落ちた星の位置をマドカが撃ち抜いた。光が煌めいて、どんどん膨らんで弾ける。
花火があがる。何度でも。何度でも。
私たちは未来を切り開いていく。へこたれそうでも乗り越えていくよ。
どこまでだっていくの。
「――……」
落ちてきた星を手のひらで受け止めた。ちっちゃな星の熱に次の曲へ。
光の洪水のような――……見えた花火の終わりも気にしない。
胸の中に熱が宿っているから――……ずっと、一緒だから。
どんな毎日だって越えていけるよ。
小さな光――……数え切れない星に重ねるの。
叶えるよ。私の金色を鳥に変えてはばたかせるの。
たった一つだけでいい。
探し求めているのは――……明日を光らせる内なる輝き。
すごく単純な願いこと。
会いたい。遊びたい。もっと一緒にいたい! 大好きだから! べったりじゃなくていい。常にそばにいたいとか、そういうんじゃなくてさ。
卒業なんかで終わりにさせないから! この縁、つなげていきたいの! それだけ!
だから伝えるの。
決めたよ! 卒業式に届けるんだ。
この気持ちを――……届けるんだ。
きっとコナちゃん先輩たち二年生もなにかやるだろうけど。
私たちがやらない理由にはならない。
いろんな人がリクエストしてくるから、それにこたえてさんざん盛り上がって――……ひといきついたから、私はみんなに言い出すの。
「あのね? ――……来月の卒業式で、やりたいことがあるんだ」
きょとんとするみんなに伝えたいのはね。
「だって、贈り物ってさ。もらうばかりじゃもったいないじゃない?」
笑って胸を張る。
「だから贈りたいの。だめかな?」
笑顔を返してくれるみんなの気持ちが答えに違いないよ!
つづく!




