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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十七章 特別授業はサバイバルで生き延びろ!

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第四百三十三話

 



 立ち尽くす私たちに道を示すよう、すぐにぴんぽんぱんぽん、と放送を知らせる音が聞こえてきた。


『さて、絶望したところで中へ。組み分けを行ってもらうぞー』

『ふふ! お前らの運命、どっちになるかな!』

『クリス落ち着いて。えっとね。組み分けは厳正に行うよ。それでも念のため自主的な意欲を確かめてから実施するよ……いうまでもないけど、施設の修繕は刀鍛冶に、遺跡探索は侍候補生により適性があることは言うまでもないけど』

『やりたいほうをやれよ!』

『クリス、それはボケなのかツッコミなのかわかんねーよ。いいか、お前ら。侍候補生にとっては御霊次第だと言えるし、刀鍛冶だからって戦っちゃいけないわけじゃないのは……先輩の刀鍛冶をみりゃあ、わかるよなあ?』

『自分の夢に正直になれ!』

『『 クリス~? 』』

『不敬!』


 三人の楽しそうな声にみんなで顔を見合わせちゃった。

 っていうか、いちいち合いの手を入れてくる元気なお姉さんの声がちょっとツボだからやめてほしい。


『まあいいや。風早コユキと』

『藤岡ユウリとぉ!』

『那月クリスじゃ。とくと覚えておくがいい、愚民ども!』

『『 愚民って…… 』』


 ああもう、おわりおわり、と聞きなじみのない女の子の声がしてぶつっと放送が切れた。申し訳程度にぴんぽんぱんぽん、と締めくくる音がする。


「な、なんか……生徒会じゃなくなった途端、激しいね」


 ちょうどそばにいた羽村くんに言ったら、肩を竦めて言われたよね。


「まあ、俺らも三年もバリエーション豊富だしな。二年生だって、面白い奴がたくさんいてもおかしくないんだろ」

「な、なるほど……」


 ちなみに羽村くんの隣に立っていた三組で羽村くんとすっかり仲良しの木崎くんは呆れた顔をしていました。他のクラスのみんなもだいたいおんなじ感じでぽかんとしていたよ。

 レオくんとマドカだけじゃなく、トモやシロくんに姫宮さんが手を叩いていったんみんなを食堂に誘導したの。

 先輩たちも旅館に戻るように促していたし、それなら私たちを導く役目の誰かが来るのかもしれない。そう思ってみんなそれぞれ席についた時だった。

 天井が割れた。ぱかっと。そこから銀色のぴかぴかきらきらなボールが出てきたの。軽快なダンスミュージックが流れて食堂をあちこちから出てきたライトが照らす。

 ざわめく私たちの前、レオくんたちが座るリーダー席の前の床が不意にぱかっと開いた。

 そして神輿に乗った上半身裸のお兄さんと、同じように上半身裸になって神輿を担いでいるお兄さんたちがせりあがってきたの。

 予想だにしない光景に私たちはざわつく。

 わからない! いったいなにが始まろうとしているの……っ!?

 神輿のお兄さんは刀を抱いて微笑んでいた。けれど切れ長の目つきといい、ぎらついてみんなをにらみつける瞳といい、開いて笑う口元から覗く八重歯といい、野性味にあふれていたの。

 曲が盛り上がっていくにつれて、神輿を上下にゆする動きが速くなる。

 不意のサイレンスからのサビで、のっているお兄さんも担いでいるお兄さんたちも一斉に踊り始めた。そのクオリティがあまりに高すぎて呆気にとられながらも、謎の感動に打ち震える私たち。私たちの注目は完全にお兄さんズに集まっていたからこそ、曲が終わってポーズを決めたお兄さんたちに後方から歩いていく豪奢な着物姿のお姉さんの登場には驚かされた。

 扇子を手にしたお姉さんがお兄さんの前にたどりつくと、照明があらぶり始めてさらに次の曲が始まるの。

 どよめく私たち。まさかのおかわり。

 食堂の扉のいたるところからお姉さんたちが入ってくる。パッと見、二年生っぽい。見た顔もちらほらと。

 お姉さんズは並んで激しく腰を振る本気のダンスをお披露目したの。短いスカートと見せパンを遠慮せずに見せちゃうくらいの腰振りには男子が特に熱狂していました。

 踊りが終わってとりあえず拍手する私たちの前で、特別豪華な着物姿のお姉さんが神輿に担がれていたお兄さんに抱き着いて私たちをにらむ。


「よい。拍手は終わり。授業にうつる!」

「余興、楽しんでもらえたかな」


 そばにいる一年生のみんなと顔を見合わせちゃったよね。


「「「 ……まあ? 」」」


 どちらかといえば楽しかったけれども。


「あ、あの……今のは?」


 レオくんが恐る恐る問いかけると、着物姿のお姉さんが吠えた。


「不敬!」


 あ、あのお姉さんか。クリスって呼ばれていたっけ。


「授業説明! これから! つまり黙れ!」

「……わかりました」


 レオくんの横で姫宮さんがむっとしているけれど、とうのレオくんからなだめられたらしょうがないよね。


「那月クリス……侍じゃ」

「星野カズマ……同じく、侍だよ。候補生だけどね、心は既に戦地にある」


 二人の先輩以外は名乗る気がないようだ。ずらっと二人の後ろに並んで私たち一年生を見ていたの。よくよく気にしてみれば、それぞれにそれぞれの気になる生徒を見ているみたいだった。部活の付き合いとか、いろいろあるのかもしれない。


「例年、この特別授業は一年生の資質をより明確化し、よくもわるくも強化する! そこな一年生、よくきけ!」


 クリスがひそひそ声で話す泉くんたちを指さした。

 迫力がちょっと尋常じゃなかったの。クリス先輩自身も御霊もかなりのレベルなのでは?

 ささやき声が止まったよ。お見事!

 つやつやのピンクブロンド、ふさふさのまつ毛に小さいお顔、派手目のメイク。星蘭の鹿野さんばりに可愛くて、圧倒的上位者のオーラに満ち溢れていたの。

 強いて言えばあとはタマちゃんに雰囲気がちょっと似てる。そんな方向性だ。

 そのお姉さんが「カズマぁ」とお兄さんに甘えるの。人前だろうと構わず。体をこすりつけるお姉さんをお姫様抱っこして神輿に寝かせると、お兄さんは何事もなかったように言いました。


「昨日の夜の戦いで、一年生のマシンロボに足りないもの……それだけじゃなく、一年生が集団で行動し、戦う時に足りないものはなんなのか。それぞれ見えてきたかと思う」


 動揺したし、切り返せなかった。


「学年ごとにノリが違うし、そもそもクラスによっても、クラスの中のコミュニティによっても違うだろうからね。一律的な教育じゃあちょっと教えきれないよねえって思ってます」


 見た目よりもずっと、のほほんとしゃべるお兄さん……カズマ先輩が私たちを見渡した。


「でも我らが生徒会長と生徒会役員のみんなはもとより、いろんな形で君たちにかかわる二年生の僕らとしては、来年度の一年生を導けて、かつ、卒業する三年生が誇りに思える一年生になってもらいたいんだ」


 来年の一年生……私たちの後輩と、メイ先輩たちのために。


「なにより、君たちが強くなればそのぶん、僕らが無茶できるからね。できる限り頑張ってもらいたい。その結果の分だけ、バックがあるのが士道誠心のいいところ……」


 刀を手に微笑む顔に一瞬、ぞくっとした。何かが宿ってみえたのは……気のせい?


「さて。設備補修に回りたい人はあちらの……ユウリたちの前に集まってくれ。遺跡攻略も設備補修も、侍候補生だろうと刀鍛冶だろうと関係なく、参加した人にはできる限りのことをしてもらうよ。だからやりたい方を選んでね」

「というわけだから、こっちこーい。生活に直結するぶん、やればやるだけ達成感があるぞ。手先が器用な奴、体力ある奴も歓迎だ」


 いつの間にか端っこに移動していた神輿担ぎ隊の一人がぶんぶん手を振っている。

 放送でも喋っていたよね。藤岡ユウリ先輩だっけ。

 柊さんをはじめとする刀鍛冶の子は基本的にユウリ先輩の元へいく。もちろん全員じゃない。それに侍候補生もちらほら混じっていた。

 移動が落ち着いた頃合いを見計らって、反対側にいるお姉さんが手を挙げる。


「遺跡攻略を希望する生徒はこちらへ。戦闘自慢はもちろん、アドベンチャーアクティビティ好き、たんに体を動かすのが好きっていう生徒もぜひぜひ!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるお姉さんに合わせて、かっこいいお兄さんたちときれいどころのお姉さんが一斉に言うの。


「「「 こっちはたのしーぞー! 」」」

「なんていったって、日頃きびしい先生たちが遊び心満載で作る遺跡アトラクションが相手だよ? だからー?」

「「「 こっちは暴れられるぞ-! 」」」

「なんていったって、生徒会役員を思い出してもらえればわかる通り、私たち二年生は遊び好き! だからー?」

「「「 こっちを選んだら退屈させないぞー! 」」」

「というわけで!」

「「「 遺跡へおいでよ! 」」」


 な、なんという……。

 アトラクションの一環みたいに誘いだしているんだけど!

 私、こういうのわりと弱いタイプなんですけど! 遊園地でこの手の誘いにほいほい乗っちゃうタイプだよ!

 ふらふら~っと誘われていく私や茨ちゃん。キラリも誘われているし、ユニスさんや中瀬古さんはもちろん、アリスちゃんなんかは率先していわば勧誘隊ともいうべききらきら二年生の中に混じってる。

 羨ましそうな顔をし始める刀鍛冶のみんなに、ユウリ先輩があわてて声を上げた。


「ちょ、おまっ、エマっ! てめえ、卑怯だぞ! まるでこっちが雑用を押しつけられて退屈するみたいな!」

「あれえ? 違いましたぁ?」

「くっ……自分の刀鍛冶相手に手加減の一つもしねえなんて、どういう了見だ!」

「こんなに可愛い幼なじみが晩ご飯に誘っても生返事して、しかもコナちゃんが声を掛けたら二つ返事でオーケーした浮気者がどこかにいるせいじゃないですかぁ?」

「俺じゃん……っ!」


 納得しちゃったよね、二人の関係性。

 幼なじみ同士のカップルっていうのもいいよね。大定番で。


「結構どきどきわくわくできるんで、迷っている子もぜひぜひこっちにきてね!」


 さあおいで、とばかりに攻勢に出るエマと呼ばれたお姉さんに歯がみして、ユウリ先輩が拳を振り上げた。


「だまされるな! 確かに! 確かに遺跡は楽しい! 俺も去年、遺跡を選んだ方がよかったか? と思うほどに……っ!」

「あの、先輩、それだとこっちを選ぶ利点って……」


 ノンちゃんが不安げな顔で問いかけると、ユウリ先輩は拳から人差し指をぴっと出して言うの。


「しかし! しかしだ! これが授業である以上、どちらもそれなりに大変だし! 冷静に考えてみて欲しい! 遺跡は戦闘技術の向上も含まれている、つまり切った張ったがあるんだ!」

「「「 でも、楽しそうですよ? 」」」

「まあ待て、落ち着け。こっちも楽しみを用意している! たとえば!」

「「「 たとえば? 」」」


 ハモって問いかけるノンちゃんたち、仲が良いなあ。

 ついついユウリ先輩もノリノリになってるよ?


「遺跡ツアーで出される飯はかなり野性味に溢れたもんだが、こっちで出される飯は二年生の調理部が本気で作る三つ星顔負けフレンチだ!」


 そ、それは……すごそうなのですが。そもそもフレンチに馴染みがなくてぴんとこない。


「おやおやあ? 調子が悪いようですねえ? もっとわかりやすいメニューの方がいいんじゃないですかぁー?」

「基本的に俺を好きなはずの幼なじみが俺の息の根を止めようとしてくる!」

「誰かなぁー」


 素知らぬ顔で笑えるエマ先輩、強い。


「まあ待て。一年生の岡島はなるほど確かに、報告を聞く限りすげえ料理上手だというが……こっちはな! 三つ星シェフの教えを受けた凄腕だぞ!? お前らが普段食べるものすら、どんなものでもおいしく作る! 間違いなく!」

「あんま掘り下げたら迷惑がかかりそう。他には?」


 エマ先輩が笑顔で流して振るタイミングがあまりに的確すぎて、ユウリ先輩は笑顔で続けた。


「他? そりゃあまあやっぱり、あれだな。刀鍛冶はゲームのノリでクラフトできる技術が今よりもっとはっきり身につくから隔離世での楽しみが増える技が習得できるだろ?」


 カナタもそういえば出会ったばかりの頃に壁を変形させて私を捕らえたことがあった。あの技術が手に入るというのは結構大きいのでは。悪用厳禁ですよ、もちろん!


「それに侍候補生も霊子の扱いを学べるから、意中の人物の気持ちを探る手段を獲得できるのは強みだな」

「「「 うっ…… 」」」


 しれっと言われたその単語に思わず唸った生徒、複数名。

 しょうがない。ちょっと惹かれる響きだもん。私はカナタが伝えてくれるから縋るほどじゃないにせよ、でも惹かれる。


「まあ……私の気持ちもわからない馬鹿野郎の与太話だけどね」

「いろいろつまびらかにしていくスタイルよせって! ちょ、いろいろやりにくい! 今日会ったばかりの後輩女子の目がきつい! 男子の心が引いていく音がする! ほんとだから! 気持ちを探れるから!」

「そういえば刀の手入れと称して胸元に触ってきて、あれは私の気持ちを探っているのかな? だとしたら幼なじみの気持ちをスルーするその神経って、後輩を導くに足りるのかな?」

「エマさんすみません、謝るんで……コナちゃんに尻尾ふったの謝るんで、なにとぞ」

「彼氏のできたコナちゃんにでれでれしてすみません。はい復唱」

「……彼氏のできたコナちゃんにでれでれしてすみません。え、なにこれ。どんなプレイなの?」

「コナちゃんが前屈みになるたびにお尻とか胸元をでれでれしながら見てすみません。はい復唱」

「してない! してないから!」

「まあ特別授業ではしてないよね。でも日常的には?」

「――……そ、そろそろ次の話にいこうか。うん。それがいい。いやほんと! 待って! 女の子たち! 授業だから! ちゃんとやるから! そんな目で見ないで!? って、見たの俺か」


 自分で突っ込んでる……。


「話が! 進まない! これ、即ち! このぼけ!」


 一瞬で距離を詰めたクリス先輩のハリセンが唸る!

 すぱん! と叩かれたユウリ先輩は渋い顔で頭をさすってから、咳払いをした。


「こほん。すまん……とにかく、誓って真面目にやります。君たちを変な目で見たりもしません」

「コナちゃんとユリアちゃんなみの美貌じゃないとぴんとこないんだよね」

「あのっ、エマさん!? これ以上、俺の風評被害になること言うのやめてもらえますかね!? いったいなんの恨みがあって!? コナちゃんのことエロい目で見たのはもう謝ったでしょ!」

「べーつにー? なんでしょーねー? ……ふんだ」


 私は思ったよ。変な虫がつかないように落としておきたいだけなんだって。そしてその効果は抜群のようです。

 そして……こういうやりとりを続けているくらい、先にも後にも進めずにいるんだろうなあ。

 根が深い。幼なじみの恋愛は思ったよりずっと根が深い。なむなむ!

 内心で祈っていたら、輪の中からひょこっとコユキ先輩が顔を出した。


「さてと。恒例行事と両方の勧誘も終わったところで……まだ決めきれない生徒がちらほらいるね」


 ふとふり返ってみると、確かに迷っている子が残っていたの。


「個別で対応するから、前に並んでくれる? だいじょうぶ、こっちでみんなのプロフは掴んでるからね。落ち着いておいで」


 手招きするコユキ先輩、確かにタブレットを持っていたの。

 あそこに一年生の情報がまとまっているのかな? ふっと思い浮かんだのはシオリ先輩だ。

 シオリえもん……こほん。

 手持ちぶさたなみんなが並んでいく。すぐに口を開いて笑いかけるコユキ先輩、なかなかできる感じだ。


「はいはい。じゃあ遺跡を選んだみんなは先に準備をお願い。一時間後に玄関前に集合ね? それから先は終わるまで、自分で休憩を取ってもらうしかないし、トイレも用意されていないので、そのつもりでね?」

「「「 は、はい! 」」」


 トイレなしとか、いろいろ不安盛りだくさんだ。すぐにエマ先輩は言うの。


「女の子で悩みがある子は解散したら私のところまで」


 誰も返事をしないけど、エマ先輩は突っ込まなかった。代わりににこっと笑って言うの。


「今の服も素敵だけど、こちらが用意するジャージに着替えてね? 外に出る前に渡すから、ちゃんと受け取ること。あと、バックパックの持参は許可します! さあ、質問はある?」


 すぐにマドカが手を挙げた。


「はい! あの、武器になるものとか、アスレチックに使えそうな道具の持参はありですか?」

「許可します! といっても……誰も上級生から今回の特別授業の詳細を聞いてないと思うから……どこまで用意できるか、逆に見物かな?」


 不敵に笑って煽るエマ先輩、なかなかの性格をしてそうだ。まあ、さっきのユーリ先輩への追い込みからしてかなりのものだったけどね!


「他には?」

「じゃあ……いいですか?」

「はいどうぞ!」


 キラリが恐る恐る問いかける。


「この学校の授業ってたまにがちで命を狙ってると思う瞬間があるんですが……今回って、どの程度やばいですか?」


 すかさずエマ先輩のみならず、遺跡勧誘隊のみなさんが俯いて肩を上下に揺すって笑うの。ふっふっふ、って。いかにも不穏!


「まあ……みなさんが気をつける限り、怪我はある程度までは避けられると思います。ですが逆に言えば、士道誠心の戦闘技術向上のための特別授業のカリキュラムである以上は……ね?」

「「「 お、おう…… 」」」


 エマ先輩に流し目で見られて震え上がる私たちですよ……!

 なんだかんだで危険な場所へ行くことは多いけど、いつだって本当に危ない一線を越えないように気をつけてくれていたから。

 怪我をすることはあるかもしれないけど、ある程度は大丈夫なはず。

 私たちがふざけて適当にやらない限りは。そういう指摘なんだなあと思いました。


「他にあるかな?」

「じゃあ、僕から。島には遺跡らしきものがない。地形を変えてまで実施するのですか?」

「住良木くん……だっけ。うん、そうだよ」


 わりとあっさりエマ先輩は答えてくれたよ。だからレオくんもたたみかけていく。


「規模さえ変える?」

「まあね」

「……あっさり答えてくださるんですね?」

「言っても差し支えないからね」


 にっこり笑顔で見つめ合う二人。だけど、これ、あれだ。戦いの最中だ!


「なら、最後に一つ。僕ら一年生は二つのカリキュラムに分かれて尚、人数が多い。にも関わらず大勢で挑むのですか?」

「チーム分けするのかどうかってこと?」

「ええ、端的に言えば」

「まあ、それは……後のお楽しみ」


 意味ありげに笑われても。どう考えてもする流れなのでは? チームを分けてどきどきの大冒険を始める流れなのでは!?

 尻尾をぱたぱたと振る私に気づいて、エマ先輩が頭を撫でてくれました。


「よしよし、楽しみか。コナちゃんから聞いていた通り、あなたはわかりやすいね」

「ほ、ほめられているのでしょうか」

「うん、ほめてるほめてる。ばかな子ほど可愛いって言うじゃない?」

「先輩、私、褒められている気がしません!」

「まあいいから。それじゃあ準備しておいで!」


 エマ先輩に促されて、勧誘隊から一人、また一人とジャージを受け取って出ていくの。

 レオくんに姫宮さんとシロくん、マドカが駆け寄って、カゲくんもその輪に加わっていく。

 タツくんに寄り添うユリカさんとか、トモと笑いあうギンとか……クラス会議状態の十組とか。みんなの様子を見たエマ先輩がぽつりと呟いた。


「さて、どれだけ生き残るかな?」

「え――……」


 思わず不安になる私に気づいて、頭をぽんぽんと撫でると先輩は何事もなかったように笑うの。


「着替えておいで。纏いができるなら、その必要もないだろうけど……纏い次第じゃ、パンツ丸見えになっちゃうから。ジャージ着用は義務なんです。また後でね?」


 私から離れてユウリ先輩の元へと歩いていく。

 メイ先輩とも、ラビ先輩とも違う。カナタとも、コナちゃん先輩とも……ルルコ先輩たちとも違う。幼なじみのこととなると暴れちゃうエマ先輩。

 胸に宿した御霊についても含めて、わからないことばかり。カナタから教えてもらったこともない。

 そもそも――……三年生の先輩たちほど、二年生の先輩のことを、私はろくに知らないんだ。

 その先輩たちが、生徒会が出張ってもおかしくない……事実、一日目はそうだった……行事で主導権を握って活動を始めた。

 何かが私を待っている。

 どれほどの脅威になるのかわからないけど、わくわくしてきたよ!

 とりあえずジャージを受け取ってお部屋に戻る。

 尻尾の膨らみが止まらないよ! たくさん振っていくよ! なにせ九本あるからね!




 つづく!

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