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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十七章 特別授業はサバイバルで生き延びろ!

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第四百二十五話

 



 マドカが刀を手に戦っている。

 そのやり方は他の誰にも真似のできない方法だった。

 ノンちゃんに化けてギンを躊躇わせ、妖刀を発動させながらも斬らぬ道を探らせたり。

 或いは岡島くんには茨ちゃんに、茨ちゃんには岡島くんに化けてあの手この手で攻めながら厳しく指導したりして、フルスロットルだ。

 その激しさと苛烈さに三人がそれぞれに手応えを感じて、見守っていた生徒に交代する。

 肩で息をするけど、マドカはすぐに自分自身に姿を戻してかかってこいと煽り――……戦っていく。実学に満ちた訓練時間を見ながら痛感するの。あれはきっと他の誰にも真似できない、マドカにしかできないやり方に違いないって。

 入れ替わりでミナトくんたち十組男子が三人で挑んでいくよ。マドカはすぐに刀を構えて、三人の課題を聞き届けて稽古に入っていく――……。


「確かに教師役にはもってこいかもしれないが……あれじゃ夜までもたないだろ」


 キラリが呆れた顔をして呟く。

 トモが肩を竦めて、それから狛火野くんの肩を叩いた。


「責任を感じているんだろうけど、あまりよくない気がするよ。彼氏なら止めたら?」

「俺は……彼女が本気で決断したことなら、尊重したい。その結果を含めて」

「そ。じゃあ、あたしと手合わせしてくれない? 見ているだけじゃ時間がもったいないし、マドカの負担が増えるだけだしさ」


 トモはさばさばしているだけじゃない。


「他にも! 仲間が全力だしてるのに、見ているだけなんてあり得ないでしょ。ほらほら、きびきび動いた! 見ていないでそばにいる人と手合わせして、課題を解決できるならしていこ!」


 手を叩いてびしっと指示を出すの、素直に惚れ惚れする。

 みんなが緩やかにだけど確実に主体的に行動し始める。

 生徒それぞれ学校から課題を出されているけど、それだけに留まらない。

 たった三日しかない中で、私たちはただ漫然と過ごすだけじゃなく……成果を求められている。


「春灯、付き合え。あんなの見せられたら、放っておけない」


 キラリが視線を向けてきた。

 素直に頷いたの。私も現状で何かせずにはいられなかった。


「うん。じゃあ……やろっか」

「ああ」


 刀を抜いてにらみ合い、挑む。

 できることはなんでもしよう。

 敗北は苦い味。けれど――……それはすべて、何かに至るための階段に過ぎないのだから。

 進んでいく。先へ。

 立ち止まらず、へこたれず、諦めずに――……ただ、前へ。


 ◆


 霊子を船に注ぎ、不備が出ている箇所は調整へ。

 緋迎くん、と名前を呼ばれてふり返った。ヘリでの任務についた並木さんだった。

 呼ばれるままについていき、二人でハッチへ。

 ミツハ先輩が提示してくれたマスタースレーブの一端に触れる。

 並木さんが再現する霊子の操り方に気持ちを寄り添わせる。

 肩が触れ合い密着しても、互いに意識はただただ刀鍛冶としてできることに向いていた。


「――……というわけなの。制御系だけ元々ある機械に合わせて調整して、機械のあるべき霊子の流れを掴み、こちらの意識とリンクさせて操る操縦術。これが使えれば、霊子の操作を最低限に制限して」

「現代的な兵器を軸にしたマシンロボを作成可能、か。奇しくも三年生が操るマシンロボはすべてそうだったな。そもそも現世にあるものを活用して可能性を広げられる、か」

「さすがはミツハ先輩よね」

「ああ」


 頷いて横を見て気づいた。顔がすぐそばにある。

 思わず見つめ合って、互いに笑う。

 気まずさも、変な気遣いもなし。ただただ仲間として頼もしくて、美しい。

 そう感じられるお互いの気持ちが通じ合った感覚が心地よくて。


「思えば一年生の頃からずっと、こんなことばかりしてきたな」

「刀鍛冶の素質ありと見抜かれてからのミツハ先輩のしごきは、かなり激しかったもの」

「暁先輩の一件はとにかく痛すぎたから」


 並木さんに頷いて、操縦席に身体を預けた。


「去年の実習はかなりタイトだった」

「脱落者もかなり出たわよね」

「ミツハ先輩にタイマンで勝て、という課題はさすがに達成できなかったからな」

「……しょうがないわよ。どんなに倒しても立ち上がるんだもの。不屈の闘志こそ最強なんだと思い知らされたわ」

「ターミネーターでも相手にしているのかと思ったが」

「言い得て妙かも」


 二人で笑いあえる瞬間がまた訪れるなんて思わなかった。

 それがただただ新鮮で、不思議で、でも手放したくない空気感だった。


「山吹への課題はかなりの無茶ぶりじゃないか?」

「私と同じだから」

「……ああ」


 だとしたら、それほど見込まれているわけか。納得した。

 深呼吸をして囁く。


「一年生の状況は」

「シオリの録画映像で確認した。山吹はいざってなるとてんぱるし無謀になるのがネック。住良木は自分の実力に自信をもてないところが残念だし、仲間と結城は必殺技に耽溺しすぎて戦い方が単純になりすぎてる」


 苦笑いが出る。


「他は?」

「岡島と茨は強い御霊に振り回されるばかりで、しかもどこかでそれを受け入れているせいで戦い方が単調。沢城は勘の良さと戦闘技術の高さを自覚しているがゆえに油断するきらいがある。十組は単純に戦闘経験が足りてない」


 課題は山積だな。


「あの子にいたっては葉っぱの用意を忘れて、ニナ先生との戦いにおいて失点。かなり演出に気を配ったつもりだけど、それでも一年生をその気にするのは難しいわ」

「そうだな」


 一年生が問題なんじゃない。

 むしろ高校一年生で完成された人間なんていうのは――……幻想でしかない。

 大人ですら、そう振る舞える人間は恐ろしく少ないだろう。積み重ねを実に変えられる人間はそう多くないし、成果を出してもそれが永続するわけでは決してない。生きる限り苦しみはついて回る。それが現実だ。

 俺たちがいくら自分を完璧だと思い込んでも、知らない世界は山ほどあって、そこに飛び込んだ自分が第一線で活躍できるなんていうのは、夢物語でしかない。

 だからこそ俺たちは自らを鍛える。泥臭く失敗をして、時に青臭く嘆き、苦しみ――……そして成果を手にして歓喜の声を上げる。

 二年生は一年生を誘導しきれていない。

 それが問題なんだ。


「それぞれの潜在的な可能性を結実させるために必要な状況作りが足りていない……かな」

「恐らくは」


 迷わず頷く並木さんに腕を組む。


「俺たちがそばにいれば導けると思うか?」

「どうかしらね。今より表面的にはましにはなるかもしれないけど、一年生が一年生だけでやりきれるように誘導するのが今回の特別授業の趣旨だから、それは趣旨から外れるんじゃないかしら」

「……そうだよな」


 思わず唸る。


「リーダーシップを発揮する生徒と、それを受け入れる生徒同士の空気が形成されていないのが問題なんじゃないかしら」


 考える。

 主体性のある生徒は多くない。別にそれ自体が問題だとは思わない。

 誰も彼もが前に前に出てきたら、収集がつかないしな。

 役割分担は必要だ。


「山吹や住良木じゃ足りないか?」

「八葉が輪に入って、少しずつ稼働し始めているけれど。一年生の横の繋がりはまだまだ薄いのが実情。これからってところね……特に刀鍛冶のチームが心配よ。役割分担ができていないんだもの」

「ふむ」

「月見島に手を貸した調理場の子たち、住良木を信じて見守った生徒たちはまだいいけど……それにしたってすんなりユリアに攻略されすぎだと思うの」


 ため息を吐く並木さんにどう言うべきか迷う。

 なるほどな。それは確かに問題だ。

 当事者意識を持たせることが課題。自分に何かができると思える空気作りが大事。そのためにも……できる生徒はなるべく早く制圧して、そうでない生徒の奮闘を期待したのだが。

 そういう意味においては、


「泉と暁先輩の妹くらいか。目立って成果をあげたのは」

「そうね。あとは姫宮の奇襲も悪くなかった。最初の布陣をあまりに圧倒しすぎたのが問題だったのかしら。攻め手が強力すぎるせいで、やりすぎた?」

「いや……ニナ先生とユリアの攻撃自体は必要だった。目立つ生徒の、特に戦える連中の課題が浮き彫りになったからな」


 認識すべきことを整理する。


「段階を次に移すだけだ。戦闘に参加しない生徒を引き寄せるような何かをしよう」


 たとえば、と切り出そうと思った時だった。

 俺と並木さんの間にひょこっと兎耳の生えた頭を出してラビが口を開く。


「それなら既に考えてあるよ」

「「 ラビ? 」」


 嫌な予感がする、という俺たち二人に悪戯男は笑った。


「まあまあ。食料補充に岡島くんとシズクちゃんが刀鍛冶の空いてる子たちと準備を始めたからね。そろそろ仕掛け時じゃないかな」


 並木さんがあわててヘリから出て行った。

 シオリのいる管制室に向かおうというのだろう。

 状況の把握は彼女に任せるとして……。


「どんな悪戯を仕掛けたんだ?」

「んー? エビを食べたんなら、夜はお肉が食べたいかと思って。あとは内緒さ」


 幸せそうに笑う親友を横目に思いを馳せる。

 ハル――……やりきれるか?


 ◆


 珍しく星を使わないで挑んでくるキラリだけど、右目に見通せないわけなくて。

 よけ続けるとキラリが苛々して大振りになる。

 歌と戦闘の融合術を探るよりもまず左目をなんとか使えるようにしたくて見つめた。

 むず痒い刺激がする。それだけじゃない。身体中の力が左目に集結していく。

 けど見ているだけじゃ発動しないみたいだ。

 これまでまともに発動したのはカナタ相手だけ。じゃあなんだろう。魅了したいという気持ちがまずなによりも大事? なら――……大上段に構えたキラリに飛びついて押し倒す!


「いらいらしないで」


 囁いて見つめた瞬間、キラリの顔がぽっと赤くなったの。

 これいけたんじゃない? 発動したっぽくない?


「ど、どけ。なんかやばい空気を感じる!」


 耳まで真っ赤になって私を必死に押しのけるキラリから離れた。

 あ、あれ? 不発かな?


『いや、今のはいい感じじゃな』


 タマちゃん、ほんと!?


『うむ! ほれ、あの猫娘の尻尾を見ればわかる』


 思わずキラリを見たよ。私に背中を向けて、尻尾をぶんぶん振って動揺しまくり。

 なるほど確かにいい感じだ。よしよし。でもいつも発動できる感じじゃないね?


『まあ性質を考えたらな。お主の性格じゃ、ほれ。終始誰かを虜にするほど自信もあるまいし』

「うっぷす」

『活用できる力ならばこそ、己を信じる糧にせねばな?』


 タマちゃんの指摘が痛すぎて何も言えない。


「――……ああもう」


 手のひらに浮かべた三つ星を自分の胸に入れて深呼吸をすると、キラリはもうすっかり元通りになっていたの。


「キラリ……いまの、なあに?」

「ん? ああ……自分の願いくらいは把握しているからな。それを入れて混乱を鎮める感じ」

「……技だね」

「なんだよ、神妙な顔で言うな」

「ええ? 羨ましいから言ったんだけど」

「あんたこそ。あたしがあんたならやってみたいこと山ほどあるぞ? たとえばあんたの化け術と歌と、あと見事な剣術の合わせ技として、あんたが前にやった――……」


 キラリがあれこれと案を話してくれるの、真剣に耳を傾ける。

 視界の中で同じように戦う手を止めて話し合っている人たちもいる。クラスではたびたび競い合っていた残念3と犬6すら、そうしているし。マドカと稽古をした十組の男の子たちも顔をつきあわせてお話中。

 刺激し合っている。一人だけじゃない。みんながいる。私たちはひとりぼっちで強くなるんじゃないんだ。そう実感しながら、キラリの教えてくれた案を思い描いていた時だった。


「――……待った」

「うん」


 キラリが渋い顔をして山の方向を睨む。私もだ。

 旅館から出てきた岡島くんたち食材確保隊を手で制して、私は声を上げる。


「敵襲! 山より足音多数!」

「旅館を守らないと! マドカ、住良木!」


 私に続いてキラリが叫んだ。それにすぐにレオくんが吠える。


「後ろに回れ! 黒星を続けてもらう真似は許すな!」


 みんなで全力で裏口へ回り込んでいく。侍候補生の士気の高さはひとえに敗北によるもの。だとしても、必要な気持ちかもしれないし、低いよりは高い方がずっといい。

 頼もしさを感じながら回り込んで顔が引きつったよね。


「あれは……なに」


 呟く。

 見たままをありのままに言うならば。


「お肉に手足が生えてるんだけど」


 もっと正確に言うならば、内臓と皮と頭の処理をされた牛さんたちがカートを引いてやってきた。カートには藁袋とか紙袋が積み込まれている。


「小麦粉だ」


 岡島くんの呟きにどう答えるべきか迷う。

 とってもシュールな敵さんが巨大な鰹節を剣に見立てて構えるの。

 それを見て悔しそうに岡島くんが唸る。


「くっ……食材を武器にするなんて」


 いや、あの。岡島くん、私の知る限り最大のテンション感だけども。


「なあ……あれ、どう倒すんだ?」

「どうって聞かれても……」


 よくみると牛さんは足に靴を履いている。律儀かな?

 操り人形みたいに行動している牛さんの首に首輪が嵌められている。

 月と兎の意匠がつけられたペンダントトップつき。

 いかにもあれって。


「ラビ先輩の仕業だな」

「ラビ先輩の仕業だよね」

「……そ、そうだよね」


 キラリとマドカに先に言われちゃって苦笑い。


「みんな……あれは僕に任せて」


 青い炎の闘気を纏って前に出る岡島くんがすっかりその気。


「岡島くん! あの首輪を破壊して!」

「わかった。食べもので遊ぶ奴は――……許さない」


 うおおおお! と刀を自分の胸に突き刺して暴れ回る岡島くん、酒呑童子に飲み込まれるどころじゃなく飲み込んでいる。

 アオイホノオが駆けていく。牛さんを瞬く間に制圧していくその強さは確かに京都で私たちを翻弄した酒呑童子のものに違いなく、しかしすべてを倒して、ふうって息を吐いた知的な顔は岡島くんのものに違いない。


「あ、あはは……まさか一瞬で片付けちゃうなんて」


 さすがにラビ先輩も予想できなかったのでは、と思った時だった。

 獣耳を立てる。港からも音が聞こえるの。ほかにも、島のいたるところで物音が立て続けに聞こえた。

 牛さんだけじゃないのかな? だとしたら、


「マドカ、どうしよっか」

「このノリ見る限り、わりとふざけたところがあるから……稽古が終わった生徒が順次チームを作って討伐に行くくらいでいいかもしれない。それよりも明日までの課題の方が優先かな」


 そう言いながら、マドカはレオくんを見たの。

 腕を組んだレオくんは右手で顎を掴んで俯く。


「そうだね。十組のメンバーと九組のメンバー、あとは零組がそれぞれ一区切りついたみたいだが、どうだろうか」


 レオくんの問いかけに指定されたみんなで頷いた。

 満足そうに頷いて、レオくんが指示を出す。


「ならばそれぞれにチームを分けて音のする方へ向かってもらおうか。零組と十組は合同で。青澄くんと天使くんの耳を頼りに二チームで移動してもらう。残りは稽古を全力で終わらせて、順次、討伐隊に参加する形で切りかえていこうか!」

「「「 応っ! 」」」


 ばたばたと活動し始める。

 侍候補生の目的はここへきて単純になってきた。

 それくらいでいいのかもしれない。

 課題を乗り越えて、その試しをする。指定された時間に結果を示す前に――……確認。

 今日を越えるために。やれる限り、やっていこう!


 ◆


 刀鍛冶の足並みは揃いません。


「佳村さん、戦闘の強化はいいけど下着の手配ってどの程度やるつもりなの?」

「佳村さん……柊は早くマシンロボの形成にチームを編成してほしいのですが。いつになります?」

「佳村ちゃん。侍候補生になった女子と違って刀鍛冶の女子ってそこまで戦闘に前のめりになれないんだけど、どう調整したもんかなあ」

「「「 ねえってば! 」」」


 旅館の正面フロアで日下部さん、柊さん、泉くんに詰め寄られて汗だくになります。

 刀鍛冶には住良木くんのようなカリスマ的存在も、山吹さんや結城くんのような参謀役もいません。比率でいったら女子が圧倒的に多くて、それぞれのクラスごとに小さなグループがたくさん形成されていて、その枠を通り越えるための統率力みたいなものも仕組みもないのです。

 ミツハ先輩たち三年生の刀鍛冶は言うまでもなくミツハ先輩が中心で、それだけじゃなくてミツハ先輩が強く厳しくあるだけ集めるヘイトをジロウ先輩が優しくフォローする仕組みがあります。

 二年生の刀鍛冶は言うまでもないレベルで並木先輩が引っ張っています。その周囲を固める人もみなさんいい人なので、全体的にいい空気でまとまっているのです。

 ですが一年生はまだ、そういうまとまりが形成されていません。

 佳村ノンの課題には書いてありました。


『先輩指令:一年生刀鍛冶のとりまとめ』


 正直、荷が重すぎます……。

 だからこそ、やり方は心得ているつもりです。

 一気に全部を完璧にやるのではなく、一つずつ片付けていきましょう。

 まずは……。


「あの、日下部さん。それぞれのクラスの代表を集めて説明し、終了し次第、動き始めてくださいますか」

「集めて話すのは代表だけでいいの?」

「はいです。それぞれのクラスの取りまとめはその方にお願いします」

「なるほどね、了解。一人だと不安だから二人だしてもらってくる。何か注意すること、ある?」

「えと……課題で戦闘技術の向上を強いられている生徒は代表から省いてください」

「わかった。ああ、あとさ、生活班から聞いたんだけどおっきな混浴の天然の温泉があるんだって。しかもなんと、一年生全員が入れるくらい、おっきなやつ」


 なんと。


「それで思いついたんだけど、水着つくってもいい? 混浴に抵抗ある子は無理に誘わないけど、こういう機会だからこそ熱いプールだと思って開き直って交流するのも手だと思うの」

「ま、まあ、そういうことならぜひ」

「おっけ。服と一緒に手配する。じゃ、そういうことで!」


 ぱたぱたと走り去っていく背中を見送ることなく、柊さんへ。


「柊さん。マシンロボの方向性はもう定まったのです?」

「設計は完了。小型模型の仕上がりは上々。あとは巨大化を人数そろえて試すだけ。佳村さんがいないと、悔しいけど柊だけじゃ進められない」

「了解です。他に人材に目星は?」

「個人的にこれまでのマシンロボの形成である程度つけてある」

「じゃあピックアップした人材にそれぞれ声かけして、準備にうつってもらってください」

「……その人材、下着とか戦闘訓練は?」

「後回しというか、省きます。先輩がどう動くかわからない以上、課題が最優先、次にマシンロボです」

「わかった。じゃこっちもそのつもりで伝えてくる。そのまま伝えていい?」

「はいです」

「じゃ、そゆことで」


 てってって、と小走りに去っていく柊さんから、最後に泉くんへ。


「泉くんから見て、課題で戦闘を課されている生徒ってどんな調子です?」

「戦い慣れていない奴らばっかだな。そのあたりは指令を出す側もわかってるね。侍候補生と違って、いきなり戦えるようになれっていうんじゃなくて、身を守る術を手に入れろって感じだった」

「……みなさんの指令、把握してるんです?」

「侍候補生は時間が足りなくてまだだけど、刀鍛冶は大体な。俺、無駄に顔は広いからさ。佳村さん以外は見せてもらったよ」


 しれっと笑顔で言う泉くん、侮りがたし。


「問題はさ。戦闘技術の向上を課題にされてる生徒がみんな戦闘慣れしているわけじゃないとこだな。そりゃあ当然だ。戦闘は侍候補生の華の舞台だからな」

「……まあ、そうですね」

「おまけに一月のトーナメントで、総じてぼっこぼこにされてるんだ。侍候補生の連中は妙な力も平気で遣うからなあ」


 こっちも霊子を操る術を用いれば十分対抗できるのですが。

 その経験値自体が薄いのなら、求めすぎるのは酷というものかもしれません。


「日下部さんの話が終わって伝達が済んだら、柊さんに選ばれているいないに関わらず一度、しっかり技術のおさらいをした方がいいかもですね」

「それって、つまり?」

「自信か、或いは立ち向かう気持ちがないと、いざ戦闘になったら腰が引けて何もできなくなっちゃうと思うので」

「ふむ……じゃあ、ユリア先輩に挑もうとした月見島と一緒にいた連中は頼りになるかもな。お玉とかまな板で挑もうとしたらしいぜ?」

「た、頼もしいですね」

「ああ。んじゃあ、そいつら中心に声を掛けて、それ以外の連中が戦える手段を模索するか」

「はいです。お願いできますか?」

「ほっぺたにキスしてくれたら頑張るよ」


 二枚目の容姿でさらりとそういうこと言うの、どうかと思います。


「あの……彼氏いるので、そういうのはちょっと」

「俺は気にしないけど。挨拶感覚で。だめ?」


 そっと顔を寄せてきて、微笑まれる。


「だ、だめです! 絶対しませんから!」

「絶対か」


 押しのけると「残念」と笑って、泉くんも行動を始めてくれました。


「ふう……」


 ナンパすぎるのが泉くんの困ったところです。

 まあ、みんなそのへんをもうわかっているので、敢えて泉くんに本気になる女子もいそうにないからもめ事にならない――……と、思うのですが。


「はあ」


 並木先輩みたいにはいかないですね。頼るばかりで、これでいいのでしょうか。

 俯いたら、


「じいいいいいいいい」


 見上げられていました。

 十組の暁アリスさんだったかと思うのですが。

 椅子の前にぺたんと腰掛けて、じっと見つめてくるんです。


「の、ノンに何かご用ですか?」

「じいいいいいいいい」

「侍候補生のみなさんと一緒に稽古しなくていいのです?」

「じいいいいいいいい」


 助けてください。


「幼女の刀を預けるに足る刀鍛冶、探し中です」

「え?」

「一年生、侍候補生。まだ刀鍛冶みつかってない人、多数」

「は、はあ」


 なんとか相づちを打ってから、考える。

 確かにアリスさんの言うように、侍候補生は刀鍛冶とペアを組みます。

 ノンはギン、ハルさんは緋迎先輩。ラビ先輩は並木先輩……というように。

 あれ? でも。


「あのう。十組のみなさんはユニスさんが面倒を見ていらっしゃると、以前聞いたことがある気がするのですが」

「んー。ツンデレ魔女も悪くないけど。幼女には幼女だけの刀鍛冶」

「えと……」


 彼女がマイペースだという噂は聞いていたのですが、なかなかどうして極まっていませんか?


「んーなんか違う。人の身で神を斬る技に夢中すぎるのが、ちょっと幼女好みじゃない感じ」


 そう言って立ち上がり、ぱたぱたと走って行ってしまいました。

 不思議だし、奔放で……それはいいのですが。


「あ、あれ? ノン、いま……振られました?」


 地味にショックなのは、なんでなのでしょうか……。


 ◆


 たいへんだったよ……。

 下処理された鶏肉が弓矢とか剣を手に挑んでくるの、シュールすぎてやばかったよ。

 ラビ先輩ももう少し視覚的に優しいのを出してくれたらいいのに。

 まあでもおかげで、鶏肉げっとだけど。

 それぞれにマドカやみんなと意識的に訓練してみると、得たものとか感じるものがあるみたい。特にマドカと手合わせした岡島くんと茨ちゃんは勘所を掴んだみたいで、暴れ回ったりする気配なし。大活躍してくれたの。おかげでキラリにもらった案を試す暇もなかったよ。

 一通り島を廻って、キラリたち十組と零組の混合チームや他のクラスのみんなと旅館の前で集合した時には夕方近くになっていた。

 食材を中に運び込む。

 巨大魚、鶏肉や牛肉、そして再び収穫された野菜たちと果物。それに牛肉さんが運んできたたくさんの小麦粉とお米。

 袖を捲った岡島くんが顎に手を当てて考え込んでいる。

 我らのシェフが今晩のご飯に思いを馳せていた。岡島くんの課題の一つになっていたよね、確か。としたら、本気の調理に挑まなきゃいけないわけだ。


「岡島くん、どうするの?」

「……小麦粉はアレルギーのある人に使えない。けど麺料理も悪くないかと思った。悩む」

「あ、う、うん」


 そっか。確かに言われてみたら、アレルギーを持っている人が中にいるかもしれない。

 そうなると食べられないご飯を出しちゃうわけにはいかないよね。


「小麦粉は、罠?」

「いや……使えるものは使おう。メニューは決めた。みんな、手伝ってくれるかな」


 涼しい美貌を意欲的に輝かせて、岡島くんが調理班を見渡す。


「今日はつらい敗北があった。だからこそ……料理でみんなを励ましたい。手伝ってくれる?」

「「「 うぃ、しぇふ! 」」」


 みんなでこっそり決めていた返事をしたら、岡島くんが初めて照れくさそうに笑ったの。

 それだけでも今日、がんばってきた価値があったかもなんて、ちょろい料理班のみんなで囁き合っちゃった。

 さあ、がんばって料理するぞう!




 つづく!

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