第四百二十話
それは仕事帰りの車でのことでした。
日記帳を見たら明日から三日間、お休みになってるの。
珍しくない? ここんところ毎日お仕事だったのに。
「ねえ、高城さん。新人のこの時期にお休みって私だいじょうぶなの?」
「本音を言えばきついけど。社長の方針が方針だからね」
「……学業優先?」
「露出が増えればアンチも増える。何事も程ほどに」
「……今が稼ぎ時なのでは?」
「心配しなくても、大きな企画は動いている最中なんだ。落ち着いて、どぉんと任せてよ!」
「はあい」
快活に笑うマネージャーの横顔を見て、それから考えたの。
実家に帰ってお母さんとお姉ちゃんの様子を見に行こうかなあなんて、暢気にね。
寮に帰ってみると、ちょっと騒がしかったの。
二年生の先輩たちがきびきびと動いて廊下を行ったり来たりしている。
三年生の先輩はそれを横目に部屋に戻るだけ。推薦組はもう区切りがついているし、一般組は人によっては忙しい時期みたい。専門組は落ち着いている感じ。とにかく全体的に二年生にお任せって感じです。
なんだろうね? とりあえずお部屋に戻ったら、カナタが待っていたとばかりに私を出迎えるだけじゃなく抱き締めてくれたの。
なんだなんだ。最近はデレの極致ですか! と思っていたら、
「すまん」
囁かれて、首裏に手を当てられた。霊子が流れ込んできて、一瞬で睡魔が広がって――……。
◆
身体を揺さぶる振動とプロペラ音がして、目を開けた。鉄の円筒の中にいる。私のように見慣れた九組の顔ぶれが寝そべっていた。みんな目を伏せている。
はっとして身体を起こした。あわてて自分の身体を確認すると、制服姿のまま。背中にバックパックを背負わされていた。
轟音がしてふり返る。マスクをつけた人たちが次々に私のクラスメイトを掴んでほうり投げていく。轟音の先には穴がある。
嘘だ。理解している。映画で見たことがある。大型の輸送飛行機の後部ハッチだ。空から下へほうり投げられていくんだ。
声を出そうとした。けれど頭にモヤがかかっているみたいで、身体も満足に動かせそうになくて。結局、顔を隠した人に抱き上げられた。匂いですぐに気づく。
コナちゃん先輩だ。なんで。なんで。
問いかけたいのに、声が出ない。
容赦なく投げ捨てられた。青空の中を輸送機が飛んでいく。それも一台だけじゃない。複数機存在する。それがどんどん小さくなっていくの。
首筋に霊子が流れ込んできて意識が戻る。
『姿勢制御を行ないます』
耳から何かが聞こえてきて、やっとヘッドフォンをつけられていたことに気づく。
何かがぱしゅっと吹きだして、身体の正面が地面に向かった。
巨大な島に落ちていく。落下傘がいくつも開いて下りて行っているの。
みんなだけじゃないみたい。そう気づいた瞬間だった。
『パラシュート、展開します』
何かが背中から吐き出されて広がった瞬間、ぐっと力を感じた。
緩やかに落ちていく。
『自動案内を終了します。健闘を祈ります』
そう聞こえた瞬間にヘッドフォンが溶けて消えた。
その意味を考える暇もなかったの。
島で何かが光った瞬間、私のパラシュートに穴が開いた。
火線が煌めいて空からおちていく私たちを狙ってくる。
パニックになりながら落ちていく。何かないか必死に探って、大事な私の刀が二本とも腰につけられていたことに気づいた。
一か八か、タマちゃんの刀を引き抜いて金色を放つ。減速するけれど、途端に火線が私に集中する。そんな時だった。何かが私の背中から飛びついてきたの。
「ゆっくり落ちるな、的になるだろ!」
キラリだ。星をまとって一緒に落ちていくの。
島についてすぐ、キラリが傘を切り裂いてくれた。
バックパックを脱いで空を見上げる。火線は明らかに特定の人を狙い撃っていた。全然狙われない人もいて、あわてて島のあちこちに着地している。
いま気づいたけど、銃声だ。火線を放つ前に、確かに火薬の弾ける音がする。
「荷物を確認しろ」
「あ、うん」
キラリに言われてバックパックを脱ごうとして――……刀を振った。
確かに何かを切り裂いた手応えがする。
「くそ!」
「逃げて!」
キラリに呼びかけて、必死に刀を振るう。
何かが確かに私とキラリを狙っていた。
切り裂くのは弾丸。キラリを背に、右目に見える死線を断ちきり、キラリの導きに従って後退していた時だった。
「キラリ、こっちだ!」
「急げ!」
私の横を岩石がひゅんひゅん飛んでいく。トラジくんとミナトくんの声に誘われて林の中へ。
岩陰に背中を預けたら、銃声が落ち着いたの。
獣耳を揺らす。あちこちから悲鳴と怒号が聞こえる。甲高い金属音も山ほど。
「馴染みがある導入だよな、やべえ」
聖剣を引き抜いて周囲を警戒するミナトくんの言葉がぴんとこない。
けどキラリもトラジくんもどういうことか理解しているみたいだった。
「バトルロワイヤル?」
「いや……だとしたら肝心な台詞がねえし。カバンにこれが入っていた」
トラジくんが紙切れを渡してくれたの。
そこにはしれっと書いてあった。
『一年生の特別授業を告げる。三日間、生き延びよ。邪討伐と合同で行なう。限界だと思った時はバックパックの発煙筒を焚くこと。手順は発煙筒カバーに記載あり』
眩暈がする。こんなの聞いてないし、カナタも教えてくれなかった。
「あの銃声はなんだ」
キラリの問いかけに誰も返事しなかった。
見ていない。銃を撃っている人なんて。邪だとでもいうのか? だとしても……銃を扱う邪なんて、私たちはまだ会ったことがない。
「くそ、状況がわからないぞ」
「ざっと見、一年生しかいねえな。侍候補生と刀鍛冶、どちらの区別もなく」
「だとしたら全員いるだろ。用紙を見る限りは」
十組の三人の言葉を聞きながら思考を巡らせる。
「みんなで集まった方がいいんじゃないかな……」
「土地の把握もできてないし。敵も何かわからないんだ。動きようがないだろ」
「で、でも、だからこそ、みんなで集まった方が対処できると思うんだけど」
マドカやシロくんがいてくれたら、それだけで先が見えるのに。
「三日ぶっ通し、サバイバル。となれば飯と寝場所の確保もいるな。そもそもここは現世か、隔離世か?」
ミナトくんの言葉にキラリと私は迷わず言ったよ。
「隔離世だ」「だよね。間違いない」
不思議そうにするミナトくんに言うの。
「ヘッドフォンが溶けた。力のノリがいい」
「あとは勘」
勘って、と突っ込まれるけど。
「まあ、そうだろ。邪討伐とセットっつうなら、現世より隔離世でやるのが自然だ。となれば……俺らの生身の身体はこの島に保管されてるんじゃねえの?」
「刀鍛冶と合流できたら、一旦現世に戻れるかもか」
腕を組むミナトくんを見て、ふと気づいた。
ノンちゃんと連絡とれれば早く合流できるし助かる。そう思ったんだけど……。
「な、ない。スマホがない!」
スカートのポケットにも、バックパックの中にもないよ!
「ちっ……対策済みか」
「警察から訓練うけても、山ほど修羅場を乗り越えてきても、こんな急場に慣れてる奴はそうそういねえだろ」
聖剣を握りしめて周囲を睨み始めるミナトくんをトラジくんが手で制した。
人差し指を口元に当てている。静かに、というメッセージに思わず黙り込んだ。
獣耳に聞こえてくる。がしゃん、がしゃん、という音とモーター音、プロペラ音。
恐る恐る岩場の影から覗き込んでみたら、機銃をぶら下げたドローンと、ライフルを構えた不細工な人型マシンロボだった。
ぐいっと首根っこを引っ張られる。キラリに密着されて息を潜めた。音が遠のいていく。
ふう、と息を吐いてから見た物を素直に伝えたの。すると、ミナトくんが渋い顔をした。
「二年生か三年生の刀鍛冶が授業に参加してるっぽいな」
「島にまでわざわざ来る暇は三年生にはないだろ」
キラリのツッコミはかなり的確だと思う。私もそれに頷いた。
「私を輸送機から落としたの、コナちゃん先輩だった。二年生が大々的に参加しているのかも。マシンロボも……なんていうか、それっぽいし」
「それっぽいって……ああもう。こういう時ほどあのマシンガンが恋しくなる瞬間はないな」
キラリが尻尾をびゅんびゅん振ってから、バックパックを背負い直す。
「ひとまずずっとここにはいられない。幸い、春灯とあたしは耳がいいからな。ミナト、あたしの背中は任した。トラジ、春灯と一緒に後方警戒。いくぞ」
「「 了解! 」」
「う、うん!」
きびきびと歩き出すキラリに言われるまま、ついていく。
獣耳を立てた。まずは合流しないと!
◆
並木先輩に言われていた通りになった。
パラシュートの霊子ごとすべてスーツに変えて、慌てている目星を付けていた子たちとギンをまとめてさらって地面に着地しました。
スーツの霊子を周囲に溶かして、島にある巨大な旅館に着地。
中の安全をギンに確保してもらっている間に、私は回収した子に説明します。
「いいですか。ノンたち刀鍛冶の今回の授業における役割は非常に重要なものです。戦いはまだまだ侍候補生に任せるしかないノンたちですが、彼らの生活を守れるのはノンたちしかいません」
すぐに一人が手を挙げました。
「あの。三組の日下部マモリです。今ここにいるのは刀鍛冶だけですが……そもそもこんな突発的で危険で拘束時間の長い特別授業に付き合う必要性ってありますか?」
日下部さん。マドカさんと同じクラスの女の子です。すごく気の強そうなボブの子です。
「レプリカを回収して直ちに現世に帰還するべきでは」
「えと。レプリカは今回の授業に合わせて回収されています。それに主催は学校であり警察なので、あくまで二年生が試練を課してきますし安全性は配慮されていますが、レプリカの奪取はかなり難しいと思われます」
「……っ。この学校って、こんなのばっかり」
むすっとしながら腕を組み合わせる日下部さんの横で、まあまあとなだめるぽやっとした男の子がいます。
「しょうがないよね。そもそも切った張った前提の学校に危険を承知で入るってハンコを押したのはこちらなんだから。あ、俺は泉です。五組の泉アム。佳村さんの作戦には賛成だな」
日下部さんがきっと睨むけれど、泉くんは気にする素振りがない。
「そんなに怖い顔しないでよ。日下部ちゃんの可愛い顔が台無しだ」
「はあ?」
「本気で不機嫌そう。まあまあ、大丈夫だって。俺たちには一年でも屈指の実力者、沢城ギンがついているんだから。いざとなれば俺が守るし」
さらりと言うけれど、気負いなんてまるでない。
空手部に所属していて、彼は中学時代に名を馳せたという。その実力に陰りはないのだろう。
「別に、きみに守ってもらう必要なんて欠片もありませんから。なにその余裕。まじでいらっとするんだけど」
「でも一月のトーナメントで、確か俺に一撃でやられなかったっけ?」
「あんたは私を怒らせた! 最悪! デリカシーない!」
かちんときたのか、日下部さんが泉くんに言い合いをふっかけるのを横目に見て、ボブ眼鏡の柊さんが呟いた。
「どうでもいいですけど。柊的にはマシンロボの準備に忙しいので」
「ちょ、柊さん。待ってください。ノンはそれ、まだ言わないでって言ったのに!」
あわてて柊さんの口を塞ぐ。
「「 どういうこと? 」」
二人の刀鍛冶がノンをジト目で睨んできました。汗をぴよぴよ出しながら、必死に説明します。
「た、たぶんですけど。霊子を繊細に扱う必要があるため、小型や精密機械になるマシンロボほど扱いが難しいです。二年生は今回、その試験を授業を通じて行なう予定だと聞いています」
「こっちは先輩から何も聞いてないんですが。さっすが、秘蔵っ子は違いますねえ」
日下部さんの棘に怯む。
「まあまあ。俺も……空手部と刀剣部を掛け持ちして頑張っているのに何も聞かされていないことには腹が立つけど、佳村さんってかノンちゃんほど信用されてないとしたら……それは俺個人の問題なわけで。日下部ちゃんも一緒だろ?」
「――……あんたマジでむかつくなあ。あたしにケンカ売ってるわけ?」
「別に。ただ……認めたら? 刀鍛冶ってのは、とどのつまりそこから始めなきゃ何もできないだろ」
ひ、火花が! ばちばちなのですが。
おさえている手を外されて、柊さんがため息を吐いた。
「どうでもいいんで。各地の偵察機の作成と招集の手順確認、早くお願いできますか」
「は、はいです」
並木先輩と相談して目を付けた三人なのですが、私にはとても制御しきれそうにありません。
だから、ハルさんのようにお願いする方向でいきましょう。
「あの。柊さんは繊細かつ緻密な霊子制御術がお得意ですし、泉くんは力強いコントロールは一年生の中でも群を抜いています」
「……それほどでもありますけど」
「おっ、褒められるのは嬉しいね。それも歴代きっての天才児ともあれば」
にこにこ笑う泉くんの圧に日下部さんが本当にうっとうしそうな視線を送っています。
「そして日下部さんは、一年生の刀事情を誰より正確に把握しています。ノンよりもです。たぶん……刀を選ばず、しかし適切にメンテできることにかけては、日下部さんが一番だと思います」
「……まあ、それくらい当然でしょ」
「いいえ。職人気質的なことを言えば逃れられるように見えて、相手の心に深く寄り添い理解を示す必要がある隔離世の刀鍛冶は、その人本来の懐の広さがなければ侍を選んでしまったり、まともにメンテできなかったりします」
ノンも正直、そのきらいがありますし。どちらかといえばそういう人の方が多いのです。
でも、日下部さんは違う。
「いろんな人の刀を迷わず触り、その人の心を癒やす……数多くの人に歩み寄れるのは才能だと思います」
「俺にもノンちゃんにもきついけどね。ツン期か」
「あんたには永遠にツンだから」
「手厳しい!」
おどける泉くんを横目に、日下部さんは少しだけ恥ずかしそうに俯いた。
「まあ、でも……そういうことなら手を貸してあげてもいいけど」
「デレたね」
「デレましたね」
「デレてる」
三人で頷いていたら日下部さんが拗ねちゃったのですが。
ともあれ――……動き始めていきますよ!
◆
稲妻が二筋、空を舞った。当然のように私を抱きかかえて、仲間さんが地面に着地する。
「マドカ、無事?」
「わ、私でよかったの?」
「まあ――……うちの一組の危ない子は真っ先に助けて集合させたし、シロは九組で忙しいみたいだけど。シロが言うの。あんたは核になるから、零組と合流させろって」
「……そう」
結城くんの咄嗟の判断はなかなかだなあ。
八葉くんに無茶ぶりされ続けているみたいだけど、そのおかげで身についたとか?
沢城ギンの幼なじみというだけでも、結城くんはそもそも侮れないポテンシャルの持ち主だけど。今回は正直、それに救われた。
着地した地面には小型マシンロボの残骸が黒焦げになって煙を噴いていた。
三年生が作るそれに比べると、まだまだ幾分粗雑。だが一年生にはまだ作れないだろう、幻想の機械たち。
佳村さんと話したことがあるけれど、気合いと根性で動く一年生の巨大マシンロボに対して三年生の飛行機型マシンロボは知識と技術で動いているという。現実に即した機構を用いて稼働させているから、刀鍛冶や霊子の消耗が少なく済んでいるという。
三年生は卒業する。となれば二年生は三年生の後を追って、何かしらの成果を見せたくなる時期だ。なにせ来月はもう……卒業式なのだから。
光が伝えてくれた。輸送機から何からすべて、刀鍛冶が作ったもの。感じた力は二年生のものだった。そしてバックパックの紙を踏まえてみたら、これは学校……特に二年生が相手になる、三日間のサバイバルゲーム。
発煙筒が焚かれている気配なし。ならば――……。
「私がいる限り、脱落者は出さない。仲間さん、私はいいから危ない子がいないか見てきてくれない?」
「簡単に言ってくれるよね」
「強い人ほど狙われる。それはかなり意図的だし恣意的だけど、レベルコントロールされている内はまだ大丈夫。仲間さんに越えられるハードルしか課されていない。むしろ怖いのは」
「恐怖に駆られて脱落する子?」
「うん。刀がさびたり、刀鍛冶の才能が曇る可能性がある。それは困るから……お願い」
「――……仕方ない。集合場所は?」
尋ねられて少しだけ考えた。
「落下中に見ていたの。島の配置、形状」
太陽の位置、月の位置を確認する。
「ここがどこかぱっと思いつかないけど、でも火山を中心とした島みたい。南に空港、東と西に港があった。西の港のそばに学校が二つ見えた……北側の学校の方が大きいから、そこに集合で」
「わかった」
すぐさま飛んでいく仲間さんを見送る。
周囲を見渡してから、マシンロボの残骸を確かめた。霊子が溶けて消えていって、元になった機械だけが残る。ドローンは機銃部分、人型に関してはライフル以外が霊子。ライフルはモデルガン。ばらして確かめてみたら弾丸はペイント弾だ。だとしたらあの火線は霊子を使った演出か。
パラシュートに派手に穴を開けたのも、わざとか?
まったく。
「並木先輩……よりはラビ先輩の匂いがするなあ。抜かずの白兎が本気を出したとか?」
……ないな。
ラビ先輩が本気で悪戯を仕掛けてきたとしたら、こんなものでは済まないはずだ。
となれば、日が高いうちに体勢を立て直さないと。
三日間のサバイバル。士気向上のためにハルには頑張ってもらわなきゃいけないし、住良木くんと月見島くんには精神的な支柱になってもらう必要がある。
九組男子は、そりゃあ女の子に飢えてる男子もいるので全員が評判いいかというとちょっと疑問視だけど、それでも八葉くんをはじめ頼れる子が多い。
他にも、一年の中じゃ新参者になるキラリたち十組も頼もしいし、そもそも――……仲間さんがいる一組から八組だって、伊達じゃないんだ。
もちろん、それは相手に回った二年生も同じだろうけど。
「行くか」
火線の激しくない島の中央部に下ろしてもらった。
西を目指そう。サバイバルというのなら、生き抜いてみせるさ。
◆
海上に漂う霊子船の心臓部、メインコンピュータールームの球体の中で島中の監視カメラの映像を眺める。
生徒がどこにいるか、マップと紐付けて表示。それを二年生と先生たちの各端末へ転送。
ついでに霊子を廻らせて島中のマシンロボとドローンを操作する。
伊豆諸島。一つの島を、隔離世とはいえ借り切っての行事はかなり派手だ。
まあ、コナもみんなも張り切りすぎてるきらいがあるけど。
「シオリ、どうだい?」
扉を開けて顔を覗かせるラビにふり返らずに笑ってみせる。
「それぞれ行動中。これまで無名だった子が心配だけど、仲間トモが活動を始めた。結城シロ、住良木レオ、月見島タツキの三名もそれぞれにピックアップして、軍勢をまとめて集結している。佳村はコナが声かけたみたいだから、刀鍛冶も心配いらなそう」
「今夜中に第二段階に進めそうかな」
「どうかな……まあ、今のところまだ脱落者は出てないけど」
手を動かし続けながら思考を巡らせる。
「ラビってたまにすごい悪辣なことするよね。例年、脱落者が出るのが今回の行事だけど……今年は特にやばいんじゃない?」
「どうかな。今年は侮れないからね。それに――……」
狭苦しい球体にラビが入ってきた。
身体が接触しても、昔ほど気にならない。匂いにも慣れた。おかげで……最近は普通に男子と話せるようになってきた。
余計なことだな。後回しにしよう。
「それに、なに?」
「目立つ子が活躍するのはもう、それは必然だけど。シュウに言われて気になってきたんだ。ハルちゃんの年は、アマテラスを引いたメイたちの代よりも妙なことになっていそうだって」
「――……ああ」
ハルちゃんは二つの御霊を宿しただけじゃなく、御霊の声を聞いて……不思議な金色の霊子を放つ。
同じようにキラリは星を。あれは邪を救い、変える力をもっているみたいだ。ただの御霊の力とは思えない。たとえキラリの御霊が神のものだとしても……不思議でならない。
そしてマドカちゃん。ルルコ先輩が選んだあの子は、他の人の御霊と同じ力を振るったり、己の積み重ねを刀として顕現させたりする。
そう考えると茨や岡島、鬼コンビはむしろ自然だ。沢城と仲間、結城さえ、己の刀の資質を形にしているだけに過ぎない。
それにしたって、一年生ということを考えると――……あまりに破格の力だと思う。
「粒が揃いすぎ?」
「星蘭の安倍、北斗の神力、金長……山都の円行寺。名もない侍や刀の付喪神の御霊を宿す生徒の方が圧倒的に多いのに。何かが起きているんじゃないかとすら思うよ」
「……でもね。無名は無名のままなんじゃないか?」
「さて。そこに変化が起きないかと期待しているんだが――……まあいい。彼らが集まるまでは現状維持で頼む」
「了解」
立ち去る背中を見送って、操作に集中する。
コナが繋いでくれて、島中にネットワークを張り巡らせてほとんどプログラム制御。
それでも生徒のレベルに合わせて対応が必要な個体が幾つも出てくるから、忙しい。
あの手この手で演出して、彼らに窮地を実感してもらう。
狙いは単純。
「さあ……君たちの絆と可能性を見せてくれ」
日頃の積み重ねがものをいうぞ。
窮地だからこそ繋がる絆もあるだろう。
ボクに見せてくれ――……。
◆
空に稲妻が見えたから、キラリとほぼ同時に空に自分の霊子を放ったの。
すぐにトモがやってきてくれた。
私たちを見て、簡潔に言うの。
「西。あっちを目指して。北寄りの学校に集合。マドカが待ってる」
「わ、わかった」
「あんたたちなら心配いらないよね。じゃ!」
すぐに行っちゃった。
頼もしすぎるトモに笑って言われるの、ちょっとプレッシャーだけど。
でも大丈夫だ。方針は示された。マドカがいるなら大丈夫だ!
「いこ」
「ああ!」
気が急く私をミナトくんとトラジくんが手で制したの。
瞬間、眼前を弾丸が通り抜けていく。
「油断すんな」
「気を抜くな! ぶったおすぞ!」
「「 了解! 」」
二人の男子が頼もしすぎてやばい。
弾丸を放ったマシンロボを退治して、方角を確かめた。トモが指差した方向に何があるのかわからない。こんなことなら落ちてくるとき、もっとちゃんと島のことみておけばよかったよ。とほほ。
拳を手のひらで払って、トラジくんが呟く。
「コマチたちは無事だといいが」
すかさずミナトくんもぼやくの。
「つうかユニス、派手な魔法ぶっぱなしてさっさとこっちこいっつうんだ」
二人とも心配する女の子がいるんだね。なんかいいなあ。同級生カップルならではかも。
二年生が相手に回っているのなら、カナタも今回は仕掛け側にいるんだよね。
だとしたら……今回はどこまで頑張れるところを見せられるかだ。
骨っこの作り方きいておいてよかったかも!
材料を確保して作ってがじがじ噛んでおきたい。
そのためにも、まずは集合して、三日間をやり過ごせるホームを手に入れないと!
やることたくさんだ! がんばるぞう!
つづく!




