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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第一章 入学! 士道誠心学院高等部!

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第四話

 



 体育館に袴姿で行くように、とのことです。

 だから着替えをしなきゃいけません。

 先生から支給された袴は入学前に提出した書類にてサイズの申告済みなので、合うか合わないかは心配いらないの。

 むしろ心配なのはどう着たらいいのか微妙に不安だということ。

 そして、


「あ、あの。私がトイレで着替えるから」


 と何度も訴えたのに、


「いや、婦女子に教室を明け渡さずしてどうする!」


 男の子達が一斉に教室を出てしまったことでした。

 いいのに! 気持ちはありがたいけど、むしろこういうのが普通になるとなんて言われるか気になっちゃうよー!

 ただの一人も反論していなかったから、他のクラスの男の子たちもこんな感じなのかな。

 だったら……いいのかな? うう、微妙過ぎます。

 次はトイレに行くからって言って教室を出ちゃおう。

 それでもだめなら交代制にするとか……提案した方がいいよね。

 はあ。

 男子と同じ黒のジャケットを脱いで畳む。

 リボンタイを外して、ブラウスとスカートを脱いで。

 靴下は……やっぱり脱ぐのかな。袴と言えば素足のイメージだ。それか、足袋? でもないから、脱いでおこう。

 和装と言うと、なんとなくブラつけないイメージあるけど、さすがに外せないよね。

 袴を広げてみたら、万が一にも緩もうものならおはだけしちゃいそうなので、これは着用だな。

 こんなことなら勉強しておけばよかった……。

 女子が一人でもいたら相談出来たのに……ん? 待てよ?

 スマホを手に、ボタンを長押し。


「ねえねえ、袴の着方わかる?」


 スマホが喋りながら教えてくれた。「こちらになります!」という声が頼もしや!

 そして表示されたページをにらめっこ。

 なんていうか、画像と実物に乖離があるといいますか。


「あれ?」


 もしかしてこれ、袴じゃない?

 もう一度ちゃんと見てみる……ううん?

 白の上下で、上着は紐が見える。どのくらいで結べばいいんだろう?

 わからない……わからないよ。

 スマホに聞いてもわからない。

 らんらんららん、らんらんららん。


「挫折……!」


 って頭を抱えている場合じゃない。

 時計を見たら先生が言った集合時間まで間もなし、ピンチだ。

 服さえ着れずに間に合いませんでした、なんて洒落にもならないよ!

 ぱっと浮かんだのは「もうわかる人に聞くしか!」で、だから扉を開けたの。するとね?


「おっと……わお。刺激的だね」


 見知らぬ銀髪のお兄さん(腰に刀)が私を見て、目をまん丸くしていたよ。


「一年の廊下もたまに歩いてみるもんだ。まあ特に理由のない散歩みたいなものなんだけどね」


 笑いながら、その人は私に近づいてきて、くるりと回して背中をそっと押した。


「とはいえきみ、下着姿で出歩くもんじゃないよ。そういう趣味があるなら、僕は君を止めなきゃならない」

「え、あ」


 見下ろして絶望。

 油断しまくりの上下不揃え、しかも特売品。哀れ下着!

 いやそこじゃない。そこじゃないよ、私!

 あわてて教室に入って壁の影に隠れつつ、両手で身体を隠した。


「あ、あの! や、やむにやまれぬ事情がありまして!」

「ふむ」


 お兄さんは教室の外から声を出した。

 しばらく黙ってしまうから、なんだろうと思った時だった。


「机の上に胴着か。着替えのタイミングだったようだね。だとしても、なんで下着で廊下へ?」


 さ、察しがいいですね! でも今はそれどころじゃないの。


「き、着方がわからなくてですね! どうすればいいのか困りまして、で、トイレに着替えに行った男の子たちに聞こうと」

「君って面白い子だね。下着姿で会いに行ったら凄い騒ぎになっていたと思うよ?」

「でっ、でも! そうしなきゃ間に合わなくて!」

「僕が教えてあげよう」

「え……」

「これでも二年生だからね。扉を閉めるから言うとおりにやってごらん?」

「う」


 正直、言われたところで出来るとも思えなくてたまらず顔が強ばってしまう。


「なんだい?」

「自信、ないです」

「……はあ。じゃあせめて、胴着を羽織って袴に足を通してこっちにおいで。それなら下着もあまり見えずに済む」

「なんか、すみません」

「急がなくていいのかい?」

「あっ」


 あわてて机に駆け寄り、言われるままに胴着を羽織った。

 袴は……まるでわからないけど、足を通して駆け寄る。


「よし。見て覚えてね? ――失礼」


 てきぱきと胴着の紐を結び、私の手から袴を取り上げてしまった。

 袴の紐をぐるっと背中に回されてしまう。

 ぐっと近づくお兄さんの身体から、シトラスの香りがしたの。

 ど、どきどきがたまらないんですけど!

 そんな私に構わず、あくまでお兄さんは紳士的に紐を前に戻したの。

 交差させて、上に折り返して、再び背中へ。またしても大接近。


「ちゃんときつめにちょうちょう結びに縛ること。そして胴着の皺を脇へと……伸ばす」


 背中から両脇に胴着をずらされるたびに、触れられてしまう。

 お、落ち着きません……! 男子にこんなことされるの初めてなんですけど!


「そうしたら、腰板を帯びに乗せるんだ。失礼」


 お尻のあたりでペラペラしているものを取られて、背中側の帯びに引っかけられました。

 ひいい。ひいい! 手が! 手が! どこにって意識したら叫び声をあげてしまいそうなところに!

 しかも朝の痴漢とちがって全然いやじゃない! いやじゃないってどういうことなの!


「腰板の紐を前で交差する。左前ね。最初に交差させた紐の内側に通すんだ。そうしたら……」


 混乱と赤面で忙しい私に構わず、お兄さんは腰板の紐を自在に操って腰板の方へ押し込んできたの。


「あとは皺を……これで、大丈夫だね」


 お腹側の胴着の皺を両脇へ伸ばされてしまいました。

 うう……お母さん。私は少し大人になってしまいました……って、私ばかなの?


「あ、ありがとうございます……」

「覚えられたかな? 交差させる時は左上、皺は脇。細かい着方なんかは、帰りに本を買ってみるといい。この学院に通うなら、必須だからね」

「なにからなにまで、すみません」


 頭を下げると「いいよ、上級生の勤めだ」と爽やかに笑っていただきました。

 離れたお兄さんは、私の格好を見て「白い胴着も素敵だね。とてもよく似合っているよ」と笑顔で褒めてくださいました。

 なにかな。天使なのかな。


「あ、あの。私、青澄春灯(あおすみはるひ)です!」

「ラビだ。ラビ・バイルシュタイン。二年生の白ウサギというのが一番、通りがいいかな。それか、刀なしか」

「刀、なし……? でも、腰に鞘が」

「ああ……これね」


 少し悲しそうに笑って鞘にささった柄を見下ろすけれど、お兄さん――ラビ先輩はすぐに肩を竦めて仰った。


「それより、遅刻しちゃうんじゃない?」

「あっ」


 す、すみません! そう言って駆け出す私をラビ先輩は笑って送り出してくださいました。

 というか、間に合うのかな?

 裸足で全力ダッシュして、初日はもうなんだかてんてこまいだ。

 入学式で入ったあの体育館の扉が開いていて――


「間に合っ――」


 床に着地するよりも早く、あと一歩のところで鳴ったの。

 きーんこーんかーんこーん、って。


「……て、ない?」


 青ざめる私の前に、勢揃いした男子たちから離れて獅子みたいな先生が来た。

 こめかみに血管が浮かび上がっているように見えるのは……気のせいだと思いたいデス。


「初日から遅刻とは見上げた度胸だ。お前は特別メニューだな、青澄」


 ひえええ! 気のせいじゃなかった!

 そんなあああ!




 つづく。

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