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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十四章 歌手デビューは百難くるの?

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第三百六十七話

 



 まさか自分の脳内じゃなく、マジでインタビューされる日が来るとは……!

 かつてない人生の転機の予感……!

 などと打ち震えながら高城さんの車でスタジオへ。

 高城さんから流れを説明されたよ? 曰く、


「今回のアルバムに対して春灯の考えを述べてもらう。その後は今後の展望について聞かれるよ」


 今後の展望って言われても。聞いてないドーム公演マジやべえ、くらいの意見しかない。

 そう言ったらね? 高城さんは笑って言うの。


「だいじょうぶ、そこはなんとかなるから」


 え。私発信じゃないの? と不安になりながら現地へ。

 カナタだけじゃなくルルコ先輩やコナちゃん先輩がみんな口を揃えて「その格好はちょっと」と言った、白いひらひらブラウスに黒のワンピース(なんと赤いレースで蜘蛛の糸が表現されてるよ!)、黒いレースの手袋、ガーターとニーハイで決めた私は迷わず衣装さんの元へと連れて行かれて着替えさせられちゃいました。

 無念!

 でも聞いて。誤解を招きたくないから聞いて。私の洋服の総額が十倍くらいになっただけで、衣装さんが着せてくれた衣装は同じ系統だったから!


「ふぬぬぬ!」

「やる気になってるね。先に撮影だ。カメラマンさんとコミュニケーション取ってね」


 背中を押されてスタジオへ入る。ぺこぺこご挨拶しながら出て行って、求められるままにポーズを取った。撮影はね。すぐに終わったの。腐っても私、タマちゃん宿している以上はビジュアル特化なので! ……なんて自分で言うしかない哀しみ。

 しょぼくれながらインタビューを受ける。

 甘い紅茶色に染まった髪のお姉さんだった。名刺をもらったんだけど、頭に名前が入ってこない。緊張するよ……!


「青澄春灯さん、はじめまして」

「はっ、はじめまして」

「お菓子たべてね?」

「い、いいんですか?」

「ええ。リラックスして、思ったことを素直に伝えていただければ……マネージャーさんもチェックするので、迂闊なことを言っても大丈夫。あ、いまのはのせませんから」


 マネージャーさんが怖い顔してこっちを見てる、とお姉さんが笑うの。

 見たら高城さんが渋い顔してる。お菓子食べていい空気じゃなさそうだよ!


「は、はい」

「それじゃあ……まず最初。アメリカへ行った時の話を教えてくださいますか? 噂によればハリウッドセレブのパーティーに呼ばれてあちらの国歌を歌われた、とか。それはなぜ?」


 よ、よかった。音楽性がどうのとか、英語の曲に込めた歌詞への思いとは、とかじゃなかった。そっちの質問だったら即座に死亡間違いなしだったよ……!


「え、えっと。誰も……私を見ていなくて。見ていたとしても、動物園の檻の向こうを見る目と申しますか」

「狐の尻尾と耳、素敵だけれど……ペット扱いだった?」


 刺激的なワードをわざと言われた、と思ったから思わず言い返す。


「そこまではいいませんけど。単純に、私の歌を本質的には求められてなかったんです」

「なるほど……」


 さらさらとメモを取りながら、お姉さんは私から目を離さなかった。

 求められているとわかったから、続けるよ。


「なら、彼らの注目を……関心を奪うためには、彼らが最も好きな歌を彼らが知るよりもっとも素晴らしく歌ってやるしかないな、と思って」

「それで国歌を?」

「有名なので。あと……無視できないかなって思ったのもあります」

「……それは、なぜ?」


 視界の端で高城さんが心配そうに私をみてきた。でも、大丈夫。


「だってほら。呼んだの向こうなのに、放っておいてかちんときたので。やられたからには、やり返したかったんです。どや、私の歌むしできんやろ! みたいなノリで」

「ケンカを売られたから、やり返した?」

「パーティーですし、もっと前向きにこう……楽しませるんだって感じです」


 言ってから頷く。


「きっと退屈な人もいたはずで……だからがつんと一発ぶちかまして、それで乗っ取ってやるんだって思いました。ほら。向こうにはブロードウェイもありますし」


 ロスじゃなくてニューヨークだけど。


「挑戦的ね。意欲的とも言えるわね」

「それくらいじゃなきゃ、脱せない空気ってあるじゃないですか」

「海の向こうのパーティーがまさにそうだった、ということですか?」

「はい。マスコットでいいなら私が歌う必要はない。でも……」

「マスコットはいやだ、と」

「それが私の仕事だと思いました」

「なるほど……わかりました」


 メモを取ると、お姉さんは微笑みを浮かべて言ってくれたの。


「あなたのこと、気に入ったわ! 準備運動はこれで終わり。アルバムへの思いをお願いできるかしら……できれば、あなたらしい言葉遣いでね」


 手のひらでころころされていたの!? と絶望にくれながら、私は息を吸いこみました。

 大人達に認めてもらうのは大変だ。お客さんとは違うシビアさがあるのかもしれない。

 でも……やらなきゃいけない。逃げるわけにはいかない。求められているのは、私の言葉なのだから――……。


 ◆


 頑張ったけど、もうそろそろ限界です!

 ひとしきり話してくたびれてきた時だった。

 お姉さんが高城さんに目配せしたの。意味ありげに。


「それじゃあ……青澄さん。今後の展望について聞かせてもらえるかしら」

「えと」

「ドーム公演よね。デビューしたてで東京ドーム。これってかなり挑戦的だし、挑発的。なかなかできることじゃない。あなたがドームで達成したいことは?」

「――……そ、れは」


 きた。とうとうきてしまった。

 展望って言われても困る。必死に考えてひねり出したのは、


「みんなが見たくなるくらい、輝いて、見に来てくれた人みんな、照らせればいいなって」

「あなたらしい言い回しで言うと?」


 この切り返し、インタビューをして何回もされた。

 注意しろ、と暗に怒られている気分になるし、実際その通りだった。

 お姉さんの目が笑ってない。ううう。インタビュー初体験なんだから手加減を、と思うけど、甘えても許されないんだろうなあと思う。がんばれ私。


「我、追放されし天空の輝きを纏いて、子羊たちを照らさん!」

「……よし、と。それじゃあ私からは以上です。あとは原稿をマネージャーさんに送るからチェックしてもらうとして……」


 はあ……やっと終わった……。

 正直、気持ちよく話すためには私の材料とか練度が不足していました……。


「後ろ、みた方がいいかもしれないわね」

「え?」


 お姉さんに指差されてふり返る。

 すると、いたよね。橋本さんとカメラクルー。昨日見た人たちが。


「いやーどうも青澄さん。インタビューの最中?」

「あ、終わりましたんでどうぞ」


 お姉さんが荷物をまとめて離れていく。それじゃあ、と橋本さんがさも当たり前の顔をしてお姉さんの席に座って、私にマイクをつきつけてくる。


「それでは、青澄さん。番組から指令です」

「え? 番組? なんの?」


 てんぱってきょどる私に、橋本さんが封筒を差し出してくる。

 とりあえず受け取るしかなさそうだ。受け取って中にある便せんを広げた。


「なになに……?」


 拝啓、青澄春灯さま。

 いよいよ寒気がつのる頃、いかがお過ごしですか。

 こちら、インターネットにて動画配信サービスをしております、Mamazonと申します。

 この度、青澄春灯さんに栄えある挑戦権を進呈いたします。

 挑戦を達成するたびに――


「通販も行なっている当社がチケットを購入、利用者に特別にプレゼントさせていただきます!? え、え、ドームのチケットはけるんです!?」

「言い方。青澄さん、言い方。はけるて」

「うっぷす! え、えっと、視聴者のみなさんにプレゼントできるんですか?」

「ええ、そういうことになります。まあそんなわけで……挑戦します?」

「え、する! しますします! でも挑戦権って、なにに挑戦するんです?」


 おろおろする私に会社のメイクさんが近づいてきた。手にしたのはアイマスクだ。


「え。なに、なになに?」


 きょどる私にも構わずメイクさんはアイマスクをつけるの。

 おかげで視界が塞がれた。ヘッドフォンをつけさせられて、しかも獣耳に耳栓までされる。

 メイクさんに手を取られて引かれる。


「なになになになに? こういうのって事前に目的が告知されて、撮影している時は知らない体でやるんじゃなくて?」

『てい、とかないですよー。リアルガチなんで』

「やな予感しかしない!」


 ヘッドフォンから聞こえてきた橋本さんの声にてんぱる。

 よちよち歩く私は何かにのせられた。エンジンの音が微かに聞こえる。すぐに発進した。

 それからはもう、何を言っても無反応。私、拉致されているのでは?

 いい加減不安になってきた頃、車が停まった。

 外に連れ出される。硬い床の感触。石かコンクリートか、とにかくつるつるしてる。

 そして――……


「えっ。えっ!?」


 誰かに何かを背負わされた。がちゃがちゃ音がする。それだけじゃない。何かのエンジンが動いている。いや、うそ。理解したくないから考えないようにしているだけで、私この音知ってる!


『そろそろお察しかもしれないので、マスク類を取りたいと思います!』


 そう言うなりマスクが外された。久々に見た明かりに目を細める。

 見渡す限り、広々とした――……飛行場。すぐそばに飛行機がいる。

 エンジン音のやかましさは、もうごまかしようがないレベル。

 そして私のすぐ後ろにお兄さんがいる。ほとんど密着。つけられていたのは、拘束具。外れないための。

 いくらおばかとコナちゃん先輩によく怒られる私でも気づくよ!


「なんで!? パラシュートなんで!?」

「えー! これから、上空へ行って歌ってもらいます」

「落ちながら!?」

「落ちながら」

「なんで!?」

「そういう挑戦なんです」

「そういう挑戦って……」


 思わず周囲を見渡した。私の衣装見てくれる衣装さんもメイクさんも、高城さんもいる。みんな笑って見守っている。撮影スタッフのみなさんも笑顔。まるで異論を言う私がおかしい、みたいな空気だ。


「いやいやいやいや! 今日び地上波でそういうことしないでしょ! 日曜夜の突撃冒険バラエティーじゃあるまいし!」

「青澄さん、うちネット配信なんで」

「くっ……そういえば済むと思って……! っていうか準備されてる! 抗議している間にも!」


 お兄さんは、じゃあスカイダイビングのインストラクターさんなのかな。私を誘導してぐいぐい飛行機に進んでいくの。いやいやいやいや、待ってくだしい! と訴えてもだめ。

 当然のように乗り込んでくる橋本さんとスタッフさんたち。高城さんたちは手を振って見送る構えだ。

 座席に座らされながら訴える。


「あのう。こういうのってお金かかるから、予算が出なかったりするのでは?」

「大丈夫です」

「だったら日曜夜のバラエティーくらいお金をかけて、海外とかでもいいのでは……?」

「受けたら考えます」

「受けたらって……え、私基準? っていうか後追い認めちゃう感じ?」

「受けたら考えます!」

「あ、うん……深掘りしちゃいけないよね、了解です……ってなんで私が折れるの!?」


 飛行機が出ちゃう。空へ行く。嫌な予感しかない。だって、飛ぶんでしょ?

 スタッフさんが私にヘルメットをかぶせてくるの。カメラがついてるやつ。

 マイクもセットされる。


「あ、あの。思うんですが……」

「まだ何かあります?」

「すみません、なんで私悪い感じになってるの? とか思っててすみません。あの、これ……バラエティタレントがするお仕事なのでは?」


 私が聞いた瞬間の、スタッフさんたちの笑顔と言ったらなかった。今日一の笑顔だった。


「実はマネージャーさんから頼まれまして」

「……何を?」

「青澄春灯、バラエティタレント計画! 略して! BT計画です!」


 くっ。昨日の時点で既に仕込まれていたというのか……!


「我々はそのために来ていたんです。つまり」


 橋本さんがフリップを出すの。ドッキリ大成功っていう、例の奴。


「――……え? じゃ、じゃあ、東京ドームもドッキリだったり?」

「しません。そっちはリアルガチです」


 吹き出しかけた。くそっ!


「あ、あんまりよくないと思うな。私、大好きだから昨日はつい使っちゃったけど、あんまりよくないと思うな。芸人さんの語録を気軽に使うの」

「じゃあマジです。ドーム公演はやります。ちなみにうちもスポンサーになります」

「――……聞いてないよぉ!」

「女子高生にあるまじき昭和の大御所、オンパレードですね」

「両親が好きなんで……ええ? ほんとにぃ?」


 いろいろ話していたら、壁を開けられた。空を飛ぶ音が激しすぎてうるさい。


「それじゃあ挑戦スタートです! 今のお気持ちは?」

「私、ボクが一番かわいいでしょとか言ってないのに! そういうアイドルとかじゃないのに! どうしてこんな目に!」

「ドームに来たいお客さんのためにも、ぜひがんばっていってきてくださーい!」


 インストラクターさんにぐいぐい押された。

 覚悟を決めるしかないみたいだ。ドームの席が埋まるためなら!


「覚えてろおおおぉぉぉぉ――……」


 叫びながら空へと落ちていきました。

 歌? もう自棄になりながら歌いましたよ! 歌いきりましたよ! 成功をもぎとりましたよ!

 何かが吹っ切れた気がするよね。見えるのは地面くらいなものなんだけど、身体を襲う空気とか落下する感じ。泣いても笑ってもしょうがないんだなっていう感覚。

 とりあえず、駆けつけた高城さんに笑顔で言いました。


「この嘘つき! 酷い落下が待ってましたよ!」


 ぽかぽか叩く私に笑う高城さん。

 ひとしきりなだめられて、飛行機に乗ったスタッフが戻ってくる。

 カメラの映像を確認して成功が確認されてから、収録再開。


「いやあ、大成功でしたね! いまのお気持ちは!?」

「もうなんでもこいっていう気持ちです!」


 自棄気味に笑って言ったんだけどさ。


「なんでも?」「こい?」「聞いた?」「聞きました」


 スタッフさんたちがざわつくの、ほんとやめて欲しい。


「いや、あの。待って。ほら。こういうのって言葉の綾というか、ノリと勢いっていうか」

「じゃあいきましょう! 次の挑戦へ!」

「ええええ!? この流れでいきなり次!?」

「青澄さんは海外セレブの人気も高い。特に特徴的な九本の尻尾は誰にも真似できないものです。その尻尾で――」

「この尻尾で?」

「魚を釣ってもらいます」


 ……ん?


「魚を釣ってもらいます」


 ……ええと。


「ごめん。意味がよくわからないんだけど」

「その尻尾が本物かどうかよくわからないので。自分の手足のように使えるところが見たいなあと思いまして」

「……偽物じゃないですけど。それを証明する手段がなぜに釣り?」

「尻尾に針のついた糸を垂らして」

「いや釣りの手段きいてるんじゃなくて。なぜに釣り?」

「九本すべてで一本釣りきめたら格好いいですよね」

「待って」


 くっそ。吹き出しちゃう。笑いながら、それでも聞かずにはいられない。


「それって歌手の仕事なの?」

「いやあ、なかなかのアイドル活動ですよね」

「それ以上いけない! くっ……従うしかないというの!」

「事務所の許可は出てますので」


 高城さんめ……!


「で、でもでも、尻尾に釣り糸をつけても、そもそも引き上げるの大変すぎなのでは?」

「そこはあなたのお力で」

「肝心なところは私頼みってどうなの? いい大人の作る企画でしょ? ちゃんとしてくださいよ……っ!」

「成功はあなたに掛かってます」

「言い方の問題とかじゃなくて! なに……この、なに……空気、やだ。これ」


 私一人が駄々こねてるこの感じ、やだ……。


「わかった、やりますよ」

「待ってました!」

「途端に盛り上がるし……」


 拍手をしてくるこのシュールで脱力する空気、テレビで見慣れてるけど実際に自分で体感するとなると大変。事前に打ち合わせがあるならいざ知らず、そうじゃない突撃系の企画ってほんと大変。

 ぷんぷんしてもしょうがない。


「それで、どこ行ってやるんです? 今の時間からできますかね?」

「ちょうど千葉の釣り船で釣りができますんで、今から行きましょう!」

「……気軽に言うなあ、もう。ちなみに、挑戦が成功したらどうなります?」

「さらにプレゼントするシートが増えます」

「……お客さんが応募してくれなかったら?」

「悲しいですねえ」

「ちょ! そこ一番大事なところじゃないですか!」

「まあ、広告でますし、なんとかなりますよ」

「すっごい雑……!」


 自分より適当な人に会うと、私がしっかりしなきゃって気持ちになるんですね!

 いつもカナタはこんな気持ちだったのかな。もう。やんなっちゃうな。


 ◆


 車で移動して、特別に船を出してくれるおじさんたちにお礼を言う。

 内房から海に出ながら、釣り糸のついた針を結びつけられて思った。

 私、夢でも見ているのかなって。あと気づいちゃった。気づきたくなかったけど。


「釣りって針を遠くに飛ばして、ゆっくり引く感じですよね? 尻尾だとそこまで繊細なことできないですけど」

「そこは、青澄さんの力でなんとか」

「出たその感じ! っていうか釣り糸で引かれたら尻尾が切れちゃいそうだから、その対策だけはしてくださいよ」

「おっ。じゃあ対策すればやれるってことですね?」

「よくわからないですけどね! 説明してもらわなきゃ困りますけどね!」


 釣り船のおじさんのお供をしてるお兄さんがそばに来てくれた。


「えっと……」


 私を見て落ち着かない顔をしてる。なんだろ。疑問に思いながら聞く。


「あのう。入門編みたいなノリで教えてもらえると助かるのですが」

「え、エサをばらまきます。これから行くポイントだと、運がよければウキ釣りの要領で狙えるかもしれません」

「……釣り糸が揺れたら引けばいいです?」


 じっと見てたら目をそらされた。なんだろ、ほんと。


「え、ええ。ぜひ……そんな感じで。釣り糸につけたエサをかじっているだけの場合もあるので、強い引きを感じたらぐっといってください」

「はあ。痛そうですね」

「たぶん……それなりには。尻尾って、それ、本物なんですか?」

「触ってみます?」

「い、や、ええと……遠慮します」


 どぎまぎしながら行っちゃった。なんか変なこと言ったかな。


「あれ、照れてるんですよ」

「え?」


 橋本さんに耳打ちされてきょとんとした。


「青澄さん可愛いから、緊張したんじゃないかな」


 思わず目を見開いた。


「え? 私に?」

「見た目だけはいいですもんね」

「おいこら! だけってどういうこと!」

「失礼。見た目と歌はかなりいいですね」

「外されない見た目」

「まあ彼氏いるんですけどね」

「容赦ない」

「でも惜しいくらい見た目いいですよね。グラビアの仕事しないんですか?」

「えええ……?」


 グラビアって。


「それか、モデルとか」

「……背がちっちゃいので」

「ああ」


 納得されても困る。

 にしても、そこまで買ってもらえるくらいには……磨かれてるんだ、私。


『妾がおるんじゃ。当然じゃろ!』


 ……あはは。そうでした。

 どうも実感ないよ。中学まではほんと、どこにでもいる顔だったんだもん。


『自信は必要じゃが他人に振りかざすものでもない。そのさじ加減に迷うなら、ただ己を優しく強く受け入れてやれ。その理由を増やすために、己を磨いて積み重ねるのじゃ』


 ストレッチとか、お化粧とか。そういうの?


『もちろん積み重ねの一つじゃな』


 けど……どやってすることじゃない?


『してもいいが……嫌われるだけじゃ。妬まれ、嫉まれ、結果的に己に返ってくる』


 じゃあ、なんで頑張るの?


『自分を磨きたいし、自分の見せ方がわかれば自分の生き方も見えてくる』


 自分の……ため?


『前にも話した気がするがの……まあ、そういうことじゃ。世界に受け入れてもらうために作ったところで、それを極めたところで……それじゃあ満たされはせんよ』


 ……ん。


『さて、釣りだ』


 あれ。意外にも十兵衞、やる気?


『まあ……嗜みだ。釣った魚をさばいて食らう。冬休みとやらにお主の父君と出かけたこともあったぞ?』


 いつの間に!?

 お父さんも言ってくれたらいいのに。っていうか二人がお魚を持って帰ってきた覚えないけど?


『出先で食ってしまった』


 うーわ。薄情!


『どうせ持ち帰るだけの釣果が出なかっただけじゃろ』

『いいヒラメが釣れた。エンガワを好んで食べておられたよ』

『む』


 ヒラメと聞いてタマちゃんの心が乱れたよ。


『今日も可能性はある』

『それを早く言わんか!』


 あれ? タマちゃんもヒラメ好きだったの?


『美味な馳走が嫌いな者があるか! どんと釣れ!』


 手のひら返すの早い!


「そろそろです! 準備をしてください!」


 ひとしきり話していたら結構な時間が過ぎていたみたいだ。

 船が減速し始める。釣り場が近づいてきたのだ。

 尻尾をふり返る。釣り糸を直にくくりつけるの危ないんじゃないかっていう話が通じたのか、尻尾を分厚い布がくるんでいた。それに棒がくくりつけてある。釣り糸が巻き付けられた棒が。


「……橋本さん、言ってもいい?」

「なんですか?」


 きょとんとするマイクを手にした芸人さんに私は言わずにはいられなかった。


「見たらわかる。やっすいやつでしょ、これ!」


 こんなんで釣らなきゃいけないっていうんだから、もう!


『腕が鳴る』


 十兵衞、今日は素直に頼ります!

 というわけで先生、すごいところ一発見せてください!




 つづく!

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