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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十三章 激闘!? 三学期トーナメント!

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第三百五十六話

 



 収録ブースで熱唱している春灯を見ているのは、全員大人だった。

 住良木傘下の芸能事務所で春灯のマネージャーをしている高城、エンジニアの柴田さんにナチュ、カックンとトシ……つまり、俺だ。春灯の音楽チームの主軸と言ってもいい。

 事務所の社長は投資している。春灯だけじゃない。俺たち……春灯の歌声に誘われたバンドメンバーもそうだ。

 ナチュ――……夏川唯人のバンド、グラススタンドはライブ主体で活動していて、でかいハコで活きるだけの力がある。だけどマンネリ化に苦しんでいるから、新しい刺激を求めていた。

 カックン――……三隅賢は事務所のアイドルグループが解散予定であり、新たな居場所を探している。作詞作曲も精力的に取り組み、売り込んでいる真っ最中。まさに春灯は試金石になる存在だ。

 そして俺、嵐堂利也はというと……巷を騒がせたバンドの影で、ボーカルがよりにもよって他社の社長の一人娘(しかも高校生)に手を出したせいで活動自粛中である。

 活動していた頃はまあ、結構イケてたんだけどな。それもすべてパーだ。社長の判断を恨んでないと言ったら嘘になるが、未成年に大人が手ぇだしてただで済むわけもない。

 ほんと……醜聞ってのは、どこまでもついて回るからな。うんざりするけど、しょうがねえ。

 そこへいくと、中学時代の恥ずかしい日記や呟きが拡散してもデビューしようとしている春灯はよっぽど心が強いし、面白いとも思う。

 高城さんはビジュアル推しでいきたいようだけどな。俺は違った。ナチュもカックンも同じ意見だろう。

 アイツは歌だけで十分、武器になる。アイコン化した色眼鏡なんてのは必要ない。

 柴田さんに呼びかけて、春灯が歌いきって息を吐き出してすぐにマイクに語りかける。


「おう春灯、作詞はまだまだだしメロディはぼろぼろだな。てめえは。ボイトレの先生にしごかれ足りねえぞ」

『うっぷす! ……ぜんぜんだめです?』

「だめだったら怒鳴り込んで止めてたけどな」


 ナチュを見た。カックンも。

 二人揃って前のめりになって、春灯が歌ったメロディを口ずさんで身体を動かしている。

 抱え込んだ衝動すべてを叩きつけるような歌の後ろにオケが聞こえた。それを形にしなきゃ二人とも気が済まないのだろう。


「二人ともその気だ」

『じゃ、じゃああり? いけちゃう感じ?』

「あほか。そうぽんぽんリリースできて売れてたら、みんな食うのに困らねえよ」

『おう……だめですか』


 情けないツラを見せるから、笑い飛ばす。


「なあ、春灯……イケてる感じにしてえか?」

『そ、そりゃあ! できること増やしたいし、強くなりたいですし!』

「だったらな」


 金髪に妙な耳と尻尾を生やした女子高生に、俺は言うのだ。


「とりあえず、脱げ」


 ◆


 耳を疑ったよね。ブースにいる私に脱げ、と。いきなり脱げ、と。

 トシさん正気を失ったのかな。それとも最大限のセクハラなのかな。或いは冗談なのかな。

 さんざん悩んでから、聞いたよ。


「なんで?」

『狐だか犬だかなんだか知らねえが、素のお前を見たい。その耳とか尻尾、脱げ』

「あ、ああ、そういう」


 なんだ。いきなり裸になれとかそういう意味かと思って動揺したよ。あはは! ないよね。さすがにないない。それはないよ。

 ……って。


「え!? 耳とか尻尾って脱ぐものなの!?」

『知らねえよ。とにかく……侍とかってその、そういうの全部いったん置いて。素のお前で歌ってみせろ。いま歌った中で覚えてるやつを』

「えええ……」


 タマちゃんの御霊ぬきでも妖狐になった私はある意味もはやただの人ではなく……ということはどういうことなの?


『妾の仲間入りをとうの昔に果たしていたのじゃな』


 ……あれ? もしかして、私ってば人間に戻れない?


『いまさら過ぎるじゃろ! そしてたわけもの過ぎるじゃろ! なぜいまごろ気づく!』


 え、ええと。ええと。待って。

 無我夢中でやったら御霊を出せたことあるから、まずそこからいくよ?

 懐から葉っぱを二枚、取り出しまして――……


「えい!」


 ぽんぽん! と十兵衞とタマちゃんがでてくる。

 高城さんは慣れた顔だけど、エンジニアさんとかトシさんたちがのけぞってる。

 ごめんなさい。驚かせしています。って違うか。お騒がせします。


「二人ともブースからでて待ってて?」

「仕方ないのう」「……わかった」


 出て行く二人を見送ってから、自分のお尻を見る。

 尻尾は九本、ちゃんとある。両手で確認したらやっぱり獣耳も生えている。

 タマちゃんほど綺麗な金髪じゃない。どちらかといったら栗毛に近い髪。

 それをぜんぶいったん……力をぐっっっっと、思い切りおさえてみる。

 尻尾と獣耳が金色に解けて、髪色がすぅっと黒に戻っていく。


「……えっと。こんな感じですけど。だいじょうぶです? 私ふつうの女子ですけど」

『お前が普通の女子なら、世の中の普通が死に絶える』

「ひどい!」

『とにかく、それで歌ってみろ。柴田さん、何か出せます?』

『そうだな……春灯ちゃん、一発目の曲いける?』


 柴田さんの声に頷くと、柴田さんがサンプルの音源をいくつか探して流してくれる。

 バスドラムのリズムに合わせて身体を揺らす。


『いいか。気持ちは高めろ。あげて歌え。怒りが見えた。お前の願いも感じた。それを思い切り気持ち込めて、だけどピュアに歌いきれ』


 む、むずかしいオーダー! ピュアに歌うってなに?


『さっきよりももっと声をピュアに寄せろ』


 感覚的すぎて難しいよ、もう!

 ええい、やってやる!

 私は思いきり息を吸いこんで、頭に残った衝動を引き出した――……。


 ◆


 トシさんだけじゃなく、途中からナチュさんやカックンさんまであれこれと注文をつけてきて、挙げ句の果てにはスタジオに入って演奏までしてきてさ。

 歌い終えた頃にはすっかり夜が更けていた。タマちゃんは柴田さんと高城さんに絡んでいたし、十兵衞はソファで寝ていたよ。

 二人の御霊に私の中に戻ってもらって、ブースの外に出る。

 満足げにしている三人にぼやくの。


「歌いたいってわがまま言ったの私ですけど、学校ではトーナメントの真っ最中ですよ? 忙しいんです!」

「うっせえなあ。こっちも仕事の合間ぬってお前に時間さいてんだ。文句言うな」


 トシさんにげしげし蹴られる。ほんとこの人、容赦ないな!


「まあ……春灯ちゃんがその気になってくれて俺は嬉しいけど」


 カックンさんの笑うような声がくすぐったい。


「今日の感じ、最高だったなァ……久々だわ。俺」


 ナチュさんの発言にトシさんとカックンさんが「それはどうなんだ」とツッコミを入れる。

 なんだか不思議な時間だなあ。大人の……経験豊富で素敵な人たちと一緒にいるの。


「この後のみにいきません?」

「いーねー!」

「めんどくせえなあ。春灯は飲めねえからな」


 いやいやいや。


「だから私、明日も学校で試合が!」

「「「 俺らとソフトドリンクが飲めないっていうのか 」」」

「めんどくさい絡み!?」


 ショックを受けていたら、高城さんが咳払いをしたの。


「高校生なんで、夜遅くの遊びは禁じます。社長命令ですからね、あしからず……誘うなら昼飯にしてやってください」

「「「 過保護か 」」」

「未成年なんだから、当然です」


 ちゃんと言ってくれる高城さん、すごく頼もしい……!


「まあいいや。スタジオどのくらいおさえてます?」

「いやいや、私が無理です」


 ナチュさんの提案に柴田さんが両手を挙げた。

 途端に渋い顔をするナチュさんにカックンさんが「自宅で作業ですかね」と呟く。

 すぐに音源はどうだとか話し合う輪にトシさんも入っていた。

 こういう瞬間、輪の外に押し出されちゃう。入りたいけど、私は知識も技術もぜんぜん足りてない。だから入れない。

 ……さみしいし、くやしい。

 しょんぼりしながら見ていたら、話の最中なのにトシさんが私の視線に気づいて言うの。


「春灯、素のお前……もっと出せるようになっとけ」

「え……」

「お前は根が素直だから、今の状態でじゅうぶん本音言ってるつもりで満足してるだろうが……それじゃ足りないってのがよくわかった」


 意外な人から意外なご指摘だった。


「もっと自分を掘り下げろ。世界観を作れ。中学の日記みてえなノリで、自分を作り込め」

「……自分を、作り込む」


 不思議な言葉だ。けど、ナチュさんが真っ先に同意してくる。


「そうだね。春灯ちゃんは良い子だけどさ。きっと奥底に隠れてるはずだよ。怒りも哀しみも、それに負けない優しさも。なにより、それを表現する面白い視点も」


 歌って、まだ一、二ヶ月ちょっと? くらいしかお付き合いないのに。

 なんだか私自身を見抜かれている気がしたの。


「高校生活ってのはちょうどいいし、戦いってのもいいな。本能を探るいい切っ掛けになるんじゃないかな」


 カックンさんまで。


「本能……」

「セックスとドラッグとロック……なんてやったら捕まるのが今のご時世だ」


 歩み寄ってきたトシさんが私の胸元を指で押して、ソファに座らせる。


「けどなあ。恋人がいんならやることやってんだろ?」

「……うええ?」


 い、いうの? と赤面する私の反応が答えになっちゃいました。


「そんで……刀を手に戦ってる。最高に昂ぶる試合、できてるか?」

「は、はい」


 私をからかったりするための言葉じゃないと今の言葉で理解して、あわてて頷く。


「もっとだ。もっともっと、日常的に暴れろ。そしてもっともっと自分を磨いて深く掘って、知っていけ」

「……そしたら、歌もよくなる?」

「ああ。根が素直でいい子ちゃんのお前の歌よりよっぽど、本音剥き出し全開全力のお前の歌の方が……俺は聞きてえな」


 トシさんの笑顔に戸惑う。欲望に染まった瞳。カナタが私にキスしてくれる時の瞳の色と、少し似ていてどきどきしてしまう。

 求められてる。私の歌。熱烈に。


「いやいや、トシさん路線の歌ならそれでいいけど。ポップな時にはキャラクター重視だからさ。今の春灯ちゃんのまま、奥底に眠っているへんてこ面白いところをもっと掘り下げて欲しいよ?」


 ナチュさんの補足に戸惑う。


「わ、私、二重人格ちっくでは? 情緒不安定な女感がでるのでは?」

「二面性っていうんじゃないかな。ほら、ちょうど二人が身体の中に入ってるわけだし」

「おおう……」


 カックンさんの指摘が鋭くて唸る。


「そうだな……じゃあ一つ注文つけとくか」

「トシさんが、私に注文?」

「ああ。なんだ……ニンジャみてえなことができんだろ、おまえ。あの、あれだ。なんつうか」


 指をぶんぶん振って言葉を探すトシさんに笑いながらカックンさんが補足する。


「分身の術?」

「そう、それだ。それ使ってでいい。春灯、てめえは戦う時、必ず歌って戦え」


 ど、ど、どういうこと?


「なぜ、二人になって歌って戦うの? 私一人で歌って戦えばいいのでは?」

「だめだ。中途半端になる。お前は器用な性分じゃねえからな」

「うっぷす!」

「二人になって、役割分担をしろ。そして、どっちも全力でやれ。二倍に増えりゃあそれぞれに集中できんだろ」

「お、おおう……」


 なんという注文。


「や、やらなかったら?」

「次に歌ききゃまずわかる。お前は根が素直だからな。ごまかしきくほど経験値もねえから丸わかりだ。いいな? わかったか?」

「えええ……めんどいしはずい」

「うるせえ! デビューしたら大勢を前に歌うんだよ! 渋谷の時みてえにな! わかったら素直にやれ! つまり~……あれだ! あれ! なんつうか!」


 指をぶんぶん振るトシさんに、ナチュさんが笑いながら助け船を出す。


「修行?」

「そう、修行だ! わかったな!」


 顔をぐっと近づけられたので、思わずのけぞりながら頷くのでした。

 なんてこった。なんてこった! 歌うと力尽きちゃうのに、歌いながら戦えとは! しかも次の相手は狛火野くんだよ?

 やらなきゃいいかもしれないけど、やらなかったら……怒られるんだろうなあ。すっごく。

 なにより失望させちゃう気がする。それだけはいやだ。

 やるしかないのかな……ないか。ないよね。よし! やってやる! 悩むくらいなら!


『単細胞化が増してきておるぞ』


 だって! 私の裁量を越えてやまほどいろんなことが起きるんだもん!


『考えることも大事じゃぞ』

『掘り下げが大事、という指摘はよかった。忘れてくれるなよ?』


 ……はあい。

 はあ。なんだか宿題が増える一方だよ、もう。まるで夏休みの宿題並みだよ。


『期待されておる証拠じゃな』

『まあ……厳しい試練もあるということだ』


 頑張るけど! 甘えるところじゃないのはわかるけど!

 明日、どうなるかほんとにわからなくなってきたぞ!


 ◆


 飲みに行きがてら仕事するという三人と帰宅する柴田さんと別れて、高城さんの車で送ってもらう。学校についた頃には深夜手前。

 寮の門限的にはアウトだけど、私はお仕事なので許可をもらっている。

 それでも……お助け部や軽音楽部での活動時間が減っちゃうのはさみしい。

 高城さんは波があって、今は波が高くなっていく段階だから頑張って乗り切ろうと励ましてくれた。落ち着いた時には学校で頑張る。切り替えていこう!

 寮に戻ってお部屋に入ると、カナタがテーブルに刀を二本並べて、肩にぷちミツヨちゃんをのせて悩んでいたの。


「ただいま……どうかしたの?」

「ああ……明日は並木さんと戦うんだ。勝ち抜ければ……恐らく次はユリアとの戦いになる」

「おう。強敵続きだね」

「ありがたいことに、序列で最高位のブロックにいるからな」


 謙そんしてるけど、カナタの実力なら当然だと思うの。それでもね。


「コナちゃん先輩、強敵だね」

「佳村の試合は俺も見ていたんだが……ああいったフィクションを元にした武装術なんかを使われるとな」


 荷物を置いて、カナタの隣に腰掛ける。


「カナタも使えばいいんじゃない?」

「二刀流と組み合わせたうまい戦い方に覚えがないんだ。父さんも兄さんも一刀流だからな」

「ああ……」


 言われてみれば確かに。

 頷きながらテーブルを見る。お姉ちゃんの黒い刀とミツヨちゃんの白銀の刀。

 ありようがまるで正反対だ。


「なんか……ミツヨちゃん、つらくない? お姉ちゃんの黒さと同居するの」


 二十時前でお姉ちゃんが起きていたら烈火のごとく怒られそうだけど、気になって聞いたの。

 カナタの肩の上から滑り落ちて膝上に落ちたぷちミツヨちゃんは私を見ながら呟いた。


「重ねられるのは気が進まない。しかし……カナタを王にする。そのための力を授けているつもりだ。これしきのことでは揺らがないさ」


 大人のお姉さん、それもタマちゃんとはまた違う気の強い声にカナタは微笑んだ。


「姫もまた、閻魔である以上は神であり、裁定者である以上は穢れを嫌う。そういう意味では、二人の相性はそこまで悪くはないんだ」

「……ふうん」


 頷いて、それから思わず言うの。


「タマちゃんと十兵衞はどうなのかな」

「お前が証明しているだろう? 悪くないよ」


 そっと肩を抱かれて近づくままに、ぼんやり考えるの。トシさんたちの宿題。


「悩み事か?」

「カナタの邪魔したくないし、お風呂入りながら考えてくるよ」

「気が向いたらでいい。話してくれたら……嬉しいよ」

「うん!」


 見つめ合ったらキスをして、額を重ねようとして気づく。

 私きょう、かなり汗掻いた! さすがにぬめってたらいやだ! そっと引いて離れる私を訝しむカナタを制するように、たちながら手を振って言うの。


「とにかく。風呂。はいる。いま。わたし、きたない」

「……なぜ片言なんだ?」

「い、いいから! いってきます!」


 箪笥から着替えを出して、バスタオルを手に脱兎のごとく出て行きました。

 ふう。危ない危ない! 廊下に出て額を拭うと、予想していた通りでしたよ。まったくもう。


『いや。汗なら近づいた時点で匂いで気づかれるじゃろ』


 思わず手の中にある着替えもバスタオルも落としちゃった。

 なってこった……!


『これに懲りたら匂いケアにも気をつけることじゃな』


 なんでタマちゃん教えてくれないの!?


『いい加減、これくらいは自分で覚えんか。このたわけ』


 くううっ! 手厳しい!

 お、お、お、おぼえてろおおお!


 ◆


 お風呂あがりのジュースを買って、椅子に腰掛けてひと息つく。

 ――……お風呂きもちよすぎて、全然頭働かなかったよね。

 あれ? 私……だいじょうぶ?

 ぼうっと考え込んでいたら、隣に不意に座る人がいてまばたきする。

 メイ先輩だ。牛乳を飲んで、気持ちよさそうに息を吐いてる。


「はあ……おいし。ハルちゃんは牛乳派じゃないんだね」

「ど、ども。えっと……炭酸派です」


 今日はね。でも……冷たい牛乳もおいしそうであります。


「ルルコに見られるとばかにされるんだよねー。ちっちゃいから? とか。身長? それとも胸? とか。アイツ私を好きなわりには容赦ない」

「あ、あはは」


 すみません、先輩。それについてはコメントできません!

 強いて言えば私も恩恵にあずかりたい組ですが、たとえばおちちの場合は牛乳より豆乳の方がいいと聞いたことがありますよ! タマちゃんからね!


「おいしいから飲んでるの。なにが悪いんだって言ってるんだけど。そう言うと、決まってすごいいい笑顔になるの。だからユウヤに腹黒とか言われるんだって言い返してるんだけどさ」

「……なるほど」


 ルルコ先輩、いろんな闇を抱えて生きてそうだからなあ。納得しちゃう。


「まあそんなことはさておいてさ。調子どう?」

「……うんと。明日はピンチです」

「狛火野くんだったっけ。たとえば……それこそ十兵衞になれなきゃ、勝てないのかもしれないね」

「……十兵衞に、なる」

「普通ならきっと迷わずそうする。なにせ妖怪じゃ、彼の刀はちょっと相性が悪いから。大神狐モードじゃないと厳しいし、なっても苦戦は必至」


 整理される状況に憂鬱になる。やっぱり……私だけじゃなく、他の人から見てもそうなんだ。なにより士道誠心の最強を背負うメイ先輩が言うんだから、説得力はハンパないです。


「普通ならね。さあ、ハルちゃんはどう乗り越えたい?」

「……ううん。今日のノンちゃんとの戦いも結構、勢いで押し切っちゃったので苦しいです」

「悩め悩め」


 笑いながら、まだ乾いてない髪の毛を指の腹で撫でられた。

 くすぐったい。


「しっかり悩んで作り込んだ分だけ、明日のハルちゃんが強くなる。みんなそうして……明日を迎えてる」

「……作り、こむ」

「夢は手にしただけじゃ足りないんだよ。具体的なものに変えていくの」


 メイ先輩が瓶を置いて、手を差し出してきた。求められている気がして、繋ぐ。


「ただ……なんとなくあったかい刀を掴んだ。それだけじゃ足りないと思って……私は願った。どんなに凍てつくようなことがあっても、溶かせるくらいの熱を。そんなのもう、太陽しかないなって」


 なぜか繋いでいる手の熱がどんどん増していく。けれど手をどかすほどじゃない。

 ゆっくりとおさまっていく。


「技もね。そうやって作る。刀鍛冶の子たちが参考になるはずだよ? 彼らはみんな、自分の願い通りに霊子を作り込む。下手に刀の形になっている私たちよりも、無から有を作る彼らの方がハードルは高いから」

「刀鍛冶……無から、有を作る。具体的にする……戦う力、戦い方を」


 呟いていくと、どんどん浮かんでくる。

 トシさんの縛りはむしろ、天啓なのかもしれない。


「何か見えてきたみたいだね」


 優しい声で言われて気づいた。見つけて声を掛けてくれた。私を助けるために……タイミングさえ見計らってくれたのかも。

 ああ、もう。こういうイベントが増えてく度につらくなる。この人と距離ができるなんて……つらすぎて。ずっとそばにいて欲しい。

 涙ぐむ私を見て、メイ先輩が笑うの。


「こーら。集中しろ! ……がんばれ、青澄春灯。私も頑張るからさ」


 私のほっぺたをむにっと摘まんでから、そっと撫でて先輩は行っちゃった。


『……よき先達だ』


 噛みしめるように言う十兵衞に頷く。

 真中メイはとびきり素敵な先輩だ……いつだって照らしてくれる。あんな風になりたいと思う気持ちは膨らむばかりだった。


 ◆


 部屋に戻って今日のお話をカナタにする。

 時間も時間だし、明日に備えて寝ることになったんだけど……二人でベッドで寝転がりながら話していたの。不思議と眠気はまだなかった。


「自分を掘り下げろ、か……」


 仰向けになって、カナタが呟く。寝返りを打ってカナタの横顔を見つめた。

 御霊はみんなお休み中で静かだ。今は私とカナタだけ。


「カナタはどう思う?」

「耳が痛いな。そもそも、自分を強く持っている人間と出会うことは少ない。まあ……強いて言えば、獅子王先生は強いな」

「確かに」


 ライオン先生は強い。その意思を一人称にも表現している。お姉ちゃんと一緒だ。


「我、思う故に我あり」

「……てつがく?」

「命題だったかな……まあ、かじったことさえないから、それについては言及しないが」


 カナタが手をかざす。青い小さな炎が噴き出て、それは赤から黒へと変わって消える。


「俺にとって間違いないのは……自分の存在と春灯の存在。そして内に宿った御霊との縁だ」

「……生徒会は?」

「俺の心の中心に寄り添う大事な絆だな。それも確かなものだ」


 手を下ろして、カナタが私に身体を向けてきた。


「それをどう表現するのか。侍も刀鍛冶も――……或いは、どんな生き方をしても、求められているのかもしれない」

「……トシさんたちが私に言ったのは、じゃあ……トシさんたちも求められているから?」

「芸事なら特にそうだろうな。自分が売り物であるならば」


 自分が売り物、かあ。

 私もそうなるんだなあ。これから……そう思うと、尻尾がきゅってなる。


「中学のお前がやっていたことを、もっともっとやっていい、という……そういう解釈もある」

「さすがに黒歴史ノートをもう一回つくるのは、エネルギーが」

「具体的ではあるけど、もっと一歩引いて見て考えよう」

「……ううん」

「夢中になれってことだ」


 眉根が寄っちゃうよ。


「私、これでもけっこう毎日に夢中だよ?」

「もっともっと。際限なく――……限界なんていらない」


 腰に置かれた手で引き寄せられる。素直に近づく。

 それだけじゃなかったの。肩をおされて、カナタが上になる。

 鼓動が跳ね上がる。尻尾が暴れる。電気を消してるけど……夜に目が慣れていて、顔がわかる。


「いま――……なにを考えた?」


 その囁きに唇を開いて、けど言葉にできなかった。

 ど、ど、ど、どうしよう! カナタが獣になっちゃった!

 悪くない! 悪くないけど、今日のあまあまはキャパオーバーだよ……!


「ハル……春灯……」

「あ、ぅ……」


 いい加減、慣れてもいい空気のはずなのに。

 あまあまで嬉しくてたまらないのに。カナタが珍しく、初めてなんじゃないかっていうレベルで前向きだから……戸惑っちゃうんだ。


「――……する、の?」


 自分でもびっくりするほど心細い声で。それはカナタの何かのスイッチを入れたみたいだ。

 すごい照れくさそうな顔をしたカナタがぎゅっと抱き締めてくれたの。


「あ、あ、あの?」

「……反則だろ、そういうのは」

「えええ」


 めちゃめちゃ愛でられました。

 ……冬なのに、今年の夏みたいに熱かったの。

 教えて、というカナタの問いかけに答えながら思い知る。

 私は思っているよりぜんぜん、私のことを知らない。

 知ろうとする力も時間も足りてない。

 私をずうっと追い掛けてくれたツバキちゃんだけじゃない。

 高校に入って出会って付き合ったカナタの方が、私よりよっぽど私のことを知っているんだ。

 そう思い知らされた。そんな夜だったのです――……。




 つづく!

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