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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十三章 激闘!? 三学期トーナメント!

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第三百五十四話

 



 飛び上がるべきか悩んだ。手に汗がにじんでくる。逃げたいって尻尾が訴えてくる。

 だからこそ――……窮地だからこそ、笑って言うの。


「すごいね、ノンちゃん! 気がついたらすっごく強くなってる!」

「どうも。ギンのお仕事のそばにいたくて身に付けましたから……こんなものじゃないですよ?」


 私に右手を向けて、吠える。


「――……我が手に集まるは霊子鉄!」


 開かれた手の内側に淡い水色の光が集まっていく。

 それは収束して赤い閃光を放つ棒へと変わっていく。


「鍛えて! 鍛えて! 鍛え抜く!」


 獣耳が痛くなるくらいの甲高い衝突音。金属をぶつけるような音と共に火花が散る。棒はどんどん姿を変えていく。まるでノンちゃんが叩いているかのように。


『見ている場合か!』


 タマちゃんの叱咤に我に返る。けれど、欲望が膨らむのをおさえきれない。

 見たい。ノンちゃんが何を秘めているのか、見てみたい!


「たとえ名のない一振りであろうとも! 我が愛する子には変わらず! あなたを貫く力となる!」


 火花が弾けた。そうして現われる。ノンちゃんの右手に――……ギンの村正ととてもよく似た一振りが。


「マニューバーチェンジ! 殺意乱舞!」


 踏み込んだ一歩を睨んで、迷わず飛び込んだ。

 貫くための突き。ギンとまったく寸分違わぬ動きに予感を感じて無理矢理、地面に足をつけた。転がり通り抜けながら、見たよ。

 確かに三段。タツくんが見せてギンが盗んだ至高の技を、ノンちゃんは再現していた。

 もはや疑う余地はない。誰より早く覚醒した刀鍛冶は、その素質を自分のものにして――……最強への道を駆け上がっている。

 跳ね起きるように起き上がる。そして迷わず刀を振るった。手首に痛みに似た手応えを感じる。


「――……ッ!」

「ううううッ!」


 ノンちゃんがうなり声をあげながら、私に刀を浴びせようとしていたの。


「うあああああッ!」


 純粋な敵意と、勝利への渇望による咆吼。

 振り上げて、振り下ろす。その勢いが苛烈。ギンの舞うような攻撃と重なって見える。

 でも――……あんまり重なりすぎていたから、次の手が見えすぎる。

 ぶつかり合う刀をひねって力を逃がし、鍔元で跳ね上げた。

 ノンちゃんの刀が宙を舞う。がら空きになる、隙。

 瞬間、十兵衞の刀を抜いてノンちゃんの首筋に当てた。


「そこまで、一本!」


 ライオン先生の号令にどっと冷や汗がにじむ。

 無我夢中だった。ギンとの戦いの経験がなかったら、勝てていたかどうかわからない。

 それでも――……私は一本をもぎとった。


「お互い、位置に戻り……構え」


 十兵衞の刀をおさめ、タマちゃんの刀を両手に握って構える。

 対してノンちゃんもファイティングポーズを取った。


「はじめ!」


 次はどんな手でくる。

 見たいという欲望に任せて待つ。そんな私の中で十兵衞が呆れたように笑う。


『油断は命取りだ。勝利を前に手を緩めるな』


 わかってる。わかっているけど……佳村ノンの可能性を、私はもっと見てみたい。


「ノンちゃん……次は格闘でくる? それとも刀を拾って攻めてくる? どっちでもどんとこいだよ!」

「まだ再現しきれない以上、同じ手でいっても無意味だと知りました。ギンの後追いでは……ギンに至れず、あなたにも届かない。なので」


 手をかざして刀を引き寄せると、天高く掲げて叫ぶの。


「刀鍛冶は根性! 弾けろ! 私の霊力!」


 刀が一瞬、膨らんだ。そして爆散したの。

 霊子が火花となってあちこちに降り注ぐ。すると、どうしたことか。あちこちから生えてくるよ。ハリセンが!


「ノンは今からあなたの天敵になります! 唸れ! ハリセン乱舞!」

「えっ!?」

「マジカルワードは――……ばかばかおばか! 狸顔ーッ!」


 ノンちゃんがコナちゃん先輩そっくりの言い方をするなりハリセンが宙を舞い、私めがけて降り注ぐ。

 咄嗟に条件反射で頭を守ったのだけど。


 スパパパパパン!


 と快音が鳴り響き、数え切れないほどのハリセンが通り抜けた後にはサイバイ野郎にやられた飲茶なノリで倒れ伏した私が残されていました。


「う、うう……それは、その手は……がくっ!」

「勝負あり! 一本!」


 気絶したフリしたけど、それくらい効きました……。

 なんてこった。なんてこった! よりにもよって、コナちゃん先輩のハリセン技を拡張させてくるだなんて! しかもコナちゃん先輩の物まねつきとか!

 よろけながら立ち上がり、所定の位置に戻りながら言うの。


「な、なぜ……なぜノンちゃんが、コナちゃん先輩の言葉を」

「この日のために鍛えられてるので。奥の手の一つを使わせてもらったまでです」

「なんて強敵なんだ……!」


 勝てる気がしない!


『ばかやっとる場合か! 大事なでびゅうの前に敗戦なんて、妾は断じていやじゃぞ!』

『まあ……ハルらしいとは思うが。見えないのか?』


 さっきのギンみたいな攻撃と違って殺意が籠もってないから、死ぬかもしれない未来なんて予知できないし見れないよね。

 ……あれ? もしかして超ピンチ?


『ハリセンに負ける侍なぞ、聞いたことないわ!』


 うう。タマちゃんお冠! ど、どうしよう!


「もう一度再現しましょうか」

「うっぷす!」


 マドカの刀乱舞はなんとかよけられたけど、ハリセンはなあ。必ず当たる呪いにかかってるんじゃないかレベルで天敵。どうしたらハリセン効かなくなるのかな!


「いきますよ!」


 ど、ど、ど! どうしたら!


『ええい! ハリセンを喰らう身でだめなら、浴びせる者になってみせろ!』


 タマちゃんの訴えに目を見開いて、無我夢中で自分を変えた。

 誰にって? もちろん、コナちゃん先輩にだよ! もちろん私の両手にはハリセンが握られている! ハリセン二刀流だ!


「――なっ」


 ノンちゃんが驚く。けれどハリセンの嵐は迷わず私を狙ってくる。

 構うものか。コナちゃん先輩のハリセン術はすごいんだ! 振って!(スパン!) 振って!(スパン!) 振り抜いて!(スパパン!)

 ノンちゃんへと迫る。


「うああああああ!」

「わああああああ!?」


 よくわからないテンションの私が振り下ろすハリセンがノンちゃんの頭を容赦なく襲う!(スパパン!)

 悔しそうに笑って、ノンちゃんが倒れ伏した。後に残されるは、コナちゃん先輩の姿に化けて勝利のむなしさに浸る私なのであった――……。


「勝者! 青澄春灯!」

「ハリセンに笑う者は……ハリセンに泣くのよ」

「私の姿でばかなことを言わないの――ッ!」

「あうち!」


 どこからか駆けてきた、真っ赤な顔をしたコナちゃん先輩のハリセンを食らって元の姿に戻ったのですが……ま、まあ勝ったからよしとしてくだしい!


 ◆


 アイツはいつもばかみたいだな……。


「キラリ! どうせやるなら勝ってきなさいよ!」


 ユニスの声に我に返る。


「十組の星……プリプリキラリ」

「が、がんばれ!」

「……がんばって」

「ぶちかませ!」

「俺らの前哨戦だ。頼むぞ」


 我らが十組一同も応援していることだし……行くか。

 刀を手にして春灯と入れ替わりで陣地に入る。

 相手は狛火野ユウ。マドカの彼氏だ。その実力は……ぶっちゃけ、正直勝てる気がしない。だからって潔く負けるほど、諦めもよくないつもりだけど。

 歩きながら纏う。全力でいかなきゃ一瞬で片付けられてしまう。そんなのはいやだからな。


「互いに礼!」


 体育とかでお世話になってる獅子王先生の号令で、大人しく礼をする。

 相手も……狛火野も、惚れ惚れするような一礼だった。


「構え!」


 刀を握りしめて構える。狛火野も刀を抜いて、正面に向ける構えだ。


「――……はじめ!」


 迷わず星を打ち出した。こちらへと間合いを詰めながら、狛火野が星を切り裂く。あわてて二発目、三発目と躊躇せずに飛び道具を放つのだが――……だめ!


「天使! そいつ切り払い百パーセントだぞ!」

「それっぽいことを言うな!」


 ミナトに怒鳴り返しながら一端間合いを離すべく空を駆けて逃げる。相手はさすがに飛べないようだ――……


「――……仕方ないな」


 刀をおさめた狛火野の胸に見える星が一瞬、大きく膨らんで見えた。

 その瞬間、全身がぞっとするほど冷えて、思わず足を滑らせて落ちた。

 結果的にはよかった。

 狛火野の手が一瞬かすんで見えた時にはもう、水の粒が弾丸のように打ち出されて私のいたところを貫いていたから。


「逃げ場はねえぞ!」


 ミナトめ。自分が負けたからって、雪辱戦のつもりか?

 こっちは必死だぞ! お前が負けたせいでな!


「ええい!」


 頭が下になろうが構わず宙を蹴って狛火野へ向かう。

 水のツブテを無我夢中でよける。動体視力には自信がある。それでも肩に粒があたった。拳で思い切り殴られたような痛みに歯を噛みしめて、


「――……やあああッ!」


 それでも狛火野に刀を振り下ろす。

 体重と加速度をのせた全力の攻撃は、けれど易々と受け止められてしまった。


「――……く、そ!」

「マドカが世話になってるけど……手を抜かない方がよさそうだ」

「抜くつもりも、ないくせに!」


 星を吐き出す私の刀を笑って受け止めるのがむかついたから、相手の腹部に足を置いて蹴る。

 けれど押し返されたのは私の方だった。空中で回りながら、身体から出る星を操って軌道を変えて、なんとか着地する。

 風が吹いた。

 眉間に刃先が突きつけられていた。

 滝のように汗が噴き出てくる。

 刀を突きつけている狛火野の顔は、マドカの部屋で見た時の抜けた様子を思うと別人にしか見えなかった。真顔。戦うために集中しきっている。そして――……勝つのが当たり前だとわかりきっている顔をしていた。

 悔しいけど化け物だ。こいつは――……侍は、正真正銘の化け物だ。

 心が折れそうだった。

 ミナトのやつ、こんな奴と打ち合ったのか。くそ。くそ。男子ならもっと頑張れ! アンタが勝たないから! ……って、いまさら言ってもしょうがないけど!


「一本! 狛火野ユウ!」


 一瞬で黒星をつけられたぞ! こんな情けない真似をしていちゃ、春灯にあわせる顔がないっていうのに!

 歯がみしながら試合の開始位置へ戻る。

 こんなに違うのか。こんなにも……差があるのか。

 年末じゃなくて四月に入学していたら、一矢報いることができたのだろうか。

 わからない。わからないけれど……このままじゃ、次も負けて終わるのは明白。

 どうする。どうすればいい。

 アイツの星なら見えている。けれど勝つための道がまるで見えない。


「――ラリ! はじまってるわよ!」


 ユニスの声にあわてて我に返った時には、狛火野が眼前に迫っていた。

 あわてて刀を振り上げる。そんな私の迂闊な動作なんて予想の範囲内だろう。狛火野は鬼のように打ち込んできた。がむしゃらに受ける。星が散る。落ちて流れていく。このままじゃ彗星になって終わっちゃう。誰の願いも叶えられないままに。


『――……』「其の者、神にありて服従を求められん」


 内から外から何かがうるさい。


『――……あ』「まつろわぬ者――……」


 剣戟の音に混じって。


『――……ま』「天に煌めく星の神、それは地にいる神と距離を分かち、」


 アリスの声が聞こえる。


『――……つ』「打ち破る輝きを放たんとす――……歌え! 叫べ! そなたの名は!」


 頭の中に、名が浮かぶ。窮地だからこそ、私を救おうと星が瞬いた。

 瞬間、叫ばずにはいられなかった。


「あまつみかぼし!」


 刀が弾けた。流星が怒濤のように降り注いで、たまらず狛火野が飛び退る。

 手にした刀が輝いていた。山ほどの星を吐き出しながら……その姿を変える。


『これしきの窮地に服従するか?』


 どこからか聞こえる声に叫ぶ。


「お断りだ!」


 けれど返事はない。構うものか。

 戸惑う狛火野との間なんか、一瞬で駆け抜けられる。

 今ならなんでもできそうな気がする!


「開け! 勝利への道!」


 思い切り右手を狛火野に突きつけた。地面から星が噴き出てくる。

 一歩を踏み出した。走るんじゃ間に合わない。狛火野が咄嗟に刀をしまう。構うものか!


「――……いけえええええ!」


 迷わずこの身を星へと変えて狛火野に突撃する。

 祈るように突きつけた刀をアイツの胸に突き刺すんだ。

 ――……いつもなら。


「だめええ!」


 コマチの叫び声がしたと思った次の瞬間、何かが当たった気がした。

 次の瞬間、


「――……え」


 元の姿に戻されていた私はよろめきながら、一歩、二歩と歩いて崩れ落ちる。

 何が起きたのかわからない。

 ただ地面に寝転がっていた。

 手にした刀は姿を変えたまま、けれどいつもならうるさいくらいのエフェクトがなくなっていて。

 身体にまるで力が入らなかった。


「な、に――……これ」


 あわてて狛火野と佳村が駆け寄ってくる。獅子王先生が号令を発するけれど、耳鳴りがして聞こえなかった。佳村が私に触れて――……徐々に耳鳴りが落ち着いてくる。

 身体を起こした。なんともない。さっきまでの不思議な感覚はもう消え失せている。


「ごめん。君の技があまりにも脅威で、つい本気で斬ってしまった」

「あまり見事に斬るものだから、治すのも容易でしたが……大丈夫ですか?」


 二人の言葉にまばたきする。わけがわからなくて、呟く。


「……アタシ、負けたの?」


 獅子王先生を見たら、首を横に振られてしまった。


「天使さん?」

「……ああ、だいじょうぶ。だけど」


 まったく見えなかったし、まったくわからなかった。

 何かが当たった瞬間だけは覚えている。けれど……いつもなら必勝間違いなしの技は、破れてしまった。他の奴なら当てられた自信はある。それでも……狛火野には届かなかった。なぜか。


「……うそだろ」


 呟く。自覚がないのが――……なにより悔しい。

 狛火野が放ったのは、それほどの技なんだと言い聞かせることはできる。

 それでも、無性に悔しい。あれはアタシのとっておきだったんだ。

 だから思わず吠える。


「アンタ! そんな技あるならもっと前から使いなさいよ! 対処できないでしょ!」

「えええっ」


 のけぞる狛火野に、零組のやんちゃそうな男子が「そうだぞ、コマァ!」と叫んでる。確か佳村の彼氏だな、あれは。


「くっそ……おぼえてろ。絶対いつか勝ってやるからな!」

「……あ、あはは」

「また戦ってもらうから! 忘れないでよ!」

「わ、わかったから……睨まないで」


 苦笑いを浮かべて、戦闘時と打って変わってリョータみたいに気弱になった狛火野をひとしきり睨んでから立ち上がる。

 やっぱりなんてことない。倒れた時はまるで力が入らなかったのに。

 十組の仲間たちの元へ戻る。コマチが心配してくれたから、頭を撫でて送り出した。トラジと戦わなきゃならないんだぞ。人の心配をしている場合じゃないのだ。

 腰を下ろした私にユニスが言うの。


「見事な斬られっぷりね。活け作りって、あんな感じなのかしら」

「例えがとうとうごまかせなくなってきたな、純日本人の英国淑女め」

「気にならないわね。見事な負けっぷりをしたあなたの遠吠えなんて」

「「 ……ちっ 」」


 同時に舌打ちをする私とユニスにリョータとミナトが苦笑いを浮かべていた。

 まあいいんだ。それは。


「アリス、さっきの歌はなんだ」

「んう?」

「かわいこぶるタイミングがおかしい」

「んー。お姉さんから聞こえてきたから言っただけですよ。幼女には不思議な力が宿るものです」

「意味がわからない。その理屈でいったら私とユニスも小さい頃にはな」

「ちょっと、巻き込まないでよ!」


 ぎゃあぎゃあ騒いでいたら、獅子王先生が試合開始を告げた。

 だから視線を向ける。

 トラジとコマチ。付き合っている疑惑のある二人はこの戦い、どう落とし前をつけるつもりだ?


「俺はトラジが負けましたっていうのに百円賭けるね」

「か、賭けとか……じゃあ俺はコマチが勝ちを譲るのに百円」


 リョータも乗り気かよ。


「どうかしら。なかなかこういう機会がないから……案外素直に戦うかもしれないわよ」


 ユニスの楽しそうな声に、アリスが足をばたばたさせながら楽しそうに笑う。

 私の負けた後だっていうのに、まったく……気楽な連中だよ。

 まあ引きずりたくないし、いじられたくもないからいいけどね。


「天使は? どう賭ける?」

「……そんなの」


 笑いながら言う。


「二人が全力だしあって、どっちかが勝つに決まってんじゃん」


 賭けはアタシの総取りで決まりだ。


 ◆


 十組の二人が戦っているのを見ながら、私は……山吹マドカは焦っていた。

 トラジくんは鬼の体力と打たれ強さ、そして馬鹿力を発揮して、結城くんを倒した樹の拘束を無理矢理ひきちぎって逃れた。

 中瀬古さんが刀を振るう。まるで中瀬古さん自身の力のように、彼女の影から鮫が出てきてトラジくんに泳いで襲いかかっていくのだ。


「コマチ! 一つ教えといてやる! 鮫よりシャチのが強いしかっけえぞ!」

「……わかっ、た!」


 仲良さそうに笑いながら競い合っている。中瀬古さんの鮫が姿を変えるのは、露骨。

 トラジくんに教えられて、導かれるままに彼女は望む。それってもう……なんだか、愛を交わし合っているかのようで。

 羨ましい戦いだった。

 けれど、中瀬古さんの技は霊力をひどく消耗するのかな。どんどん勢いが弱まっていくの。勝利の結末は見えてきた。

 そして……そうなると、必然的に近づいてくる。

 仲間トモさんとの戦いが。

 ルルコ先輩から授かった方針はある。いろんな手が思い浮かんだ。彼女を怒らせる方法、あるいは彼女が和まずにはいられない方法。けれど正解は見つからない。そもそも存在しないのかもしれない。

 思えば沢城くんの時はまだ楽だった。引きつけさえすればよかったんだから。けど今回は違う。勝たなきゃしょうがない。

 さっきユウがあんまり見事にキラリを倒すもんだから、ぞっとしたよね。次にまな板の上にのるのは私だなって思ったから。


「緊張してる?」


 実際に技を放ったユウが尋ねてくるから困る。

 さっきの技、まるで見えなかった。ユウの抜刀術は神がかってるし、沢城くんはユウの抜刀術と戦いたがっている。それも当然だと思う。

 ユウは強い。普段は封印している狛火野流抜刀術という本気を出したら……一年でも五指に入るほどの腕前だ。頂点に立つ可能性が十分すぎるほどある、と言える実力の持ち主だ。

 見てみたいとは思う。本気を出したユウと沢城くんのバトル。

 沢城くんの才能はもう疑う余地がないレベルだ。きっと加速度的に沢城くんは強くなるだろうし、ユウだって決して引けは取らないはずだ。

 才能とはなにか。高みへのぼるための力。それは努力といっていい。当たり前に積み重ねて当たり前にのぼりつめる力。誰もが目を背けたくなるような、悲しいけど当たり前の事実。自分を追い越していくのは、自分よりも真摯に積み重ねた奴……そんな現実の先に、あの二人はいる。

 沢城くんの習熟度と飲み込みの良さが抜群にいいのは、一学期のトーナメントで月見島くんが放った三段突きを一瞬で再現してみせた時点でわかってる。

 でもユウの積み重ねは――……物心ついた時からのそれは途方もなくて、膨大だ。

 話を戻す。

 仲間トモは両者の間に立つ存在だと私は考えている。

 技の創造、刀を手にして力に変える飲み込みの良さ。そして……幼い頃からの積み重ね。いいところどりをしたような存在なのだ、彼女は。


「……勝てるかな」

「勝ちたい?」

「誰だってそうだと思うけど」


 ユウの問いかけに思わず言い返すと、ユウは笑っていた。


「なら……彼女もそうだろうけど。一学期の青澄さんに挑んだ俺と同じで、マドカに期待してるんじゃないかな」

「ユウ。嬉しいけど……それ以上ヒント言わないで。答えは自分で掴むからこそ意味があるの」

「わかった」


 笑いながら頷いてくれたから、視線を試合会場に戻す。

 中瀬古さんが肩で息をしていた。対してトラジくんもシャチに姿を変えた力に翻弄されてぼろぼろだ。とはいえしっかり立っているから、余力はまだまだ十分。

 二人して笑いながら見つめ合う。

 倒れ込む中瀬古さんをトラジくんが抱き締めた。歓声があがる。勝敗はついた。


「勝者! 相馬トラジ!」

「よくがんばったな、コマチ」

「……トラくん、も」

「おまえ、すごかったぞ……おかげでくたくただ」


 和やかだし、爽やかだし……ハルの言い方を借りるなら、あまあまだった。

 いいなあ。純なカップル。うらやましいけど、浸ってもいられない。


「仲間トモ! 山吹マドカ! 前へ!」


 呼ばれたからには、行かないとね。


「いってくるね」

「がんばって」


 ユウに手を振って、陣地へ行く。中瀬古さんを支えてトラジくんが胸を張って出て行く。

 私も……胸を張って勝敗を受け入れられるように頑張らないと。


「両者、一礼!」


 刀は抜かず、深く一礼をする。気持ちを引き締める意味も込めて。

 身体を起こして、刀を抜いた。

 構えと言われた時にはもう、私も彼女も臨戦態勢だった。

 仲間トモ。その御霊は――……刀は、雷切丸。

 複数あると言われる雷切だが、彼女のそれは恐らくは立花道雪のもの。雷神を斬った千鳥――……転じてそれは、彼女の必殺技でもある。

 結城シロくんのそれは竹俣兼光だろう。けれど彼はまだ、別の呼び名である力を引き出せてはいない。

 難しいことだ。己の刀の力を引き出して、技へと変えるのは。

 一年生の誰よりも早くものにした仲間トモは傑物だ。沢城くんの才能と同様に疑う余地はない。


「はじめ!」


 にらみ合う。消耗戦を挑む? それとも一瞬でケリをつける? それとも。それとも。


「――……にらめっこは主義じゃないんだよね。こうしたら本気になってくれるかな?」


 不意に微笑んだ彼女が刀を振るう。

 そして――……岡島くんや茨さん、なによりハルのように己の胸に刀を突き刺した。

 ぎょっとした時にはもう遅かった。

 一瞬、目の前が光に包まれた。直後、全身を震わせる衝撃と共に轟音が鳴り響く。

 眩んだ目がなんとか元通りになって前を見て、血の気が引いた。

 雷を身に纏った仲間トモが目の前に立っているのだ。

 その身に雷を宿す技。舞い散れ千鳥という技の先があるだなんて思いもよらなかった。もはや彼女は雷そのものだ。

 待ってくれ。そんなの聞いてないぞ!


「まずは……雷神モード。初お披露目はアンタに決めた」


 身に余る光栄すぎて、涙が出そうだよ――ッ!




 つづく!

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