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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十一章 一月のシンクロミタマ

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第三百三十九話

 



 現世から意識を戻す。

 ここは地獄の執務室だ。


「姫、お戻りですね……それはよかった」


 目を開けると、すぐそばにクウキが控えている。

 お父さま付きに戻るはずなのに、なぜ。嫌な予感がしたけど、気づくのが遅すぎた。腕枕から顔を上げて、少し薄暗い手元に恐怖を覚える。

 恐る恐る視線をあげた。目の前にいる。


「おはよう、冬音」


 お父さまが。閻魔王が。目の前に、いる!


「……お、お、お、おはようございます、お父さま」


 真顔。厳つい顔に似合いのヒゲ。身体を覆うゆるやかな羽織、着物。けれどその内に秘めた力は自分などでは敵わない巨漢の存在。

 閻魔王。地獄における父であり、絶対者だ。


「さて……なんとも不思議な来訪者が来た、と騒ぎになっているが、冬音は知っているかな?」

「え、え、ええと」

「仕事中に居眠りをしているようでは……難しいね」

「……あ、あ、あの」


 やばい。つんでる。


「既に裁定は始まっているが、しかし罪と判断するべきか悩ましい。なにせ小さき光とはいえ、神だから」

「う、う」

「天国に送るべきかどうか、いやいや、閻魔姫が連れてきた新たな神だ。となれば地獄に迎え入れるべきか――……と大騒ぎなんだが」


 だらだらと脂汗が流れ出てきた。


「そうか。ようやく起きたか。姫とは言え閻魔で仕事中なのに、ようやく起きたんだね。おはよう、冬音」

「お、お、お、おはようございます」


 もちろんもれなく冷や汗だった。

 笑ってない。お父さま、声がちっとも笑ってない。

 それだけで強烈な恐怖を感じる。具体的には、おしおきが待っていそう。


「どういうことか、説明してくれるんだろうね?」

「あ、ああああ、あの、あの、お、おおお、怒ってますか?」


 視界の隅でシガラキが唇を動かしてくる。『妹に……そっくりですね……』ってやかましいわ!


「よそ見かな?」

「い、いえ! 滅相もない! 我の視線はお父さまに釘付けゆえ!」

「なら、ずうっと釘付けにしなさい。お前の話をすべて聞かないと、今後の判断もできないからね」

「は、は、は、はひっ!」

「姫とはいえ閻魔を名乗るなら、報連相は大事だからようく覚えておきなさいと……かつて言ったことを、覚えていないことについては。そうだね。怒っているよ」


 ああああああああ!

 思わず飛び出そうとした肩に優しく手を置かれた。そしてすとんと椅子に座り直される。

 手は外れない。逃走を初手でキャンセルされた! なんてことだ!


「どうかしたのかな。謝るために頭を垂れるつもりだったというのなら、まず説明が先だよ」

「は、は、は、はひ」

「まさか……逃げようとしたわけではないよね?」

「…………は、はひ」

「嘘もいけないよ。閻魔が罪を犯すなど、あってはならないことだから。もちろんわかっているだろうけど」

「あわわわわわわ」


 ごめんなさい、逃げたくてしょうがない!

 叫び出したい気持ちをぐっと堪えて、あわてて背筋を正す。視界の端でクウキが「ほら、言わんこっちゃない」という顔をしている。反対側にひょっこり顔を出したシガラキが笑顔で口を開いた。


「王よ。姫は我ら手勢を現世に出しましたが。その責については?」


 シガラキ、お前……覚えてろよっ!

 睨みつけるけれど、海千山千の長寿の鬼たちの中でも特に扱いきれないシガラキ相手には無駄の一手。


「二十時まで……まだたっぷりとあるな。それでは話を聞こうか。冬音、返事は?」

「……か、かしこまりました」


 普段、身分がある立場ゆえ、力関係という意味合いをよくよく意識している。それに下の者とばかり接するからな。その態度のベースが我には必要だった。閻魔の仕事を始めたばかりの頃は特にな。参考にしたのはお父さまとお母さまだ。

 尊敬する我らの王を相手に敵う道理はない。父に勝てた試しは一度たりともないのである。姫として力を付けるべく手ほどきをしてもらったことはあるが、文字通り子供扱いだった。

 それでも……春灯と約束をした。

 あいつは命をさらしてまで我と己の欲望を救おうとした。いいや、事実救ってみせたのだ。ならば自分も覚悟を決めよう。とはいえ聞いておかなきゃならないことがある。


「ち、ちなみにお父さま。もしお話した内容がアウトだったら、我はどうなりますか?」

「お尻を叩く」

「……あ、あのう。地獄から見たら十数年を経た我なんて赤子みたいなものですが、しかし精神年齢的にも現世的にもいい年なので、お尻叩きはちょっと」

「お尻を強めに叩く」


 強めが追加された……!


「せ、せめてゲンコツとかになりませんか? 強めに一発。それで済む、みたいな」

「腫れ上がるくらいお尻を強めに叩く」


 どんどんひどくなってる! くううっ。抗えそうにない。


「わ、わかりました……説明します」


 項垂れる横でシガラキがすごく楽しそうに表情を緩めている。

 覚えてろよ、ほんとに! ぜったい仕返しするからな! 覚えてろよおおお!


 ◆


 寮の部屋に集まる。

 集合場所はラビの部屋。生徒会、全員集合だ。緋迎くんはハルが気になるだろうけど、今は佳村に見てもらっているようだ。

 大事な話があると呼んだ手前、助かる。


「七つの黒い御珠……うち一つは学校のもの。なら、他の六つの出所はどこ?」


 私の問い掛けにみんなして俯く。


「そもそも黒い御珠はどこから産まれてどうやってここにきたの?」

「……春灯と冬音の欲望が連れてきた。あの二人に聞くのが筋だ」


 俯く緋迎くんの背中に寄りかかるように座って、ラビが帽子を片手で何度も上に放っては受け止めてを繰り返す。


「それでも推察はできる。あれは穴だ。願いの根源、塊だ。だから――」

「――誰かが穴を作った。たとえば死への絶望、人の身には過ぎた強すぎる欲望を放って」


 双子そろって意味深なことを言うのが似合うんだから困る。

 ラビだけじゃなく、ユリアにも思うところがあるということ?


「たとえば……そうだな。一昨年の暁先輩を失った直後のメイ先輩」


 シオリがぽつりと呟いた。


「或いは……暁先輩を忘れられないメイ先輩を思っていたラビとか。刀の力が強くなりすぎて呑まれそうだったユリアとか。カナタにずうっと片思いをしていたコナが初めてハルちゃんを見た瞬間とか」


 列挙される可能性。誰も何も言えなかった。


「侍候補生が……刀鍛冶が邪を産まないって、それは確かに通説だけど。でも夢の力を掴んだとしても、欲望は決して消えたわけじゃない。絶望だってするし、そしたら……強い欲望が産まれたとしても、不思議じゃない」


 間違いない。それは今回の騒乱で証明されたことだ。


「本来なら刀や力に影響を与える欲望が、もし御珠を作るなら……なんて。考えすぎかな」


 笑えないし、笑い飛ばせなかった。


「少なくとも、ささいな欲望程度じゃどうにもならないだろうね」

「そうだな……しかし、過ぎた欲望ならどうなるか、わからないということでもある」


 ラビの発言に緋迎くんが頭を振ってからシオリを見た。


「シオリ、それらしき映像を見た覚えは?」

「覚えはないけど引っかかってる。だから実は帰る時からずっと検索かけてるんだ……ハルちゃんとそのお姉さんの邪が映ってくれていたら楽勝なんだけど」


 ラップトップを膝の上にのせているシオリが画面に視線を向けてから、呟いた。


「……出ないんだよね、データが一つもでてこない」


 みんなでため息を吐く。ふと気づいたように緋迎くんが呟いた。


「……隔離世の映像って曖昧だよな。向こうに行ってスマホで撮影したら、現世のそれにデータが残っているという話がなかったか?」


 あったなあ。あった気がする。意図して撮影する機会なんてそうそうないけれど。


「住良木が開発したモニター技術が遅れている気配すらあるよね。そもそも警察も見れる学校の監視カメラにも使われているって話だったけど」


 ラビがその話題に乗っかった。ユリアは「興味のない話になる予感がする」という顔をして、お菓子を探し始める。膝の上には食堂で頼みまくった料理も並んでいた。だからそれを食べればいいのに、まったく。本当に食いしん坊なんだから。

 代わりにシオリが口を開く。


「いやいや。現世にいながら隔離世を見れるっていうところが新技術なわけで」


 この手の話題となると放っておけないのか、シオリがささやかな反論を試みたのだ。

 続けて説明する。


「VRメガネみたいに隔離世メガネみたいなのが作れたら、現世にいながら邪討伐ができるかもだし。可能性は無限大。前に言わなかったっけ? これ」

「なあ……それ、隔離世が仮想世界になって扱いが落ちてないか?」

「まあまあそう言わないで、カナタ。刀鍛冶が活躍できそうだよね。テーマパークに雇ってもらって、メガネをかけてもらったら、あとはイリュージョンを見せればいい」

「それは……悪くないな。あとでミツハ先輩に言ってみるか」


 シオリの提案にラビと緋迎くんが盛り上がり始める。

 身体を寄せてああでもないこうでもないという二人を見ながらぼんやりと思った。ぴったりくっついて、本当に仲がいい。

 ラビめ。私に対する接触より、よっぽど回数が多いんじゃないか?

 ……どっちが受けでどっちが攻めなんだろう。


「コナ、疲れた顔してるよ」

「こほん……まあ、ほら。最初の議題はどこいったんだとちょっと思ったの」


 今はまだわからないというのが実情なのだけど。

 放置したらまた大変な目に遭いそうだ。警戒していかないと。

 そのためにも、言うべきことは言っておかないとね。


「緋迎くん。例の二人にもし話が聞けそうだったら教えて。あなたの御霊がキーのようだから」

「ああ、わかった」


 頷く彼がラビと話を広げていく。

 今はもう緋迎くんと話す時に複雑な気持ちはない。二年女子一同が一度は妄想するであろう題材を頭の中で展開させながら、シオリに寄りかかる。


「こ、コナ? どうしたの?」

「……ちょっと疲れたの」

「そ、そっか」


 どぎまぎするシオリとぐたっとする私を半目で見ながらユリアが呟いた。


「しまった。オカズしかない」


 ◆


 気絶して目を開けると、だいたいベッドにいるよね。

 繋いだ手の柔らかさに気づいて、なんとか身体を起こす。

 ノンちゃんがいる。それだけじゃない。カゲくんにシロくん、マドカとキラリ、ルミナさんやフブキくんに……零組の四人。大入りだ。

 みんな私を心配そうに見つめてくれるのが、なんというか、恥ずかしい。


「……あのう。おはようございます」

「のんきか」

「おう……すみません」


 キラリのツッコミに頭を下げる私。

 みんなは和んでいるけど、ノンちゃんは複雑な顔をしていた。


「ハルさん。身体に変化を感じますか?」

「……ううん」


 ふり返るまでもなく尻尾は九本。ちゃんと感覚があるからわかる。

 あとは……なんだろう。


「すっごく疲れているくらい?」

「それなら、いいのですが」


 私から手を離すと、ノンちゃんは私のおでこに触れたり尻尾に触れたりしていろいろチェックするの。


「ノン、どうした」


 ギンが尋ねると、ノンちゃんは首を捻る。


「あの……祈りの歌の瞬間、ハルさんの霊力が爆発的に上がったのです」

「例の……大神狐モードという奴じゃないの?」

「えと」


 キラリの問い掛けにノンちゃんは言葉を探す。


「これまでハルさんが大神狐モードになった時……実はずっと見ていたんです。その霊子がどんなものか。霊力がどう変化するか」


 ノンちゃん、できる。おそろしい子……!


「でも今日の……あの一瞬は今までを遥かに凌駕していました」

「なるほど。強い力を発揮した後、気絶した彼女が無事かどうかわからないってことか」

「はいです」


 タツくんの説明にノンちゃんが頷く。だから自分でも身体を見渡す。

 尻尾の色も変わらず金色。

 十兵衞、タマちゃん……二人はどう?


『何事もなく』『元気じゃぞう? お主と違ってな』


 元気かあ。


「ううん、問題ないけどなあ。ほら、こんなにげんき――」


 立ち上がろうとしたの。だけど膝がかくんと折れて倒れそうになる。あわててみんなに抱き留められた。すぐに寝かされて、ノンちゃんが私の心臓の上に手を置くの。すぐにぽかぽかの霊子が流れ込んでくる。


「む、無理すんな」

「キラリさんの言うとおりです……やっぱり、危ない。いまのハルさんの霊力はほとんど零に近いですよ」


 ノンちゃんが心配そうな顔で言ってくれるけど、自覚がない。


「生きる力が零になりかかってます。霊子を注ぎましたし、自然に回復するとは思うのですが……今日はゆっくり休んでください」

「う、うん……」


 言われてまばたきをしようとした。けど閉じた時にはもう、猛烈な眠気がやってくる。


「ごめん……おなか、すいた……」


 呟いたけど、それが限界だった。ぐうう、というお腹の音を聞きながら、私は眠りに落ちたのでした。


 ◆


 ミツハのチェックを受けてから、メイの部屋に入る。

 メイと二人で何気ない話を山ほどしたよ。みんなの欲望がどんなことを叫んでいたか、とか。三年生同士のカップルの欲望がそれぞれ微妙に食い違ってて大丈夫かあの二人、とか。

 羽村くんの話もした。暁先輩とのデートの話も聞いた。大学受験が迫っている中、勉強は大丈夫かなあとか。そういう話もしたし。富士山にのぼって初日の出をみてきたサユは私たちに一言も声を掛けないの、いい加減薄情すぎない? という話題で盛り上がりもした。まあ誘われない限り率先して挑戦したいことじゃないからなあ、と二人で呟いて、サユはきっとわかった上で誘わなかったんだろうと結論づけた。

 私もメイも自分のことで手一杯。それは……奔放で自由気ままな風のように生きるサユも同じなのかもしれない。世界を歩くという目標を飲み込んで私たちの会社にきてくれたこと、富士山登山をしたサユに後輩ちゃんが二人もくっついていったことからわかることがある。

 どんなに強くても、一人ではいられない。孤高に強くあり続けるサユですら、そうなんだ。

 そして、触れ合うだけで伝わるものがある。

 心をかわすことは何より大事。精神的な充足感ってかけがえのないものだ。

 言葉で、態度で、日常で……夢見るようなデートできゅんと感じさせて、とは思う。

 でも……触れ合うだけで、寄り添うだけで精神的に満たされる回路があるのもまた否定はできない。

 ベッドに二人で寝そべって、いつものようにメイの腕に抱きつく。それだけで結構ほっとしちゃうし、もういいかなって思えちゃう。

 だめだ。今日はだめ。もう、だめなんだ。

 羽村くんに先へ進むことを求められてる。私も……そりゃあ、本当は、求めてる。

 文化祭のキスは忘れられない。どっちも。私からしたのも、メイがしてくれたのも。

 唇をじっと見つめていたら、メイが私に身体を向けて言うの。


「なに、告白でもしてくれるの?」

「……う、ん、と」


 あの歌はすべて、本心だった。あの舞台の内容はすべて、本当のことだった。

 我ながらメイを王子さま役にして、村娘のヒロインになったのは運命感じる。最初はどうにかしてハルちゃんとかにやらせようかと思ってたけど。だめだったよね。マドカちゃんが許してくれなかったよね。おかげで最高の舞台になった。繰り返すよ。最高だったの。

 そんなにいい思い出になったのなら、綺麗なままにしていようよ。

 私の甘えが訴える。

 綺麗な瞬間のまま、それでいいじゃない。あの思い出を抱えて生きていけばいいよ。羽村くんだって一生アメリカにいたりしないだろうし。それでいいじゃない。

 浸りたい、と思う。甘える気持ちに浸りたいって……素直に思う。

 けどメイの腕を抱き締めて寝ていると感じるの。

 ベッドの中で伝わってくるぬくもり。ぽかぽかするこの熱の先を求める自分もいる。

 安らぐだけじゃない。どきどきしてしまう。ずっと。これまでも……そうだった。

 甘くて柔らかくて、私のすべてを奪うあの唇と……何より気高い強さと。守ってくれる優しさを、メイのすべてを独り占めしたいという気持ちもごまかせない。

 ずっとぎりぎりの均衡を保ってきた。けど……あとちょっと、数ヶ月もしないで私たちは卒業して。こうやってメイと同じベッドで寝られる時間も終わりを迎えてしまう。

 いやだなあ。今が永遠に続けばいいのに。

 そんな世界じゃないから……意を決して尋ねる。


「……告白、したら……どうする?」


 メイはまばたきをした。


「メイのことが……性別とか、恋人がいるのとか、どうでもいいくらい、そういう意味で好きだって言ったら、どうする?」


 怖くてしょうがなくて、泣き出しそうで。

 ごめん忘れて冗談だよって言って逃げ出したくてしょうがない。

 繋いだ指先がどんどん冷えていく。溢れてくるんだ。言ってしまったから、もう……蓋は開いた。メイが好き。メイが好きなの。好きで好きでしょうがないの。

 私の霊子が私を凍り付かせていく。思いの分だけ、自分を死に近づける。


「――……そうだな」


 メイが身体を起こした。かと思うと、私の肩をそっと押して……私の上に覆い被さるの。


「むしろ逆に聞きたいんだけど。私が受け入れたら、どうするの?」

「――……っ」


 照明が消えていて本当によかった。露骨に顔が赤くなったの、自分でわかるから。

 たった一つのアクションで、身体に火が灯る。凍り付きそうになった身体に熱が宿る。


「曖昧な距離でいたいの、ルルコの方だと思ってたんだけど」

「――……」


 視線をさまよわせる。やばい無理ぜったい無理、いますぐ逃げ出したい。

 だめだ。メイが私の手首をそっとベッドに押しつける。

 葛藤する。ああ。何かが切り替わっちゃう。安穏とした今までが、致命的な未来に切り替わっちゃう。でも。でも。

 メイの瞳は、私を拒んでない。


「私が欲しい?」


 私を、拒んでないの。

 右手の指先が私の唇をなぞる。あのキスをいやでも思い出しちゃう。


「アマテラスを飲み込めるなら……いいよ。ルルコを貫かせてくれるなら……」


 まるで私の告白を見越していたかのように、メイはすぐそばに置いてある刀を手にした。

 抜き身のアマテラス。メイの太陽。刃。切っ先が心臓の上にあてられる。

 羽村くんの時よりも、それは濃密なメッセージ。

 指先よりもあつかった。その切っ先は、メイの願い。夢で作られた熱。


「溶かしてもいい?」

「――……ルルコの氷を溶かして、潤してくれるの?」

「私の熱でね……きっと男子にはできない。あなたの氷は、私がとかすの。最初にルルコを見つけた時から、それが私の願い」


 刃が入り込んでくる。メイが私に入ってくる。


「文化祭の舞台は自分の気持ちだったってルルコは言うだろうから……お返しに言うよ。私にとっても真実だった」


 ずぶ、ずぶ、と。


「初めて見たときから惹かれてた。綺麗だけど氷のようだった笑顔をとかすなら、私しかいないって」


 熱が広がっていく。メイの気持ち。私への気持ち。染み込んで。


「ルルコはずっとヒロインだった……だから私を願うなら、叶えてあげる。ずっとそう思ってたよ」


 とかしていく。太陽になるくらい熱すぎて強すぎる愛情の恩恵を受けながら、私はメイの熱情を注がれて――……思ったの。

 ああ、本当に……私だけが気づいてないだけで。

 すべては望めば叶うところまでたどり着けていたのだと。

 飲み込むメイの心に嘘はなかった。

 そして予想通り……身体だけじゃない。心のすべてが喜んで迎え入れた。メイを。私にとって、間違いなく最初の王子さまを。


「今だけは……ルルコと私、ふたりきり」

「――……んっ」

「さあ……今日まで言えなかった気持ち、ぜんぶおしえて?」

「っ、あ、ぅ――……」


 根元まで貫かれて――……メイの背中に腕を回した。

 無我夢中で囁く。愛していると、囁くの。




 つづく!

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