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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三十章 星の下の暗闇と金色

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第三百二十六話

 



 二人の侍候補生を連れて緋迎シュウとして、日本の代表者として基地に入る。

 今回の一件に参加した死の商人ともいうべき企業の代表者もいた。ノア・マーティン。軍に顔パスで入れる彼を警戒するべきか悩むけれど、頓着している暇はあまりなかった。

 老人から引き出した本。それには老人の組織や知識が記載されている。閻魔王から授かった技術の一つだ。相手の内にある欲望を禍津日神の力を借りて引き出し、霊子を組み立て形にする。

 その解析を軍に依頼したのだが、次々と文字が消えていってしまう。本の端から霊子に散らばりなくなってしまうのだ。術は完璧に成功した。それゆえに思い当たるのは、老人に何か起きたという可能性。

 結局わかったのは、見えざる手という組織がチャイニーズマフィアの背後に存在しており、黒い御珠の力を用いて何かをなそうとしている事実だけ。それだけならば今回の一件からじゅうぶん推測できる内容だ。残念ながら今回は敵の全貌などはわからずじまい。

 仕方ない、と切り替える。ノア氏はアメリカに既に希望の種はあるのだと訴えてきた。彼が独自に探し出した御霊の持ち主がアメリカに数名いるという。彼らを招集し、今後のアメリカの危機に対処するというのだ。ならばどこかに御珠に類するものが存在するはずだ。

 軍はその二つを探し出す方向で動くだろう。

 安倍、金長両名の力を借りて軍人たちを相手に力に目覚める訓練を行なう。それだけで年末から年始にかけてのスケジュールはあっという間に消化してしまった。

 観光しに来たわけではないが……常に軍人相手というのもな。少し窮屈で、それにもどかしいものがある。

 国を守る。その意思を強く持って集まり鍛えられた青年や少女たち。タフガイもマッチョな女子も夢を抱いている。けれどそれがそのまま隔離世にいく才能に直結するかというと、そうじゃない。ノア氏たちによる御珠の解析も同時進行で行なったのだが……結果は芳しくなかった。

 現実的な脅威に現実的に対処しようとするからだめなのか。彼らには強い意志がある。鍛えられて作られた意思が。それでは……隔離世にいけないのか。

 わからない。ただ芳しい成果もあがらないまま日々が過ぎて、明日には日本に戻ることになった。


「こんなことなら……レンも遊びたかった。ちっとも活躍の場がない。っていうか素人相手にどや顔するの飽きた」

「その割りには楽しんでたようやけど」

「どや顔するのは楽しいけど、飽きたっつってんの!」


 二人の候補生に苦笑いを浮かべる。

 ノア氏と話し合う機会もあったのだが、彼は自分に多くを語ろうとはしなかった。日本の、それも政府の人間を相手に心は開けないということなのか。

 彼女なら、とどうしても思わずにはいられなかった。青澄春灯。一日にしてアメリカの知名度が高まった歌う侍少女。彼女なら聞き出せた話もあるだろう。

 とはいえ――……あくまでアメリカの事情でしかない。協力はするけれど、問題丸ごと肩代わりするわけではないのだから、これが限界か。

 大人は難しいな。


『ねえ、シュウ。遊園地があるんでしょ? 行ってみたい』


 ……そうだな。


「二人とも時間はあるか? 明日には帰る……少し気晴らしにでもいこうか」

「せんせ、珍しいこともあるもんやね」

「待ってた! そういう提案!」


 笑ってみせる。帰る前に少しくらいは遊んでいこう。

 カナタや青澄くんたちはどうしているだろうか? 先に帰ると聞いているが――……そろそろフライトの時間だろうか。


 ◆


 シュウさんもユウジンくんやレンちゃんもいない。

 メールがきてたよ? 明日帰るって聞いている。行きの時みたいに襲われないか心配ですけど、でもマシンロボを自分の技にしたシュウさんがいて、ユウジンくんとレンちゃんがいるならそうそう下手なことも起きないよね。それにカナタ曰く、シュウさんの腹心の部下の人たちが迎えに来るらしい。なによりカナタたちがいるんだから、大丈夫だろう。

 シュウさんが持ち帰ったら、日本に御珠が一つ増えるのか。どういう扱いになるんだろう。士道誠心や他の三校に来るとか? それとも新たに学校を新設するとかなのかな? 気になるね!

 気になると言えば……


『カメラやマイクはもうなしか? つまらんのう』

『やれ……少しは静かになったか』


 タマちゃんが寂しがって、十兵衞がほっとしているのも仕方ない。

 なにせささやかなマスコットがちょっぴりお騒がせマスコットにランクアップしたのです。そのおかげでどこへいってもほんのり人に取り囲まれて写真撮られたりするの。

 さすがに空港内部だとそこまで大盛り上がりじゃないけどね。

 そのおかげで何事もなく飛行機に乗れて、今はひと息つけてる。


「日本に戻ったら初詣いかないとなあ」

「彼氏と行くのかい?」


 コーヒーを手にする高城さんの視線に怯む私です。


「……だ、だめだったりします?」

「恋人がいるのは既に公表されてることだから、仲良しなら幸せ満喫しておいで」

「やった!」


 もう、ずるい! てっきりアウトだって言われるのかと!


「でも写真はいたずらにあげないで、事前にこちらに知らせること。こちらで見て判断するから」

「……意外と厳しい」

「相手が一般人なら余計、当たり前にするべき配慮だぞ?」

「おう……配慮がなくてすみません」

「気にした方がいいのは、もうわかるよな? カメラを向けられる大変さ、少しはわかったんじゃないか?」

「はあい」


 確かになあ。不意打ちで光が瞬くの慣れない。事前に断ってくれるならまだしも、私は別に誰もが羨むスーパースターとかじゃないので、撮れりゃいいやくらいの雑な扱われ方も多い。やっぱりそういう雑な興味の的になるのは地味に大変だ。カナタに同じような気持ちを味わって欲しくはないなあ。


「じゃあじゃあ、カナタと一緒に帰れないのは?」

「日本に戻った時の対処でもあります。そもそも彼らの便は明日なんだろう?」

「そうだけど……」


 シュウさんが警護する御珠絡みで来ているから、シュウさんたちと帰りが一緒なのは当然だった。それよりも気になることがある。


「もしかして今後、人前でばればれなデートをするのもアウトです?」

「場合によります」

「場合によるの!?」

「まあ……春灯が思ったよりド派手に売れたらね」

「……売れない方が私、幸せなのでは」

「目標は分相応に持つんだ。春灯はまだまだ先へ進むんだよ」


 ぺち、とおでこにチョップされました。


「ぶんそーおー?」

「春灯……君の歌にはまだまだ可能性がある。不思議な世界で強いとか、力があるとか、そういうんじゃない。みんなの笑顔の活力になる……」

「な、なる?」

「かもしれない」

「か、かもですか」


 曖昧……!


「でも売り上げ次第でライブ規模も見えてくるし、新展開が見えてくる」

「しんてんかい? バラエティです?」

「そういうのも含めて……侍業も頑張るつもりだろうけど、こっちも本腰入れてもらうからな」

「はあい」


 お仕事が増えるのはいいことだ。


『すべてを同じようにこなすのは限界がある……とか思わんのか?』


 ふふー。タマちゃん、それなんだけどね? タマちゃんの修行の目的……私はその達成による報酬に気づいてしまったのだ!


『なんじゃと?』


 化け術で分け身を増やす。そして分け身を離れたところでも動かせるようにすれば……なんと! 歌のお仕事も学校の部活二つもちゃんとこなせるのだ!

 どや? どや? 私のこのアイディア、冴え渡っているのでは?


『……まあ、五割かの』


 ええええ! 五割!? 十割の間違いではなく?


『十兵衞との修行の継続、すべてを十割のお主で乗り切る意思の強化。課題は山積みじゃぞう?』


 うっぷす。


『のう、十兵衞。片手間で修行できんじゃろ?』

『ふ……まあ、ハルにできる速度で進んでいけばいい。限界は超えていくから意味がある。確実に進んでいくことが大事だ。積み重ねていくぞ』


 もちろんだよ! ようし、やるぞう!


「ふおおおお!」

「お、春灯燃えてる。じゃあそろそろ一枚――……よし。ついでに動画。春灯、今の抱負は?」

「日本でお歌も学業もがんばります!」

「アメリカの感想は?」

「年越しですごいと噂のニューヨークにいきたいぞう!」

「アメリカで出会った人たちへ一言」

「あいらぶえるえー!」

「よし。馬鹿丸出しだ」

「ちっともよくないのでは!?」


 高城さんはスルーして投稿してる。それだけじゃない。これまでの動画を繋げるように編集を始めたの。

 空の上からWifi使って投稿した動画を見せてもらった。

 ロスでいろんなところに行った。いろんな人に会った。いろんな衣装で歌ったし、へこたれそうになってる私もたくさんいたよ。楽しみすぎてテンションのおかしい私もいた。ブルースさんと肩を重ねて笑ってたり、ハリウッドの女優さんにちゅっちゅされてる私もいた。

 大変だったけど……ダイジェストで眺める映像は日常が凝縮されてる。

 キラリに聞かれるんだろうなあ。


「いやだから、はしょったりダイジェストにするな。日々を丁寧に教えろ。アタシは興味あるぞ、アンタの日常」


 とか言われちゃうんだ、きっと。

 でも写真を撮ったし、たくさん呟いたの。ハリウッドセレブとの自撮り。監督さんにあったりもした。殺陣を披露してって言われたからアクション見せて、出演しないかーって言われたりしたよ? それだけじゃない。ノアさんとユラナスさんのパーティーに出て、ナイトドレスを着せてもらってピアノの伴奏で歌わせてもらったの。ロスで流行ってるウェイトトレーニングとか体験したし、語り出したらきりがない。

 そういうすべてが未来に繋がってる。見せたいのは日常の積み重ねよりも……成果。

 だからファーストクラスにて私のマネージャーさんに聞くの。


「ねえねえ、高城さん」

「なんだい?」

「私の仕事って……続けたら、どんな風になるのかなあ」


 わからないんだ。

 可能性はどこまであって、どんなところに繋がるのか。まだ見えないんだ。

 ただ歌だけ歌っていたいのかな。それともそれ以外の可能性も掴みたい?

 私は侍にだってなりたい。わがままにたくさんのことを求めてる。十兵衞だけでも、タマちゃんだけでもだめ。ううん、二人だけでもだめ。私自身の可能性も、カナタとの恋愛も、ぜんぶぜんぶ掴み取りたい。

 だから知っておきたい。一つ一つの可能性のいく先を。


「春灯はどんな風になりたい?」

「えええ? ううん……難しいですよ? なにか例とかないですか?」

「夏フェスに毎回、必ず顔を出すようなロックスターとか」


 ううん。


「握手会をしたり選挙をするアイドルの一員とか」


 うううん。


「学生だけに……アニメであった……あの、ほら、あれ! スクールアイドルとか?」


 ……ルルコ先輩とキラリに大差をつけられて負けそうです。人気的な意味で。男子も女子も人気はないですし。自覚してますし……っ!


「何か悲壮な顔してるけど……そうだな。とある体育館や武道館を満員にする歌手とか」


 それはかなり緊張しそうだし、なにより楽しそう。


「それともいっそ歌はちゃんとやるけど、バラエティに出まくるとか。たとえば海外に体当たりで何かをしにいくタレントになるみたいな。ほら、いってこーいてきなさ」


 ……むむっ。


「惹かれてるね」

「だ、だって。海外旅行し放題じゃないですか、あれ」

「ミステリーをハントするのもいいね」

「……あれって私のような女子高生がなれるものです?」

「さて。まあ……とにかく春灯のやる気と素質、あとは開拓次第かな」

「おおう」


 未来はきらきらですか。きらきらでやがりますか!


「しゃべりが受ければ可能性も広がるけど……春灯はそのへん自信ある?」

「えっ。えっと。えっと。お察しクオリティでいいならいくらでも」

「それは自信があるというのかな」


 笑われてしまいました。しょんぼりですよ。


「……なんだか絞れないですねえ」

「じゃあ……大人として一言。いいかな、春灯。人はね、なんにでもなれるわけじゃない」

「……高城さん?」

「積み重ねや思いの強さ、それにどこまで真摯に強く打ち込むかで……その人は、なるべくしてなるんだよ。求めるものに」


 どきどきしてきた。お母さんに言ってもらったことがある。

 人はなるべくしてなる。求めるものに。だらだら過ごしていたら、だらだら過ごしている人がなるべくしてなるものになるし。頑張っていたら、頑張っている分だけなるべくしてなるの。


「……最初から報われたりはしない。酷い目に遭う瞬間だって、春灯が生きていくならきっとくるよ。アメリカで歌った時に感じただろう?」

「……うん」


 誰も真面目に私の歌なんて聞く気もないステージ。そもそもそこまで歌を求められていない。マスコットを越えた役目なんて期待されてない。

 そんな瞬間があった。それだけじゃない。

 狐の尻尾を生やしていたから物珍しくて写真を撮られた。それだけの興味しかない人も大勢いる。

 恵まれるばかりじゃない。戦地に出たら傷つくことだって当然ある。山ほどある。

 でも逃げない。やると決めたから、何がこようと乗り越えてみせるんだ。


「春灯が打ち込む限り、みんなで全力でサポートする。だから……なるべくしてなるんだよ、春灯は。春灯が求めるものに」

「……私が求めるものに」

「だから考えておいて。自分がなりたいものはなんだろうって、毎日の積み重ねの先を探していって」

「……はい!」


 頷く。どれだけのことができるだろう。わからない。

 十兵衞の背中に追いつけるかな? わからない。

 タマちゃんみたいに輝けるかな? わからない。

 ギンやトモに、マドカやキラリに立ち向かって勝てるくらい強くなれるかな? わからない!

 何気なく歌ってた、それだけの……自分の一部分で世界に受け入れられるかな。わからない!

 わからないから――……全部の答えを見つけたい。探したい。

 もっともっと未来を探して、求めて、走っていくんだ。

 メイ先輩が歌ってくれた。走れって。

 コナちゃん先輩が歌ってくれた。生き抜いていこうって。

 やることが増えていく。

 だけどいつだって同じだ。どれも結局一つに集約されるの。

 私はどう生きたいのか。

 ずっと問われている。それだけなんだ。


「……世界は問い掛けてる。私の答えを。みんなの答えを。ずっと、ずっと」


 歌うように囁く。高城さんがカメラを向けてきてた。


「トシさんたちに送っておくよ、今の」

「ど、どうもです」

「自分の抱えるテーマを探していこう。それが春灯の軸になる」


 私の軸。折れない心。いろんな角度から試され続ける。

 窓に額を当てて空を見上げる。

 漆黒。青から転じて黒へと変わっていく空に星がきらめいている。

 金色が遠い。けれど確かに、漆黒の先に輝きが見えるよ。

 掴みたいなあ。そんな単純な願いのままに、手を伸ばし続けるんだ。

 ……とうとう、一月が来ちゃった。

 三月の頭には三年生が卒業しちゃう。一つ歳を重ねて上級生になって、後輩ができる。

 永遠なんてない。

 仕事だってうまくいくかどうかわからないし、さらにもう一年が過ぎたら軽音楽部の先輩たちだってコナちゃん先輩たちだって……なによりカナタと一緒に卒業しちゃう。

 生きていれば……いつか死ぬかもしれない。今日もどこかで赤ん坊が産声をあげて、誰かが亡くなった人のために涙を流してる。

 完璧な人なんていないように、完璧な世界だってない。

 未熟を知る旅路の先には……未熟をどこまで愛せるようになるか、試される瞬間がくる。

 向き合わなきゃいけない。変化と。その先にある現実と。そして、望む未来にどう近づけていくか、その試練と……向き合い続けていくんだ。

 自分のことだけじゃない。みんなのことも……。

 それでも、ああ――……。


「……今みたいな瞬間が、ずっと続けばいいのにな」


 三学期がくる。別れの季節が、もうすぐそこにやってきているのだ――……。




 つづく。

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