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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第四章 初めての邪討伐

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第三十二話

 



 おじいさん先生に相談しづらいことだよなあと思っていたら、ニナ先生を呼んでくれたの。

 だから相談してみたよ。

 タマちゃんの夢を見て、お互いに話し合って……そしたら尻尾が増えたこととか。あと、男の子の匂いに敏感になって……身体にも影響があることとか。

 そしたらね。


「玉藻の前……その性質から鑑みれば、仕方の無いことかもしれません」

「どういうこと、ですか?」

「歴史のお勉強を――……といいたいところですが、それは余りに時間が掛かってしまう。ですからそちらはいずれ、ご自身で、と言うに留めて」


 ベッドに腰掛けたニナ先生は白衣のポケットから一つの薬瓶を取り出した。

 中はカラッポだ。けど、木製コルクを取って私の鼻元に寄せてくる。


「手で匂いを引き寄せて、香ってごらんなさい」

「はあ……」


 手で引き寄せた空気を、すん、と嗅ぐ。

 その瞬間、尻尾がぶわっと広がって――……その。


「こ、ここここ、これは?」

「霊視が出来る人間の目にも見えないほど小さな、霊子です」

「りょう、し?」

「霊格が高く、霊力が強い者ほど大量に放ちます。性質も千差万別。それが悪い方向に固まると討つべき邪となるのですが……それはさておき」


 瓶にコルクの蓋をしてポケットに入れると、ニナ先生は苦笑いで私を見た。


「恐らく貴方の玉藻の前は霊力の強い男性の霊子に敏感なのでしょう」

『……まあ、そういうことじゃな』


 タマちゃんの肯定になるほど、と呟く。


「加えて男性に対するトラウマ……いえ、これは私の口から言うべきことではありませんね。よく、玉藻の前とお話なさい」

「タマちゃんと……」

「あなたには才能があるみたいね。刀の声を聞く才能が」

「え?」

「ことによれば、それは……いえ。とにかく霊子に対する感度が抜群なのでしょうから、せめて……男子との接近に気をつけて」


 あ、はい。


「対抗策を探しておきますから、見つかるまでの間は……気をつけてね」

「わ、わかりました」


 やっぱりすぐには見つからないんだ。

 しょぼくれそうだけど、状況は少し整理できたからいいとしよう!

 ニナ先生にお礼を言って、私は教室に戻ることにしました。


 ◆


 何度もトイレを往復しました。

 なんか今日はそういう話ばかりで本当に申し訳ないです。

 申し訳ない……。


「本当に大丈夫か?」


 隣の席からシロくんが気遣って声をかけてくれるんだけど。

 ごめん、それ逆効果なの。

 尻尾が。尻尾がね。膨らんじゃうんだね。


「だ、だいじょうぶ」

「そうは言うが、尻尾がめちゃくちゃだぞ」


 膨れ上がるしぶんぶん振られてるし。

 私の意志関係ない。もうこれ本能だ。

 いっそタマちゃんを尊敬するよ。

 よくこんな身体で男の子相手に普通に振る舞えるよ……私には無理だよ。

 涎我慢したり転がり回りたい衝動を我慢するのでいそがしいもん。


「だ、だだだ、だいじょうぶだから」

「……そうか」


 ああ! しょぼくれちゃった! 眉が八の字になっちゃった!

 はあああああん! 胸が! きゅんきゅんしちゃうよおお!


「ハル、すげえばか面になってるぞ……大丈夫か?」


 カゲくんにおでこをこつんとやられて我に返った。

 そして転がりそうです。一人が二人になって転がりそうです。


「う、ううう……ここは私の天国と地獄」

「どうした、右目に手を当てて」

「ちょっと病が」

「そうじゃなくて。おい、どうするよ?」

「……え?」


 どうするって、なにを?

 私が転がるべきかどうか?


「何考えてるのか知らないけど、ちげえよ。さっき帰りのホームルームでライオン先生が言ってたろ」

「え。もう放課後?」


 慌てて時計を確認したら、間違いなく放課後でした。

 おう……。


「お前ほんとに大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶだよ!」

「……唇の端から涎垂れてるぞ」

「えっ」


 あわてて拭った。冗談だよ、みたいな展開を期待したけど、割としっかりした液が垂れてた。

 やばい。本能なのかな。

 やばい。剥き出しにされているやばい……やばいしか出てこないやばい……。


「ほんと大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶだから、ほんとに!」


 だから顔を覗き込もうとしないでください!

 どうにかなっちゃうので!


「そ、それで? なにをどうするの?」

「あのな……まあいいや。深夜の特別課外活動、邪討伐のお誘いが、とうとう来たんだよ。俺たちクラス全員に!」

「とくべつ、かがい?」

「特別課外活動だ。まあ、だいたいにして月末のそれは邪討伐だからな。邪討伐と言った方が正確だが」


 横からシロくんが入ってきた。


「刀を手に入れれば学校の敷地内にある学生寮に入れる。そして特別課外活動に参加する権利が得られる」

「それに参加して成果を出したら、なんとお金がもらえんだ」

「おかね……」


 どういうこと?


「まあ詳細は秘密なんだけどな。俺らもお金もらえるってことしか知らない」

「ただ……相応の危険がある。その上、引率の教師の人数が確保された時で、安全が確保された状態でやっと一年生は参加できるんだ。先輩たちもくるぞ」


 よくわからないけど、それって大丈夫なのかな。

 そんな私の気持ちを察したのか、カゲくんが笑った。


「大丈夫だ。絶対安心な状況でなきゃ、俺たちは参加できねえってことだから」

「カゲにしては正しいことを言う」

「うっせ」


 ……なんか二人とも、どんどん仲良くなってる。

 二人で笑い合って肘をぶつけあって。

 なんだか……きらきらしてる。

 ……じゅる。


『落ち着け』


 はっ!?

 十兵衛のツッコミがなかったら危なかった……。

 私はどんな時空にとびそうになったのか。


「とりあえず俺らのクラスはお前以外は、今んとこ全員参加の方向になってるぞ」

「えっ」


 思わず声をあげた私に当たり前だろーとカゲくんが言った。


「俺らのクラスはいま、実はなにげに注目の的なの。入学式から一週間も経ってないのに、クラス全員が刀持ちになったってな」

「沢城たちも出てくる。僕たちが参加しない理由がない。それに……二年のユリア先輩の口添えで名指しされたとかいう噂もあるからな」


 え……。

 真っ先に浮かんだのは、今日のユリア先輩の発言だった。


『……獅子王先生に、お願いしないと』


 あれって、まさか。


「逃げてらんねえよな! 力をみせねえと!」

「ふん、当然だ」


 二人とも胸を張って、元気いっぱい。やる気満々だ。

 そっと周囲を見渡したら、みんな特別課外授業の話題でもちきり。


「ハルー。特別課外活動のお誘いきたー?」


 さらには、教室にやって来たトモまでその話とは。

 どれだけお金がもらえるんだろう? ……いや、そこじゃないよ、私!


「行く? 行かない? あたしは行く! でも一年女子はハルが来ないとあたしだけ……よよよ」

「テンション高っ」

「あはは。まあ鍛錬の場になるって聞いたからね」


 涼しい笑顔で頷くトモに「どうするの?」と聞かれて、私は少し悩んでから……頷くことにした。

 ユリア先輩の名前が出ていたし。

 それに、その。お恥ずかしい話なんですが……身体を動かさないと落ち着かないんです。

 なので、やってやるのです!




 つづく。

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