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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二十六章 修め行うための地獄道

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第三百五話

 



 夜中、お母さんと二人でソファに座ってたの。

 だらだらテレビを見ていたら、スマホが鳴ったから手に取る。

 カナタからの通話だ。いそいそと出ました。


『もしもし……ハル?』

「ん。ハルですよー」


 どうしたんだろ。私相手だってわかってて電話したんじゃないのかな?

 思わず笑っちゃった。あんまり不安そうなんだもん。

 そんな声を聞く機会なんてそうそうない。

 あのカナタが不安そうに電話してくるんだよ?

 ケンカのこと気にしてくれてるのかな?

 なにも伝えないで出かけたことについて謝ってくれたけど、反省してくれたのかも。

 あとは……いろいろあったのかも。修行一日目にして。

 ソウイチさん、あれで厳しいし。

 シュウさんもカナタに対しては一切手を抜かなそうだもんね。

 だから地味にけっこう嬉しい。

 頼ってくれているのかなーなんて考えちゃうんだ。

 それにしても呼びかけだけでこれだけ妄想させられちゃうんだもん。

 やっぱりカナタすごい。大好き!


『ああ……いま、その……心に、語りかけているというか』


 んん? どうしたの?

 思わず目が点になったよね。

 演出する時は結構過剰にする方なのに。

 今日のこれはネタにしたら懐かしすぎるし、突拍子もない。

 なんだろう。シュウさんに弄られたのかな? 負けたらネタをやれって強要されてるのかな?


「なあに? 新手の冗談なの? カナタ、普通にスマホから掛けてるじゃん」

『くそ! ここは本当に俺の情緒を……ッ!』


 あれ。めずらしく苛々を露わにしてる。


「カナタ、どうかしたの?」


 さすがに心配。緋迎さんちのカナタくんが心配。


『……っ、なんでもない。ただ赤面していただけだ』


 はあ。その赤面みたいですけども。

 カナタの息づかいがそうとうてんぱってそうなので、ここはわざと話題を変えてみる。

 目指せ、できる彼女ですよ!


「山梨はどう?」

『……きっといいところだとは思う』


 あれ? ど、どうしたのかな? いまの間はなんだろう。


「ねえ……だいじょうぶ?」

『あ、ああ。天国気分が味わえる飯が待っている。だいじょうぶだ……ハルの声を聞けているだけ、マシなんだ』

「は、はあ」


 ならいいけども。頼りにされてるの嬉しいし。でも心配は心配だ。


「んー。シュウさんやソウイチさんのようになる修行っていうと、すごく厳しそうだね。山梨マジ地獄だとか言ってめげたりしてない?」


 ちょっとからかうような声だして探ってみる。いつものカナタなら余裕みせつつ笑ってさらりと流すところなんだけど。


『……まあ、もうこの時点で結構めげそうだけどな』


 弱音はやい! やっぱり何かあったのかな?


「ほんとにだいじょうぶ? 困ってることがあるなら、今すぐにでも私そっちに行くよ?」

『……いや、それには及ばない。今回は俺が乗り越えることに意味があるんだ』

「……無理してない?」

『ハルのありがたみを感じてるよ。明日も連絡する……頼めるかな』

「もちろん! 毎日だってカナタの声が聞きたいよ?」

『……俺もだ』


 噛みしめるように言ってくれるの、嬉しい。

 どんな顔をしているのか、自然と浮かぶの。

 カナタもきっと、同じだと思う。


「……ん」


 そばにいたらキスしたりできるのにな。

 でもできないから……ためておこう。次に会った時のために。

 なんだか、ささやかすぎるけど……めちゃめちゃぷちな遠距離恋愛気分。

 実際に遠恋してる人がいると思うと、尊敬しちゃう。

 気持ちがたまって溢れちゃうよ。

 カナタが受け止めてくれるところで溢れなきゃ、寂しくて泣いちゃいそうだ。


『そっちはどうだ?』


 投げやり気味ではあったけど、明るい声になったから素直に答えたよ。


「んー。タマちゃんはトウヤと出て行ったきり帰ってこないし、十兵衞はお父さんと遊びに行ったっきり」

『……まったく、どいつもこいつも』


 すぐに曇った。魂のジェムが濁ってそうです。


「ストレスたまってる?」

『……ちょっとな。持て余してるんだ、現状を』

「深呼吸して、おいしいもの食べたら? ご飯たべるんでしょ?」

『ああ……これからな』

「山梨の名物ってなにかなあ。ほうとうとか?」

『……まあ、そうだな。他にもあるが』


 なんか歯切れ悪いなあ。


「食レポ期待してる。おいしいの食べてきて?」

『ハルの期待に応えられる自信が、今回ばかりはないが……頑張るよ』


 ご飯食べるだけなのに頑張るとは、いったい。


『……めげてばかりもいられないな。話していたら元気がでてきた』

「そっか……よかった」


 ほっとした声に変わるだけじゃなく、妙に嬉しいこと言うんだからなあ。好き。


『そろそろ食べてくるよ』

「ん! ……じゃあ、おやすみ?」

『ああ。おやすみ……愛してる』


 ぶわっと尻尾が膨らんだ瞬間、電話が切れた。

 床に下りてごろごろ転がる。

 ふわああああ! もう! もう! そういうところも好き!

 ああでもちょっと心配だなあ。

 転がるのをやめて首を捻っていたら、お母さんがなまあたたかい目で私を見てたの。


「な、なに?」

「……娘は大きくなったなあ、と。彼氏との電話で恋する乙女の顔してた」

「そ、そんなことないよ?」


 嘘です。自覚あります!


「終始デレ顔」

「お、お母さん! ……そこまで?」

「そこまで。お父さんが見てなくてよかったわ」

「おう……そんなに」


 あわてて顔に手を当てる。ちょっと火照ってる気がする。

 ……はずい。

 お母さんに見られるの恥ずかしすぎるでしょ。ううん。

 悩んでいたら、トウヤが元気な声でただいまーって言って帰ってきた。

 リビングに入らず、そのままお風呂場直行コース。リビングに入ってきたのはタマちゃんだけ。


「ふう。楽しかったのう!」


 ちらっと見たら……あれ。


「なんでタマちゃん、ひと目でわかるくらい肌つやよくなってんの……?」

「おのこに囲まれるのはいいのう。幼子だらけでも、楽しいものじゃ」


 ほくほく顔で私の隣に腰掛けてくる。思わず凝視する私だよ。


「……えっちなことしてない?」

「たわけ、幼子に手を出すか。そこまで飢えてはおらんぞ。一切しておらんよ」


 意外としっかりしてる……。


「じゃあ、なにしてきたの?」

「ちやほやされて、お菓子と漫画とげえむ、の、でえた? とやらを献上されてきた。現代の娯楽は楽しいのう! がちゃとやらは気に入らんが! 望んだものが必ずしも手に入らぬとは何事じゃ! 財をもて! 会社ごと買い切ってやるわ!」

「……馴染んでるなあ」


 それはそれで戦慄。


「ただいまあ!」「失礼、遅くなりました」


 お父さんと十兵衞の声がする。

 お母さんが立ち上がって私を見てきた。


「春灯、ご飯にするわよ。準備てつだって。あとトウヤに早く出るよう言ってきて」

「はあい」


 のどかに日常を過ごしすぎてる気がするけど、まあいいや。

 きりきり修行するのは明日から。

 カナタはだいじょうぶかな?

 修行だからって、何か変なことに巻き込まれてないといいけど。


 ◆


 胸元が大きく露出した着物姿の美しい女性二人に左右を挟まれて、俺は俯いた。

 腕にそっと押し当てられる膨らみから必死で意識をそらしながら、向かい側に座るシガラキを睨む。


「飯を食べるんじゃなかったのか。天国気分とはどういうことだ」

「料理ならあるじゃないですか、目の前に。それに、腕に感じるふくらみが天国でしょ?」

「ふくらみって……確かに料理はあるけどな」


 現世で目にする魚の舟盛りからテンプラまで。白飯の湯気といい、味噌汁の香りといい。馴染みがありすぎて、お腹がすいてくる。

 けど。けどな。


「なぜ……こうなっている?」

「やだあ」「こうって……こう?」


 ふに、と押しつけられる胸に限界がきた。

 たまらず立ち上がる。


「すみません。彼女がいるんで、そういうのは……困ります」

「やだあ」「すごい純~! 手出ししないから。ね? ね? 現世の空気、味合わせて?」


 そう言ってお姉さん鬼が俺の手をそっと取り、抗えない強い力で引っぱった。

 そうして腕を左右から抱き締められる。

 もちろん慌てる。

 逃げようとするのだが、二人の腕が外れない。

 強すぎるのだ、力が。

 一人は冷気を感じるし、一人は絡め取られるような恐怖を感じる。

 脳裏に浮かぶハルの「……浮気?」という声。

 違う。これは断じて違う。

 強いて言えばシガラキとの付き合いの結果なのだが、しかし付き合いというのは「嫁が絶対に許せない夫の言い訳ベスト3」に入りそうな返しだ。

 まずい。これはまずい。

 シガラキの意図もわからないから怖い。

 思い人や交際相手がいない身の上ならば歓喜するであろう両サイドの膨らみは、いまやたんなる脅しの存在だった。


「ねえ、カナタさん。緋迎と閻魔王の盟約、ご存じですか?」

「……説明が欲しい。いろいろと」


 身動きができない俺に、それはもう幸せそうに嗜虐的にシガラキが微笑む。


「十王に出会う権利を有し、己に似合いの王と出会い、試練を受ける。乗り越えた緋迎に連なる者はさらなる力を得て、現世に戻る」

「……兄さんと、父さん。母さんもその試練を受けたと?」

「ええ」

「「 うふふ…… 」」


 左右からユニゾンで笑い声が聞こえてきた。逃さない、とばかりに拘束が強まる。

 なぜだろう。嫌な予感が俺の背中から全力で走ってくる。そんな気配がする。


「地獄での試練ではね? ……試練に参加して活躍した鬼は勝敗の如何を問わず、昇進の機会をいただけるんです。閻魔王の采配ですね。文字通り、お祭りにしてくださってるんですよ」

「ねえ……本当に、楽しみだわあ」「あなたと一戦まじえればぁ……それだけでいいの。だから、ね? 指名してくれるわよねえ?」


 耳元に唇を寄せて囁いてくる女子二人そろって、胸を人差し指でなぞってくるのはなんなのか。

 そしてどんどん楽しそうに表情を歪めるシガラキはSなのか。


「やめてください……待て、指名ってなんだ?」

「文字通り、指名ですよ。祭りの概要を説明します。ほら二人とも、ご飯食べさせてあげて」

「「 はあい 」」


 女子二人が俺の口にご飯を遠慮なく運び始める。


「い、いえ、結構で――むぐ!」

「はいはあい」「じゃんじゃん食べてえ」

「だから結構です!」

「「 ……アァ? 」」

「……食べます」

「そうしてえ」「食べて食べてえ」


 必死に逃げるのだが、断るたびに膨らむ殺意が真中先輩やミツハ先輩の激怒クラスで抗えなかった。

 本当に、女性は、怖い。

 楽しそうにシガラキが笑い声をあげた。


「あはは! ……それでね、祭儀会場に地獄の住民が集まります。神々や名のある幽霊もくるかもしれませんね」

「……はあ」

「あなたは明日以降、閻魔さま……現在は姫さまですが」


 しれっと言うシガラキを睨む。そういえばこいつ、閻魔さまとか閻魔王と言いつつ、姫については一言も触れなかった。

 クウキも危険だが、シガラキも気をつけなければ。

 電話の件のようにからかわれる機会がまた来るに違いない……。


「なにか言いたそうですね?」

「なんでもない……」


 自棄になりながら口元に運ばれてきた刺身を食う。

 ぷりぷりのハマチがうまい。


「姫さま……というよりはクウキさまがお認めになるまで、会場の誰かを指名して戦い抜いてもらいます」

「……そこで指名された者が活躍したら、昇進?」

「職のない者や地獄に縁のない来訪者の場合には、ささやかな手当金が出るようですね」

「……温度差があるな。まあいい。ちなみに俺が負けたら?」

「その日は終了です。翌日また戦ってもらいます」

「地獄か」

「ええ、ここ地獄ですよ? 思い出していただけました?」


 くっ……。


「ちなみに戦いで不幸にも死んだら、そのまま地獄行き確定というわけで、ここで来世まで暮らしてもらいます」


 まさに地獄。


「まあ、いい戦いを演出した方がいい身分になれるし、あなたを殺したら祭りも終わりで昇進なしなんで、そこまでする奴はそうそういませんが」


 信じていいのか、それ。


「あなたが弱かったら、みんな困っちゃうんですよ。緋迎が強いこと前提のシステムなんで」

「やだわあ」「……情けない男は嫌いだなあ」


 笑顔。笑顔。笑顔しかない。

 視線を感じて周囲を見たら、店に集まる連中すべてが笑顔で俺を見ていた。

 けど求められているのは強さ。そして彼らの昇進の機会。それだけだ。

 両脇の女性の華やかさ、料理のうまさに騙されてはいけない。

 とても厳しい場だった。


「まあ、そんなわけなんで……手頃なところから指名しつつ。私や彼女たちを選んでいただけるとありがたいなあ、と」

「……なるほど」


 シガラキは笑顔だが、目は笑っていない。

 ここが地獄なら、彼らの欲は現世のそれより露骨で致命的だ。


「つまり、これは脅迫の類いか?」

「いいえ、あくまでこれは接待です」


 女性の肉体が腕にさらに絡みついてくる。


「横の二人は私の知る限り、地獄にお住まいの中でも屈指の美人ですよ? 玉藻の前がいてくれたらベスト3なんですがね。現世に奉公に行ってまして……」


 知ってる。ハルのそばにいるんだろ?

 にしても、玉藻の前も地獄の住民だったか。

 まるで不思議じゃないな。

 アイツがここにいなくてよかったと心の底から思う。

 いたら俺を全力でからかってきたに違いない。


「それに……おっぱい、いいでしょ?」


 答えないからな。

 頭痛の対処に忙しい。

 ここは紛れもなく地獄なんだ。

 わかってはいたけど、身に染みることばかり続いているけど。

 どう足掻いても逃げ場なし。

 強ばる俺を見てシガラキが初めて怪訝そうな顔をする。


「地獄じゃ滅多にないですよ? ベスト3のお二人に挟まれて色仕掛けされるなんて。妻帯者の鬼でも喜んで欲望に身を投げ出す場面です……あなた、EDですか?」

「勘弁してくれ」


 高校生に聞くな、そんなこと。


「ふむ……デレデレするのを堪えている。操を立てているのか。堅物ですねえ……彼女にバレずに済む夜伽もつけなきゃ気が進みません?」

「あなたなら」「別にいいけど」


 横にいる女性二人が耳元に息を吹き付けてきた。

 けれど、我慢する。


「俺には恋人がいれば十分だ」

「ふむ……でも悲しいかな、人外の色気に現世の肉体は抗えないようだ。赤面は隠せていませんよ」

「私たちじゃ……」「不満……?」


 香りが増してくる。

 理性よりも身体が反応したがっている。

 必死に堪えるが、シガラキの言うとおり……赤面だけはごまかせなかった。


「そ、そういう問題じゃないんです」

「わあい」「男の子だねえ」

「その反応、いただきです」


 笑いながらシガラキはスマホを出して俺に向けた。ライトが点灯する。


「さーて。しゃったー、ちゃーんす!」


 ぞっとした。

 たとえ何があろうと、説明すればハルもわかってくれるだろう。

 霊子で心を繋げば今の俺の気持ちも状況も伝わる。

 受け止めてくれるとも思う。

 けれど写真なんて撮られようものなら、その前に一波乱どころか大騒動になりかねない。そもそも霊子を繋ぐことすら拒否されるかもしれない。

 なによりハル任せにしていい問題じゃない。

 強いて言えばこの場に来ないことが唯一の正解だった。

 だが、シガラキに生活の鍵を握られている手前、回避不能すぎる。

 まさに手のひらで踊らされている状態だ!

 例えるなら、ラビより狡猾で悪辣。シガラキはまさに鬼だった。


「くっ! わかった! わかったからもうやめてくれ!」

「あっけない陥落ですね……しょうがないなあ」

「じゃ、じゃあ、撮影はやめてくれるか?」


 ほっとした瞬間、


「それは無理ですね」


 かしゃっと音がした。絶望の瞬間だった。


「私たちを指名して、いい戦いをしてくれたら消してあげます。でなきゃ、あなたがさっき連絡した女性に送りつけますよ。私たちの素性や、ここが地獄だとばれない形でね」

「鬼か!」

「鬼ですけど」


 くそっ……!

 悔しいが言い返せない。

 諦めるしかないか……!

 なんとかしてあのスマホの画像を消さないと。

 両手を挟まれている時点で手はないし、シガラキは俺より強いに違いない。

 ぐっと堪えて飲み込む。

 怒ってもなじってもどうにもなるまい。

 ここは地獄で、相手は鬼なのだから。

 なんとか自分を言い聞かせて、なだめすかして深呼吸をし、僅かな落ち着きを取り戻してから、訴える。


「そ、それより、これほど綺麗な女性を紹介するなら……兄さんに紹介してくれ」

「「 まあ! 」」


 女性二人が目を丸くして、やっと腕を離してくれた。

 けれど嬉しそうににやけながら頬をつついてくる。


「シュウより慣れてなくて弄りがいがありそう」「育てがいもありそうだわ……今夜一緒にいたいなあ」


 嫌な予感に羽交い締めにされている気しかしない。


「まあまあそのへんにして。脅すだけじゃなんなので、最低限の情報はあげますけど。何か知りたいことは?」


 にこにこ笑顔のシガラキの目が、糸目の安倍のように細められた。


「……お前は強いんだな?」

「ええ、まあ。少なくとも、あなたよりは」


 何の気負いもなく、さらりと笑顔で言われた。


「……彼女たちは?」

「私と同じで強いですよ。上司と揉めてくすぶっていますが、実力的に言えば私たちはクウキさんと同じ扱いでもおかしくないくらいだと思っています。個人的にね」


 脅迫してくる手口からして、正攻法じゃない。

 シガラキも彼女たちもはみ出し者なのかもしれない。

 地獄において、どういうのが正攻法なのかなんてわからないが。


「さっきの写真だが……三人を指名をして、いい戦いができたら消してくれるんだな」

「閻魔さまに誓って」

「……信じていいのかさっぱりわからない」

「じゃあ、お釈迦様に誓って?」

「鬼が信じていい対象なのか? それは……」

「ぎゃあぎゃあうるさいですね。あなたは信じるしかないのでは?」


 眩暈がしてきた。

 兄さんはこの窮地を乗り越えたのか。

 彼らとの戦いはもう明日に控えている。

 戦う前からこんな状況で、俺は果たして生き延びることができるのか?

 甚だ疑問だが……乗り越えなければ。

 強くなると決めて地獄に来たのだから。

 結果的にだろうが関係あるか。


「シガラキの名前はわかった。お姉さんたちの名前は?」

「雪女のユキでぇす」「女郎蜘蛛の……ミクモ。ふふ。明日からが楽しみ」


 雪女に女郎蜘蛛ね。

 道理で美しいわけだ。

 そして拘束がほどけないわけだ。

 己の住処、懐に男を絡め取ることで有名なのだから。


「ユキさんにミクモさんだな。覚えた……明日から、よろしく頼む」

「……ふうん」


 意味ありげに微笑むシガラキの視線を受けながら、俺はご飯を食べることに集中した。

 クリスマスにハルと会うんだ。

 何が来ようと乗り越えてみせるさ。


 ◆


 翌日の祭儀会場で地面に倒れ伏す俺を、シガラキは冷たい目で見下ろしていた。


「一瞬でケリついちゃいましたね……これじゃ写真は消せないなあ」


 その手に握る鉄の棍棒の威力を身をもって知った俺は、呟いた。


「――……くそ」


 このままじゃ、何日経とうと帰れないぞ……!




 つづく!

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