第三百一話
決戦の時だ。
「――悠長に構えておられんようじゃの! 最初から全開でいくぞ! 十兵衞!」
周囲に浮かぶ狐火を吸いこんで尻尾が消えた……大神狐モードのタマちゃんがいて。
「……ここは既に魔界。なれど見える月は綺麗なものだ……さて、いこうか」
夜空を見上げて自然体の十兵衞がいる。
二人の迫力に邪侍たちが怯む。けれどその背中を押すように黒い御珠が揺れる。
意を決して迫り来る邪侍たちを私の最強は二人して追い払う。切り倒す。
寄せつけない。
ならばと泥がじわじわと、ブドウカンのなれの果てに迫ってくる。
「あれに触れたらさすがにやばいぞ! 十兵衞、邪は任せた!」
「ふ……」
タマちゃんが吠える。狐火が泥を薙いでいく。
構わず突っ込んでくる邪侍たちの群れ。数え切れないほどの、群れ。
十兵衞は何も言わない。
ただ刀一振りを手に踊るように切り続ける。
舞い上がる飛沫は何か。切り裂かれた邪侍の口から白いモヤが出て空へと昇っていく。
役割分担がなされていた。
不気味な泥をなんとかするタマちゃんもすごいけど、圧倒されるのは十兵衞だ。
私は十兵衞の力の欠片もまともに使えない。
どんな女子になるのか、そればかりにとらわれて……忘れがちになる、侍としての強さ。
痛感する。
私はまだ、タマちゃんほど十兵衞と通じ合えていない。
構わない、と大きな背中が訴えてくる。
感じた不足はいずれ越えればいい、と。
力強い背中が教えてくれる。
泣きそうになった。お父さんとも、カナタとも違う。
特別な背中に違いなくて、泣きそうだ。
そんな私を叱るように、言うの。
「ハル……己の強さを見出せ。俺と歩むのは、それからでいい」
一瞬だけみせた横顔は笑っていた。
待ってくれていたんだ、ずっと。それに信じているんだ、私を。
「やれるな、ハル」
「信じるぞう!」
うん。ありがとう。
――……私も信じるよ。二人が信じてくれる私を。
いつかもっと信じ合えるようになるために、今を乗り越えよう。
私なりの輝きを見つけて、それから二人の背中に向けて、やっと走りだすんだ。
……いくよ!
「――……星を見たの。天使が放つ星を」
歌い出す。金髪先輩たちには申し訳ないけど、最初のノリはバラードで。
思い浮かべるのはね? ――……私の大好きな女の子。
◆
春灯に呼ばれた気がした。
肩を揺さぶられて目を見開く。
リョータの顔がすぐそばにあった。泣きそうな顔をしていたから、言葉に詰まる。
「ん……なに」
「キラリ! ……よかった、無事で。とはいっても、いつまでもちそうかわからないけど」
リョータが私を抱いていた。落ち着かなくて身体を起こす。
「くそ! くそ! くるな! くるなよ! くる――」
誰かの悲鳴が途中で止まった。視線を向けると、うすぼんやりと光るモニターに照らされて見えた。黒い泥が壁の隙間から侵食してくるんだ。
悲鳴を上げていた男子生徒を飲み込んで、氷の結晶に包み込んでしまった。
「ちいい! ぶったぎって助ける!」
「だめです、ギン! あれは霊子を己の支配下におくもの! 動かないで! せめてささやかな空間だけでも、守ります!」
佳村が叫んでる。だけどあちこちからしみ出てくる泥が私たちを狙っている。
「マドカ! どうにかなんねえのかよ!」
ギンって呼ばれた男の子が怒鳴る。
ブリッジにいたマシンガンは刀を掲げたまま、ずっと黙り込んでいた。
何をしてるんだ。何を。
「静かに。私の願いが届いていたら、きっと――……届く」
その言葉に黙る。みんなが。
「お願い、光……」
マシンガンが願う。何かを。それはなんだ。
そう思いながら天井を見上げた。春灯がのぼっていった穴は佳村によってなのか、塞がれていた。
けれど――……なぜだろう。
天井しかないはずなのに、そこに星が見えるのは。
「――……」
思わず手を伸ばす。
金色に煌めく星は、まるでアイツみたいだった。
きっとこんな絶望的な状況でも、アイツは折れずに立ち向かっているだろう。
なら……何か力になれないのか。
私は――……アタシは、力になりたい。
そう願った瞬間だった。
てのひらに浮かんでくる。
春灯と私の願い星が。
ふわっと浮かんで、星を目指して駆け上っていく。
壁の向こうを貫き通して、微かに穴が空いた。
まるで吸い寄せられるように流れて飛んでいった。
「春灯……そこにいるの? いるなら……ぶちかませ」
呟く。けれど答えはない。今は。
だけどなんでかな。感じるよ。アンタの気持ち。
歌ってんのかな。なら、どんどんテンションあげていってくれ。
こんなところで終わりにしたくない。アンタもそうだろ?
◆
タマちゃんと十兵衞の二人に守られながら、願うように歌う。
私の大好きな二人だけじゃない。泥にのまれてしまったみんなに届くように。
まずは――……キラリに届くように。
私なりにめいっぱい、金色に輝くんだ。
「心は曇り、だから願うの……いつか輝く私になりたい」
キラリ。天使キラリ。憧れの女の子。ずっとずっと夢見ていた女の子。だけど私にはなれない素敵をもってる女の子。
自信を持って。キラリはもう、星を……願いを掴んでる。
きっとその星ならなんでもできるよ。
「星の侍、だから届くの……あなたはもう、覚悟を掴んでる」
だから、輝け。
私が願うまでもなく、輝いちゃえ。
そう願った時だった。
地面から星が飛び出してきたの。それは私の胸に吸いこまれて弾けた。
お尻がむずむずする。なくなったはずの尻尾が、獣耳が生えてくる。
タマちゃんはそこにいるのに。御霊はすでに離してみせたのに。
確かに一本、私のお尻に尻尾が生えてきたの。
どんどん力が湧いてくる。それだけじゃない。身体中のいたるところから星があふれてきて、私の衣服を輝かせた。
大好きなブランドの……最近は箪笥に眠ってるゴスロリワンピ、マント。それだけじゃない。付け歯なしに犬歯が伸びる。
まるで昔夢見た堕天使で吸血鬼な……いつかの妄想が、形になったようだった。
属性てんこもりだ。今日はプラスして妖狐がつくんだから!
キラリが届けてくれたんだ。キラリの願う私を。なら、もっともっと貪欲に求める。
みんなの星を掴み取ってやる!
さあ、お次はマドカだ!
「光と共に、あなたはいるよ。深い愛と一緒に」
◆
天使キラリが星を放った。
だから確信した。私の願い通り、ハルは気づいてくれたんだ。
じゃなきゃ天使さんの心に届かない。彼女が動いたってことはつまり、ハルが気持ちを込めて行動し始めたってことだ。
あの二人の絆は傍から見ていて嫉妬する。
それ以上に特別になりたいと願う。
――……ううん。落ち着け。
いまはそれどころじゃない。
みんなが怖がっている。どんどん泥は迫ってきていて、間違いなく窮地にいる。
泥は破壊できず、圧倒的な質量で私たちを攻めてくる。
佳村さんの言葉を聞くまでもない。
『くそ……起爆剤がないと、霊子を放出し続けて膜を張るのが精一杯かな。並木はどう?』
『こっちもきついです! ミツハ先輩、メイ先輩は?』
『無事だけど、気を失ってる。なによりここでメイがぶっぱなしたら、次の手が打てない! とはいえじり貧だけどね!』
『くっ……私たちの霊子が夢見る力なら、これはまるで……絶望へと引きずり込む死の力。どうしたら!』
二人の刀鍛冶の先輩の話がそのまま説明に代わる。
絶望的なこの状況下。
それでも――……。
ねえ、光。
どうしてかな。
私はハルが私たちを導いてくれるって信じてるの。
お願い、力を感じたらすぐに教えて。
窮地に陥った時ほど、私たちは覚醒する。
夢見ずにはいられない私たちだからこそ、絶望に暮れそうな時ほど強く願うんだ。
負けたくない。
私たちの夢は、こんなところで終わらないって信じてる!
だから、お願い!
ハルの力を届けて!
「――……聞こえる」
岡島くんの呟きにどきっとした。
みんなで耳を澄ませる。
キラリが放った星の通り道から、微かに……ううん。確かに聞こえてくる。
「――背中を向けてしまった愛情に、向き合わずにはいられない」
ハルの歌声だ。
「光の侍。あなたの愛はね……みんなを心から理解する光」
私のことだと思った。
歌声に溢れて止まらない愛情を感じた瞬間、溢れてきた。
刀が光り輝く。
今こそ自分の力を手に入れる時だと思った。
どんどん暗闇に包まれていく。
けれど――……私の光はそんなものに負けたりしない。そうだよね?
『――当たり前だよ』
よし。
「みんな、凍っている場合じゃないよ? これからが正念場なんだ」
さあ……いくよ! 全員助け出して、抜け出してやる!
◆
溢れる力がおさまらず、尻尾が二本、三本と増えていく。
私のいつか見た美しさにタマちゃんの姿が重なっているんだ。
きっともう、とっくの昔に。
だから髪の毛だって気づけばもう金色に戻っていた。
それだけじゃない。
身体が軽い。きっと私だけじゃ作れない、十兵衞が鍛えてくれた身体に近づいている。まだまだ十兵衞には遠く及ばない……それでも積み重ねてきた力が戻ってくる。
二人が中に入っているのが当然の状態に戻っていくんだ。
いける。確信しかない。
「どんな暗闇に包まれようと――……私たちの星は光り輝くの」
願うように歌った瞬間、足下が歌った通りに輝いた。
そして星に乗ってみんなが飛び出てくるの。ブドウカンにいたみんなが。
もしかしたら凍らされたみんなさえいた。
地面に着地したマドカとキラリに挟まれる。マドカが刀を掲げた。
放たれる光を浴びて泥が嫌がるように遠のいていく。
けれどみんな、何も言わない。
ただ勝利を信じて疑わない笑顔で邪侍たちに挑んでいく。
それだけじゃないよ?
がつんと響き渡るサウンド。身体を震わせるリズム。
先輩たちが星に運ばれた楽器を手にしてかき鳴らすんだ。
一度は消えた獣耳が痛いくらいの爆音だった。
もう一瞬でロックに吠える勢いだ!
黒い御珠が震えてる。何か歌っているんだろうと思う。
関係あるか。
ここはもう、私のステージだ!
「一年の間、傷つき傷つけ合った……だからこそ手にした絆は、誰にも汚せない」
だからって、引っ込んでるつもりはないですよね? 二年の先輩たち!
◆
ユリアの霊子を糧にありったけの防壁を張ってはいるけど、正直いつまでもつかわからない。
シオリがせっせとユリア持参のお菓子を彼女の口に運んで、霊力の維持に努めているけど。
「コナちゃん。さあ、どうする?」
二本の刀を帯びて、今日の晩ご飯の予定を尋ねるような余裕の口ぶりで尋ねられて笑う。
「さて……どうしようかしら。緋迎くんは妹さん、お母さまと三人で泥に巻き込まれていった。きっと無事でしょうけど……霊力を奪われ続けてる。決め手に欠けるのよね」
だからといって、このままでいる趣味はない。
「ラビ。あなたの刀でどうにかならない? 特に一本はメイ先輩に並ぶ刀でしょ」
「コナちゃんの霊子を浴びたらどうにでもできるけど」
「はあ!?」
シオリが怒鳴った。私には寛容だけどラビには冷たいんだ。
ラビが私と付き合ってからは特にそう。
「……まあ、よした方がいいかな、と」
まあ今のシオリとラビの関係はデリケートだからな。仕方ない。
「私たち一度、親睦会でもした方がいいんじゃないかしら」
「絶対お断り」
「あはは」
シオリの言葉にラビが笑う。
苛々しているシオリを見ていると、なんだか昔の私を思い出すな。ラビがメイ先輩と付き合っていて、浜辺で花火をしてへこたれる前は、けっこう冷たく当たっていたっけ。
緋迎くんを好きで……それも今はもう、遠い昔の話みたいだ。
笑っちゃうな。
きっとなんとかなるって思う。
一度は緋迎くんと話せなくなるだろうと思ったし、ラビと絡むの絶対無理だとさえ思った。
けど……今も同じメンバーで生徒会をやっている。
だから、きっとなんとかなる。
それは今、この状況についても同じだ。
あの子はきっと抗っている。
私たちもそろそろ動きだすとするか。
のんきに考えていたら思いついたことがある。
「ユリア、泥のようにみえるけど周囲のこれは霊子の塊。となれば……食べられない? あなたのオロチで」
「……コナはたまにひどい無茶を言うね。私、これでも美食のつもりなんだけど」
思わず本気で? という顔をしたのは、ユリア以外の全員だった。
「その顔なに……本気だってば」
本人は大層不服そうに頬を膨らませている。
白銀の君のふくれ面はレアだ。
ユリアのファンは惜しいことをしたな。まあいい。
「お願い。今度、焼き肉の食べ放題おごるから」
「……いつもその手。まあいいけど」
ふう、と息を吐いたユリアが刀を掲げた。
「掴まっていて。いくよ――……」
みんなでユリアに抱きついた瞬間、泥に揉まれて歪んだマシンロボの残骸が弾けた。
ユリアが吐き出したオロチが周囲の霊子を食い尽くして、外へと放り出たのだ。
星空が見えた時にはかなりほっとした。
周囲の泥を八ツ股の頭で食い始めるオロチを見て安心してから、あの子を探して――すぐに見つけた。
柳生十兵衞と玉藻の前に守られたあの子は、九尾を生やして美しく強い姿のままで歌っていた。
こちらを見て、微笑みながら……歌っていた。
「やるじゃない」
笑っちゃった。
誇らしいけど……ハル。
マントをつけてあなた、ばかみたいで……かっこよすぎるわよ。
◆
オロチが出てきたよ。
周囲の泥を食べ始める。その勢いたるや、尋常じゃない。
さすがは国を揺るがす大災害の象徴。この程度の災害なんか逆に飲み込んじゃうんだ。
黒い御珠の振動が増した。
そりゃあそうだ。今度は一転して敵の窮地なんだから。
だからこそ、泥が姿を変えていく。
どんどん巨大に膨れ上がって、がしゃどくろになっちゃう。
私たちにはもうマシンロボがない。シオリ先輩が凍らせて、茨ちゃんと岡島くんが片っ端から殴って粉砕していく。
けど足りない。手が足りないんだ。
ああ、だからこそ。
「強い心を胸に抱いて――……どんな困難も乗り越えてきた。あなたたちこそ私たちの未来」
三年生。出てきてください。
頼もしい背中が見たいんです。
◆
警告音が鳴り続けている。
うるさくて目を開けた。
ミツハの顔が間近にあった。
私を抱き締めている。
おかしい。操縦席にいたはずだ。
なのになんで抱き締められてる?
周囲を見渡した。丸い空間の中にいる。戦闘機を無理矢理丸めて空間を作ったような、そんな無茶な空間に。
遅れて気づいた。
気絶する前、泥が戦闘機の変形したロボットに手を伸ばして私たちを捉えてきた。
だからミツハが守ってくれたんだろう。
ほんと、下手な男よりもよっぽど頼りになる。
見た目は可愛い女子なのに。
そんなんだから、夢見た後輩が告って絶望するんだ。
「私に勝てたらいいよ」
そう言ってぶちのめすからね。
幻想をぶちこわす格闘……ほんと、あり得ないくらい強いよ。
だからこそ、ミツハに負けないためにも必死で強くなろうと足掻いてきた。
ミツハは私のことをなんでも知っている。
誰かの干渉の届かないところにい続ける自由なサユを含め、ルルコと私の三人の刀鍛冶。三人と心を繋いだ唯一の女子。
もしミツハが男子だったら、先輩とかラビよりミツハに惚れていたかもしれない。
ルルコの気持ちも変わっていたかも……なんてね。
冗談ばかり考えている場合じゃない。
「目が覚めた。状況は?」
「どうしたいか次第かな」
ミツハの言葉はいつだって頼もしい。
「先輩やルルコたちは?」
「私の仲間が一緒なんだよ? 遅れを取るはずないだろ」
ふっと微笑むその笑い方が男前すぎる。
正直に言えば……ミツハにはかなり影響を受けてる。
侍候補生と刀鍛冶のツートップだからね。
どうしても刺激し合っちゃうよ。それはそうと。
「後輩たちは」
「霊子を感じる。いままさに戦ってる真っ最中。どうしたい? マシンロボで出る? ならちょっと霊子をもらうけど」
「できるの?」
「当然でしょ」
痺れるなあ。
「でも、そうしなかった。私の霊子、温存してくれたんでしょ? なら……ミツハ。お願い、私を外に出して」
「待ってたよ……じゃあいつもの充電、よろしく」
いい笑顔を見せる。ため息を吐いた。
「……どうしていつも胸にキスすんの?」
「趣味」
「……どうかと思うよ、マジで。ルルコたちにもしてんの?」
「してるよ、ほっぺたに。胸はメイだけ」
「なぜに私だけ胸」
「さあ、なんででしょう……それより早くして。侍候補生とは力の出し方が違うの。ほら。はよう」
くらくらするなあ、ほんと。
渋々ジャケットを脱いで、ボタンを外す。
胸に顔を埋めて吸い付いてくる。
「やっぱり、ちちいいなあ」
「意味不明」
離れた頭を押しのけてブラウスのボタンを閉じる私の赤面顔を見て、満足げにミツハが笑う。
「よし、やる気出た」
「ちちで出るやる気とかどうなんだ」
「ないちちご苦労」
「おいこらてめえ」
かちんと来た私ににこっと笑って、それからミツハが拳を振り上げた。
天井に当たった瞬間に唱える。
「あらゆる霊子は私のもの! 従え!」
まるでミツハに怯えるように、天井からその先にいたるまで、空に至る道を塞ぐ霊子が左右に分かれた。
モーゼか。アンタは。
「それ!」
まるで飛ぶような勢いで視界があがっていく。ミツハの足裏、床が凄い勢いで上がっていくんだ。そうして外に吐き出されてすぐ、ミツハが怒鳴る。
「戦の時だ! 自慢の仲間を連れ出せ、てめえら今が頑張り時だぞ!」
瞬間、眼下の黒い泥にぽこぽこと穴が空いていく。残念な例えでいくなら、それはまるで潮干狩りで見る貝の呼吸する穴のようだった。そこから私の愛する仲間たちが飛び出てきた。先輩もいる。
「メイ。準備するよ!」
「うん!」
ミツハに頷いて、地面に下りる。
ハルちゃんが歌っている。
一年が、二年が戦っている。
がしゃどくろを見たルルコとサユが、綺羅が、ユウヤが……私の仲間たちが参戦する。
押し返せるさ。この程度なら。
だから……作ろう。
私の太陽を。
◆
メイ先輩たちが出てきた。戦線が広がって、押し返し始める。
けれど壊しても壊してもがしゃどくろが現われる。
みんなの霊子がもたない。
ただでさえマシンロボをやった後なんだ。
三年生の先輩たちは戦力を温存していて、さすがの戦上手感なんだけど。
だからといって、がしゃどくろがすごい勢いで増えていく現状で無理はできない。
それでもたった一人で化け物と戦う十兵衞は本当に化け物じみていて、私の信じる最強を証明し続けてくれている。負けじとタマちゃんも他のがしゃどくろに向かっているけど……十兵衞のそれは別格だった。
とはいえ、一人にできることは限界がある。
どうにかできないのかな。
みんなに霊子を届けられないかな。
大神狐モードになれたら……きっとできる。
タマちゃんのようになれたら。きっと。
『きみの信じる玉藻の前はもう、大神狐なんやろ?』
ユウジンくんの言葉が浮かんできた。
そういえば面白いことがあったら呼んでって言われていたっけ。
ついつい呼びそびれちゃった。ユウジンくんみたいに、仲間を呼び出す技が使えたら話は別なんだろうけどね。
いまは歌うので手一杯だ。
『言うたら空孤みたいなものやんな?』
そうだね。タマちゃんはもう、すごいお狐さまだ。
そのタマちゃんが重なる今の私は……九尾のまま。
『なんできみは空狐のずいぶん格下の妖狐なん? 大神狐になれるならええやん』
ほんとその通りだ。
自分を信じられない私じゃなれない……特別な状態。
でも、どうかな?
『自分を信じた時、蓋は開くんだろ?』
キラリ……うん。
『アンタが信じるみんなを信じて、ついでに自分を信じろ』
バトルロイヤルの時の話を思い出しながら、みんなを見る。
どんどん劣勢にひっくり返されていく。窮地に再び陥ってきているのに、その目は勝つ気満々のみんなを。
信じる。信じずにはいられない。
仲間を信じるのはもう、私にとっては当たり前のこと。
十兵衞を信じて、タマちゃんを信じる。
二人の力を返したはずの私に宿ってる。
二人の力が、ちゃんと。信じる分だけ、ちゃんと。
なら……やってみよう。
信じてみる。
私のことを、私は信じる。
誰より私が信じなきゃ、どうするんだ! 私の最初の味方は、私自身だろ!
「――……願う金色はきっと、最初は意地でできていた」
唱えるように歌う。
「自分だけの光を探して、自分だけの星と信じて意地を張ってきた」
中学の頃の私。
「それはいつしか誰かが一緒に夢見る星になり」
ツバキちゃん……。
「誰かの傷を癒やす光になっていく」
カナタ。シュウさん。マドカ……キラリ。
「力は足りず、未だ最強には及ばない」
十兵衞……。
「けれど美しさの意味を知り、追い掛け始めた」
タマちゃん。大神狐となったあなたの背中を、妖狐になって追い掛ける。
「これから始まっていく――……すべてが」
みんなの隣に立つために。
私の憧れる女子になって。
折れずにいられるくらい、もっともっと強くなるために。
「手を伸ばそう」
尻尾が弾けていく。身体中に満ちていく。思い、夢……力。
「きっと掴めると信じて折れない心が金色」
放つの。いつかのように、力を。だけど決して脱力しない。
むしろどんどん溢れてくる。
「夢を掴むまで諦めないあなたが金色」
みんなに届いて、刀がどんどん輝きを増していく。
泥が払われていく。がしゃどくろが倒されていく。
金色を浴びた邪が消え去っていく。吐き出されたモヤが空へとのぼっていくの。
「さあ――……輝いて」
拳を胸に当てて、もう片手で空に手を伸ばし続ける。
いつしか尻尾は消えて、けれど髪は金色のまま。獣耳に響く音は激しいまま。
タマちゃんと同じように大神狐になって、私は歌う。
「助けに来て……私の王子さま。親の熱を求める少女に救いの手を」
カナタ……どこかにサクラさんの霊体があるの。
お願い、助けに来て!
つづく!




