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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第一章 入学! 士道誠心学院高等部!

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第三話

 



 ああ、まずい。ピンチですよ、ピンチ。紛れもなくピンチです!


「……ど、どうも。おはようございまーす、なんちゃって」


 愛想笑いを浮かべながら、黒板に書いてあった自分の席に腰掛けます。

 改めて見回してみるまでもないよ。

 このクラスには男子しかいないの。

 よくある少女マンガやゲームの定番通りなら、ここはあの刀を差した四人と一緒になるところ。

 しかしここには彼らの一人もいなかったのです。

 顔見知りが一人もいないここは間違いなくアウェーでした!

 よかったことが一つあります。

 一年生代表に選ばれた四人と同じクラスだったら、他の女子から嫌われそうだってこと。

 いい気になるんじゃねえよ、という声が聞こえるようです。

 最悪なことが一つあります。

 男だらけのクラスに女子一人の時点で、やっぱり他の女子から嫌われそうだってこと。

 ハーレム気取りかよ、むかつくんですけど、という声が聞こえるようです。

 ああもう、悲しいけど結果は同じだ。

 トイレに行くのがひたすら恐怖。

 どうなる、私の青春! ……なるようにしかならないよねえ。とほほ。

 何度睨んでも黒板に書いてある名前に変化は起きるはずもないのです。

 どうせなら何かの間違いであってほしいなあ。


「何度見ても、消したりしない限り黒板の名前に変化は起きないぞ」


 隣から呆れた声が聞こえたの。


「え――……あ」


 顔を向けるとメガネの美形が私を半目で見ていたよ。

 やれやれ、と言いたげな顔に滲み出る「こいつ大丈夫か」オーラ、ハンパなし。

 そんな風に思われてしまうくらい、睨みすぎて……ましたね。ました。間違いなし。


「ご、ごめん。女子一人という事実を受け止めるのに必死で」

「入試の結果」

「え?」

「御珠とやらの選定と、純粋なテスト結果によるクラス分け」

「え? え?」


 そんなにいきなり言われても受け止められないと言いますかっ。


「テストの結果、よかったんじゃない? だから君はここにいるんじゃないかな」

「いや、あの……恐れながら、頭はよくないと申しますか」


 言いながらも、恐れながらのあたりで吹き出されてしまった。


「あ、あれ? なにか変なこと言った?」

「恐れながらって今時聞かないよな、と。少し気が紛れたよ」

「……はあ」


 待って。なぜこのクラスに選ばれたのかが不明なんですが。

 そんな思いが露骨に顔に出てしまったみたい。


「このクラスにいるのは是が非でも刀を手にしたいがために勉強を頑張りすぎたある意味バカな男たちか……或いは」

「或いは?」

「案外、刀を手にする可能性に最も近い存在なのかもしれない」

「刀って、あの……色々お得になるっていう?」


 どう言おうか悩んで言葉を選んだつもりだったのに。


「はは。君が言うとセールの特売品みたいな扱いに聞こえる」


 無邪気に笑われてしまいました。


「まあ、どっちみち僕は刀になんて興味がないけど」


 その笑顔が曇るから、どうしたのかなって思わず気になって……気がついたら「どうして?」って尋ねてた。

 すると彼の笑顔は消えて、


「結城シロだ。学年主席でありながら、他の高校ならあるべき入学生の挨拶はなし。その瞬間を奪った刀を、どちらかといえば……憎んでいる。あいつを選んで、僕にはない力だから」


 冷たい顔になってしまいました。

 情緒不安定なのかな? 可哀想に……。

 でもそうだよね。学年主席っていうのがもし本当なら、特別扱いされそうだし。

 特に中学生くらいの男の子ってそういうの好きそうなイメージあるし、高校生でも変わらないのかも。


「や、やめろ。僕をそんな目で見るな」

「なにが?」

「そ、その! 可哀想なものを見るような目だ! 別に同情して欲しくて言ったわけじゃないからな!」


 なんだか必死になっている。かわいい……(ちょろきゅん)


「だ、だいたいなんだ君は! 僕は一応名乗ったんだから、君の名前も教えてくれたっていいだろう!」


 てんぱっている……やばい。かわいい。


青澄春灯(あおすみはるひ)です。ハルヒでも青澄でも好きに呼んでください」

「しょ、初対面の女子相手に名前呼び出来るわけがないだろう!」


 ほっぺたも赤い……よく見れば肌が白くて、きめ細かい。

 すべすべな肌。

 改めてみると、やっぱり美形だ。

 あの四人もそうだったけど、彼も細面で。

 垂れ目がちで、目が大きくて……ちゃんと真っ直ぐ見ると、実は可愛い感じ。

 それを隠すつもりなのか、髪の毛がつんつん無造作にセットされている。

 決して長くないから細く華奢に見える首筋がおいしそうで――

 はっ、待て。待って私。いけない。

 中学時代の黒歴史が浮かんできてしまう。

 だめだ、それはだめ。


「くれいじーなあれはだめ。エンジェぅは封印したの。落ち着け、私」

「……あの?」

「ああでも、首筋……じゅるっ」


 青春とか女子に嫌われるとか、そういう次元を遥かに超えた闇の高みに届いてしまう。

 そうとわかっていても、言いたくなる。血を吸うわよ!

 ……すみません、こじらせているだけなんです。


「な、なんだ、そのヨダレは」

「い、いえ。十四歳の頃にかかった病がぶり返しそうだっただけで」

「……何を言っているんだ、君は」


 不審げな顔をされてしまいました。ですよね。私も私を見て引いてしまうでしょう。


「しょうがないやつだな……あ、青澄くん」


 なんだか頑張って背伸びして呼んでくれたみたい。

 正直かなりくすぐったいので、


「シロくんはなんか、放っておけない感じがするね」

「な!?」


 冗談で返したら顔を真っ赤にされてしまいました。

 フォローしようかどうしようか考えていたら、妙にガタイのいい獅子みたいな髪型と顔つきの先生が入ってきたの。


「席につけ。これは厳命である」

「はっ」


 男の子達が一斉に声を揃えて返事するので、


「は、はい」


 出遅れました。っていうかなにこれ。

 お父さん、お母さん。私はどうやら凄いところに来てしまったみたいです。

 隣を見ると、シロくんは真っ赤な顔をしたまま背筋をただして先生を見ていたの。

 私にはわからない、男の子スイッチみたいなのがあるのかな。

 みんな期待を込めて先生を見ているの。

 私もついてかなきゃいけないっぽい。

 とりあえず、クラス変えてなんてわがまま通るはずもなし。

 なら……とやかく言われてもへこたれず、認めてもらえるように自分磨きを頑張ろう。

 よし、方針決定! 悩むより行動だ! 頑張れ私!


「初日とはいえ、少ないがカリキュラムを行う。このクラスは我による剣道の特訓だ。言うまでもなく、我のクラスは刀なしの中では指折りの猛者が集まっている。諸君の健闘を期待する」

「「「「「はい!」」」」」


 どうしよう。早くもピンチです。


「し、シロくん。私、運動苦手なんだけど、大丈夫かな」


 恐る恐る隣に声をかけたら、


「だ、だだだ、だいじょうぶさ。なんてことはない、高校生がやる、安全性に配慮した授業にき、きき、決まっている」


 脂汗を流していらっしゃるー!

 どうなる私! どうしたのシロくん!




 つづく!

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