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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
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第二千九百七十話

 



 やまほどフィルムを用意して、それを入れるバッグを用意。

 フィルムも黒いのカメラも、ぜんぶをバッグに入れてから、すこし悩む。悩んだけど、ビルを撮影したフィルムも入れておく。


「トモ、お願い」

「あたしが!? 術で建物を戻して人を救えって!?」

「ほかにいないんだよ。あいつは私たちを狙ってる。手分けして引きつけるしかないと思う」

「手遅れじゃねえか!? あんな怪物に踏みつぶされたらさ!」


 カゲくんの怒声に大声で言い返す。


「あんなのが現世のもののはずがないんだ! だったらまだ、救えるかもしれないでしょ!」


 そう。

 私たちのマシンロボは虚像。ガンダムの立体像、パトレイバーのイングラムの立体像が作られていて、ガンダムは既に展示されて久しい。なんなら稼働するともいうけど、全身が動くわけじゃない。そんなの作れたら立派な発明だ。まだ、そこまでじゃない。そんな技術はない。

 クローンだって隔離世の技術を利用しての、でっちあげなんだ。

 あの巨人だって、なんらかの術でそう見せかけているにちがいない。


「あいつが暴れまわるのは変わらねえだろうが!」


 先を行く車たちが混乱しながらも加速を続けるなか、カゲくんは周囲を見渡していた。

 どうやって引き返すのかを考えているのだ。

 首都高は片側二車線、中央分離帯には壁やブロック塀などが設置されている。高速道路は基本、そうだ。万が一にも反対車線に進入されないようになっている。一般道より速度が出るぶん、事故が起きたときに車両が飛び込まないようになっているともいえる。乗り越えられるようになってないから、かなり無茶をしなきゃいけない。


「逃げても、追いかけられる間にそこら中、めちゃくちゃだぞ!」

「だから私が出るんだよ!」

「は!?」

「カゲくんの分も置いてくから!」


 もうワンセットを金色で出して、バッグを持つ。置き場所がない。


「いま渡してくれ!」


 カゲくんが手を伸ばしたから、手渡そうとして、考え直す。紐の部分だけ霊子に散らしてから、金色を展開。身体を目いっぱい伸ばしてバッグをカゲくんに近づけた。そのうえで金色をカゲくんの身体にまとわりつくように展開して、紐に化かす。これなら、手渡すよりもずっといい。


「私が行く! トモとカゲくんは修復をお願い! マシンロボへの連絡も!」


 そう伝えて飛ぶ。金色雲を目いっぱい出して、浮かんでいく。

 考えはない。カゲくんと逃げることも考えた。けど、カゲくんの言うとおりだ。

 あいつは動く。

 実際、巨人はこちらを睥睨している。あいつだけが問題じゃない。空はカゲくんを引きずり出す飛行機が飛んでいるにちがいなく、電車はどんな力を持っているのかがわからない。

 連中がいつ、なにをするのかわからない。

 それなら、できるかぎりのことをするしかない。

 いろんなことが浮かぶ。

 あいつを隔離世に送れたら。もっと黒いのの力をうまく使えたら。いったい、あいつの着地で何人が潰されたのか。ダメだ。集中しろ。

 いつかやったことを、もう一度やるんだ。

 やまほどの金色を出して、身体中にまとわせる。巨大な白面金毛九尾に化けてみせる。足場を金色雲で補って、巨人をにらみつける。

 きちんと静止した状態で鋼の巨人を見る。

 お父さんが大好きな勇者シリーズ。ガオガイガーくらいは一緒に見たかな。毎回クライマックスな印象が残っている。毎シリーズ、勇者たちが出てくる。宇宙からくる考えるロボット、そして地球の少年のペアというのが基本で、ガオガイガーはちょっと変則的って言ってた。宇宙から来たライオンと設計図を基にして、元宇宙飛行士だったおじさ、もとい、お兄さんがサイボーグになり、勇者ロボになる。で、合体するんだ。

 どのシリーズの勇者も合体する。こどもたち向けのアニメで、おもちゃ軸だから、こどもの好きな飛行機と電車とね。消防車やパトカーも出てくる。

 天国修行で見る未来のこども向けアニメだと、バウパトがまさにそんな感じだ。ひとりにつき一台、専用の乗り物があるんだよね。

 で、ギミックありき。

 勇者たちならギミックありきのうえに合体する。

 勇ましくてすっきりした顔つきをしてるんだ。お父さんのおもちゃコレクションに、まさに合体するおもちゃがあった。見せてもらったから覚えている。

 だけど巨人の顔つきは勇者たちとはまるでちがう。二本の角を額から生やした面のような顔立ちだ。そう。表情がある。眉間に強いしわが刻まれていて、眼窩の上の骨がぐっと前に突き出ているように盛り上がっていた。強くにらみつけるように細められた瞳は微動だにせず、黒目は光を吸い込んでいるようだった。口角はあがっていて、大きく口を開けているのだけど、突き出た歯は不揃いながらにすべて、猛獣のように先端が尖っていた。それに顎にしわが寄っていて、笑っているというよりは、憤怒や憎悪、あるいは哀切を思わせるような表情だ。

 般若を連想したけど、ただ、能面じゃない。呼吸している。より一層、眉間のしわが寄っていく。頬肉が強張り、ふ、と。音を発した。ロボットの顔面なのに、こいつはたぶんしゃべるんだ。

 おもむろに巨人が両手を掲げた。私と巨人の間、ちょうど中心を軸に飛行機も列車も旋回を始める。

 巨人の足の間に挟まれた高速道、そしてその下の一般道からけたたましい音が聞こえる。クラクションも。怒号も。事故が起きるし、騒ぎにもなる。

 あいつは気にしない。

 掲げた両手を前に、つまり私に向けて突き出した。親指と人差し指の先を合わせて、三角形を作る。

 巨人が腰をわずかに落として膝を曲げた。背中を丸めてすこしして、大きくのけぞる。なにかをする気だ。

 急いで金色をやまほど出して、狐火の形で固定させる。あわてて出せたのは九つまで。とても小さな九つまで。

 奴からうぷ、お、おぅ、とうめく声がして数秒後、いきなり身体を丸めた。そして開いた口から血を吐き出した。尖らせた口から飛び出た鮮血は三角形の中を通り抜けて、おびただしい赤黒いなにかに変わって、ぶちまけられていく。

 私には届かない。ぶつけるつもりがないらしい。

 いぶかしみながらうなる私の眼前で血を吐き終えた巨人がすっと立ち上がった。スカイツリーにも届きそうな巨体がぐっと縮んでいた。東京タワーくらいのサイズにまで。吐き出した血が、奴の身体を支える術の成分なのか。

 通行止めになってないせいか、まだ一般道を車が走っている。のぼりもくだりも、怖がって減速したり、突然のことに急ハンドルを切ったりして多重衝突事故が起きていて、自然と車が詰まってくるんだけど、一般道は首都高が天井のように覆いになっているせいか、まだ走れているようだ。だけど、それも吐き出されてから様子が変わる。

 悲鳴がそこかしこであがる。ビルの壁面さえ、吐瀉物で汚れていた。目を凝らしてみると、それは内臓だった。腸、片方の肺、胃や肝臓など、様々な臓器が散らばっている。とりわけ腸はよく目立った。血と内臓に汚れた箇所が、赤い泡を吹きだしながら肉を生やしていく。

 手や足が、頭が出てきた。人だ。まるでクローン製造の現場をお披露目するかのように、人が出てきた。それだけじゃない。肉の塊が生えてくる。いつかの騒動で関東中を脅かした、あの肉の卵が生えてきたのだ。

 巨人が再び身体を丸める。もう一度、吐き出すつもりなのかもしれない。

 ぞっとして、急いで駆け出す。止めなきゃいけない。どうやって。

 口を開いて、吠えた。音に乗せて金色狐火ひとつを飛ばす。三角形を通り抜けて、巨人の口を塞ぐマスクに化かす。びたんと張りつくマスクを煩わしそうに首を振る。そして顔をあげた。私を睨みつけてくる。

 これなら止められるか。

 そんなはずがない。

 白いマスクが徐々に真っ赤に染まっていく。手や頭がマスクの表面から生えてきて、近くの繊維を掴んではちぎって、口に運んでいくのだ。食べている。私の化かしたマスクを。やがて生やした身体が支えきれなくなると、ぼたぼたとちぎれて地面に落ちていく。

 そして三度、吐き出すために身体を丸め直す。

 諦めずに吠えた。金色狐火をみっつ飛ばす。今度はマスクじゃなくて、あいつの口を塞げるくらいの巨大なテープにしてみせた。変わらない。あいつは再び顔をあげて、私を睨みつけてくる。

 だけど今度のテープはマスクとちがう。防水テープだ。血をしみ込ませることはできない。これなら同じ手で破れないのでは? そう思ってみていると、巨人は手を外して、普通に口からテープを剥がしてしまった。


「うううぅ!」


 くそ!

 その手があったか! 文字通りの意味で!

 やってる場合じゃない。剥がしたテープをぽいっと無造作に放り捨てる。東京タワーサイズの巨人の口を塞ぐためのテープだ。急いで化け術を解除して、金色に散らした。

 苛立ちも焦りもなにも見せることなく、奴は再び両手で三角を作る。

 動じないやつ!


「うるるるるる」


 喉を鳴らしながらも、次の策を練る。

 巨人が再びのけぞってから、思いきり前かがみになった。即座に吠えて、五つの金色狐火を飛ばす。

 あいつの三角を通る放物線をそのまま閉じ込めるように、巨大なビニール袋に化かす。一枚じゃ破れそう。二枚でもきついかもしれない。だったら三枚重ねじゃい!

 ぼたぼたぼたと袋のなかに吐瀉物が入る。


「きゅう!」


 思いきり鳴きながら、袋に化かした術を操り、持ち手を縛って封をした。

 私のそばまで引き寄せる。中を金色で満たしながら、九尾の中の私は理華ちゃんの指輪をはめて因果の術を使い、吐瀉物を消した。それから袋そのものを消す。

 あいつはいまやそこらのビルと同じ高さにまで縮んだ。

 両手を下ろして、私がなにをしたのかを探るように顎を引き、じろじろと眺めてくる。

 これで終わりだとは思わない。

 トモやカゲくんが行動している。きっと対処してくれると信じるほかない。私はいまはまだ、奴に集中するしかない。

 マシンロボが来るまで。私が撮影した写真が現像し終わり、トモが術を使うまで。


「うるるるるるる」


 喉を鳴らしながら身構える。

 小さくなったからって、とうとう姿を出した巨人が諦めるはずもない。

 それに具体的な動きを見せない電車や飛行機が気になる。

 まだ手の内を見せていない。

 こんなのは前哨戦に過ぎないはずだ。

 めいっぱいの金色を出して、巨大狐火を増やす。

 すぐにでもクローンや卵を処理したいけど、その余裕がない。

 敵の狙いはなんだ。

 いったいなにがしたいんだ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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