表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2907/2929

第二千九百七話

 



 みんながあれこれ準備をする間、私にできることといったら?

 特になぁし!

 小楠ちゃん先輩たちが集まってきて、おんなじ説明をするだけじゃなくて金色で作る立体映像で今日おきたことを再現してみせた。質問を受けて、ちゃんと答えた。できうるかぎり。わかる範囲で。

 関心の対象は人によって様々で、なににどういう関心を持つかは人による。なににどういう関心を持たないかも、人による。とことん、人による。

 意識的にも、無意識的にも私たちは関心の対象を選んでいるし? 個別に主観と領域があると言える。

 そこに先入観や差別も混じる。もちろんある。だれにでもね。


「なるほどね?」


 腕を組んで小楠ちゃん先輩が唸る。

 豊かな焦げ茶色の尻尾を緩やかに左右に振って、首を傾げる。私の作りあげた立体映像をじっと睨みつけている。再現したのは地下鉄と、ネズミ・ヒゲのおじさんふたり。そしてお地蔵さんまみれの電車。あとは糸さん! あの秋葉原の部屋にいた、糸さんにうり二つの人たち。十数名。

 私が見ていたのなら、ここには理華ちゃんに暴言を吐いた男も足していたところだ。

 予告では、今日と、明日。そして、問題の明後日。三日目になにが起きるのか、それとも、三日が過ぎてからなにかが起きるのか。具体的にわからないから、明日なのかもしれないし、明後日なのかもしれない。さあ、どっちだ?

 だいたい、だれがなにと繋がっていて、だれがなにをしようとしているのか。

 さっぱりわからない。

 千葉での一件だって、私は立体映像にしてみせている。街を出ていくだけの人形たち。


「警察に任せるのが筋じゃないの?」

「どれも隔離世絡みだから、頼れるとしたら侍隊じゃない?」

「侍隊に捜査権なんてないんじゃないの?」

「こういうときこそ忍びの出番、みたいに頼めねえの?」


 生徒会メンバーを主軸に集まる三年生や、理華ちゃんを筆頭に集まった一年生の有志からも声があがる。みんな思いつくことは、だいたい同じ。

 学生の対応範囲も、対応能力も、どちらも明らかに超えている状況だ。

 でも、じゃあ、みんなに頼ってはいおしまいともならない。


「ひとまずルルコ先輩たちも巻き込まねえ?」

「呼んできたぞ」


 ユウリ先輩の発言に、姿を見かけなかったカナタが顔を覗かせた。そして「やっほー」とルルコ先輩たちが顔を覗かせる。何人かが圧倒的なビジュアルに撃ち抜かれていく。卒業して半年ぶりに見る人もいるし、一年生に至っては初めて見る子もいるけど、キラリとは異なる圧倒的美人ぶりは健在である。

 愛生先輩や光葉先輩たちもいる。

 先輩たちを集めて、再び説明する。そこで先輩たちがやはりさっきあがった「警察では」「忍びとかさ」という案が出てきてね? しばらくしてから、やはり姿を見かけなかったラビ先輩が先生たちを連れてきた。

 何度やるねん! この流れ!

 そう思いはしたけど、ここはぐっと堪えて説明したら先生たちも「警察」「忍び」「教団」と言いだすなか、ワトソンくんや瑠衣くんが「連絡つきました」といって、それぞれの顔役と連絡を繋いでくれた。カナタもカナタで、シュウさんとやっと通話できたみたい。だから、やっぱり、最初から説明することになった。

 もう驚かないぞ! 次があっても! だけど、できればごめんこうむりたいよ!

 そう願っていたのに、最後まで話し終えたところで私のスマホにミコさんからの着信が入った。ちょうど学院のそばに来ているから、顔を出してくれるという。程なく、ミコさんを迎えいれて、また最初から話し始めることになった。

 心の中とはいえ「ああああああああ!」と叫んだ私を許してほしい。声に出さなかった自分を褒めちぎりたいまである。

 この段取りの悪さからしても、私たちにはちゃんとした形の組織だった動きが必要だ。

 ひとしきり説明すると、ミコさんが「糸。糸ね。そう名乗ったわけ」と呟いた。私のそばを指差すように人差し指を伸ばして、軽く前後に振る。そして糸さんが言っていたように「あの話し出したら止まらない子がねえ」と面倒そうに呟く。


「この子には既にメッセージで伝えたけど、彼女はたしかに私が知っている。保護していると言える。秋葉原で。私の身内を何人か配置してね。そして、彼女が言ったように、保護している子は他にもいる」


 ミコさん、あまりにも手広く活動しすぎでは?

 だから手が足りてないのでは。

 そんなことを考えた私をミコさんが一瞥した。彼女には周囲の人の考えが読み取れるのだ。


「仕事と北斗、その他情勢を始め、まあなにかと忙しくてね」


 肩の力を抜くように、そう呟いてから彼女は語ってくれた。

 糸さんが遭遇した事件のこと。ミコさんが把握している彼女の能力。それだけじゃない。糸さんが秘宝を使って初めて製造した人形のこと。それがどれほどの奇跡か、ということも。だけど、まさに奇跡を実現したその日に彼女は誘拐された。幸いにして彼女の術が彼女の魂を人形と繋いでいたから、事件についてミコさんに相談することができた。

 隔離世絡みの関係者で、御霊を宿した一部の人が捕まる。御霊を宿さないのに獣憑きだったり、妖怪のような身体で過ごしている人も捕まっていた。ドがつく僻地の村で。ひっそりと。

 ミコさんは長い間、それらの事件を追っていた。本当のことをいえば、赤髪の狼少女たちのクローン製造所を見つけたのも、その事件の調査の一環だったという。

 まだ隠してたことがあったのか、と内心で驚く。けど、私たちに打ち明けられることか? とも思う。いまの時点で、既に抱えきれずにいる私たちだ。実はもっとたくさんの事件に絡んでいる大ごとなのかもしれないなんて打ち明けられても、受けとめられたかどうか。


「あ、じゃあ。軽井沢の施設を紹介してくれたのって?」

「前振りね」


 カゲくんが問いかけると、ミコさんはさらりと言ってのけた。

 ちがった。すべてをいきなり伝えるまではしなくても、情報を小出しにはしてたのか。

 わからなかったー! 説明してもらえないとわからないけれどもー!


『通報はしてもらえているのかな?』

「もちろん。もっとも、あの子が高校生に頼るくらいだから、進展があったかどうかは、ねえ?」

『やぶ蛇だったかな?』


 ツッコミ代わりに尋ねたシュウさんだが、ミコさんの鋭い返しに撃退されている。

 曖昧に笑ってお茶を濁す間に、ミコさんが話を再開した。

 ミコさんと仲間たちの力をもってしても、糸さんを誘拐した連中がどこのだれかはわからずじまい。私の考える製造開発者たちについても、かなり行きづまっている。

 カゲくんたちが見つけたプロテインマッチョ鬼、いまではシオリ先輩コピー体こそ重要な情報源となった。だから、彼女の姿を私たちは見かけなかったのだ。CSKDとクローンを繋ぐ、重要な情報としてミコさんや教団などは協力していろいろと調べている。なんと現在進行形である。

 成分分析から、流通経路。そのあたりは、シオリ先輩コピー体になってから、一度、情報共有が行われた。薄らと記憶に残っている。それより重要なのは、クローン体といかに、なにが、どのように一致しているかどうか。これは、この次元に残ったふたりの狼少女たちが頼りになった。トウヤとコバトちゃんと一緒に中等部に通っている、あのふたりである。

 結論から言えばクローンを構成する物質とかなりの比率で一致をみているそうだ。

 ようやく、そこまでわかった。それだけじゃない。同じ物質が流通していないかどうか調査をして、見つけた。特定できた。いまはまさに特定した経路や人、業者の動きなどを細かく探っている最中だという。

 なぜ時間をかけているのかといえば、理華ちゃんたちが見つけた施設が爆破されたからだ。平塚さんを見つけた佐藤さんとあねらぎさんが見つけたCSKDの保養所が空っぽになっていたからだ。なんなら爆破時には警察が出てきて、後始末をしたというのだから。

 だれがどこまで信用できるのか、わからない。いまこの場に居るか、身内として繋がったメンバーは別として。そう明言するくらいには、ミコさんは既に信用できるかどうかのチェックを済ませているのだ。

 わーお。

 ミコさんたちに、新たな体勢を構築して協力するゆとりはない。シュウさんたちもそう。忍びは忍びで身内での細かな規範や手段などが共有されているメンバーでこそ動ける集まりだし、教団もそこは変わらないみたいだ。

 だから「協力したいけど、提供できるものは現状で活用していない余力しかない」という。それも、それぞれのチームの現状維持に必要な余力から差し引いた、ほんとのほんとに余剰部分だけ。それって、もう、あるのかないのかわからないくらい、微々たるものだそう。

 みんな、ぎりぎりのかつかつでやっている。

 求められていることはなにか。

 必要と思うことを、あなたたちなりにやるしかない、ということ。

 受け入れがたいなあ。

 だれもやったことがない。だから当然、やれた試しもない。

 新しいことを発明するみたいなもんだよねえ。

 きっと探せば類似の捜査や調査があるんだろうけど、生憎と、先人の知恵や体験に接続することが私たちにはできない。できそうにもない。過去の隔離世技術の書籍などに接続できないのと同じで、繋がりがないのなら? 意味を成さない。

 繋がれるとも限らないのが、つらいところだ。


『そろそろいいかな? では、こちらの情報を提供しよう』


 橋本さんが忍びの名代として話を引き継ぐ。

 社長たちがクローンとして政治家を殺害した。であればクローンと政治家の繋がりはなにかを彼らは独自に探っていた。ここで橋本さんがシュウさんに「本来なら公安がしていそうなお仕事ですが」と、ちくりと刺す。

 裏金、収賄、その他あれやれこれや。出てくる出てくる。いろんな醜聞が。韓国に本拠地を構え、世界中で活動するカルト教団との関わりさえも出てくる。なのに公安も検察も、これを積極的に取り扱わないどころか、見て見ぬ振りをする。そうしたことも含めて「クローンとの繋がり」を示す情報は出てこなかった。


『いま思えば当然だ。クローンそのものに”入れ替わっていた”んだから』


 あいつが消した。ミコさんの複製を目指して、あれこれと人体実験をされた、あいつが消したんだ。国会議事堂にいるクローンたちを、まるっと綺麗に処分した。

 本来、その罪を明らかにして指名手配するなら? あいつの罪は国家反逆罪クラスなのではないか。

 それくらいの大ごとなのに、だれも、それを明らかにしない。

 そんなことは起きていないし、クローンに入れ替わっていたなんてことも起きていない。そういうことにしたいから、明るみに出ない。

 だけどたぶん、偉くて、この件に関わっていて、クローンなんてものを認めちゃまずいし、ましてや国会運営をやらせていたなんて思われちゃまずい人たちにとっては? あいつはいますぐにでも消したい存在だろう。死人に口なし。

 でも、考えようによっては、どうだろう。明らかにされたら困る連中が一斉にまるっと処分されたのだから、それを利点とみることもできる。言うなれば、後始末の依頼人がいるなら? あいつと依頼人の利害は、ある程度は一致するのでは。そんな依頼人が、もしも実在するのなら、だけど。

 たんに物事を複雑に考えているだけかもしれない。

 ただ製造開発者たちの敵が私たちや平塚さん、あいつだけとも限らないのでは? と思うのだ。

 その場合は、もっとずっと厄介な話になっていく。だけど、もしもその場合には? そのだれかといかに繋がるかに話が切りかわっていく。そいつらはなぜ、私たちに接触してこないのかって話にもなっていくよね。それならそれで、またしても、よくわからないことになってくるぞ?


『なんにせよ、現実の政治と料亭通い、ゴルフに悪だくみに大忙しで、関わりが見えてこないな』


 引き続き監視は続けるが、と橋本さんが締めくくる。

 続いて教団の日本支部の窓口を担当している女性が話を引き継いだ。ミコさんが話したことに絡めて、シャルたち元黒輪廻メンバーの提供する情報と絡めて調べ物をしている。とりわけ隔離世にまつわる情報を探っている。邪の出没比率が増しているだけじゃない。


『すこし、奇妙な邪が出没しています。緋迎さんはご報告を受けているのでは?』

『ええ、聞いています。例の関東事変以来、時折、真っ黒い人型の邪が出てきていると』

『その人型邪ですが、隔離世の霊子体の表面を覆うように邪を構成する黒い霊子が発生。やがて霊子体を完全に覆って、人型邪になることは?』

『それは――……初めて聞きました』


 ミコさんが怪訝な顔をする。先生たちもそう。みんなだって同じだ。

 だれも知らない。人型邪なんて。そんなのがいるのなら、そいつはいったいなんなのか。

 隔離世には、現世の人と同じ位置に霊子体が存在する。隔離世から見た現世の人とも言える。それが邪になるって、いったいどういうことなんだろう。


『通常の邪とちがい、侍隊に襲いかかることはありません。御霊の刀で斬ると、普通に駆除ができます。ただし、駆除した後に霊子体は消えるのです。跡形もなく』

『現世の人に影響は?』

『こちらで調査したかぎりでは、なにも』

『なにもないって?』

『ええ』


 シュウさんと教団の女性との会話に私たちは顔を見あわせた。

 隔離世と現世には繋がりがある。だからこそ現世の人の欲望が育ちすぎたら邪が出てきて、それは現世の人にだって影響を及ぼす。やがて邪は黒い御珠になって、現世の人は怪物みたいになっていく。

 そういうものだ。

 そういうものなのに、隔離世の黒い人型邪、あるいは黒い霊子体を斬ったら霊子体が消える? それに霊子体が消えても現世の人に影響がない?

 どういうこと?


「なにが、起きてるの?」


 私の呟きは、思いのほか響いた。

 みんな黙りこんでいたからだ。

 みんなに聞こえた。

 なのに、だれも答えられなかった。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ