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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千八百八十九話

 



 救済はない。

 万人を救済するっていう、それがもう具体性に欠けている。

 具体性がなきゃ実現性を伴わない。

 古代から連綿と続き存在する非誕生優良、そこからの死の渇望や飢餓が、昔は救済みたいに捉えられていたんだろうなあ。

 だけど、生まれていること、生きていることは肯定も否定も、もはや関係ない。なんていったって、生まれちゃってるし、生きてるのだし。じゃあどうやって生きるのさっていう話にもなるよね。

 救済はないけど、救済がほしい気持ちはあるじゃん?

 でもって、救済はないけど、ほしい気持ちには様々な困りごととかストレス・ダメージがあるわけじゃん?

 それを地道に対処する必要があってさ。

 そう考えるとスーパーマンみたいに「こどもが殺されてるんだ! 見殺しにできるか!」みたいな、それこそフィクションの嘘みたいに笑われちゃったり、大勢が諦めちゃったり、いまだと冷笑したりするようなことほど大事になる。

 目指さなきゃ、馬鹿にしたり冷笑したりして終わるだけじゃない。いくらでも命をものにするヤツが出てくる。でもってなにが手に負えないって、命を利用・消費するのにためらいがなくなることが、その領域がどんどん拡大していく。

 それはダメだって、私たちは張り続けなきゃ。

 スーパーマンみたいに張り続けたら、それに呼応する人が出てくる。映画だとグリーンランタンがその役を担っていた。ライアン・レイノルズが消し去りたい過去としてデッドプールで弄り、さらには過去の自分を殺害するというシーンまで入れてみせた、あのグリーンランタンだ。スーパーマンではグリーンランタンことガイ・ガードナーをネイサン・フィリオンが演じている。ネイサンはミステリー作家が殺人事件の捜査に関わる「キャッスル」の主演を務めていた。あと、40歳で新米ポリスになる「ザ・ルーキー」でも主演をしていたし、製作総指揮もしていた。べてらん!

 ひとりでできなくても、張り続けてたらさ? それに続く人が出てくるかもしれない。

 表現には、それだけの力がある。

 別にだれも続かなくても、自分がしたいからするのだ。それでもう十分って話でもあるし? そこが表現のきついところでもある。結果を保証しない。それでなにかが得られるかっていったら、それはもう、完全に別の話。

 そこまで踏まえて、選び行える?

 トム・ホランドのスパイダーマン一作目でトニーに厳しく問われてたよね。ピーター。スーツがなきゃなにもできないなら、スーツを着る資格がない。

 どう生きるのかがあって、その選択と行動があってこそ。

 持って生まれて剛運の恵みを得ながらも、それだけじゃないっていう人生の獲得にたぶん必死だったんだろう。トニーって。彼が皮肉っぽかったり、確実に鼻に掛けてる感じだったりするのは、どう足掻いたって大富豪で、持って生まれたこと自体はもう取り消せないし、どうしようもないし、あるなら得にしたいし使いたいところにおいて素直だからじゃないかなあ。しばしば露悪的なところもある。

 でも、そういう自分に無自覚でいることができないくらいには賢くて、勤勉な人だよね。そんなトニーからすると、自分にとってはやっかみや憎悪、重荷になるものなんかを「持たない」、そのうえで「愛されて育っている」という運に恵まれているピーターがそりゃあもう、眩しく見えたんじゃないかなあ。

 だからこそ、それらを大事にして、育んできた資質をこそ活用しろよって思ってそう。

 言わないけど。

 思ってそう。

 でもってピーターが本格的にやらかす船上作戦においてはスーツ任せじゃなくて自分が出かけていくくらいには気にしていた。トニーだって別に完璧じゃないし、ピーターにばかり構ってられないくらいの放置プレイはしてた。情報は認識して処理はしていたけど、そこまでウェットな関わりは持たなかった。いかにも「だんしぃ」なノリ。あるいは「パパぁ」なノリ。考えてみればトニー自身、みっちり家族として周囲に構われて生きてた人じゃないよね。ウィンターソルジャーに殺されてしまってからは、ずっとひとりだったしさ。年下の青年との付き合いを心得ているタイプじゃない。

 だから「期待するなら、ちゃんと関わらないと」っていうところもある。あるけど、まあ、言いだしたらきりないよね。完璧に関わりきることは、だれにもできないもの。でもってなんだかんだ、ピーターはしっかりしてるから、自分でやるべきことを精いっぱいやるところに回帰できる。成り行き任せなところもあったけど、いいのいいの。そこは!

 幸せも、不幸せに対しても、私たちはどうあるのがいいかを選び、行い、意地であろうと張り続ける。

 どんな自分でいたいのか。どんな世界を望むのか。表現して、張り続ける。

 その生き様としてのヒーローならきっと、世の中にいっぱいいる。万全でも完璧でもなく、できないことだらけで、勉強も不十分で、技術もさしてなかったとしても。それでも、なれるヒーローがある。

 それは幸せを、結果を、答えを担保しない。保証しない。

 実際、スーパーマンは厄介者扱い。資本主義においてはビジネスと儲けがすべて。富裕層や企業経営者たちだけじゃなくて政治家だってそう。空気を読まないのは「人を消費・利用する」、そのために「殺す」し「戦争を起こす」、そういうすべてを許せないスーパーマンのほう。

 でも、ううん。だからこそ、張り続ける価値がある。

 こどもが殺されてるなんておかしい。戦争や紛争で人が殺されてるのもどうかしてる。そんなの放っておけないっていう、その思いには、張り続ける価値がある。

 たちどころにすべてを救済する術なんてない。スーパーマンでさえ、そんな完璧な手段を持ち合わせていない。だから仲間がいる。ひとりでも多くの仲間が。声をあげる人がいる。ひとりでも多くの人が。

 スーパーマンを打倒するべく策を巡らし、手を尽くすルーサーだって同じだ。ルーサーひとりではできないことがやまほどある。いろんな手段を尽くして、ルーサーの会社の社員たちを鼓舞したり利用したりして追いつめる。

 多対多。

 どんな目的であれ、人には協力や助けを必要とする事実を描いてる。

 とはいえ。

 とはいえだ。


「春灯。なんで、あいつに協力を申し出たの?」


 帰りの車内でマドカは不満げに訴えた。

 倒したいんじゃなかったのか。恨みはないのか。あれやこれや。

 協力しない理由なんて、やまほどあるはずだ。だけど協力する理由なんてひとつもないはず。

 マドカはそう訴えている。


「そりゃあ、だって。助けてほしそうだったからさ?」


 そんなたいした理由はない。

 あのあと、いろいろと現状を確認した。

 あいつ曰く黒いのに助けを求めて、いろいろと空振りでもう後がない。本当は意図的に出てきたというより、出てこないと見つけられてどんな目に遭うのかわからないから。関東事変を起こしたのは、あいつじゃない。議事堂にいたのは、敵に繋がる情報があると思ったから。

 私に彼の霊子を注いで監視していたのは、八尾との影響や干渉を監察するためだし? 渋谷にいたのは、敵が動きを見せたから様子を見にきたのだそう。例のコンビニ爆破事件である。

 信じるに足りるかどうかは判別がつかない。現状では。

 あいつはあいつで、長くはいられない。だから、また会いに来るといって消えてしまった。

 消化不良!

 おかげでみんな、どこか不満げだ。

 駐車場から例のコンビニ前に向かって移動し始めている。ジロウ先輩はまだ東京都内を走るのに慣れていなくて、がちがちに緊張していた。おかげで何度か車線変更に失敗して、狙いの通りにたどりつけていない。それも、私たちの不満に一役を買っている。助手席の愛生先輩がなだめて、なんとか走りつづけている。


「覚えのない声と顔であったな」

「化けているからでしょ? せっかくなら、これまでの姿に変わってもらえばよかったね」

「時間があるときにお願いしましょう」


 二列目の後部座席にいるホノカさんとリエちゃん先生、平塚さんが計画を立てる。

 立てるべき計画が多すぎる。あいつの言うことの裏を取らなきゃいけない。あいつにとっての、そして平塚さんにとっての敵の正体や実態がなにも掴めていないのも、不穏。

 もしも関東事変があいつじゃなくて、あいつの敵の仕業だというのなら? ますます目的がわからない。なにがしたいんだろう。どっちかといえば治安を維持する側じゃない? 乱してどうすんの。

 ああでも、トランプみたいな実例のある現代だ。権力側がおかしいなんていうのも、悲しいけどあるあるになって久しいわけで。恐らく敵も権力側なわけで? レックス・ルーサーみたいなのがいるんだろうか。やだなあ。

 最後尾の座席に並んで座る私やマドカは顔を突き合わせてどうしたものか考えるけど、妙案がない。

 なにより前の席の真ん中に陣取る平塚さんの、背中に鬼を背負っていそうな筋肉の存在感が強すぎて、なにを話していても気になってしまう。両脇に座るホノカさんとリエちゃん先生、本当にすごい。ぜったい狭い。


「あいつが無罪とも思えないんだけど」


 マドカはちらちらいやそうにおじさんの背中を見つつも愚痴る。

 わかるよ。私も別に許してるとか、気にしてないとかじゃない。恨み言のフタを開けたら止まらない。いやなことしかなかったわけじゃないから複雑でもある。

 お前なんなの!? と思わないでもない。

 だけどさ。


「でも、あいつと平塚さんの敵が同じなら、それくらいしかねない連中ではあるよ?」

「そこがまたずるいよ。なんでも敵のせいにできちゃえるもの」

「嘘もごまかせるかもっていうのは、認めるけどさ。真偽を確かめられないかぎりは、保留にするしかないって」


 言ってる途中でマドカが険しい顔して睨みつけてきた。


「それでいいわけ?」

「いいも悪いもないよ。爆発沙汰をシュウさんたちも未だに調べているわけだし? 関連がある可能性が消えないかぎり、敵はいまもなにをどれくらいの規模で、いつ、どこで、どうやって仕掛けてくるのかわからないんだから。そっちを見つけて対処するのが先。でしょ?」

「そうですけどね!」


 割り切れないし、そうしたくないのだろう。

 許されるのなら捕まえてしばきたいまであったのでは。

 そうはいってもね。


「珍しく立場が逆転してますね?」


 リエちゃん先生が顔だけで振り返って私たちをからかう。やっぱり狭いんだろう。身体を動かすほどのスペースはない。首が痛くなりそうな振り返りも、さっさとやめちゃう。わかる。むしろ平塚さんを助手席に座らせるという手もあったのだ。本当なら。なんでそうしなかったかって? ジロウ先輩の視界を著しく遮るから? ううん。集中力を削ぐから! ほぼ全裸のおじさんが横にいたら、慣れない東京の道を走るのが怖いっていうんだもの。それはそう! としか思えなかったよね。みんな。


「春灯はもっと怒ったり、やだって言ったりしたほうがいいよ」

「してるって。マドカたちに頼ってるよ?」

「足りないって言ってるの。瞬発力を出したほうがいい。私なら、手を取ったあいつにすかさずビンタした。何発か食らわしたね。八尾を注がれて大変だったんでしょ? 仕返しなきゃ気が済まない」


 強く言うなあ。

 その手の怒りが必要ない、とまでは思わない。

 私は私なりにいやなことだってちゃんと表現しなきゃと思ってる。

 けど、それより優先しちゃうことがあるし、不慣れだったり、ビビりだったりする。いろいろあって、できてないのも事実。そこについて、マドカは私の代わりに怒ってるようにも感じる。


「そうだね」


 そうなんだけど。虚しくなるとか、そういうんでもなくて。

 取り返しはつかなくて。それは私だけじゃなくて。ただただ、もう、いまどうするかしか選びようがないっていう、その諦念がある。壁だ。私にとっての障壁だ。マドカはその障壁を前に我慢してたら潰されちゃうって心配してくれてる。

 わかるんだけど、途方に暮れてる。どうすればいいのか、ほんとに、もうわからないんだよね。

 だからできることをやろうとしてる。安定も、安心も、安全も、それらを得るためには、ひとまず関東事変だ爆破事件だなんだを起こす連中をどうにかしないと。そこからじゃないと、始められそうにない。

 あいつも、平塚さんも、社長たちだってウィザードだって、シュウさんやアダムでさえ、そこに囚われていた。教授もそう。

 それらは選択・行動を正当化・責任転嫁・免罪しない。なのに彼らは選び、行う。それをしないと安心できないから。安全を勝ち取れないから。安定した日々に向かえないから。

 だれのせい、なんのせい、言いだすときりなくて、ほんとに足りない。足りないだらけで、なのに正当化・責任転嫁・免罪はできない。過酷ぅ。

 あんまりにも運によって人生変わりすぎるなかで、その過酷さも変わりすぎるのに、個人のせいにしてたら際限なく底が抜けていく。でも、いまはまさに「みんなで底を壊していけばいいじゃない?」時代の最中にあるからね。昨日今日できた時代じゃないし。

 だから張り続ける価値のあるものを改めて選び、行う。

 だいぶへこたれてるほうだけど、それでもまだ、私にはそれをやるだけのものが残っている。元気も意欲も。まだ尽きてない。


「でも、もうやるって決めてたんだ。ずいぶん前から」

「前って、いつ?」


 スクランブル交差点に戻ってきて、赤信号に捕まる。

 人が交差して歩いていく。多種多様な人たちの、ひとつとして同じじゃない人生の交差する場所をガラス越しに見つめながら私は呟く。


「ここで歌ったときから、かな」


 最初の歌に込めたんだ。

 助けがいる。だれにだって、そういうときがある。

 ほっとかないって決めたんだ。ほっとかないって張り続けた結ちゃんや、中学の先生たち、会いに来てくれたキラリが教えてくれた。

 私たちには助けがいる。

 だから私は張り続ける。ほっとかないって、張り続ける。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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