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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千八百七十四話

 



 天国修行ですこしだけ龍が如くの続きを進めてから、霊子の実験。

 タマちゃんとやった練習法を試す。火は消えず、枯葉は腐らず、水は淀むことがない。

 いまの私は前よりも安定しているらしい。ぷちたちの寝顔を見て、「明日、どんな反応するかなあ」とほっこりしたからかな? 謎。

 ひとまず、霊子の反応がいいのでもうちょっと試してみよう。


「火、喜び。だとしたら」


 うれしいことを霊子に宿して、火に重ねてみるか。

 うれしいこと、うれしいことね? ルナが幼稚園で手に入れた大好きな葉っぱを私にくれたことかな。あの子がいちばん、空を飛ぶのが得意だ。犬かきでふわふわゆっくりと飛ぶような感じで、金魚マシンのほうが正直まだ早いんだけど、あの子はとても楽しそうに、自慢げな顔で泳ぐから見守っている。七原くんとの繋がりから生まれた子だ。あんまり主張するタイプじゃなくて、なんでもそつなくこなすから、ついつい意識が抜けてしまう。

 そんなあの子が、あの大樹の幼稚園でいま行ける一番高いところで見つけたハート型の葉っぱをくれたのだ。うれしかったよねえ!

 今日のゲネ大成功もうれしかったけど、心配していたのがほっとした部分が強いからね。ハートでいこう。


「そりゃ」


 つけた火に気持ちを込めた金色が入る。

 なんの反応もない。だけど金色は火に混じって広がっていく。同化していく。

 うまくいっているかもしれない。

 赤い火が金色に染まる。だけど、いまも燃え続けているし、手を近づければしっかり熱を感じる。


「お、お?」


 あのときのうれしかった気持ちを思い出すと、火がさらに燃えていく。だけど思い出すのをやめると、元々の勢いに戻っていく。気持ちと火の勢いが連動している。

 うまくいっている! 気持ちと火が霊子で繋がっている。

 元々、帯刀男子さまとストレス・ダメージで参っていたときだって、接続と干渉自体はちゃんとできていた。問題なのは、ストレスとダメージが私の意志よりも、無意識に、対象に強く影響を及ぼしていた点にある。

 言い換えると、いまは落ち着いて接続・連動できている。


「おおおおお!」


 思わず歓声をあげて両手を掲げた。ぎゅっと握って仁王立ちする私の前で、炎が一気に巨大に膨らむ。完全に油断していた私の身体が、ぐっとなにかに引っ張られた。遠ざかる火に、水の一滴が飛ぶ。火に当たるやいなや、消えてしまった。あっさりと鎮火されてしまったのだ。家を包みそうな炎を、たったの一滴で。

 引っ張られた先で、なにかに背中が当たる。やわらかい感触と、甘いバニラの香りに包まれる。振り返ると、呆れた顔のタマちゃんが立っていた。


「これ。妾がいないのに無茶をして」

「ご、ごめん」


 タマちゃんが助けてくれたのだ。


「火と喜びの術の鍛錬は、まさに、成功した瞬間が一番あやうい」

「いま、身をもって実感しました!」


 間近でめちゃくちゃ喜んだら? そりゃあ、喜びと火が連動しているのだから、燃えさかるよね!

 考えたらわかるんだけど、喜びが勝って頭からすっぽ抜けたよね!


「せっかく学びの機会を得たのじゃろ? 幼稚園からやれ」

「はあい」


 今日はその日じゃないからという言い訳はなし。

 注意事項はないか確認せずにやった結果だ。危なかった。

 私が練習を始めたのに気づいて、急いで駆けつけてくれたというタマちゃんは、私に一冊の絵本をくれた。狐街のこどもたち向けの絵本で、簡単に五行と霊子と術の関係についてまとめているものだという。ぷちたちも幼稚園で読んでいるだろうってさ。

 あわてて駆けつけてくれたけど、用事の途中だからとタマちゃんが去っていくのを見送って、私は火元に戻った。ものの見事に火種もすっかり濡れていた。たった一滴だったのに。これがタマちゃんの力なんだ。すごい。

 水は恐れ。恐れを操る。

 言葉にすると簡単そうだけど、実際にやるとなると無理だ。感情を想起したら、同時にいろんなことが蘇る。私たちは思いのほか、それらと自由で付き合えない。参っているときは、特にね。

 恐れだってそうだ。より強い水を操ろうとするのなら、自分の恐れと付き合えなきゃいけなくて、おまけに恐れに飲みこまれてあらゆるストレス・ダメージが蘇らないようにしなきゃいけない。恐れに飲みこまれてしまうと、術どころじゃなくなってしまう。

 一見すると喜びはとてもポジティブなものだけど、さっきみたいに術を扱うなら? 無軌道になると危ない。それこそ、いつもは見守ったり仕事を優先したりしているタマちゃんが駆けつけてくるレベルだ。

 術は、だから、意図的で、しかも安定しているのが望ましい。

 そうなると?


「むむむ」


 あいつが私の瞳に干渉したというのなら、ますます謎になる。

 操るんじゃないのか。なんで? バレたらみんなが対処して、あいつの干渉を無効化するから?

 そんな配慮する? 目的のためなら配慮も辞さない?

 ぴんとこない。

 関東事変を起こすような犯人像と、どうも一致しない。

 八尾を注ぎ込んだのも、いま思うと謎。あれのおかげで私はたくさんの魂と融合するような状態になって、自我を失いかけた。事実上の死を迎えるところだった。ミコさんが助けてくれたから、御珠の下地を得たし、八尾にされたこどもたちみんなの霊力を合わせた膨大な支えを手に入れた。

 不確定要素まみれで、いまに至る可能性をあいつが全部、予想していたとまでは思わない。けれど、これも「至る可能性のある結果」のひとつだとしたら、どうなるんだろう。

 私の主観世界におけるあいつは、いつだって「まるでなにもわからない」だ。当然である。実際そうなんだから。

 お屋敷で見たアニメ「瑠璃の宝石」の八話で「不安がすべて消えないと動けない。理論が完璧でないならば行動しない。な~んて言ってたらなにもできないよな」というセリフがあってさ? 私にはとても耳が痛い。

 あいつが仮に私を「なにか」にすることで、「なにか」を期待していたら?

 私を「もの」にして、「なにか」のために支配して、利用・消費するのではないのなら?

 なにが考えられるだろうか。


「うまくいくことを前提にするなら、あいつは私に八尾と目の力を渡そうとしている」


 私がなにをどうするかなんて、あいつには読めない。決められない。

 そこはひとまず、置いといて。結果を見ると、あいつはなにかをくれている。だけど、なんの期待も目標もないっていうわけじゃあないはずだ。

 いっそそれを教えてくれればいいのに。

 まあ、現時点でどんな目的があるのか、なんにも想像つかないってわけじゃないけどさ。

 あいつだけじゃない。平塚さんたちや、大勢の人たちを苦しめるような厄介な連中が大勢いる。その打倒が狙いなのでは?


「私にやらせる気?」


 それだけのものはもらっているけど。これはこれで操られている気がしないでもない。

 報酬前渡し。あとはどうぞって感じなのも気に入らない。こっちの合意はどうなるんだ。

 それに気に入らない理由は他にもある。

 八尾にされた子たちはどうなるんだ。ただ、あいつが下手人とは限らなくなってきた。少なくとも確定から保留に切りかえるくらいは、しておいたほうがいいかもしれない。いまのままだと偏見が強すぎて、物事を捉える向きに偏りが出てしまう。私の主観世界の限界を、自ら生成してしまう。

 そっちのほうがデメリット。


「ううん」


 普通さあ。

 お願いしない? やってほしいことがあるんでしょ?

 言えばいいじゃん。

 コミュニケーションせえ!

 今度、あいつに一言いってやらないと。


「だとして」


 木火土金水、火以外のも試してみよう。

 距離を取って、いつでも金色スターモードが発動できるようにしよう。実験で防護服やマスクを着用するみたいに、内容に適切な装備をするのは当たり前だもの。

 他にも必要なものはないか検討。距離を取るのも大事だね。あとは間に防護壁を設置とか、対象物をなにかのケースに入れて隔離して行うとかも思いつく。

 試せるかぎりを試してから、お屋敷に戻って天国修行の締めくくりに向かう。つまり、食事! 入浴! のんびり! 以上だ。

 それぞれ満喫しながら振り返る。どれも火のときと同様に霊子の浸透は成功。ただ想起する感情の元、つまり過去の体験と感情が思ったよりも効果がまちまち。うまく作用するときもあれば、むしろぼやけてしまうこともある。

 結果はいろいろ。水の量が増えたり、葉っぱの筋がなくなったり、かと思えば土から結晶ができたりする。なのに鉱石がただの土になっちゃったりもしてさ。

 うまくいかないもんだねえ。

 特定の感情を引き金にすれば、うまくいくんだろうか。

 でも感情は結局、生じる情緒的・身体的反応が鍵だ。何度も何度も同じ思い出が、そのまま再現されるかっていったら、けっこうきびしい。もっというと、鮮度が落ちない記憶はある。なにせさ? ストレス・ダメージになる深刻な体験は、何度だってそれを鮮明に再現するんだ。

 実際、私は帯刀男子さまとともにぐちゃぐちゃだった。ずっとね。なにせ過去の思い出しがたい体験はやまほどある。言いだしたらきりがない。それぞれは派手で、深刻なものに思えるけどさ? みんなそれぞれにあるじゃん。思い出したら、ただそれだけで一日のすべてが台無しになるような、そういうこと。それぞれにさ。

 でもね?

 そういうものにめげて、引っ込んでいたらできないことがやまほどあってさ。

 現場で動かなきゃ、わからなくてもやらなきゃいけないことがやまほどあるわけじゃん?

 人手が足りなかったり、だれもどうにもできなかったりすることが、やまほどあるわけじゃん。

 主観世界や会議室、テレビやスマホの手前に逃げたくなるようなことが、やまほどあるわけじゃん?

 幸いさ。いまの私は動けて、術も使える。だったら、やってみよう。

 なにがつらいって「不安がすべて消えないと動けない。理論が完璧でないならば行動しない。な~んて言ってたらなにもできないよな」っていうのは、無力を栄養源にする。無力感を求める。そして私たちはいくらでも、無力や無力感を簡単に抱ける。深刻な体験をしたら、より簡単になる。

 そういうときほど、やまほどの、輝く、力強い綺麗事がいる。

 目指すに足る綺麗事がいるんだ。

 そして目標に向かっていける、あらゆる依存が必要なんだ。

 突っ込んでいくのは、胆力がいる。胆力には、いろんなものがいる。

 諦められないじゃない?

 そのために、あいつもがんばっているのかな。

 ぜんぶは肯定できないし、その必要性もない。でもって、がんばってるんなら教えてほしい。痛みごと、ちゃんと伝えてほしい。それにはやらなきゃいけないことがやまほどある。必要なことだって。

 興味がなきゃ、知るつもりにさえなれないしさ?

 今日の手応えからしても納得。

 自分の感情をよく知り、付き合えるようにならなけりゃあ術はうまく扱えない。


「明日はどうしよっかな」


 渋谷かな。あいつが出たところに行ってみよう。

 また会えるとは思わないけど、あそこから再開してみよう。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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