第二千八百六十三話
眠りについてすぐ、洞窟で目が覚めた。アマテラスさまのお屋敷じゃない。固くて濡れた、ごつごつした岩の感触。ひんやりとした空気。埃や土、そして水の匂い。何度か経験があるから、わかる。スサノオさまの洞穴にいる。
だから急いで身構えた。ぷんと漂う垢と汗の臭いに。あのおじさんの「お風呂? やだよ」「洗濯? しねえよ」という、あの激臭に。だけど、しない。臭くない。代わりにシトラスの香りが濃厚に漂っている。これはこれで、きついものがある!
「くっせえよ!」
「こうでもしないと一ヵ月もたないでしょう」
「一ヵ月もたせようとすんなよ!」
「こんな場所に引きこもって、風呂キャンしてなきゃしないよ!」
「なんだそのふろかんって!」
「風呂、キャンセル! お風呂に入らないってことだよ!」
「失礼な! 水浴びくらいしとるわ!」
「石鹸も使わないでしょ! おまけにそれ、ずっと着てるじゃない!」
「別にいいだろ?」
「よくないよ! 臭いよ! とびきり臭くてたまらないよ! 一日一度でいいから着替えてよ! 一日着たら着替えて、それは洗ってよ!」
「お前が洗うならいいよ」
「やだよ!? いいじじいが! 健康で歩き回れるじじいが! 自分でやるんだよ!」
「えええ、いいよ俺、面倒だし」
「みんながよくないんだよ!」
おじさんが、だれかと言い争っている声がする。お互いがお互いにかぶせるようにだ。すさまじい剣幕である。その相手の声だけど、あんまりにも萌ゆる声でとろとろの声質だった。その割にはおじさんを言い負かす勢いで言葉を浴びせている。
「いいじじいが! いまどき! 自分の洗濯も入浴もできないとか! あり得ないから!」
「それ言ったらお前もいいばばあだろ」
「あなたとちがって私はどっちもできますぅー!」
「できなくていい俺が洞窟暮らしをしてんだから、別にいいだろ」
「あなたの神使がかわいそうなの! たまに里に出たら、私があれこれ言われるんだから! クシナダの旦那はいつになったら風呂を覚えるんだろうなあ、ってね!」
「つまり俺がそいつをぶっ倒せばいいって話か?」
「だれも! そんな! 話を! していない!」
あんまり言い争う声が大きくて、かなりの剣幕なので怯える。
どうしよう。起きていいんだろうか。できれば関わりたくないぞ?
だけど話を聞くかぎり甘ったるい蕩け声の毒舌の主は、まさにいま、私の会いたい女神さま。カナタが私に提案してみせた、質問したいことがやまほどある相手だ。
タイミングは悪い。相手の機嫌も悪い。質問するなら、絶対にいまじゃない。
「わかった、わかった。水浴びの頻度も増やすし、服は、そのう」
「面倒だからいいやって思ってるでしょ! わかってるんだからね! 買ってきたから、ちゃんと着て! ちゃんと洗え! けっ!」
「そんな怒ることねえだろ」
「久しぶりに呼ばれて来てみれば、臭い! 汚い! おまけに最初の一声が、久しぶりに抱かせろ! これで怒らないと!?」
「なにが不満なんだよ」
「ぜんぶだよ! 放っておいたら数年に一度しか便りをよこさない! 毎回住所ちがう! 織姫と彦星でももうちょいマシだよ!」
「じゃあ一緒にいりゃあいいじゃねえか」
「やだよ! 家事ぜんぶやらせて、自分はだらだら過ごすじじいの世話なんて、いまさらだれがするかよ!」
話を聞いているかぎり、クシナダさまの言うとおりだ。私も彼女に大賛成。おじさんことスサノオさまの神使、星蘭のタカオ先輩がここにいたら? やっぱり私と同じく、ヒメさまに一票を投じたのでは。
「猪狩ったり、家建てたりするくらいはやるぞ?」
「だけどお風呂入らないよ! 着替えもしないよ! いやだよ!」
「そんなにだめかなあ」
「私のいやだを真面目に受けとめられない時点でだめだよ!」
迫真のツッコミが続く。
聞いているかぎり「い、いまもご夫婦なんですか? 離婚されてません?」とハラハラする。だけど会ってお話できてるくらいには、まし、なのかなあ。どうなんでしょうね?
寝ている振りをしていても、永遠に話が終わりそうにないから目を開けて、そっと身体を起こす。
やっぱり、洞窟の中だった。最低でも四つのクラスがすっぽり入るくらい横長の空洞は横半ばから先が下り坂になっていて、先が見えない暗闇から湧く透き通った水が張っていた。魚などは見当たらない。
天国修行時に、五歳児くらいのぷちサイズになる私がぎりぎり抱えられるくらいの木製の小舟に、紙の覆いを立てて、その内にロウソクを燃やしているのだろう明かりが水面にいくつも浮かんでいる。それに洞窟の壁や床にも、木の皿に火をつけたロウソクが立てられていた。
薄暗いなかで、おじさんはふんどし一丁で膝下からつま先まで水に浸かっている。全身がずぶ濡れだ。彼の足元にぷかぷかと、垢で黒ずんだ襦袢が漂っている。
水から二メートルほど離れたところで、彼女は立っていた。いまの私よりも大きいけれど、お世辞にも中学生とは言いがたい幼い女の子がいる。白地のすこし大きな五分袖Tシャツと赤いショートパンツ。明るく映るカラーを入れた長い髪をまとめて、首の後ろでお団子にして櫛で留めている。
私の立ち位置からだと背中しか見えない。
文句を言ってるおじさんが、最初に私の目覚めに気づいた。
「客人が起きたぞぉ」
「あ?」
すんごい怖いぶち切れボイスと共に、彼女が振り返る。露骨にこども顔。目が大きくて、まだあまり起伏がない。そのぶん、眉間の皺がよく目立つ。
「狐の神使? なに、客人て。聞いてない。普通さあ! 久々に会うならふたりで、もっと素敵な場所に連れていくとかさあ! 気を遣うってことを、いつになったら覚えるわけ!?」
秒でおじさんに顔を向け直して、怒りをぶつける。
よっぽど不満を溜めているらしい。でも、納得。こんなところに引きこもって、ずーっとだらだらしてるんだもん。むしろ、なにか抱えているんじゃないかって心配になるくらい、だらだらしてる。
どうにかしたいんだろうなって、見て取れるよ。クシナダさまは。だけど、ふたりの関係性は、それだけで説明できるほど単純なものじゃなさそうだ。太古の昔からの縁、いっそ腐れ縁といってもいいふたりだと、過ごした年月のなかで起きてきたこと、乗り越えたこと、そうはならなかったことが膨大にあるはずだもの。
「わかった! わかった! かぐやに求婚する男たちよろしく、お前の百の願いを聞いてやる! 約束するから! そこのちびの話を聞いてやってくれ」
「信じられない」
「ああもう! 姉貴に誓う! 破ったら告げ口していい!」
「え。いま、この狐と付き合ってるの!?」
「なっ、なんでそうなるんだ!」
「いかにもあなたの好みの年じゃない!」
「ちがっ、俺は誓って、お前以外とはなにもしねえし、してねえよ!」
「どうだか」
ふたり組の数だけ、いろんな有り様があるというけれど、それにしたっておじさん、信用されていないなあ。どれだけすれ違ったり、やらかしたりしてきたんだろう。推して知るべし。
おじさんが譲歩に譲歩を重ねて、ようやく彼女が矛を収めてくれるまでに、たぶん一時間はかかったと思う。百の願いとか言わず、最初はみっつくらいにしとけばいいのに。大盤振る舞いを最初にするから疑われるのでは? なんて思いはしたけど、間に入ることはやめた。
明らかに面倒ごとだ。ふたりの問題である。関わるべきではない。
基本的に押しの一手の彼女と、自分の好きなようにしてたいこどもマインドなおじさんとでは相性がなかなか噛みあわない。たぶん、ふたりとも自覚的だ。でもって、彼女は「あなた年上でしょ、譲歩してよ」って感じだし、おじさんはおじさんで「いまさらあれこれ気にしてもめんどい。俺が気にしないんだから、それでよくない?」ってノリ。
ただ、ふたりはそれぞれ自分なりに相手を気にしている。それはたしかだ。そうでもなきゃあ、彼女はここに来ないし、おじさんは彼女を呼ばないし、頼らない。
だけど気持ちだけで埋めるには、溝が大きすぎるし? 障害物も増えすぎた。おかげで、お互いのままならなさは微動だにしない。それを「そっちでなんとかしてよ」と、お互いにぶつけあっている。
神さまたちの年齢を思えば、クシナダさまもそろそろ、おじさんができないことを受け入れてもよさそうに思えるのだけど、ね。甘えたいし、甘えずにいられないし、そうなるだけの体験も積み重なっているんじゃないかな、と思うとさ? いちいち言えないよね。
「それでなに?」
ようやくふたりの言い合いが終わって、彼女が私に目を向けたときにはもう、準備ができていた。
とっくに出しておいた金色本のページを見せて、完結に説明する。現世で見聞きしたもの、櫛の歯と毛の空間、記録した結果のページ。ひとしきり見聞きすると、彼女は毛まみれページを見て「うえ」とうめき、歯を失った櫛まみれのページを見てから「うげ」と低くうなった。
「なにかお知恵をいただけませんか?」
「別にすべての櫛が私の理解の範疇というわけではないのよ? 仮に私が世界のすべての櫛を自らの一部として捉えられるとしたら、今度は対象があまりにも膨大すぎて、ひとつひとつを理解できない。それに、世界中のすべての櫛が綺麗に手入れされて、大事にされているわけでもない」
「う」
ろくに手入れのされていない櫛なんて、やまほどあるだろう。壊れた、壊された櫛も。そのひとつひとつを把握して、どういう経緯をたどったのか。理解できるとしたら、それこそ気が狂ってしまいそうだ。そもそも数が多すぎるし、いまもたくさんの櫛が作られつづけているのだから。
「私に聞くよりも、櫛の持ち主に確認したほうが早い。毛もそう」
「そいつは現世の人間だ。術の心得もまだまだでな。もうちょっと、助けてやってくれ」
「彼女のことを気に掛けすぎじゃない?」
「できすぎたやつばかり面倒みてた姉貴が、珍しく稲荷から引き取ったやつなんだ」
「ふうん? そういえば、去年に挨拶まわりをしている妙な子狐がいるって噂があったね。この子が? へえ。ふうん」
しげしげ、じろじろと、顔を間近に寄せて観察される。非常に落ち着かない。
「玉藻、あき、でもって稲荷ね。そう」
私のまわりをぐるぐる回りながら、じっくりと観察される。とても落ち着かない!
「結論は変わらない。それでも、彼が私を呼び出す気になった、そのきっかけをあなたが作ったというのなら、なにかひとつくらいは知恵をあげないとね」
期待していいのだろうか。直立不動の私の前に回り込んだ彼女は、私の胸元に人差し指を伸ばした。そのまま装束の上から指を押し当ててくる。今度はそっと引いた。すると、どうだ。私が念じてもいないのに御珠が出てきた。半分ほどで彼女は手を止める。そして手のひらで御珠に触れる。
「ふうん? まだまだ幼いけど、いくつか願いを繋いでるね?」
「なんとかなりそうか?」
「そうだね。いくつかの工程においては、十分すぎるくらい。もちろん完璧ではない」
ふたりの会話の意味が途端にわからない。なにを話しているんだろう。
きょとんとする私の御珠を、彼女が人差し指でとんと叩く。すると御珠から、うちの鍵と同じサイズの鍵の先端と、指輪が半分ほど顔を出した。
「いま使えるのは、これだけね。なるほど」
鍵と指輪を押し込んでから、御珠ごと手のひらでさらに押す。そして私の体内に戻してしまう。
そこまでしてから、彼女は私を見る目を細めた。
「櫛を出して、時を戻して、どんな因果があるのか調べてごらんなさい。手を抜かず、楽をせずに行うの。勤勉に生きなさい」
そう言うと、彼女が両手を掲げて強く叩いた。その途端に身体がふわりと浮かんだように、振り回されるような気持ちの悪い感覚に襲われて、バランスを取ろうとあわてて、ほとんど同時にまばたきしたときにはもう、お屋敷のいつものお部屋に戻っていた。
おじさんが私を呼び出して追い返すのと同じ、転移の術だ。彼女も使えるのか。
「うぷ」
ちょっと吐きそう。あんまり得意じゃないんだよなあ、この術をかけられるの。ジェットコースターで急加速で上昇、一気に下降する寸前に感じる浮遊感と、身体を襲う重力を身体中にあべこべに浴びせられるような、奇妙な感じがいやでたまらないのだ。
座布団に倒れ込んで寝そべり、なんとか気持ちが悪いのが収まるまでおとなしく休む。酩酊感のようなものが残って、胃のあたりがぎゅっと締めつけられるよう。胃酸でも出ているのか、むかむかしてくる。
鼻から息を吸って、新鮮な空気をめいっぱい吸うことに努めた。努めながら、思案する。
クシナダさまは手段を提示してくれた。
私には櫛を調べる術がある。
もう答えそのものと言ってもいい。
鍵と指輪を使って櫛から過去の因果を読み取り、それぞれから共通点を調べて、対処せよ。
いまの私には十分すぎるくらい役立つ知恵だ。なにをすればいいのかを端的に教えてくれたのだから、これ以上ないアドバイス。
だけど、的確な助言をもらって整理されたからこそ、トウヤの問いが私を浮き彫りにする。
私はどうしたいの? それをして、なにがどうなったらいいって思っているの?
クシナダさまの助言は、そこには答えない。というより、私以外のだれにも、そこを答えられるはずがない。だって、私がどうしたいかは、私の中にしかないのだ。だけど同時に、それは私が他者や世界と関わることでしか、見つけられないものでもある。
痛みの記憶がなぜ消えないのか。
そもそも痛みをどうしたいのか。
いや、ちがう。
痛みが生じたとき、どうしたいのか。どうしたかったのか。
わかるだろうか?
あのふたりはどうだろう。わからない。
あのふたりを通じて見た、私とカナタなら、どうかな。正直、ぜんぶはわからない。
トウヤが教えてくれた捉え方を振り返る。
過去になにがあったのか。そのときの痛みはなにか。痛みをどうしたいのか、どうしたかったのか。
ひとまず、このみっつの問いに限定したとき、私はどうしたいの? ひとつひとつを、分厚いマニュアルや、スマホのパーツひとつひとつを細かく理解するレベルで知りたいの? それとも、痛みの記憶を受けて、いまどうするかを知りたいの?
初心を見つけて、私を定める。そうして初めて、どれをどれくらい調べるのがいいかの指針ができる。どのみち、ある程度の調査と分析が求められるのは間違いない。だけど方向性がわかると、調査においても構築においても、やりようがわかるというものだ。
あのふたりを見ていると、私には、いま挙げたようなものがあるようには見えなかった。それは「あのふたりの真実」ではない。あくまでも「私から投射・転移して見える私自身の一部」に過ぎない。
とにかく現実ってやつは、いつだって複雑で、ままならない。
だけど私たちは創造的になり、可塑性を用いて、変わっていくことができる。
それは現実に対して、あまりに微々たるものに過ぎないときさえある。フランクルが記した収容所の生活のように。格差広がるうえでの貧困のように。住処を覆い、塗りつぶしていく戦争や紛争のように。両親の不仲や、自分を襲う虐待のように。学校になじめないどころか、加害を受けることさえ免れないように。会社や仕事においてもね。それぞれのスケールで、多種多様に、私たちの現実に現れる。事故や事件かもしれないし、災害かもしれない。それはいつ、いかなる形で生じるのかわからない。唯一たしかなことがあるとすれば、私たちは生まれていて、生きていて、いずれ必ず死ぬということだけ。
可塑性は別に絶対じゃない。あらゆる苦しみや死ぬことさえ含めた、生きることの意味について、私たちは答えるほかにないとして、可塑性は事態を解決するわけじゃない。
ただ、それでも、生きることの意味について問われているとして、フランクルは、それを具体的な行動をもって答えるのだとしたし? まさにそれこそが、トウヤが聞いてくれた「姉ちゃんはどうしたい?」の答えだ。
目の前のことをただ消化したり、勝ち負けに挑むだけだったり、障害をやり過ごしたり乗り越えたりするだけだと見えないもの。
私を私たらしめるもの。
それっていったいなに?
痛みの記憶はなぜ消えないの? 私を私たらしめるものって、いったいなに?
それはきっと、行動の中にある。
反応や、訴えが浮き彫りにしていくし?
なにより自分自身で答えていくものだ。
どうしたいのかを探るなら、どう生きたいのかを感じとるほかにない。
私たちは生きている。生きなければならない。あらゆる苦しみや痛みの待ち受ける、この人生を。
言い換えるなら? 私たちはこのあらゆる苦しみや痛みを、共に乗り越えたり、やり過ごしたりしていくことができる。その蓄積が、たしかに私たちのかかる病や疾患、傷をより癒やせるようになり、苦痛を減らすことができるようになった。石器時代に比べたら食に困る人が減り、食中毒に苦しむ人も減った。
それは大きな捉え方。小さな捉え方、個人に向けたとき、どうにかできる苦しみや痛みもある。対処範囲が増えることもある。だけど、なくすことはできないし、そもそも母数が多すぎる。
ベストカップルみたいなものに選ばれそうなあのふたりでさえ、ふたりが同じ個ではなく、他者と他者であることの苦しみから逃れられないようにね。
暴力、支配、抑圧は論外として、ままならないなりに「それでもあなたといる」ことって、私はとびきりロマンチックに感じる。自分の課題をどうにかしてでも、あるいはどうにかならないとしても自分なりに依存と接続してやりくりしながらでも、あなたといたいって。
転じて私たちは自分の問題をどうにかしてもらうために他者を求めるのではなくて、自分の問題の答えや解決をさせるために他者を求めるのでもなくてさ? 自分の問題を抱えながら、それでもだいじょうぶだと思いたいとき、他者を必要とするのだろう。
私がお母さんたち、キラリに求めたもの。求め方を誤っていたときの私を放っておかないことで、結ちゃんが遠回しに、しばしば間違えながらも伝えつづけてくれていたものだ。
シュウさんが脅かされてカナタを責め、脅かされたカナタはシュウさんに反発していたとき、ふたりが本当に必要としていたものだし? ソウイチさんには、それをどうすることもできなかった。彼もまた、必要としていた。だれかじゃだめで、こどもたちでもだめ。サクラさんこそ求めていた。
人や縁を失ったり、奪われたりするのって、もうとんでもない加害だ。被害になるんだ。争いは収奪や喪失を量産する。人を狂わせ破壊する加害を膨大な規模で行うのだから。当然、規模が一対一であっても十分すぎるほどのダメージを与えるし? 八尾を注がれた私みたいに、自分でいられなくなるようなダメージもまた、深刻だ。
それでも、いやだからこそ、問われている。
あなたはどうしたい?
「そっか。痛みは問いかけてるんだ」
どうしたい? どうしたかった? って。
必死になって問いかけている。
痛みを与えてきただれかが、じゃない。痛みを感じた自分自身が問いかけている。とても不器用に。とても大きな刺激を伴って、訴えてくる。
痛くないのがいい。この痛みをどうにかして! って、なるよ。
おまけに痛みが十分な問いかけであるとはかぎらない。
現実はよっぽど複雑でままならないからさ?
可塑性を用いて、創造的に、工夫しながら、ときには日曜大工のように取り組んでいく。答えや解決のないことでさえ。そのときはより強く問われているし? それらの必要性がないときさえ問われつづけている。
「姉ちゃんはどうしたい、ね」
どうしたいんだろうね?
つづく!
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