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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二十四章 越えろ、士道誠心バトルロイヤル!

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第二百八十六話

 



 ニナ先生が次にみんなに出した指示は座ることだった。


「いろいろ考えてはあるのだけど……今日の残りの時間を、星蘭と北斗のみなさんを迎えて中途半端に消費してもしょうがないから。星蘭の安倍くん、北斗の金長さん、士道誠心の青澄さん。立ってくれるかしら」


 ニナ先生に呼ばれるままに立ち上がる。

 右手にユウジンくん、左手にレンちゃんがいた。綺麗に学校別に分かれている。だから改めて気づくの。星蘭の生徒が圧倒的に多い。割合としては星蘭が七割。二割が士道誠心で、一割が北斗。そういえば京都で見かけた邪はみんな妖怪だった。それと何か関係があるのかな?


「さてさて……」


 ジャージのジャケットの内側にどう隠してあったのか、狐の面を出して顔につけるとユウジンくんは言うの。


「せんせ。どないな授業しはるんですか?」

「狐が……だまってろ……」

「狸がやかましいわ」

「……ちっ」


 レンちゃんとユウジンくん、楽しそうだなあ。どっちも笑ってるんだから、おっかないといえばおっかないけど。

 それ以上に楽しそうに笑っているのがニナ先生だというから、頼もしいのかなんなのか。


「妖怪の御霊を抜いた生徒はね? どんな妖怪であろうとも、霊力を妖怪の特質にあった妖力を手にできるの……星蘭のみなさんはご存じよね?」


 星蘭の人たちが頷いた。


「単純に霊力と言っても、それは一口には説明できず……けれど刀を携えて戦うなら知らなければならない力。さあ、安倍くんに質問です」

「クイズね……なんやろね?」

「霊力と妖力の違いは?」

「簡単や。霊力は純粋な心の力。存在しようという力ともいう。万物に宿り、生き物はさらに意思で増幅されるものやね」


 優雅に話すユウジンくんをレンちゃんが凄い目つきで睨んでる。対抗心燃やしているの丸わかりだ。けれどユウジンくんは構わずに続ける。


「対して妖力は、妖怪としての力。御霊の持つ力であり、御霊の持ち主の心持ち次第で増幅される。故に、妖怪の御霊を抜いた生徒は刀や剣士の御霊を抜いた生徒に比べて身体能力に秀でたうえ、特殊な力を振るうことができる」

「よくできました」


 拍手をするニナ先生の顔に花が咲くような笑いが。星蘭の男の子たちが見惚れているけど、美人でももう人妻ですよ……!


「じゃあ金長さん。神さまの御霊を抜いた生徒たちと比べると妖力はどうかしら。有効? それとも不利?」


 やっと私の出番きた! みたいに嬉しそうに笑うから、レンちゃんって素直だなあって思う。


「刀や剣士の御霊を抜いた人たちとレンたちみたいなもの。ようは、自分の特性を知り、相手の特性を見極めて、どう戦うのかがポイント! ですよね? 褒めていいんですよ?」

「ですが」

「えっ」


 レンちゃんの顔が見事に強ばった。


「自分と相手の特性はどう見極めるべきかしら? そして、それによる利点はなにがある?」

「え。え。ええと。ええと。ええ?」


 狼狽してそばにいる北斗の人たちを見るけど、レンちゃんの仲間のみなさんはそっと目をそらしている。気持ちはわかる。私もわからないことならああしたくなるもん。


「み、きわめる、のは……ええ? えっと……が、がちんこ?」

「ずいぶんお手軽やね」

「うっさい! 仮面を外せ!」

「無理やね。きみ、見たら怒るし」

「……くうう! 黙って見てないで、春灯! なんか言いなさいよ!」

「ぶえっ!? わ、私に振るの? ええ?」


 思わず尻尾を立てちゃった。

 顎に指を当てて考えて、考えぬいてから呟く。


「がちんこ?」

「それさっきレンが言ったから!」

「……どや顔するところじゃないと思う」

「なによ」

「な、なんでも」


 視線が。視線の圧がすごい。


「簡単やね。妖力は妖怪の力のあらわれ。刀や剣士、神の御霊を抜いたもんも同じように、それぞれの力を刀を得て獲得してはる……なら、大事なのはその力を感じ取ること。感受性と感応力」

「そうね、安倍くんの言うとおり。じゃあ続けて質問しちゃいましょう。なら安倍くんは、その大事な二つを鍛えると、どんな利点があると思うのかしら」

「自分の御霊の力をより発揮できるようになる……せんせ、これは九尾に聞いた方がええよ。今日は一本だけで調子わるそやけど」


 星蘭の人たちが笑う。北斗の人たちは冷たい視線を送ってくる。

 ホームなのにマジでアウェーな空気感、たまりません!


『これ、おぬしの未来に関わる話じゃ。よう聞かんか』


 が、がんばります……!


「前哨戦はしないで、明日ぶつけてね? さて、最後の問題です。あなたたちの二つの力を鍛えるためには、どうすればいいでしょう?」


 わからない。みんな黙り込んじゃった。レンちゃんも戸惑っている。顔が見えないのは唯一、ユウジンくんだけ。だけど私にはわかっちゃった。ユウジンくん、きっといま楽しくて仕方ない顔をしているに違いない。ユウジンくんの尻尾の動きには覚えがあるもん。ぴこぴこ動いているからわかりやすいよ!

 そんな中で、真っ先に手をあげたのはトラジくんだった。


「先生、俺……知りたいです。強くなりてえし、御霊の名前も知りてえんだ。方法はなんですか?」

「トラジくん……お姉さんはなんて?」

「……姉貴、しってるんですか?」


 トラジくんが驚いている。大事な話なのかも。だけど口を挟めない。


「同期だし、あなたの担任だからね。それはいずれ話すとして……それで? なんて言っていた?」


 ニナ先生が先を促すと、トラジくんは呟いた。


「窮地になれば自ずとわかる、と。でも、感受性ってそんなもんで鍛えられるのか? 感応力ってのもよくわからねえ」

「……わかった」


 一人、呟いて立ち上がったのはマドカだった。


「感受性、つまり感じ取る感性。そして受け入れる力。つまり、御霊の妖怪と同じように感じ取り、受け入れる力」

「続けて?」


 ニナ先生、今日はずっと嬉しそうだ。


「感応力。たぶんこの場合、何かの事態に心が揺れ動く力。そしてきっと、御霊を信じる意思……だから窮地なんだ」

「山吹さん。みなさんにわかるように、どうぞ説明してあげて?」


 まるでマドカの考えていることが正解だと認めるような言い方だった。

 だから改めて思う。西に安倍ユウジンがいるのなら、東には山吹マドカがいるのかもしれない。

 なんであれだけのヒントでわかるのか、私にはさっぱりわからないんだ。

 そんなもやもやに形を与えるように、マドカはゆっくりと喋るの。


「危機に瀕した時ほど、思考はシンプルになる。刃物を持った男に迫られて、普段と同じような思考をする人はいない。手元に刀があるのなら、余計にね……」

「どういうことだよ」

「トラジくん。あなたなら……――」


 突然、マドカが抜刀した。

 刀がトラジくんの首を狙う。とっさにトラジくんは両手を掲げて防御した。

 マドカの突然の一撃はトラジくんの腕にはじきとばされて、防がれる。


「……ね? シンプル」

「わけがわからねえんだが……ケンカ売られてんのか?」

「違う違う。それより教えてよ。刀を抜いた方が確実なのに、なんで腕で防いだの?」

「そりゃあ……てめえの拳の方が使い慣れてるしな。刀を抜いて防御できるほど、慣れてねえんだ」

「……じゃあ質問。なんで、私の刀の攻撃を防げたの? その腕は鋼鉄か何かでできてるの?」

「は? そりゃあ……なんでだ?」


 目を白黒させるトラジくんから刀を離して、鞘へとおさめるとマドカは説明してくれた。


「たぶん刀や剣士の御霊より、神さまの御霊よりもっと素直に私たちは生きてる。信じられるものを信じるように振るえるのが、事象に当てはめられて想起され生まれた妖怪の本質なのかもしれない」


 心の中でタマちゃんが愉快そうに笑う。


「あれは妖怪の仕業に違いない……とね。特に星蘭にはたくさんいるみたいだけど」


 マドカが意図的に星蘭の人たちを見た。


「信じる限り御霊は応えてくれる。刀鍛冶に鍛えられて私たちは研ぎ澄まされていく。そして窮地に立ってシンプルに行動せざるを得ない時ほど、感受性と感応力が研ぎ澄まされる」

「なんで?」

「金長さん。じゃあ逆に聞くけど……余裕があるときに刀を信じるのと、敵に狙われて危険な状況で刀を信じるのとどちらがより本気になれる?」

「……そりゃあ。ちっ。答えを誘導されるの、レン好きじゃない」

「まあ、だから……そういうこと。トラジくんも、焦らなくても力の種は既に芽吹いている。私の光が感じてる。あなたは刀を抜きながら、しかし刀を振るわずに戦える素質がある」


 ものすごいコピー能力を持っているマドカならではの言葉だった。

 もちろん、そうだとわかったのはきっと私だけだろうけど。


「ニナ先生とトラジくんの質問に答えを。質問はこう。鍛えるためにはどうする? ならば答えは一つ。全力で競い、戦って、刀を信じること。以上です」

「はい、百点。そういうことです」


 ぽんと手を合わせたニナ先生が言うの。


「星蘭は実践的な戦いと組み手を繰り返す。北斗は厳しい大地に生まれた神性の高い邪との戦いを経験する。士道誠心は欲望はびこる首都の邪を討伐することで……鍛えています」


 整理された情報に思わず聞き返したくなった。

 星蘭のカリキュラムについては、以前の交流戦で体感したからわかっている。

 でも、じゃあ……北斗は?

 神性の高い邪って……北海道の隔離世はじゃあ、強くて危険な邪がいるの?

 けれど尋ねる時間は与えられなかった。チャイムが鳴ってしまったんだ。


「明日のバトルロイヤルが、みなさんにとって今よりもっと刀を信じられる機会になればいいと願っています。ケガはしないようにね? 以上で終了です。おつかれさまでした」


 みんなが次々と立ち上がって解散していく中、私は呟いた。


「戦うしかない……のかな」


 刀を信じるためには。

 でも私はそれだけじゃないと、思わずにはいられなかった。

 十兵衞しか抜いていなかったのなら、或いは素直に信じていたのかもしれない。

 だけどタマちゃんを信じるようになっていったのは、十兵衞を大好きになっていったのは……どれも戦いによるものだけじゃなかった。

 もしかしたら、みんなのためにできる何かの答えはそこにあるのかもしれない。

 そう思ったら、いてもたってもいられなくなったのでした。


 ◆


 沢城、と呼び止められてふり返る。

 星蘭の立浪シン。

 侍や剣士、浪士の御霊を抜いた生徒の特別クラスと、刀の御霊を抜いた生徒の特別クラスは合同で組み手をやらされた。

 獅子王のおっさんは言った。両者は近しい関係にあるがゆえに響き合い、その素質を高めるのだと。俺、沢城ギンの場合はどうやら立浪シンが特に相性がいいようだった。

 ポニーテールを揺らすシンと二人でずっと斬り合っていたし、話ならそれで十分済んだと思ったんだが……違うようだ。


「なんだ?」

「昨夜のメッセージの返事がないんでな」

「……ああ」


 そう。前回の交流戦で連絡先を交換してからはよく連絡を取り合っていた。

 けど昨日はバイトしていたしな。忙しくて返信できなかったんだ。

 ちなみにシンの刀鍛冶とノンも同じタイミングで連絡をとるようになっているが、それは小話だな。


「久しぶりに会った挨拶がこれじゃ……いよいよ俺たちは現代の人間でいられないらしい」

「いいじゃねえか。俺もてめえも、きっとまともに生きていくにはつらい時代だ」

「違いない」


 シンが差し出してきた拳に己の拳を合わせた。


「なあ……沢城」

「ギンでいいって何度も言ったろ」

「む……すまん。ギン、俺は思う。神や妖怪の御霊を抜いた奴らに、俺たちはいつまで遅れをとり続ければいい?」

「……ああ」


 笑った。バカにするんじゃなく、こいつも同じ悩みを抱えていたんだと安心して。


「身体能力をどれほど鍛え、刀やかつて死した男の魂の望むよう刀鍛冶にどれほど鍛えられようと……断絶がある。俺はな……ギン」


 耳元に唇を寄せて、囁きやがった。


「すべての侍を斬りたい。ユウジンや鹿野すらも……この手で斬りたい」


 普通の神経した連中なら、それこそぞっとするような告白だった。

 けどそれは俺やシンのような人種の人間にとっちゃ、愛の告白にも等しい。

 俺の瞳に宿る光に気づいたシンが嬉しそうに笑う。


「やはり……こちら側だな、お前も」

「人斬りの御霊を持ったてめえと、人を斬った刀が集まってできたみてえな妖刀の御霊を持った俺だからな」

「……なら、ギン。俺と一緒に夜を過ごさないか? 一つ、試してみたい技がある」

「いいのかよ、敵に塩を送るような真似して」

「波長が合う敵は明日の友だ。きっと……お前を越える敵はこの先一生あらわれない。だから俺はお前と高みへ昇りたい」


 いいぜ、と……きっと、入学した当初の俺なら迷わず答えていただろう。

 強くなるために。どんな敵さえ切り裂いて、自分の道を押し通るために。

 なんだって手に入れようとしただろう。

 けど、俺は頭を振った。


「……考えとくよ」


 シンは俺を一瞬、睨みこそしたが……すぐに笑った。


「刀鍛冶か」

「なんだ……お見通しか」

「現世への執着が見える。いい刀鍛冶を持っているな……」


 てっきり罵倒されるかと思ったが、意外と懐が深い。


「てめえはどうなんだ? 付き合ってるんじゃねえのか」

「ふっ。愛は……そうだな。一時はいいが、しかし渇望を癒やしはしない。魂を」

「ぶつけあい、削り合って得られる刹那の快楽がいいのはわかってるよ」

「さすがだ……気が向いたら連絡してくれ」


 俺の肩を叩いて、シンは言っちまった。

 星蘭の生徒は合同授業に出た連中の中でも多い方だが、シンは間違いなく一番強く、特別強い。

 北斗の生徒は、こういっちゃなんだがお上品なお嬢さまが多い。決して柔じゃなく、むしろ厳しさを感じる打ち込みをしている奴もいたが。

 そこへいくと一番なまってんのは、俺たち士道誠心なのかもしれない。

 零組他三人、特に狛火野ユウを筆頭にして、仲間トモ、八葉カゲロウ……結城シロ。他にも九組の連中はずいぶんマシに斬り合うようになったが、それでも他のクラスの連中は見よう見まねのへっぽこが目立つ。

 強いて言えば十組の鷲頭とかいったか。ちゃらい奴だけはずっと敵の攻撃を避け続けるだけの素質を見せていたが……それでもまだまだだ。

 状況は正直に言って芳しくない。このままいくと、明日は苦戦するのが目に見えている。

 教室へ戻って着替えていたら、扉をノックする音が聞こえた。

 レオやタツの野郎の彼女かと思いきや、違った。

 扉を開けて目にしたのは、ノンだった。俺の瞳を見て、それからたまらなくなった顔して手を繋いでくる。

 あたたかくて安らぐ甘い感覚が俺の心に伸びてくる。じっと見つめていたら、ノンは悲しそうに顔を歪めて俯いた。


「す、すみなせん――……立浪さんと、戦ったって、きいて」

「心配になったか?」

「……あの人、隔離世の刀がなかったら、きっと……人を傷つけずにはいられない、人です」

「俺もそう思うよ」


 シンには悪いが……きっと格闘技とか、警備員とか……傭兵とか。

 そんな暴力の世界じゃなきゃ生きていられないような類いの人間だ。俺も、そうだろう。


「ちがう。ギンは……違います」

「……ノン?」


 いやだ、そうじゃないんだと訴えるようにノンが頭を振った。

 甘ったるい感覚の向こうから、鮮烈な怒りと悲しみが伝わってくる。

 心を繋ぐ。刀鍛冶が特別な相手にのみ行う、特殊な霊子のやりとり。

 ノンの気持ちが痛いくらい伝わってくる。


「妖刀は、人を斬るためにあるのかもしれません。だけど、だけど……刀は人を守るためにも振るえるはずです」


 向けられた言葉にどう答えようか、悩んだ。


「ギンは誰かを斬って自分の利を得るんじゃない。自分を助けるために振るうことだって、できるはずです」

「……ハルやコマじゃあるまいし」

「できます! 血を吸わずにいられない、そんな伝説なんかに振り回されないで……刀に握られないで。ノンの侍は、そんなに情けない人じゃありません」

「……わかった。わかったから」


 感情が高ぶっている。その理由にも、繋がっているから気づく。

 俺がバイトのことを内緒にしていたことがショックだったろうし、気づけなかったことで自分を責めているし。なにより……不安なんだろう。

 シンとやりあっていると、引きずられてどんどんアイツの領域に踏み込んでいく。そんな感覚に陥ることがある。

 俺もわかる。オヤジに先立たれて一人になったお袋を悪く言ったヤツや、妹をいじめる野郎があらわれるたびに……斬れたらどんなに楽だろうと思ったことが何度もある。

 踏みとどまるのはいつだって、臭い言い方だが家族や大事な奴がいるからだ。

 いつかトーナメントでハルとやりあった時だって、俺を引き留めたのはノンだ。俺の心を、刹那の快楽から引きはがして生かしてくれるのは、ノンなんだ。


「次の授業が始まる。戻れ……大丈夫だから」

「……はい、です」


 しょぼくれた頭を掴んで、乱暴に髪を乱すように撫でる。


「わ、わ!?」

「一つ教えろ、ノン」

「な、なにをです?」

「てめえの信じる最強は、相手が神や妖怪だろうが……負けるか?」


 頭を両手で押さえて涙目になったノンは、それでもいつものように断言した。


「ノンの最強は、誰が相手でも絶対に負けません!」

「……ああ」


 そういうと思った。けど……ノン。てめえのその言葉が聞きたかった。


「俺もそう思うよ。じゃあ、いけ。今夜、続きを話すから。いいな?」

「はいです!」


 駆けていく背中を見送って、それからため息まじりにふり返った。


「で? てめえらはなにがそんなにおかしいんだ? 三人揃ってにやけた面しやがって」


 レオもタツもコマも、楽しそうに笑うだけだった。

 ったく……。


「それで? 実際、どうやって戦う気なんだい?」

「合同クラスでやった連中しかいねえから……まあぶっちゃけるけどな」


 深呼吸をしてから、笑う。


「あいつらがどんなに御霊を信じようが、刀を抜いて持ってんのはどこまでいっても人なんだ。ならオカルトじみた力ごと、まとめて切り裂いてやる」

「……おっかないな」

「妖刀ってのは、そんなもんだろ? ……まあ、見てろよ」


 シン、てめえとやり合えてよかった。

 わかったことがあるからな。あとは……それを試すだけだ。

 だから、わりいが今夜はなしだ。

 明日、斬るまで待ってろ……じゃないと、お互い、ケリを今夜つけちまうだろ?

 それじゃあ盛り上がらない。


「……はっ」


 笑えるな。てめえの学生生活がかかってるっつうのに。

 楽しみで仕方ねえんだ。

 ハル、最高の機会をくれたぜ、てめえは。

 刀で守ってみせるさ、自分の未来をな。

 そのためにも……夜。

 ノンとしなきゃならねえことがある。

 殺すのではなく、生きるために。

 お前の愛を、もっと俺にくれよ……なあ、ノン。




 つづく。

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