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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千八百四十六話

 



 ただ、願う。

 土へ。あらゆる感情よ、土へ。

 金色雲で浮かぶ私のずっと下、いつ火がついてもおかしくない液体から飛沫があがる。そこかしこの液体の水たまりから、次から次へと。ぶくぶくと泡立ち、弾けた泡の内からなにかが生えた。手であり、肩であり、頭だ。身体に腕。沼から引きずり出した溶岩のように赤く黒い人の形が、次から次へと。

 喘ぐように。面相も不確かで、すぐさまどろりと崩れる顔で、私を見上げている。


『ハルさん! いますぐ吸引を』

「待って! まだだいじょうぶ!」


 ノンちゃんに急いで答えた。

 当初の予定通りになかに引きずり込まれてしまったら、なにか、致命的な見落としをする。その直感と共に、金色雲のうえで屈んで、うえから覆いかぶさるように抱きついて見下ろした。

 いくつもの唇が動いている。訴えている。

 四文字か、三文字を繰り返している。

 うたって、と。はるひ、と。

 私には、そう見えた。

 男か女か、若いのか老いているのか、それさえ満足に判別できないほどどろどろのみんなが私を見上げている。よくよく見ると、手を振ったり、なにか棒を持って振っている人までいた。


「歌わなきゃ」


 他でもない私が。


『は!?』

『な、なんでぇ!?』

「みんなが待ってる。私は歌わなきゃ」

『意味がわからないぞ、青澄くん! いまはひとまず――』

『いや、やってみせて。春灯。やれるだけ』


 レオくんが待ったをかけるけど、マドカが割って入って背中を押してくれた。

 私は即座に金色雲をみっつほどつくって、一部をスピーカーに化かしてケーブルで接続。金色化け術ギターを出して、シールドを接続。

 でも、じゃあ、なにを? そう疑問を抱いたとき、なにかがぴかっと光った。どろどろの液体を吐きだしていた霊子の渦が気づけば電光掲示板に化けていて、三行二列の文字を表示している。

 びかびかの金色の文字で「青澄春灯にリクエスト」、上位五曲を。

 back number「クリスマスソング」、宇多田ヒカル「First Love」、童子-T「better days feat.加藤ミリヤ、田中ロウマ」、DREAMS COME TRUE「LOVE LOVE LOVE」。

 い、いろいろ時代が別々な曲をご所望で!

 トシさんにあれこれ連れてってもらって、いろんな人に紹介してもらって、いっぱい歌っておいてよかった。親戚のお姉ちゃんとか、おばあちゃんの好みとか押さえるようにしといて、ほんとによかった!

 かろうじて、なんとかなる!

 だけどラブソングに偏っているのは、なんでじゃろ?

 会いたい人がいるのかな。心残りな愛情があるのかな。

 楽譜の確認。コード検索、チェック。ここにトシさんたちがいてくれたらと思うけど、危なすぎてやめといたほうがいいと思い直す。

 基本的にしっとりとしたものばかり。お水がほしくなるし、事前に声の準備をしておきゃよかった。

 マイクを化け術で出して、ヘルメットは丸ごとイヤモニに化かしてしまえ。むわっと猛烈な熱気に一瞬、めまいがする。なら、顔のそばに金色を散らして、意図して水に変える。定期的に冷ましてしまえばいいじゃない。

 首回りから冷たい風が出てくるようにチューブを化け術で出して、セット。


「すこし、クリスマスには早いけど。上位から、どんどん応えていくね?」


 金色雲に腰掛ける。弦のチューニングをさっと済ませる傍らで「音量等々調整中」というルミナの声をイヤモニ越しに聴く。足元ではいまも人が増えつづけている。みんなが私を見上げて待っている。

 私の歌を? たぶん、そうだけど、そうじゃない。

 腰掛けている私の唇に高さが合うようにマイクスタンドを出して、マイクをセット。

 声を出して、調整を待つ。ルミナとのやりとりの間に、通信の向こうでノノカたち吹部のみんなが参加して大慌てであれこれ手伝ってくれているようだ。五分はかからなかったと信じたい。

 準備ができた。カウントを入れてから、口ずさむ。


「――……」


 歌い出すと掲示板に「歌唱中」と表示される。

 掲示板の表示がめまぐるしく変わり、六位から先の希望楽曲が並んでいく。谷村新司「昴」、赤い鳥「翼をください」なんてしれっと混じっているのにビビる。

 あの地下室の情報は、それこそ、四十年から五十年近く昔、昭和を生きた人の魂さえ記録していたというのか。そのわりには清水翔太&加藤ミリヤ「Love Forever」とかEXILE「Lovers Again」とかも入ってくるから侮れない。

 福山雅治「milk tea」とか、ORANGE RANGE「花」、大塚愛「プラネタリウム」とか。二千年代の曲も目立つ。

 失恋を軸にしたものか、それともあなたを愛していて忘れないという願いの歌なのか。

 なんであれ、歌詞にできるだけ思いを込めて、ついでに金色を散らしながら歌う。熱気は変わらず。おかげで水の術を使い続けなきゃ間に合わない。

 眼下の人たちが腕を振り、口を動かしている。私の目の錯覚でなければ、彼らは一緒に歌ってくれている。サイリウム代わりの棒をちぐはぐなリズムで振る人も多い。大勢いるなかで、何人かが目に涙を浮かべている。曲を通じて、なにか思い出すことがあるからなのか。

 ならば、彼らにこそ届くように金色をもっともっと飛ばして届けるよ。

 あなたの取り戻したいもの、伝えたかった相手、いまはそばに行くことも叶わないだれかの顔が思い浮かぶかぎり、あなたを見つめる立体映像になるように。そう願いをかけて。

 あんまり幸せな歌もなく、あんまり幸せな笑顔を見つけられることもなく、大量に人が増えていくなかで、涙する人が静かに沈んで消えていく。

 いまさら止まれない。リクエストは止まらない。

 歌うほどにリクエストがかかる。

 THE YELLOW MONKEY「プライマル。」とか、LUNA SEA「Love Song」とか、Bonnie Pink「A Perfect Sky」なんかも入ってくる。お父さんたちの学生時代の頃かな? もうちょっと前? なぞ! でも、歌っていくと年代かぶりゾーンがなんとなく見えてくる。Cocco「強く儚い者たち」とか、山崎まさよし「One more time, One more chance」とかね。

 そのあたりの楽曲を歌いきるとポケットビスケッツ「POWER」から始まって、サンボマスター「世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ」とか、きゃりーぱみゅぱみゅ「ファッションモンスター」とか、雰囲気がぐっと変わってくる。

 いろんな人たちがいて、いろんな表情を見せるようになってくる。

 怒っている顔、笑っている顔、祈るように目を閉じて手を組んでいる人や、拳を振り上げてノリたがってる人。ほんと、いまでのどのライブよりも自由に彼らはなにかを求めて訴えている。

 米津玄師「LOSER」、UVERworld「Fight For Liberty」あたりにくると、彼らはとうとう声をあげるようになった。

 しっとり曲のときにはなにかを抱いて沈んで消えていくばかりだったのにな。思いきり声をあげたり、私の振りの煽りに合わせて応じたりすることに彼らは満足したり、まだまだ足りないとばかりに激しい曲のリクエストが表示されるようになっていく。

 もうなんでもこいと歌いに歌った。金色をこれでもかと散らしに散らして。back number「青い春」を歌ったお次はクレイジーケンバンド「タイガー&ドラゴン」、ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソラニン」、徐々に雰囲気が変わってくる。GReeeeN「キセキ」にたどりついたときには「お、そろそろ一休みか終わりのタイミングでは?」と期待したけど、そうもいかないようだった。

 液体はほとんど人に変わっていた。土塊と熱でできた人の半数ほどは満足して土塊に戻っていったけれど、まだ残っている。ざっと見てちょっとしたアリーナを埋め尽くすくらいの人数が集まっている。

 まじかー。

 まるでカラオケの空気の読み合いみたいに、異なる年代や異なる曲調、マイナーっぽいものは入りにくいのだろうか。残り三曲に近づいたとき、思い出したように、ぴっ、ぴっと追加される。

 美空ひばり「川の流れのように」、大事MANブラザーズバンド「それが大事」でしょ? この流れならいける! と思ったのか、B'z「いつかのメリークリスマス」が入る。藤井フミヤの「TRUE LOVE」とか。Mr.Children「innocent world」とか。

 トシさんの居酒屋通いに付き合ってなかったら、押さえられなかった曲ばかりだ。

 サザンオールスターズの「涙のキッス」あたりで、さすがに喉が疲れてきたし、渇いてもきた。


「ごめん、ちょっとお水飲ませて? みんなもお水いらない?」


 呼びかけて反応を伺う。そんなことよりも次をと言わんばかりの拍手と足慣らしが続いた。参ったね!

 スーツの中はもう熱気と汗にまみれてひどい。

 ドローンが飛んできて、魔法瓶のボトルをふたつ挟んでいたから受けとる。


『水分補給を』

『土塊になったものは回収して保管済みです』

『まだ長丁場になりそうですけど、まだいけます?』


 ノンちゃんやルミナたちの問いに答えるよりも、まず魔法瓶の中身を一気に飲み干す。

 よく冷えたお水だった。あんまり冷やすのもって話なんだけど、いまは、蒸し暑くて高音なのだから、許してほしい。ちょいちょい霧吹きみたいに水の術を使って気温を下げようと試みてはいるんだけどね。足りない。


「みんな、諦めたくない、諦められないなにかがあるんだね」


 マイクを通してスピーカーから私の声が響いていく。

 足元から拍手がさざ波のように起きた。

 リクエスト曲が合致していたか、あるいは自分に合った曲に、私の金色を抱いて沈んでいった人たちに比べると、いま残っている人たちはもっとなにか訴えずにはいられない、歌わずにはいられないし、叫ばずにはいられないなにかがあるのか。

 それとも素直になれないのか。


「順序を変えるね。小田和正さんで、ラブ・ストーリーは突然に」


 昔のドラマの主題歌なんだって。

 居酒屋のおじさんたちが、ヒロイン役の女優さんと、その台詞をよく覚えていて教えてくれた。

 奔放で捉えどころのないキャリアの女性の先輩に、振り回されながらもそれが楽しくなってる後輩新人男性。彼には地元に恋人がいるんだけど、恋人はチャラく見えて一途な男といい感じになってる。

 先輩は後輩が好き。だからあくる日に誘うんだ。「セックスしよ」って。

 だけど、だれが好きで、だれを大事にするかで主人公の後輩はとにかく終始、ふらふらふらふら。

 先輩はほんとにいい人で、居酒屋で語るおじさんたちの憧れの存在。でも、彼女は身を引く。ひとり、電車で涙しながら去っていくのだという。切ない。

 そんなドラマのテーマソング。

 なにかがずれて、どこかが噛みあわなくて、最高で最良のふたりだったのに、運命だったはずなのに、台無しになっていく。過去になって、思い出になって、思い出せなくなっていく。

 そんな歌ばかりだった。この曲だってそうだ。

 でも、同じ時代にヒットした曲がある。KAN「愛は勝つ」。

 ド直球に励ます歌詞と、真っ正直な歌い方で訴える。


「――……」


 でもって、この手の歌詞を彼らに歌うと、いまいち響かない。ノリが引いてしまう。

 年代がピンとこないからっていう、それだけが理由じゃない。あてはまってる層もいる。リクエストにがっちり入っている一曲なんだから。

 そうじゃなくて、がんばろうとか、まだやれるとか、私たちこうやって生きようぜ、みたいな曲だと、土に戻っていくほどのなにかに届かない。

 私になにかが足りてないからか。届けきれないものがあるからなのか。

 最後に愛が勝たなかったから?

 わからないままTHE YELLOW MONKEY「LOVE LOVE SHOW」、UVERworld「一滴の影響」、Miquel「Remember me」と流れていく。西野カナ「No.1」、からのSURFACE「それじゃあバイバイ」。玉置浩二「田園」、大黒摩季「ら・ら・ら」になる頃には通信の向こうで「親世代が見る懐メロ特集かなにか」というツッコミが聞こえてきた。

 DAOKOx米津玄師「打上花火」に至ってようやく、うちの仲間勢が「知ってる曲になった」というリアクション。対して私の眼下にお集まりのみなさんは、新しめだと反応が鈍い。美空ひばりをリクエストした人たちは無事に満たされただろうか。本当ならもっと演歌を聴きたいんじゃないだろうか。

 竹内まりや「PLASTIC LOVE」、松原みき「真夜中のドア~stay with me」のようにシティポップでにわかに人気が再燃している楽曲のリクエストも入る。

 さすがに指が限界になってきた。練習不足が祟る。放っておけないとばかりにマシンロボから金色雲が飛んできた。私の力をコピーしてやってきたマドカが、ノノカだけじゃなくて、ノノカの吹部仲間を連れてきたのだ。楽器は既に用意されていて、私のそばに来ると「ギター代わりに」と言ってくれた。イチゴ、コトネにアヤネ、ミユウ。それにヒヨリを連れた合計六人。

 楽器編成はドラム、シンセサイザー、ベースにギター。トランペットとサックス。

 そもそも完全再現からほど遠い私の曲でも乗ってくれるお客さんたちだ。ノノカたちが楽器とスピーカーの接続などを済ませると簡単に音のチェック。あれこれ確認してから、次へと向かう。

 どんな曲でもひとりやふたりは満たされたように土塊になっていく。

 だとしたら、みんなが満たされることがひとまずの目標だ。

 マドカが私のギターを引きうけてくれて、おまけにスーツについてたホースを外して空調機に変えてくれた。私よりも化け術の心得があるのでは、なんて邪推しちゃうくらい頼もしい。

 ならばいっそ指を鳴らしてキューブスーツを化かす。黒いキャミと運動用のショートパンツに変える。

 いまならパンツさえ絞れば汗が出るくらいだ。うんざり! 早く着替えればよかった。

 ううん、解放感!


「ボカロのリクエストないね」

「それ思った」


 ヒヨリの呟きにイチゴが乗っかる。

 言われてみればたしかにそうだ。なにか理由でもあるんだろうか?

 そんな話をしていたって、リクエストに変化はない。せいぜい増えるくらいのものである。

 人が減っていけば減っていくほど、手強い人か、歌に乗り気じゃない人、いっそ嫌悪している人とか、そもそも聞くどころじゃない人とかが残っていくのでは。そう見立てていたけど、そんなことはなかった。

 初めてのライブ会場で見た景色と、なにも変わらなかったから。

 だからきっと、私がいまの術で呼び出せた人たちみんな、そもそも「私のライブに来てくれる」という条件を満たした人だけなんだろう。私の干渉に応じて、来てくれた人たちだけなんだろう。

 ああ。未熟。

 リクエストされないという意味では、私の楽曲も当たり前のように一曲も入らない。

 せちがらい! 泣けるぅ! 仕事がんばりたいのに、なかなか次にシフトしていっていない。つらい!

 それはそれとして、歌う。

 私の中の魂たちが呼応するようなこともなく、私はただただ、彼らの力になるよう祈って金色を放ちながら歌い続ける。

 土は悩み。悩みに歌を。聞いて満たされていく、そんな情報ばかりに触れている。

 そこには偏りがある。一見すると私はできることをやれているかのようだけど、ちがう。表に出ていない、出てこないものに私は触れられない。繋がれない。

 個人的にね? 世の中の楽しいことって、元気と意欲を求める。転じて、かつ、総じてある程度は疲れることだ。でさ。つらいときに助けを求めたり、刺激の反応に対して正直に痛いって認めたりするのは、もっともっと疲れることだ。なのに、たくさんの元気と意欲を求める。

 慣れてたら、ハードルは下がる。得意なら、やっぱりずっとやりやすい。けど、そうじゃなかったら? たいへんだ。

 そのたいへんなだれかたちに繋がろうとすると、いまの私の術では足りない。

 そもそも出てきてくれた人たちでさえ、熱を増して赤く染まりながら訴えている。

 もっと。もっと。

 赤熱する人が増えるにつれて、リクエストも激しめな楽曲が増えてくる。私の感情に引きずられて、私の金色も色合いが変わっていく。いまでさえ木火土金水が出ているのか。考える余裕も、金色を操る余裕もない。ただただ夢中で歌い続ける。

 X「紅」。B'z「LOVE PHANTOM」。GLAY「千ノナイフガ胸ヲ刺ス」。トシさんたちが若い頃に全盛期だったというもの。びじゅあるけい?

 からの中島美嘉「GLAMOROUS SKY」とか、いきものがかり「じょいふる」とか、ひとしきり歌いきってひと息つける曲はこないかと思っているのにSEKAI NO OWARI「RPG」とか、サカナクション「新宝島」に。

 バンドになってくれたみんなが対応しきれない曲もあって、スマホの音源を頼ることも多くなる。そもそも「え、と」「これいつの?」とか「昔すぎじゃね!?」とかのリアクションも多い。

 あの地下室、それこそ相当前から運用されていたまである。あるいは、けっこうな年齢の人が関わっていた、とかさ。それぞれの時代のこどもがいたのかな、とかさ。

 どんどんリクエスト曲が埋まることが減っていく。次が入るまでの時間が長引いていく。人は減っていく。

 BUMP OF CHICKEN「Hello,world!」、ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」からの横浜銀蝿「つっぱりHigh School Rock'n Roll(登校編)」。マジでみんながよくわからない。どんな客層なのか。彼らがいったい、どういう人で構成されているのか。そこからぐっと昭和懐メロゾーンに突撃。

 サザンの「勝手にシンドバッド」とか、山口百恵「いい日 旅立ち」とか、キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け!」とかさ。ザ・ドリフターズ「いい湯だな」に至っては、どういうリクエストなのか、さっぱりわからない! 家族と一緒に入って歌った思い出があるとかかな? 謎。

 斉藤由貴「悲しみよこんにちは」、中森明菜「DESIRE -情熱-」まできて、美空ひばり「愛燦燦」、石川さゆり「天城越え」とくる。それでもしっかり、土塊に戻っていく人たちがそれなりにいる。

 リクエストには意味があって、それを願った人がたしかにいるのだ。

 私の知る歌だけがあるんじゃない。

 人の数だけ歌がある。

 徳永英明「夢を信じて」からのLarc en ciel「Blame」。で、TM NETWORK「Get Wild」。ハイ・ファイ・セットで「卒業写真」ときて、ずいぶんしみじみしてくる。

 その頃には身体はすっかりあったまって、いくらでもやれる気がするくらいスイッチがぜんぶ入っていた。しみじみじっくりが響いたのか、リクエストの内容も変わってくる。aiko「もっと」、倖田來未「you」、misono「二人三脚」。

 だれかを思い出せるような、あるいはどうしたいのか思い出せるような、そんな歌ほど、リクエストに求められているみたい。それも、LUNA SEA「Tonight」、Cocco「焼け野が原」ときて、しばらくリクエストが止まる。

 やっとお水を飲んで休憩。熱気に当てられて、瓶の中のお水がぬるくなってる。フタをちゃんとしなかったのがいけない。額の汗を手で拭う。

 ルミナたちから、どれくらいの液体が人になり、どれくらいの人が土塊になったのか知らせが来ているんだけど、途中からはもう聞き流していた。眼下を見れば、たくさんの人が見えるのだから。それでも最初の三割くらいにまで減っている。


「ふうぅ」

「終わるの? これ」


 指が痛いのか、両手をぶらぶらさせながら、汗まみれになったマドカが泣き言をいう。

 でも気持ちはわかる! 果てしないように思える。霊子の渦が消えたわけじゃない。液体はもうほとんど残ってない代わりに、液体から出てきた人は、まだまだ残ってるんだから。

 ぬるま湯みたいな水を飲んでいたら、ヒヨリが「あ。リクエストきた」と言うので霊子の渦が化けたボードを見て固まる。GOING STEADY「童貞ソー・ヤング」のインパクトがやばい。氣志團「One Night Carnival」やゴールデンボンバー「女々しくて」はまだわかる。

 私でいいんか? このリクエスト。間違ってない? だいじょうぶそ?

 三曲入って、ならばとリクエストを投じた人がちらほら増えていく。BEGIN「涙そうそう」が入ったのを見て温度差に風邪引きそうだと思うけど、いいさ。全力で歌うよぉ!

 スピッツ「ロビンソン」、シャ乱Q「シングルベッド」。終わりないリクエストで男臭さがむんと増すような、そうじゃなくて未練と切なさ、寂しさこそが増しているような。

 通信の先で「青澄のひとり紅白みたいだな」とか「録音できてる?」とか、好き勝手な話が聞こえてくる。彼らをいたずらに刺激しないようにして、土を採取して、情報を収集できるのが望ましい。だから、マシンロボのみんなは休憩したり、いま調べられることをしたり、協議したりして過ごしている。

 言うなれば、いまやマシンロボはバックルーム。

 私たちのいる外がライブ会場。

 尾崎豊「I LOVE YOU」まで熱唱しながら、私は絶えることなく思いを散らしていく。

 愛を歌った曲は、昔からいままでやまほどあって、今後もいっぱい増えていく。リクエストに入らないけど、あるいは天国じゃなきゃまだ聞けない未来の楽曲だけど、好きな曲にも多い。コレサワ「たばこ」とか、Official髭男dism「Pretender」や「I LOVE...」とか。ベタだけど。洋楽なら最近はBenson Boone「Slow It Down」あたりがすごく好きだ。熱唱したい。気持ち良く全開で。思いの丈のままに。

 だけど、そんな楽曲ひとつに、なにをどう刺激されて、なにをどう思い描き、どんな自分と再会するのかは? みんなそれぞれにちがうんだ。

 昔の曲っていうだけですんってなるバックルームの少なくない仲間たちの横で、こういう曲もあるんだと聴いてくれてる人もいる。未来ちゃんやユニスちゃんが、ちょいちょい反応したり、金色雲の下のオーディエンスのような声をあげてくれたりしてるのが聞こえてくるから、よくわかる。

 仲間内で、私が歌ってるから聴いてくれてる人もいれば、やっぱすげーと楽しんでくれてる人もいる一方で、私の歌声じゃ箸にも棒にもかからない人もいる。

 マンガや日本のドラマ、あるいはコミックなドラマくらい脚色された世界を望むなら? 私はすべての人を魅了したい。けれど、現実にはむずかしい。

 それでも届いているという実感にしていいよね、と。私の金色を抱き締めて土塊に戻る人々を見ながら信じる。


「終わるかどうかじゃなくて、届ける」


 そう呟いて、次の曲へ。

 ここにいるみんなに届くまで、私はやめない。

 リクエストがあるかぎり、このライブは続ける。反応を素直にくれるのがうれしいから、元気はいくらでももらえてる。みんなのことを知りたい術のはずが、私を癒やす術になってる。その本末転倒さ、私の身勝手さにめげそうなのに、泣いちゃうくらいうれしくてたまらなくもあって、もう、感情がめちゃくちゃだった。それをどうにかして、歌って伝えたくてたまらない。

 徐々に人が消えていく。そうして最後に残ったひとりがリクエストする。いしだあゆみ「あなたならどうする」。答えられないまま、歌って。相手は金色を抱いて土塊に戻っていく。

 そんな最後に冷水を掛けられたような思いになった。

 私にはわからないことを彼らは抱えて生きている。ひとりひとり、みんなちがう。ふんわりと、地下室の犠牲者みたいに捉えたら、見落としてしまうことがあまりにも多すぎる。それでいいのかと問わずにいられないような最後に、私はへたり込んだ。

 マドカが代わりに土塊の回収を指示して、既に取り決めていたであろうレオくんが「それじゃあみんな、話し合いの通りに」と号令を出す。その動きを遠目に眺めながら、実感する。

 私は歌う。それで、すこしはなにかが進むのかもしれない。

 だけど歌った先を、どれほど受けとめられるかでいったら、私はあまりにも未熟で、足りないだらけ。

 求められた歌を歌っているだけでいいんだろうかとさえ思う。

 やってみてわかったことは多くて、それは同時に私の未熟を照らし出す。


「お疲れさま」

「よかったよ」

「がんばったね」


 ノノカたちが声を掛けてくれる。みんなにも労いの言葉を返して、背中から倒れた。

 どうしたらいいのかわからないから、考えつづけるよ。これからも。

 最後のひとりを思い出しながら、目を閉じた。

 歌いきった実感と疲労を強く感じるのにさ? こういうときほど「ああ。はやくお風呂はいりたい」となるのはなんでかな。汗だくだからじゃない? それとも拍手や、満たされた笑顔を見送れないからかなあ。

 人がどんどんいなくなってくライブはやだな。

 こんなのさみしすぎるし、つらすぎるよ。とても痛かったよ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

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