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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千八百四十五話

 



 私だけの挑戦から、みんなの挑戦に切りかわった。

 私だけの実験から、みんなの実験になり、計画も手段もなにもかもみんなで行う形になった。

 議論もなにもかも、主義主張を重ねて落としどころを探る。

 政治議論はしばしば明確な答えや解決法が見当たらない。あるいは明らかな困難に行き当たる。

 たとえば豚骨ラーメンは一律で「博多のものとする」なんて政治的主張が持ち上がったら「おいおいおいおいおい」と反応する地域、文化がいくつかあるだろう。豚骨醤油も、家系も、博多近隣の豚骨ラーメン文化も、みんなまるごと「博多」にされちゃうなんて、そんな無茶なってなる。博多の人たちからしても「だれがそんな無茶を」と引いちゃうことだろう。

 アニメやゲーム、マンガも、ドラマや映画も「どの程度までセクシャルはありや、なしや?」「ありならそれは、どの程度から年齢制限を厳密に加える?」「なしなら、それはいったいなぜ?」という政治的な議題と無縁ではいられない。女の子がパンツ丸だし、身体の輪郭がセクシーな形でモロに出る、ラッキースケベやりまくり、愛撫まではよくある、みたいなのは、ありやなしや? それって実際のところ、かなり政治的な議題だ。あらゆる表現、創作行為が政治であり、政治的主張であり、読者や視聴者がいるとそれはもう政治の交換、あるいは交流と言える。絵本から、えっちな動画に至るまで。ハンニバルとかから、スプラッタ映画に至るまで。ぜんぶね。例外はない。

 私たちがふたり以上になった途端に、私たちは思いどおりにならないことに行き当たる。

 ウォーキングデッドのようなポストアポカリプスものだと、次のコミュニティまでの旅路や逃走中の相談事ほど露骨な政治はない。お水や食料の確保をどうするか、それよりもウォーカーと呼ばれるゾンビ連中をどうするか、今夜の寝床は? そういった相談事も政治。

 ビッグバンセオリーのシェルドンとレナードの同棲生活において、シェルドンはあらゆる契約事項を契約書におこしてレナードに認めさせるし? レナードをうんざりさせる振る舞いを繰り返しながらも自分の都合のいいような契約へと持ち込む。レナードはうんざりしながらも、面倒がって引きうけるし、ごねたら負けるし、それでもやっぱりごねる。そういうふたりの生活も、政治に満ちている。

 NHKスペシャルで見た関東大震災。風立ちぬでもすこし取り上げていたけれど、ドキュメンタリーで視聴すると実際の震災よりも、むしろ震災から数日間に着目した流れと変化が鍵だと知る。

 芥川龍之介が手記に残していたけれど、彼が記した光景は「家を失い、家財を失った」人たちが、開き直って協働し、食料を分け合い、こどもたちのための青空教室を用意して、笑い合いながら過ごしていた瞬間。それも? 政治的な選択と、そのための表現だ。

 であればもちろん「井戸水が濁った。毒を入れたやつがいる」「朝鮮人がなにかしたにちがいない。あいつらを見つけろ。殺せ!」と、敵を作り、なにかを責め、具体的に攻撃することで「わかりやすい答え・解決を創作してどうにかしようとする」、そうした人々による虐殺行為もまた、政治的な選択であり、その表現である。

 あえて言おう。

 水が濁ったことをだれかのせいにして暴力を振るい、殺したところで、水は戻らない。震災の最中に起きた深刻な火災をだれかのせいにして暴力を振るい、殺したところで、火災は止まらず、燃えた家も、焼け死んだ人も、元には戻らない。

 だれかのせいにして暴力を振るい、殺したところで、自分たちの痛みはどうにもならない。

 復讐のつもりかもしれないが、これは復讐だとして「虐殺行為」を正当化・責任転嫁・免罪できようはずもない。「復讐」と上塗りしたものは、塗装を剥がせば、ただの暴力に過ぎず、身勝手な八つ当たりに過ぎない。それは復興の役に立たないばかりか、周囲を非常な危険に曝す振る舞いだ。

 正当化・責任転嫁・免罪したい、それほどまでにして「暴力を振るいたい」「なんなら殺害したい」というのなら、とても平静な状態にない。そして、混沌とした混乱状態にあっては自らの主観による「事実」しか取り扱えず、大いに誤認したまま振る舞うだろう。そんなのを許容してはいけない。

 政治は、関わる人が増えるほどに、取り扱いが困難になる。

 ポリティカルコレクトネスの話題、お父さんは表現規制がどうとかとは別にして「クリエイター側からの政治的な主張や選択、理解とかの発信があまりにも乏しい」と感じているそうだ。エロにせよグロにせよ、ド直球に主たる政治的議題の内容にせよ、それらが娯楽として存在するためには、そのための土壌がいるし? そのための政治的な運動は提供者側からのアクションも欠かせない、という。

 いまある政治的主張はなにか。なにもしていないなら、いじめを見て見ぬ振りをする消極的加害者となにも変わらない。それは加害の追認であり、黙認であるだけだ。繊細な話題を取り扱うなら、むしろ、意図して「現実の加害を問題視して、その対応が必要だ」と訴えるなどの政治的主張が必要不可欠だという。


『俺たちのシマを荒らすな、面倒ごとを持ち込むな、よそでやれっていうのは、ちょっとね』


 お父さんはしかめ面をしていた。いまなら理由がわかる。お父さんが並べたことばって結局、政治的主張なんだよね。お前らがどうなろうが知ったことじゃない。現実の加害についての言及をしないなら、表明された言動や態度から想像させてしまうくらいの主張になってる。

 政治を漂白することはできない。透明化することも不可能だ。当たり前のことさえ、ちゃんと主張しないと伝わらない。

 当たり前だけど、SNSだけに閉じるのも問題ありすぎててさ。

 私たちは身近な政治の付き合いを、どれほど意識的に行えるようになるか、その鍛錬が欠かせないのだろう。

 いま振り返るとお父さんが語ってくれた内容って、ハリポタでいえばダドリー一家がハリーをいじめて苦しめて追い込む幼児虐待の態度とそっくりだしなあ。ないよね、それは。ちょっと、ないよ。


「ううん」


 政治の歴史は人の歴史に重なる。

 どういう形でやりとりをするのか。

 ダドリー一家はハリーに対して独裁的だった。言論の自由さえ認めなかった。黙れ、嘘つきめ、文句があるのか? そう恫喝しては黙らせてきた。一家に不都合なことをハリーが言うことを止めていた。ファンタビのクリーデンスたちを世話していたおばさんもそうだ。罰を与えていた。

 こうした観点からみると言論の自由はとても大事なものだ。民主主義の基礎といっていい。文句を言えること、怒れること、訴えられることって大事だ。独裁側が自分に都合のいいことだけ知らせたり、言わせたりするような国・組織・集団・家庭はろくなものじゃない。

 だけど言論の自由の程度をどのくらいにするべきか、については意見が分かれているし、明確な線引きは常に調整されつづけている。文句を言えることが大事だとしても、そのために相手をとことん中傷できていいの? 怒ったらなにをいっても許されるの? そのためにだれかを危険にさらしたり、暴力の対象にするよう訴えて煽動するようなことしてもいいわけ? ヘイトスピーチはあり? あとで冗談だ、あいつの受け取り方が悪いんだって言えば済む?

 そんなわけないじゃん。ね?

 だから議論が行われつづけているよ。

 みんなが集まるから、どうするかの議論が分かれる。みんなそれぞれに政治のあらゆるものに関わっている。

 資本主義は「政府はビジネスに対してあまり規制をかけるべきじゃない。医療や社会福祉、教育などのサービスを営利企業に委ねて、国民は対価を支払うべき」を目指す。お金がなければいけないし、稼げないならどんな貧困に落ちても自己責任。風邪になったら治療費が二十万かかるかも。救急車に乗って病院に搬送されて治療を受けてごらんよ。百万円以上の請求がくるかも。アメリカはそんな社会にずっと向かっているし、貧富の格差は拡大しつづけていて「勉強すればいいとこに就職できる。就職してがんばれば高給取りになれる。がんばれよ」という空気がまん延していた。そんな社会にうんざりした人たちがトランプに票を入れた、という見方もある。

 実際にはお金も資本も不公平で、不平等で、不完全なものだ。いつの時代においてもね。富は富を生みやすく、集まればよりその傾向は高まる。一定の閥値を超えると、その傾向はあまりにも顕著にほどがある状態になる。だからアメリカ社会で貧富の格差に不満を持つ人たちの実感は、別段、的外れなものじゃない。十分な教育を受けるためには、そもそも、十分な富がなければならない。そして、それはまず、あまりにも生まれや生い立ちに影響を受けすぎるし? 家庭によりすぎる。すると「なにが勉強すれば、だよ」となる。当たり前の話だ。

 オバマは「資本主義の傾倒が蔓延して行きづまったアメリカ社会を変える」という強い期待を受けていたけれど、「資本主義のあまりにも露悪的な象徴」を守り、助けることを選んだとピケティ、サンデルの共著で指摘していた。オバマ自身、そのことを悔いていると。

 現実には資本主義だけじゃなくて、社会主義、あるいは社会民主主義のいいとこどりをやっている。オバマケアでさえ、いろんな人が医療に繋がれるようにオバマがなんとか取り入れたものだった、とね。

 医療や教育、電気やガスに水道などの「営利を求めると破綻する」「国民の不利益になる」ものにおいては国がそれを負担して提供する、ないし、援助するというもの。

 医療が営利的で貧困層ほど苦しんでいるアメリカでも、農業にかなりの援助をしている。一次産業をしていても「稼げて、十分な生活ができる」よう支援しないと痩せ細っていくからだ。裁判大国みたいに言われるけど、無料で弁護士に依頼できる仕組みもある。もちろん、あればいいということでもないけどね。

 なんでもかんでも資本主義の理屈ではうまくいかない。当たり前といえば、当たり前。でもって、営利企業で進出したい、みたいになるのも? 当たり前といえば、当たり前。

 そこで政治の出番。

 ウナギが絶滅の危機! とか。漁の水揚げが減っているけど水産資源やばくない? とか。一次産業、介護の人材不足が深刻だけどどうするの? とか。そういうのも、政治の出番。

 身近なことなら「深夜アニメならパンチラくらいありじゃない?」っていうのも政治的主張だし、「パンツを覗く男とか、盗撮する男とかをどうにかしろ」っていうのも政治的主張だ。主張を掘り下げていった先に「人権教育があんまりにも足りてないよね」とか「性教育も不十分すぎない?」とかって問題に行き当たるとき、重要な政治的課題に出会ってる。離婚した夫婦において夫が養育費を支払いしぶっても、いくらでも逃げられるのはどうかしてる、とか。「虎に翼」で描かれた尊属殺人のように、幼児の頃から性的なものを含めて虐待する父親、あるいは男たちの問題がどうにもなってなさすぎる、とか。そういうのも、政治的な課題。

 あんまりお粗末な教育と実態があるのに性を娯楽にしていていいのか、それよりまずやるべきことがあるんじゃないのか、みたいな議論もあるしさ? 娯楽よりそっちが急務って意見と、自分の人生ではそれを遠ざけて娯楽に触れてたいんだって意見と、いろいろあるだろうし。後者はいかにもマジョリティの立場でマイノリティを踏みにじっている態度で。ダドリー一家がハリーを虐待するのを、当たり前に見なしているような、そんな態度でさ。

 怒髪天を衝くって感じの人も、そりゃ出てくるよ。いくらでも。

 その中には加害者の加害を徹底的に追いつめるためにどんな手でも打つべきだとする、あまりにも過激なことを言う人もいる。

 人を追い込む環境や、傷つける環境、そのための主義主張さえあるなかで、私たちはいかに生きるのか。その態度でさえ、政治的。

 そう、むずかしい話じゃないよ。

 どうしたいか。それが政治のはじまり。

 自分の願いだけがあればいい? そうはいかない。それも政治のはじまり。

 私たちはとことん、あらゆる他者と、この世界で生きるほかにないのだから、政治と無縁ではいられない。

 あらゆるマンガのヒーローたちが、示してきた。

 悟空は「つええヤツと戦いてえ」。まずなによりも、それ。殺し合いとか、そういうのはきらい。やりたくない。やるしかないときはやってきたけど、どんなにいやなヤツが相手でも「つええヤツと戦いてえ」っていう軸はぶれない。

 ジャンプの主人公たちだけでも歴史があるぶん、たくさんいすぎるくらいだけど、そのあたりの軸ってあんまりぶれてない印象がある。ジョジョで受け継がれるものとかさ。ヒロアカのヒーローたちとかさ。お腹がよじれるくらい笑える銀さんとか、ボッスンたちとかさ。

 こち亀の両さんは、あんまり暇すぎてお父さんの本棚から単行本を読んだかぎりじゃ、しょうもないこととか、ほんとやめとこ? ってこととか、さんざんやらかすんだけど! 決まってひどい目に遭ってる。でもって、人情は外さない印象があるよ?

 無縁でいられないなりに、アホなこともやるし、やらかすこともある。けど、ぼちぼち、みんなで過ごしやすくなるように挑む、みたいなの。他の少年誌でも同じ印象がある。

 ふわっとしてんね?

 でもなあ。

 困ってる人を放っとけなくて、なにがわるいってなるじゃん。


「いろいろあるよなあ」


 液体が赤く色づく頻度が増してきて、気温もどんどん上昇している。

 ただいま四十五度。冗談抜きでスーツを脱いだら危なくなってきた。熱中症になっちゃうんじゃないかな。そんなことを考えていたら、喉が渇いてきた。

 さすがに外に出てから待たされすぎじゃないか。そう思っていたら、イヤホンからがさごそと音がした。妙にくすぐったくて苦手。


『お待たせしました。プランを説明します』

「よしきた」


 待ってた待ってた!

 マシンロボの手のひらから立ち上がる。

 レオくんたちがまとめた計画は、なんてことない。金色雲で上昇、渦のそばにたどりついた私をいかに安全かつ迅速にマシンロボに戻すかであり、液体に生じた変化を採取するかである。

 まず、私は術を発動。変化が生じた時点でホースを一気に巻き取り、マシンロボの胸部に引っ張り込んで回収。次に、マシンロボは直ちに後方に避難する。一方、既に射出済みのドローンたちを集めて小型マシンロボとボックスに変化させ、ボックスに対象をすくいあげたのちにマシンロボのそばへと避難させる。

 その後の状況次第だが、私が土に変えたものたちにどう干渉するか、それとも記録を目指すのかは、要相談とのこと。


『回収用のドローンの組み立てだなんだにすこし手間取りまして』

「おっけい」


 ルミナに気にしないでと語る。

 どんな危機が予測されるのか。それを回収することがどのような危険を招くのか。それらに対処するためにはどのような仕組みが必要なのか。予測と対策が欠かせない領域だから、いい。

 私だけが初めてなんじゃない。

 みんなにとっても初めてだった。

 それはなにも実行部分だけじゃない。議論においてさえもだ。


「金色雲を生成、対象に近づくね」


 スーツをすり抜けて、手から出た金色が集まっていく。いつものように足をのせて、座り込み、霊子の渦へと近づいた。手のひらから地面のうえを通り、やがて液体だらけの上空へ。スーツが感知する熱が増していく。とてもゆっくりと。渦までできるかぎり近づきたかったけれど、液体が粘性の高いもので渦の真下はどろどろがたまり、一気に温度が増す。四十七から八、九、と。湯気もひどくて、だんだん怖くなってきた。


「ど、どどどど、どうしよう」

『センサーとかつけてないの?』

『あんまり複雑化するとハルさんに負担がかかるかもと』

『ロボ側ではどう?』

『もうぜんぶまっか!』


 間の抜けたやりとりが聞こえてきた。

 なにその、ぜんぶ真っ赤って。

 もっとそれっぽく言ってよ!


「ノンちゃん、ノノカ、スーツはどこまでいける?」

『体感はどうですか?』

『スーツ内の温度は一定を保ててるようだけど、実際どう?』


 ヘルメットに表示されるスーツ内気温は現在、二十三度。ちょっと肌寒いまである。近づくほどにヘルメットがくもり、きゅっきゅきゅっきゅとワイパーが忙しなく稼働しつづけている。なんなら、それがうっとうしいので離れたいまであった。


「すこし離れるね」


 できるだけ上空へ。できるだけ離れて、ワイパーが動かなくなる地点に戻ろうとする。


『待ってください』

『ホースがたわむから、すこし巻き取るね』

『こちらで合図を出します』


 そんな無茶な。

 ケーブル式みたいな現状ってかなり不便! いまさらながらにランドセルのボンベが熱をもって熱くなってるんじゃないかって不安になってもきた。

 フィードバックの内容が多くなりそうだ。

 次は小型マシンロボにて移動できる形にできないか、相談してみよう。カナタが何度か用意してくれたあいつなら、もっと円滑に行動できた気がするよ。もっとも、キューブスーツでの活動で得られるフィードバックや今後の対策は、かなり重要な意味を持つのでは。


『いまからホースを巻き取ります。三秒後に、そこまで移動したときと同じ速度で後退してください』

『ホースの巻き取り速度はこっちで調節するけど、できれば調節しやすいように速度を保ってね』

「はあい」


 昔さ? なんで宇宙開発ってあんまり進まないのかなあって思ったけど、撤回する。

 面倒なことがやまほどあるがな! そりゃ時間がかかるがな!

 初挑戦なこととか、地上で試せないこととか、やまほどありすぎるんじゃないかな?

 たいへんだなあ。

 そのたいへんさをいま味わってる気がする。


『はいどうぞ』

『ゆっくり、ゆっくりだよ?』

『ペースが大事です。ふたつのペースが合わないといけません』

『まるでカレーのルウとライスの消費速度くらいにね!』

『ラーメンのスープと麺の速度とか?』


 カレーはわかるんだけど、ラーメンはさすがに麺が先になるのでは?




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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