表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2836/2932

第二千八百三十六話

 



 後日、土曜日。みんなで千葉を訪れる。いちおうあねらぎさん伝いに連絡して、お伺いを立てておいた。だけど付き添える状況にないし、忙しいから無理だって。通話を繋げて「おとなしくしているように。くれぐれも無茶はしないで。私たちは止めましたからね」と言われてしまった。

 じゃあ、勝手に行くしかないし? 無茶しないように、せいぜい気をつけるしかないよね!

 というわけで、やってきました私塾跡地。閑散としている。壁にスプレーの落書き、なんてこともない。荒らされた形跡も。


「もし、いわゆる製造開発者たちなんてのが本当にいたとして。ここをほったらかしにするかね」

「警察が定期的に巡回してくださっているそうですよ。そうなると、迂闊に近寄れないのでは」


 カゲくんのツッコミに姫宮さんが待ったをかけた。だけど、彼女の表情も声も浮かないものだ。

 だって理華ちゃんたちが行った工場の証拠隠滅に警察が来た。私を襲いに来た自衛隊員たちがいた。議事堂の議員たちは操り人形だったし? どこにどんな手が紛れ込んでいるのか、私たちにはわかったものではないのだ。

 それでもやっぱり、謎といえば謎。当然だ。当然だけど、中に入る。

 埃っぽさが増している。割れたガラスの隙間からタネが入り込んだのだろう。いろんな草花や、若く幼い木が生えている。だけど、いちいち見ない。むしろ見るのは、踏みにじられていないかどうかだ。だけど、そんな形跡は見当たらなかった。

 前に佐藤さんが見せてくれたように、隠し扉を開けて地下に入る。けれど、ただ、なんの家具も設備もない、空っぽの部屋があるだけ。


「こういうの見ると、異常だって思うけど」

「こどもたちを入れて虐待でもしていたのだろうか」


 レオくんの呟きに、みんながぎょっとする。ギンが鼻を鳴らすように匂いを嗅いだ。私やマドカたち、獣憑き勢もなんとなくそれに習う。だけど私には埃臭さしか感じとれなかったよ。マドカたちも同じみたいだった。すぐさま顔をしかめて、鼻を押さえている。

 ギンだけが鼻を鳴らしながら、あちこち見て回る。


「ちぃと汗臭くて、血の匂いも残ってんな」

「「「 うそでしょ 」」」


 私たち金光星の三人そろってドン引きだ。なんでわかるの!?


「お前らは育ちがお上品だし、埃臭さに馴染みがないだろ? それに、よく嗅げるってったって、生徒会長がいつか言ってたように人間なんだ。苦手なものに参るほうが先だとしても不思議じゃねえ」

「な、なんか、わかったような、わからなかったような」

「前から思ってたけど身体能力といい、勘といい、私たちよりよっぽど人間離れしてるよね、沢城って」

「うるせえよ」


 鼻息をふんと鳴らしてから、思いきりくしゃみをした。それからポケットをまさぐり始めるのだが、見ていられなくなったノンちゃんがティッシュを渡す。呆れた顔をして。彼は短く例を言ってから、思いきり鼻をかんだ。


「春灯、ここでなにかわかるの?」

「やってみなきゃわからないんだ。申し訳ないんだけどさ」


 未来ちゃんの問いに答えつつも、私は金色を散らした。

 前にシュウさんたちと来たときにはなかった心得を、知識を、技術を意識する。弁天さまが教えてくれたことも思い出す。「感情は一時的なもの」と言っていたけど、私からしたら、言い換えたい。「感情は瞬間ごとに生じた反応」だ。加えて言うなら「刺激に対して脳が処理して、全身に情緒的・身体的反応が生じる。その情報のごく一部を、あるいは総体をふんわりと捉えたもの」とも。

 足元を埋めるくらい、金色で満たす。いくらでも。大量に。


「ふううう」


 埃っぽいのは我慢。だけどマスクくらいは持ってくればよかった。出る頃には喉がいがいがしそうだ。ここから出たら、ちゃんとうがいしないと。

 鍵は出さず、両手を組んで願う。


「教えて。ここに満ちる欲を。なにを願ったのかを」


 まずはここに潜む感情を読み取ろうと挑む。だけど、まだ、できない。自分のだってうまくできないんだから、当然といえば当然だ。なので、姿勢は変えず、落胆もせず、次に移行する。

 火や水、風や土。いわば木火土金水の術の源にしようと試みる。なんでもいい。わずかでいい。目に見える形で見せて。私たちに障らない形で。見た目だけでいいから、表現を。

 さあ。


「示して」


 そう呟いた瞬間に、足元の金色の海が色を変えた。一瞬で真っ赤になり、音がした。燃え広がり始めたのだ。みんなが直ちに各々の悲鳴をあげながら、階段をあがって逃げたり、混乱してその場でタップダンスをし始めたりするなか、狛火野くんが刀を抜いて振るった。


「あっ、ちょっ」


 止めようとしたけど遅かった。横薙ぎに振るった刀から水が大量に吹きだして、逃げ遅れた勢と私は一瞬で濡れ鼠に。もちろん、火は消えた。彼の霊子の干渉に、あっさりと。


「だいじょうぶ!?」

「はぁっくしょい! うぅい!」


 タツくんが豪快に咳をした。両肩にユリカちゃんを背負い上げたままで。それでも、ユリカちゃんも着物ごと、がっつり濡れていた。

 十月の終わりに。みんなもう、寒くてきつくなってくる頃に。


「ごめん。見た目だけで、実際には熱くない、んだ、けど」


 途中で鼻がむずむずしてきて、思いきりくしゃみをしてしまった。

 すさまじくいたたまれない空気になるなか、制服のセーターとブラウスが濡れてうんざりした顔のマドカが「いったん、もどろっか」と提案。カゲくんの力で、カゲくん領域にあるマシンロボに撤退する。

 男子風呂と女子風呂を急きょ設置。さくっと分かれて入浴して、着替えを済ませる。といっても、着替えがいることになるなんて思っていなかったから、男女どちらも刀鍛冶が急きょこしらえた肌着とジャージだ。やるせない。

 ジャージ姿で合流した私たちはマシンロボの胸部フロアにテーブルを設置して、みんなで議論した。


「聞いてねえぞ! いきなり燃えるなんて!」

「なんかもうちょっと、こう、やりようはないの!?」


 主に私への風当たりの強さが示される場であった。

 そんなばかな!


「い、いちおう、ほら、手順は説明した、よね?」

「春灯の説明は! いつもふんわりしている!」

「私塾で製造開発者たちのやったことを調べる。そのための術をいろいろ試したいってことまでしか聞いてねえぞ?」

「俺らも承知のうえで付き合ってんだから、まあいいじゃねえか」


 ギンが味方してくれるとは!


「いや実際ビビったよな。忘れてた。青澄がなにしでかすかわからないやつだったってこと」

「不肖の妹がすまない」


 カゲくんの隣に腰掛けたお姉ちゃんが制服姿でゲーム機をぽちぽちやりながら言ってくる。姉は地下室に入らなかったのである。濡れていないのである。おまけに、棒読みなのである!


「すこしも思ってないだろ! 俺なんか地鎮祭の盆踊りを披露しちまったよ! 怖かったんだからな!」

「だいじょうぶだ。鷲頭がビビりだとしても、みんなそんなの知っているからな」

「うおい!」


 お姉ちゃんはミナトくんに取り合わない。ユニスちゃんだけが眉間に指先を当てて、盛大にため息を吐いている。キラリがぼそっと「恥ずかしいから黙ってなさい」と言って、彼を静かにさせた。


「それで? もっかいやるんだろ?」

「火がつきました、だけじゃわからないもの。なにか、もうすこし具体的にしてもらわないと」


 マドカができる? と問いかけてくる。みんなもマドカに続いて私に視線を向けてきた。ちなみにお姉ちゃんはチラ見して、すぐさまゲーム機に視線を戻した。もうちょっと、やる気を出してくれてもいいんじゃないかな!? 気にしてみない? 妹のこと!

 だめか。

 ただ、私なりにできることをやったつもりだ。


「実は退散したとき、一緒に霊子も保存しといたんだ」


 みんなに見えるよう、立ち上がってから両手を胸の前に。立ち去るときに、ひととおり体内に取り込んでおいた霊子を凝縮しながら、手の間に浮かべる。渦巻く金色の霊子は、そのままに。


「なにせ、やることなすことぜんぶ初めてだから段取りが悪くてさ。ごめん」


 いつも付き合ってくれてありがとうとみんなに伝えてから、霊子を軸に、再び願う。あなたの気持ちを示して、と。すると途端に金色の粒子が様々な色に変化する。赤、青、黄、白、黒。それらの中間色なども含めて。

 ばちばちと火花が散ったり、かと思えば雫が垂れたり、埃が舞ったり。とにかく忙しない。

 私の術は、ひとまずここまで。大量の情報を飲みこんで保存した霊子を媒介に、保存した情報に表現を願う。私の能力の範囲内での表現を。転じて、私の力に依存するかぎりは、ここまで。私が術を学ばないかぎりは、ここまで。


「私にはいろんな依存がある」


 そう切り出して伝える。姫ちゃんの鍵と合わせれば、特定の感情が芽生えた瞬間に時間を合わせて再現できるかもしれない。


「だけど霊子量が多いし、反応もやまほどあるから、ひとつずつ試していると時間がかかりすぎる」


 そこでキラリとマドカを呼ぶ。


「ふたりの霊力なら、願いや欲を聞いて、どの霊子を選べばいいのかわかるかもしれない」

「なるほど? あたしたちの力が活きるわけか」

「私たちを呼んだのは、それが理由なのね」

「それだけじゃないけど、理由のひとつではある」


 みんなの智恵を借りたい。私には閃けない、見えない、気づけない、知らない、できないことがたくさんあるから。みんなの手を借りたい。


「狛火野くんの力に反応する霊子はなにか、とかね。みんなの気持ちに反応する霊子はいったいなんだろう、とかさ? いろいろ気になるから」


 それで来てもらったんだよね。


「みんなの霊子と、私の金色を反応させて、この渦との反応を見てみるっていうのも考えてたんだ。そうやって特定の霊子を抽出できれば、それだけ、調査対象の実態を具体的に表現できる気がする」


 ひとりで表現できることにはかぎりがある。

 発するとき、受けるのだって? 依存がいる。

 私だけじゃ限界がある。それなら? みんなの力を借りればいい。でしょ?


「表現はするだけじゃない。受けとめることで繋がっていく。相互の関わりありきだ」


 なんでも発せばいいとか、なんでも受けとめればいいとか、そんな風にはいかない。それに、できない。そこまで私たちはなんでもはできない。

 お互いに、お互いがなにがよくて、なにがいやで、なにをどう感じるかがわからない。考えも。論理も。定義も。

 そのあたりはふわっとしながら生きている。

 だけどそれってとても不安定で不規則なものだから、ぜんぜんうまくいかなかったら? 私たちはどんどん追い込まれていく。それでついつい「合わせる」、言い換えると「適応」を求める。

 これはでも、かなり脆弱性のある有り様だ。

 たとえば親が殴る蹴る、暴言を吐く、世話をしない、性的暴行を加えるなどの振る舞いをする家庭に生きるこどもは? そんな状況に「適応」しようとしたら、それはもう、あまりにも無体なことになる。

 環境も、社会も、営みも、なにも完璧じゃない。万全でもない。それどころか不公平で、不平等で、むちゃくちゃで、ろくでもないことさえやまほどあるのに。だれかのせいにする。なにかのせいにする。済ませたくて。片づけたくて。法や医療や学問さえ否定する。あるいは、それらを満足に学べないあらゆる事由を無視して「馬鹿なやつ」のせいにする。

 むちゃくちゃな世の中に私たちは生きている。

 あらゆることで、あらゆる方向に、あらゆる形で押し引きしながら。

 陰謀論もやまほど。書店に行くと胡乱な本もやまほど。国粋主義からなにから、てんこもり。

 それらを「区別」して、「差別じゃない」と言い、攻撃する人たちはいなくならない。相手がどう受けとるかに「差別」は依る。けど、まさにその「区別」という正当化・責任転嫁・免罪をもって「差別」する人はいなくならない。

 みんな、だれかに対して都合が悪く、だれかに向けて差別的。それを常に抱えて生きている。ゼロってことは、あり得ない。みんな、大なり小なり抱えてる。常にそれらは「ある」もの。私たちは自分たちの「ある」ものに自覚的になり、捉えて、生きていくほかにない。

 みんな、それぞれに地獄を抱えてる。おまけに、だれかの地獄に気づけない。見えない。知らない。

 だから意識しようとするのだけど、足りない。いつだって、それが足りないから、私たちはみんなで活動する。逆にいえば、みんなという依存がないと、私たちはあんまりにも困窮しすぎる。

 勝者を定める人がいるかぎり、自分たちを勝者にしつづけたい者がいるかぎり、私たちは貧していく。たとえば大企業や富豪、富裕層にお金を集中させればどうなる? みんなが困窮していく。彼らのためにあるんじゃない。それらは他のあらゆる企業などと同じくらい必要だけど、同じくらいでしかない。人も同じだ。

 別に勝者がいたっていい。けど勝者に敗者を踏みにじる権利はない。ただ勝者であるだけだ。

 勝者に努力の特段の価値を訴える人がいる。だけど努力だけで勝者になるんじゃないし、努力している人は大勢いる。努力だけがなにかを満たすんじゃないし? 正当化・責任転嫁・免罪するものでもない。

 腹立たしいくらい、足りない。

 あらゆるものがいる。

 だからこそ、望ましい物語を私たちは求めるし? 残念ながら、そこまで公平でも平等でもない。公正でさえもない。さりとて努力をはじめ、あらゆるものを否定するほどの力も持たない。

 私たちはいろんなルサンチマンを抱えて生きている。

 それを表現できるともかぎらない。

 受けとめられるとも? かぎらない。

 ましてや、ぼっちな私では無理だ。みんなの助けがいる。

 それにさ?


「白状すると、私はたぶん、聞き役レベルが低い!」


 小学生時代はぼっち! 中学生時代もぼっちである!

 それでもほっとかないでいてくれた人たちのおかげで、私は比較的しゃべれるほうだけど、でも、それが聞き役レベルよし! ということにはならない。ので?

 力を貸してほしいのだ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ