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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千八百十七話

 



 保育室をはじめ、図書室や遊戯室、保育室などなど、いろいろと見せていただいた。

 メメさんの上機嫌な解説は日ごろのこどもたちとの思い出や実体験がメイン。ゲストの私に合わせて、ぷちたちがどこでなにをしていたかについても教えてくれる。

 しめじみたいに株となる大樹から幾重にも幹が分かれた巨大な幼稚園は、大樹の中をくりぬいた通路と部屋だけじゃない。幹の内から外に突き出た部屋や、部屋の外から幹の外周を通れる通路などが設置されている。手すりや柵があっても、子狐たちの身体能力や神通力は平気でそんなの飛び越えられてしまう。

 だから、だろうか。幹から伸びた枝葉の葉っぱや花びらがあちこちに浮かんでいて、落ちたこどもを確実に拾いあげて通路に戻してくれるよう、常に術が作動しているのだという。そして、もちろんこどもたちもそれを心得ているので、葉っぱや花びらの動きを予測して飛び移ったりして遊ぶ子までいるそうだ。

 わお。

 いろんな施設を見せてもらったのちに事務室に案内してもらい、パンフレットを受けとる。そこには狐街の病院や補助金などのもらいかた、神使になった人間向けの様々な情報がまとめられていた。


「こんなのあったんだ」

「この街で神使になった人間がいたら、必ずお配りしてるんですよ。もっとも、こういうのは本当に、受け手に委ねるばかりになりがちなんですけどね」

「おぅ」


 現世で言うなら自治体によるってやつぅ。

 レンちゃんや結ちゃんはどうなんだろう。ユウジンくんたち、星蘭の狐憑きたちは?

 愛生先輩ならどうだったのか。マドカは?

 疑問が次から次へと浮かぶ。街や地域によるとして、どれくらいのばらつきがあるんだろう?

 スサノオのおじいちゃんにお世話になっている星蘭のタカオ先輩は?

 さっぱりだけど、いま受けとったパンフレットの内容をだれもが心得ているっていう感じはない。

 そもそも、こっちの世界はあんまり広すぎて理解が及ばないんだよなあ。

 マドカが通っている狼たちの谷って印象からすると狸街よりもよっぽど古代の生活を守っていそう。

 様々な生活や文化が存在しながらも食い合わない、わかりやすい交流があるわけでもない。

 距離感を保っているといえば聞こえはいいけど、なんだろうなあ。

 ぎこちなさというか、違和感というか、そういうのがないでもない。

 境界線は敷いている。そのうえでの交流じみたものが見受けられないところに私は寂しさでも感じているのだろうか。

 なんじゃろね?

 わかんないけど。

 パンフレットには細かな情報まで丁寧に載っているぶん、けっこう分厚い。神使になった人向けのカリキュラムの内容、学べる術や神通力について、幼稚園側で提供してもらえることになる教材のリストなどなど。ぷちたちとちがって神使は修行先に訪れる時間帯、タイミングなどがまちまちなので、基本的には「その都度かよって学習する」という。塾というよりも、いっそ教習所みたいな感じになるようだ。

 入学を希望する場合には事前に一度、この街の病院で検査を受けたり、役所に届け出を出したりする必要があるという。神使のだれだれという登録がいるのだそう。だれの神使で、こっちのどこに住まいを構えているかなどの情報を記録する必要があるという。

 登録すると受けられる支援などが様々あるし、元気なときに手伝うことがリストアップされている。私はすでにアマテラスさまやあきさんの手配で、支援を受けられる状態になっているし? だからこそ、ぷちたちを幼稚園に通わせることができているんだけど、あれば便利なことがあるという。狐街の施設の利用権をはじめ、宝島での会計の割引などなど、助かることが多い。

 狸街の病院の会計のときに、ずいぶん困ったっけ。登録すれば済むのなら、迷わず利用したい。


「手続きには時間がかからないと思いますよ? ここに来てもらうこともできます」

「えぇ?」


 あんまり親切で便利すぎて疑ってしまう。

 私は狐に化かされていないか?


「ただ、時間もかかりますので、待つのがおいやでしたら直接うかがったほうが早いですよ? 街の相談を受けてる職員の数より、相談の件数のほうが多いので。お年寄りのお宅を見舞ったりもしてますし」

「あっ、じゃ、じゃあ、自分で行きます」


 思わず身構えた自分が恥ずかしい。

 普通にサービスでやってるっぽい。手分けして毎日やってるの、すごいなあ。アウトリーチの福祉をここでは実現してるのか。現世から見たら眩しすぎるけど、時間がかかる度合いによっては、狐街でもかなりの労苦をなんとかやりくりしている現状が見えてくるかもしれない。

 完璧なんてないんだから。


「またなにかございましたら、いつでもどうぞ? もし当園に通うなら、いつでも大歓迎ですから」

「ども。手続きが済んだら、じゃあ、お世話になりますね」


 立ち上がって会釈をしてから、そそくさと退散する。

 大樹の各所に地図があり、いまどこにいるかの案内図がセットになっている。標識もあり。

 なんだか遊園地のような、博物館や水族館のような、不思議な感じだ。地図にしたって街中にあるような簡素なものじゃなくて、デフォルメされたイラストで描かれた、こどもでもわかりやすくしたものだ。

 文字はすべて、ひらがな。ちょっと丸っこいフォントで、大きく記されている。

 分かれた幹ひとつひとつがエリアになっており、事務室や職員用の部屋はもちろんのこと、保育室などなど、こどもたちが日常的に利用する部屋も低層に集められている。

 逆に保育などでこどもを預かり、日にちをまたぐときなどは上層の部屋を利用するようだ。

 娯楽など様々な多目的な部屋は中層から上層に集まっているし? 幹によって方向性が様々に分かれている。それこそ舞浜のテーマパークみたいにね。

 私の知らないことがまだまだ山盛りでありそうだけど、いまの私には情報過多なので制限。

 幹の道を下りに下って外に出て、役所へ。

 石畳の道を進んで区画をいくつか通りすぎて、分厚いパンフレットに示されていた街の地図を思い浮かべながら向かうこと十分ほど。そこで真っ赤なリンゴの建物に行き着いた。

 側面は硝子張りになっていて、建物内の照明のおかげで明るい室内が見渡せる。ワイシャツとスラックスや、ブラウスとロングスカートやスラックスのお狐さんたちが横一列に並べられたデスクの向こうに座っていて、銀行や役所で見かける電子表示器が数字を点灯させていた。デスクとガラスの間に並ぶ三人掛けソファーはお狐さんとお狐さんの間にひとりぶん開けて、どこもかしこもびっちり埋まっている。

 まるで病院の待合室のよう。

 ソファーが横に五列、縦に五列ほど並んでいる。鏡張りになっているのは入り口側だけで、側面や向こう側は別。近づいて開く自動ドアを抜けると、すぐ目の前の番号札の装置があった。ついでに紙で貼りつけてある待ち人数と待ち時間の目安もセット。役所だけに、なにを利用するかで窓口が分かれている。住民の届け出だなんだ、私には関係ないものが一番混んでいて、八十名ほどの待ち人がいる。やばい。紙によると最低でも三時間は余裕で待たされそうだという。こわっ。

 私の用件に該当するものが見当たらないので、その他を選択。先に五名ほど待っていた。五名で二十分くらいが目安になるそうだ。一番奥に向かい、ソファの空きがないか見渡すんだけど、ないよねえ。早々ない。届け出だなんだに集まる八割のお狐さんたちが他のコーナーに広がるほど集まっているので、まあああ、空いてない。

 端っこの最後尾だけが空いていて、ラッキーと思いきや! 近づいて納得。ソファの座席部分に切れ目が入っていた。こういうの、避けるよね。わかるわかる。

 ま、いいや。だれも私をいちいち見ていない。みんな寝てるか、本を読んだりタブレットを眺めたりするかして、暇を消費している。ならばと金色とちょっぴり出して割れた箇所を元通りっぽく化かしてしまう。それから腰掛けて、分厚いパンフレットを広げた。広げてはみたものの、なんとなく気になって周囲を目だけ動かして探る。

 いろんな毛並みのお狐さんたちがいる。年齢も疎ら。さすがにお子さま状態な私くらい幼い子はいない。若くても二十代くらいに見えるお狐さんで、だいたいは三十代や四十代、あとシニアのお狐さんが目立つ。尻尾の数も様々だ。場合によっては尻尾の形もちがう。といっても漫画的なちがいじゃなくて、途中で切れちゃってる、くらいのちがい。なにか傷つくようなことがあったのだろうか。

 神使と思しき人もおらず、結局は病院だなんだで待つように、ぼんやりと過ごすほかになかった。

 こういうところまで近代化しなくてもいいのに!

 不思議とさ?

 なんでだろ。こういうところでのんびり読書する気にならないんだよね。

 せっかく分厚いパンフレットを広げたのに。

 対応する窓口の職員さんたち。その向こうに並ぶデスクで書類仕事をしている職員さんたちもいるし? 見上げたら吹き抜け構造になっている二階から、職員さんたちの話し声が聞こえてくる。がやがやしていて、いまいちどこでだれがなにをしゃべっているのか聞き取れない。

 街中を歩いて支援に回っているお狐さんたちもいるはずだし? 彼らのオフィスもここにあるのでは。だったら二階がそうなのかな? それとも、役所はここだけじゃなくて、街の各所にあるとか? だとしてもおかしくない。けっこう大きな街だ。少なくとも渋谷くらいはあるんじゃないかな? 外の田畑を含めない街だけで。もっと広いかも。

 あきさんも、タマちゃんも、ここに居宅があるんだろうか。


『土地と建物ならな。妾はおらぬが』


 いないのぉ!?

 じゃなくて、ひさしぶりじゃない? ねえ!


『忙しくしていてな。あきもそうじゃないか?』


 なんだぁ。


『ではな』


 終わったぁ!

 久しぶりの会話がすぐに終わっちゃったぁ!

 しゅんとしながらパンフレットに意識を戻す。

 ぺらぺらとめくるんだけど、文字が頭に入ってこない。

 なんなんだろうね?

 病院でひとりで待っているときもそうだった。

 ぼんやりしてきて眠たい気がするんだけど、眠れるほどじゃないんだよなあ。

 わりと試されるよね。暇との付き合い方みたいなもの。

 ひたすらに暇を持てあましているうちに時間が過ぎて、どれくらいしてからか、私の番号が呼ばれた。男の人の声だった。窓口に行くと、すこしくたびれた顔のおじさんだった。彼は小さな私を見るなり「あ、すこしお待ちください」と声をかけて、離れていってしまう。

 な、なにゆえ?

 動揺しつつもぴょんと飛んで、椅子のうえに腰掛けた。

 どこもかしこも当然、大人用サイズなので、ぷちサイズだといちいちなにかと苦労するのだ。

 もちろん大人とちがい小さいので、目線も合わない。困ったものである。

 こっそり金色を出して金色雲に変えたうえで、お尻と椅子の間に挟んでいるうちに「お待たせしました」と女性がやってきた。

 分厚い眼鏡をかけたお姉さん狐だ。すこしだけくすんだ赤毛である。


「あのう。さっきの方は?」

「失礼しました。神使の方がいらっしゃるのは珍しく、また女性でいらっしゃいましたので、私が代わりに対応させていただきます。ミシオと申します」

「あ、青澄春灯ですぅ」

「それでは青澄さま、ご用件をお伺いいたします」


 愛想笑いもなにもなし! そりゃそうだ。ここはお役所なのだから。

 咳払いをしてから、パンフレットを出して事情を説明する。それだけで我が意を得たりとばかりに「それでは書類の準備をいたしますね」と立ち上がって、紙の束を一式もってきてくれた。

 印鑑はいらず、朱肉で指紋をぺたっとつけることもなく、霊子を出したらそれをもってミシオさんが印鑑に化かしてくれた。私の霊子、私の名字が刻まれた印鑑でさっと印を押す。

 必要な記述事項がやまほどあって、同じような記述を求められる書類もやまほどあった。


「先にこちらに来てくださってよかったです。病院の利用などに必要なものをお渡しできますからね」


 私がせっせと借りたペンで記述するのを見守りながらミシオさんがあれこれと説明してくれる。

 登録証や保険証などがあり、それを提示することでサービスが利用できるようになること。

 住まいがない場合には街が提供できる公共住宅があること。

 神使としての仕事がない、自分のお世話をしてくれる後見人となる神さまだなんだがお賃金をくれないなどの状態なら定期的に給付金を渡してくれること。

 仕事の提供については現世でいうハローワークみたいな場所があり、そこでは仕事を融通してくれるという。書類や面接なし、そのまま入れる。ただ、腰を据えて働くとなると? それはまた別。

 神使にまつわる書類にはお世話になっている神さまだけじゃなく、御霊がだれかという記入欄もあり、タマちゃんとアマテラスさまはネームバリュー抜群なのではと思ったけど、ミシオさんはスルー。

 御霊になってくれることのある神さまがいると考えると、そう珍しいことじゃないのかもしれない。

 それに結局、御霊やお世話になってる神さまがどうとかじゃない。

 私がどうかでしかない。


「あのう。宝島でも得になるって聞いたんですけど」

「そうですね。人間の神使の方ですと、企業の保養所のようなイメージが近いかもしれません。我々が神使として働いたぶん、その療養施設として、あの島も活用されていましたからね。最近復活したようで、なによりです」


 あれ。初めて饒舌になってくれてない?


「ミシオさんは旅行がお好きなんですか?」

「ええ。まあ。それなりに。なにせいろいろと移ろいやすい世界ですから。旅の行く先には事欠きません。現世も行きますが、混沌としている感じがして味わいがありますね。地獄のほうがまだ整理されている印象があります」

「なんと」


 具体的には、とツッコミながら記述を続ける。

 その間にミシオさんの話は、まるで生徒に好きな話題を振られてついついいろいろしゃべっちゃう先生みたいに、完全に明後日の方向へと向かって逸れていった。いや。私が逸らしたんだけども。

 ミシオさんの話はそれこそ旅先について、具体的に語ってくれるんだけど、如何せん書類が多くてさ。私から振っておいてなんだけど「そこまで聞いてない」という話題にミシオさんがすっかりスイッチが入っちゃったもので、すごいすごい。やまほどしゃべるじゃない?

 もしかして他の窓口の職員さんたちも、こんな感じなのかな?

 そもそも書類が多いんだから、その合間に話してくれたほうが私としてはありがたい。

 ただ、書類がメインになるからどうしたって頭に入ってこないのが難点だ。


「あ、ここ間違えてますよ。あと、そこは書かなくていいです」


 なんてこった。


「失礼しました」


 ミシオさんが鉛筆を出して、これから記入する書類を引っ張って、記入するべき欄に丸をつけてくれた。おかげでだいぶわかりやすくなったよ。それでもまだ、十数枚残っているんだけどね。


「それでですね」


 まだ話すじゃん!

 実は話し相手がほしくて困っているタクシーの運転手さんかな?

 それならそれで、こちらにもやりようがあるよ?

 相づちを適当に打つという必殺技がね!

 あほやってないで、さっさと済ましちゃおう。

 ね。このあと病院に行って診察を受けて、もう一度幼稚園に戻って手続きをするって、ほんと?




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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