第二千八百五話
私たち現世の人の霊力は正直、たいしたものじゃない。
隔離世に行ける行けないに関わらずね。
だから御霊を宿す。この世を去った幽霊でさえ、私たちよりも霊力が強い。
たとえばレオくんには霊力を扱った神通力がある。自分よりも霊力の弱い人を指示どおりに動かす力だ。それに私たちが抗えないのは、レオくんの霊力が強すぎるからじゃない。どんぐりの背比べのなかで、まだレオくんの霊力が強いから。身も蓋もないことを言うとね。
これまで私は霊力の強さ、高さを何度となく賞賛されてきたけど、そりゃそうだ。私だけタマちゃんと十兵衛だけじゃなく、八尾になったマリさんやこどもたち大勢の霊力が上乗せされているのだから。
なので私個人だけの霊力に着目してみたら、たぶんだけど、みんなと大して変わらない。
これはいまよりも霊力や御霊、隔離世についてノウハウや知識があった大戦前でも変わらないだろう。なので戦地に強制的に召集された侍たちは戦争と血を嫌う御霊を失い、自身の霊力では十分な能力を発揮することさえ叶わずに、普通の兵士たちのように散っていった。
キャプテンアメリカの超人血清のようにはいかないのだ。聖歌ちゃんや霜月先生みたいに医療物資なしでも治療ができる、みたいなこともないし? トモやシロくんみたいな雷速ダッシュも無理。私の金色雲や化け術だって不可能。
ミコさんの神通力がほしくて製造開発が始まったというけれど、ほんとのところは戦争で戦える人材開発も狙いじゃないのかな。
既にビルを爆破することが可能なものができあがっているのだし? 現世に満ちた霊子を使って巨大な昆虫怪物だの、魚怪物だのを作り出してもみせた。人を利用して邪や黒い薬物を生み出す柱を立てたし? 私に八尾を注いだ男の犯行と疑っているけれど、関東中に怪物を出す卵を出しては、卵から出た怪物に人を乗っ取らせて暴れさせることまでできている。
超人を作り出すだけが手段じゃない。
そう考えると、連中はとっくに一定の成果を出している。
いろんなアプローチがあり得る、とも言うかな。
さて、話を戻して。
私とみんなのちがいは、ひとえに八尾にされた大勢の魂を宿しているかいないかだ。
そのちがいは「自分の霊子を扱う」つもりが、私の場合は「八尾にされた大勢の魂の影響を受けたうえで霊子を扱う」点にある。
疑問が浮かぶ。
私の金色は、私だけのものか。それとも、みんなとのものか。
私の扱う霊子はどう? 私の術はどうなのか。
技術や行動を行う私自身についての理解も不足している。
まさに基礎。基礎が足りない。
理解も技術も、なにもかもにおける基礎が。
「ううん?」
リビングに戻ってソファに腰掛けてから、金色を浮かべて宙に文字を描く。
いま考えたこと。問い。なるべく箇条書きにして。
それから昔を振り返る。正確には追体験で見聞きした過去を。
八尾を注がれた私をミコさんが助けてくれた。
そのとき、彼女は私に術をかけた。
渦巻く大勢の魂たちに私の魂が潰されないよう、混ざらないよう、埋もれてしまわないように。
御珠を作り出す術を。たぶん、魂たちの膨大な霊力を媒介にして。
それでも私の自我が安定するまでに小学校生活すべてが必要だった。
いまや御珠は完成している。
「御珠は私にとって、どんな影響を?」
いまも私の魂が大勢の魂たちに潰されたりしないように守ってくれているのだろうか。
それとも死を望む魂たちをあの世に送り続けているのだろうか。
私か彼ら、または私たちにとっての安定装置なのだろうか。
「基礎からしてややこしいな」
宙に浮かぶ金色文字を睨み、呻く。ううん。参った。
応用どころじゃない。まず基礎だ。私は基礎に難を抱えている!
「村正おじいちゃんにいろいろ調査を頼んでたっけ」
私の霊子がどんな状態か。
私から生える刀がどんなものなのか。いろいろと。
そろそろ確認に行くのも手かもしれない。
そうだ。ちょいとこれは、手に負えないぞ?
「ううん」
タマちゃんに教えてもらった霊子を扱う術の基礎。
火や水や土、葉っぱを相手にいろいろ試した。
だけど、あのとき私は知らなかった。帯刀男子さまがいるんだとばかり思っていた。
私が作り出していたんだ。彼は真実、もうひとりの私であり、あるいは私の妄想に過ぎなかった。
ただ、それも、いま思えば魂たちの影響がゼロとも思えない。
どれくらいの影響があるのか。たんに彼らの霊力も共に活用しているという程度か。あるいは彼らの意欲や恣意的ななにかが具体的な影響を及ぼしているのか。
なんにもわからない!
感情を色分けして、適当に相関関係を作り、私だけじゃなくて彼らの感情も吐き出せないか試してみようか。他にも確認する術がいろいろとあるのではないだろうか。
気分的に、あれだ。
研究みたいな感じだ。
自分探求研究。
なにが悲しくて十六年ちょい生きて、真っ新な状態から調べなきゃならないんだという気持ちがないわけではない! 正直いうとね!
でも、そこから始めないとどうにもならないなら、ま! しょうがないね!
「問題は」
金色を出して、それが私だけか、八尾のみんなの影響もあるのか探るとして。
そもそも私の技術力不足か、あるいは一定の条件を満たさないと、どちらか区別がつかないとしたら?
けっこう微妙だ。いまの結果がなぜ出ているのかは、ちょっとした試行からではわからない。
問いを立てて、あれこれ試さないと見つからないんだ。
「ううん?」
みんなにお願いしてみるのも手だ。
あ。この場合のみんなとは、八尾のみんなだ。
私が出す金色。みんなにお願いして金色を出してみてもらう。その比較からなにがわかるか。
他にもいろんな実験が浮かびそうだけど、そもそも題材を絞らないとたいへんだ。
野放図に適当な実験を乱雑に積み重ねてしまいそうで。
「参ったなあ」
こういうとき、自分がなにを最も重要と考え、知りたいのか理解できていると役立つ。
逆にいえば見つかっていないのなら、見つけるところから始めるといい。
絶対的なものじゃないけどね。
私はなにを知りたいのだろう。なにに詰まっていて、なにに困っていたんだろう。
八尾の存在? ううん。ちがう。困ってはいるけど、直接の理由じゃない。
なにせ、ほら。
私を困らせているものといったら、それはもう! まずなによりも、ふたつ!
ひとぉつ! 制御不能、無意識に化かして社会生活が困難になる状況!
ふたぁつ! 思わぬタイミングで思わぬショックに思わぬ気絶や体調不良! 老いたりするし! 刀も生えちゃうし? 困る!
このふたつなんだよ。問題なのは。
突きつめると、このふたつが解決されるのなら、少なくとも安定はするはず。
それにさ? 八尾とどう過ごすのかを考えるにしたって、このふたつが解決してくれなきゃ困る。
だから課題はふたつ。
このふたつは、言うなれば大項目。
大項目ひとつを解決するのに、どれくらいの中項目の課題が露わになり、そのためにどれほどの小項目の達成が求められるのかは?
なぞ!
「げんじょう、かくにん」
いつどういうタイミングで倒れるのか。
どのようにして制御不能、無意識に化かしているのか。
そこを軸に、状況を整理しつつ、なにが起きたのかを列挙していく。
「感情が昂ぶる。いやなことを思い出す。フラッシュバックが起きる。自分なんかどうなってもいいって捨て鉢になる」
これらがきっかけになって、無意識の術の発動に繋がっている。
これくらいはうんうん悩まずにぱっと答えられるくらいには、これまで何度も反芻してきた。
気持ちがめげると、もうダメだ。
私のネガティブな感情を引き金に、それを形にしたがる。
ポジティブな感情を形にしようとはしない。
たぶん、私はどうにかしてネガティブを発散したいし表現したいのだ。
どんなに自覚がなくてもね。
「こう考えると、私次第なんだよな」
八尾のみんなの影響があるかっていったら?
ない。
私の自覚がないだけという可能性も残っちゃいるけどさ。
少なくともわかる範囲では、影響はない。
ううん。だめだ。現状では限界がある。
「もっとシンプルに、霊子をリアルタイムでモニターしてもらいながら試したほうが早いのでは?」
カナタやノノカがいてくれたらいいんだけど、まだ学校、終わらないしなあ。
健康って大事だなあ。それも安定した健康がね。私はめちゃくちゃ不安定だ。
先の見通しが立たない。ついつい気絶したり倒れたりするのを予想してしまう。
みんなじゃなくても、私自身、いつどうなるかわからない。心配だ。
いま思うと、なにかが当たり前ってことはないのだなあ。
中学だって、帰ってくるたびにソファに突っ伏してしばらく動けなくなるくらい疲れてた。
通えるくらいの元気はかろうじてあったけど、十分にあったわけじゃない。
いまとなっては日常をのんびり過ごす体力さえ、十分にあるのかどうか甚だしく疑問である。
いやになるねえ!
◆
いやになる。
春灯の刀鍛冶であり、恋人で、心から愛しているはずなのに。
これまで幾度となく彼女の状態を調べてもきたはずなのに。
なにもわからない。
昼食時に光葉先輩が「おい、緋迎」とやってきた。俺がお願いしたのだ。相談したいことがあると。
春灯に八尾が注ぎ込まれた。その八尾は大勢のこどもたちの魂をどうにかこねくりまわしてできあがっている。そんなものが注がれていた春灯について、俺は去年からずっと、何度も担当の刀鍛冶として調べたり、調整したりしてきた。なのに、一度たりともわからなかった。
学食の屋外席に陣取って、小楠やユウリたちも付き添ってくれている。だが、光葉先輩をはじめ、小楠たちもむずかしい顔で唸る。
「先生たちさえ調べてきたのに、だれも気づかなかったんだ。しょうがなくねえか?」
ユウリが口火を切った。
獅子王ニナ先生をはじめ、いろんな先生方が春灯の状態について調べてきた。
なにせ去年からなにかと騒動の中心にいたし? 授業中に倒れたことも一度や二度じゃ済まない。
にも関わらず、だれも見つけられずにいた。
御珠にしたってそうだ。
「でも、それを言い訳にしてちゃ反省のしようもないだろ」
「今後の改善に繋げる反省をしよう、と言いてえの。それには責めてもしょうがないことでいちいちめげていてもしょうがねえだろ?」
「そりゃあ、そうだけどさ」
ふたりでにらみ合っていた横で、光葉先輩が咳払いをする。
俺もユウリも直ちに先輩を見た。良くも悪くも俺たちにとって先輩には頭が上がらない。
先輩からそう叩き込まれてきた。物理的にも、精神的にも。
「私たちは霊子を読み取る。霊子は心の欠片。だが人に触れて感じる霊子はとにかく量が多い。それにいちいち細かくなにを考えているのか読み取っていたらたいへんだ」
「いまだとラーメンの感想だけでやまほど浴びせられるな」
「お前の場合だけな」
「そういうお前はいつもそばじゃねえか」
「こほん」
光葉先輩の咳払いで俺もユウリもすんと黙る。
そんな俺たちふたりを小楠が冷めた目で見ていた。
やめて。見ないで。
「だから私たちはなるべく細々とした内容だなんだは読み取らない。相手が望まないいやな考えや、思いたくないし表に出したくない感情なんかもわかってしまうからな。私たちは意図的に鈍感になる」
「相手に霊子の糸を繋げると、さながらイヤフォンやヘッドフォンをさしたように、相手からやまほどの感情や心の機微、その訴えが聞こえてくる。百や千じゃきかない情報が、反響しあいながら。それじゃ作業が行えないから、ボリュームを落とす、ですよね」
「そうだ」
これくらい自然に解説しろよと言わんばかりの目つきで睨まれた。
先輩の理不尽に俺もユウリも素知らぬ顔で目を逸らす。
「まったく」
「逆にいえばボリュームをあげることで、あの子から異質な情報を読み取れた可能性はゼロじゃない、ということでしょうか?」
「どうかな。私もあいつに触れてそれとなく調べたことがあるが、いかんせん、な」
光葉先輩の春灯評が気になって前屈みに尋ねる。
「な、なにか問題でも?」
俺の落ち度かどうかよりも、これまでの春灯の苦境を俺なら防げたかもしれないと思うと、気になって仕方ない。だが先輩は肩を竦めた。
「あいつの声みたいに、霊子の訴えもうるさい。小楠の例えで言うなら、ボリュームが大きすぎるんだ。こっちがどんなに調整しても、まるでゼロにならない」
「私はそれがあの子の霊力の強さを示すものだと思ってましたけど」
「どうなんだろうなあ。緋迎、お前はどうなんだ?」
先輩と小楠、ついでにユウリも俺を見つめてくる。
首を捻り、背もたれに身体を預けた。腕を組んで、これまでを振り返ってみる。
だが、どうなんだろう。
「あいつはいつもそうだから、そういうものだとばかり」
「専任担当も困り者ですね」
「お前さあ。授業で刀鍛冶同士で繋がることもあったろ? なんだそのふわっとした感想は」
「つまり緋迎も小楠と同じ意見だと?」
光葉先輩が一年に一度の優しさでフォローしてくれた。
こんなことは滅多にない。
『失礼でしょう。あなたの呼びかけに応じて、こうして相談に乗りに足を運んでくださったのに』
『そうだぞー』
う。
御霊ふたりの指摘に言い返せない。
いやでもほんと、珍しいんだって。俺のフォローをしてくれるのは。
『だとしても、ここまで来てくださった優しさをないもののように考えるだなんて。感心しませんよ?』
気をつけます!
「おい、緋迎」
「は、はい、そういうことです」
ドスの利いた声で名前を呼ばれた。在学中、しょっちゅうそうだったように。
思わず条件反射で震えてしまった。
「これまではそれが常識だった。私たちが学んだカリキュラムも、先輩後輩で構築する師弟関係においても、それはずっと変わらなかった。父やじじさまたちに確認したが、すくなくともここ五十年はそれでやってきているんだ」
うちが緋迎として、侍隊の一線を張る侍の名家とするのなら?
光葉先輩は刀鍛冶の名家である楠の一人娘だ。先輩のご両親も、祖父母の世代も、みな第一線の刀鍛冶だと聞いている。彼らの話だというのなら、かなり信憑性が高い。
もっとも、だれも全国を網羅的に理解することはむずかしい。
万が一、ということもあり得る。
ただ、少なくとも四校の通常カリキュラムにおいて五十年は変わらず運用されていた「常識」なのではないか。
「仮に担当している侍や刀を調整するとき、その状態に問題が生じていたとき、ようやく私たちは情報を読み取ろうとするが、それにしたってすべてをありのままに読み取ろうとはしない。ラジオのチューニングのように、問題と見なしたものの周波数を合わせるような形で収集に励む」
「それさえ、相手のすべてを読み取れる、理解できる、なんていう便利な代物じゃありませんよね」
「当然だ。そんな便利な力があったら、国家元首が通うような占い師だの、カウンセラーだのになってるよ。でも、刀鍛冶がそんな立場についてるか? その手の仕事で成功してるか? してないだろ。担当した侍が刀を失うことを止められないことさえあるんだ」
そんな便利な力じゃないし、完璧な能力でもなんでもない。
先輩はテラステーブルの下で足を組んだ。高等部を卒業して大学部に通う先輩はずっとパンツスタイルだ。スカートやワンピースを着ているところを見た記憶がない。もしかすると高等部でも許されるなら男子のスラックスのほうが履きたかったのかもしれない。
「私たちの能力もまだまだ伸びしろがあり、未知数だということだ。限界値を定めて、これまでと同じことしかしないようだと、発展の余地がない。星蘭の七海みたいなスーツ作成さえ、できないままだ」
「せいらんくん、可愛いですよねえ」
「私には成人男性サイズのぬいぐるみの中に入って戦おうなんて思いつかないし、興味もないけどな。まあ、あれはかわいいよ。小さいのなら好きだ」
「ああいうの憧れるなあ」
「模型部の連中はいまも再現に勤しんでるか?」
「ぼちぼちがんばってますよ。プラモデルを動かして、アニメの戦闘シーンを再現するぞって」
「もうちょっと発展性を持たせればいいのに。そういうところで星蘭に舐められるんだ」
先輩と小楠が盛りあがるなか、ユウリが足をつま先で軽く押してきた。
なんだよと見ると「先輩、飲みもの買ってきます。なんかあれば、こいつがおごりますけど」と余計な提案をしはじめた。困る。よせ。お礼は必要かもしれないけども。
「じゃあ久しぶりにぜんざい頼む」
「了解っす。行くぞ」
ユウリに引っ張られて中座する。
ふたりでドアを開けて学食の中へ。うるさいくらい盛りあがっている長テーブルの並ぶ横を通りすぎながらユウリの背中を叩く。
「なんだよ、急に」
「光葉先輩、マジでなにか新しいこと始めてるみたいで、星蘭の七海さんとかと頻繁に連絡とってんだよ。ジロウ先輩から聞いた話じゃ、そうとう忙しくしてるんだって。だったら呼んだお前が礼をするのが道理だろ?」
「そりゃそうだけど。なんかあって呼んだんじゃないのか?」
「まあ、それもあるよ」
いいからこいと先導する友人についていく。
食券を買うのに、けっこうな列に並ばなきゃならなくなった。
参ったなあ。
「小楠ちゃんが代わりに聞いてくれるって。いらいらすんな」
「してないけどさ」
「それよりお前、最近、ずいぶん首だなんだが綺麗じゃねえか」
「え? あ、ああ」
ユウリの指摘に気まずくなりながら、右手で首筋に触れる。
「去年の今ごろも、ひどかったよな。青澄ちゃんと同棲して、ほどなく痕つけて。最初は茶化してやろうかとも思ったけど、ためらうくらい凄惨で。正直、初体験が相当こわくなったよ」
「謝らないぞ」
「求めてねえから。じゃなくてさ。いろいろあって、大勢の見知らぬこどもたちの魂を抱えて。そんな彼女と、ちゃんとやれてんのかってこと」
「――……う」
気にするなとか、余計なお世話だとか、そういう言葉も浮かびはしたが出なかった。
図星を突かれた気まずさや痛みが勝ったから。
「今朝もあの子を見たけどさ。いろいろあったわりには落ち着いてるっつうか、超然としてて。なんか、ほんとに後輩の女の子か? ってくらいで、圧倒されちゃってさ」
「なにが言いたいんだよ」
「高嶺の花って、それともまた微妙にちがうんだけどさ。なんつうのか。むずかしい子だなって。でも、お前はお前で、足りないものに喘いでる状態だろ?」
うるさいな、と喉元まで出かかるのに言えない。
あれこれ言いたいような気がするし、瞬間的に頭がかっとなるのに、爆発しきれない。
さすがに親友だけあって、俺の弱みや苦しいところもお見通しなのだ。
昨日は俺を心配してついてきてくれて、春灯んちで泊まった。そのときにユウリなりに感じることもあったのだろう。
「無理してるんなら言えよ? 気晴らしくらいなら、いつでも付き合うんだから」
「ああ」
「あと、さみしさだなんだこじらせる前にしろよ? そういうのが取り返しのつかないことに繋がるんだ」
俺はエマとのことでさあ、と愚痴やぼやき、反省トークが延々と続くものだから、途中で根を上げて言っておいた。
「ああ。わかってるよ」
お礼を言ったほうがいいだろうに、言い出せない。
動揺しているし、感情は大いに波打ち揺れている。
落ち着かない。
わかっているんだ。
だれかの力になるっていうなら、まず自分がしっかりしていないと無理だって。
春灯と過ごしてきた一年とすこしの間に身に染みている。
でもさ、ユウリ。お前には情けないし恥ずかしくて言えないけど、俺はもうだいぶこじらせてる。
さみしさも。それ以外の気持ちも。
そこは春灯も同じような気がしていたんだ。ビルがやまほど爆発する、あの日までは。
つづく!
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