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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千七百九十六話

 



 少しの日にちと混乱を引きずりながら、私たちは佐藤さんとあねらぎさんが平塚さんを連れてきてくれた。久しぶりに眺める母校。彼はとても眩しそうな顔で圧倒されていた。

 私たちも圧倒されていた。今日も食い込むパンツがえぐい角度だったから。私の病室に来たときになにかを羽織ることにぴんときたのか、今日は刺繍やふさふさのついたリッチな赤いマントを羽織っていた。完全にレスラーである。仮面をつけた完璧だ。

 キラリがマドカに小声で「だれ、あのへ、レスラー」と問いかけていた。ぐっと堪えたけど一文字出てるよ。変態のへの字が! ちがうからね。変態ではないよ。平塚さんはプロレスラーではないし、プロレスラーのみなさんは外で仕事着で出ないでしょ。相撲取りの人が回し姿で街中を出歩かないように。私だって衣装姿で街中には出ない。なのに彼はかちっと決めている。なんでだ! 

 謎だ。

 ちなみに佐藤さんとあねらぎさんが彼を連れてきたのは学校でいろいろと聞きたいことがあったから。確かめたいことも。平塚さんがいた頃の卒業アルバムとか、いろいろね。それに平塚さんの話が本当なら、あの男ないし、あの男に繋がる特殊な出自の生徒があの男、平塚さんの他にも大勢いるはずだからだ。

 もっとも私たちが呼ばれたのは放課後。彼らがあらかた調べ物の当たりをつけて、資料として借りる手はずを整えたり、ホノカさんやリエちゃん先生をはじめ平塚さんと関わりのある教師やスタッフの話を聞いたり、彼らの教師で古株の先生に会ったりしてきてから。

 平塚さんの話を病室で聞いたあの日からずいぶん経った。その間にあねらぎさんをはじめ、あの男が私にしたことを調べてきた。その追跡調査を今日したかったのもあるし?

 あるいは今日、理華ちゃんの個人捜査への注意と現状報告をしてもらうためでもあったし。

 なによりも、あの男にいつまた絡まれるともしれない私たちに、平塚さんならではの霊子の扱い方をレクチャーしてくれるためでもあった。

 そのためか、集まったのは有志と言いながら戦闘能力の高い学生を中心に数多く、教師も多い。特別体育館があった疑似城下町の神社の鳥居から宝島へ。

 烏天狗の館へと移動して、東京ドームや横浜スタジアム、明治神宮野球場のようなスタジアムを再現。

 平塚さんは佐藤さんとあねらぎさんを背に、スタジアムの中央に立つ。

 実は館で大勢の侍隊が待ち構えていた。平塚さんを警戒してか、それとも今日の講義がそれほど重要だからか。彼らはスタジアムの周囲を固めるようにして、中央にいる平塚さんを見ている。かなりの厳戒態勢だ。

 だが平塚さんは気にしない。拡声器を手にして、全員に呼びかける。


『あー。あー。今日はこのような場を設けていただき! 恐悦至極! に! 存ずる!』

「前置きはいいんだってば」


 スタジアムの最前列の席を確保できた私は運よく佐藤さんの呟きを捉えることができた。

 上空に巨大なモニターが設置されていて、各所に設置されたカメラが捉える平塚さんがアップで映っている。腰回りを映すとビキニパンツだからとバストアップで映しているんだけど、平塚さんが早々にマントを放っちゃったから、まるで全裸の人が映りこんでいるみたいだった。


『さて、若人たちよ。侍隊の方々よ。我々は御霊を宿してみせたとて、人としての限界をたやすく超えられるものでも、超え続けられるものでもない。その点についてはご承知のことと思う』


 ビキニパンツと素肌の間にとても小さな鞘が挟まっていた。


『獣憑きになろうと、妖怪変化になってみせようと、千里を駆けてみせようと、それは超人になったことを意味するものではない』

「やなこと思い出させてくれるなあ」


 隣にトモがいて鬱屈した声で呟いていた。

 現世の人助けをするためにトモは八方を駆け回っていた。無理を押して。そのためにトモの足はずたぼろになってしまった。同じようなことを続けていたら、今度はもう治療不可能なほどに損傷しかねない。そう医師にはっきり言われてしまっている。

 隔離世ならいい。まだ、治せる余地がある。隔離世の私たちは言うなればオカルトが通用する状態になるから、オカルトな治療だって通用する。だけど現世じゃそうはいかない。神経の損傷、筋繊維の損耗などを治すオカルトなんていうのはないんだ。


『大戦期に徴兵された隔離世の者たちが御霊に反する争いに身を投じ、御霊と霊力の加護を失い、人として散っていったことも聞き及んでいることだろう!』

「そうなのか?」

「そうなんです」


 佐藤さんとあねらぎさんがぼそぼそっと確認しあっていた。

 そう。たとえばトモみたいに走れる人が大戦期にいたのなら、それだけで選べる作戦行動の幅は広がるはずだ。私のような化け術だってそうだし? ユウジンくんの召喚術にしたってそう。

 それは戦局に影響を及ぼす戦術に活用できるはずのもの。

 当然、当時の帝国軍だってそのつもりだったろう。

 だけど御霊はそれを嫌うから、御霊に頼る力は当然、発揮されなかった。

 隔離世の刀は現世の人を斬れない。

 となれば結局、そこらの隔離世を知らない人と同じようなことしかできない。


『それを嫌った者たちがいた。彼らは企んだ。御霊に頼り、霊力を借りて得るから現世で使えないのだ。ならば本人の霊力を御霊なりに鍛えてしまえばいいと』


 の、脳筋!

 なんて脳筋な発想なんだ!


『それだけの霊力はどのようにして育めばよいか。天才の誕生を待つか? いいや。それでは再現性がない。それに、才覚ほどごまかしのきく方便もない』


 平塚さんのトークが進むなか、ライト側の選手席から数人が出てきた。

 高橋先生や光葉先輩、小楠ちゃん先輩がいる。刀鍛冶の集まりだ。そこに警察の制服姿のおじさんたちもついていく。彼らも帯刀していないから、やはり刀鍛冶なのかもしれない。

 みんなはそれぞれに平塚さんを取り囲むようにばらけて、東西南北四つに分かれていく。そしてみんなで白くて薄い布を広げてみせた。芝の上に下ろされた布がみるみるうちに黒く鈍く染まっていく。分厚い勤続の板に見えた。

 隔離世の刀鍛冶が別物に仕立ててみせたのだ。


『そもそも実現可能なのか? そこで刀鍛冶のみなさんに鉄板を用意してもらった! さあ、佐藤くん! まずはなにかで叩いてみせてほしい!』

「え、お、俺?」


 全校生徒にほど近い人数と、侍隊の大勢が集まって見守るなか、光葉先輩が宝島の霊子でこしらえてくれた木の棒を渡されて、佐藤さんがおっかなびっくりと南側のプレートに振り下ろす。

 けたたましい音を立てて佐藤さんの棒が跳ね返される。手首を痛めたんじゃないかと心配になるような、無茶な叩き方だった。実際に彼は両手を合わせてぴょんぴょんと飛び跳ねてから「んおおお!」と吠えている。


『これくらい硬いわけだ。刀鍛冶のみなさん、鉄板を持ち上げられるだろうか?』


 平塚さんの振りに光葉先輩たちがうなずきあって、地面の鉄板に手を伸ばす。

 せーの、と声を掛け合うが、もちろん無理だった。厚みが五十センチ以上はありそうな鉄板プレート。その面積は遠くからざっと見て、五メートルかけ五メートルで二十五平方メートル。そうなると、トンはいくんじゃないかな。まず人の手では持ち上がらないよね。


『無理だった。ここでスタジアムにお集まりの妖怪や獣憑きの者たちで、我こそはという者がいたら出てきてほしい! どうだ? 力自慢はいないか!』


 なにかのショーみたいになってきた。

 あんまりにも露骨に注目を集める呼びかけなのに、トラジくんをはじめ、数名の力自慢が出ていく。

 こういうところ、良くも悪くもうちの学校はノリがいい。

 どうなるかなって見ていたら、他にもずらずらと反対側から生徒が下りてきた。星蘭の制服姿の男の子たちが多い。いつの間に!

 そこで周囲の座席を見ると、私たちが来たときよりも人がずっと増えていた。おまけに狸さんたちが「ピザトーストはいりませんかぁ?」「リンゴぉ、リンゴジュースぅ! ピーチもあるよぉ!」と商売をしにきている! いつの間に!?

 思わず買っちゃったよね。熱々のピザトーストとリンゴジュース。なぜにこのラインナップ? わからん。まあ未成年が多いのにビールだなんだを売られても困るけど!

 トーストは四枚切りくらい分厚いものを半分に折りたたんで、なかにトマトの果肉が残るピザソースと食感のある太めのトロトロチーズ、さらにウインナーとピーマンのカットという定番ネタ。これを銀紙の包みでくるんでいるもの。リンゴジュースは紙容器に注いだだけなんだけど、氷の形がハートだった。微妙に手がこんでいる!

 ちびちび飲み食いしながら見守るなか、万が一怪我をしてはいけないから「一人一回、どこまで持ち上げられるか」を平塚さんがそばで見守る形で進行していく。

 鬼の角を生やして吠えるトラジくんが両手で十センチほど持ち上げられた時点でスタジアムが湧いちゃうくらい、他のみんなは苦戦した挙げ句に無理だった。侍隊の人たちも加わって、なにか別の催しになりつつあるくらいだ。トラジくんより持ち上げられた人が数名いたけれど、基本的にはみんな、すぐに根を上げた。


『御霊の補助があっても、我々は御霊自身に取って代わることはできない。そのため、お互いの関係性や、彼らの支えを受けてできる限度があるというわけだ。みなさん、協力ありがとう! ぜひ大きな拍手を彼らに!』


 拍手のジェスチャーをする平塚さん、どう見てもこの手のノリに慣れている。

 学校を巣立ってから捕まるまでの間にいったいどんな経験を積んできたんだろう。謎だ。


『いまより上を目指すならどうするべきか。ひとつ、御霊との縁を深める。ふたつ、我々が霊子の扱いを習得する。その結果、侍候補生ならびに侍はわかりやすい指標がある』


 そこで平塚さんは刀を抜いて掲げてみせた。


『影打ちから?』


 彼の巨躯に見合わぬささやかな太刀がみるみるうちに伸びていき、巨大な薙刀に変わる。


『真打ちに。ああ、すまない。みなさんのそれとはちがい、刀ではないのだ。驚かせたならすまない』


 彼がそう語る間にスタジアムは大いにざわめいていた。

 私たちの刀は御霊との縁や習熟によって、一皮剥けると? ようやく真打ちへと姿を変えることができるようになる。そうはいっても刀は基本、刀になるだけだ。装飾や反り、刃紋などに御霊のありようがより顕著に出るようになるが、基本は刀のまま。

 なのに平塚さんのはちがう。

 薙刀だ。彼の身の丈に今度こそぴたりとはまる、見事な長さの薙刀だった。


『これが先ほど述べたふたつのやり方を何段階か進んだ先の状態だ。候補生のみんなはまだまだ無理な者もいるだろうが、案ずることはない。やがてたどり着けるだろう。侍隊になっても未だできないとしても、それは力や才覚がないことを意味するのではないしな』


 スタジアムに集まる大人の何割かが微妙な反応をしている、かもしれない。


『だが、これでもやはり、御霊に頼っている点では変わりがない』


 たしかにそうだ。

 間違いない。


『だから我々が、自分自身の霊力を鍛え、これを触媒にして力に変えればいい』


 やっぱり脳筋の話かな?


『なにもむずかしい話ではない。ではなぜ侍隊で活用されず、学生の諸君らに伝わっていないのか』


 彼の問いに思わず黙りこんでいた。

 また以前のように、いやもっと走れるようになろうと試行錯誤の最中にあるトモもそうだ。

 きっと他にも、少なくない人が考えた。

 彼の話を聞いてみると、なるほどたしかに彼の言うとおり。

 それに実際、脳筋だーって考えたけど、でも、自然な発想じゃないか?

 普通にそれを目指すものじゃないか。

 私だって去年も今年も、何度か似たようなことを考えてきた。

 答えは? やり方がわからないから、先に続かなかったけどね。

 続かないなりにやるしかなかったからやってきたし、運よく実現して乗り切れていたのは私の霊力がすごいのではない。あの男が私に注ぎ込んだ八尾に大量の魂が凝縮されていて、みんなが霊力になってくれていたからだ。


『基本的に不可能だからだ』


 彼はあまりにも身も蓋もないことを言った。

 あんまり身も蓋もないものだから、みんな一瞬「なに言ってんだこいつ」ってなった。

 なにかを教えるためにここに人を集めたし、私たちは集まったのだ。

 それが、実は「どうすることもできない」って教えるためなら「ふざけんな」って話になる。

 ボケなんだろうか。これは。

 ざわつくスタジアムの中心で、彼は薙刀を刀に戻して鞘に収めた。

 そして鉄板プレートのそばに行き、屈んだ。手を伸ばしてむんずと掴んだ板を、まるで地面に倒れたホウキでも持ち上げるくらい軽々と起こしてみせる。


『なぜ不可能か。我々は願わない。思わない。信じない。人の身にできるはずのないことができる、などと。当然だ。そんな者がいたら、我々はその者を狂人と見なすだろう』


 たしかに彼の言うことに間違いはない。

 だが認識の話なのか? それが鍵であり、問題の軸になるのか?

 思い込みや価値観の話に過ぎないと?


『そこで人為的に狂う状態になれば、その制限が外れるのではないかと試みた者がいた』


 平塚さんたちを開発した者たちのことだ。

 私にはぴんときたけど、彼から話を聞いていないスタジアムの多くの人たちはわからないはずだ。

 そもそも、試み自体がどうかしているし、ああそうなんだとうなずける内容じゃない。


『だが冷静に考えてみてほしい。そんなもので、重機の力を借りなければ持ち上げられない重さを持ち上げられるようになったとして、そんな者が社会生活を穏便に過ごせるだろうか?』


 とてもそうは思えない。

 平塚さんは片手でプレートを持ち上げて、ひょいっと放った。

 中心を手のひらで捉えて、くるくると回してみせる。

 普通の人がやったら、プレートの重さに潰される。重傷で済めばいいが、死んだとしても不思議ではない。力を解放しているわけでもないのに、彼は易々と行っている。


『世界は広い。様々な霊子との付き合い方がある。たとえばこのプレート。刀鍛冶のみなさんが仕立ててくれたものだ。つまり彼らが干渉した布の霊子、そして彼らの霊子が宿っている。これらに干渉することで、実は鉄板ではなく布であるとして、扱えるようにする術もある』


 なんと。


『それなら狂うような体験をして霊力の枷や制限を壊そうとするより、よほど健全だ。もっとも必要になる知識と技術は増える。求められる能力も増すが、技術に落とし込めるのだから、より多くの人間が扱える余地がある』


 たしかに。才能ですよねはい終了、よりよっぽどいい。


『仮に霊力の制限を変えられないのだとしても、それを扱える余地が増すのであれば? 通常が一割も満足に扱えていないのであれば、これを十割とはいわない。せめて五割は扱えるようになったなら? それだけで五倍の力が出せる』


 彼の話を聞いていると思いのほか、解決策があるみたいだ。


『もっともこれも、オススメはしない。人体の能力が制限されているのは緊急時に備えるものであって、通常時に火事場の馬鹿力を使えるようでは心身の負荷が深刻なものになるためだ、という、よくある話のように、霊力の消費を当てにしすぎるのも危うい』


 火事場の馬鹿力に慣れないのは、いつも出せないのは、それをしたら身体がもたないから。

 たしかによく聞く話だ。あとフィクションでは、その枷を壊してしまえば強くてよくねっていうのも、よくみる話。


『それにそもそも日ごろ、いまの出力でいいように過ごしているのだから、その均衡を崩してしまうことになりかねない』


 仕事で必要だから大声を出すことに慣れたら、日常生活で「声が大きい!」って言われて関係性が悪化したり、トラブルに遭ったり、そもそも喉を壊してしまったりする、みたいな。

 そういう状態になるってことかもしれない。

 たしかにやだな。それは。

 私の場合は他にも露骨に具体例がある。

 帯刀男子さまだ。

 八尾のみんなのおかげで霊力が異様にあって、おまけに霊子の扱いにも慣れてきたぶん、思わぬことを霊子で形にしてしまう。意識的にだけじゃない。無意識的にも作用してしまうから、生きるのが本当に大変になってきている。

 ホノカさんもそうだ。あんまり無茶な霊子の扱い方をするものだから、それが身体に疾患として出てしまうようになっている、というのだから。

 無理なんてないほうがいいんだな。私にはもう手遅れな話になるけどさ。ホノカさんにとっても、だし。なんなら、トモだってそうだ。


『そこで、こう考えるのだ。守破離。我々は自身と御霊の尊厳を守り、両者の霊力を守る。それがまず、基本としてあるのだと』


 守るべきもの。自分と御霊。


『そして我々は次に向かう。破。我らの霊子は、決して他者の霊子に破られるものではないと』

「ん?」


 勇ましいことを言っているようで、待って?

 めちゃくちゃ脳筋なこと言ってない?


『つまりは、触れるものの霊子を屈服させ、我々の制御下におくのだ』

「「「「「 んん? 」」」」」


 今度は私みたいな疑問を、他のみんなも抱き始めたようだった。


『パワー! いず! パーフェクト!』

『待った。待て待て』


 あねらぎさんがすっと出した拡声器を受けとって佐藤さんがツッコミに入った。


『つまり霊子が注がれたものなら、自分の力でねじ伏せれば思いどおりになるってことか?』

『うむ!』

『じゃ、じゃあ、霊子が注がれていない鉄板だったらどうするんだ? 潰されちまうってことにならねえか?』

『鉄板の霊子を屈服させればいい! ゆえに我は拳で突き進んでみせた!』

『いやいやいやいやいや。え?』


 佐藤さんがドン引きしながら、周囲を見渡す。

 どうするんだよ、こんなに人が集まってるのに。よくもお前、そんな脳筋話のために、大勢を巻き込んだなと言わんばかりである。ちなみに全部、私の妄想です。


『そ、その理屈でいけないヤツはどうすりゃいいんだ?』

『それはぜひ! これほど大勢あつまっているのだ、智恵をお借りしたい!』


 言ったぁ!

 自分にはいま以上の策がないって、言っちゃったぁ!

 だいじょうぶかな? 乱闘騒ぎになったりしない? 観客席から血気盛んな人が乗りこんでいったりしないかな!?

 はらはらするなか、スタジアム中に響くような笑い声がスピーカーから響いた。


『はっはっは。ありがとう、平塚金太郎さん。いやあ、刺激的な提案だったね』


 シュウさんだ。反対側の選手席からゆったりとやってきた。すぐさま、会場内を移動するカートに乗って、優雅に中心に向かっていく。おまけに彼だけマイクを手にしている。ずるい! 自分だけ会場の設備をフル活用している!

 三人のそばに到着すると、ようやく下りた。


『守破離の破。これを言語化して技術に落としこむと? 我々はより一層つよくなれる、ということだね。これについては星蘭の宝生先生や侍隊のメンバーをはじめ、手が懸かるところにいる者がいるだろうから、学生の諸君はしばし! 耐えてほしい! といっても、それじゃあ退屈だろう?』


 みんなを見渡しながら、にやにやと笑っている。

 プロジェクターに映るシュウさんときたら、ほんとに悪い顔をしている。

 ずいぶんとまあ、振る舞いに余裕が出てきたもんだ。

 結婚がよかったのか。去年の一件で吹っ切れたからなのか。

 なんであれ、カナタさんを置いてきぼりにして、彼の兄は気楽にしているように見えるよ。私からは。


『要は対象の霊子に干渉するという、彼の紹介した案にほど近いな? 既に方向性は示されたんだ。大人がやるのを待つよりも、学生諸君! 道を切り開いてみる気はないか?』


 また適当なこと言いだして!


『質問があれば後ほど、それぞれにクラス単位で集計して、教師伝いに集めたのちに答えるよう取り計らう。それよりも今日はせっかくこれほどの人が集まったのだから、平塚金太郎さんに様々なデモンストレーションを披露してもらいたい』

『ん? え? そんな話は聞いていないが』

『どうかな? 先ほどの板を持ち上げるのを見ただけじゃあ、物足りないと思わないかい?』


 侍隊の大人たちを中心に歓声があがり、学生のノリのいいメンバーが後に続く。

 そんな予定知りませんけど、とばかりに平塚さんはあわてているが、シュウさんとみんなの歓声を相手に押し切られそうだ。なにやってんだか。


「私の足で、走れる手段があるのかな」


 トモが隣で呟いている。

 目をきらきらと輝かせていた。

 人体を破壊するはずの重さを前に、当たり前に持ち上げただけじゃなく、掲げつづけてみせたんだ。平塚さんの見せた可能性は、トモにはあまりにも希望に満ちていた。

 私はどうだろう。

 守破離の破どころじゃない。

 まずはこの霊力と共にいられる術からじゃない?

 基本のやり直しが急務なのでは。

 あと、さ?

 守破離の使い方ってそれであってたっけ?




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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