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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千七百九十三話

 



 ちょこちょこ学校通いを再開。

 仕事もそれに応じて「いまの私の微妙な立場にも関わらずあるオファー」に関して再開。

 それなりに忙しない時期を過ごしながらも、事件は進展を見せないでいる。

 ニュースは政治の話題に切りかわっていた。

 スマホで閲覧できるサイトには「緊急事態条項 議論進む」とある。先日の関東事変は明確な敵性勢力による「テロ行為」であり「武力行使」に他ならないとして、与党が声高に主張している。閣議決定の噂まで出つつあるなか、野党の強烈な反発を受けている。他方で野党は一枚岩ではない。与党と連立を組んでいる党の、第二第三の立場を取る野党も少なからずいる。だから実際に批判と反発をしているのは、ごく一部の野党になる。

 徴兵制の話題まで持ち上がっているくらい議論は過熱しているが、これについて声をあげる識者は少ない。インフルエンサー、テレビやネットメディアに出ている識者の反芻以上は与党擁護の立場を取っている。

 この動きに連動するように「領土を武力で制圧・取り戻す」みたいな過激な意見がネットでわんさか出始めている。巨大掲示板サイト、SNSの登録して間もないアカウントたちが積極的に情報を発信している。その中には国会の情報をあんまりにも早すぎる形で発信しているアカウントなどもあり、警戒している人たちの注目を集めていた。

 まるで私たちのしたことがなかったことになったみたい。

 強い日本を。憲法改正。侮るな、舐めるんじゃねえぞ日本を。

 こんな類いのメッセージがそこかしこで見えるようになってきた。

 映画になった「探偵はBARにいる」に出てくる、拡声器と国旗、あるいは帝国時代の日章旗を掲げた黒塗りのバンのやべえ集まりの人しか言わなそうなことなのに。気づけばテレビやネットで当たり前に溢れかえっていた。

 動画配信サービスだと、別に見てもいないのに「こんなにいい自衛隊」と宣伝するような動画がおすすめに当たり前に出てくる。

 地上波やBSはもっと先鋭化の速度が著しくて「食材が乏しいときのやりくり法」みたいなもの、「自衛隊に入ると年収や待遇がどうなるか」、挙げ句に取材してみたなんていうのも流れてくる。

 だれも批判をしない。

 それをするのはネットの一部の人くらい。みんな我関せず。どこか冷めた調子で、そんなんやるわけないってタカをくくっている。

 政権を取ったものの与党と与党支持者から「悪夢」とつけられて揶揄されるようになって久しい立憲民主党、共産党、社民党などがかろうじて反対と批判を展開しつづけているけど、大勢は覆せない。なにせ国会ではのらりくらりの答弁かわし、冷笑、意味のない原稿をただただいたずらに読んで相手の持ち時間を奪うという対応で「無視」しつづけている。

 いまの党の官房長官になる人は漏れなく人相があんまり悪くて、性格も人格も終わりきっている感じしかしない。だれがなってもそうなんだから、むしろすごい。

 お昼ご飯どきに目玉焼きチーズハンバーグ定食を食べ終えた私がスマホを眺めていると、マドカが「やめなやめな」と呆れてみせた。


「むしろ、この緊張状態こそ、犯人が誘導したい方向性なのかもしれない。そう思えるくらい、大人って本当にしょうもない」


 そう言ってマドカは現状の流れが変わることはないという見立てについて持論を展開していく。

 いまの与党は政権を奪い返してから、すべての問題を与党から滑落した野党たちのせいに押しつけて、その流れで一気呵成にあらゆる政策、あらゆる決断を無茶苦茶に行っていると述べる。必要なことはしない。党が、党員が儲かることしか興味がない。それは大手企業の優遇に始まる、利益をよこす連中のためのものであって、国民のためなんて、まずあり得ない。

 具体例を挙げるときりがないくらい、いまの与党はずっとひどい。政権を奪取されたのだって、それにみんながうんざりしたからだ。

 ドイツで例えるならナチに任せていたらひどいとわかったから、普通の人たちに任せたけど「とにかく普通の人たちじゃ手に負えないくらい惨状にされている」のでまごついているうちに、またしてもナチにやられた、みたいな状況だという。

 過激ぃ。

 でも少子高齢化になんら手を打たず、格差拡大についても手を打たず、富める者がさらに富めるようなことしかしない現与党はたしかにやばい。報道は現政権におもねることしか言わないけれど、局の仕事で耳を澄ませていると「批判なんかしたら怒られる」のだそう。それも政府から。どうかしてる。

 橋本さんと仕事で会うとき、ちょこちょこ聞く。アナウンサーの知り合いがとても苦労していると。

 言いたいことも言えない。会社員は会社に抵抗できない。解雇されたらおしまいだもの。

 そうなると、痛感する。

 なにかひとつすごいものがあれば打倒できる、変えられる。そんなの幻想だって。

 ひとりががんばるんじゃ意味がなくて、各個に分かたれたら意味がないって。

 学識に基づいて批判が行い社会に貢献する立場である学術会議も、現与党からは相当に煙たがられていて「憲法改正の邪魔になる」というとんでも発言まで出ている。だけど、それは新聞のネットサイトでぽろっと流れて、おしまい。大々的に報じられるまでにいかない。

 戦争ができる、国民から人権を奪う、帝国時代の搾取しまくり奴隷だらけの国に戻すのが規定路線で、ありきの結論。それが透けて見える発言がぽろぽろと新聞のネットサイトで発信されるようになってきたけど、それ以外の発信が基本は政府の発表の垂れ流しだからまぎれていく。

 デモは日増しに増えているけれど、ネットのトレンドになることを目指すか、国会前に集まるか。後者はとにかく扱いがない。だれも報じない。

 かつて戦争になったとき、少なくない人がいまみたいに「本当にやるとは思わなかった」「まさか」とこぼしたそうだ。

 新たな戦前が、もう、浸透している。

 気づけばワイドショーさえ軍事アナリストを名乗る人たちが極東における日本がどれだけ軍事上重要な立場にあるかを懇々と説くようになっている。そこには問題発言がたびたび取り沙汰されていて、おまけに自分の都合に勝手に解釈をねじまげる与党議員なんかがしれっと出ては「軍は国民の味方なんです」とか「軍が必要なんです」「攻められてからでは遅いんです」と何度も発言している。過去の歴史認識はすべて間違いだなんてことまで言っていて、異論を挟めない出演者は司会も含めて強ばった、ドン引きの顔をしている。なのに、そんな放送が止まらないのだ。


「まるでこないだの事件を消費して、利用されてるだけじゃない?」

「そりゃあ、そうでしょ」


 ばかじゃないの? って言わんばかりにマドカが鼻息を出した。ふんす。


「今回の事件がどうとか、なんでこういうことが起きるのかとか、そういうの全部、憲法改正のための議論にすり替えてる。それはなぜ? それにしか興味がないから」


 うええ。


「次になにか起きたら自衛隊を出動させて厳戒態勢を取らせたうえで、私たちにはなにもさせずに戦時中であるかのように思わせて閣議決定で押し切って、やりたい放題したいんじゃないかな」


 細かな理屈はぜんぶ都合をつけてしまえ。

 うやむやにしてでも実効支配に持ち込んでしまえ。

 それが達成できれば「自分たちを脅かす選挙」なんてやらずに済む。

 かつての大名みたいに「なっちゃえば一生安泰間違いなし。こどもにも引き継がせて、さらに影響力を保てる立場」が待っている。

 なーんて、こんなさあ?

 ド直球の陰謀論じゃあるまいし。

 ねえ?

 そうは思うんだけど、思いたいんだけど、ね。

 国会の中継動画をアップしてる人がいて、チラ見したらあんまり露骨に「戦争になったら遅いんだ」「軍が必要なのは明らか」「反対するあなたに日本を守る具体的提案は? ないなら黙っていただきたい」と、質疑に怒鳴ってばかりいる大臣とか総理とかが出てくるものだから。

 商社からとんでもない金額の献金を受けていて、そこでは軍事開発もしており、いついつに会ってから便宜を図ったのではないかとか。自衛隊に誤った歴史観をもって吹聴して回っており、一部が命令に反して山中で銃を持って行動していたと内部で告発があったがそれについての見解は、とか。

 これらの野党の問いに対しての答えが「戦争が必要」「軍がいる」だけなのだから。

 お話にならない。

 答えとして成立していない。

 問われたことに応じてない。

 やばい。

 どうかしてる人たちが政権運営している。

 怖くてたまらない。

 さすがに大名うんぬんは穿ちすぎているから、さておいてもさ?

 献金ほしさに憲法壊す気だなんて。

 議員でいたいがあまりなんでもする気だなんて。

 そう疑われても居直る人しかいないんだなんて。

 ぞっとする。


「でも、これが狙いのひとつなら、あいつはなにがしたいんだろう」

「知らない」

「戦争とか?」


 マドカはつれない。

 きわきわな話題なのでキラリは身体をそっぽに向けて無視してるなか、未来ちゃんが問いかけた。

 どこと? 極めてやばい人たちが仮想敵にしているのは朝鮮半島や中国、ロシアのよう。

 現実味がない。あまりにもない。

 なのにいまの与党なら、もしかすると、そんなばかみたいなことさえしかねない。

 あんまり愚かな現状になったとき、私たちに抗う術はない。

 懲役逃れは世界中で起きることで、たとえばお隣の韓国でもあることだそう。かつての日本も言わずもがな。だけど「いやなの? じゃあしょうがないね」を繰り返していたら集まるものも集まらないから、もちろん強制力を強める。逮捕するくらいで留まればいいけれど、拷問する事例もある。

 理不尽でどうかしてる? そのどうかしてる状態に全体的に陥っていくのが戦争や紛争なんだから「なにをいまさら」としか。

 第二次大戦期、アメリカが本土上陸をする見込みとなるやドラム缶に入って、海中から槍で船や人を突くなんて作戦ぶちあげて、その訓練中に少年たちが溺れ死んでいる。そういう状態になっていくのが戦争や紛争なんだから。

 私たちがこれまで接してきた事件だなんだ、その戦闘だって、実際のところ、どうかしてる狂った状態に腰まで浸かっている。毎回ね。

 それを避けるとなると、なにが必要になるのか。

 大人たちに、その必要な動きが出ているか。

 いまの現状では、あまりにも少ない。

 押し切られかねない。

 だけど、みんな楽観視していたい。

 さすがにそこまでばかじゃないだろう、やらかさないだろう。だれか止めるだろう。

 今回でいえばテロ攻撃のようであっても、断じてどこかの国から攻撃されているわけじゃない。

 だからだいじょうぶ。そう思いたいけど、国会答弁の実態を眺めていると信じられない。だって機能してない。与党が意図的にやっている。なのに、それを咎めても意味を成さない。

 トランプがもうめちゃくちゃでお話にならない、だけど彼を大統領としてやっていかなきゃならないみたいなアメリカの窮状、日本はとっくにやってたんだなあと思い知らされる。それくらい、ひどい。露悪的で冷笑する小学生の集まりなんだから。そんなのが国政に関わっているんだから。

 もっとも捉え方はマドカと私とで異なるし? おまけにキラリ、未来ちゃんとで反応もちがう。

 関わらず、聞かず。

 あるいは聞いて言うけど特に調べたこともなきゃ知らないことだらけ、みたいなの。

 すこし離れたところでレオくんとタツくん、姫宮さんも同じ話題で語っていたけれどレオくんは主にお金の流れ、財界の知人などの情報を元に論を構築しているし、タツくんは地元議員や地方議員の悲惨な実状について触れている。

 勉強熱心な狛火野くんは完全にカバー外の話題のようでぽかんとしてるし、ギンはそもそも政治にまるで興味がない。悪党を見つけて斬ればよい。実にわかりやすい論理でいる。その論理もある種、かなり政治的。

 私たちの言動は政治と切り離せない。

 この場における振る舞いが、この場における政治と無関係ではいられないようにね。

 それならせめて、もっと現状に適当な情報を理解している学生がいたなら話を聞かせてほしいくらいなんだけど、ひとまず見当たらない。

 なんであれ思い知らされる。

 どれだけの力を得たって、それが現状をどうにかする術になるわけじゃない。

 太陽を盗んだ男が自分の作った原爆で世界を思いどおりにしようとしたけど、そんなんなるわけないみたいにさ? 現状を私の力で思いどおりになんて、そんなのなるわけない。

 ただ影響を及ぼすことなら、ある程度はできる。そこが問題。


「お。なんか、妙なことになってんぞ?」


 カゲくんが呟いて、スマホの画面を見せてくれた。

 飛行船が浮かんでいる。スカイツリーのすぐそばを。

 ひとつじゃない。複数。

 地上から見上げるようにして捉えた画角に真白い船がぱっと見で三機。

 そこからなにか、おびただしい量で赤いものが散り落ちていく。


「紙か?」

「これだ」


 画面を凝視するシロくんの隣で、ミナトくんが慌ただしくスマホを操作。すっと立ち上がってカゲくんの隣に画面を並べてみせた。

 真っ赤な紙が映っている。QRコードと共に黒字の「告発」と記載されていた。

 急いでシロくんがスマホをカメラモードにして読み取ろうとするのだが「なんか変なページだったらどうするの」とトモが訴える。それもそう。妙なサイトに誘導されて情報を引き抜かれたらどうするのか。


「見てみなきゃ」


 よしなってと止められてもシロくんは読み取ってしまった。

 表示された画面をみたシロくんの眉根が寄る。


「なんだ、これ」

「おいシロ、自己完結してねえで見せろって」


 焦れたギンが文句を言うと、シロくんがカゲくんたちのようにスマホの画面を見せてくれた。

 立ち上がって身を寄せて、離れた画面を覗きこむ。


「せんきょ、ふせい?」

「悪質な聴衆」

「投票操作のために、人造人間?」


 仰々しく硬いフォント、太字の大文字で強調されている文字を読みあげる私たち。

 シロくんが画面をゆっくりとスライドさせると、地域と人の名前のリストに行き当たる。

 最初に「既に判明した地域」として、私たちが訪ねた千葉のあの住宅街の名前が記されていた。続く名前のリストは、さながら後に発見されたご遺体の名前と重なるものか。

 彼らが支持を指定された人物もご丁寧にまとめてあって、それが昨今のやべえ与党議員たちの名前にきっちり一致しちゃうんだから、いっそ紙をばらまくまでの空白期間は議員たちの言動を引き出すためにあったのではないかとさえ勘ぐるほどだった。

 だとしたら、これはなんだ。

 あの男の仕業なのだろうか。

 この告発が?

 まさか本気でどうにかするための手とは思えない。いっそ動画でも流せば、なんて浮かんでしまう。そんな自分に驚く。私があの男で、もしも政治を批判して、その罪を暴こうとするなら。サイトに表示されるものが本当だったとして、それを糾弾しようというのなら。私ならこうすると、そう考えてしまえるのかと。こんなことに驚く自分にさえも驚いてしまう。


「なにが狙い?」


 マドカがつぶやく。

 わからない。そんなの、だれにも。

 ただ、これでしばらくニュースが大騒ぎになるし、これが事実かどうかの話題に続報が出るたびに揺れそうだ。それをきっと主犯者はやるだろうし? そいつかそいつの関係者がまず間違いなく、あの飛行船にいるはずだ。

 警察が出動して大騒ぎになるだろう。

 なんであれ、これは一手。

 他にも指し手があると見る。

 その追求を繰り返すほどに、国会の議論の内容も切りかわっていき、いまの勢いが尻切れとんぼになりかねない。

 そうしたら、どこのだれが、なんのために、どう動くだろうか。

 なにをあぶり出そうとしているんだろうか。

 あの男が誘っているのは、製造開発者たちだろうか。彼らがいまも掌握している尖兵だろうか。

 あるいは端的に告発そのものが狙いなのだろうか。

 だったら八尾も、私に注いだのも説明がつかない。

 いったいなにが狙いなんだろう。


「いまからあの飛行船に乗りこむ、なんて」


 気になるから言ってみたけど「絶対にだめ」とマドカにきつく言われてしまう。

 相手の出方がわからないし、告発が万が一にも確かなら私が乗りこむことも、それがだれかに撮影されちゃうことも致命的になりかねないというのだ。

 否定できない。

 ただ、これが尋常ならざる訴えであるのは想像に難くない。

 ともすれば白い飛行船から血を流すように訴えられている情報に、どれほどの意味と価値があるのか。それを探る最先端に報道やジャーナリズムに働く人たちがいるんだろう。

 そこで疑問を抱いた。

 私たちは訴えをどれほど受けとめられるのだろうか、と。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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