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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千七百八十四話

 



 久しぶりに天国修行に呼ばれた。

 女神さまが私を膝に乗せて、顔を見下ろしていた。

 起きるのを待っていたかのように。

 ばちんと目が合った瞬間だった。


「へっぶし!」

「うおう!?」


 思いきりくしゃみを浴びた。

 理不尽じゃない? ねえ。こんなのなしじゃない? ねえ!


「くっさ! なになに! ちょっと! だれかきて!?」


 私の脇を持って持ち上げて顔を背ける。

 え。なに。待って? やだ。ほんとに?

 私いま、臭いの!? なんで!?

 どきどきしながら鼻から息を吸う。


「ふご!?」


 ぶたっぱな発動!

 脳裏をよぎったのは、一年生のときのこと。剣道部の様子を見に行ったとき、トモがシロくんを叱っていた。防具も、胴衣も、ろくに手入れしてなくて。するとどうなると思う? なにもしなくても激臭がする。なのに日ごろの汗を拭かずにほったらかしたら? 激臭かける激臭! 最臭兵器が完成する!

 あの猛烈に鼻をつく汗臭さが、私の身体中から放たれていたのである。

 おかしい。

 現世の私はきれいきれいなのに!


「「 くっさぁああ! 」」


 ふたりそろって野太い悲鳴をあげていると、すぐさまおイヌさまたちが集まってきた。

 お風呂の用意を! うわくさ! ひどい匂いですよ!? いったいなにが、とにかくくさ!

 私の心を抉りまくる言葉が飛び交うなか、まるでほうり投げられるようにお風呂場に放られた。衣服は脱がされて、即座にお洗濯開始だ。


「なんでぇ?」


 鼻を摘まみながら、手桶で湯をすくって肩からかけた。

 その途端に、黒いモヤが身体からあふれてきたし? 身体がぷちサイズになっている以外は現世と変わらない肌に触れたお湯がどんどん黒く染まっていく。

 鼻呼吸を我慢して、黒く染まるお水をお腹あたりですくいとった。鼻のそばに手を近づけて、恐る恐る嗅いでみる。


「くっさ!」


 垢を集めたような激臭!


「おおおお」


 もう何度でも身体に湯を引っかける。

 それでもモヤは出続けるし、水は汚れていく。

 これじゃ埒があかない。手ぬぐいに石鹸を擦りつけて肌を撫でてみたら?


「おぅ?」


 もさ、と。まるでごわごわな毛むくじゃらの毛を撫でるかのような感触が。

 見えない毛でも生えてる?


「せ、石鹸ごとだ!」


 手ぬぐいじゃ足りないから、石鹸を握って擦りつけてみる。

 やっぱりごわごわもさもさな感触がある。手で触れたら、いつものすべすべ感触なのに。

 どういうこった? なにとなにが干渉したらこうなるんだ。

 石鹸がすり減っていく。なのに泡立つ気配がない。身体に残った水気が、黒く垂れ落ちていく。

 正直だいぶ気持ち悪い。

 あとね?

 めちゃくちゃ臭い!

 粘り強く擦る。こうなると肌が痛くなってきてもおかしくないはずなのに、ぜんぜん痛くない。なんだか布団越しに押されているような、ウェットスーツ越しに触っているような、妙な感覚だ。


「ん?」


 見えない毛でも生えてんの?

 真っ黒い汚れまみれの石鹸を置いて、腕を顔に近づける。

 どんなに目をこらしても、いつもと同じに見えるけど、実はちがうのかもしれない。

 なにが起きてもおかしくないからな。ここは。

 試しに腕だけじゃなくて、身体中を石鹸で擦ってみる。やっぱり感触が妙だ。どこを洗ってもそう。

 両手を後ろに伸ばして尻尾を洗ってみて、ようやくわかった。身体中を洗う妙な感触は、尻尾のそれとまるで同じなのだと。


「毛か? 毛なのか?」


 霊子の状態なんだけど、ほぼほぼ形になりかけの毛でも生えているのか。

 だとしたら、試す術がある。


「う、んん」


 化け術だ。化け術で霊子を毛にしてしまえばいいのだ。

 そうすれば、この見えないなにかが形になるはずだ。私にも見えて、触れられる形に。

 問題は、ある!

 臭い!

 たぶんめっちゃ汚れている!

 おまけに全身に毛が生えている状態になる!

 耐えられるのか? そのショックに!

 言ってる場合か。

 だけど怖いから目を閉じる。


「どろん!」


 唱えた途端に身体が重たくなった。

 恐る恐る目を開けて確認すると、生えていた。毛が! みっちりと! 身体中を埋め尽くす勢いで!

 これはいわゆる、あれだ! 獣人だ! 日本だとそこそこだけど、海外だと一部で妙に人気のある! 二足歩行の獣モチーフな人!

 単純にイメージがしやすいのは? 狼男かな。

 漫画原作でアニメにもなった「BEASTARS」なんか、獣人たちばかりだ。

 あんなノリ。素肌が見えている箇所がすこしもない。

 だけど、ひどい。毛がどこもかしこもぺたんとしているし、絡まっているところもあるし、おまけに埃だ垢だなんだで汚れている。おまけに激臭!

 トモに教えてもらったから、知ってるよ?

 飼育放棄されたわんちゃんの保護経験があるトモいわく「お風呂なんか入れてない。すごく不衛生なところにほったからし。だから皮膚病になっていたり、毛がもれなく毛玉まみれになっていたりするんだ。だからひとまず毛は刈っちゃって、薬を塗りやすくしたりするの。ノミとかもひどいしさ。洗いやすくしないと、もう手が出せないんだよね」とのこと。どれくらい不衛生かって、トイレの世話をしないから、うんちがお尻回りの毛についてたり、おしっこで手足が汚れていたりするという。爪だって伸び放題。


「は!?」


 いやな予感がして、恐る恐る確認する。

 よかった。こびりついてはいない!

 毛玉になってカーペットみたいになっている箇所はないか、手探りであちこち調べてみるけど、ひとまず大丈夫そうだ。絡まっているところはあっても、まだ梳かせばなんとかなる範囲。毛の長さも一定。ただ色がわからない。どこもかしこも埃や黒い液体にまみれている。

 ショート動画に流れてくる、お掃除されるカーペットみたいだ。


「しょうがないな」


 刈るか。

 それとも洗うのか。

 洗おう。

 刈るのは怖い。だいじょうぶなのかわからない。突如生えた毛だもの。刈ったら、また生えてくるのか。それとも生えてこないのか。生えた意味とはなんなのか。さっぱりわからないもの。

 金色を出して、じょばじょば出てくるお湯の流れを引っ張るホースにする。宙に放り出されるお湯を受けとめられるよう、金色を化かしてこども用ゴムプールを設置。お湯をある程度ためたら、ホースを消す。石鹸を手に、もう片手には小さなナイフを用意。石鹸を細かくカットしながら投入していき、プールのお湯に溶かす。白く濁って、石鹸の香りが漂ってきたところで、プールに入る。

 ぷちサイズの私でさえ、せいぜい膝下くらいまでしかお湯がたまっていないプールに金色を注ぎ、形を化かして肩までつかれる細長い筒状に変える。

 直立不動のまま、さらに金色を展開。もこもこブラシを桶と私の間に四本設置して、回転させる。洗車機ならぬ洗体機である。すぐさまお湯が真っ黒に染まった。術で動かすブラシが汚れまみれの毛を容赦なくこすりあげる。もこもこにしておいてよかった。毛がけっこう密度が濃いのかな? 思ったよりも気持ちよくはない。

 今度カナタに提案してみるか。評判がよかったら、ぷちたちにもトライしてみてもらおう。

 ただ、改善点はある。水面がばしゃばしゃ揺れて、時折顔にお湯がかかる。とても不愉快! トモに教えてもらったエリザベスカラーとか、あるいはシャンプーハットならぬボディソープカットをつくるべき。ブラシがすぐそばにあるので、それもままならない。

 目を閉じて耐える。

 三分ほど我慢してから、ブラシを停止。足元に穴を開けて汚れたお水を流す。ものの見事に真っ黒け。時折、垢か、それとも剥がれた皮か、抜け毛のようなものが流れていく。

 穴を塞いで、ふたたびお湯を引っ張ってきては、ブラシを作動。泡を洗い流したら? お湯をためて、石鹸を投入して、またブラシを作動。

 あんまり待ってるのもなんなので、頭もブラシで自動洗い。

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 すっかり疲れたけど、桶から流した水が透明になったので、いったん消す。

 改めて身体を確認して、ようやく毛の色がわかった。

 髪の毛とや尻尾と同じ、金色だ。体毛はどれも髪や尻尾に比べて、だいぶくすんでいるけれど、元は同じ色だと想像できるくらいには汚れが落ちた。

 今更ながらに顔に触れる。それから手を確認する。

 口がにょきっと前に伸びた、なんてことはない。両手も五本、人の手に毛が生えた程度の変化で爪が鋭く太くなった、みたいなこともない。

 ただ毛が生えただけ。

 なんで?

 しらんがな。


「獣に近づいている、とか?」


 元々ある手桶でお湯をすくい、頭からかぶる。

 黒く汚れず、もやっと黒いものが漂うこともない。あれは埃かなんかだったのか。

 足を伸ばしてお湯に浸かる。

 私の即席プールじゃすぐにお湯が冷えてしまったけど、浴槽はちがう。じんわりと身体の芯までしみるあたたかさにたまらず「くぅうう」と声が出た。

 後ろに両手を置いて、足を伸ばす。

 透明なお湯のなかを睨む。金色の毛むくじゃらな身体がよく見える。

 こんな風になったことは、いままでに一度もない。


「人か獣か」


 それっぽい言い方してるけど人は動物。

 全身に毛も生えている。四足歩行時期は、そう長くはないけどね。

 二足歩行が当たり前みたいに思うけど、発達過程で二足歩行になる個体が多いというだけで、当たり前ってことはない。生老病死。二足歩行になっても変化に伴い変わるもの。

 端的にわかりやすくするほど、多くを見落としてしまう。


「ううん」


 体毛が生える。

 それはまるで成長過程のよう。

 だったらこれは第二次性徴? それともまだ第一次性徴なのだろうか。

 人が人でないものに成長する、その過程なのか。


「ううん?」


 マドカは初手で小さな狼になっていた。それが、いまでは大きな狼だ。

 私とレンちゃんはそろってぷちサイズ。ユウジンくんと愛生先輩は人のまま。結ちゃんもそう。

 それぞれに過程にあるとしたら、どう?

 ピンとこないけど。

 どうなるんだろう。わからない。

 両手で身体を抱いて念じてみる。


「どろん?」


 毛は消えるのか。消えなかった。

 身体の一部であって、霊子で作ったものじゃないみたい。

 腕よなくなれと念じたって、消えない。無理だ。本心では消えてくれちゃ困るもの。

 体毛だってそう。エステだサロンだに通わずに消せるなら都合がいいでしょ? だから試したことがあるけど無理だった。そこまで便利じゃない。

 実際にあるものは変えられない。消せない。

 あるいは、その覚悟や技術が私にない。

 必要かな。それは。


「どうだろね」


 わからないまま目を閉じて、両手ですくったお湯で顔を洗う。

 なにかになりかねないいま、当たり前に思い出すのは夜の空を進む船のうえで、小楠ちゃん先輩に言われたこと。私はどこまでも人だ。どんな姿に化けてみせようと、どんな術を会得しようと、そこは変わらない。揺るがない。ただただ、人だ。

 目を開ける。

 都合良く毛が消えてたりは、しなかった。


「どこかで願ってんのかな」


 もっとすごい何者かにならなきゃいけないって。

 人でないものになって、人でないことをするの。

 じゃないともうどうしようもできないの。

 そんな不安や怯えがあって、それが邪魔をしているかも。

 どれだけいやなんだ。自分の未熟さや情けなさ、至らなさが。

 どれだけ夢や希望だけで叶えたいんだ。自分の不足のすべてを。

 ふわふわしてんなあ。

 でも、そんなもんか。

 いきなり全部、かちっと切りかえられるわけもないよね。


「んん」


 汚れていた理由はわかった。

 ふわふわしていて中身のない、だけど当たり前に抱く夢や希望の姿をいままでずっとほったらかしてきた。お世話してこなかった。だからまあ、汚れていたというのなら、そのせいじゃないか。

 なんでいきなり毛が生えたのか。見えない形で。だけど存在するものとして。天国修行のタイミングで、なぜ? 問えば答えがわかる? そんなはずがない。

 ぷちたちもこうなるのだろうか。

 困る。

 どうすればいいかがわからない。

 じゃなくて。


「受け入れたうえで選べってことかな」


 それからしばらくあれじゃない、これじゃないと考えていたけど悩みは深まるばかり。

 のぼせそうになって浴室を出る。毛むくじゃらな私を出迎えたおイヌさまで女性陣のみなさんがぎょっとしながらも「匂いはよくなりましたね」「石鹸のいい匂い」とフォローしたうえで身体や尻尾を拭くのを手伝ってくれた。衣服を着せてもらって、アマテラスさまの元に戻る。

 毛むくじゃらのチューバッカみたいな私を見た女神さまは目をまん丸くして「まあまあまあ!」と声をあげた。


「え。寒かった?」


 そうじゃないだろ!

 寒くなって毛が生えるんなら、真冬は大ごとだよ!

 北海道や青森とか、元から寒い地域にお住まいの人たちは屋内に入るたんびに毛が抜けちゃうのかな? あったかいじゃない? すっごく! Tシャツで過ごせる温度にするっていうじゃない?

 たいして面白くもないこと考えちゃったよ!


「もとい」


 もといとは?


「すこし落ち着いた頃かと思ってね? 今日は呼んだの。ちょっと試してみたいことがあって」

「試すとは?」


 だれを? 私じゃない?

 どうやって? 毛、かなあ。

 だとすると? まさか!


「毛を刈るつもりですか!?」

「しないしない。毛が生えちゃうだなんて思わなかったもの」

「さすがにそれはないですか」

「さすがにね。でも生えちゃった原因は私」

「なにしてくれてんですかぁ!?」


 毛むくじゃらになっちゃったがな!

 おまけにめっちゃ臭かったよ!? ねえ!

 問い詰めるように近づく私にあわてて両手を伸ばして「まあまあまあ」と訴えてくる。


「音楽での自己表現を試すようになり、術も積極的に使うようになった。おまけに自己理解も深めている最中でしょう? だったら、あなたが抱えているけど表現できていないものを、ひとつ形にしてみようと思ったの」

「そしたら毛が生えちゃったし、猛烈に臭かったと?」

「えへ! 思わずむせちゃったよね!」

「むせるっていうより、思いきりくしゃみでしたけどね」

「すごく臭かったんだもの」


 ひどい!

 ド直球に言っちゃった!


「すごいこと言いましたね!? 一線を越えてますよ!」

「ごめんなさい。言い過ぎました」

「ほんとですよ! もう!」


 自分でしたことの結果でしょうに!

 ん? 待てよ?


「本当は私がぷちサイズなのも、どうにかできるのでは?」

「あなたの現状に合わせた最適な状態が、いまの小さな身体なの」

「ほんとかなあ」


 いままでの説明も疑わしいまであるぞ?

 目を細めてじっと睨むけど、目を逸らされてしまう。どんなに回り込んでもだめだった。


「完璧な論理も、万能な論理もない。そこまでわかったんなら、もうちょっとがんばってみましょうよ」

「勝手だなあ!」

「師匠は大概、勝手なものよ」

「一般論でごまかしにきた!」

「それよりも、その毛がどういうものかのイメージはした?」

「さらにごまかしてきた。まあ、しましたけどね」


 ふわふわした夢と希望の形。

 別にチューイに憧れているわけではない。大好きだけどね。ハン・ソロとのコンビは最強。なんで死んじゃったの、ハン・ソロ! ダメでしょ! 父殺しを再現させる役回りじゃないでしょ! チューイのショックぶりは見ていられなかったよ!

 じゃなくて。

 狐になるとか、強くなるとか、そういうものの結実が?

 ふわふわもこもこの、いまの体毛。

 マドカみたいな狼姿に憧れはある。かなり影響を受けている。だけど、人として、おっきくなりたい気持ちもある。こっちは結実せず。人のまま、毛が生えるという中途半端な落としどころになって?

 結果、獣人よりも手前の中途半端なチューバッカ状態になっている。

 理解している。

 以前の私の願望が形になることはない。どんなに術を磨いても、腕を磨いても、私がふんわり願い欲している夢と希望が叶うことはない。手段としては不十分。それは十分、理解している。

 強くなるだけじゃだめで、実は具体的かつ大量の依存資源がいる。それは何度も繰り返してきたとおり、社会的支援・社会的資源・関係性・環境。そのどれも、私がチューバッカになったって、巨大な九尾の狐になったって叶わない。術がうまくなっても、強くなっても? だめだ。

 それを骨身にしみて理解している。

 厄介なことが起きたとき、そのごくごくわずかな領域の、ごくごくささやかな埃を払うことまではできるようになるかもしれない。でもね。とてもぜんぶは無理。

 それがよくわかった。

 ウィザードと関わっていたとき、白いのの蜂騒動のとき、社長たちの存在や、彼らの身に起きたこと、あの野郎の存在はもちろん、あの野郎をどうにかしてきた連中のことはわからなかった。わかっていなかった。

 その前、教授たちとの戦いの最中は? 黒いのの前は? アダムのときは。シュウさんのときは? やっぱり、わからないことだらけだった。

 世の中から問題がなくなることはなくて、不公平で不平等で再生産されるばかりで、隔離世や霊子絡みの事件はなくならない。この世に薬物があるかぎり、薬物絡みの犯罪が消えないように。

 素朴な夢と希望じゃ足りなくて、おまけに時間は際限なく必要になる。

 その繰り返しになるんだ。

 強いだけじゃだめ。

 ダースベイダーやルークみたいなフォースの使い手になっても? 帝国相手に劣勢におかれてジェダイが滅びたくらい、足りない。

 ながぁくながぁく、やってくんだ。

 やまほど負けながらも。しくじりながらもね。

 そういうショックを、私はたぶん小学生からずっと抱えている。あの野郎に八尾を押し込まれたときから、ずっと。中学生時代の、反抗期のすべてをキラリにぶつけたときみたいにね。

 そう。あれは反抗期だった。いま思えば。

 矛先が家族よりも、キラリって。

 どうなんだ。

 はあ。

 でもって、その反抗期の対象に今度は社会を据えていて?

 大いに失敗した。

 そんなものでどうにかできるほど、簡単な問題じゃなかった。

 これを諦めるかどうかはさておき、事実として受け入れるのはむずかしかったけど、やっと、なんとかなった。解決したとは言わない。嘘になるから。

 地道にやっていくほかにないの。

 いまの自分で。

 だけど私には幸いにして社会的支援・社会的資源・関係性・環境にいくつも覚えがある。

 いまみたいに。


「ほら。落ち着いてきた」

「え」


 アマテラスさまが私の頬に触れた瞬間、身体中の体毛がぼろぼろぼろっと抜け落ちていく。


「あ、あらあら、あらあらあら!?」

「え。え!?」


 もれなくすべて抜け落ちていく。

 あわてて両手で頭に触れたら? つるつるだった。

 顔に触れてもつるつるだ。眉毛も睫毛もなくなってる!

 はっと気づいて振り返ると、尻尾の毛まで抜けていた。


「お、落ち着き過ぎちゃったかな?」

「ちょ、ちょっとぉ!?」

「悟って夢と希望を諦めるよりも、適度な欲が必要でしょう」

「うまくまとめたつもりかぁ!? つんつるりんなんですが!」

「あ、あははは。えへ!」

「ごまかせないんだわ! それじゃ毛は生えないんだが!?」


 まあまあとなだめられるけど、無理。

 大暴れする私を落ち着かせるのは無理だと判断したアマテラスさまが必要な毛を戻してくれて、なんとか済んだ。済んだよね? 済んだのかなあ!? 不安!




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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