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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千七百六十話

 



 うちのクラスをはじめ、暇で会いに来てくれた勢を含めて、そこそこの人数が来てくれた。

 いろんな頼り方があるだろうけど、ゴールも手段も目的もふわっとしたことに付き合ってもらうのはさすがに悪い。役に立ってもらいたい、なんて、それはもうめちゃくちゃに暴力的なお願いだし。

 そもそも私たち、だれも「役立つ」「価値」のなにかじゃない。

 そんなもののために生きてないし、残念ながら、それを特別視したとしたって生きられない。

 無理だ。

 学校教育の指導要領は経団連の影響を受けていて、小中学校の時点で人材開発の様相を呈している。親は子の、子は親の役に立たねばならないみたいな価値観さえ存在するし? 女は男の役に立てなんていう、おぞましい価値観を信じている人もいる。意外と多い。会社、社会人になると、もっと抑圧が増す。

 でも、その結果は?

 心身を病んだり、学校や職場に通えなくなったり、復職できなくなったりする。自殺する人も増えつづけている。

 無理なんだ。

 やめよ? そんなのは。

 こんなふわっとした言葉でやめられるようには、世の中できてない。舐めてんのか、ばかじゃねえの、だいたいお前なにいってんの? 使えねえなあ、みたいな意見のほうが、よっぽど集まるんじゃないかな。

 それじゃあ、ますます無理だ。

 みんな病んでくし、生きていけなくなっていくよ。

 だっていうのに、その支配や重圧をはね除けるほどの「役立つ」「価値」を求めたら本末転倒もいいところだ。

 じゃあ、どう頼るのさ。そこが問題になるわけじゃん?

 なので、外出許可をいただいて、キラリやトモに車椅子を押してもらって参りましたよ! カラオケに! 誘っちゃったよね! 勇気を出して!

 ちょうど作曲にも行きづまっていたしさ? みんなにあれこれ頼むのも、ね。ふり返ってみたら、作戦活動においてはさんざん振り回してきたじゃんか。私が、みんなを! それを考えると、カラオケがちょうどいい落としどころだった。キラリと相談して決めたんだ。じゃなきゃ、もっと変なことをお願いしかねなかった。

 最初なんか、私は作曲するためにみんなに歌ってもらおうとか、学校でやったことある合唱曲を歌ってみてほしいとか考えてた。最大級のわがままとして「過ぎたけど誕生日を祝ってほしい!」まで思いついていた。人生で、一度は味わってみたい、誕生会。

 言わなくてよかった。

 ほんとによかった。

 いまの私が求める誕生会なんて、露骨にみんなに「あなたは役立つ」「価値がある」と言わせる会じゃん。絶対そうなる。間違いない。危なかった。

 ちがうんだよ。

 どんな状態だろうと、役立たなかろうと価値がなかろうと、いまのあなたがいてうれしい、みたいなのがいい。これが理想!

 みんなの熱量も私に向いてなくていい。砂糖粒にも満たないカロリーで十分いい。そしたらキラリいわく「遊びに行けばよくね?」となって、いまに至る。

 ほんとはキラリが「遊園地とか水族館とか行く?」って提案してくれたんだけど、なにせ私はいま、老いちゃって、車椅子なので。さすがにお願いしにくい。カラオケに行きたいんだけどどうかなって言うだけでも気を遣わせてしまったしなあ。そもそも入院患者である時点で気を遣わせてるよね。

 やるせないぜ。

 大きな部屋はあいてなかった。なので小さな部屋に分かれることに。キラリ、マドカやトモたちとおんなじ部屋で、みんなの歌を聴く。椅子に移って、車椅子を折りたたんで壁に立てかける。バリアフリーとはいかない。

 歌声を聴きながら粒をせっせと作る。みんなには伝えてあるから、ツッコミなし。ただ内職してるみたいだし、目立つし「それどういうの?」って聞かれる。だれかが歌っている最中だと、あんまりしゃべりにくくて愛想笑いでごまかしちゃう。

 店員さんがドリンクやフードを持ってきてくれたので、みんなでつまみながら、だらだらしゃべる。

 こんなことが珍しいのって、どうなのかな。


「みんなでカラオケ、なにげに初じゃない?」

「唐揚げうめえ」

「ラーメンあるって」

「いやひとりで食うなよ、みんなでシェアできるものを頼めよ」


 おかしい。

 話を振ったのに、すこしも噛みあわない。

 あと、いかにもレンチンしたっぽいフライドポテトがめちゃくちゃおいしい!

 久しぶりだ! 病院外の! あったけえごはん! 久しぶりだ!


「仲間ってめっちゃ走るじゃん。腹へらないの?」

「減るよ? めっちゃ減る。身体を壊してからは、距離も速度もペースも落としてるけど、それでも減るから、いろんなところでラーメン食べてる」

「ラーメンかよ」

「やっぱ都心にはいっぱい名店が集まってるから、制覇する勢いで通うよね」

「「「 なにそれ 」」」


 めっちゃうらやましい。


「おすすめは?」

「いろいろあるよ。何が好き?」

「あ、出た。しょうゆ、味噌、塩、豚骨みたいなやつだ」

「いまトマトラーメンとか、他にもあるよね。魚介系とか」


 すさまじくゆるい。

 こんなにゆるい会話もめちゃくちゃ久しぶりだ!

 おまけにお腹が空いてきた。具体性なんて欠片もないのに。

 ほわわとイメージが進む。

 ラーメンといえば、スープ。なによりも手間暇がかかっている、スープ!

 牛、豚、鳥。あるいは魚の乾物、昆布。あとは野菜。

 動物系のスープは脂、骨、様々な部位の肉から選択する。

 スープといえば古今東西、いろんな作り方があるよね。コンソメは具材が様々で、手間もかかっている一例。対して、私たちが作る味噌汁はシンプル。顆粒だしを使うなら、だけど。コンソメなら挽肉を使うじゃない?

 そう。お肉からダシを取るのがいい! としてもさ。高いじゃん。ぶっちゃけ。お肉の部分がまず高いじゃん。お値段が。できれば安い部分を使いたいじゃない? どうせお肉を使うなら、それはもういっそチャーシューの製造過程に使うくらいにしたいじゃない? だとしたら、煮込む程度ってものがあるじゃない?

 そうなると、どうしたって「安い」けど「ダシがとれる」部位を狙うことになるよね。


「おおい。春灯。よだれよだれ」

「おばあちゃん、ご飯はもう食べたでしょ」

「フライドポテトが足りてないんじゃね?」


 口元を拭かれるわ、ポテトを突っ込まれるわする。

 遊ばれてる? 可能性はある。


「いや、ラーメンなんて長いこと食べてないしさ? スープの取り方から考えちゃったよね」

「あー。そういえば長年、疑問だったんだけど塩ラーメンって、お湯に塩いれてんの?」

「「「 え 」」」


 マドカが思わぬことを言うから、みんなで固まる。


「それもう、ただの塩水じゃん」

「それはないわ。さすがに」

「え。山吹って、料理だめな感じ?」

「いやいやいや! じゃあ作り方いえるのかって!」


 マドカの反撃にキラリとトモの目が泳ぐ。

 女子の口論をよそに、狛火野くんと虹野くんが肩を組んで熱唱していた。


「春灯!」

「言ってやって!」

「えええ」


 キラリとトモの振りに腕を組む。

 塩ラーメンのスープぅ?


「ラーメンのスープはぁ」


 いや。待て。

 カラオケに来て、私たちはいったいなにをやっているんだ?


「私のつたない知識だと基本、具材を煮込んだスープで、カエシと呼ばれる味の決め手となるタレを割るの。醤油なら醤油、味噌なら味噌。塩なら塩だれ」


 で。


「スープの具材はお店によってちがうし? もちろんカエシもちがう。まずスープだけど」


 さっきぼんやり考えていたことを説明しながら、しみじみ思う。

 お腹がすいてたまらない。よだれも止まらない。

 どれだけポテトを食べても足りない。なのに脂が胃にもたれていく。久しぶりに食べた脂ものに負けてしまう。いまの身体でラーメンなんか食べようものなら、お腹を壊してしまいかねない。

 なのにどうして、考えずにはいられないのだろう。

 あの旨みの暴力について!


「よく鶏ガラや豚骨を煮込んでいるって聞くね。でも、たとえばコンソメみたいなスープの取り方したり、あるいは貝類を煮込んで作ったスープを使ってるなんてお店も聞いたことあるよ?」


 魚のスープを使っているお店もたぶんある。

 別に鶏ガラ、豚骨と魚介をあわせちゃいけないってこともなし。

 とことんお店によるとしかいえない。

 おみそ汁で例えるのなら、スープは鰹節や昆布を使ってとったもの。カエシはお味噌だ。

 だけど塩ラーメンのカエシは、お塩じゃ済まない。

 もちろんお塩を使うことはあるけど、スーパーで買えるやっすいヤツじゃない。かといって、お塩にこだわるだけでいいのかっていうツッコミどころもあるみたい。

 塩味を中心にタレを作る。焼き肉のタレだって、市販のやつの成分を見るとリンゴをはじめ、いろんなものが入っているでしょ? あれこれ入ってるんだよ。


「なんか、すごい、あれだね」

「おばあちゃんの知恵袋っぽい」

「オブラートって知ってる?」


 ひどい言われようなんだけど。くそう。真面目に話して損した。


「貝でおいしいタレなんか作れるの?」

「おいしいスープの素になるっていうのも、ねえ」


 いやいやいやいや。

 貝の底力をご存じでない!?

 酒蒸しなんか作ってごらんよ。特別なことをしていないのに、べらぼうにうまいおつゆになるんだから!


「おっさんくさい」

「そんなの食べるの?」

「うちのお父さんの酒のつまみにね。これがいいパスタソースになるんだよ」


 実際、アサリの酒蒸しはとてもおいしい。

 アサリでしょ? にんにくの刻んだのでしょ? 炒めて香りを出してから、貝をさっと炒める。そして日本酒を二百ミリリットルから、三百ミリリットルくらいいれて、フライパンにふたをする。貝が口をあけていったら、火を止めてできあがり。

 アルコールが飛ぶまで、じっと待つ。

 人によっては鷹の爪や唐辛子を入れるけど、うちでは入れない。辛いの苦手勢が多いので。

 ちなみにボンゴレビアンコだと、ほぼほぼ同じ工程を踏まえて、日本酒の代わりに白ワインを入れる。たぶん量もちがうんじゃないかな。

 私の知ってる美味しんぼの範囲だと「魚介にワインは合わねえ!」と言うけれど、それはそれとして日本酒の酒蒸しはおいしいよ。別にお塩だなんだを振ってないのに、味わい深い仕上がりになるからね。お酒にも旨みがあるんだろうね?


「おばあちゃん春灯ボイスで聞くボンゴレビアンコ、違和感しかない」

「ひどいな!」


 割と長くしゃべったお返しがこれだよ!

 いやでも、世の中そんなもんだよね!


「改めて考えてみると、春灯って変なヤツだよね」

「たたみかけてくるぅ!」


 うそじゃん。

 そういう流れじゃないじゃん。

 ラーメンの話題だったじゃん!


「いや、あたしらも十分、変なところあるぞ?」

「さすが、街中を走り回って人助けしてる人は言うことがちがう」

「茶化すなよ」

「真面目に、そういうの普通やらないし。それは十分、変じゃない?」

「言い返しにくいこと言うなよぉ」


 マドカとトモがにらみ合っている。

 よかった。矛先が逸れたのでは?

 そう安堵する私の肩をキラリが抱いた。


「最初はすさまじくビビったけど、要するに春灯が化けて老いてるんだろ?」

「まあ、そうだけど」

「春灯のおばあちゃんに似てるの?」

「まあ、そう、かも?」


 考えたことなかったな。

 こないだおばあちゃんがうちに来たとき、画像を撮っておいたんだった。

 スマホを出して、画像を表示してみせるとキラリが派手に吹きだした。


「うわ、そっくりじゃん!」

「え。え。なになに? うわまじだ! うり二つじゃん!」

「そっくりどころの騒ぎじゃないよ! 年老いているんじゃなくて、おばあちゃんに化けてるじゃん!」

「え?」


 そんなことないって言う私にキラリが自分のスマホを出して、カメラアプリで見せてくれた。

 確実に同じ人間がふたり並んでいた。


「いやでも、おばあちゃんそっくりに年老いる可能性もあるのでは?」

「それは否定できないけど、そこじゃなくね?」

「むしろ春灯の老いるイメージがおばあちゃんしかないんじゃない?」

「つか、家族のみんなも気づかないもんか?」

「見れないでしょ。あたしたちも相当怯んだし」

「あ」

「「「 あっ 」」」


 ちょ、ちょっと。

 やめてよ。言っちゃったみたいな空気ださないでよ。


「そりゃビビるよね。私でもクラスのだれかが浦島太郎みたいになったら困るもん」

「ね」

「私がおばあちゃんになったら、たぶん歯が抜けている」

「なにそれ」

「どっちのおばあちゃんも、入れ歯なんだよね」

「それは、あの、ハミガキの問題ではなくて?」

「言いにくいこと言うなぁ!」


 私の発言にすぐ乗っかるだけじゃなく、マドカが変なことを言いだした。

 一方その頃、男子たちはさらに盛りあがっていた。これはこれで、とても気を遣っているのかもしれない。あるいはカラオケでスイッチが入っちゃっているのかもしれない。

 どっちでもいいかな!

 そんなひどいこと考えてたのが伝わったのか、ちょうど間奏になるなりふたりが声をそろえて言うのだ。


「「 きみたちそろそろ歌わない!? それか静かにしたほうがいいかんじ!? 」」


 悲鳴のような訴えに、私たちはもれなくポテトをもしゃもしゃしながらお互いを見つめる。

 ちなみにポテトはもう、ほとんど残っていない。ふたりの男の子はまともに食べてもいない。


「ポテト食べたいんですけど!」

「唐揚げも追加注文したいんですけど!」

「「「 どうぞどうぞ 」」」


 ゆるく流されて、ふたりはラストのサビに戻っていく。

 さっそく注文を追加しながら、みんなで「役に立たない」「価値のない」、だけど大事な時間を満喫する。私にはこれが宝物。人生で初めて、みんなを誘って遊びに出かけた時間。得がたいもの。

 小学生の頃、中学生の頃の私に、これを渡すことはできない。

 でもきっと、いくつになっても、どんな経験を経たとしても、いまから掴めるもの、作れるものがちゃんとあると思えたなら? それは私たちの救いになる。それにきっと、人生を変えられない呪いにだってなる。便利なだけのものはないねえ。厄介。

 縛るものなく、ただ私でいられるのがいいね。

 いま、そうなれるものをキラリたちがくれている。私はめちゃくちゃ頼っている。

 みんなにとって、いまキラリたちがくれるものを、私もあげられたらいいなあ。

 それって相手にとってうんぬんとか「役に立つ」「価値」とか、そういうんじゃなくね?

 私がすごく生きやすくなって、相手もとても生きやすくなる道だと思うから。

 役に立てなくても、価値なんかろくになかったり最悪な価値まみれになっても、とても生きやすくなる道とか居場所が増えたらいいよね。

 私には、ここがある。

 それはたぶん絶対的なものでもなんでもない。

 高校を卒業するだけで壊れてしまいかねないものだ。

 私が退院できなかったら、それだけで崩れてしまいかねないもの。

 そういう不安定さも踏まえながら、ぼちぼちやりくりしていくのは、やっぱりつらいね。怖いね。


「カメラ、撮っていい?」

「ん? とれとれ、とっとけとっとけ」


 トモが笑いながらポーズを取ってみせるから、迷わず撮影。

 こうして記録を残していくんだなあ。

 この世に永遠はないから、一瞬を残していくんだ。

 いまをめいっぱい楽しんだり、次の約束をしたり、いろんな遊びをしてみたりする。

 あの手この手でつづけてくし? それでも終わるときは終わるし。

 ハリウッドでしばしば上映される、中年や壮年のおばかグループみたいに腐れ縁が形になっちゃうこともある。

 絶対的じゃないから、あの手この手。

 ずっとはないから、こつこつと。

 終わるときは終わるし、また始まるときは始まる。

 世界の終わりみたいに捉えるよりも、いろいろやっちゃえばいいじゃない?

 具体的な行動をもって、どうしたいのかを答えていくんだよ。

 私はいまみたいな時間を増やしたいし、幸いにして私の現状はもしかしたら解決できるかもしれない。

 なので?

 いまはひとまず、みんなといろんな画像を残しながら、動画を撮りながら、大いに騒ぐ。

 遊ぼうよ。めいっぱいさ。楽しいことしよ。

 ひとりでも増やせることがあるし。みんなとなら、もっと増やせるかもしれない。


「ラーメン食べたい!」


 いっとけいっとけ。

 ぐるぐる抱えこんじゃうより、声だしてこ。


「ひ、ひとくちだけしか食べれないと思うけど」

「よーし、私が残りをたいらげよう」

「どうせなら全種類頼んでみない?」

「いやカラオケのラーメンって言ってもだろ。それならお店に行かない?」

「「「 いいねえ! 」」」

「「 カラオケの意味はぁ!? 」」


 ぎゃあぎゃあ騒いどこ。

 それがきっと、いくつになっても味わえる青春の醍醐味だ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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