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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

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第二千七百五十八話

 



 翌晩のことだ。

 マドカたちと通話をする。ミコさんが教えてくれたこと、理華ちゃんから届いたメッセージも踏まえてね。話しこんじゃうくらいには話題が盛りだくさんで、ひととおり共有し終わる頃には喉が渇いてたまらなかった。お水をちびちび飲んでひと息ついている間に、みんなが雑談をする。

 その最中にカゲくんがぼそっと言ったのだ。


『いまの大人たちとか、じいさんばあさんたちとか、ずっと投票したりしなかったりして、いまができてんだろ? 警察だなんだもそう』

『それが?』

『でも実態は全然だめじゃねえか』


 身も蓋もない評価である。


『俺らの年齢でも、まあまあ選挙はあったろ? でもこれじゃん。身の回りの大人がなあなあにしてたり、話題を避けたり、まるで関心がなかったり、あるかと思えば政治家のせいにしたり、選挙意味ねえって言ったり。で、この体たらくだろ?』

『だれかのせいにしてる場合じゃないっていう意見はあるね』


 レオくんのフォローもカゲくんには気に入らないみたい。


『実際そうだと思うけどさ。投票だけじゃだめじゃねえか、だけどデモとかはなあみたいな空気もあるんだろうと思うんだけど。それにしたって、あれだよな』

『あれって、なに』

『家事をぜんぶ母ちゃんに押しつけて文句を言う父ちゃんみたいなさ。お前がやれよって言ったら、父ちゃんはろくに家事のことも知らないし、できないし、やったことねえみたいな』


 微妙な例えを持ってくるね!


『みんなそんな感じになってね?』


 家事はできないしやらないけど、文句はいうお父さんみたいになっている。

 それはまた、ろくでもないね。

 どう控えめに見積もっても、うんちだ。

 でもって休日にやる気を出したお父さんが家中を引っかき回して、その後始末やお掃除はお母さんがするみたいなのも、まあよく聞く話でさ?

 この場合、お母さんみたいな気持ちになる人も出てくるかもしれないね。投票したけど、ろくなことにならないみたいなさ? 成功体験がないで留まらず、いやな体験をする。

 結果、ますますみんながうんざりしていく。


『スポーツ観戦の客という例えも聞いたことがあるな』


 タツくんが乗っかってきた。意外。


『俺たちは観客席。本来、選手たちがパフォーマンスを見せて、俺たちはサービスを受ける側。だが実際はチームだ観戦場所だから、あれしろこれしろ、もっと金を払えと言われるばかり』


 もう二度と観客席になんかつきたくなくなる。

 でも残念ながら、そんなことはできない。できないんだ。

 基本的に法の下にデモ行進は保証されているし? 手続きだなんだを踏まえて訴えたりもできる。

 だけどそれは「だれかがやってくれたらなー」じゃ先に進まないものだし?

 理華ちゃんからのメッセージにあった「金も人も数もあれもこれも力」というなら、大勢が集まって抗議の行進をするのも立派な力の示し方。でも力がなきゃだめっていうのも、それはそれでおかしな話。

 抗議活動をひとりでする人もたくさんいる。国内の政治問題だけじゃなく、海外の紛争問題に向けてもね。そういう人がたくさんいるからこそ、結果的に活動する人の母数が全体的に増えていく。

 クリティカルに、たとえばキング牧師やガンジーみたいな抗議行動”だけ”を”初手”でやればよく、それ以外はむしろ野蛮、無駄、無意味みたいな捉え方してたらいけない。

 厳密には。

 私たちが選挙で選び、委任しているに過ぎず「政治家先生」なんてことはない。彼らは働きアリであり、偉いのではない。そういう職務に一時的に就いているに過ぎない。職務に伴う権限は職務において必要とされるものであり、それ以外ではない。一般人よりも偉い、特権だ、みんな言うとおりにしていればいいんだ、なんていうことでは断じてない。

 逆にいえば私たちが「憲法があるし、連中も好き勝手できないでしょ」とたかをくくっていたら? 彼らはシロアリとなって、彼らを縛る枷や柱を食い散らかしていく。

 日本に限らず、政治と権力を利用したがる人は枚挙に暇がないし、歴史に実例がやまほどある。

 だから本当はきっと、私たちがプレイヤー。

 母だの父だの、昔の役割を持ち出す前に生活の営みをしていく生活者。

 加えて私たちが生物であり、社会の一員であり、人間である以上は依存を必要とする。状況や状態によっては、かなりの依存がいる。

 そのうえでどうするか。

 具体的行動をもってどう生きるのか答えていくと捉えたとき、よくわからない人が大半なのではないかとさえ感じる。


『しかしまあ、胡乱なものの集まりだね』


 マドカの発言でいったん話が途切れた。


『いまあの、ご無理をされている方はいらっしゃいませんか?』


 姫宮さんの問いで私も、画面越しのマドカたちもはっとする。

 そっか。生徒が、とか。生徒の親が、とか。そういう可能性が普通にあるわけか。


『この流れでそれ言っても、言いだせなくない?』


 キラリのツッコミにみんなで唸る。

 それはそう! この流れで言いだすの、そうとうな勇気がいるよ!


『この世界には底なしで悲惨な事件や振る舞いが日常に浸透しています、まではわかった。で、ウィザードが会った政治家の息子の、だれだっけ?』

『内富聡』

『そうそう、そいつを筆頭に、政治家サイドにどうしようもない連中がいて、事件だなんだを水面下でやっています、と。で、内富の父親で現役政治家たちも、おじいさん世代で集まってなにかやってるっぽいと』


 キラリのまとめに腕を組む。

 言われてみればそうだ。内富聡たち若い世代と、その父親である年配世代とで別々に活動しているだろうし? どちらも警察に関わって、霊力開発に取り組んだヤツと関わりがありそう。


『で、石橋になんとかって話にでてくる警察のやばいヤツの話だけど』

『石橋湛山ね。1956年の選挙で彼に敗れた岸信介、二ヶ月後に病で辞める石橋の代理で総理になった』


 陰謀論界隈で盛りあがりそうな話だ。

 いかにもだもの。

 実際には軽度とはいえ脳梗塞だったし、もともとジャーナリスト時代からかくあるべしっていう理想があったようだし。総理に適さないと考えて辞したようだ。だとしたら、いろいろ残念が重なった形なのかな。


『そこから岸がいまの与党の本流となっていき、憲法改正、軍国復帰、国民統制路線に向かっていく。かつての帝国への回帰のようにね。そのなかで、人の考えを読む力を使えないかとして、警察で動き始めたヤツがいる』

『そいつが生きているかどうか、どっちにしてもひとりでやってるわけじゃないでしょ? そいつらもいるじゃない?』


 若手政治家勢力A、老齢政治家勢力B。そして岸の時代から霊力開発に勤しみ、永霊英雄会なんかとも手を組み、いまではCSKDはじめいくつかの企業を利用してクローン開発だ、秘宝作りだに勤しんでいる製造開発者勢力C。

 このみっつに分かれているし? 理華ちゃんのメッセージからすると、Aだけでも結構な組織が参加していて手強そう。Bも、Cもかなりの規模になるだろうことは想像に難くない。


『解像度をあげるほど、一連の事件を解決するのに、だれをどうすればいいのか考えるには人数が多すぎることがわかるね』


 私の説明に続いて締めたマドカの言葉に、みんなして唸る。

 お母さんの好きな龍が如くの主人公、超絶パワフルプレイの桐生一馬さんなら「うるせえ!」と、かちこみをかけていく。ひとつひとつの組織に。やがて仲間ができてきて、彼らが協力して「悪い奴らをおびき寄せる」までしても、結局「おまえをぶちのめせばいいんだな」「おまえら全員、俺がぶん殴れば終わりだ」と挑んでいく。

 そんな風にはいかない。残念ながら。

 まるで政治にどうすればいいのかわからない大人たちのように、私たちも途方に暮れてしまう。

 警察がなんとかしてくれればよくない? できてない!

 ウィザードたちがなんとかしてくれんか! まず無理!

 一生分の夏休みの宿題と、仕事と、勉強の課題と、人生の難問がわっとやってきたくらいのボリューム感だ。

 もっといえば「私たちがどうにかできる領分なんか?」とさえ思う。


『この場合、政治家A・B陣営は大人の仕事だろ』

『狙うなら製造開発Cだな』


 ギンとレオくんがあっさり整理する。


「その心は?」

『違法だなんだを暴くってんなら、結局は法の下にってなるだろ。それを調べたりなんだりするのは、社会の領分。で、俺らはそこに携われる立場にない』


 身も蓋もないけど、たしかにギンの言うとおりだ。


『さっきの投票だなんだの話みたいに、いまの機関に頼めばはい終わり、うまくいくはずっていうほど世の中単純じゃねえだろうけど、初手で世直しだなんだを選ぶ余裕は、まだねえだろ』


 まだ、ないね。

 それに世直しかあ。

 やだなあ。面倒だもの。

 いまよりしんどくなるのが目に見えているもの。

 だけど、私たちはプレイヤー。生きているかぎりはね。

 なので完全に排除はしない。可能性は置いておくわけね。


『実際に我々が対処し、対応を迫られる危機を起こしているのは、製造開発Cの陣営だろう。もっとも彼らにも実働部隊がいたりするのかもしれないが』

『それよか問題はDじゃね? 製造開発Cによって人生を狂わされたり、作られていいようにされたりしてるヤツの集まり。青澄に魂やまほど押し込んだヤツがいる』

『社長たちもDに入るのか、あるいはクローン連合Eとでも呼ぶかは悩ましいところだね』


 う。そうだった。社長たちもいた。

 もう彼らが関わってくることはないと信じたい。空飛ぶ城でお別れしたきり、それっきりがいい。

 当初、私たちは社長たちEグループが製造開発Cだと考えていたけど、どうやらちがうみたい。

 EはA・B・Cに反旗を翻したと見ている。じゃあなんでEが大々的にいろんな事件を起こしたのかは謎のままだけど。目立つことをしている間に仲間を集めたりなんだりしたかったのかな? 海外でろくでもない商売をしていたみたいだから、なにかしらの目的の陽動作戦とか? わからない。

 逃がしたのはまずかったという意見はけっこう強くあるんだけど、ねええ。

 もう私には手に負えなかった。


『先日の関東近郊を襲った術はDの仕業で、Cを狙っているだろうと見ている。もしかしたら、警察への恨みを晴らすという目的もあったのかもしれないね』


 零番隊に入れられて、死ぬような思いをする鉄火場に、まさしく「死ぬ」ために送り込まれつづけていた。ソウイチさんたちの活動の甲斐もあって、零番隊の性質ががらりと変わったそうだけど、そんなの犠牲になってきた人たちには関係ない。かろうじて生き延びた人にとっても。既に埋葬された人にとってもなんの救いにもならない。

 Cへの復讐だけでなく、世の中への復讐を狙うD。


「C・Dの発見が必要だとして、それだけじゃ済まないよね?」

『どちらもいますぐ、やってることをやめさせないとね』

『どちらも相応に抵抗してくるだろうな。侍隊の助力を得るだけじゃ、正直足りそうにない』

『高校生集団が殴り込んでいって、それに手ぇ貸してくれるか?』


 みんなの懸念はごもっとも。

 なんなら彼らの仕事だろうと言いたくなるが、職務でやるかぎり、必要な手順だなんだがやまほどあるし? ないと困る。捜査令状なしに踏み込めることをよしとするということは、それだけ私たちの生活を厳しく制限し、いつどんな理由で踏み込まれても文句を言えないことを意味するのだから。

 憂いなく仕事の手続きを踏んで逮捕に結びつけてもらい、裁判で立証責任を果たしてもらいたい。

 そんな話を踏まえるとね?


「私たちがするのは、次の事件を起こさせないようにするための自警団活動だね。それは、つまり、あのう。非合法な?」


 アウトなやつ。

 軽犯罪てんこ盛りの前科者になるやつ。

 スパイダーマンだってバットマンだって罪を重ねまくっている。

 スーパーマンに至っては、世間で酷評されまくっているVSバットマンで裁判に呼び出されてる。


『しゃあなくね? 毎度、問題が起きるたびに出ていって、大変な目に遭ってるわけで。だったら、やべえことやられる前に、どうにかしてえってなるのが人情だろ』

『それで正当化できることじゃあないんですけどね』


 ギンの言葉に危うく諸手を挙げて賛成しかけた。

 あぶなかった。姫宮さんのツッコミのほうが、真っ当だ。

 そう。正当化できやしない。

 だからって、やめられやしない。

 世直しっていうのも、だいぶ危ない。

 自分の思うとおりにしようと、社会で活動しはじめるわけでさ?

 それはどこまでいっても、どれほどの理解を得られても、独善的な行いに違いはないのだ。

 問題と不十分さ、見えないこと、わかってないことがあり、問題を抱えていて、失敗もしていることを意識しておかないと「正しさしか見なくなって、それに周囲を従わせようとする」。

 それはもう、ただの暴力であり、加害でしかない。


「うむむ」


 そう考えると実写のスパイダーマンって、他のヒーローよりも物理で殴る蹴るじゃなく、蜘蛛の糸でなんとかかわして済ませている場面がけっこう多くない? といっても思い出せる範囲では、だけど。


『連中の起こす事件を未然に防ぐ。んで、警察とかに引き渡す』

『狙いはひとまずCとDに絞る方向でいこう。ただ』

『そうそう、言っとかないとね。春灯は入院中なんだから、しっかり元気になってからね?』


 レオくんが気まずそうにした途端、マドカが引き取って画面に顔を近づけて注意してきた。

 くそう。わかってるよ。


『その後、どうなん?』


 画面が揺れて、キラリの顔がドアップに。

 まぶしい! 目が焼けてしまう! キラリも好きだけど、さらにキラリの顔も好きすぎて!


「あああ。無意識化け術のやめかたを探求中?」

『またなんか、むずかしいことやってるね』

「そうなの」


 困ったことにむずかしいのである。


『あたしはあんたがあんたでいてくれることが嬉しいけどな』

『わかるようでわからない言い方してる』

『じゃああんたならどう言うんだよ。ええ? マドカさぁん』

『老いてる暇はないよ、とか?』

『焦らせてどうすんだよ』


 ふたりのやりとりを聞きながら笑う。

 笑いながらも思う。

 どんな私でもいいじゃんね、といきたいところだけど私は願い欲している。

 実年齢の私に戻りたいし、そのまま安定させたい。

 それにはなにがいるのか。

 いまの私でいたいっていう気持ちかな。

 溜めるなら、そういう気持ちがいるのかも。


「だいじょぶ。ありがと」


 みんなにお礼とおやすみを伝えて通話を切った。

 今日も検査だなんだして、リハビリにちょっと運動したりもして、汗だく。

 筋肉痛もひどいし、やっぱりひとりで歩けない。

 そういうへこたれによって、無意識の化け術はさらに老いを加速させる。

 夕ご飯を食べ終わったあとに「自覚的に元の年齢に化けてみるのはどうじゃろ」と思い立って試してみた。結果はというと? 術はうまくいくけど、非常に疲れる。それって、元の状態になっているんじゃない。無理して元の状態に化けているのである。それに無意識の化け術に、意識的な化け術を重ねるようなもので、二重の術の使用は妙に消耗する。元気がないのにエナドリのんでカフェインで乗りきろうとするくらいの無茶だ。やめたほうがいい。

 無意識の化け術を使わないようにする状態を目指すのがいい。

 なにせ常時つかれることをしているようなものなんだし? その内訳が老いることなんだもの。

 やめてくれよぉ!

 そうは思うのだけど、思えば止まるなら楽なわけ。

 そんな楽ちんにはいかないわけ。なので? どうにかしよう。

 粒を集めて自分を知ろうとしたし、無意識の私を知ろうともしているんだけど、これだけじゃまだ手が足りそうにない。

 無意識と接続できたらいいのに。自覚できたらいいのにな。

 そんなのできたら、苦労はないよなああ!

 それこそ術を使う?

 あるいはヨガとか、運動とかを試す? まともに立てないのに?


「がっでむ!」


 身体よぉ!

 はよう治ってくれぇ!

 老化が足枷になっとるんか? なぁ!

 あり得るぅ!

 夜更かししないで寝ろってか?

 ごもっともすぎるぅ!

 いっそ一ヶ月くらいおきませんでした、くらいのほうが気持ち的にすっきりしたのでは?

 いや、私はよくてもみんながやばいって。親が泣くってぇ! ぷちたち不安でならないってぇ!

 そんなことを考えていたら、トウヤから通話がかかってきた。

 操作すると、ぷちたちの顔がドアップに。


『ママ!』

『起きてた!?』

『ねえまだ病院!?』


 元気すぎて声が音割れしてる。

 もう夜遅いんだから寝なきゃだめだよって言いたい。

 だけど私の声を聞くよりも「ずっとそばがいい」「なんで今日はいけないの」「尻尾伝いにいっていい?」などなど、たくさんの声が続く。

 あー。

 笑いながら浴びるしかない。

 走りだしたいときに走れる身体とはかぎらないのだ。

 ちゃんと休まなきゃ。

 いまぷちたちと話せるのだって、当たり前じゃない。


「みんな、今日はどんなだった?」


 呼びかけながら、画面の外でいまの気持ちを粒にしていく。

 きらきらと輝く粒もあるし「うおまじか、眠れなくなるぞ」「めちゃくちゃ疲れるパーティータイムだ! ぷちたちのな!」という負荷にくすんだ粒もある。簡単じゃないし、一色でもない。

 そういうものに気づけるのだって、いつもじゃないし、当たり前じゃない。

 手は抜けないね。生きることからさ。




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

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