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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二十二章 十二月の恋歌

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第二百七十三話

 



 九歳児と歩いていたら、手が引っ張られた。

 足を止めた九歳児が見ているのは、クジラ肉の料理を出しているご飯処。


「……おいしいんですかね。クジラ」

「まあ、食べたことあるけど。結構おいしい、んだけど……」


 ふと疑問に思う。


「興味あるの?」

「旅行した時くらいしか海の幸をたべさせてもらえないんです。あんまり機会がないし、クジラなんて特に馴染みないです……九歳児の胃袋はとびきり大きいというのに」

「まあ……世界の端っこにでも行けば捕鯨できる国があるみたいだから、そこならおいしいクジラが食べれるのかもね」

「日本じゃ無理です?」

「んん……冷凍したやつとかなら、見たことあるかな。生のは見たことない。ていうか、そもそもこの店やってるの?」

「わかんないです。だから目的を変えましょう」


 こいつ本当に九歳児か? 確かに手の掛かる子供っぽさはあるものの、妙にきびきびしてるし、話していると同世代の子とたいして変わらないんだけど。


「お姉さん、お姉さん。さっきたこ焼き食べそびれたのでホヤが食べたいです」

「飛びすぎだろ、いい加減にしろ。たこ焼きがどうしてホヤになる。あと渋すぎるだろ、チョイスが。九歳児の味覚でわかるのか」

「その引きつった顔……さては食べれない人。残念な味覚の持ち主だと兄に報告せざるをえない」

「……くっ」

「あれ、本当に苦手です?」


 きょとんとされたから俯く。


「……昔ね。友達と一緒に行った旅行先で食べたの」


 まあ、その友達ってルルコとサユなんだけど。


「口の中に広がる、海そのものの味に割と早めに挫折した。心折れるよ、あの塩気から酸味に変わる独特の感じは」

「ところでたこ焼き」

「おいこら。話ふっといて興味なしか」

「あそこ! なんか人集まってます!」


 私の手をぐいぐい引っ張って、信号の変わり目に間に合うように走る。自由奔放さ加減ではルルコとサユを足したような感じだ。

 しかも好奇心に素直すぎる。体力がいかにも有り余っていそうだし、付き合うこっちは体力がごりごり削れていく。歩きやすい靴を選んで本当によかった。ヒールなんて履いてたら早々に心が折れていたに違いない。


「新刊発売……なんか本屋さんですね。食べものじゃない。羊になれたら楽しめるのにアリスは人間なのでした」

「食べるな」

「たこ焼き?」

「……わかったから」


 ため息を吐いて、周囲を見渡す。何も考えずにふらふら歩いていたら、スクランブル交差点のすぐそばに来ていた。

 ふと振動を感じてスマホを出す。着信だ。しかも先輩から。あわてて出る。もちろん、今すぐ会いに行くっていう言葉を期待して。


「もしもし?」


 だけど。


『ごめん、今日は無理そうだ』


 現実は非情だった。


「ど……どうしたんです?」


 ショックで眩暈がしそうだったけど、なんとか堪えて聞けた私えらい。がんばった。


『警察の手伝いをして凶悪犯を捕まえるところまではよかったんだけど、刀を怪しまれていろいろ話を聞かせてって言われてて。身元保証人になってもらうためにバイト先のマスターに来てもらったんだけど、そしたら今度は刀の不法所持で注意されはじめて』

「そ、それでよく電話できましたね」

『なんとか説得してなだめすかして、少しだけ抜け出してきたんだ』


 どうかその流れで、警察から抜け出してきてくれませんか?

 ……無理だよね。無理だ。はああ。


『マスターが……あの緋迎ソウイチなんだけど、ここの署長さんと知り合いで。厳重注意は済んだし、一般人を助けたから表彰させてとか言い出して……ごめん。マスターが間に入って説得してくれてるんだけど、まだ時間がかかりそう。まあ、母さんよりは助かるからありがたいんだけどね』


 笑いたかったけど、笑えなかった。

 よりにもよって、なんで今日なんですか。

 泣きそうだし心が折れそうだった。そばにいるアリスが心配そうに見上げてくるから、なんとか涙を堪える。


「活躍するにしても、今日じゃなくてもいいじゃないですか」

『……俺もそう思う』

「もう……」


 ため息じゃ済まない後ろ向きな気持ちが頭と心を掴んで揺さぶってくる。

 泣いていいんだよ? へこたれていいんだよ? きっと運命なんか……ないんだよ。

 下唇を噛んだ。空を仰ぎ見る。悔しいくらい、青く澄み渡っていた。

 ――……すぐに浮かぶの。

 会えない彼氏の代名詞になってるような、あの高校生探偵の電話を受ける女の子は、どんな気持ちなんだろうって。

 私は絶対に会えないわけじゃない。待てばきっと。たまたまタイミングが悪いだけだ。

 そんな……そんな自分を説得する材料だって、限界があるんですよ?


「アリスと待ってますから。今日はぜったい、先輩に会うんですからね?」


 拗ねた声を隠せなかった。


『いざとなったら窓から飛び出していく』

「捕まって本当に会えなくなるから……ばかなこと言わないでください」

『士道誠心にいた頃、よくこんなやりとりをしたよね』


 穏やかな声が悲鳴を上げてる私の心をそっとなだめてくれるんだ。


「早く、会いたいよ……先輩」

『俺も。だから待っていて』

「……はい」


 鼻を啜って深呼吸をした。その吐息が落ち着いたタイミングだった。


『ところで、アリスといるの? 迷惑かけてない?』

「九歳児マジぱないです」

「んう?」


 思わず笑いながら言ったら、手を繋いでいるアリスがかわいこぶって小首を傾げた。ルルコもよくやる。自分の可愛さと見せ方を意識して使ってごまかそうとする、あれだ。


「はいはい、かわいいかわいい」


 あしらい方は心得ている。ふっと笑って言ったらちょっとむすっとされた。出会ったばかりの頃はルルコもよくむすっとしてたっけ。むしろそういう自然な顔の方が私は好きなんだけどね。

 少し余裕がでてきた。


『ねえ、メイ。アリスだけど本当はね――』

「え……」


 先輩がそのあと告げた言葉に固まった。だけど、


『ごめん、警察の人が来た。また後で連絡するね』


 電話がすぐに切れてしまった。途方に暮れながらそばにいるアリスを見た。


「どうかしましたか? うちの兄ですよね、何か言ってました?」

「……いや。アリスの世話、よろしくねって言ってた」

「憤慨です……これでもアリス、できる九歳児なのに」


 むすっとしながら頬を膨らませる。

 背丈は百三十センチ台。華奢すぎる体躯。身体のラインから、香るあまったるいミルク臭まで、全力で幼児アピールをしてくる女の子。服装もロリであることを隠そうとするどころか、全力で活用する方向性。白タイツはやりすぎだけどね。

 だけど、先輩は言っていた。


『九歳と八十三ヶ月。つまり、いま高校一年生なんだよ』


 どこからどう見ても、いいとこ小学生の子供にしか見えない幼女なのに。

 嘘だ。そんな。まさか。ハルちゃんと同い年? これが? どうして?


『基本的には可愛い妹なんだけど、ちょっと残念な奴だ。気をつけてね? 本当の年齢は言いたがらないし、たかり癖があるから』


 それはもう、よくわかっておりますとも。

 重たすぎる事実にくらくらする。すぐに尋ねようかどうしようか悩むけど、なんかもう色々ありすぎて心が追いつかない。

 世界はほんと、辛辣にできている。


「たこー。たこー。ケーキでも可」


 それにしてもほんと、どこから出てくるんだ。その食欲は。

 一言いってやろうかと思った時だった。駅の方から爆音が鳴ったのだ。

 視線を向けると、巨大なトレーラーが停まっていた。そのトレーラーに積み込んであるんだ。巨大なスピーカーなどが。その間に挟まれるようにしてできたステージに立っている女の子を見て、目が点になった。


「……ハルちゃん?」


 見慣れた金髪の狐娘が見慣れないパンクロックファッションで決めて、顔中真っ赤にしてぷるぷる震えながらマイクを握っていた。

 いったい、どうなってるの? なにしてんの。

 そんな私の疑問もよそに、そばにいるバンドメンバーが爆音を鳴らす。意を決したハルちゃんが口を開いた。


「さあ、お歌の時間だ!」


 瞬間、バンドメンバーが楽器を鳴らしてはじまるイントロ。

 音は振動なんだと、そう理解させるくらいの爆音だった。野外で、駅前で、犯罪すれすれ? いやむしろアウトなくらいの強烈な一撃だった。

 瞳を輝かせたアリスが私の手を引っ張って、交差点に並ぶ人たちの最前列へ。

 爆音に関心を覚えた人たちがスマホを構えて、トレーラーを見つめる。


「――……」


 ハルちゃんが英語の歌詞でハイテンポにロックに歌っていく。

 最高の人生なんて知らない。くそったれのあなたが心底大嫌い。大好きなのは星空。だけどどんなに願ったって星にはなれないの。だから嫌い。あなたが大嫌い。ねえ、神さま。

 そんな歌。

 初めてだ。あの子が攻めの歌を歌うなんて。高音に伸びがあって、けれど妙にパワフルな歌声を聞いていると心が自然と弾む。

 あの子が手をかざしてみせるだけで、現世では見えないはずの金色の霊子が放たれて渋谷のスクランブル交差点付近に集まる人々へと降り注ぐ。

 当然、私たちにも。

 金色の光に触れると心がじんわりあたたかくなる。

 最初は訝しげにしていた人たちも次第に気持ちが乗ってきて、歓声を上げ始めた。

 それが嬉しくて楽しくて仕方ない、とばかりに……ぷるぷるしていたハルちゃんが笑った。

 幸せでたまらないんだと、泣けちゃうくらい伝わってくる笑顔だった。

 心が揺さぶられた。

 私だけじゃない。たぶん、この場に居合わせた人ぜんいん。

 きゅんってした。


「――……すごい」


 アリスの呟きはこの場にいる人、全員の気持ちを代弁する一言だったに違いない。

 吹き飛ばされた。今日のもやもや、しんどさ、全部。

 でも――……こんな騒ぎ、問題にならないはずがない。当然、警察が駆けつけてくる。けど、あの子は拳を振り上げて観客を煽る。もっと叫んで、もっと盛り上がって、と。

 アニメ絡みのライブなら何度か行ったことがあるけど、それよりもっと攻めていくノリで観客が盛り上がる。信号が変わっても車が進む気配がない。みんなあの子の歌声に夢中だし、そばにいる車はあの子に見とれている。だけどすべての人が運転しないわけじゃない。

 動き始めたはいいものの、車列が動かず塞がってしまってクラクションを鳴らす車が次々と出てきた。大騒ぎだ。


「――……Bang!」


 あの子が叫んだ瞬間、トレーラーの壁が自動で動いてあの子たちを覆い隠した。音楽は鳴り止み、トレーラーが走りだす。車列を作っていた一部が不自然に、まるで示し合わせたかのように動いてトレーラーを逃がす。

 続けてパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 当然だ。これだけの騒ぎをぶちかましておいて、無事で済むわけがない。

 ゲリラライブなのか。それとも届け出を出したうえでのことなのか。警察の動きは? わからない。わからないことだらけだ。

 わかるのはただ……塞いでいた気持ちが癒やされた。膨らんで……弾けそうだ。拍手が広がる。不満を口にする人もいる。

 だいたい四分程度の、本当に一曲だけのミニライブだった。

 だけど……間違いなく、今日のトレンドにあの子は入る。

 そばにいたバンドメンバーは誰だろう。演奏はあまりに本格的すぎた。じゃあプロなのか。そんな人たちとなんで一緒にいたんだ。気になりすぎてしょうがない。まあ……それはいずれ本人に直接確かめればいいか。

 緋迎さんちのカナタと二人で出かけただけではこうはならないだろう。

 誰かの関与が疑われる。たとえばうちの代ならユウヤあたりが妥当なところだな。ハルちゃんは住良木レオと懇意だ。それだけじゃない。ルルコが起業の助力を住良木に持ちかけた際に、協力を約束していた。

 やらないことは兵器開発だけ。それ以外ならなんでもござれ、の住良木グループだ。だからって音楽に絡んでくるなんて……ハルちゃんは一体なにに巻き込まれているのやら。

 笑っちゃったけどね。

 最初のぷるぷる加減はどこへやら、歌い始めてみればいつも通りのあの子で、その上で大歓声をもぎとった。SNSじゃバッシングを受けたりアンチがついてるあの子だけど、今日のこれで一気に塗りかえるだろう。


「あれ……いいですね」

「ん?」

「あの……金ぴかの子」


 アリスが夢見がちにトレーラーが去った方を見ていた。

 深呼吸をしてから尋ねる。


「士道誠心に入ったら、一緒に通えるよ。九歳と六年十一ヶ月さん」

「ふぁ……ばれてる……い、いえ、なんのことだか。アリスは九歳です」


 ごまかそうとしている。確かに先輩の言うとおり、アリスにとっての急所のようだ。


「先輩に聞いたよ? 本当の年」

「な、なんのことだかわかりませんね……」

「白状したら?」

「そ……それより兄が無事に戻ってきて許可が出たから士道誠心なら一月から入りますし」


 ん?


「転入試験も既に受けましたし。ぜんぜんちっとも目立ちませんでしたけどね」


 いやいや、嘘だろ。目立つだろ、アリス。アンタの見た目なら、絶対に。

 もし目立ってなかったとしたら、試験に参加した連中が周りも見えていないくらいてんぱってたか? いやそれでも、アリスの見た目で目立たないんだとしたらよっぽどやばい奴でも混じっていたのか?

 そこまで考えてから気づく。

 そういえば確かに直近の試験は荒れた。

 先生方からの指示でいつでも邪討伐ができるよう待機していたから見た。人食い鮫の邪を吐き出す暴れん坊を。

 一年九組とやりあった十組にいる。暴れん坊の女の子が。本人が望もうと望むまいと、欠けまくったボロボロの刀の状況からして、何か事件が起きそうな気がしてならない。

 とはいえ……それはいま考えるべきことじゃないな。


「アリス……アンタね。それ自白と同じだからね」

「飛び級があることをこの九歳児はご存じなのですよ。どや」

「白状したらたこ焼きおごってあげる」

「うぐう。食べるのはもはや規定路線ですが、しかしたこ焼きを人質にとられては逃げられません。はいそうです。九歳と八十三ヶ月です」


 耳に手を当ててこちらを見てくるのは、なんだ。突っ込み待ちのつもりか? 言わないぞ。おいおいって突っ込むのは十七歳の時だけだからな。


「なあに、その耳。つねってもいいの?」

「なんて暴力的……九歳児を相手にひどい仕打ち」

「……子供まんまで成長する気配のない見た目を気にして自称九歳児なわけ?」

「お姉さん、警報ブザー鳴らしていいですか」


 地雷だったな。どうやら正解だったようだ。気にしている見た目を利用している時点で、やはりアリスはいい性格をしてそうだが。


「やめろ。もう言わないから」

「じゃあたこ焼き二倍で」

「……ほんとよく食うな」

「成長したいんです」

「……もうたぶん無理だぞ?」

「ががん! ショックです。これはたこ焼き四倍にしてもらわなければ」

「お腹壊すぞ、絶対に」


 呆れるけど、でも同時に納得した。先輩とアリスのお母さんがアリスを放置する理由。本当に九歳児なら放っておかないだろうけど、高校一年生ならまあ……まだ許容範囲ぎりぎりだ。

 とはいえ見た目は完全に子供そのもの。危なっかしくて放っておけないことには変わりない。


「じゃあいくよ」


 アリスの手を引いて歩きだす。とことこついてくるアリスが不思議そうな顔をして私を見上げてきた。


「高校生なら自分で払えとか言わないんですか」

「払えるの?」

「ぜったいいやですけど。お小遣い千円なんで」

「やすっ」


 思わず突っ込んでしまった。ま、まあ……お小遣いはほら。家庭によって違うからな。


「ま、まあ、ほら。アンタが年下であることに代わりは無いから。後輩になるなら余計、放っておけないし出してあげる」

「ならお洋服も!」

「それはだめ」

「がっくし。そしてもよおしてきました」

「さっきおしっこしただろ」

「うんち」

「おいまじか」


 青ざめた顔して急に立ち止まるな。お願い! 急に立ち止まるな!


「あ、歩ける?」


 ものすごく小刻みに顔を左右に振るのを見て、諦めた。そしてアリスを抱え上げて全力で走ったことは言うまでもない。


 ◆


「ふう……やり遂げました。急に襲い来る便意に抗えない。アリスも所詮、人の子ですね」

「そうですね……」


 すっきりした顔して出てきやがって! まったくもう。ほんと、間に合ってよかった。

 アリスの手を引いてコンビニから出たところで、スマホが鳴った。急いで出ると、


『メイ、待たせてごめん』

「先輩……!」


 思わず飛び跳ねそうになったよ。


『さっきなんか騒動が起きたっていうから、構ってられないみたいで……やっと解放されたんだ。今どこ?』

「あ……えっと、渋谷です」

『今すぐ行くよ』


 周囲を見渡した。コンビニの前、喧噪が激しい。車の鳴らすクラクションの音も途切れない。さっきの騒動が尾を引いているんだ。合流するなら駅前がセオリーだけど、この様子じゃ無理。


「先輩の送ってくれた住所に行きます」

『え、でもさんざん待たせて移動してもらうのは――』

「いいんです。渋谷は大騒ぎだし……先輩のバイト先、見てみたいんです」


 笑って答えた。それから手の中にある熱に短く息を吐く。


「ちょっとだけ時間かかるかもですけど。先に行っててください」

『わかった』


 またあとで、という声を残して電話が切れた。


「兄と合流する……アリスはお役御免……ママを一人で待つのですね……」

「なんで? アンタも一緒に来るの」

「え……でも、お姉さん。兄とデートでは? そこに妹がいては、邪魔では?」

「なにいってんの。アンタの実年齢が十六だろうと、見た目が子供なのは間違いない。放っておけるわけないでしょ? 結構この街けっこう怖いんだから、守らせて」

「……ふふー」


 嬉しそうな顔をして、それだけじゃ足りずに腕にしがみついてきた。よくルルコがするように。


「お姉さん、かっこいい……アリス、惚れちゃいそうです」

「……そういうのは一人で十分なんだけどな。まあいいや。たこ焼き買って、食べながら向かうよ」

「おー」


 やる気のない返事だな、おい。


「ところでお姉さん。トイレ以外でアリスの手を離さないのは、なんでですか?」

「決まってるでしょ?」


 肩を竦めてから言ったよ。


「手の掛かる九歳児で、放っておけないからだよ」

「おう……兄へのアピールとか皆無。そこに痺れる……ところでたこ焼きに追加でジュース飲みたい」

「自由か。ほどほどにしろ。また急にもよおすだろ」

「人生は冒険」

「そして走るのは私。やかましいわ」

「どや」


 やれやれ。

 でもこれでひとまず先輩に会えそうだ。

 先輩のバイト先で会うなんてイレギュラーにもほどがあるけど、でもちょっと楽しみだ。

 今の先輩の日常に触れたい。その中に……私も入っていきたい。

 早く――……会いたいよ、先輩。




 つづく。

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