第二千七百二十八話
スマホを持っているのも疲れちゃう。
筋肉はすっかり衰えてしまって、なかなか回復できない。
筋トレがいる、リハビリしなきゃいけないかも、なんて恐ろしい話が出てきている。
でも抗えない。まだひとりで歩き回れない。筋トレしようにも、腕立ても腹筋も満足にできなくなっている。狐耳と尻尾が生えている、この獣憑き状態でさえ満足に動けない。
ま! どうにかできる状態じゃないから、それはそれ!
疲れて寝ちゃってから、晩ご飯で起こされて、今日もささやかなおかゆをなるべく時間をかけていただいてから、スマホで曲を流す。
持ってられないから、ベッドに置いて指先操作。
狐耳が聞こえすぎるから、音量はかなり絞っている。
なにかの参考にならないかなって思ってさ? 聞いているんだけどなあ。
ギターの練習を始めたばかりで音楽の授業の成績もそこそこだった私には、なかなかぴんとこない。
おい現役歌手だろぉ!? と自分にツッコミを入れるけど、そんなものでいまないものが補われるはずもなく!
ドラムセットならライブでも練習でも収録でも見てきたのにな。どれ!? ってなる。
さすがにバスドラムやスネアドラム、シンバルやタムの音くらいはわかるよ? だけどさ。ハイとロー、フロアと分かれるタムの音の聞き分けや、クラッシュとライドのシンバルの聞き分けって言われると、とっさにわからない。ハイハットはさすがにわかるけどさ。
それにスネアのどこをどう叩いて、どういう音を出しているのか、みたいなことを聞かれても、すぐには答えられない。
おんなじ叩き方じゃないんだ。叩く場所によっても音が変わるし? セッティングで変わってしまうという。これまた至難の業!
クラシックで有名な楽曲、ラヴェルのボレロでスネアが活躍している。冒頭からずーっとずっと、同じリズムで叩き続ける必要がある。ボレロはとにかく、序盤から曲終わりまで、壮大なクレッシェンドをかけていく。徐々に大きくなっていくって意味ね? 逆は、デクレッシェンド。徐々に小さく。
ボレロは曲の始まりから徐々に徐々に大きくしていくし? 演奏する楽器を変えて、増やしていく。最初に張り切っちゃうと? とんでもなくつらい無理が待ち構えているから、とにかく最初は小さく小さくやらなきゃならない。
なのに、スネアは休みがない!
頭がどうにかなりそうなくらい、ずっとずっと同じリズムでクレッシェンドをかけながら叩き続けなきゃならないんだ。やばいよね!
木管部隊から演奏を始めていくんだけど、クラリネットの柔らかく豊かな音色がとてもいいんだよね。トランペットやトロンボーンなどの金管はたしかに華があるけれど、弦楽部隊がベースラインを演奏するなかで耳に優しく響くのは、やっぱり木管。サックスも含めた楽器類の突きぬけるんじゃない、周囲にふわりと広がる音がいい。
ボレロは旋律を歌う楽器がわかりやすくて楽しいよ? あらゆる交響楽団が公式にあげた演奏動画もいっぱいある。ポップシーンなどのMVとちがって、生演奏を、演者メインに映すからわかりやすくもある。
ドラムに話を戻して、ドラマーさんがドラムロール技術を披露してくれる動画なんかを見ると、ドラムセットのそれぞれの太鼓たちがどのように活躍しているのか、ほんのりわかる。ほんのりだけど。なにせ激しい人はとにかく激しいからね!
あと、ドラムセットの編成が違うこともある。バスドラムまたはベースドラムがふたつあって、もちろん足で叩くためのキックペダルもそれぞれについていて、両足で打ち鳴らすんだ。あとはベースドラムはひとつだけど、ペダルがツインペダルと呼ばれるものになっているケースも。
それらが産まれ、発達した歴史的経緯があるし? いろんなドラムミュージシャンの名前を挙げるページがごまんとあって、もうなにがなにやら!
ドラムひとつでこれだよ?
シンセサイザーや電子キーボードの歴史は? ベースは? そもそもギターは?
さっぱり!
でもさ?
作曲などの視点を変えてみると、しばしば見かける。
まず曲作りには型があるって。コード進行においては言うに及ばず、メロディーだって繰り返していく。ボレロなんか最たるものじゃない? めちゃくちゃ繰り返すからね! スネアのパートだけじゃない。ハープもチェロやコントラバスも、ずっと繰り返している。ぽろんっ、ぽろんって。バックでずっとね。
それに構成も存在する。私たちに馴染みのポップシーンの楽曲なんかそう。Aメロ、Bメロ、サビに入って間奏。そしたら二番で、やっぱりAメロ、Bメロがきて、サビに入って間奏。そのあとに大サビが入ることもあって、そのあとサビで終わりとかさ。この構成をいじる楽曲もあるし? そもそもBメロがないこともあるね。
クラシックのコード進行の型を利用した楽曲も世の中にごまんとある。
一方、ボレロで言うと歌うような旋律部分を主旋律、メロディーと呼ぶ。フルートから入って、クラリネットに移り、と主旋律を交代していく。
スネアはリズム隊だ。メロディーとハーモニーつまるところ和音を運んでいく。
最初、ボレロは主旋律とリズムだけに思えるけれど、楽曲が進むほど様々な楽器がハーモニーに参加していく。複雑化していく音色、音の触感の豊かさは実に気持ちがいいもの。
メロディー、ハーモニー、リズム。このみっつが楽曲を作っている。
でもってハーモニー部分はコード進行のみが記述されていることも。クラシックに、そういう譜面がある印象はない。一切ない! だけど、ジャズはどうだろう? ジャズの場合、メロディーさえ、一部しか譜面に起こされてなかったとしても不思議じゃないまである。ポップスやロックは? メタルとかは? むしろコード進行だけっていうイメージがあるなあ。
ボレロでいえば、びっくりするくらいの統一感と繰り返しが重要じゃない? なのに、Aメロ、Bメロが繰り返されるたびにハーモニーが変わると、そっちが気になってしまうもの。
逆にジャズやバンドの楽曲なら、そのつどメディア音源と異なる演奏が聴けるのがリッチな体験だ。
もちろん! 異論はあるだろう!
メディア音源の生演奏を聴けると期待する人もたくさんいるんだよね!
わかるよぉ! わかる!
そういう人もいるよね!
さて、話を戻して。
メロディー、ハーモニー、リズム。
この三点がいる。
歌なら? A・Bメロとサビは私がメロディー、間奏はちがう。だいたいギターがメロディーを担うかたちで歌ってくれている。リズム隊を担いがちなベースもメロディーやハーモニーに回ることがあるし? ツインギター編成で一方がハーモニーに回ることも。ベースが歌うのけっこう好きだけど、よくあるって印象は正直ない。ツインギター編成はぼっちざろっくの結束バンドは採用してたけど、ギターひとりっていうのもよくある編成じゃないかな。うちのバンドでナチュさんがキーボードをやっているみたいに、ハーモニーパートを担うだれかがいるってこともあるし? 特定楽曲のためにハーモニー部隊を追加する、なんてこともあるね。
で。
ボレロのリズムパートをドラムで再現して、王道のコード進行をハーモニーにあてる。そしてコード内の音でメロディーを作り、それを繰り返すようにして、それぞれにAメロとBメロを作り、サビまでできたら? あら不思議! それっぽい曲ができるぞ?
よくあるコード進行は検索すれば、まあわちゃっと出てくるし? なんならヤマハとか大型書店で楽譜を買えば、いくらでも参考元になる。クラシックが王道じゃないかな。
たとえばF、G、C、Amのコード進行。
これだけで全編を通しちゃう。
リズムが細かくて気になるなら、もうちょっと単純化して、音を引いちゃっていい。
メロディーが決まれば、ハーモニーは和音となる形で演奏する。
単純に三音で構成するなら? 三つの音色が必要になる。
「ううん」
私とキラリとマドカで構成してみる?
人をイメージするんだ。色はなにがいいだろ。
私を金色にしちゃうと、もうそれだけで私がやかましい!
信号機にする? 赤、青、黄色。
青は私でしょ? ほら。名字が青澄だけに!
なら赤がキラリで、黄色はマドカかな!
この色がもしも、お父さんが追いかけているゲームシリーズのタイプ別なら、ぜったいちがう色分けになりそう。たぶん、私は青じゃなくなる。
でもいいや! ひとまずこれで。
「私がメロディーでしょ?」
当たり前に決めちゃう。だって歌うの私だし。
メロディー委譲は、もしも霊子表現で音楽をやる技術に慣れたり、遊べたりするようになったら試そう。
「んー?」
繰り返しのもとになるメロディーが浮かばない。
そうそうぱっと閃かない。
リズムをボレロよりもっと簡易化したものとして、ゆったりめのペースでいくとする。
「そいやっ」
三色の霊子を浮かべてみせる。
これくらいは苦じゃない。
むしろ身体が思うようにいかないぶん、私の手足より自由に感じるくらいだ。
「黄色さん、音を鳴らして? あ。夜だから、小さくね?」
動画で聴いたスネアと同じ音色を、ちかちか瞬きながら鳴らしてくれる。
たん。たたたたん、たたたたん。たん。たん。たたたたん、たたたたん。たたたたたたたたた。
やっぱり多いな。
「待って? えっと」
スネア一色だから足りないのかな。
黄色の霊子に触れて、オレンジ色とパステルイエローを出した。
「オレンジくんはどん、うどどん、うんね? 黄色くんがうん、たん、うん、たん。パステルイエローくんは八分音符でたたたたたたたたね?」
三色にお願いして、やってみてもらう。
黄色くんがスネア、オレンジくんがバスで、パステルイエローくんはハイハットのイメージ。
だけどスネアの音色がすかんと高めなので、もうちょっと低くて心地いい音色はないものかとうなる。
それにドラムセットの音を模倣すると、音のすかすかぶりが気になる。
すこし考えてから、黄色隊を片手ですくって、お食事用に出したままのテーブルに近づける。
「ちょっと待ってね?」
指先の腹で軽く叩いた。たん。すこし高め。
てのひら全部を当てるように落とす。どん。低くていい感じ。
この中間はないかと考えて、閉じた手の指の付け根から先を当てる。とん。ぎりぎり中間の重さ。
黄色くんたちに覚えてもらい、鳴らしてもらう。
それから、もうすこし高低の調整を試みたのちに、再び音を出してもらう。
テーブルを使って音を出している感じが再現できた。ちょっと楽しい。
そこで、ふと思いついた。
トウヤが来たときにお願いして、テーブルに置いてもらった歯磨き用のグラスに触れる。
前に見たことあるんだ。
天国修行でさ? 海外でグラスを叩いて、それをパソコンで取り込み、キーボードで鳴らせるようにして、音色を編集して即興で音楽を作っちゃう動画を。
あれ、やってみたい!
爪を側面に当てると? かつん。
ペットボトルのお水を注いで、上から縁を叩くと? お水の量で音の高さが変わる。
少ないと高く、増やすと低くなる。小学生の理科でやるような、震動の実験だ。
音は震動なのだから、震動の回数が増えるほど高くなる。水が増えればグラスの震動する面積が減るので、音が低くなるっていうやつね。
これをリズムの音に取り入れちゃおう。
水の量を飲んだり注いだりして変えて、音の高さの好みを探り、リズム隊の黄色組に覚えてもらう。
そのあと、もうちょっと膨らみをもたせられないか、響きを足せないか試行錯誤する。
気に入る音色が決まるまで、かなり時間がかかった。
さて、ハーモニー隊になる赤色はどうしようか。
和音になるんだよなあ。
ピアノのイメージがいいな。
赤色霊子を二オクターブちょっとある電子ピアノに化かす。赤色が基調のままね。
「軽くハモれる?」
ドレミファソファミレド、と軽く口ずさんでみると、ミ、ソを開始地点に音を鳴らしてくれた。
合わせてくれるなあ。これじゃあ音が重なっちゃってメロディーが目立たないけれども!
同じコードで、異なるリズムで和音を鳴らしてほしいんだよなあ。
コードが決まらないことにはお願いできないか。あとリズムも決めないとだ。
それはそれとして、音色遊びが楽しすぎるから、赤色にもお願いしたい。
なににしよう。
水を注いだグラスはもう使っちゃったから、別のがいいな。
それにグラスの音にリバーブをきかせたりするのは動画でそのままやってたし、もうちょっと遊んでみたいじゃない? どうせ自分でやるのなら!
そうだなあ。
周囲を見渡して、ぷちたちが持ってきて置きっぱなしにした玩具類を眺める。そこで、だれがあげたのか、おもちゃの木琴に目が留まった。金色雲を出して木琴と棒を引きよせて、軽く叩く。
「これ、覚えて? 小さく鳴らしてみせて?」
赤色ピアノが木琴の音を鳴らす。
ううん。電子キーボード感! このままじゃ物足りないな。
「マリンバっぽくならないかな」
ぷちたちのおもちゃ木琴にもっと音域を増やして、さらには金属の筒を下に設置して響くようにする。
私のマリンバのイメージは、だいたいそんな感じだ。叩いた板の下にある筒の震動で音が鳴り響く。
ちなみに他にもシロフォンっていう楽器があって、こちらは固い音がこつんとするイメージ。
調整を試みていたときだ。
ふと思い立って、もう一度、黄色組の音を確認。
硬質で高い音が鋭く鳴って柔らかく響く。
もうちょっと粒が立つような音のほうがいいのでは?
だとすると、シロフォン? ううん、でもちょっとちがう。
黄色組の音をドラムに当てちゃうからいけないのかも。
ベースに切りかえて歌ってもらったらいいのでは?
そのうえで、より響くハーモニーの音色を求めるとしたら。
いや、ひとまず再現できた音でいってみよう。
「黄色組、待ってね? さっきのリズムと音を、もうちょっと変えてみよっか」
彼らと調整を試みたうえで、黄色組たちを緑色のグラデーションになるようなカラーに変える。
改めて黄色組を作り、ドラムパートを割り当てた。グラスを木琴を叩く棒でかつかつ叩く音や、テーブルを叩く音を割り当てる形にする。
そのうえで、赤色ピアノにリズムとハモってもらう音を決めて伝える。
F、G、C、Am。ひとまず簡単に和音をリズムに合わせて、決めたリズムに添っていくつか鳴らしてみてもらいながら、鼻歌で音を探る。
青色をたぐりよせて、なにがいいかを一緒に探るように。
響いたものがあったら「いまのを覚えて?」とお願いする。
そうしてゆったりと音楽遊びに勤しむ。
そのあとで歌詞をつけたり、もっと構成を練ったり、いろいろ遊べる余地があるのだけど?
まだまだばちっと決まらない。
そのつど音色を変えたり、リズムに変化をつけてみたりして、忙しない。
ただ、やっていると? 自然と夢中になれる。
わーって考えちゃう頭と心がだいぶ休める。
私の霊子はこういうこともできるんだと実感できるのも大きかった。
ああ。
音楽が好きだ。
いまこの瞬間、私は確かに癒やされていた。
つづく!
お読みくださり誠にありがとうございます。
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