表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2707/2932

第二千七百七話

 



 戻ってノンちゃんたちに相談した。

 いまの私とファリンちゃんの案では移動が必須。

 これをどうにかする術はないものか。

 ユニスちゃんみたいな魔法が使えたら? 狛火野くんみたいな破邪の力があったなら?

 あの人がいたら。彼や彼女の力が使えたら。

 でも、ない。

 なら、補うことで達成できないか。


「ハルさんは一年九組の子たちに指輪をあげることで、彼らの霊力を使えるようになったんですよね?」

「まあ?」

「だったら、ハルさんのお姉さんの力は?」

「あっ」


 うちのお姉ちゃんにも指輪をあげた。

 黒いのにもあげた。

 ふたりの力を私は使えるはずである。

 ちっとも考えなかったね! それどころじゃなかったからね! あと私、ずっとポンコツ状態だったし!

 あはは!

 はあ。


「あと、力を借りたい人と縁を結ぶことで、その人の霊力を使えるようになるかもしれませんよ?」

「指輪をあげて回るの?」

「ええ。もっとも既に御霊を宿している人に指輪をあげられるかわかりませんし、あげれば必ず霊力が使えるということなのかも明らかじゃありません。博打にはなります」


 それに、と彼女は気のない調子で続ける。


「そもそもハルさんがご自身の御珠を通じて、御霊との縁を結ぶ手助けをする、その具体的なやり方をノンは知りません。ハルさんにはわかります? いつでもどこでも行なえますか?」

「う、ううううん」


 なんだろう。

 ノリと勢い?

 エモい空気で願ってうまくいってただけで、今後も百発百中、確実にうまくいくかって?

 わからない。

 よくもまあ! こんなふわふわしてた私がなんとかやってきたもんだね! すごい! 運もいい!

 よし!

 胸に手を当てて御珠を取り出す。

 もやが渦巻く水晶玉は、私の心身が参っている状態もあって透き通った状態ではない。

 御珠をおでこに当てて「なむなむ」と祈る。

 ノンちゃんとの絆が結べますように。指輪を渡せますように。

 そう願ってみたけど、十秒が過ぎて、一分近く沈黙を保っても、なんの変化もなかった。


「どうです?」

「だめですね!」


 もっとこう、時と場所とか、いろんな条件が必要なのでは。

 告白してOKをもらうくらい、なにか特別なものがいるのでは?

 こんな、急に押しつけるように願ってもだめみたいだ。


「なきゃないなりにやるしかない。時間も限られてる」

「だね」


 ファリンちゃんに急かされて、横になる。

 いまのところ被害は拡大し、報告は増えているものの、飛行機が落ちたり電車が脱線したりするようなことは起きていない。

 関東を襲う術が変化したみたいな知らせもない。

 なら、なにも起きない間に急がないと。

 あめ玉を出して、口に投げ込む。

 意識が遠のき、霊子再現世界に到着。

 校庭に立っていることを意識して即座に鍵を出す。

 左に一回転で時間を止めてから、ファリンちゃんとうなずきあった。


「陣地構築、どこにする?」

「あのさ。普通さ。それを相談してから、ここに来ない?」


 あれ!? ご機嫌ななめ!?

 これまでと口調がちょっぴり砕けてきている。

 一緒に行動する時間が積み重なって氷のように固まっている態度が、すこしだけ解けたのかも。

 その結果がご機嫌ななめなのは、正直微妙!

 でもいいや。これも前振りと思えば。


「どっちでも変わらないって。スタートは変わらないんだから」

「それはそうだけど。スマホで地図を見たり、いろいろできるでしょ」

「あっ」


 固まった私にファリンちゃんは、それはそれは深いため息をついた。

 心底呆れているようだ。

 申し訳ない!


「ごめんなさい!」

「いや。待ったをかけれてないし、そこは私が悪かった」


 それはたしかにそう!


「それで改めて陣地をどこに敷くかだけど、その前に目的地を決めたいの」

「だったら都心じゃない? 空を飛んで移動したとき、パーツがやまほどあったし。それだけ人が多いということかもしれないし、それだけ魔方陣が精密になっているということかもしれない。どちらであれ、あめ玉にして調べてみるなら、都心は外せないでしょ?」

「賛成。真東に向かうとしたら、道中にある小中学校が陣地構築に都合がいいかな」

「どうして?」

「避難場所に指定されている。細々とした戸建てまみれの住宅地、背の低いビル群や商店街、駅よりも人が集まる場所として、わかりやすく敷地が確保されているでしょ?」

「ああ。でも、それなら大きな公園なんかも含まれるんじゃない?」


 ちょうど避難場所に設定されている公園だってあるわけだし。


「もちろんね。でも閉鎖空間があるほうが都合がいいの」

「なんで?」

「誘導しやすいでしょ? それに化け術を使えば迷路にだってできる。圧倒的物量が迫るなかで障害がどれだけ有効かわからないけれど、ある程度は霊子を節約できる。集めるスペースも確保しやすい」

「おおお」


 すごい。

 よく考えてるなあ!

 感心してたら「こいつ大丈夫か」って不安げな顔をされた。


「頼りになるなあ!」

「押しつけるな。さらっと。あなたもやればできるんだから、ちゃんと考えて」

「はぁい」


 仰るとおりだ。

 ふたりでやるんだから共同作業をしないとね。


「つまりあれだ。平地だと構造物の利点を活かせないから問題だってことだね?」

「そのとおり」

「迷路を構築して、連中が集まるようにしたとき、体当たりで壁をぶち抜かれたり、壁をのぼってこられるかもしれないから、十分ではない、と」

「そういうこと」


 パーツが単体でやってくるとして、どのように動くのかがわからない。

 空を飛んでいた両手の鳥は体当たりしてきた。

 それだけで終わるのか。わかったもんじゃない。

 そうだ。


「空からぶつかってくるのがいるから、屋上の上に浮かんで待つみたいなこともできないのか」

「そうなるね。屋内の、だけど脱出可能な場所に留まり、時間を加速。なるべく大勢を集めて、あなたの術の膜を通らせる」


 展開した金色の膜を通ったパーツが多ければ多いほど、あめ玉にして読み取る情報の精度があがる。

 統計の話をファリンちゃんが出してたから、私なりにいろいろ思い出したことがある。

 統計を取るうえで母集団の数と、その内訳は重要だったはず。

 たとえば都内の人たち、それも銀座や新宿で働く人たちを対象に「野菜の高騰が続いていますが、どう思いますか?」という類いの質問をする。そうだなあ。いかにも身なりのいい十人くらいを相手に。

 その答えって、どう? 全都道府県のみんなにとって納得のいく答えが聞けそう?

 聞けなさそうだよね。さすがに。

 お高い高級スーパーに通う人たちを相手に尋ねて終わりじゃさ。ねえ?

 それよりよっぽど、都道府県のあらゆるスーパーで買い物をしている人たち一万人を相手に尋ねたほうが、まだ信頼できる情報がわかりそうなもの。

 それはなぜ?

 貧富の格差の拡大が問題としてあるから。

 それは野菜の高騰に対する解答に一定の影響を持つ。

 一万人を対象に調べたとき、リッチな人たちももちろん含まれるだろうし?

 だったら収集した情報から所得や月の食費の内訳などを踏まえて、別角度で捉えると、また異なる実態が浮き彫りになりそうじゃない?

 だけど、このあたりをぼかしてしまったら、統計っていくらでも詐欺や嘘っぱちに利用される”程度”の代物になってしまう。

 なので統計の取り方には私の勉強していないお作法だなんだ、検証のやり方だなんだがちゃんとある。

 それを守らないと、みんなの年収の平均値がどうのこうのって言って済ませてしまい、中央値の重要さを、ともすれば意図的なんじゃないかってくらい恣意的に見落とすような統計の扱い方をしてしまう。

 そう。平均値か中央値か、みたいなのも知識がないと見えないものだし?

 私の知らないものが他にもたくさんあるはずだ。

 こればかりはファリンちゃんの力を借りないと無理。

 でもね?


「なるべくたくさんの材料を霊子に通したいんだよね?」

「そう」

「だったら高層建築物のほうが都合がいいんじゃない?」

「もちろんそう。人が大勢集まるからね。でも、最初に挑むには困難が過ぎる」


 困難が過ぎる!

 たしかにそのとおりかもしれない。

 正直にいえば、わからないんだ。

 どれくらい困難なのか。それがもう、困難って感じ。

 なんたるパラドクス。いや、そんなたいしたことじゃないな。


「まあ、なんにせよ、やりながら試そう」

「そうだね」


 ふたりでうなずきあってから、ふと気づく。

 学校中の至るところに、既にパーツがやまほどある。

 一緒になって高等部、中等部、小等部まで調べたけど、空き部屋がない。

 大学部のあちこちや、大講堂まで探ってみたけど、どこもかしこもパーツでみっちりだ。

 こうなると話が変わってくる。


「どの陣地も、まず場所を確保することから始めないといけないね」

「あなたの霊子を通して拡大化。その後、一定範囲内の掃除をしてから、迷路に加工する。時間を進めて連中を集める、か」

「すっごい疲れそうだね」

「名案は?」


 匙を投げるのはやっ!

 でも代案が欲しいところだ。

 ロッカーの中からトイレの個室に至るまで、どこもかしこもみっちりだったもの。

 この魔方陣、相当神経質な人が構築したんじゃないかな?


「刀鍛冶のみんながやってたように、一から陣地構築する、かなあ」


 屋上からさらにうえを化け術で作る。

 屋内に留まり逃げることができるような、そういう立体迷宮をこしらえる。


「待って。その立体迷宮っていうのがもう、すごく疲れそう。いくつも作れそうにない感じがする」

「まあね!」

「だめ。却下」


 ううん。要求が厳しい。

 でもファリンちゃんの言うとおりだ。

 それならもう、初手で都心のビルでやったほうが早いまである。

 あるいはいっそ、町単位じゃなくて市単位で、巨大なタワーとか、あるいは空飛ぶショッピングモールみたいなのをこしらえて呼び寄せるのがいいのかも。

 ほら。ゾンビものじゃ鉄板だし。


「ゾンビ関係ない。モールもだだっ広いだけ。みっちり詰めるくらいがいい」

「ボトルネックみたいになって、人が詰まっちゃうんじゃないかな。そのぶん、集まりが遅くなるのでは」

「じゃあ広い空間、ボトルネック、広い空間、ボトルネックの構造を作れればいいんじゃない?」

「でもさ。それってやっぱり階層で実現するのが都合がよさそうじゃない?」

「つまり、タワー?」

「そう。タワー」


 話していて、ふと思いついた。

 空中に金色を浮かべて、設計図を見せる。

 マシンロボみたいに頭部、あるいは最上階に移動可能な円盤を。

 で、その下に都庁とかスカイツリーとか、東京都内の有数の高層ビルみたいなものをこしらえる。


「連中が私たちめがけて殺到するなか、上層にのぼるまでに時間がかかる。エレベーターはなし。フロアは大きめ。で、中がぱんぱんになったら? 円盤から下を消しちゃう。で、東に移動する」

「構造物を消せば、集まったパーツは落下せざるを得ない。あるいはその可能性が高い」

「タワー構造は同じものを使い回せばいい。上空への備えをはじめ、改良点が毎回出るだろうけどね」

「悪くない」

「でしょ!?」

「ただ、やっぱりタワーは疲れるよ?」

「う」


 だめか。

 結局、基本的な問題に行き当たる。

 でもたぶん、他にない。名案と呼べるものが。

 うなる私にファリンちゃんが切り出した。


「それなら、ありものを転化して利用しよう。転化の術も疲れるけれど、ぜんぶ自前の霊子を使うよりはマシ」

「だったら、じゃあ、タワーの霊子も使い捨てにしないで、使い回せるようにしたほうがいいよね?」

「もちろんそうだね」


 平成狸合戦ぽんぽこを思い出した。

 狸の金玉は便利だった。雄専用だけどね。

 あの映画で狐はあんまり目立たなかった。それはそう。狸の映画だもの。

 ああいうなにかがあればいいね?

 伸縮自在、霊子を注げば思いどおりになる触媒のようなものが。

 いま思えばノンちゃんがくれた卵銃と卵グローブは、まさに触媒だった。

 ああいうのが欲しい。

 霊子を注げばなにかになる。だけど念じれば別のものになる。

 そういうなにかがあったらいいな。

 どうせ転化して利用するなら、そういうものを作りたい。

 あるいは、なにかほかの術はないだろうか。

 転化するのも疲れるのだ。長丁場になるなら、というか既にもう今夜が長丁場になっている最中なんだけども! なるべく疲労せずに済む手はないか。

 そこでやっと、ノンちゃんがかけてくれた言葉を思い出す。

 指輪を渡せた人の力を私は使えるかもしれない。

 姫ちゃんの鍵や理華ちゃんの指輪のように。

 黒いのはわからない。どういう力を持っているのか。イメージさえできない。

 なので、ここはまずお姉ちゃんからいこう。


「ちょっと待って」


 断りを入れてから、右手を胸に当ててお姉ちゃんをイメージする。

 連想するのは、なんだろう。

 ゲームしてるとこ? 私よりもみんな、とりわけ男子とめちゃくちゃ馴染んでるとこ? 気づけばグループを形成しちゃってるとこ? なんか妙にみんなが面倒みてくれてるとこ?

 ぜんぶ私にないところだよ!

 じゃなくて。どうどう。落ち着け。

 いまは羨んでいる場合ではない。

 お姉ちゃんは手帳をよく見ている。鬼を御霊に宿す茨ちゃんや岡島くん、トラジくんよりも優れた抜群の身体能力を有している。炎を操る人で、力も技もぜんぶすごい。

 これがマンガなら最強キャラ筆頭格!

 ただし! 夜八時を過ぎたら? ほぼほぼ確実に寝ちゃう。

 がんばって夜更かししても五分ももたない。

 一時期は九時ぐらいまで起きれるようになってたけど、あれただたんに無理してただけっぽい。

 それだけみんなとゲームで遊ぶの楽しくて、うれしかったんだろうなあ。

 もしもお姉ちゃんの霊力が眠る力だとしても不思議はない。

 そんなレベルだ。

 でも、もちろんちがった。

 右手から急に火が噴き出た。熱い。だけど痛くない。驚いたけど、悲鳴をあげるほどじゃない。


「ね、ねえ、それって?」

「これ、霊子やどってるかな?」


 服に燃え移ることもない。

 あえていうなら、お父さんがお風呂に入ったあとのシャワー並み。田舎のおばあちゃんちのお風呂よりはぬるめ。そういう温度だ。四十度以上、四十四度未満。

 お湯か?

 ちがう。炎だ。


「たぶんね」


 右手の炎は私の意図に構わず燃え続ける。

 燃料となる霊子が無尽蔵に湧き出るみたいに疲れない。

 お姉ちゃんに影響はないんだろうか。

 それを言ったら、鍵を使ったことで姫ちゃんに影響は?

 理華ちゃんの指輪を使ったらどうなるの?

 考えてこなかった。考えるべきだと気づく。これが初めてじゃないくせに。

 それでも、いまこそ力の使いどき。


「じゃあ、ちょうどいいのがあった」


 借り物なのかどうか。

 それとも縁による授かり物か。

 なんであれ、ここで止まってはいられない。

 これまでのように、これからも。


「いこっか」

「まさしく燃料ね」


 思わずファリンちゃんと見つめあう。

 エージェントはすこしして、目を逸らした。

 冗談だったのかもしれない。

 お願い、わかりやすいのちょうだい! エージェント!




 つづく!

お読みくださり誠にありがとうございます。

もしよろしければブックマーク、高評価のほど、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ