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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二十二章 十二月の恋歌

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第二百七十話

 



 上機嫌でカナタにひっついていたら「風呂に入ってこい」と言われてしまいました。

 カナタ……ちょっと枯れてませんか?

 私、搾り取っていますか?

 やだもう、搾り取るだなんて! はれんちめ!


『楽しいか?』


 十兵衞、ごめんなさい。ちっともです。

 むしろバカを露呈しているだけのような気がします。


『うむ。風呂へ行け』


 はあい。

 のんびり歩く。一年に十組ができたけど、他の学年には転校生とかきたのかな。

 カナタはそんな話一言も出さなかったし、獣耳をぴんと立てて耳を澄ましてもそんな話題は聞こえてこない。

 二年とか三年で転入学って結構ハードル高いもんね。希望者はいたけど入れなかったか、あるいはいなかったのか。

 どっちかわからないけど、新人はあくまで十組だけっぽいですよ。

 途中でマドカの部屋に寄って声を掛けて、二人でお風呂へいった。

 髪を洗ってふと視線を感じたので、隣を見る。マドカがぼーっとした顔で鏡を見ていた。

 刀を手にしてからのマドカは、私がそうであったようにどんどん綺麗になっていく。肌つやとかもそうだし、顔つきも少し変わって見えた。ふわふわの顔がしゃきっとするくらいの変化。

 そんなマドカが、水滴のついた鏡とにらめっこをしている。


「どうしたの?」

「んー……噂で聞いたんだけど、十組の天使さん。あの授業で暴れた子から刀を引き抜いたんだって」

「あ、それ本人から聞いたよ?」

「……不思議じゃない?」


 なにがだろう。思わず小首を傾げたら、マドカは眉間に深い皺を寄せた。

 腕を組んで乳を寄せる。


「なにが?」

「授業中の動画も見たけど、御霊は付喪神のはずでしょ? だけど……最近よく言われるよね。刀は心だって。その二つに関係はあるのかな。天使さんは十組の子から心を引き抜いた? その心が御霊で、刀になったわけ?」


 マドカがなんだか難しいことを言っている。全裸で。


「とりあえずそのままでいたら風邪ひいちゃうから、お風呂に入ってからにしたら?」

「むむむっ。ハルは気にならないの?」

「よくわかんないし。キラリがすごくてかっけーってだけわかっていればいいかなって」

「……ハルって大物なのかどうかたまに悩むところあるよ」


 半目になるマドカに合わせて半目になって、重々しく尋ねてみた。


「……それ、褒めてる?」

「……微妙だね」


 マドカが調子を合わせてくる。そのくだらなさといったらない。

 お互いに思わず吹き出して笑った。しょうもない。


「まあいいか。ハル、尻尾あらうから、こっちにお尻むけて?」

「はあい」


 マドカに尻尾を委ねた。

 キラリのいる十組との授業以来、一本になったまま戻らないけど、そのうち本数は戻るだろう。よくあることです。へこたれターンだったから治りが遅いのかもしれない。

 元気出していくぞう! それにしても……。


「はふう」


 シャンプーを泡立てて洗ってもらうの気持ちいい。マドカの手つきは割と遠慮がなくて、しっかり洗ってもらっている感がハンパじゃない。それがまた得も言えぬ心地なのですよ。


「……このまま全身を洗っていただきたい所存」

「ハル、だれすぎだよ。さすがにそこまでの介護はサポート範囲外ですよー」

「介護なの? 私おばあちゃんなの?」

「玉藻の前の年齢って人間的にはおばあちゃんじゃないの?」

「……おう」


 思わず納得したら心の中でタマちゃんが『なんじゃとう!?』と怒りを露わにしていました。

 寿命百年ちょいの人間からみたらおばあちゃんでも、狐的にはまだまだぴちぴちでしょってフォローして落ち着いてもらいましたけど。

 それにしても気持ちいい……特に尻尾の付け根あたりは変な声が出そうになります。


「ごくらくですなあ……」

「口調」

「だってー」

「一本だけでも結構たいへんだよ、これ」

「それな。知ってる。マドカには感謝してます……くふう」

「変な声だすなあ。色気要素ゼロだけど。緋迎先輩に洗ってもらうときもそうなの?」

「まあねえ。おかげで、いつも微妙な顔されてるよ」

「……ふうん。ねえ、お風呂で洗いっこってやっぱり盛り上がるの?」

「どーかなあ」


 思わぬ質問に思いを巡らせる。

 前にカナタがデレデレになった時に経験したけど。


「裸同士だったら割とありかも。だけど、服を着てたら……後片付けで我に返る感がハンパじゃないかも?」

「ああ……後始末っていつでもそうなるイメージ」

「そうなの。それも無駄に照れるというか、恥を感じます……ちなみにマドカ、狛火野くんとは……もう、そういう?」

「それはまだ。ハルのとこと違って、うちの歩みはのろめなので」

「うぐう」


 天使感あふれるキラリだけじゃない。マドカもか。

 トモからその手の……いわゆるえっちな話を聞いたこと一度もないなあ。

 ノンちゃんだけか。私と同じように一線を越えたのは。


「実際、一線を越えるのは……ありや、なしや?」

「カップル次第じゃないのー? 付き合う年齢も、初キス初えっちの体験年齢も、人によるとしかいえないよね。平均値なんて自分と比べてもどうなるってものでもないし、気にしすぎて意識しすぎてもしょうがないというか」

「ま、マドカ?」

「キスもえっちも結局ツールだという認識があるから、それに振り回されてもしょうがないって思うんだよね」

「ちょ、ちょっと? あのう? 付け根をこしこし洗いながらマシンガントークはやめて? はふ、はふ、ちょ、ちょおっ」


 昇天しそうです。たすけて。


「実際、経験しているであろうハルや佳村さんは幸せそうにしているわけだし、守って得られるものってタイミングが来た時のこの時でよかったって自己満足の可能性と、いつ納得するの? 今なの? っていう不安と、あとは遅れれば遅れるほど感じる経験年齢が平均値より遅いという事実でしかないわけで――」


 おう。マドカのマシンガンスイッチが入ってきた。ま、まずい。情報の流れに頭が追いつかなくなっちゃう。それに尻尾を洗う手に乱れが! 乱れが生じるよ! それも付け根でやられたらどうにかなっちゃうよ!


「そ、そうだよね!? ちちちちち、ちなみにマドカはいつ頃がちょうどいいと思うの?」

「んん?」


 私の質問にマドカの口が動きを止めた。

 ふう……危ないところだった。

 難しい顔で俯いてしばらく考えた後に、マドカは言ったの。


「タイミングが来たらいつでもしたいかな」

「意外と前のめり」

「でも……ほら。ユウは奥手だからさ」

「おおお……じゃ、じゃあ。狛火野くんが野獣になったら?」

「ないない。それはないけど……ユウが前のめりになったら、私はいつでもどんとこいだよ」

「超常現象……」

「なんて?」

「な、なんでもない。そっか……そっかあ」


 どきどきしてきた。なるほどなあ。

 意外と先へ進むのを待っている女子もいるということですね。それはそれでちょっとほっとする情報です。

 キラリみたいな子がいて、マドカみたいな子もいる。私やノンちゃんタイプの人もいる。

 人それぞれだ。男子もきっとそうなんだろうなーと思うわけです。

 たぶんそういうことに抵抗ないし前のめりに求めるのがギンで、相手に合わせてたまに翻弄しちゃう前のめりさをもつのがカナタ。奥手な狛火野くんもいる。

 タツくんとユリカちゃんとか。レオくんと姫宮さんとか。

 ラビ先輩とコナちゃん先輩とか。ルルコ先輩と羽村くんとか。

 みんなどういう風に一緒にいる時間を過ごしているんだろう。そこまで考えてから、ふと気になった。

 メイ先輩の恋路ってどうなったのかな?


 ◆


 真中メイはスマホとにらめっこをしていた。

 背中から抱きついて肩口に顎をのせて、ルルコが呆れた声を出す。


「ねー。早く先輩とデートの約束しちゃえば? そしてルルコを構うといい」

「いや……だから。困ってるんだってば」

「なにが?」


 つぶらな瞳が至近距離から私を見つめる。


「最初のデートの約束をした日に先輩のお母さんが体調を崩して病院に行くことになっちゃって流れたこと?」

「うっ」

「次のデートの約束をしたら、今度はメイが警察からの要請で一日対応せざるを得なくなって流れたこと?」

「ううっ」

「そして三度目の正直がこれで、今回を逃したら結局もうダメなんじゃないかって不安でしょうがないとか?」

「うううっ」


 胸を抉られる。


「……もういっそ神さまに嫌われているんじゃないかと不安で」

「気にしすぎだよ」

「でも……もう無理かも」

「考えすぎ。会えばわかるよ……ほら、貸して?」


 ますます密着して私の手からスマホを取り上げると、先輩から来た『次の土曜日どう?』というメッセージに『楽しみにしてます。次こそは絶対!』と打ち込んで送り返してしまった。


「ちょっ、こら!」

「いいからいいから。クリスマスが近づいてきてるんだから、素敵なデートしなきゃ」

「く、クリスマス……」

「プレッシャーに感じるところじゃないから。口実にできるきっかけでしかないから」


 スマホをベッドに落として、私のお腹をぎゅっと抱いて離れる気配なし。

 文化祭からずっとこの調子だ。私への好意を隠さなくなってきた。めんどくさいなあ、とか。さすがにこのまま放置したらいつか危うい何かが起きそうだなあ、とか。

 考えないわけではないけど、遠ざける気も不思議と起きない。

 ほんと、変な関係だ。

 無理矢理名前をつけるなら、友達とか恋人とかそういうんじゃない。ルルコとはこんな感じ、という曖昧でふわふわしたものにしかならない。

 だからかな、不思議なことがある。


「……ルルコは? 彼氏とはどうなの?」

「んー? ふふふ」


 上機嫌そうに笑って私の首筋に顔を埋めてきた。

 諦めて髪に触れる。セットされている髪に触れて文句を言われないのは、寝る前くらいだ。


「クリスマスはお泊まりデートするの。初めてね」

「……じゃあ、つまり、そういうこと?」

「どーかなー。羽村くん紳士だからなあ……妬いた?」

「アンタの裸なんて何度も見てるし」

「妬いてるー」


 嬉しそうに頬を擦り付けてくる。

 密着している回数は、少なくとも今はまだ彼氏より私の方が上だろう。こんなにゆるゆるな部分を見せる時間も。

 ちがう、ちがう。ルルコの彼氏と張り合ってどうする。

 私はルルコとどうなりたいというのか。先輩はどこいった。


「ふふー」


 上機嫌度合いが極まってるルルコに押し倒された。そしてひっつかれる。


「妙に機嫌いいな。なに」

「んー?」

「ルルコさん?」

「……メイが好きで、羽村くんが好きで。ルルコは幸せだなあって思ってるだけ」


 胸に顔を埋めてくる。

 ベッドとルルコに挟まれながら、私は天井を見上げてため息を吐いた。


「……私は不安だよ」

「先輩とのこと?」

「そ……ルルコにヤキモチ焼いている場合じゃないの」

「メイに振られた……」

「アンタはとっくに私の特別だから、ヤキモチとか、振る振らないって次元はとっくに越えてるの。それより先輩の――って、こら。喉に唇押しつけてくるな! くすぐったいだろ!」

「そっかあ、ヤキモチとかそういう次元なんてとっくに越えてるんだ! だからメイが好き!」

「意味わかんない」


 蕩けた顔でひっついてくるルルコをそのままにして、スマホを手にした。

 すぐに既読がついて返信がくる。


『楽しみにしてる。今度は何が起きても絶対に会おう』


 何が起きても絶対に、とか。

 先輩……フラグにしか感じません。


「やっぱり不安」

「だいじょうぶだって、メイ。なんとかなるよ」


 腰の上にお尻をのせて身体を起こしたルルコの言葉にどう答えようか悩む。


「なんでそう思うの?」

「だって……メイはルルコの王子さまだから」


 おいおい。


「先輩を落とす前にアンタが落ちてるんだが。彼氏を差し置いていいのか、それは」

「だいじょうぶなの!」

「ちっともそう思えないんだけど」

「じゃあ……これはあんまり言いたくないけど、次のデートで確かめてきてよ」

「なにを?」


 ちらっと見ると、ドヤ感たっぷりの顔でルルコはこちらを見つめていた。


「ルルコは思うわけ。きっと……先輩のお姫さまはメイだって」

「はあ?」

「だってほら。いろんなことがあったけど……失われたはずの心を刀にして、メイのところに戻ってきたんだよ? メイの王子さまはぜったい、先輩なんだよ!」

「……ルルコ」

「メイはとっくに先輩の心を掴んでいるの。だからだいじょうぶなの!」


 妙に確信に満ちた言い方だったから、私は納得しちゃった。


「じゃあ……何が起きても会わなきゃね」


 寝るよ、と伝えて照明の電源をリモコンで切る。

 ひっついて一緒に寝る気まんまんのルルコと二人で天井を見上げる。


「……ところでさ。ルルコの王子さまポジション奪っちゃったら、彼氏はだいじょうぶなの?」

「ルルコはわがままだから、メイと羽村くんの二人がいいのです」

「……いい性格してるよ、ほんと」


 笑っちゃったよ、もう。

 でもそうか。わがままだから、望むものを素直に言うのか。

 ちょっといいな。

 私もわがままになってみよう。

 先輩――……早く会いたいです。真中メイのわがままを、叶えてくれますか?


 ◆


 都内、喫茶店までのアクセスは徒歩十分。

 マンションの部屋は閑散としていた。物を置く習慣があまりない。暁カイトには、部屋を飾り立てる才能はないようだ。もしくは永眠を決め込んでいるのか。どちらでもいいな。

 バイト先のマスターこと緋迎ソウイチが知り合いに頼んで借りてくれたせっかくの好物件も、自分が住まい主となると残念物件に早変わりだ。

 正直、マスターには見せられない光景である。

 いつもなら床に投げっぱなしの毛布をかぶって寝ていい時間帯。

 だけど気が進まない。

 スマホ画面は真中メイから届いたメッセージを表示し続けている。

 楽しみだ。素直に、心からそう思う。

 だけど不安がないわけじゃない。その不安は、たとえば三年生の頃に推薦での入学が決まったにも関わらず邪への無謀な干渉が祟って倒れたせいで手続きしておらず、実質的にはまだ通ってないこととか。それを周囲にも彼女にもまともに伝えられていないこととか。

 あの頃、自分を突き動かしていた相棒を失ったせいで、自分の刀の声をずっと聞けなくなっていることに起因しているのかもしれない。

 とはいえ答えはわからないのだが。

 邪。それは世界にはびこる悪意の形。欲望が生み出した、宿主を食い殺す病の結晶体。

 刀は邪を打ち倒す力だ。侍の願いに応じた付喪神が刀として顕現し、侍に力を貸してくれる。

 けれど、欲望と願いは紙一重。

 候補生でいた頃は無邪気に信じていた。侍が善であり、邪こそが字が表すように邪悪なのだと。

 だが、実際はどうだ?

 植物人間状態だった頃に見た、隔離世の向こう側――……霊界。人や獣、その魂。ありとあらゆる霊子の住まう世界では、善悪など関係なかった。

 地の獄へ至れば生前の罪を償う亡者がいたし、天界へ至れば極楽浄土が待ち受けている。どちらへ行くのか、あちらでは厳密なルールがあるようだが、現世の肉体が生きていた俺はどっちつかずでわからないままだった。

 それに……あちらの世界に、自分の刀の御霊はいなかった。

 それは一体、何を指し示すのか。

 バイト先の喫茶店のマスターであり、侍の象徴たる緋迎ソウイチにさえ言えずにいる。

 メイにだって言えない。


「……もしかしたら、御霊っていうのは。いや、考えすぎだな。素直に俺の御霊がどこかに眠っていると考えるべきか」


 頭を振る。そして壁に掛けてあるコートを纏い、ゴーグルをつけた。

 メイによって現世に引き戻してもらってから、身についた力がある。


「開け、隔離世への門」


 右手を前方にかざした。

 その瞬間、現世がひび割れる。そこから向こう側が見えるのだ。隔離世という、向こう側が。

 現世に重なり、けれど才能をもっている者のみが御珠の波動を受けてのみ行ける別世界。

 少なくとも日本では御珠を介してのみ異世界へと行くための力が、霊界から舞い戻って身についていた。

 足を進める。

 部屋の窓を開いて、ベランダから外を見渡した。

 青澄春灯という少女がテレビに出るようになってから、邪に変化が起きている。

 数が日に日に増えていく一方なのだ。

 それに邪は妖怪変化の形を取ることが異常に多い京都のように、それまではずっと不定形の歪な形をした東京の邪たちの姿が一定の姿を取るようになってきた。

 龍種はいない。よほど歪な欲望でない限り、龍種は生まれない。

 けれど脅威は確かに形になっている。

 地面へと飛び降りた。現世では自殺行為だが、隔離世でなら問題はない。この身体はもう、それほど柔ではないのだから。

 着地して周囲を見渡す。刀を帯びた首なしの侍たちが大勢うろついていた。

 まるで何かに引き寄せられるように、そこかしこを歩く現世の人の霊子から吐き出されて、侍が生まれる。けれどそれは生者としてではない。亡者としてだ。


「まったく……徳川憎しとか言ってくれたらいいんだが」


 あいにく彼らは首がない。

 なのにこちらの登場にすぐに気づいて、刀を構える。周囲を歩く現世の人の霊体には見向きもしない。ただ……俺の敵意に反応しているだけ。

 そのまま漂うだけなら放置してもいいのだろうが、そうはいかない。邪は放置すればするほど、強大になり、いずれは宿主を食い殺す。食い殺された宿主は理性を失い、現世で周囲に害を与える。

 だから、放置はできないんだ。

 治安維持のため、警察に所属した侍たちが定期的に狩りを行っている。

 しかしどうやら今日は、このへんの駆除がまだのようだ。最近の増殖ペースを考えると、手が足りないのかもしれない。

 知らない振りをできるほど、士道誠心で過ごした三年は安いものじゃないんだ。


「さあ、こい……――」


 胸に手を置いた。

 あの日失った刀は今だ戻らず。けれどメイがくれた刀が胸に確かに宿っている。

 その心の形を忘れるはずがない。


「どうやら……今夜も少し、長くなりそうだ」


 引き抜いた刀を手に構える。

 いつか刀一本だけで戦っていた亡者を打ち倒しながら、思った。

 メイ。不安だよ。

 戻ってきてから戦ってばかりいるんだ。それも……倒れる前なら絶対に敵わなかっただろう敵を、今では容易に討ち滅ぼしている。

 こんな日常にいる俺に気持ちを注いでくれる君に、迷惑をかけるような気がして。

 不安でたまらないんだ。




 つづく。

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