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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三章 九組の抜刀、高校の生活

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第二十六話

 



 埃っぽくなっちゃった服を叩きながら、みんなに一言「保健室寄ってくね」と伝えて保健室へ。

 一応、念のため。

 身体も妙にくたくただし。何かあったら事だし。


『妾の腕を信じぬと申すか』

『信じる信じないの話ではない。大事を取るのが身体の主の務め』


 十兵衛の言う通りかな。

 扉を開けると、白衣のニナ先生がおじいさん先生と話し合っていた。


「――すぎます。あら?」

「おや、生徒さんか。どうかしたかね」


 二人とも話を中断して私に顔を向けてくるけど、いいのかな。

 迷っていたら、ニナ先生が私の腕を見てすぐに歩み寄ってきた。


「ちょっと……見せて。ほら、座って」


 あれよあれよと椅子に座らせられる。

 おじいさん先生と二人で私の腕をチェックしてから、


「ブラウス、脱げる?」

「ワシがいるのが嫌なら出て行くぞ」

「あ、その」


 一瞬なやんだら、


「私が代わりに」

「では報告は代わりにしておこう」


 机の上の分厚い書類を手に、おじいさん先生は行っちゃった。

 代わりにニナ先生がデスク前の椅子に腰掛けて、私のブラウスのボタンを外す。

 脱がされてみて、改めてびっくり。

 身体中の縄のような痕は首まで到達していた。


「ユリアか……大蛇でここまでの事が出来るとなると、時間の猶予はなさそうね。ふう」


 眉間を指でほぐしてから、私の素肌に触れて縄の痕を確かめていく。

 と思ったら、そっと押された。


「あぅっ」


 圧迫された箇所がずきりと痛む。


「内出血と……筋を痛めてもいそうね。一度冷やした方がいいわ、少し待ってて」


 立ち上がると棚からタオルを取り出して、水道の水に浸した。

 ぎゅっと絞ってから椅子に戻って、私の素肌に当ててくる。

 冷たくて……気持ちいい。


「どう?」

「いい感じです」

「しばらく患部を冷やしていくといいわね」


 ども、と短く答えた。端っこのベッドをあけてもらったので、そこに移動して患部を冷やして……ぬるくなったらタオルを濡らして、を繰り返す。

 やればやるだけ身体が少し楽になっていく感じがして、だから繰り返していたら、


「ちょっと席を外します。また戻ってくるから、それまで身体を労っているようにね?」

「はーい」


 ニナ先生がどこかへ行っちゃった。

 まあタオルで冷やすくらいだもんね。

 っていうかぬるくなってきちゃったから、もっかい冷やさないと。

 どうせ誰もいないし――

 そんな油断はよくなかったよね。


「おーい、ハル。荷物持ってきたぞー」

「ふぉあ!?」


 上半身下着一枚でふり返ったら、みんながなんともいえない顔で私を見ていました。


青澄(あおすみ)……服着ろよ」

「……はい。って、そうじゃなくて! これは治療のためなんです!」


 そこまで言ったらやっとそっぽを向いて下さいました。

 ……悲しみ。


 ◆


 シロくんがタオルを濡らしてくれるから、私はカーテンの内側で縄の痕に冷たいタオルを当てるだけで済んだ。

 見ないように気をつけてくれるのがシロくんだから、安心して任せちゃう。

 保健室の中は一気に賑やか。

 みんな自分や仲間の刀の話題で持ちきりなの。


「ほ、ほら……次のタオル」

「ありがと」


 カーテンが薄く開いてタオルを差し出された。

 ありがたく受け取って、ベッドの上に乗っかって足に当てる。

 スカートを捲ってパンツをくいっと引っ張って中を見ると、足の付け根や下腹部まで被害にあってた。

 本当に容赦ないよなあ。


『それだけ、あの蛇女が妾たちを脅威と感じておったのじゃろう』

『どうだか』

『そうでなければ困る! だって許せんじゃろう!』


 鼻息も荒く訴えるタマちゃんに同意。

 許せない、というより……理由が気になるかな。

 カゲくんの言葉が本当なら、ラビ先輩も含めて何か大きな悩みを抱えているはず。


 手段は攻撃だったけど、その意図が悩みからくるものなら……力になりたい、なんて。


『人がよすぎじゃ』

『……嫌いではないが』


 二人は乗り気じゃないの?


『ふん……みな、悩みを抱えて生きているものじゃ。甘え方も知らん小娘に手を差し伸べる余裕が妾たちにあるとは思えんのう』


 タマちゃんは嫌そう。


『それをなすにはまだまだお主は力不足だからこのままだと痛い目を見るぞ、と女狐は心配しておるのだ』

『なっ!? ち、ちげーし、そんなんじゃねーし!』


 ……訂正。素直じゃないだけなのね。


「な、なあ……青澄さん」

「え」


 顔を向けたら、カーテンの隙間からシロくんがこっちを見ていた。

 思わず自分を見下ろす。

 スカートを捲り上げてパンツを引っ張って……


「ひい! ちょ、シロくん見過ぎだよ!」

「ち、ちが!? 僕はべ、別にそんなっ」


 あわてて布団をかぶってから、頭だけ出してシロくんを見る。

 顔を真っ赤にして俯いている。


「な、なに?」

「す、すまない、その……一つ聞きたいことがあって」


 あらぬ方向を見ながらシロくんがほっぺたを指で引っ掻いた。


「君の刀の一本が十兵衛なら、稽古を……つけてもらえないだろうか」

「え」

「あ、それ俺も思ってた!」


 カゲくんまでもが、カーテンを広げて覗き込んできた。

 ひえええ……。出るに出られないんですけど!


「青澄さんが嫌じゃなければ頼めるかな?」

「う、ええ」


 そりゃあみんなで稽古をつけて強くなれればそれが一番なんだろうけど。

 それってつまり、みんなに刀を向けられる立場になるってことで。


 ……青春ってなんだろう。

 刀を向けられることなのかな? なにそれ、哲学?

 だいたい、十兵衛がその気にならなかったらしょうがないし。


「構わん。鍛錬にもなるからな」

『ちょおお! 十兵衛、勝手に言わないで!』

「ふ……久々だな」


 ちょっと! やる気になるのはいいけど、勝手に喋らない!

 っていうか待って!? 腕組みし始めたよ!?

 そんなことしたら――ほらあ。布団がはだけちゃったよ……。


「あ、お、おれ、先に帰る! おまえら、いくぞ!」

「なんだよ八葉、急にどうした」「なんかあったのか、顔赤いぞ」「もしや青澄が――」

「いいから!」


 カゲくんが慌てて顔を背けて出て行った。


「どうしたんだ、あいつ……それよりも、ありがとう」


 いい顔してお礼を言ってくるけど、シロくんは見過ぎだからね。

 はあ……とほほ。


『さっき逃げたのも、ういやつじゃのう。女体がそんなに珍しいか? ん? ん? 攻めがいがありそうじゃの! この男に決めようかのう!』


 タマちゃんもやる気にならなくてよろしい。


 ◆


 シロくんも追い返して、一通り身体についた痕に冷たいタオルを当て終わった頃になってニナ先生が戻ってきた。


「ごめんなさい、ちょっと連絡事項があって遅くなっちゃいました」


 カーテンをあけて私を見るなり、ニナ先生は目をまん丸く見開いて首を傾げる。


「どうしたの、青澄さん。なんだか目がやさぐれてるけど」

「いえ、その。私の身体は結構安いんだなあって……思いまして」

『価値をつけるためにも今夜は帰ってストレッチじゃな』

『腐っても女体、何人かは夢にみるんじゃないか?』


 十兵衛のフォローは微妙だし!

 タマちゃんはもっと優しくしてくだちい!


「失礼するわね」


 ニナ先生に患部の具合を確かめられた。

 自分で気づかないくらい火照っていたのかもしれない痕は、触れられても少しの痛みしかない。

 最初に圧迫された時よりもだいぶマシだ。

 それはニナ先生にも伝わったみたい。


「これなら……そうね。ぬるめのお風呂でじっくり身体を温めて」


 あとは、と薬だなから円い筒を出して渡してくれた。


「軟膏。塗ってあげるから、まずは背中を向けて?」

「はあい」


 ぺたぺた塗られる感触はとってもくすぐったくて落ち着かない。


『感度は良好、と』


 タマちゃんやめて。


「ねえ、ニナ先生」

「なに?」

「……刀を手にしたら、こんなことまで出来ちゃうんですか? ユリア先輩の力って、なんだかすごいように思えて」

「あの子は……あなたの玉藻のように、特別な方ね」


 とくべつ、かあ。


「刀を手にした生徒は選別され、学外へ邪なる御霊を討伐しにいくんだけれど。あの子は刀を抜かずに成果を上げ続けた。手にした力が強すぎるせいね」

「八岐大蛇……です?」

「ええ、そう。ラビくんがいるし……私が学生の頃とは違って、学院も警戒しているから対策もいくつか用意してる。だから滅多なことは起きないだろうけど」


 ちょっとごめんね、と鎖骨に出来た痕まで軟膏を塗っていく。

 じ、自分でやるっていえばよかった……。

 ニナ先生が遠慮ないからつい任せちゃったよ。主体性大事ですね。

 何を反省しているのか。言えばいいじゃない。


「あ、あとはやります」

「じゃあこれ」


 軟膏を渡されたのでブラで隠れた胸の部分とか、お腹周りや下腹部、足の付け根から太もも、足首にかけて丁寧に塗っていく。つんと香る薬の匂いはなんともいえない……。

 何か気を紛らわせる話題、話題……あっ。


「滅多なことってなんですか?」

「それはね」


 塗り終わったから筒を返したら、ニナ先生は棚にしまいながら困った顔で呟いた。


「刀の霊が暴れ、宿主を乗っ取り……災害をまき散らす」

『……くふ』


 なぜかタマちゃんが笑って、不安に駆られた私の頭をニナ先生が撫でた。


「大丈夫。滅多に起きないから」


 それにしても、とニナ先生は私の頭頂部から生えた二つの獣耳を撫でて呟いた。


「耳まで生えてきちゃったわね。尻尾が増えたら必ず教えてね?」

「な、なんでですか? 愛でる気ですか?」

「おかしなこというのね。そうじゃなくて」


 笑いながら否定されました。すみません……。


「繰り返し言うけれど、あなたの手にした二本の内一本もユリアさんに負けず劣らず要注意の刀なのよ?」

『そうじゃぞー? もっと妾を大事にせよ!』


 タマちゃんのどや感すごし。

 とてもニナ先生の言う要注意感はないんですけど。


『失礼なヤツじゃのう。これは夜、やらねばなるまい』


 何する気かしらないけどやめてほしいです。

 薬を塗りおえたので服を着て、ニナ先生にお礼を言って……カゲくんたちが持ってきてくれたカバンを手に帰る。

 その時には大して考えていなかったの。

 先輩達をのめした結果が、私に一体なにをもたらすのか……まったく。

 考えていなかったの。




 つづく。

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