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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第二十章 願う心覗いて、文化祭

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第二百五十五話

 



 なんとかライオン先生に頼み込んでもらった外出許可を使ってファミレスへ。

 高校が分かれちゃったから、みんなでわいわい近況報告。その間も女子のみんなに代わる代わる尻尾を弄られました。

 そのあとはカラオケに移動したの。

 質問! みんなと曲の好みが合わないときのカラオケってどうしたらいいの……!

 みんな「歌わないの?」って顔して待つのやめてほしい。テレビに出てたし歌えよ、と言われるとさ。それ私きっかけじゃない! と言いたくても言いにくいよね。一応テレビに出たのは事実だし。

 開き直って曲をばんばん入れて歌いまくって、ひと息ついた。

 中学の頃からじゃ考えられない状況だ。みんなとこんな調子で遊べるの初めて。すごく楽しい。ぜひキラリと分かち合おうと思ったのですが、いないの。飲み物でも取りに行ったのかも。

 私も飲み物の補充もしたいけど、それ以上にね。


「トイレいってくる!」


 そう言っていそいそと廊下に出た。

 悩んでいる間にがぶがぶ飲んだからいい加減限界でしたよ!


『女子力とは』


 わ、わかってるってば。タマちゃん。

 でもトイレはトイレだよ! なんだそれ、意味不明だね。獣耳の先まで興奮してぽかぽかする。今が楽しすぎて、文化祭がはじまって本当に頭がお祭り騒ぎだった。

 って、いけないいけない。トイレに行かなきゃ。

 カラオケは狐耳にはすっごく賑やかすぎるのでずっとぺたんと倒しているんだけど、それでもあちこちから歌声が聞こえてくる。

 それに混じって、


「――ん。うん。先輩も行ってくださいよ? 約束ですから」


 キラリの声が聞こえた。

 きょろきょろと見渡すと、フロントロビーの椅子に腰掛けてキラリがスマホで誰かと話している。なんだろう。思わず狐耳を立てる。


「明日必ず行く? 本当かなあ」

『疑うね。でも俺からはそうとしか言えない』

「ふうん……これは明日も行かなきゃだめみたいですね」

『自分が行きたいだけじゃない? その様子ならうまくいったんだ……おめでとう』

「どうもです……あ! あと先輩、いいですか? 今日行かなかったんならミッションもう一つ追加です。絶対、後輩の女の子に会って彼女いないって伝えてくださいよ?」

『なんでまた。卒業した俺が……余計なちょっかい出せないよ』

「そんなこと絶対ないですって! なんなら電話終わった後、すぐメールしてみてくださいよ」

『……気が進まないな。もう大学生と高校生で、幼なじみの嘘切っ掛けで離れて久しいんだ』

「それ、そこですよ。脈がなければスルーでしょうし、反応あればきっと先輩に悪いようにはなりませんて! だいたい……嘘のままでお別れなんて悲しいじゃないですか」


 ずっとなんの話かわからなかったけど。最後の一言にはどきっとした。


『ほんとに今日……いいことがあったんだな。わかった。じゃあ頑張ってみる』

「そうしてください……じゃあ、また明日」

『おやすみ』


 不思議。キラリ、すごくリラックスして話していた。

 私や他のクラスメイトに対してよりよっぽど素直に見える。離れるべきなんだろうけど離れがたくてうろうろしていたら、通話を終えたキラリが私に気づいて手招きしたの。

 素直に近づく私ですよ。


「電話……彼氏さん? なんだかキラリ、すごく楽しそうだった」

「違う違う、バイト先の先輩。士道誠心の卒業生で、入院してた人。めっちゃいい人だから、なんか放っておけなくて」

「へえ……放っておけないって、何かあるの?」

「入院先に通ってくれた後輩がいたんだって。その後輩には彼氏がいたらしいの。なのに先輩の看病に通うわ後輩の彼氏に申し訳ないからって幼なじみさんが付き合ってるって嘘までついて遠ざけたんだって」


 どこかで聞いたことがあるような、ないような。


「い、入り組んでるね」

「何がまずいって、先輩の幼なじみは先輩の親友とできてたっていうからね」

「お、おう……ど、どろどろだね」

「まあね。先輩は入院中、回復が絶望的な植物人間状態だったっていうから、しょうがないのかもね。自分でも、好きな人がそんなんなって、凄く仲いい男子にアプローチされたら悩むわ」


 さらっと言えちゃうキラリが足を組む。

 結構タイトなワンピースで裾が短いからかな。ブーツを履いた足がすごく綺麗。羨ましい。

 それにしてもさばさばしてるなあ。


「……キラリなら、好きな人を諦めて仲いい男子にいく?」

「さあね。現実的に幸せになりたいなら、いくかも。だって意識が戻るかどうか絶望的だったっていうんだから。まああんまり罪悪感ひどいなら、別で男探すくらいだな」

「おう……たくましい」

「いや。本当にたくましいなら待つでしょ。結局……死が二人を分かつまでを実践できる恋愛をできるかどうかの差だよ」

「じゃあ……寝たきりになった人を捨てるっていうのは、恋愛じゃなかったの?」

「恋に恋してただけ。現実を抱えきれなくなって逃げただけ。逃げたくない相手と恋したいよ」


 いい恋愛したいなあ、とソファに身体を預ける。

 ロビーにいる男性客がちらちら私たちを見てきた。

 私はまあ、狐耳と尻尾で目立つのでわかるけど。

 キラリは本当に見た目が抜群にいいもんなあ。ルルコ先輩とユリア先輩クラスだ。

 ルルコ先輩は元々地がいいのにさらに飽くなき努力を続けて輝いている。そこへいくと素のままでいるユリア先輩にキラリは近いのかもしれない。

 キラリがルルコ先輩に会ったら、すごいことになりそうだ。第二の南ルルコが誕生するかもしれない。ど、どきどきするなあ。


「春灯は彼氏いんの?」

「ぶえ!? う、うん。写真あるよ?」

「なにその返事。まあいいや、見せて」


 くっついてくるキラリにいそいそとスマホを出して写真を見せる。

 実はちまちま隙を見てカナタの写真を撮っています。私オススメの写真は、おそばを打ってるところです。

 粉まみれになって真剣な表情をしているギャップがとにかく面白くて。実際、


「イケメンだけど変だね」


 キラリが吹き出すように笑って感想をくれた。

 どやああ!


「そば打つ時と、私の尻尾の手入れをする時がいちばん真面目な顔になるよ」

「なにそれ」

「可愛いポイント?」

「わかんないから。付き合って何年?」

「士道誠心に入って会ったから、五月からかなあ。一つ上の先輩なの」

「まあ年上だよね。やっぱ年上だよ」


 な、なんだろう。何かあったのかな?


「同級生の男はだめだ。ハグしたら腰を押しつけてくるわ、隙を見たらえろいことしようとするわ」

「おお……」


 私より経験値豊富なのでは!


「身体目当てじゃない、もっと……まともな人いないもんか」

「キラリなら――……」


 楽勝だよって言おうと思ったけど。

 なまじ見た目がいいと身体目当ての男の人の視線をやまほど感じてそうです。

 今だって組まれた足の付け根を見ようとしている男の人がちらほらいるよ。

 ぎゃ、逆に考えてみよう。


「変な目で見ない人を選べばいいんじゃない?」

「じゃあ……今のところ望み薄かな。マスターと先輩以外にいない」

「おう……」

「でも春灯と同じ学校に入れたら、少しは変わるかもね。刀があって、毎月たいへんそうで。充実してる男子なら、もっとニュートラルに付き合えるのかも」


 膝小僧を両手で掴んでキラリが夢見がちに言う。


「今の学校でも頑張ろうとすればできるんだろうけど、でも手にしてみたい。自分だけの力」

「キラリならできるよ」

「ありがと。気休めでも嬉しい……侍か、刀鍛冶か。そもそも隔離世に関われるのか」


 ぽんぽんと単語がでてくるくらい、きちんと士道誠心とかについて調べてるんだなあって思っちゃった。

 それが私はなんだか嬉しくてたまらないのだ。


「キラリならいけると思う」

「春灯の太鼓判なら嬉しいけど、具体的な根拠が聞きたい」

「具体的、ぐたいてき……んと。士道誠心に夢を見ているんでしょ?」

「そりゃあね。先輩が卒業生で、アンタがいる。それだけで夢を見るのに十分」

「じゃあ大丈夫だよ」


 夢があって。ちゃんと、人に向ける愛もある。

 だから十分だと思う。簡単なようで難しいその二つが資質だと私は確信してる。

 考えるのはね。キラリが侍と刀鍛冶のどちらになるのか。

 天使キラリに見合う素質はなんだろうか。わからない。もっともっと知りたいな。早く一緒に通えたらいいのに。


「ありがと。じゃあそろそろ部屋に戻ろうか! 主役があんまり外にいたらね」

「ん……あ、まって! トイレに行くために出たんだった! 思い出したら急に……おおう!」


 立ち上がって思い出したよね。


「早く行ってきたら?」


 呆れた顔して言われちゃいました。しょんぼりです。


 ◆


 みんなと笑顔でまたねの約束をして、寮に帰宅。

 お部屋に戻ってきたらね。


「お前な」


 カナタが超絶渋い顔で私の尻尾を睨みました。

 ああ……恐れていた事態がとうとうやってきてしまいました。


「随分とやりがいのある乱れ具合だな」

「こ、こここ、これは、色々ありましてん」

「まあ……今年は例年に比べて二倍近くも来場者が来ているからな。目立つマスコット係になったんだ、しょうがないか」


 はあ、とため息を吐いてから、カナタは笑うの。


「尻尾を洗う元気は残ってるか?」

「いつでも」


 どや顔をする私にカナタはお風呂に入っておいでと言うのです。

 なんだかこのやりとりちょっと、どきどきするよ。

 荷物をまとめて大浴場へ。自販機コーナー前にメイ先輩がいて挨拶をしようとしたんだけど、スマホとにらめっこをしていたからそっとしておこう。

 お風呂が空いていたからたっぷり羽を伸ばして、しっかり尻尾を洗って脱衣所でドライ作業へ。

 いそいそと九本もある尻尾を乾かして、ふうっとため息を吐いた。なかなか大変なんですよ。

 どれだけの回数を重ねても効率化ができない……。

 すっかりくたびれた思いで脱衣所を出てびっくりした。

 まだいるの。メイ先輩がスマホとにらめっこしたまま固まっていた。


「め、メイ先輩?」

「ふぁ!? おわ、っとっとっと!」


 呼びかけたら飛び上がるように驚いて、スマホでお手玉をする。

 珍しいにも程がある。メイ先輩がこんなになっちゃうなんて、一体なにがあったのか。


「ど、どうかしたんですか?」

「べ、べべべべべ、べつに!?」

「……えっと」


 どうしよう。ここまであからさまに「何かありましたけど」って反応されると気になっちゃう。


「……お力になれます?」


 少し悩んでから尋ねると、メイ先輩が項垂れた。

 ちょっと話を聞いてくれる? という言葉に私は直感しました。

 きっとちょっとじゃ済まないぞ、と。


 ◆


 話を聞いて納得。


「空前絶後、超絶怒濤のモテフラグですね」


 私の感想にメイ先輩が項垂れる。

 ツバキちゃんのお兄ちゃんこと綺羅先輩と今日はデートした。文化祭の持ち回りやお助け部の活動以外の時間帯で遊んだ。それは普通に楽しかった。「二人きりにするとは言ってない」と主張する伊福部ユウヤ先輩が途中からちゃっかりついてきて、二人の恋のさや当てを体感しながらだったけど。まあ、よし。

 先日は突然キスまでしてきた伊福部先輩と二人きりなんて緊張しすぎて耐えられそうになかったから、それはいい。

 そこまで話したメイ先輩はいつもの顔だった。

 問題は、メイ先輩がずっと片思いしていた先輩からメールが来たことらしい。

 文面はこうだ。


『明日、文化祭なんだよね? 久々に会いに行こうと思う。メイと会えたらって思うんだけど、予定はどうかな? ……彼氏がいたら、断ってくれていいから』


 最後の一文!


「ハルちゃん、どうしよう。これって暗に誘われてるよね?」

「暗に誘われてますよ。間違いないですよ。その気がなかったら彼氏どうのこうの書いて牽制してきませんもん」

「だよねえ……」


 そう言いながらも満更でもない顔をしてる。すごくすごく緩んだ顔をしてる。

 まだ好きなんだってわかっちゃう顔だった。それか、消えていたはずの気持ちがメールという燃料を注がれて再燃したみたいな、そんな顔。

 もうきっと、メイ先輩の心は傾いているんだってわかっちゃう顔だった。

 でも、まさにただいま綺羅先輩もイケメン先輩こと伊福部先輩も二人してメイ先輩にアプローチしているわけで。


「どうするんです?」

「……こんな状況、不慣れすぎてやばい。ハルちゃんならどうする?」

「なんとも……言いにくいですけど」


 思わず二人で顔を見合わせちゃった。


「「 ……はあ 」」


 情けなくも同時にため息吐いちゃいました。

 思い出すのは一年生の初めの頃のことだ。学内トーナメント。狛火野くんと戦い、ギンと本気でぶつかりあって……カナタと私の気持ちを確かめた、あの頃のこと。

 もし人生で誰かに思いを向けてもらえるタイミングがきたとするのなら。


「好きな人がいるならその人を選ぶしかないのでは」

「……だよねえ」

「すぐに出せる答えじゃないなら待ってくれもありだと思いますよ?」

「保留にはしたくないな。性分じゃない」

「じゃあ……したいようにするのが一番ですよ。いつものメイ先輩なら」


 顔を見た。今日、誰の話をした時に一番輝いていたのかわかる顔を見つめながら言うの。


「もう、答えは出てる頃じゃないですか?」

「……ひどすぎない? 元サヤみたいで」


 ほら。やっぱり答えは出てる。


「いいじゃないですか。誰がなんと言おうが、自分を幸せにするのはまず自分の役目なんですし。メイ先輩が望むなら、それが答えなんです」

「……そうかな」

「そうですよ。さくっと返事しちゃいましょう。明日まで悩んでいたら、舞台でルルコ先輩が怒っちゃいますよ」

「ルルコとキスする時は別の男のこと考えないで! とか?」

「ですです」

「確かに」


 笑える、と微笑んで立ち上がるメイ先輩はもう、すっきりした顔してた。


「楽しみにしてるって先輩に返事する。ありがとね、ハルちゃん」

「メイ先輩のこと大好きだから、いつでもどうぞ! ですよ!」


 こいつめ、と髪の毛をくしゃくしゃにされました。気持ちよかったよ。

 部屋に戻った私に遅いと文句も言わず、私の話を楽しく聞いてくれるカナタを見ながら思う。

 選ぶしかない。人生は選択の連続だ。

 選んだ瞬間、幸せになるわけじゃない。

 だけど選んだ責任に報いるためにがんばることはできる。

 メイ先輩も、キラリも。

 カナタと私も……。

 幸せに向かうために選び続ける。取りこぼした幸せを時に振り返りはするだろうけど。

 今ある幸せを大事にするしかない。

 それだけで十分、人生は豊かになると私は信じてるの。


 ◆


 スマホを置いて、真中メイの部屋にあるベッドに倒れ込む。

 隣を見た。どや顔のルルコがいる。


「……なんでいるの」

「明日のために今夜を特別にしようと思って」


 メイ~と甘えた声で抱きついてくるルルコを受け止める。

 こんなのは日常茶飯事。別に騒ぐほどのことじゃない。

 ただ少し頭の片隅で考えた。もし卒業したら、合い鍵を渡す相手は考えた方がいいって。


「いやなこと考えてる」

「卒業したら彼氏とルルコくらいにしか合い鍵渡さないようにしようって心に決めてた」

「ふうん」


 くっつきあって、腕に抱きついてくるルルコはほとんど自分の身体の半身みたいなもの。

 手放せる類いのものじゃない。これまでも……これからも。


「先輩からメール来た」

「……じゃあ付き合うの?」

「さあ。幼なじみさんが彼女のはずだけど」

「でも。もし、先輩が本気だったら?」

「本気だったら……わかんないかな」


 笑うとルルコはすぐに私の腕を離して、腰の上に馬乗りになってくる。

 地味に重たい。体重を預けすぎだ。


「ルルコ?」

「……ずうっと思ってた。ラビくんと付き合っている頃も先輩の病室に通っちゃってさ。メイの中に特別保存されてるんだろうって」

「あー……」


 ラビのことをひどいとどこかで思っていた気持ちをこらしめる、痛烈なカウンターだった。


「そうかも」

「そりゃあラビくんも思わずコナちゃんに逃げちゃうね」

「言えてる……」

「メーイっ」


 笑いながらルルコが顔を近づけてきた。


「綺羅くんもユウヤも頑張ったのに……先輩なの?」

「最低かな」

「いいんじゃない? 離れてもうまくいかないなら、どこまでも深く寄り添うのも手だよ」


 囁くルルコの冷気が伝わってくる。

 じんわりと。だんだん肌寒くなってきた十月に染みる刺激だった。


「それで? ルルコの選択は……起業したりこうやって私の部屋にくることなの?」

「ん。そういうこと……わかってるね、ルルコのこと」

「まあね」

「大好き」

「はいはい」

「すきだぞーっ」


 ぎゅっと抱き締められる。


「わかったわかった。それよりルルコの方こそ、彼氏とはどうなの?」

「いいよー。いい感じ。今日は一緒に遊び回っちゃった」

「今日ぶらついたのに、まるでルルコと会わなかったけど?」

「メイだけには彼氏といるところ見せたくないから、会わないルートを選んだの」

「なんでよ」

「メイが見当外れのヤキモチ焼いちゃうから」

「なにそれ」

「だってメイにしか見せない顔とは別の、羽村くん用の顔してるから。どっちも特別だけど違うの」

「……それはさぞ可愛いんでしょうね」

「ばれた? でもメイのが一番ルルコらしいかも」

「あはは……がんばれ彼氏」


 思わず笑っちゃった。


「そろそろどいて。ルルコ重たい」

「ひどい」


 文句を言いながらもルルコが隣に寝転ぶ。


「独り寝が寂しいなら彼氏の部屋に行けばいいのに」

「まだ一緒に寝られるほど落ち着いていないから、や」

「ああそうですか」


 じゃあ私だと落ち着くのか。


「ここは別にルルコの実家じゃないんだけど」

「メイもママじゃない」

「……まあね」


 不思議だな。本当に……不思議。

 友達より近い。親友よりずっと。

 だけど恋人じゃない。なのにそれよりよっぽど深い空気感の中にいる。


「私たちってなんなのかな」

「名前なんてつけられないよ。もう……魂が半分ずつになってくっついている。だからわかるの」


 横を見ると、ルルコが私を見つめていた。


「今日、楽しかったでしょ?」

「うん」

「明日はもっと、素敵な一日になるよ」


 おやすみ、と囁いて目を閉じるルルコに答えて深呼吸をした。

 明日、先輩が来る。綺羅が叩いて、ユウヤが揺さぶって。先輩が中からこじ開ける。

 私の心の奥底から溢れてきた気持ちの軸はどこにあるのだろう。

 きっと明日、はっきりわかる。

 忘れられない日になる。

 高校生、最後の文化祭二日目はもう、すぐそこにやってきている。




 つづく。

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