第二十四話
小山の神社の前にいるみんなは青ざめていた。
そんなみんなを取り囲むのは、私が斬った先輩たち(ぴんぴんしてる)。
みんなを睨むのはライオン先生(本気モード?)(と見せかけて30%くらい?)。
「みんな!」
「ハル、くんな!」「危ない! 来ちゃいけない!」
呼びかけに真っ先に応えたのはカゲくんで、気遣ってくれるのはシロくんで。
だからなんとかしたいと思った。
私に出来る何かがあるのなら。
「青澄か。百人以上もの男を斬ったようだが、疲労しきったお前の身体では十兵衛もろくに動けまい」
『然り』
ライオン先生の指摘に対する十兵衛の冷静な声が、そのまま結論だった。
「二年生、男を見せろ」
「「「おう!」」」
先輩たちの何人かが一糸乱れぬ動きで私を取り囲む。
さっきよりも少ないけど、でも。
『窮地だ』
ユリア先輩に叩きのめされ、そもそも激戦の後で私の身体は限界間近。ううん、限界を超えているかもしれない。
「シロ、知恵を出せ!」「な!? ええ!? いきなり!?」
カゲくんの無茶ぶりにシロくんが苦しげに顔を歪ませる。
「――くっ! 青澄さん、しのげそうか!」
『うい男の頼みじゃ、妾に貸してみよ』
「やる!」
タマちゃんの確信に笑顔で頷いた。
なんで笑っているんだろう。ただ――……十兵衛もタマちゃんも、私に出来ない顔を作ってみせてくれる。なら、私も私らしくありたい。それが何かもわからないから、笑うのだ。
「カゲ、君が先生を!」
「なっ、おま、無茶ぶり――」
「一人の女性の心を掴むんだろう! 怯むな、立ち向かえ! どうせ斬られても終わりにはならない!」
「ちっ……でも、わかった!」
「僕らは先輩から一つでもいい! 刀を奪うぞ!」
「「「おう!」」」
みんなのやる気が増していく。
紛れもなく窮地なのに、カゲくんが煽り、シロくんが導いていく。
なら、やってやれないことはない!
「相談は終わりか? では、参る――!」
ライオン先生の突進は、もはやそれそのものが巨大な突きのようだった。
シロくんに背中を押されて、カゲくんが歯を食いしばって立ち向かう。
胸に突き刺さった途端、
「刀が欲しい!」
叫ぶ。
行く末が気になるのに、先輩達が躍りかかってくる。
振るわれる刀をタマちゃんが避けてくれる。
十兵衛の洗練された武人の動きとは違う、しなやかで繊細な舞いのような動き。
「ひとつ」
間近に踏み込んできた先輩の胸を押す。
「なんでもこなせる、強い力が!」
ライオン先生の刀の振るう音は、乱戦となったその場でもハッキリ聞こえるほど鋭く、深い。
カゲくんはきっと、何度も斬られている。
「ふたつ」
体当たりして私を地面に倒そうとする先輩の身体をむしろ引き寄せて、そっと離れる時に首裏に触れる。
「世界を滅ぼしたっていい! 彼女を救える力が俺は欲しい!」
一筋、二筋。
増えて、足して。
どんどん切り裂かれて、露わになっていく――カゲくんの願い。
「どんな代償だって払ってやる! 刀が見えるようになるなら! 彼女の苦しみがわかるのなら!」
「みっつ」
四つ、五つ。六つ越えて数えることをやめて。
お姉さんの触れる端から先輩たちが気絶していく。
けれど、お姉さんが操る身体はとうに限界を迎えていたのだから――
「あ――」
足が言うことを聞かずに、もつれ。
先輩達が一斉に私の身体を貫いた。
それもまた――……必定だった。
お姉さんのせいじゃない。
私の身体が未熟だから。
先輩達の身体の向こう側に見える。
カゲくんは心臓を一突きにされたまま、空へ掲げられていた。
みんな、先輩たちに斬られて一人、また一人倒れていく。
だって、そうだよ……一年も、こんな『日常』を過ごしてきたんだもん。
敵うわけがないよ。
先輩に蹴り飛ばされて神社に転がっていったシロくんが、悔しそうに拳を振り下ろした。
「足りないのか。これじゃ……これでも、足りないのか」
「……だ」
カゲくんが呟いた。
「え――」
「……やだ」
顔を上げて私を見る。
「ごめんな、そんな目にあわせて」
私だけに言ってない。みんなに言っている言葉。
「でも、俺はいやだ」
だから、だからこそ。
「ここで終わりなんて、許せない。なあ、そうだろ?」
両手を振り上げ、手にした力は。
「草薙!」
唯一無二の力に他ならなかった。
咄嗟に振り払い、かち上げたライオン先生の刀にカゲくんが手にした刀が振り下ろされる。
火花が散った。
それは紛れもなく、カゲくんが刀を手にした瞬間だった。
「なあ、シロ。そこで座っている場合か?」
「――……ああ」
歯を噛みしめ、笑い、気合いを入れて立ち上がる。
「もし君がドラマのような力がないとしても……僕は君に憧れ続ける。頼む――どうか!」
左手で触れる心からの願い、突き出し右手に掴むは。
「吉宗! 僕を導いてくれ!」
分厚く長い刀身だった。
「みんな、願い、掴め! 思考を根源へ! 素直な思いを叫ぶんだ!」
支離滅裂なのに、なんでだろう。
私たちの心は一つで、だからもう――……不可能なんてないに違いない。
つづく。




