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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十八章 九月で選ぶ未来の行方

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第二百十八話

 



 その日のお昼休みに私は一年生の中核メンバーと食堂の一角に集まっていた。


「評判はどう?」


 マドカの問い掛けに私は俯く。

 テーブルの上に集まったぷち春灯たちが一斉に葉っぱになった。


「先輩たちの意見は二分されてる。あの生意気な後輩はなにっていう人たちと、楽しいことが起きるなら大歓迎っていう人たちと」


 鬼ごっこをやった時にレオくんの指示でやった作戦を今回も展開したのだ。葉っぱを化かして分身を作り、多面的に行動する。

 現世でできるか自信なかったけど、結果はこの通り。いろんなところに隠れて先輩たちの雑談を聞いて情報収集してあるのだ。

 もちろん霊力を使ってくたびれちゃったから、いまはきつねうどんを食べて補給中です。

 ずるずる食べる私に構わず、レオくんが呟く。


「公約として今後の方針を明確に打ち出したのは彼女だけ。となれば悪くない状況かな」

「そうでしょうか」


 レオくんの楽観視に対してノンちゃんは慎重だ。


「三年生にしてみれば、選挙の結果がどうになるせよ受験や就職への壁はあります。にもかかわらずはちゃめちゃにしてやる宣言したのは厳しくないです? 何勝手なこといってんの、ってなりません?」

「そういう奴ぁほっときゃいいだろ」


 ギンは冷めているように見えたけど違った。


「並みじゃない学校にきたんだ。並みじゃない三年間を過ごせなきゃあ意味がねえ。刀を掴み、その刀を癒やせる力を手にしてるんだ。全員な。なら心に夢はあるはずだ」

「ふっ。そうさな……勝手に普通の学校と変わらない生活に戻られても困る。迷惑上等、巻き込んでしまおうじゃないか」


 タツくんが乗っかった。笑って拳を突きだすギンと、拳をぶつけて楽しそうです。

 対して浮かない顔をしているのはシロくんだ。


「いや、そうはいうが……将来がかかっているんだ。学校どころじゃないだろ」

「じゃあシロ、てめえは俺らがどころで済ませられるような学生生活してるってえのか!?」

「いや、そういう意味じゃない! そういう意味じゃ、ないけど……そう、なるのか」


 ギンの言葉にシロくんは思い悩んだ表情で俯いた。


「難しいことはわからない。三年生にしたって二年生にしたって、意見なんてあたしたちと一緒で人それぞれでしょ」


 さばさばしているトモはこういう時こそ頼もしい。


「選挙の投票結果に出るならさ。ハルはめいっぱい夢を語ればいいと思う」

「確かに……そうですね」


 トモの意見にノンちゃんも同意見のようです。


「半年でいろんなことがありました。残り半年だって、いろんなことをしたいです。ハルさんはそれをめいっぱい主張すればいいと思います」

「戦い方は明確になったね。ポスター作ったり応援していくよ。ハルの企み、面白いもん!」


 マドカの笑顔に狛火野くんが首を傾げる。


「青澄さんの企みってなに?」

「それはねー! ……えっと」


 説明しようとしたマドカが口をそっと閉じた。そして一点を見つめる。

 みんなしてその一点の先を視線で辿るとね。いたの。


「続けて?」「どうぞどうぞ」


 ルルコ先輩とシオリ先輩が。なぜに。

 一斉に緊張が走る私たちに構わず、二人は私の隣に陣取って腰掛けた。

 みんなして私にどうにかして、という視線を向けてこないでほしい。私もこれは想定外です。


「あ、あのう。二人とも、なぜにここへ?」

「ボクは敵情視察兼、情報アドバイザー。ラビから手配されて、各陣営を回ってる。キミたちは最後」


 シオリ先輩は懐から出したタブレットをマドカに渡した。それを受け取ったマドカが歓声をあげる。


「すごい! 現時点での投票予測がパーセンテージで表示されてる! どうやって……」


 企業秘密。どやるシオリ先輩の呟きに思わずみんなで「おおー」と歓声をあげてしまいました。ちなみにパーセンテージ、今は三つ巴という拮抗具合です。


「じゃ、じゃあじゃあルルコ先輩は?」

「マドカちゃんを士道誠心部に誘ったのルルコだし。ハルちゃんが面白いことをやってるから、敵情視察兼……激励?」


 私の質問に答えたルルコ先輩に、シオリ先輩がパクったと呟いた。いいじゃんいいじゃん、と笑ってから、ルルコ先輩は私たちを見渡して言うの。


「私のおさえてる情報だと、三年生の八割は進学。二割が就職その他。進学組の八割は大学受験、二割は専門みたい」


 これまたみんなで歓声をあげてしまいました。告げられる情報の価値は使い道を誤らなければすごく意味のあるものだから。


「メイは推薦で帝大法学部。警察キャリア目指してるっぽいね。就職組は刀鍛冶や警察を目指す人が多いよ。さすがは士道誠心って感じかな。サユはそっち狙い」


 みんなが頷く中で、私は悩んじゃった。


「……みんな侍や刀鍛冶になるわけじゃないってことです?」


 その問いにルルコ先輩は笑う。


「さすがに右に習えっていうわけにはいかないよ。獅子王先生たちみたいに先生になりたくなった人もいれば、大学に入る猶予期間を経て将来を見つめ直したくなった人もいるし。普通の……美容師とか調理師とか目指す人もいる」

「うう……」


 現実だ。これが現実。しょうがないのかな……。


「もやもやしてるハルちゃんに言うけどね。たとえば国立大に行ったらみんな立派な高給取りになるわけじゃないし。専門学校に入った人がみんなその業界に入るわけじゃない」

「えええ」

「当たり前だよ。帝都大の卒業者の中にはしょうもない人や中退者だっているし、専門学校卒でばんばんメディアに露出されるくらいすごいことやってる人もいる。大事なのはどこで何を積み重ねて、何に至るかだよ」


 ルルコ先輩の言葉にみんなして黙り込んじゃった。


「高校だっておんなじなの。でも……だからこそルルコはハルちゃんのスピーチに感動した。士道誠心に期待した三年間は夢そのものだし……ハルちゃんなら残り半年も素敵な夢を見せてくれると思ったから」

「ルルコ先輩……!」

「ま、ただ夢を語るだけなら誰でもできるから」

「あうち!」


 抱きつこうと思ったらよけられちゃいました。


「一年生のみんな。きみたちがどんな夢を見たいのか。具体的に説明してくれたら……案外、あっさり決着ついちゃうかもよ?」


 じゃあね、と言ってルルコ先輩は立ち去ってしまいました。すごくいい匂いを残して。


「そういう意味ではメイ先輩の政策は現実によるかも。君たちの敵は夢と現実の狭間にいる二年生かもね……コナは手強いよ?」


 情報が欲しくなったらいつでも来てね、と言い残してシオリ先輩も行っちゃいました。

 黙り込んでしまう。

 敵。

 いつだって私たちは何かと戦ってきた。

 それは時に先生で、時に同級生で。邪になったかと思えば、同じ侍と刀鍛冶になるための学校になったりして。挙げ句、日本最強の侍兼刀鍛冶や手に負えないくらいの邪になったり。海外からやってきた悪意だったりもした。

 いつだって流されるようにして戦ってきた。

 でも今度は違う。はっきり意識して、上級生たちに対して私から仕掛けた戦だ。


「一年生の票を固めよう。私やっておくから」

「手を貸します」「あたしも」


 マドカの言葉にノンちゃんとトモが頷く。


「放っておけない。僕も行く」

「なら……」「俺たちもついていくか」


 シロくんだけじゃない。女子に人気の高いレオくんに、男女ともに人気のあるタツくんが続く。

 楽しくなってきやがった、と呟くギンが徐に立ち上がった。


「ギンはどうするの?」

「俺は好きにやる……心配すんな、てめえの力になることだから」


 じゃあな、と笑ってギンは行っちゃった。どこへ行って何をする気だろう。

 考え込んでいた時でした。


「なあ、ハル」


 ずっと黙っていたカゲくんが私を見つめて言うの。


「どうしたの?」

「うどん、めっちゃ伸びてる」

「あっ」


 いけない! 食事途中だったんだ!

 あわててずるずる啜りだした時です。まだ視線を感じるの。

 カゲくんが私の食べている光景をじーっと見つめていた。

 ……は、はずい。急いで啜りきって、もぐもぐごっくんしてから聞きますよ。


「ど、どうしたの? じっと見て」

「いや……不思議でさ」

「なにが?」

「……みんながこの学校に見ている夢ってなんだ?」


 まばたきをした。


「刀と隔離世じゃないの?」

「……それって、なんていやいいの? 表面的? そんな感じしねえ?」

「……ううん」


 わかるようで、わからない。


「だからさ! 刀は心なんだろ?」

「……うん」

「じゃあ……隔離世はなんだ?」

「えっと……」


 なんだろう。


「ハルは夢だって言っただろ?」

「……言ったっけ?」


 カゲくんの肩がずっこけた。


「お前ね。いや言ったよ。体育館でのスピーチでさ……あそこに夢があるって」

「……言った、かも?」


 首を傾げる私に、カゲくんはテーブルに身体を預けながら見上げて言うの。


「じゃあ……士道誠心にはなにがあるんだろうなって。俺、ずっと考えてた」

「士道誠心には……ううん。刀と隔離世じゃないの?」

「そうだけど、そうじゃねえっていうか」


 もどかしそうにカゲくんは髪をかき乱した。


「刀を手に入れて、隔離世に行って。積み重ねていけばいくほど、二つの夢は二年や三年にとってはもう現実になっちゃってんじゃねえの?」


 カゲくんの呟きは妙に鋭いところを突いているような気がした。


「その先に見る夢って……なにかなって。考えたけど答えが出ねえんだよ」

「……その先に見る、夢」

「先輩たちにとってそれこそ就職とか進学なんかなーって思った。けど……ハルのリサーチが本当なら、それだけとも言えないのかなーって。お前風に言うと、黒い現実になっちゃってる先輩もいるんじゃねえかなあって」


 私たちのクラスの中心に立つカゲくんのすごいところを、私はいま見ているのかもしれない。


「カゲくんなら、どうする?」

「俺なら? んー……」


 首を傾げて唸り、しばらく黙り込む。

 けど不意にふっと子犬みたいに笑ってカゲくんは言った。


「すっげえばかなことする」


 まるで子供が悪戯を思いついた時みたいな、すごく楽しそうな声で言うの。


「悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、楽しくてくだらなくて笑えること。不安なんて笑い飛ばせるようなのがいいな」

「……不安なんて、笑い飛ばせるようなこと」

「金色の学生生活だよ! 就職とか進学とか待っていようがさ。これからどんどんしんどくなってく時間すら金色にできたらもう無敵じゃん」


 ああ……やばい。かっこいいこと言うなあ。

 カナタと付き合ってなかったら危なかった。

 すごいきゅんときたの。

 そっか。しんどくなった時間すら金色にすればいいんだ。

 先輩たちの今ある真っ黒を私が金色にするんだ。そしたら無敵か。無敵なんだ。


「そっか……そうだね」


 すごく気持ちがすっきりした。

 まさに私が今回の企みでやろうとしていることだから。

 それこそ真っ黒だった時からずっと胸に抱いていた私の願いそのものだったに違いないから。


「カゲくん、まだユリア先輩と付き合えないの?」

「な、なんだよー急にー」

「んー。私がフリーなら放っておかないなって思っただけです」

「そ、そういうこと気軽に言うなよな。ばーか!」


 へへー、と笑って席を立つ。

 ありがとう、カゲくん。カゲくんがクラスメイトで本当によかった。

 あと二週間。長いようで短い、あっという間の時間になるだろう。

 だけどやろう。全力で。

 みんな笑顔。みんな友達。

 まるで小学生の時に見たアニメのキャッチコピーみたいだ。

 現実は厳しい。みんなに含まれるのは、相性的に無理じゃない人。人によってはどんどん条件が付与される。みんなはどんどん限定的になる。だって同じようには人は生きられないから。幸せだって一緒。笑顔になる理由も一緒だ。

 それでもいい。笑い飛ばしてやる。

 それがなんだ? って言ってやるんだ。

 胸を張って叫んでやる。

 みんな笑顔。みんな友達。みんな金色になればいい。

 そのために私は戦う。

 夢を二つ、両手に握りしめて戦ってやるんだ。




 つづく。

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