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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第十八章 九月で選ぶ未来の行方

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第二百十七話

 



 翌週、体育館。

 校長先生の挨拶の後に、生徒会選挙に参加する人が呼ばれた。

 自薦、他薦を問わない。推薦された場合には、推薦人も出る。

 じゃあその顔ぶれは?

 真中メイ、並木コナ、そして私! 青澄春灯です。

 二人は笑顔でいるけど、その目つきは笑ってない。


「真中メイ、並木コナの推薦人でもあり立候補者でもある青澄春灯さんに挨拶をお願いします」


 ラビ先輩も涼しい顔をしているようで、声に戸惑いが滲んでいた。

 当然だと思う。今回の企みをちゃんと説明しているのはマドカだけだから。

 壇上に立って、二人の先輩の(なに考えてんの。事と次第によっちゃただじゃおかない)という視線を背中に浴びながら高等部のみんなの顔を見渡す。


「生徒会選挙です。去年の生徒会は現三年生が担当していたと聞いています。そうですよね、メイ先輩」


 私の呼びかけにメイ先輩は笑顔を崩さずに頷いた。よしよし。


「そして今年の生徒会は現二年生が担当しています。コナちゃん先輩もご活躍でしたよね?」


 メイ先輩が如才ない対応を見せたからこそ、コナちゃん先輩も負けじと頷いた。

 けれど揺れる瞳は戸惑いを隠せていない。メイ先輩に気兼ねしているんだと思う。

 わからないでもない。複雑な関係になっちゃったものだ。

 でも、ごめんなさい。

 私はもう決めたんです。


「例年の流れでいくのなら、私の横に並ぶべきは一年生です。士道誠心お助け部の部員が出てきて、約束されたように決まるのが流れだと以前聞いたことがあります」


 ラビ先輩が真意を問うように見つめてきた。

 二年生の中からシオリ先輩も同じような顔をして私を見ている。

 ルルコ先輩だけがマドカと一緒で笑っていた。まるで私のしていることを理解していて、暴れろと言わんばかりの顔をして。

 さあ、言うぞ。これからの発言はいろんな責任を伴う。

 けど構うものか。避けられない現実が私に戦いを仕掛けてきたのなら、この手に掴んだ二つの夢で全力で立ち向かってやるのだ。

 覚悟を決めろ。青澄春灯。

 マイクを掴んでから、すう、と深く息を吸いこんですぐに叫んだ。


「知ったことか!」


 マイクから手を離す。


「三年生は部活を引退します。一年生の私たちにはすでに進路調査票が配られました。明日をどう生きるのか試されています。私たちは、常に」


 大勢の視線が集まっている。怖い。足が震えている。好意的な視線ばかりじゃない。ツバキちゃんのお兄ちゃんである綺羅先輩をはじめ、剣呑な光をみせる人もたくさんいた。

 それでも。それでも言うんだ。

 トモが期待を込めた視線で見つめてくれる。ノンちゃんががんばれ、と気持ちのこもった視線を送ってくれる。私は一人きりじゃない。だから言うんだ。


「でも一年生のみんなは手にした力を活かせるだろう、邪討伐を楽しみにしています」


 一年生の中に微かに、だけど確かに理解が広がる。


「いろんなことがあったけど……メイ先輩。あなたの刀はいま、輝いていますか?」


 私の問い掛けと視線に促されて、みんなの視線が集まっていく。

 期待と不安。恐れも少し。

 そんな視線を浴びて逃げるような人じゃない。

 メイ先輩は私をじろりと睨んでからため息を吐くと、その刀を抜いて掲げた。

 息を呑むほど美しい光。

 朝の清々しい空気をぬくもりに包むような、それはあふれるメイ先輩の熱情そのものだ。


「その輝きはあと半年、学校生活を受験に切り替える程度のことで曇りますか?」


 わかっている。こんなの一年生の……受験の苦しみから一番遠い子供の現実を知らない挑発でしかないってことくらい。


「……いいえ」

「大声で言ってください! メイ先輩が本当に太陽なら、その輝きに恥じないくらい大声で!」

「決して曇りはしない!」


 メイ先輩が断言した瞬間に刀は眩く輝いた。

 当然だ。メイ先輩の刀に対する思いが本当なら、ここで退けるわけがないのだ。


「ありがとうございます。私はメイ先輩にあと半年、がんばり続けてほしいと……後輩ながら、勝手に願ってしまいます。だって、メイ先輩の心は何があろうと輝く強さがあるから」


 甘えている。全力で。わかっている。それでも求める。

 現実に浸って刀や夢に生きる私たちから離れることなんてしないで、と。

 怒り、不安、それから理解。複雑な感情に歪む顔でメイ先輩は私を睨むの。

 わかっている。

 私がどれだけ無茶を言っているかってことくらい。どれだけずるして引きずり込んだかくらいわかっている。

 それでも戦う。


「コナちゃん先輩」


 びく、と身震いしたの。あのコナちゃん先輩が。心の中にいろんな弱さが生まれているんだろうと思う。獣耳がなくたって聞こえてくるだろう。三角関係の末の結末に、いろんな意見が集まっていることくらい。そしてそれは容易く棘にまみれた蔦となってコナちゃん先輩を傷つけ、がんじがらめに縛り付けていくんだ。

 でも。それでも。


「二年生のみなさんなら、コナちゃん先輩がどれだけすごいかご存じのはずです」


 ステージ端で見守るラビ先輩が苦しそうな顔でこちらを見ていた。

 カナタがラビ先輩の腕を掴んでいなかったら、割って入ってお話を中断させていたに違いない。カナタに助けられた。ありがとう。


「ラビ先輩もすごい。生徒会長をやってそれは十二分に証明されたと思います。けど……この人を忘れちゃいけないと思うんです」


 俯く。その手をぎゅっと握りしめて。放っておいたら爪で手のひらの皮が裂けてしまうかもしれない。

 わかってる。わかってるよ。コナちゃん先輩。自分を傷つけているんですよね。メイ先輩から勝ち取ったラビ先輩との縁、だけど胸を張れない不安とおびえがあるんですよね。

 メイ先輩にそれはどうにもできないことだ。だってコナちゃん先輩を見つめるメイ先輩は優しい顔をしている。愛が深すぎて、太陽みたいになっちゃう人なんだ。怒ったりしてない。けどどう伝えたって、コナちゃん先輩には届かない。いろいろありすぎたから、二人の間に繋がっていた糸は姿を変えてコナちゃん先輩だけを痛めつけてしまう。メイ先輩が望まなくても。

 ああ。現実。なんて現実。生臭くて、切実で、愚かで……愛しい現実。

 喘いで逃げて、やっと夢を掴んで私の現実は真っ黒から金色に塗り替えられた。

 だから私がやらなきゃ。コナちゃん先輩の真っ黒を塗り替えるんだ。


「コナちゃん先輩。顔を上げてください」

「――……、」


 戸惑う息づかいの後、怯えた顔でコナちゃん先輩が顔をあげる。

 見えるはずだ。

 敵意はあるかもしれない。落胆もあるのかもしれない。

 彼女は完璧ではなかった。汚れたりしない、そんなの幻想でしかなかったのだと。

 そんなの知ったことか。


「私は何があってもあなたのことが大好きです」


 完璧な人なんていない。それを知る学生生活だったから、胸を張って言えるよ。


「メイ先輩がもう一度、あと半年だけでも生徒会長になってくれたら……ぜったいに強い士道誠心になると思います。三年生は強い。その強さの根元にいるのがメイ先輩だから、きっとみんなで強くなれます」


 でも。


「コナちゃん先輩がもし生徒会長になってくれたら、とても勢いのある士道誠心になると思います。コナちゃん劇場に巻き込まれた二年生と三年生なら、きっとわかるはずです」


 だから。みんなを見渡して言うの。


「見たくないですか? どちらの未来も……私は素敵だと思うんです」


 めいっぱい息を吸いこむ。


「その上で私は挑戦状を叩きつけてやろうと思い、立候補しました。はじめまして、おはようございます。青澄春灯です」


 視線を集めている。でも受け止める強さなら二人がくれた。私が推薦した二人がくれたんだ。だから大丈夫。


「ラビ先輩? 退屈な生徒会運営しないでくださいよ。寝ぼけすぎですよ? いいですか、みなさん」


 足の震えは尻尾に伝わって、寒気しかしない。できることなら逃げ出したい。でもだめ。

 私は折れない。絶対に。だから逃げ出したりしないで言うのだ。


「現実が退屈で夢が真っ黒になるくらいつまらないなら、むしろその夢を使って金ぴかに塗り替えてやります! 私、青澄春灯は誓います!」


 刀を抜いて空高く掲げる。全力で霊子を放つ。隔離世じゃなくたっていける。

 信じる力が刀に伝わるのなら、ほら! いけ! 私の金色!


「二年生だろうが三年生だろうがかかってこい! あんたたちの退屈まとめて、一年生が掴んだばかりの夢でぶん殴ってやりますよ! だってそうでしょ!」


 叫ぶんだ。


「侍も刀鍛冶もみんな、心の力で隔離世に関わるんです! あそこに夢があるんです! そのためなら私はなんだってやってやります! ラビ先輩たちより楽しい生徒会を作って、ラビ先輩より振り回してやります!」


 テーブルを叩く。叩いて心を震わせる。


「受験? バイト? 上等ですよ! 現実に生きたい奴はかかってこい! 私が生徒会長になったら、そんなのぶっとばしてやりますよ!」


 ルルコ先輩が耐えきれず吹き出して、大声で笑った。綺羅先輩たち士道誠心愚連隊のみなさんが怒りに顔を歪める。

 ギンもタツくんもレオくんも狛火野くんもみんな楽しそうに見守ってくれていた。

 トモが手を叩く。ノンちゃんなんかはしゃぎすぎて大拍手。

 マドカが親指を立ててきた。

 多くの一年生は戸惑い、二年生の半分は呆れ、半分は闘志を燃やしていた。三年生は概ね怒ってるね。でもこれでいい。


「一年生のみんな! もっと楽しみたいよね、学生生活! 私が叶えてみせますので、応援よろしく!」


 手を振る。


「二年生の先輩がた! 私はラビ先輩に振り回され、コナちゃん先輩に指導され、カナタにはずっとたしなめられてきてました! そしてシオリ先輩と魂を共有しています!」


 シオリ先輩が右手で目元を覆った。震えてくれましたか?


「だからラビ先輩たちよりも退屈させないことを誓います!」


 断言してやるのだ。


「三年生の先輩がた! 受験たいへんだと思います! 就職される方もいるでしょう! でもあなたたちはまだ高校生です! まだ高校生のはずです! 卒業を見据えて距離を取るなんてさみしいことを言わないでください! もっと楽しみたいんです!」


 思いの丈を叫んで、深呼吸をする。


「二週間の選挙期間を経て、もう一度演説の場があると思います。メイ先輩もコナちゃん先輩も、逃げたいのならどうぞお好きに。でも逃げたら私が全力ではちゃめちゃにしてやります!」


 私の宣言にメイ先輩だけじゃなくコナちゃん先輩までもが、やっと笑ってくれた。


「以上です。ご静聴、ありがとうございました」


 深々とお辞儀して壇上から降りる。ざわつく人たちの中を抜けて、九組の最前列へ。

 視線を浴びまくるけど、いまは知らんぷりだ。本当は布団に頭を突っ込んで足をばたばたさせたいけれど、今は無理。金ぴかになったはずの学生生活を中学時代の真っ黒に染め直しかねない暴挙だった。それでも、マドカと相談した私にとってやらなきゃいけない企みの一つだった。

 だから逃げない。絶対に。


「……なかなか刺激的な演説でした。お二人はどうしますか?」


 ラビ先輩が及び腰になっていた。いつもならのってくれるところなのに。

 弱気になってるんだ。そんなラビ先輩の背中を強めに叩いたのはメイ先輩だった。


「いいじゃない。受けるよ、一年生の挑戦。刀で戦うばかりじゃない……戦口上、逃げるわけにはいかないもの。三年生、準備はいい?」


 メイ先輩の呼び声に三年生が一斉に声を揃える。

 やっぱり強い。メイ先輩は揺るがない強さを確かにもう獲得しているんだ。或いは……もう取り返したんだ。

 むしろ不安なのはコナちゃん先輩の方だけど。マイクを譲るように一歩引いたメイ先輩に促されて、コナちゃん先輩が物問いたげにメイ先輩を見る。

 メイ先輩はただ微笑んだ。そこに他意も悪意も一切ない。だから深呼吸をして、コナちゃん先輩はマイクの前に立つ。


「噂は駆け抜けるのが早い。普段なら気にしないけれど、今回ばかりは自覚的にしたことだから……私は悩んでいます。この場に立つことを。太陽の隣に立つには、私の影は深すぎる」


 懊悩するラビ先輩の顔には弱さが浮かんでいた。はっきりと。

 誰もが言葉を失ったその時だった。抜いたままの刀をコナちゃん先輩の首筋に突きつけたの。

 メイ先輩の突然の凶行に誰もが驚く。


「触ってごらんなさい」


 言いつけられた言葉にコナちゃん先輩が従った。

 メイ先輩の刀に触れる。ただ触れるだけではなかったのだろう。

 コナちゃん先輩は刀鍛冶なのだから。そして……刀は心。ならばメイ先輩は何をしたのか。

 真意を伝えたのだ。

 あの熱情は……たぶん、途方もない愛でできている。

 それはコナちゃん先輩やラビ先輩さえも照らしてしまうものなんだ。

 コナちゃん先輩ははっとした顔をすると、それから深く頭を下げた。

 それこそが二人の間で必要な儀式だったのかもしれない。

 何かが吹っ切れたような顔をしたコナちゃん先輩に、メイ先輩が刀を下ろす。

 マイクを手にしたコナちゃん先輩は言った。


「二年生のみなさん。私は大概において、暴走します」


 その言葉に二年生の誰かが吹き出した。そして誰かが笑う。

 笑顔はゆるやかに、だけど確実に広がっていった。


「時に間違え、時に傷つけることもあります」


 メイ先輩を見て、それから私を見た。

 メイ先輩については夜中のデートのことだろうし、私に対してはいつかの星蘭のいる特別体育館に投入したことだろう。


「生徒会長の器ではないと思ってきました。なにより……ラビがいたから」


 納得の空気が二年生に広がっていく。


「サポート役にしたって緋迎くんがいた。シオリがいてユリアがいて……完璧だと思った」


 カナタが苦笑いを浮かべていた。そんなことはないと言いたげだ。


「侍候補生が二年続けて生徒会長になっている。それは戦うみなさんの先頭に立つべき存在には刀を持って先陣を切る強さが必要だから」


 深呼吸をしたの。豊かな胸が上下する。


「私は刀鍛冶です。将来的にもそうであるよう、勉強していこうと思っています。私には邪を倒す力はありません。時に間違えもします。それでも……選挙期間の間、支えてくださいますか?」


 ああ……わかる。コナちゃん先輩が机の向こうで足を震わせているのが、わかってしまう。

 それに真っ先に拍手で応えたのはシオリ先輩だった。そしてすぐに拍手は広がるのだ。

 三年生も、二年生も……きちんと繋がっている。それを証明できた。

 コナちゃん先輩が苦しみから解放されたように、目に涙を浮かべて微笑み、頭を深々と下げた。それを笑顔で見つめるメイ先輩にわだかまりは見えない。ラビ先輩だって気づいたはずだ。

 歪で異音をあげる三角形が修復されていく。完璧ではないだろうけど、でも今回の機会で油は差せたはず。

 軌道修正。

 それこそ私の企みの一つだった。

 しっかりやりなさいよ、とラビ先輩のお尻を叩いてメイ先輩が下りてくる。コナちゃん先輩も後に続いた。

 ユリア先輩と一緒にカナタがラビ先輩の横に並ぶ。

 マイクに入らない小声で囁いていた。ここで盛り下げるようなことを言ったら許さないぞ、とか。兄さんがんばって、とか。そういう声を私の狐耳は確かに捉えたよ。

 だからラビ先輩はふっと笑って言いました。


「なかなか波乱の挨拶になりましたね。これは現生徒会としても盛り上げていかなきゃあいけないな。一年生対二年生対三年生か。任期についての調整など、もろもろ頭が痛いって顔をしている先生方に対しては僕が調整しておくよ」

「心置きなく争ってもらおう。もちろん僕は並木さんを推すが……なかなか楽しい顔ぶれだ」

「誰が勝ってもおかしくない。悔いのないようにね。再来週が楽しみ」


 ラビ先輩のマイクにカナタが、ユリア先輩が口を寄せて煽る。

 先生方は猛烈に渋い顔をしていた。ライオン先生が私に一言あると言わんばかりに顔中に皺を寄せて睨んでくる。けど、もう言っちゃったあとだもん! 逃げないしやり遂げるよ!


「以上、生徒会のお知らせでした。放送委員にお返しします」


 ラビ先輩が締めくくる。

 こうして私が仕掛けた戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。

 生徒会選挙戦!

 がんばるぞう!




 つづく。

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