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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第三章 九組の抜刀、高校の生活

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第二十一話

 



 特別扱いはねえ、困るんですよねえ、とネチネチ言ってくるバーコード教頭先生にライオン先生は「自主的にきてもらえれば、誰に対しても同じ接し方をします。それは教頭もおわかりかと」ばしっと言い返していた。


 かっこいいよ、ライオン先生!


「キラキラした目で見るな。いくぞ」


 そそくさと立ち去るところはちょっと可愛いの。

 みんなして特別体育館へ行く。その途中、挨拶してきた先輩たちに「こい」とか言っちゃう。

 だから辿り着いた時、私たちのクラスを囲んでいるのは凶悪そうな顔をした先輩たちだ。

 みんな……刀を持っている。


「さて、選択授業で実践剣術を選んでない者もいるだろうから、改めて説明しよう」


 ライオン先生に指示されるまでもなく、先輩たちが自主的に扉を閉める。

 トモが刀を手に入れた時に出来た穴から差す光に混じるように、特別体育館の天井についた照明に灯がともる。


「斬られるな、根性を見せろ」


 わお。明快!


「特別指導の特別ルールだ。三時間、立ち向かえ。斬られても、斬られても根性が続く限り。いいか?」

「「「「おすっ!」」」」

「いらないとは思うが、一応言っておこう。つらければ、いつでも逃げ出していい」

「「「「逃げないっす!」」」」

「意気や良し。それでは青澄(あおすみ)、こちらへ」


 満足そうに頷くと、ライオン先生は私に手招きをしてきた。

 ……なんだろう?

 刀を二振り抱いてのんきに歩み寄っていったら、肩に手を置かれた。

 くるりと向きを変えられて、クラスのみんなとこんにちは。

 ……うん?


「なお、青澄はクラスの全員を斬らねば罰ゲームを与える。我の刀の鯖になる、というな」

「え」

「その状態で青澄に質問する権利をみなにやろう。そうだな……斬られなかった生徒を対象とするか」

「「「「マジっすか」」」」

「二・三年生も参加していい。青澄を斬った生徒にもまた権利を与えることとする」

「「「「っしゃー!」」」」


 え、え、え、え。


「では我がクラスの諸君、三分やる、散開せよ」

「「「「応!」」」」


 唱和して駆け出すみんな。

 去り際に「すげえこときくぞ!」「追ってくれるな、青澄!」なんて適当なことを言ってくる。

 さっきまでの一致団結感はどこへ?


「二・三年の刀持ちにとっては、恒例行事だ。いつものように、全力で頼む」

「「「「はッ!」」」」


 世紀末感溢れる先輩たちはびしっと背筋を正し、拳を胸に当てる。

 次の瞬間にはもう、足音を揃えて疾走して追いかけていった。

 残されたのはライオン先生と私だけ。


「ら、ライオン先生?」

「なんだ」

「そ、そのう……たいへん聞きにくいのですが」


 肩に置かれた手はがっちりとホールドされて、私を地面へと押しつけてくる。

 追いかけるの禁止! と言ってくれていいのに。

 でもそんなことを聞いても、ライオン先生は大人だから流されてしまいそう。

 だから聞くのは別のことだ。


「なんで、私を使ってけしかけるんですか?」

「苦労をかけてすまん」

「え――」


 私の肩から手を離す。

 痛みは一度だって感じなかった。

 刀の柄に手を掛けて、深く息を吸いこむ。

 ライオン先生が何かを呟いた時、全身から毛が生えてきて……本当にライオンみたいになっちゃった。

 金色の毛、猫科の瞳。

 なのに顔立ちはやっぱり、優しくて強そうなライオン先生のもの。


「通例、女子は刀を手にする確率は低い代わりに強力な、唯一無二の御霊を引き当てる。だが、そのせいで刀に振り回され、傷つくことも多い」


 真っ先に浮かんだのはニナ先生で。


「玉藻前は要注意だが十兵衛はいい師匠となるだろう。とはいえ我は我で教師だ。お前を導かねばな」


 ライオン先生なりの考えが……! と感動した私に、ライオン先生は刀を抜いて構えた。


「獅子は我が子を谷底へ突き落とす」


 あ、これ死亡フラグだ。


『任せろ』


 ライオン先生の身体が膨れ上がった、と思った時には、おじさんが私の身体を操って鞘を構えた。

 鞘をすり抜けて、その刀は私の刀にぶつかり、そのままはじき飛ばす。

 地面を転がる方法ですら、私とは全然違う。

 おじさんは身を捻り、ぶつかる前に地面を自分から蹴って身体の制御を取り戻していた。

 ずざざざ、と特別体育館に敷き詰められた道の砂をローファーで押しのけて、やっと動きが止まった。

 ほっとひと息吐くと『眼帯が邪魔だ』おじさんが文句を言ってきたので、あわてて取る。

 視線の先にはもう、ライオン先生はいなかった。

 私に追撃するのではなく、みんなを追いかけていったんだと思う。

 ほっとすることが出来たのもつかの間だった。


「ひゃっはぁー!」「女だぁ!」「一年の頃に仕留めとかないとなぁ!」


 先輩たちが列を成して、刀を手に遠くから駆け寄ってきていた。


「み、みんなの相手はいいんですか!?」

「「「「そんなことより女子に恥ずかしい質問していろいろ喋らせたい!」」」」


 さ、最低だ!


『有象無象にいいようにされるのは好かん。十兵衛、やっておしまい!』

『……まあ、いい。語るも書もあるがせっかくだ。覚えろよ、娘』


 右目に灯がともる。

 身体中に力がみなぎってくる。

 おじさんはパーカーを脱ぎ捨て、ついでにブラウスのボタンも三つ開けると「おお!」先輩たちの歓声も無視して、腰にパーカーを使って二振りの鞘を結びつけた。


「稽古をつけてやるよ」


 私の声が私よりもかっこよさげなことを言っている!

 その煽りに先輩たちの熱量は増していくばかりだ。

 一人、また一人……って!


『気づいたら百人くらいいませんか!?』


 私の悲鳴は口から出ず頭の中に響くだけ。

 それに応えるのはおじさんだ。


「足りんな」


 獰猛に笑う表情の作り方は、私には無理で。

 この状況に心を揺さぶるのは歓喜と、凍り付くような知性。

 その日、私を動かすのは――……そう。

 一人の無双に違いなかった。




 つづく。

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