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その刀を下ろして、帯刀男子さま!  作者: 月見七春
第九十九章 おはように撃たれて眠れ!
2016/2983

第二千十六話

 



 トラックの荷台の中を見る。

 肉に包まれた柱と化した少年少女、四名。

 扉を閉じて、ロックをしてから縮こまる。

 なかなかの重労働だった。

 おかげで汗だくだ。

 扉を閉めて、運転席へ。既にエアコンで冷えている車内は天国そのもの。

 コンビニに凍ったドリンクが販売してあるのがいい。放っておけば溶けるのだから。

 レモン飲料を一気に飲みながら、学生時代の運動後を連想する。どうせなら身体にがつんと水分補給ができる清涼飲料水がいいのだが、今後に期待。いや、自分で作ったほうが早い。

 水分補給を済ませて、セダンタイプよりも主張を感じるシフトレバーを操作する。

 車を発進させて、狭い路地を進み、すぐに停車させた。

 扉を開けて、髪の長い少女が入ってくる。たくさんの紙袋を持って。


「時間稼ぎ、ご苦労様」

「どうやって足止めするかで悩んだ。たくさん買っちゃった」

「いいよいいよ。お願いしたとおり、ぜんぶ買ってくれた?」

「すっごく! 苦労した」

「若い内の苦労は買ってでもしろ、だ」


 彼女がシートベルトを着用するのを見届けてから、緩やかに発進する。

 目指すは次の人柱を立てる場所。これだと決めてはいないのだが、上野を目指す。


「目立つ子だった」

「だろうねえ。田中くん経由でSNSに引っかかって、無茶ぶりしたわけだが守備は上々かな? 殺してない?」

「うん」

「変なこと言ってない?」

「ふつうにお話したよ? 楽しかった」

「それはなにより」


 渋谷の道を何度か曲がり、首都高へ。

 くすねた車両にくすねたETC用クレカ。

 なんの気兼ねもなく渋滞に合流する。

 彼女を見ると、助手席で紙袋の中身を覗いていた。顔がこれまで見たことのないほど緩んでいる。これほど喜んでいる姿を見たことがあったろうか。


「初めて解体させたときと同じ顔してるね」

「そう? あの子が綺麗な骨格してたからかな。肉付きもよかった。見たいなあ」


 ああ。そういう。


「小さな狐女はいた?」

「いたよ。ガキが」

「そっちは興味ないのかな?」

「ガキはさばくの、気分悪くてきらい」


 一切ぶれずに笑顔のままで言うのだから、緩やかな速度で進む車列のただ中に重ねて項垂れる。なにか間違った流れの中にハマっている。そう仕向けたのも、選んだのも、自分なのだが。


「他に好きな人いるし。呼べばよかったのに」

「いやあ。キミがいいんだ」

「ありがとでーす」


 心が微塵もこもっていない社交辞令に、ますます項垂れる。

 他にもいる。いるのだが、翁ほど安定してもいなければ、少女ほど社交的に振る舞えるわけでもない。寝食を共にするのなら? それを望める相手がいい。

 人生は贅沢にいこう。


「ところで、食べてから殺すの? 殺してから食べる?」

「んー。次の仕掛けをするとき、お掃除しないといけないから。殺してからかな」

「得物は? 私、なにも持たされてないけど」

「後ろの荷台にあるから、好きなの選んで。日本を出る前に使っていたものは一通りある、とまではいかないけどね。いくつか取りそろえたよ」

「じゃあ、日本刀はある?」

「みたいなものなら」

「むしろ、それ使わせたいんじゃない?」

「かもね」


 軽く笑いながら身体を起こす。

 ハンドルを手のひらで交互に叩きながら進め。

 あえて誘ったのだ。刺激をおくれ。

 悪い虫が囁いて、大それた遊びをしでかす前に。


 ◆


 汗だくになって、ひととおりの成果を見た頃になってルミナがレオくんとマドカの元へと駆けていく様子を見た。青ざめた顔でひそひそと伝えると、ふたりの顔がゆっくりと歪んでいく。

 顔をしかめてレオくんは腕を組み、マドカの尻尾が窄まって足の間に挟まる。

 よくない兆候だ。明らかに。

 ドローンを霊子に散らして「まるです! まる! できましたねー!」と笑顔のノンちゃんが、同じく喜んでくれているノノカと一緒に手を差し伸べてくれた。ふたりの手を取って、なんとか立ち上がる。姫宮さんが「かくれんぼの得手不得手は」と結果をデータにまとめて検討してくれていた。

 みんなにお礼を言ってからスーツをキューブに戻す。

 スカートのポケットにしまって、とっとこレオくんたちの元へ。


「どしたの?」

「ああ、いや。その話をするよりも、まず先に。青澄くん、お疲れさま」

「おつかれぃ」


 ふたりが露骨にクッションを挟んできた。

 ルミナを見ると「じゃ!」と、逃げの一手で行ってしまう。

 マドカに至ってはタブレットを拾い上げて、忙しなくタップし始めた。

 なになに? 気になるぅ!


「それで?」

「ううん」


 できるだけ「言いたくない!」と露骨に見えるレオくんとちがって、マドカは包み隠さない。


「理華ちゃんが現世に散歩に出かけて、渋谷で奇妙な体験したって」


 要領を得ない!


「日高くんが迎えに行って状況確認したら、どうもかなりおっかないことが起きているみたいだから、侍隊に知らせようって」

「――……はあ」


 リアクションに困る報告!


「ユメちゃん連れていってるんだって」

「はあ。はあ!?」


 下がってから上がったよ! 声が!


「ふたりとも無事。ただ、渋谷が危ない! みたい? なので生徒会は既に先生に知らせて、今日はおとなしくするよう通達予定だというの」

「言ったらキミは行きたがるんじゃないかと思うのだけど」


 レオくんが言いよどんだ理由は、私の無鉄砲さか。

 ううん。

 あると思います!

 理華ちゃんについてや具体的な状況についての質問は、ふたりにしても、ルミナにしても意味がない。たぶん、いまマドカが教えてくれた内容が限界だろう。

 現場に行かなきゃ? わからない。


「でもさ、レオくん」


 実際、彼の危惧したとおり! 私は行く気だ。


「マドカの作戦は、先手でしょ?」

「蛮勇や無謀じゃない」


 早速、マドカがジト目で冷や水を浴びせる。

 しゅうう、と蒸気を立ててすこし冷静になって考え直す。


「ドローンができたし、行きたい。現地で試したい。どこでなにが起きているのかを調べて、状況を整理したい。鍵で時の記録を遡るなら、早いほうがいいの」


 行かなきゃ、で頭をいっぱいにしないで。

 我、思う。それを拳に例えるのなら? だれかの手を狙って拳をぶつけに行くようじゃ、会話なんてとても成立しない。お互いに、拳は開いて、うまく握りあえないとね。

 落ちついていこう。

 グーパン、開ける? 自問しながら、整理していこう。


「今日で決着をつけるとか、変事をすべて収めるとか、相手を捕まえるとかまでは言わない。いま並べた情報収集をしたい」

「そのための安全管理をどうするか問題はあるけどねえ」

「少数で、短期決着。現世よりも隔離世で行動する、なら、まだ可能性はあるかな。隔離世なら人の目も避けられる」

「という具合に検討する流れになるだろうから、私なりに作戦を考えてみた」


 タブレット画面を私とレオくんに向けるの。

 ずーっとタブレットを弄っていると思ったら、既に行くことになると見越して用意してたね?

 でも、字がみっちり打ち込んであって、疲れた私の頭が拒絶する。

 いやあ! 文字いやあ! って。

 じーっと目で文字を追いかけているレオくん、律儀。


「ざっくり言うと? 緋迎さんに連絡。警備がつくならついたうえで。つかないなら有志で、さくっと調べる。理華ちゃんに事情を確認したのち、ドローンからか、記録再生からかを選ぶ」

「ほお」

「のを、明日やる」

「え。明日なの!?」


 早すぎるを狙うのなら、行くべきは今日なのでは?


「みんな疲れてる。春灯もそう。緋迎さんに連絡して判断を仰ぐにも、時間がかかる」

「ドラマだと、お役所仕事を憂う場面だ!」

「悲しいけど、組織ってのは人数が増えるほど、鈍くなるのだぜ」

「お役所仕事っぽいセリフ!」


 そうかなってレオくんが素朴につっこむ。


「一日くらい、どうってこたあねえ! というか、日が暮れそうないまから疲れた身体にむち打って、夜を押して無理するよりも? 万全の態勢で明日挑んだほうが十分な対応ができる。私たち、そこまで窮地に向けた特別な訓練は受けていない」

「くそう! NCISとかFBIとかだったら!」

「お巡りさんも公務員なので、お仕事の時間というものがある。緋迎さんもそう」

「事件が現場で起きているかもしれないのに!?」

「山岳で遭難した人を助けに行く人たちは! 二重遭難しないよう! 綿密な計画、日頃の鍛錬、事前の調査、適切な行動で動くものです!」

「くぅっ! それっぽいぜ!」


 ほんとかなあ、というレオくんの呟きを私たちは勢いで流す。


「念のため、建て前であり本音です」

「包み隠さないぜっ」

「警察がその間に調べてくれないかなーという淡い期待もあります」

「本音成分百パーセント!」

「というわけで、理華ちゃんたちが帰ってくるから出迎えてあげて。私は緋迎さんへの連絡をして、住良木くんたちと内容を詰めるから」


 あっさり流されちゃいましたぁっ!

 えええええ。

 い、いいのかな?

 ドローンは? 私の探査術は?


『機、というものがある』

『焦りは禁物のほうが伝わるじゃろ』


 タマちゃん、なんか棘ない!?


『物欲しさに浅ましく振る舞うのでな』


 うっ!

 鳩尾を抉る的確なひとこと!

 なにか起きているかもしれない。

 蜂の巣のようななにかかもしれない。

 急いだほうがいい、と思う。だけど、そこまで思い至ってから、ようやくマドカの山の話にぴんときた。迂闊に飛び込んだら、私たちまで漏れなく悲惨な目に遭いかねない。

 備えは大事。


『十分ではない。そも、求められる猶予がない』


 急場においては。

 さっきはよくわからなかったけど勢いで乗っかったマドカの例えを噛みしめながら、深呼吸。

 我、思う! という私の拳を開く。

 拳で対応できることはすくない。手を開いて、指を駆使できるほど、できることが増えるじゃない?

 マドカの策、レオくんの推測。その先にある、ふたりそれぞれの思いは?

 我、思う! と拳を強く握りしめていればわかるかって? わからん!

 落ち着けー?

 手は開いておけー?

 いつも握りしめていたら疲れる。拳が必要なとき、ろくに握れないぞ? それがいつになるかもわからないのに。ずっと力を入れていたら、筋肉痛になるまである。

 ブロックオモチャをぷちたちとしているとき、昔の自分が「はまらない! あああああああああああ!」とデスボを決めるほどの魂のシャウトと共に押し込めようと意地になったことを思い出す。

 ありません?

 どうしてもはめたいのに、はまらなくて、めいっぱい押し込むの。

 だけどブロック的に「いや、無理やて! そんな強引な!」みたいなの。

 そこで力を入れても意味がないのに、はまらないのが許せなくて、ますます頭に血が上るーみたいなの。

 ありません?

 お父さんとトウヤがプラモ作っていて、なんか疎外感があって混ざろうとしてね?

 やったよね。魂のシャウト合体。失敗したし、壊れる前に血の気が引いたふたりがあわてて私を止めたよ。簡単に壊れちゃうんだってさ。むしろブロックオモチャはすごく頑丈にできているんだってね?

 だから踏むとめっちゃ痛いのかな。

 昔はお母さんが片づけてってよく注意してきたけど、そうせずにはいられない痛みを私もここ最近、よく体感している。あれはほんと、凶器。感覚的には抉れたんじゃないかって錯覚するレベルの痛さだよ。「はんんんんっ」て呻きながら崩れ落ちたもの。

 我、思う! デスボ! シャウト! ヘドバン! いぇあ!

 みたいに拳を四六時中ずっと握りしめてると?

 単純にできることが減るし、疲れる。

 力を入れること。力を抜くこと。どちらも大事。

 我、思う! を大事にしすぎるのも、大事にしすぎないのも? 困りもの。

 ユメを連れて、理華ちゃんが渋谷に出かけた。なんで? 言ってくれればよかったのに。心配。相談してほしかった。わき出る「なんで」も、ある意味「我、思う!」だ。

 それは伝えるべし。いやいや、それはどうなの? という問いはやまほどある。「我、思う!」となる、そこにある思い自体はどうだろう。大事かな。そうじゃないのかな? 否定しようと、あるものは、あるよね。じゃあ、それはだれがどうしたらいいんだろう。ひとりでできないときは、どうしたらいいのかな?

 そのあたりを、ここのところ、ずーっと考えていたんだ。

 ちなみにねー。

 力を入れる、だけ。我、思う! デスボ! あああああああああああ! だけになった人の狂気みたいなの、日本映画だと昭和の白黒映画か、カラーになりたてくらいの映画なら見られるかも。スタッフロール、キャストが冒頭に流れるタイプのやつね?

 最近だと韓国映画に見るかなー。

 ハリウッドやフランス、インドなどなど。エンタメよりも、ニッチをついた系統の作品ほど見かける印象が強い。

 まずもって、目つきがちがう。雰囲気からして、滲み出ている。

 アマテラスさまとふたりで見て、あまりのこわさにふたりしてビビり散らかした「ミッドサマー」なんかは、もうやばい。白黒の「日本のいちばん長い日」と並ぶ怖さ。

 やば。ラインナップからして、マドカにまた注意されるやつ!

 ノノカやノンちゃんたちのそばに戻りながら、ふり返る。

 みんなまだ、ドローンを含めた探査術に夢中。

 身の回り、日頃ふれるものに私たちの心は向いていく。あるいは、ふれてちがうと思うほうへ、かな。

 だから学校に通っても、事務所にいっても、お仕事しても、その場の情報に向かう。関心は自分の世界に接触するものへと。

 すると自分の世界に接触しない、あるいは接触していても巨大すぎるものについて考えるのは? そうした情報に触れるよう、関心を持つようになってから。そう、なりがち。

 さっき私がいったような白黒映画やカラーなりたて映画は? それこそ、見ようと思わないと触れる機会がない。まー! ない。世界に冠する黒澤映画も、アメリカのほうが日本よりも画質がいいメディアがあるんだって。それくらい、身近じゃない。

 SNSどれ? 情報の参考にするメディアはどれ? 問題もそうだしなー。趣味嗜好もそういうとこあるよね。

 私がぷりぷり怒る、世の中ポンポンポントーク。

 いやきみ、それを直接どうこうする立場じゃないよね? と、ツッコミは入れられる。

 流されずに考えておくこと、学ぶこと。どちらも大事だよ?

 でも、どうかな。

 それをしたいのなら、すればいいのだけど。それとは別に問いかけてもいいんじゃないかな?

 いま、自分の世界がなにに触れているのか。身の回りのなにを味わっているのか。

 みんなを見えなくして。

 ぷちたちに「私の負担」ばかりを見て。

 待って? ほんとにそれだけ?

 私が私の日常に満たしたいの、そんな「我、思う!」だけ?

 やめてよ。ないわー。

 いくつもの組み合わせ、重ね合わせがいる。

 マドカに伝えられた内容で十分?

 ううん。ちがう。足りない。

 具体的に実行するための内容がいる。ふわっと、じゃだめだ。

 だけどマドカは明日を指定した。急ぎたい心理がある。関わるつもりでもいる。

 それはなぜ?

 単純にまず、私が扱う記録の再生術は遡るのに時間がかかる。皮肉なことに令和になるっていうのに、技術が昭和のVHS並み!

 次にどうしても蜂の巣事件や、昨今の事件と関連づけてしまう。違っていたらいい。けれど、違っていなかったら? 調査の段階で、なにが起きるかわかったものではない。備えがいる。

 みっつめ。一連の事件と繋がっているかどうかはわからない。杞憂であろうと、そうでなかろうと、起きている異変がどんなものかは蓋を開けてみないとわからない。もし連続性のある出来事なら? 被害が増える恐れがある。放ってはおけない。

 よっつめ! もしも一連の事件と繋がるなにかだとしたら? 犯人は行動し続けている。放っておいたら、蜂の巣事件のようななにかが起きる。さすがに放ってはおけないし? もし関わるつもりなら、それこそ私たちで行くなんて確実じゃない。助けを求めるなら? できる限りのことをするべきだ。

 それには今日が最適?

 ううん。

 最適解を私たちにできる?

 ううん。

 私の「我、思う!」をほどけそう?

 できる。苦労するだろうけど。

 なぜか。ひとりでできることだから?

 ちがう。ちがうよ。


「明日に向けて、もっとよくしたいの。もうちょっとだけ、手伝ってもらいたいって、思うんだけど」


 みんなにお願いする。

 こういうの慣れてなくて、捻り出しても我ながら「ひどい!」。

 そのひどさに「我! ひどいと思う!」で頭がいっぱいになる。拳を握りしめてしまう。


「いや。むしろ、そのつもりで話してるんだから、やる気だして?」

「次の案を出したので、改良してほしいのですが」


 ノノカとノンちゃんの返しに「あ、はい」とうなずく間抜けめ!

 私のことだぞ? わかってんのかぁ?

 はあ、もう! やっちまったなあ!

 理華ちゃんたちが戻ってくるまでの間、もうちょっとだけ気合いを入れて取り組もう。

 明日やろうはばかやろう?

 うっせ!

 こちとら命がけじゃい!




 つづく!

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